05/08/2012

違法ダウンロードに刑事罰は必要か

表題のシンポジウムで短くスピーチをしてきました。そのために用意して置いたメモは下記のとおりです。


違法サイトからのダウンロード行為を犯罪化する法改正は何が最大の問題か。

持っていない情報を手に入れること、すなわち、知らないことを知ることを犯罪とすることこそが最大の問題です。

今回の議員立法では、日本では正規ルートで入手できないコンテンツをダウンロードする行為も処罰の対象となります。それは、レコード会社、映画会社の巨人たちが、「日本人たちに知らせるのはもったいない」と思った情報を日本人は知る術を失いということを意味します。また、世界中のテレビ局で放送されたニュースをネット経由で日本人が知ること自体が犯罪とされることをも意味することになります。

また、情報を入手すること自体が犯罪となりますから、警察は、私たちが、どんな情報をどんなルートで入手したのかを調査する権限を持つこととなります。当然、警察は、私たちが使用しているPCを差押えし、私たちがPCにセーブしている情報を全部調査することが出来ることとなります。

この点に関して、公衆送信者を処罰する場合と一つ大きく異なることがあります。公衆送信を行う人は、公衆に対して積極的に居場所を示しています。ウェブサイトであればURL、ファイル共有サービスであればIPアドレスを晒しているわけです。だから、警察は、これらの情報を基に、公衆送信を行っている蓋然性の高い人々を絞り込んだ上で、強制捜査に踏み切ることになります。しかし、ダウンロードをする人たちは、公衆に対して一切居場所を示しません。だから、ダウンロード行為に対する罰則規定を実効的に運用するためには、十分な絞り込みを行わなくとも、PCの捜索差押えがなされる必要が生じてきます。通常逮捕とは異なり、捜索差押令状は、犯罪の捜査をするについて必要があれば、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がなくても発せられますから、インターネットに接続させてPCを使用している国民は、いつでも自分のPCを差し押さえられる危険が生ずることとなります。逆にいえば、その程度で捜索差押えが認められないと、ダウンロードの犯罪化は絵に描いた餅に終わります(すると、もっと劇薬のような法改正が導入される危険が生まれます。)。

だからこそ、ダウンロードの犯罪化はすべきでないのです。

Posted by H_Ogura at 06:41 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

04/14/2012

ダウンロード罰則化に抗議

刑罰で脅されてまで、音楽CDを買いたくはない。
だから、ダウンロード行為が刑罰の対象となった暁には、私は、邦楽CDは買わない。
子どもたちを刑務所に送り込みたくなかったら、賛同して欲しい。
刑罰で脅して買わせるのではなく、自発的に買いたくなる工夫をする──日本の音楽業界がそう目を覚ますように。

Posted by H_Ogura at 02:29 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2)

03/19/2012

出版社に隣接権を付与するよりも役立つこと

出版社に著作隣接権を云々という議論が喧しいようです。この点について私も、日経新聞の取材を受け、その一部が今日の朝刊に掲載されたようです。

ただ、著作隣接権を求める理由として出版社サイドが表向き唱えていることを実現するためには、別の方法をとった方が早道なのになあと正直思ったりする私がいます。

著作物の利用を円滑化するためには、権利処理の窓口を一本化することが有益です。そして、この一本化された窓口は、その著作物の利活用の活性化とは別の思惑で恣意的な利用許諾拒否を行わないことが有益です。その意味では、JASRAC類似の権利処理機構を、文芸著作物や漫画の著作物についても作ってしまうのが有益です。

とはいえ、漫画雑誌を発行している出版社からすると、自社の雑誌で連載させている作品の中で特に人気が出た作品について、他の出版社から自由に単行本が出されてしまうというのは問題でしょう。その意味では、出版社にも一定の独占権を付与する必要がある。そこまではいいのですが、それが隣接権という「大なた」である必要はありません。

作家、漫画家と出版社との間では、その作品の利用に関して契約が結ばれるのが通常ですが、その契約において、契約の有効期間中、その作品の著作権をその出版社に信託譲渡し、または、独占的利用許諾を受けることにすれば、事が足ります。

