11/02/2017

リーチサイトと違法私的ダウンロード

 リーチサイトが行っていることって、既に送信可能化が行われているコンテンツについて、公衆が送信要求をする機会を増やすことでしかありません。したがって、送信可能化を客観的に容易にしたといえないことは明らかです。では、公衆が送信要求をする機会を増やし、その結果、自動公衆送信がなされる機会を増大させた(あるいは、実際に自動公衆送信がなされる回数を増大させた)ことは、自動公衆送信を幇助したことにあたるでしょうか。

 自動公衆送信の回数を増大させる行為のうち、自らがダウンローダーとして送信要求を行う行為については、自動公衆送信の教唆又は幇助して扱うのではなく、送信されてきたデータをユーザー側の記録媒体に複製する行為の一部を複製権侵害(私的証目的がない場合)ないし違法コンテンツ私的ダウンロード罪(119条3項)として取り扱うというのが、現行の著作権法の基本的な枠組みです。

 そうだとすると、リーチサイトを運営することによって違法コンテンツについて公衆が送信要求する機会を増やしたことをもって自動公衆送信の幇助とするのは、上記基本枠組みとの関係で唐突という感が否めません。

 どうしてもリーチサイトを刑事罰の対象としたいのであれば、むしろ、公衆が違法コンテンツ私的ダウンロード罪を犯すことを客観的に容易にしたということで、違法コンテンツ私的ダウンロード罪の幇助とする方がまだいいのではないかと思います。この場合、当該リーチサイトを経由して私的ダウンロードをした人(正犯)が119条3項の要件を具備していること並びにそのことについてリーチサイトの運営者に故意があることが必要となるので、要件が大分絞られるからです。

 とはいえ、違法コンテンツの私的ダウンロードは、民事的にも違法とされているのですから、権利者たちは、まず民事訴訟を提起することにより、違法コンテンツにリンクを貼ることが違法私的ダウンロードの幇助になるのか否かについて、知財部の判断を仰ぐべきだったのではないかと思うのです。

Posted by 小倉秀夫 at 12:21 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

11/01/2017

リーチサイトについての取材(ロングバージョン)

 リーチサイト問題について、一昨日共同通信から取材があり、一昨日から昨日にかけてこれに応じていました。その結果を盛り込んだ記事が共同通信から各メディアに送られているとは思います。

 もっとも、紙面の都合上、非常に圧縮された形で私の見解が掲載されたに留まりますので、備忘録的な意味もかねて、ロングバージョンをこちらに記載しておこうと思います(Qについては、適宜要約しています。)。

【Q】リーチサイトそのものを規制するべきかどうか。

【A】現行法においても、他人の犯罪行為を違法に幇助した者は従犯として処罰の対象となっており、著作権侵害罪を幇助したものについても同様である。著作権侵害罪の従犯とならないリーチサイトについてまで新規立法で規制することは、バランスを欠くこととなる。

【Q】規制するならどういう形がふさわしいか。

【A】仮にリーチサイトを規制する新規立法を行う場合、国内在住者の知る権利を不当に害しないように、無償でまたは所定の対価を支払えば誰でも正規に提示・提供を受けることができる著作物等をアップロードしているサイトにリンクしている場合等に限定するべきであろう。また、リンク先が違法アップロードサイトであることについて確定的故意を要することにことも必要である(リンクを貼るにあたって、権利処理の有無についてリンク先に照会する義務を負わせることは適切でないからである。)。また、サーバ所在国において著作物等の無許諾アップロードが不可罰又は微罪である場合に、そこに国内からリンクを貼る行為に重い刑を科すことができるようにすることは、主犯と従犯との刑罰のバランスという観点からして不適切である。

【Q】日本人向けリーチサイトが多数存在する現状についてどう思うか。

【A】元来遵法精神の高い日本人のうちそれほど多くの人がリーチサイトを利用して違法アップロードされたデータにアクセスしているとすれば、それは、コンテンツを正規に提供するビジネスの側が様々なニーズに応えられていないということだと思う。また、動画については、違法にアップロードされたものをダウンロードする行為自体を刑事罰の対象とする立法が権利者団体のロビー活動の成果としてなされたが、それが全く無意味であったことを意味すると思う。

