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01/11/2004

I have a dream and a naightmare

 折角のお正月ですから、音楽産業の未来について私の予測を述べることとしましょう。とはいえ、音楽産業の出方次第でよい方向にも悪い方向にも進みうるので、2つのシナリオを用意してみました。


 Dream Version
 
 音楽の供給方法については、インターネットを介した音楽配信とパッケージメディアの頒布とが併存する。
 
 お金はあまりないが音楽に飢えている若者たちは、インターネットを介して音楽データをダウンロードする。レコード協会は、レコード不況を打開するために、96kbps程度の低音質なmp3をネット上で自由に送受信することを認め、その分テレビCM等の広告費を削減することとし、これによりリクープするための売上げラインが大幅に引き下げられる。この大胆な試みは、さびのメロディーだけキャッチーにつくっておいてさびの部分のみをヘビーローテーションでCMで流す、という手法が通用しなくなるという副次的な効果を生み、レコード会社やアーティストに対する消費者の不信を大幅に軽減することになる。また、その楽曲を気に入ったファンがその楽曲のmp3ファイルを知人に送信して布教に努めるという現象が広く起こり、大きな芸能プロダクション等にアーティストが所属していなくとも、よい楽曲を作れば、大ヒットすることが一般化する。さらに、パッケージメディアを重視しないアーティストは、レコーディング環境さえ確保できればよくなっていき、レコード会社離れが進んでいく。これらのことは、消費者が支出した金員がアーティストに届くまでに中間搾取されてしまう機会を減少させる機能を果たすから、アーティストの収入の増大をもたらす。
 有料の音楽配信サービスを利用すると、従来のCD並の音質の音楽データが、1曲100円程度でダウンロードできる(音楽等の嗜好品、特に購買力の乏しい若者向けの商品は価格弾力性が大きいから、価格の低下は売上本数の増大を呼び、結局売上げ全体を増大させる。)。消費者は、ネット上で無償で流通しているmp3をダウンロードして視聴して気に入った楽曲を、高音質で聞きたいと思ったら、有料の音楽配信サービスを利用することになる。これにより、従来CDレンタルで済ましていた消費者が、有料の音楽配信サービスを利用するようになり、アーティストの収入が増加する。また、消費者は、ダウンロードした音楽データを、パソコンや携帯用再生機器に大量に収録することができ、これによりいちいちパッケージメディアを入れ替える煩雑さから解放される。また、自宅や職場の周辺に大型のCDショップがない過疎地等の住民でも、大都市住民と同じように多様な楽曲を選択して購入することができる。それどころか、合法的に流通しているmp3ファイルをダウンロードしてその楽曲を気に入ったアジア諸国やヨーロッパ諸国の消費者が有料の音楽配信サービスを利用してその楽曲データを次々と購入する。パッケージメディアにこだわっていた時代には考えられなかった現象だ。
 また、有料の音楽配信サービスであれば、CD等とは違って小売店から返品されるという自体を招かないから、「廃盤」する必要がなくなる。これにより、著作隣接権者であるレコード会社により作品が死蔵されてしまうというパラドックスからも解放される。
 
 そして、沢山の、多様な楽曲を青少年期に浴びるように聞くことが可能となった日本の若者たちは、その体験を糧として、次々に優れたアーティストとして活躍していく。どの分野でも、優れたクリエーターになるためには、先達の優れた作品に沢山触れることが早道なのだ。
 
 このように音楽配信サービスが盛んになっても、パッケージメディアは自信を失う必要はない。「楽曲データのみ」しか提供されない音楽配信サービスとは異なる付加価値を付ければよいのだ。歌詞カードの存在、ファンを喜ばせるカバー写真、優秀な音楽評論家によるライナーノーツ。コアなファンがパッケージメディアを見捨てるはずがない。CD程度の音質ならば、シングルで300円、アルバムで1200円程度という国際標準価格で提供できれば、並行輸入も逆輸入も恐れるに足りない。もちろん、CCCD等という消費者の不信を買うような規格を採用しないことが前提であるが。
 
 可処分所得が大きい大人たちは、より質の高い商品をより高い価格で購入することをも望んでいる(質の低い商品を高い価格で購入することは、望んでいない。)。実力派アーティストの楽曲などは、DVD-audioやSACD等の高音質のパッケージメディアを購入して、高価な音響機器で再生して、楽しむ(CCCD全盛期と異なり、高価な音響機器が破壊される心配をしなくともよいのだ)。また、アイドルの楽曲であれば、プロモーションビデオの影像を収録したDVDを購入して、影像付きでその楽曲を楽しむ(アイドル歌唱なんて、歌声だけ聞いてたって満足できないのが普通なのだ。)。
 
 Nightmare Virsion
 
 レコード輸入権が創設され、再販制度も維持され、邦楽も洋楽も、日本だけ、シングルで1枚1000円、アルバムで3000円出さなければ購入できなくなった。コンテンツ産業はそれだけでは満足できず、ロビー活動の結果、著作隣接権としての譲渡権については、国内消尽の規定すら撤廃させることに成功し、CD等の中古販売店を廃業に追い込んだ。
 
 DVD-audio等の新規格は独禁法上の再販価格指定規制の例外たり得ないといわれ、パッケージメディアの主流はCDのままだ。いや、正確には、CDではなくCCCDばかりとなっていく。米国・英国において国内版として流通している洋楽CD(CCCDではないもの)は、日本国内での製造・販売ライセンスを取得したレコード会社が、ライセンス契約に基づき、ライセンサーたる米国・英国のレコード会社にレコード輸入権を行使させ、安い正規のCDの国内流入を水際で阻止してしまう。そして、CCCDを再生して再生できなかったりプレイヤーが壊れたりした悲劇を味わった消費者から、CCCDのマークが付いているディスクの購入を回避するようになる。このようにして、パッケージメディアの売上げはじわりじわりと減少していくことになる。しかし、レコード会社は、新しい通信技術等に責任をなすりつけるだけで、消費者がなぜパッケージを購入しないかを謙虚に分析しないから、売上げの減少は止まらない。
 
 また、アメリカやヨーロッパでは1曲100円程度の音楽配信サービスが普及しても、日本では、レコード会社の首脳たちが「著作権保護システムが十分ではない」として、使い勝手のよい音楽配信サービスの日本国内展開を拒絶し続ける。日本国内で利用可能な音楽配信サービスといえば、レコード会社主導の、CD買うより高い、その上、携帯用大容量再生機器にインストールできない、使い勝手の悪いものしか存在しない。だから、日本では、音楽配信サービスは消費者に見捨てられたままだ。
 
 これでは、可処分所得の乏しい中高生には多様な楽曲を沢山享受することは、ごく一部の恵まれた階層に生まれた者以外には不可能となり、クリエーターになるための素養が身に付かない。彼らが大人になったころには、子供のころに多様な音楽を大量に聞いて育った国外のアーティストに全く歯が立たなくなり、日本は、国外のアーティストが創作した楽曲について、世界のどこよりも低い品質のメディアを世界のどこよりも高い価格で購入する国になっていく。
 

Posted by 小倉秀夫 at 02:22 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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