もっとも、作家、漫画家としては、そのような強い権利を出版社に付与してしまうと、その出版社に干されたときに困ってしまいます。したがって、作家や漫画家が安心して上記のような権利を出版社に付与できるようにするためには、一定の解約事由を法定してしまうのが便利です。例えば、在庫がなくなったときに増刷を作家側が求めてもこれを拒絶するとか、広く普及している電子書籍端末に対応する電子書籍バージョンを販売するように作家が求めたのに不当にこれを拒絶するとかの事由が生じた場合です。そのようなことをする出版社は、著作物の普及を通じたわが国の文化の発展を阻害しようとしているわけですから、一定の不利益を被ることはやむを得ません。

著作権法に関する立法政策において、排他権を増やすことこそ著作物の利活用の活性化に繋がるのだという根拠のないドグマから、一日も早く抜け出すことを望む次第です。

Posted by H_Ogura at 12:33 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (3) | TrackBack (0)

03/12/2012

ダウンロード罰則化について松あきら議員に質問してみた

とりあえず、松あきら参議院議員のウェブサイトにアクセスし、所定のフォームにデータを入力することで、下記の質問をしてみました。回答が返ってくることを望む次第です。


 私は、弁護士を務めるとともに、中央大学にて兼任講師として、著作権法のゼミを担当するものです。

 先生は、違法にアップロードされた音楽・動画ファイルを私的使用目的でダウンロードする行為(以下、「ダウンロード行為」といいます。)に刑事罰を科すこととするように求めていると伺っております。この点につき、いくつかお聞きしたいことがあります。

  1.  ダウンロード行為を民事法的に違法とする著作権法改正がなされてからまだ日が浅く、その効果も明らかになっていないのに、これに刑事罰を付そうとするのはなぜでしょうか。
  2.  ダウンロード行為に刑事罰を付す法律改正を請願された方々は、民事法上の権利をきちんと行使した上で、なおダウンロード行為に刑事罰を付することが必要だといっていたのでしょうか。どのような権利行使をどの程度されたのか、データはご覧になったのでしょうか。
  3.  ダウンロード行為に刑事罰を付することとした場合、警察は、捜索差押え令状を得て個人のPCを押収し、そのPCにどのようなデータが蔵置されているか、どのPCからインターネット上のどのサイトにアクセスしたのかを調査することが許されることになります。それは、個人のプライバシー権を大いに侵害することとなりますが、その点についてはどうお考えでしょうか。
  4.  違法アップロード行為と異なり、個々人のPCを押収してその中を検査する以外に、誰が違法ダウンロードをしているのかを特定する手段はありませんので、ダウンロード行為を行った個人を処罰するために必要な捜査を行えるようにするためには、嫌疑が希薄でも個々人のPCに対して捜索差押えをなし得るようにする必要があります。そこまで視野に入れた上で、ダウンロード行為に刑事罰を付すことを求めておられるのでしょうか。

 ご多忙のこととと存じますが、よろしくご検討下さい。

Posted by H_Ogura at 07:13 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

03/11/2012

中立的行為による幇助の成否について(再論)

某所で、Winny事件の最高裁判決についての評釈を書きました。そちらは、判例評釈のフォーマットにしたがって論述していきましたが、こちらは単なるブログですので、Winny事件の各段階での判決やこれについての評釈等を読んだ上で、中立的な技術の公衆への提供者の刑事責任について、現段階で考えていることを備忘録的に書いていこうと思います。

価値中立的な技術を公衆に提供すると、それを用いた特定の法益に対する具体的な侵害がある程度の頻度で発生する。しかし、それだけで、その技術の提供者は、その特定の法益侵害行為を容易にしたといっても良いのだろうか。今回の最高裁判決、とりわけ多数意見は、この点から出発しています。

幇助責任を問う以上、特定の法益侵害の発生する蓋然性を有意に高めたことが必要だ──この前提に立ったとき、その蓋然性の高まりは、何と比べてのものなのかを特定する必要があります。

「正犯者がその技術を手にしなかった場合」と比べてしまうと、特定の法益侵害の発生する蓋然性は有意に高くなったといえる範囲が広くなってしまいます。価値中立的な技術の公衆への提供行為はその提供を受ける相手の個性に着目することなくなされているのですから、それが幇助行為として処罰の対象とされるほどに正犯の行為を通じた法益侵害の蓋然性を高めたかどうかは、個々の正犯についてみるのではなく、その技術の提供を受けた人々全体についてみるべきだというべきです。