【Q】今回、大阪府警などの合同捜査本部が著作権法違反容疑でリーチサイトの運営者らを捜査している件について、どう考えるか。

【A】他人の著作物を違法にアップロードしているサイトにリンクを貼ることが著作権侵害行為の違法な幇助となるか否かについては法律解釈の争いがある状況下において、刑事事件として処理をすることは適切さを欠いている。刑事裁判の場合、訴追側と弁護側とで法律論争をする局面が極めて限られている上、これを裁くのが、知的財産権専門部の裁判官ではなく、(知的財産権については素人である)刑事部の裁判官だからである。

Posted by 小倉秀夫 at 11:07 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

09/04/2017

CM出演契約における結婚禁止特約と公序良俗

 武井咲さんが、いわゆるデキ婚をしたことを発表したことに伴い、スポーツ紙などでは、所属プロダクションが巨額の違約金を支払わされるのではないかということが話題となっています。これに対して、そもそも結婚や妊娠をしたら違約金を支払わせる旨の条項は公序良俗に反し無効なのではないかとの見解も発表されています。

 もっとも、民法90条自体が「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」という抽象的な条文であり、何をもって「公の秩序」とし、何をもって「善良の風俗」に反するとするのかは不明です。このため、民法学では、公序良俗違反となる行為を類型化することで、無効となる行為の予測可能性を高めようとしています。

 公序良俗違反の類型論として著名なのは我妻栄先生のものなのですが、さすがに初出が大正12年ということで古いので、ここでは山本敬三先生の類型論を参考にしてみましょう(ただし、新版注釈民法からの孫引きです。)。  山本先生は、公序良俗を、A:秩序の維持、B:権利・自由の保障、C:暴利行為の規制とに区分しています。ここでは、とりあえずBが問題になりそうです。憲法第24条1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と定めているからです。

 もっとも、憲法上保障された権利や自由を制限する条項だから直ちに公序良俗に違反するとは言えません。憲法は、個人に保障された権利等を行使することを特定の個人に強いるものではなく、一定の反対給付と引き替えに、自己の有する憲法上の権利の行使を制限する義務を負うこともまた、契約自由の原則の一環として認められるべきだからです(最高裁は、雇用契約中に政治活動をしないことを条件とする特約の有効性を認めています(最判昭和27年2月22日民集6巻2号258頁))。

 当該商品・役務等を広告するのに相応しいイメージに合致すること、並びに、その氏名・肖像等が高い顧客吸引力を有しているが故に、広告主から広告代理店経由で所属プロダクションに広告のオファーが来ます。広告主としては、一定期間その肖像等を広告として使用する対価として相当の広告出演料をプロダクションに支払う以上、そのタレントに広告をオファーする際に重視した「イメージ」が広告契約期間中維持されることを求めるのは合理的です。したがって、上記イメージを損なうような行為を当該所属タレントに行わせないようにする義務を課す条項を広告出演契約の中の特約として含めるのは、広告主としては経済的に合理的であり、通常、反対給付(広告出演料)とバランスがとれています。  プロダクションとしては、そのような特約を含むオファーを受け入れた以上は、所属タレントがこれに反する行為をし、広告主が求めていたイメージを損なうことをしてしまった以上は、債務不履行責任を負うのはやむを得ないように思います。広告出演契約においては、そのタレントが有するイメージを含めて対価が支払われているのであり、かつ、そのタレントが有する「イメージ」は必ずしも「役柄」によって形成されるものに限らず、そのタレントについて公的に知られている私的な事項も含まれているからです(おしどり夫婦として知られているタレントに、仲の良い夫婦をターゲットとした商品等に関するオファーが来ることを想像してください。)。したがって、「清純」というイメージを売りにしているタレントについて広告出演契約をオファーするに当たって、「清純」というイメージを損なう行為の禁止する特約を織り込むことも対価性のバランスがとれており、公序良俗に反するものとまでは言えないように思います。

 したがって、所属タレントが特約に反する行為を行ったために当該CMを放送しないことにしたり、急遽別のタレントを使用したCMを作成するなどして被った損害について、広告主が所属プロダクションに賠償請求することは問題が無いように思われます。その特約に反する行為が、妊娠、結婚など、憲法上自由に行うことが可能な行為であったとしてもです。

 その結果、プロダクションが弁済を余儀なくされた賠償額を当該タレントに求償しうるかというのは、また別の問題です。ただし、そのような損害を求償できる旨の条項が専属実演家契約に含まれており、かつ、当該タレント自身、当該特約が含まれていることを知りつつ、当該CMのオファーを受けることを社内的に承諾している場合には、プロダクションによる求償権の行使を制約する理由がないように思います。

 もっとも、その場合であっても、所属プロダクションは、CM出演契約に特約として定められている違約金全額を支払わなければいけないかは別問題です。損害賠償額の予定ないし違約金条項が、想定される損害に比して過大である場合には、超過部分について公序良俗に反し無効とされる可能性があるからです。所属タレントが特約に反した行為を行い、その広告に利用しようとしていたイメージが損なわれたとして、通常は、そのCMを継続して使用しなければ良いだけの話ですから、特段の事情がない限り、新たなCMを急遽作成するのに要する費用を大きく上回る額を違約金として定めていたとすれば、超過分は無効となるのではないかと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 10:22 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/14/2017

2017年上半期

 次週の関ジャムが、2017年上半期ベスト10を発表するようなので、私も先に上半期気になった曲を紹介することにします。

 まずは、それでも世界が続くならの「消える世界のイヴ」

 こんな純粋な歌を作り、歌える人たちが未だに社会に受け容れられていないのが信じがたいです。この歌を聴いて心を動かされないような大人にだけはなりたくありません。

 次に、サビが耳に残るチリヌルヲワカの「ドルチェ」。

 メロディラインは何とも古風なんだけど、歌謡曲ではなく、バンド楽曲として演奏しきったのが勝因のような気がします。

 スチャダラパーとEGO-WRAPPIN' の「ミクロボーイとマクロガール」は、PVが8割と言ったところでしょうか。能年玲奈の勝利です。

 PVと楽曲とで合わせ技一本というべきなのは、Christophe Maéの「Marcel」。この格好よさとおしゃれ感がそうして日本で受け容れられないのか不思議です。

 メランコリック写楽の「ヨーロッパ返して」は、もうタイトルの勝利です。

 凡人が100年考えたって、「ヨーロッパ返して」なんてタイトルは思い浮かびません。

 大森靖子「ドグマ・マグマ」は、設定の勝利ですね。

 神様目線の楽曲なんて、なかなか作れるものではありません。

 ウォルピス・カーターの「晴天前夜」。

 男性ボーカルの歌とは信じがたい出来。

 復活したゲスの極み乙女の楽曲の中では「Darumasan」が最高です。

 楽曲の格好よさと歌詞のくだらなさのバランスが、これぞゲスの極みというか。メジャーデビューで失われかけていたものが戻ってきたというか。

 ColdplayがチャリティイベントOne Love Manchesterで演じた「Viva la Vida」。

 この歌は、こうやればライブでできるんだという驚き。ティンパニー凄いとしか言いようがありません。というか、こういう悲劇のあとのチャリティイベントでちゃんと歌うべき歌を持っているって、みんなさすが。

Posted by 小倉秀夫 at 02:07 AM dans musique | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/12/2017

芸能人の不祥事と損害賠償

 俳優等の不祥事が発覚したときに、その俳優等が出演していたコンテンツのテレビでの放送や映画館での上映等が中止されることがあります。この場合、これにより当該コンテンツにかかる権利者(テレビ局や映画製作会社等)は当該俳優やその所属事務所に対し、その中止により生じた損害の賠償を求めることができるのでしょうか。

 まず、出演契約に「不祥事特約」がない場合について考えてみましょう。

 この場合、

  1. コンテンツホルダーとの間の出演契約に付随する義務として一定期間不祥事を発覚させない義務を負うのか、
  2. 1.の義務違反とコンテンツの放送・上映の中止との間に相当因果関係が認められるか、
の2点が問題となります。

 まず、売買契約等の一回的な契約はもちろん、建物賃貸借契約のような継続的な契約であっても、不祥事を犯さない、あるいは発覚させない義務を契約の相手方に対して当然には負わないというのが、我々の社会の原則です。雇用契約のように相手方に対する一定の人格的信頼を前提とする継続的契約の場合、その前提となる信頼を損なうような不祥事が発覚したことを理由とする契約解除等が可能となることは有り得ます。しかし、それは、当該相手方が給付すべき役務の内容等との関係で、当該不祥事を犯した者からの当該役務の提供を希望しないことがやむを得ない等の事情がある場合に限られるでしょう(なので、建物建築請負契約において、建設会社の社長が不倫をしても、債務不履行解除はできません。)。