では、その技術の提供を受けた人々による正犯行為により特定の法益侵害の発生する蓋然性が高まったかどうかは、何と比較して判断するべきでしょうか。

新しい技術というのは、常に既存の技術に何か新たなものを組み合わせることにより成立します。そして、既存の技術も正犯の行為を通じて同種の法益侵害を発生させる蓋然性を有している場合、この蓋然性が既存の技術と新しい技術とで有意に差を生じさせない場合、新しい技術を提供することにより、正犯の行為を通じた法益侵害の蓋然性を高めたことにはなりません。そのような技術の提供行為を幇助犯として処罰の対象とすることは正当ではありません。すると、新しい技術を公衆に提供したことについて特定の犯罪の幇助責任を問いうるのは、まず、既存の技術に「新しい要素」を付加することにより、正犯行為を通じた法益侵害発生の蓋然性を有意に高めたことが必要だというべきです。

では、それだけで足りるのかというと、そこには疑問があります。正犯行為を通じた法益侵害の蓋然性を有意に高める「新たな要素」が、その技術の社会的な有用性を高めるものであった場合には、そのような新しい技術の公衆への提供を刑罰をもって禁止することは、科学技術の発展を阻害することとなりかねないからです。そこでは、侵害の蓋然性が高まる法益の重大性および蓋然性が高まる程度と、その「新たな要素」がもたらす有用性とを比較考慮した上で、後者の要素が勝る場合には、当該新しい技術を公衆に提供する行為にはなお社会相当性があり、当該法益侵害の蓋然性が高まったとしても幇助犯として処罰するに足りる違法性を欠いていると解するべきです。

ここで注意すべきは、技術は長い年月をかけて累積的に「新しい要素」を付加していくことにより発生していくものだということです。それ故、比較対象とすべき「既存の技術」をどこにおくのかが問題となります。ただ、技術の発展段階を網羅的に押さえることは困難であること、それを公衆に提供することが幇助犯として処罰に値する技術と同程度の法益侵害発生の蓋然性を有する新たな技術の公衆への提供を容認すべき理由はないことを考えると、どこに置いても構わないというべきだと思います。ただ、正犯行為を通じた法益侵害発生の蓋然性が相当低かった初期の既存技術と比べた場合には、それと問題の「新しい技術」との差異となる「新しい要素」の有用性が高まるため、幇助犯として処罰するに足りる違法性を欠くこととなる可能性が増大することとなります。したがって、実際には、社会的に容認されている直近の既存技術と比較していくことになると思います。もっとも、Winny事件の場合、公衆との「ファイル共有」という技術、あるいはその中でも「検索用サーバ不要型ファイル共有」という技術を、「社会的に容認されている技術」と位置づけられるかは、争点となり得るところだと思います。

そして、これらの要素を勘案した結果、当該新しい技術を公衆に提供する行為は幇助犯として処罰するに足りる違法性を客観的に有しているとなった場合に、当該技術の提供者が上記考慮要素を認識し、正犯による特定の法益侵害の発生の頻度が高まることを認容して、当該技術を公衆に提供した行為者に幇助の故意を認め、その技術の提供を受けて果たして当該法益侵害行為を行った正犯との関係で幇助犯として処罰しうると解するべきでしょう。当該技術の利用者によって特定の類型の法益侵害行為が1回以上行われる可能性があることを認識・認容していただけでは幇助の故意を認めることはできず、当該価値中立的な技術の公衆への提供行為を特定の類型の法益侵害の幇助行為と認めるに至る考慮要素を認識・認容している必要があるというのは、Winny事件最高裁判決と考えを一にしています。

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02/17/2012

山本博司参議院議員のブログエントリーにコメントしてみた

 山本博司参議院議員のブログエントリーに次のようなコメントを投稿してみました。

 私は、中央大学法学部で著作権法のゼミを担当し、また、「著作権法コンメンタール」(東京布井出版)の編集代表を務めた弁護士です。

 違法コンテンツの氾濫を防ぐには、作家たちが著作権を行使すれば足りるのであって、出版社に著作隣接権を認める必要はありません。その行使を出版社に委ねたいという作家は、出版契約の存続期間中、著作権(またはその中の送信可能化権)を出版社に時限的に信託譲渡すれば足ります。