 もちろん、俳優等には当該コンテンツの製作期間中は、予め決められたスケジュールどおりに所定の現場に赴き、監督等の指示に応じて所定の演技等を行う契約上の義務があります。従って、逮捕・勾留され、あるいは任意捜査の対象として連日呼び出しを受けることとなれば、このような俳優等としての本来的義務が果たせなくなる危険が十分に生じます。したがって、当該コンテンツの製作期間中、身柄拘束等を伴うような捜査を受ける犯罪を犯すべきではないという限度で、不祥事を犯さない義務を認めることはできるでしょう。

 では、予定されたスケジュールをこなし、自分が求められた演技等の収録が終わったあとまで、身柄拘束等を伴うような捜査を受ける犯罪を犯すべきではないという意味での「不祥事を犯さない義務」を当然に負うと言えるでしょうか。

 この場合、もはや当該俳優等の身柄がどうなろうとも、当該コンテンツの成否自体には影響がありません。そして、犯罪を犯した(またはそのような嫌疑がかけられている)俳優等が出演したコンテンツをテレビで放送し又は劇場で上映してはならないという法令上の制限は日本にはありませんので、完成したコンテンツを放送または上映することに法的な支障はありません。ぼかしを入れる必要すらありません。その意味では、自己のスケジュール終了後いかなる不祥事を犯そうとも、コンテンツホルダーには客観的には迷惑をかける心配がないのだから、コンテンツホルダーに対して、そのような不祥事を犯さないという信義則上の義務を負うべき合理的な理由はないともいえそうです。

 しかし、実際には、そのコンテンツに出演している俳優等の不祥事が発覚した場合、当該俳優等の登場部分をカットすることが困難であるときには、当該コンテンツの放送・上映自体が中止になることが多いことも事実です。当該コンテンツの放送・上映を中止することは、法的な義務ではなく、倫理的な批判を逃れるためのコンテンツホルダーの自己保身に基づく決定であるとは言え、そのような結果に至ることは十分に予想される以上、そのような結果の招来を避けるために、自己のスケジュール終了後においても、一定の限度を超える不祥事を犯してはならないとする信義則上の付随義務が出演契約に付随するものとして当然に発生するという考え方にも一理はあります。

 仮にそのような付随義務を認めるとしても、それは、コンテンツホルダが当該コンテンツの放送・上映等を自主的に中止するに至るのもやむを得ないという状況を作り出すべきではないということに由来するわけですから、① 当該コンテンツにおける当該俳優等の役柄の重要度と、② 当該コンテンツの公開時期等との関係で、どの程度の不祥事を回避するべき義務を負うかが決まっていくこととなるように思います。

 出演契約の付随義務としての「不祥事を犯さない義務」に頼ろうとすると、その範囲は不明確です。したがって、出演契約において明示的に不祥事を犯さない義務を定めることは有益です。ただし、その場合、犯してはならない不祥事の内容、程度やその期間等を具体的に定めなければ、裁判官の事後的な判断に委ねられることになるので、予見可能性を欠くことになります。

 では、契約書上明文で定めておけばどんな「不祥事」についても回避義務の対象とすることができるのでしょうか。

 犯罪に該当するものはともかくとして、芸能人の「不祥事」と言われるものの多くは、私生活の領域の属するものであり、契約等によって第三者がこれを抑制することが公序良俗に反する恐れのあるものです。したがって、例えば、例えば「本件映画封切り後1年が経過するまでは、異性と不純な交友をしてはならない」「離婚してはならない」という条項が直ちに有効となるかと言えば、多分に疑問です。もっとも、役柄を離れた、俳優等の私生活上の地位等がもたらす幻想が当該コンテンツに高い商業的価値をもたらすことが予定されている場合に、一定期間、当該幻想を破壊するような私生活上の諸活動を発覚させないように求めることまでは、直ちに公序良俗に反するとまでは言えないようにも思います(それは出演料や役柄設定等に反映している以上、もはや純粋に私的領域に関する事柄とも言えなくなっているからです。)。

Posted by 小倉秀夫 at 01:38 AM dans D'autre problème de droite | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

芸能人の不祥事と損害賠償

 俳優等の不祥事が発覚したときに、その俳優等が出演していたコンテンツのテレビでの放送や映画館での上映等が中止されることがあります。この場合、これにより当該コンテンツにかかる権利者(テレビ局や映画製作会社等)は当該俳優やその所属事務所に対し、その中止により生じた損害の賠償を求めることができるのでしょうか。

 まず、出演契約に「不祥事特約」がない場合について考えてみましょう。

 この場合、

  1. コンテンツホルダーとの間の出演契約に付随する義務として一定期間不祥事を発覚させない義務を負うのか、
  2. 1.の義務違反とコンテンツの放送・上映の中止との間に相当因果関係が認められるか、
の2点が問題となります。

 まず、売買契約等の一回的な契約はもちろん、建物賃貸借契約のような継続的な契約であっても、不祥事を犯さない、あるいは発覚させない義務を契約の相手方に対して当然には負わないというのが、我々の社会の原則です。雇用契約のように相手方に対する一定の人格的信頼を前提とする継続的契約の場合、その前提となる信頼を損なうような不祥事が発覚したことを理由とする契約解除等が可能となることは有り得ます。しかし、それは、当該相手方が給付すべき役務の内容等との関係で、当該不祥事を犯した者からの当該役務の提供を希望しないことがやむを得ない等の事情がある場合に限られるでしょう(なので、建物建築請負契約において、建設会社の社長が不倫をしても、債務不履行解除はできません。)。

 もちろん、俳優等には当該コンテンツの製作期間中は、予め決められたスケジュールどおりに所定の現場に赴き、監督等の指示に応じて所定の演技等を行う契約上の義務があります。従って、逮捕・勾留され、あるいは任意捜査の対象として連日呼び出しを受けることとなれば、このような俳優等としての本来的義務が果たせなくなる危険が十分に生じます。したがって、当該コンテンツの製作期間中、身柄拘束等を伴うような捜査を受ける犯罪を犯すべきではないという限度で、不祥事を犯さない義務を認めることはできるでしょう。

 では、予定されたスケジュールをこなし、自分が求められた演技等の収録が終わったあとまで、身柄拘束等を伴うような捜査を受ける犯罪を犯すべきではないという意味での「不祥事を犯さない義務」を当然に負うと言えるでしょうか。

 この場合、もはや当該俳優等の身柄がどうなろうとも、当該コンテンツの成否自体には影響がありません。そして、犯罪を犯した(またはそのような嫌疑がかけられている)俳優等が出演したコンテンツをテレビで放送し又は劇場で上映してはならないという法令上の制限は日本にはありませんので、完成したコンテンツを放送または上映することに法的な支障はありません。ぼかしを入れる必要すらありません。その意味では、自己のスケジュール終了後いかなる不祥事を犯そうとも、コンテンツホルダーには客観的には迷惑をかける心配がないのだから、コンテンツホルダーに対して、そのような不祥事を犯さないという信義則上の義務を負うべき合理的な理由はないともいえそうです。

 しかし、実際には、そのコンテンツに出演している俳優等の不祥事が発覚した場合、当該俳優等の登場部分をカットすることが困難であるときには、当該コンテンツの放送・上映自体が中止になることが多いことも事実です。当該コンテンツの放送・上映を中止することは、法的な義務ではなく、倫理的な批判を逃れるためのコンテンツホルダーの自己保身に基づく決定であるとは言え、そのような結果に至ることは十分に予想される以上、そのような結果の招来を避けるために、自己のスケジュール終了後においても、一定の限度を超える不祥事を犯してはならないとする信義則上の付随義務が出演契約に付随するものとして当然に発生するという考え方にも一理はあります。

 仮にそのような付随義務を認めるとしても、それは、コンテンツホルダが当該コンテンツの放送・上映等を自主的に中止するに至るのもやむを得ないという状況を作り出すべきではないということに由来するわけですから、① 当該コンテンツにおける当該俳優等の役柄の重要度と、② 当該コンテンツの公開時期等との関係で、どの程度の不祥事を回避するべき義務を負うかが決まっていくこととなるように思います。