 出版社に隣接権を認めた場合、出版社には物理的な書籍の許諾しかしたくないと思っている作家たちが、出版社とは別に、自分の作品を電子書籍化することができなくなってしまいます。また、出版契約よりも隣接権の方が存続期間が長いので、出版契約終了後も、作家たちは、自分の作品を、他の出版社から出版することができなくなってしまいます。そしてこの弊害は、版面の持つ意味が大きい漫画においては、より重要な意味を持ちます。

 従いまして、出版社への隣接権の創設はご再考いただければ幸いです。

 出版社に隣接権を認めた場合、出版社との出版契約が切れた漫画は出版できなくなる危険があることを国会議員の方々にもご理解いただきたいところです。専有権を保持する人が多いと作品が世に出なくなる危険が高まることは、キャンディキャンディの惨状を見ればおわかりいただけるかと思います。

Posted by H_Ogura at 08:12 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

02/14/2012

2012年 著作権法ゼミの受講生へのメッセージ

 2012年度の著作権法ゼミに先だって、読んでおくべき書籍等について説明します。ゼミを受講予定の人は参考にして下さい。

 まず基本書についてです。特に指定はしませんが、予備校系のものでないものを4月までに1回通読しておいて下さい。わからない部分があっても、途中で立ち止まらずに、まず通読してみて下さい。

 一応、下記の4冊をお薦めはしますが、これでなくても構いません。

     
  1. 島並良=上野達弘=横山久芳「著作権法入門
    この分野では珍しく、比較的薄くて読みやすいと思います。なお、法律の教科書としては珍しく、電子書籍版もあります。
  2. 中山信弘「著作権法
    わが国における著作権法の第1人者の手によるもので、様々な論点をバランスよく解説されています。民法や会社法等で普通に基本書を読むことに違和感がない、法律学科の人にはしっくり来ると思います。
  3. 作花文雄「詳解著作権法[第4版]
    初学者が通読するのに向いているとは思いませんが、とにかく様々な論点に触れています。
  4. 岡村久道「著作権法
    この分野での第一線で活躍する弁護士によるもので、要件事実論に対する配慮がなされています

 また、著作権法は裁判例が面白いので、判例集も買い求めておいて下さい。

 一冊だけしか買わないのでしたら、別冊ジュリスト「著作権法判例百選(第4版)」を持っておけばいいと思います。

 また、通常の六法では著作権法はまだしも関連法規が掲載されていないので、知的財産権法専用の六法を持っておく必要があります。

 三省堂の「知的財産権六法」の2012年度版がおそらく3月末にでるので、それで事足りると思います。

 通常の六法の外に知的財産権法専用の六法を購入したくないという人は、国の法令データベース等から必要な法令をダウンロードして、自分が見やすいようにレイアウトした上でプリントアウトしてこれを持っておくというのも一つの考え方です。その場合、次の法令は漏れなくプリントアウトしておくようにして下さい。

  1. 著作権法
  2. 著作権法施行規則
  3. 著作権法施行令
  4. 旧著作権法
  5. 著作権等管理事業法
  6. 著作権等管理事業法施行規則
  7. 映画の盗撮の防止に関する法律
  8. プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律
  9. 万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律
  10. 連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律
  11. 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約
  12. 著作権に関する世界知的所有権機関条約
  13. 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約
  14. 知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPs協定)
  15. 万国著作権条約
  16. 許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約

Posted by H_Ogura at 04:31 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/08/2012

コンテンツの実質価格とコンテンツ産業総体の収入

 総体としてのコンテンツビジネスが栄えるためには、総体としての消費者のコンテンツに対する消費の総量を増加させていく必要があります。そのためには、1コンテンツあたりの実質価格を上昇させることが効果的なのでしょうか、下降させることが効果的なのでしょうか。

 コンテンツを収録したパッケージの小売価格を下げることは、1コンテンツの実質価格を下げる方法の1つですが、それが全てではありません。1つのコンテンツを満足のいくまで享受するのにかかる時間が、そのコンテンツの収録したパッケージの「物」としての商品寿命より顕著に短い場合、1つのパッケージを複数人で時間差で消費することにより、1コンテンツあたりの実質価格を引き下げることができます。その方法としては、団体での行動購入の他、パッケージのレンタルやパッケージの中古流通などがあります。