 出演契約の付随義務としての「不祥事を犯さない義務」に頼ろうとすると、その範囲は不明確です。したがって、出演契約において明示的に不祥事を犯さない義務を定めることは有益です。ただし、その場合、犯してはならない不祥事の内容、程度やその期間等を具体的に定めなければ、裁判官の事後的な判断に委ねられることになるので、予見可能性を欠くことになります。

 では、契約書上明文で定めておけばどんな「不祥事」についても回避義務の対象とすることができるのでしょうか。

 犯罪に該当するものはともかくとして、芸能人の「不祥事」と言われるものの多くは、私生活の領域の属するものであり、契約等によって第三者がこれを抑制することが公序良俗に反する恐れのあるものです。したがって、例えば、例えば「本件映画封切り後1年が経過するまでは、異性と不純な交友をしてはならない」「離婚してはならない」という条項が直ちに有効となるかと言えば、多分に疑問です。もっとも、役柄を離れた、俳優等の私生活上の地位等がもたらす幻想が当該コンテンツに高い商業的価値をもたらすことが予定されている場合に、一定期間、当該幻想を破壊するような私生活上の諸活動を発覚させないように求めることまでは、直ちに公序良俗に反するとまでは言えないようにも思います(それは出演料や役柄設定等に反映している以上、もはや純粋に私的領域に関する事柄とも言えなくなっているからです。)。

Posted by 小倉秀夫 at 01:35 AM dans D'autre problème de droite | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/14/2017

インターネット放送の合法化

 今日の著作権法学会の午後のシンポジウムは、CD等に収録されている音源をインターネット放送で送信する際の権利処理コストを引き下げるための制度設計に関する話でした。

 この点に関する私の意見を述べてみたいと思います。

 私は、当該コンテンツの視聴を選択したユーザーが同時に同じ音声を聴くように設計されているものについては著作権法上の放送または有線放送にあたるとする見解に立ちます。しかし、この見解は現状少数説に留まるので、この見解に立脚したビジネスを立ち上げるのは勇気が要ることでしょう。したがって、日本国内にベースをおいたインターネット放送事業を支援しようと思ったら、法改正が必要です。では、どんな法改正が必要なのでしょうか。

 要するに、特定の音源について「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能となる」と、それはその音源をCD等に収録して販売するというレコード製作者の通常のビジネスとバッティングするので、レコード製作者に排他権を付与すべきというのが実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約14条の趣旨であります。逆に言えば、特定の音源について「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能となる」もの以外については、レコード製作者に排他権を付与する必要はないと言うことになります。

 では、具体的にどのようにするのがベストでしょうか。シンポジウムでは、強制許諾制度を導入するべきとする見解や、権利制限規定を設けた上でレコード製作者等に報酬請求権を付与するべきという見解が示されていました。利益状況としては放送におけるCD音源の使用と同様なので、法的な取扱いとしても放送におけるCD音源の使用と同様とするのが理想です。すなわち、特定の音源について「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能となる」公衆送信以外の公衆送信以外をレコード製作者及び実演家の排他権の対象から除外しつつ、レコード製作者及び実演家に対する二次的使用料の支払い義務を負わせるというものです。

 では、具体的にはどうしたら良いでしょうか。

 まずは、2条1項各号の定義規定の中に、排他権の対象から除外するインターネット放送の定義規定を入れてみましょう。

インターネット放送 レコードの送信可能化であって、公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において当該レコードの利用が可能となるような状態に置くものでないもの(政令で定める除外条件を具備するものを除く。)

 シンポジウムでは、放送事業者は放送法により放送事業主体の名称、所在地等が明らかになっているのに対し、インターネット放送の場合必ずしもそうではないので、後者について報酬請求権化してしまうと取りっぱぐれてしまうリスクが高まることが問題視されました。そうであるならば、放送法上の放送事業者と同程度に名称、所在地等を登録してある事業者に限定して、排他権の対象から除外すればよいだけのように思います。

 例えば、2条1項各号の定義規定の中に次のような条項を加えてみましょう。

インターネット放送事業者 業としてインターネット放送を行う者であって、政令で定めるもの

 放送事業者、有線放送事業者がそのコンテンツをサイマル送信したりすることも有り得ますから、放送法上の認定基幹放送事業者及び登録一般放送事業者は、上記インターネット放送事業者に含めるべきでしょう。さらに、文化庁長官の登録を受けた事業者をインターネット放送事業者とすれば足りるでしょう(登録申請にあたって、氏名又は名称及び住所(並びに法人にあつてはその代表者の氏名)とインターネット放送に用いるURLを申請書の必須記載事項とし、さらに、破産等を認定資格喪失事由とすれば、二次的使用料等をいつまでも支払わずにインターネット放送だけ続けることは難しくなります。)。

 その上で、現行の著作権法第96条の2

レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する。

レコード製作者は、そのレコードを送信可能化(インターネット放送事業者によるインターネット放送に該当するものを除く。)する権利を専有する。

としてしまえば、済むように思います。

 その上で、例えば、95条1項を

放送事業者、有線放送事業者及びインターネット放送事業者(以下この条及び第九十七条第一項において「放送事業者等」という。)は、第九十一条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て実演が録音されている商業用レコードを用いた放送、有線放送又はインターネット放送を行つた場合(営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けずに、当該放送を受信して同時に有線放送を行つた場合を除く。)には、当該実演(第七条第一号から第六号までに掲げる実演で著作隣接権の存続期間内のものに限る。次項から第四項までにおいて同じ。)に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない。

としたり、97条1項を、

放送事業者等は、商業用レコードを用いた放送、有線放送又はインターネット放送を行つた場合(営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、レコードに係る音の提示につき受ける対価をいう。)を受けずに、当該放送を受信して同時に有線放送を行つた場合を除く。)には、そのレコード(第八条第一号から第四号までに掲げるレコードで著作隣接権の存続期間内のものに限る。)に係るレコード製作者に二次使用料を支払わなければならない。

としたり、44条3項として、

2  インターネット放送事業者は、第二十三条第一項に規定する権利を害することなくインターネット放送することができる著作物を、自己のインターネット放送(放送を受信して行うものを除く。)のために、自己の手段により、一時的に録音し、又は録画することができる。
との規定を新設した上で、従前の第3項を第4項とし、「前二項」とあるのを「前三項」とするなどの調整をしたらいいように思います。

Posted by 小倉秀夫 at 04:09 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/07/2017

演奏の「指導そのもの」から得た利益の一部をJASRACに支払うのは不自然

 東京大学の付属研究機関である先端科学技術研究センターに所属し、JASRACで外部理事を務める玉井克哉教授が以下のようなツイートをしています。

はい。そして、その「指導そのもの」が、他人の創作を用いた営利事業なのです。得た利益のごくごく一部を創作者に払うのは、当然ではないですか。

 このクラスの肩書きを持った方にも、著作権法の基本的な枠組みをご理解いただけていないのかと、がっくりきてしまいます。

 著作権法は、著作物を用いた営利事業全てを著作権者の支配下に置くものではありません。あくまで、著作権法21条以下の規定により著作者が専有すると規定された「法定利用行為」についてのみ、著作権者は自己の著作物に関してそれがなされることをコントロールできます。したがって、「指導そのもの」が「他人の創作を用いた営利事業」であったとしても、「指導そのもの」が著作物の法定利用行為にあたらなければ、得た利益の一部を著作者に支払うべき合理的な理由はありません。そして、第三者の演奏を指導すること自体は法定利用行為にあたりません。

 もちろん、指導に当たって教師が自ら見本を見せるために演奏をしてみせることが「公の演奏」にあたるかどうかは争点となり得るでしょう。しかし、それは、指導に際してなした「演奏」が法定利用行為にあたるとすればこれによって得た利益の一部を著作者に支払うとの条件で許諾を得る必要があるというだけのことです。演奏を指導する際に自ら手本を見せることは必須ではないので、「指導そのもの」は、利益の一部を支払うことを約束してでも著作権者から許諾を受けなければいけない行為にはあたりません。