 消費者がコンテンツを消費するのに費消できる資金が一定だとすると、1コンテンツあたりの実質価格が上昇しようが下降しようが、消費者側からコンテンツビジネス側に移転する資金は一定ということになります。実際には、消費者に届くパッケージの個数が増えれば、パッケージの製産・流通コストの分、コンテンツ事業者側の取り分が減りますが、IT革命によりこのコストが下がっていくに連れて、このコストは次第に無視できるものとなっていきます。他方、1コンテンツあたりの実質価格が下降すると、消費者側はより多くの種類のコンテンツを享受できるようになります。

 すると、コンテンツビジネス側の総体としての収入を概ね維持しつつ、消費者の満足度を引き上げられるという意味において、1コンテンツあたりの実質価格を引き下げることには合理性があり、逆に、1コンテンツあたりの実質価格を引き上げるような改革は、コンテンツビジネス側の総体としての収入を引き上げないのに、消費者側の満足度を引き下げるという意味において最悪です。

 さらに問題なのは、1コンテンツあたりの実質価格を引き下げ、消費者が享受できるコンテンツの種類を減少させた場合に、当該類型のコンテンツを消費するという娯楽の満足度自体が下がり、結果として、消費者がその類型のコンテンツから離れていくおそれがあります。そうなった場合には、コンテンツビジネス側の総体としての収入自体が縮小していくこととなります。

 他方、1コンテンツあたりの実質価格が下がった場合、消費者は可処分所得の上昇に合わせてコンテンツ消費への支出を増やすことが容易になります。それは当該コンテンツ類型への消費者の満足度を高めるので、コンテンツビジネス側の総体としての収入自体を拡大することに繋がります。

 もちろん、個々の消費者が享受するコンテンツの総量には自ずと限界があるので、1コンテンツあたりの実質価格が下がりすぎると、コンテンツビジネス側の総体としての収入自体が縮小することになります。ただ、それは「これ以上値下げされたからって、これ以上購入してらんないよ」というレベルになってはじめて遭遇する事態であって、我が国では当面そういう域に達することはなさそうです。

 ですから、結論から言うと、レンタルを禁止すれば、中古品の売買を禁止すれば、コンテンツ産業の売り上げが向上するはずだ、というのは幻想であり、むしろ逆効果を生ずるのではないかと思う次第です。

Posted by H_Ogura at 08:36 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/06/2012

「知的財産推進計画2012」の策定に向けた意見

 「知的財産推進計画2012」の策定に向けた意見募集がなされていたので、以下のとおり応募してみました。

戦略4 クール・ジャパン戦略

 商用コンテンツとして公表された著作物の活用が3年以上なされていないときも、裁定による著作物の利用を可能とすべきである。

 著作権法は文化の発展に寄与するために「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図」ることとしたのであるから、著作物を通した文化の発展を阻害する方向で著作権を行使することは本来許されるべきではない。

 しかし、現行著作権法の下では、「創造のサイクルの確保」とは全く別の理由で、コンテンツの再利用を阻むために著作権法が活用される例が散見される(例えば、世界的にも人気がある「キャンディ・キャンディ」はもはや利用困難である。)。「著作権」は純粋な私権ではなく、創作に対する投下資本の回収機会を保障するための競争制限規制である以上、創作物の活用を阻むために著作権が活用されるという本末転倒ぶりをこのまま放置しておくべきではない。

 したがって、3年使用されない商標が取消の対象となるのと同様に、3年以上活用されないコンテンツは、裁定による利用が可能となるような法改正が望まれる。

戦略3 最先端デジタル・ネットワーク戦略について

 著作権、著作隣接権等に関して、広く国民や団体(企業を含む。)から新たに創設を希望する権利制限規定についての案を募集し、これを法案化して定期的に閣議に提案する。

 検索エンジンに関する著作権の制限規定が立法されるまで長い年月が過ぎ、その間に米国企業が市場を支配してしまったことは記憶に新しいところである。このように、ITを駆使した新たなサービスに関しては、従前の立法のスピード感では、権利制限規定が制定されるころには、広汎なフェアユース規定を背景に先行投資をなし得る米国企業に太刀打ちができないのが実情である。

 もちろん、米国並みの広汎なフェアユース規定が置かれることが理想ではあるが、これまでの文化審議会での議論を見る限りにおいては、それも期待しがたい。

 であるならば、個別的制限規定の制定速度を速めることにより、新しいITビジネスが米国企業に牛耳られるのを回避するような制度設計をすべきである。

 そして、個々の権利制限規定についていえばこれを活用する人や企業は少数に留まる場合が少なくないこと、また、新しいITビジネスを始める企業の多くは人的及び金銭的な資源に恵まれていないこと等を考えると、彼らはロビー活動能力が低いので、文化庁の官僚に取捨選択権限を付与すると、権利制限規定の創設に関する陳情のほとんどが法案化されず、お蔵入りとされる蓋然性が高い(検索エンジンに関する権利制限規定も永らくお蔵入りとされていたのである。)。

 したがって、文化庁には全件法案化の義務を課し、取捨選択は内閣による政治判断に委ねるのが適当である。

戦略2 知財イノベーション競争戦略について

 難視聴地域に受信させる目的で東京キー局が地上波番組について衛星放送設備を用いて行っているサイマル放送を、難視聴地域であるか否かにかかわらず、日本全国で受信できるようにする。

 日本全国にある地方テレビ局は、そのほとんどの時間を、東京キー局で放送された番組を、同時又は異時に再放送することに終始しているのが実情である。これは、衛星放送やインターネットなどの技術がなかった時代には合理性があったが、現在では合理性を欠いている。のみならず、当該地域を放送対象地域とする系列局がないキー局の放送は視聴できない、地方テレビ局が希に自主制作番組(関西の準キー局を除けば、概ね1割前後である)を放送している間はキー局の放送を視聴できない、キー局で放送されている番組を放送していてもなぜか1週遅れで放送されている場合がある等の不便が存在している。

 考えてみれば、貴重な電波使用権を与えられている地方テレビ局が、その放送時間のほとんどを東京キー局のテレビ番組の再放送に充てているということこそが不合理である。衛星放送やケーブルテレビ等によって日本全国どこにいても東京キー局のテレビ番組の全てを時間差なしに視聴することが出来るとなれば、地方テレビ局は、自主制作番組を制作して放送しなければならないこととなる(東京キー局の放送を受信可能な地域を放送対象地域としている千葉テレビやテレビ埼玉、東京MX等は実際そうしている。)。それは、テレビ番組という著作物を新たに創作して東京キー局と競争することを促進するとともに、実演家等のさらなる活用を促すことになるのである。

 もちろん、東京キー局の制作した番組を右から左に垂れ流すだけで高収益を挙げることができている地方テレビ局は猛反対することとは思うが、放送コンテンツにおける競争を促進するためには、上記施策が有意義である。

戦略4 クールジャパン戦略

 J-POPの歌詞に関するデータベースを作成し、世界に向けて公表する。

 J-POPをさらに世界中で普及させるために、「言葉の壁」を取り除く工夫が必要である。そのための施策として、J-POPの歌詞の日本語表記、ローマ字表記、英訳を検索、表示可能なデータベースを国として制作し、または、そのようなデータベースを制作する企業・団体等を資金面及び法律面から支援すべきである。

戦略4 クール・ジャパン戦略

 商用コンテンツとして公表された著作物の活用が3年以上なされていないときも、裁定による著作物の利用を可能とすべきである。

 著作権法は文化の発展に寄与するために「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図」ることとしたのであるから、著作物を通した文化の発展を阻害する方向で著作権を行使することは本来許されるべきではない。

 しかし、現行著作権法の下では、「創造のサイクルの確保」とは全く別の理由で、コンテンツの再利用を阻むために著作権法が活用される例が散見される(例えば、世界的にも人気がある「キャンディ・キャンディ」はもはや利用困難である。)。「著作権」は純粋な私権ではなく、創作に対する投下資本の回収機会を保障するための競争制限規制である以上、創作物の活用を阻むために著作権が活用されるという本末転倒ぶりをこのまま放置しておくべきではない。

 したがって、3年使用されない商標が取消の対象となるのと同様に、3年以上活用されないコンテンツは、裁定による利用が可能となるような法改正が望まれる。

戦略3 最先端デジタル・ネットワーク戦略

 著作権法上の「公衆」の定義を見直す。

 まねきTV事件及びロクラクⅡ事件の最高裁判決により、契約により関係性が築かれる相手方への情報の送信は公衆に対する送信とされ、広く著作権法により規制されることとなってしまった。