 なお、「得た利益のごくごく一部」なんて言いますけど、音楽教室の利益率はあまり高くないので、授業料収入の2.5%も支払わされたら、利益の大半が飛んでしまうと思いますけどね。その分生徒からとればいいではないかと言われても、「授業料収入の2.5%」ということだと、JASRAC管理楽曲を使用していない生徒から徴収した授業料収入を含めて2.5%をかけて算出した金額をJASRACに支払わなければいけなくなるわけで、だからといって、JASRAC管理楽曲を使用していない生徒からは著作物利用料は徴収できないし、とはいえ、JASRAC管理楽曲を使用していない生徒から徴収した授業料収入に2.5%掛け合わせた分を、JASRAC管理楽曲を使用している生徒に上乗せして徴収するわけにも行かないし、結局その分は音楽教室の自己負担になるんですよね。

Posted by 小倉秀夫 at 11:32 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/06/2017

還元の要否に関する原則と例外

 音楽教室とJASRACとの関係についての議論を見ていて気になることがあります。著作物を用いて事業者が利益を上げたらその利益の一部は著作権者に還元されなければならないという間違った考え方をお持ちの方が少なからずいるということです。

 少なくとも日本の現行の著作権法は、そういう考え方を採用していません。著作物を公衆に提示・提供する行為のうち所定の態様で行われるもの(並びに、その準備行為たる著作物の複製行為、二次的著作物の創作行為)のみを法定利用行為として著作権者に独占させる制限列挙方式を採用しています。著作物の創作に一定の資本を投下した人に投下資本回収の機会を与えるために一定期間競合を排除するという著作権法の基本的な枠組みからすれば、新たな公衆への提示・提供態様が著作物にかかる本来的な投下資本回収手段の一つとして位置づけるに値するものとなったときに、新たに支分権を創設する立法を行えばよく、そのような立法がなされるまでは、著作物を利用して事業者が利益を上げてもその利益の一部を著作者に還元する必要はありません。実際、例えば、漫画喫茶は他人の著作物を用いて事業者が利益を上げているわけですが、営利目的で著作物の複製物を公衆に展示することが法定利用行為に含まれていない現行法上は、漫画喫茶の経営者は漫画本の著作権者等にその利益を還元する必要はありません。

 従って、音楽教室におけるJASRAC楽曲の使用についても、それが「公衆に直接聞かせる目的でなされる演奏」にあたらなければ音楽教室が上げた利益を著作権者に還元する必要はありませんし、「公衆に直接聞かせる目的でなされる演奏」にあたって著作権の制限事由のいずれかに該当する場合は音楽教室が上げた利益を著作権者に還元する必要はありません。また、法定の権利制限規定のいずれも当てはまらない場合であっても、事業者の上げた利益の一部を著作権者に還元させることが不適切とされ、権利侵害の成立が否定される場合があります(消尽論が適用される場合もその一つです。)。その場合も、事業者は利益を還元する必要はありません。

Posted by 小倉秀夫 at 03:54 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

02/05/2017

音楽教室でJASRAC管理楽曲は「演奏」されているのか。

 ヤマハ音楽振興会が運営している「ヤマハ大人の音楽レッスン」は、どんなことをやるのかを動画で説明しています。

 例えば、エレキギターについてはこれ、ドラムについてはこれです。

 これを見ると、果たして、これらの授業において、JASRACが信託譲渡を受けている「音楽著作物」が「演奏」されていると言えるのかに疑問を持ってしまいます。仮に、ここで生徒さんが演奏するのが、特定のJASRAC管理楽曲における特定のアーティストによる特定の音源ないしライブでの実演とほぼ同じ内容だったとして、そこまでJASRACは管理しているのだろうか、ということです。ドラムをどう叩くのか、エレキギターにおいてどのように弦を抑え、はじくのかということまで作曲家が決めるというのは、ポピュラーミュージックにおいては通常形態ではない以上、作曲家の権利について信託譲渡を受けているにすぎないJASRACは、そこまで専有する権限を持っていないのではないかということです。

 実際、ある楽曲のある音源におけるドラムが格好いいからこれを勉強したいということで、特定のCDに収録された楽曲におけるドラム譜を教材にした場合、ドラマーはそのドラム譜についてJASRACに何の信託譲渡もしていないので、仮に音楽教室が許諾料をJASRACに支払っても、そのドラマーには何も還元されないんですよね。

 そう考えると、ボーカルが入るなど主として主旋律が使用されている例外的な場合を除けば、音楽教室においては、そもそもJASRACが信託譲渡を受けている音楽著作物は「演奏されていない」といえるのではないかという気がします。

Posted by 小倉秀夫 at 07:10 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)