 しかし、このような解釈は、オンラインストレージサーバやクラウド事業の国内展開を不可能としかねず、わが国のデジタルネットワーク産業を破壊しかねない。したがって、「公衆」を「特定/不特定を問わず、多数の者」とするなり、「不特定…の者」から「当該著作物の提供又は提示に関して契約関係を結んだ者」を除外する等の措置を早急に講ずる必要がある。

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12/24/2011

「原則自由」な社会における自炊代行論争

 自炊代行というサービス自体を著作権法により規制するのは、過剰規制なんだと思うのです。

 これは、なぜ著作権が保護されるのかという議論に繋がる話です。

 著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会を保障するために、そのような資本投下を行っていない第三者との価格競争に晒すことを一定期間猶予し、その間、創作者等に超過利潤を得さしめる。──これこそが著作権の存在意義だと考えた場合、当該著作物に関して創作者等が対価等を得るために通常用いる利用方法を一定期間創作者等に独占させれば足りるのであり、著作権の保護を名目として、当該著作物についてそれ以上の自由を第三者から奪うのは、過剰規制ということになります。

 では、自炊代行は、当該著作物に関して創作者等が対価等を得るために通常用いる利用方法と競合し、著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会を失わせるといえるのでしょうか。

 自炊代行業者が自炊作業を行うために分解した書籍を自炊作業終了後廃棄した場合、当該書籍に記録されていたアナログ形式のデータはデジタル形式に変換されてその利用者に引き渡される反面、当該書籍自体は消滅します。すなわち、当該著作物が記録されている媒体が紙から電子媒体に移転するだけで、その著作物を同時に閲読可能な人が増えるわけではありません。そして、自炊代行業者に持ち込まれた書籍は、その顧客が市場において正規に購入したものであり、著作権者又はその許諾を得た者により、著作権者の印税が乗っかった状態で市場に置かれたものです。したがって、顧客が手にするデジタルデータは、著作権者の印税を載せて市場に置かれた著作物が単にデジタル形式に姿を変えただけだということができます。

 すると、譲渡権について消尽論を肯定し、著作権者の印税を載せて市場に置かれた著作物の複製物の転々流通は著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会を失わせないと考える我が国においては、上記自炊業者が書籍の廃棄と引き替えに書籍のデジタルデータを顧客に引き渡したとしても、そのデータに関する報酬は廃棄された書籍を市場に置いたときに著作権者に渡っているので、著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会は損なわれていないということになります。

 このことは、紙の書籍から電子媒体へデータを移し替える作業を、その書籍の所有者自身が行うか、事業者が業として委託を受けて行うかによって変わることはありません。事業者が得る報酬は、書籍の存在形式を変換したことに対する報酬であって、著作物の複製物を頒布したことに対する報酬ではありません。

 人格権的な要素を捨象すれば(もっとも、著作物の複製物を廃棄する行為は著作者人格権を侵害しないとするのが多数説です。)、著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会を損なわない行為を著作権に基づき規制するのは、過剰規制であると言えます。従って、少なくとも自炊作業完了後書籍の残骸を廃棄するタイプの自炊代行業者の事業を著作権に基づいて差し止めるのは、憲法上の疑義が生ずるおそれがありますし、著作権法はそのような憲法との抵触が生じないようになるべく解釈されるべきです。私たちは、「原則自由」の社会にいるのであり、その原理は、「著作権」というマジックワードによって枉げられるべきではないのです。

 なお、このような見解に対しては、たとえば、書籍がデジタル化されるとそれが違法アップロードされる危険が生ずるではないか(その場合、著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会が損なわれるではないか)という反論がなされるかもしれません。しかし、デジタル化された書籍データをネット上にアップロードする行為は、自炊又は自炊代行の是非とは無関係に、著作権侵害行為として取り締まることが可能です。また、自炊または自炊代行がなされると必然的にあるいは高度の蓋然性をもってデジタルデータがネット上にアップロードされるという事実はないようです。したがって、自炊代行を規制することの可否を議論するにあたって、そのような事情を斟酌することは適切ではないと言うべきです。

Posted by H_Ogura at 08:38 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2) | TrackBack (0)