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02/29/2004

簗瀬議員へのメール

今日は、民主党の簗瀬議員に下記のようなメールを送信しました。

簗瀬先生へ

簗瀬先生がレコード輸入権創設に積極的に賛成されていると知り、メールを差し上げるに至った次第です。

文化庁は「邦楽CDの国内還流防止措置」等と説明しているようですが、簗瀬先生のところに届いている法律案は正しく「邦楽CDの国内還流」のみを防止するものとなっているでしょうか?
英米のメジャーレーベルが米国または英国向けに出荷するCDのジャケット等に「For US Consumers Only」とか「国外輸出禁止」等というマークを印刷するようにしてしまえば、米国ないし英国向けの商品の並行輸入を禁止することもできるような条文になっていないでしょうか。

知的財産権を行使して並行輸入を禁止しようとする裁判は今まで数多く行われてきましたが、裁判の対象となった商品のほとんどが、東南アジア等の発展途上国向けに出荷された廉価品ではなく、世界的著名企業が欧米諸国において出荷した商品であったことは、簗瀬先生もご存じのとおりです。欧米の著名企業やそのライセンシーである日本企業は、欧米諸国におけるよりも顕著に高い価格を日本国内で付けており、そのような欧米諸国との内外価格差を守るために輸入禁止権を行使しようとしてきたことは、知的財産権法等に造詣の深い法律専門家の中では常識といえます。

今日、英米系のメジャーレーベルが制作する音楽CDについていえば

1 日本国内向けの商品は、英米系のメジャーレーベルと結びつきの強い日本のレコード会社がライセンス生産しており、米国向けまたは英国向けの商品の日本国内への輸出ができなくとも、その分、日本向け商品が売れればメジャーレーベルは損をしないし、商品単価が顕著に高ければ却って得をすること
3 日米間の価格差は2倍又はそれ以上あること
4 米国向けの商品と日本向けの商品とでは品質においても大いに差があること(日本向け商品の多くは、正規のCD規格を遵守しておらず、レコード会社もオーディオメーカーも再生保証していない(実際、再生できなかったとか音がぶつぶつと切れるとか音がこもっている等の問題点が消費者により指摘されており、または、再生後オーディオ機器が故障したとの例もいくつも報告されている類のものである。)
5 それ故、歌詞カードや日本語による解説を必要としない洋楽ファンは、HMV等で米国向け商品の並行輸入品を購入したり、Amazon.com等のネット通販業者を利用して米国向け商品を直接購入するケースが増えている(ビートルズの「Let It Be Naked」のときなどはその典型である。)

等の事情があるので、洋楽CDの並行輸入を禁止するためにも活用できる法制度が制定され、施行された暁には、日本の消費者は、安くて質の良い商品を購入する術を奪われる高度の危険性を負うことになります。

私は、簗瀬先生がそんなことは十分承知した上で、法案が通るまではとりあえず「邦楽CDの逆輸入」のみを対象としているかのように国民や同僚議員を誤魔化してしまえと考えておられるのか、文化庁や日本レコード協会の説明を鵜呑みにして信じてしまっているのか、判断する術がありません。後者であるならば、文化庁の役人に対し、英米のメジャーレーベルや彼らから「レコード輸入権」の譲渡を受けた日本のレコード会社が、洋楽CDの並行輸入の差止めを求めて訴訟を提起しまたは税関に申し立ててもこれが認容されることがないような条文になるように強く求めて下さい。実際に、洋楽CDの並行輸入がストップした後に彼らから「遺憾の意」を表明されても何の意味もありません。

稚拙な法改正によって生ずることが容易に予想される問題点を指摘し、修正または法案自体の撤回を要求するというのは、野党側の国会議員が行うべき最低限の責務の一つです。私は、民主党が、そのような責務を果たせる健全な野党であることを願ってやまない次第です。

Posted by 小倉秀夫 at 03:53 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

02/28/2004

普通、2番じゃなくて1番でしょ?

 「民主党知的財産制度改革推進議員連盟」の名をかたった「決議(案)」と題する電子ファイルが送られてきました。これによると、同連盟は、
 
 この観点にたって、今国会における
(1) 海外でライセンス生産された音楽CDが我が国に逆輸入されることを防止する措置の導入
(2) 書籍・雑誌が著作者に無断で貸与されない権利(=貸与権)の付与
についての立法化を行うよう決議する。

ことを画策しているようです。おそらく怪文書の類だとは思うのですが、民主党の議員で本気でこんな決議を行おうという人がいるとしたら、私はその方の政治的センスを疑います。

 なぜなら、こんな決議を行って著作権関連団体におもねってみたところで、著作権関連団体に「2番目に好かれる」政党にしかなり得ないからです。民主党が本気で政権を取る気があるのならば、著作権関連団体を除く国民に「1番目に信頼される」政党を目指すはずだからです。
 著作権関連団体を除く国民は、「日本在住者は、音楽CDを購入するためには、アメリカ在住者の2倍以上の代金を支払うのが当然である」とは考えていないわけだし、「日本国内では、公立図書館以外には図書館を設立・運営させてはいけないのだ」とは考えていないわけです。もし、自民党が、文化庁と著作権関連団体のいうがままに、レコード輸入権創設、書籍・雑誌の民間業者による貸与の禁止を消費者無視で実現しようとするならば、それは、その非を国会やマスメディアを通じて明らかにして、「一部の業界の利益よりも、一般の国民の利益を重視するのが民主党である」とアピールするチャンスになるのです。それなのに、自民党と一緒になって、著作権関連団体にすり寄って行こうだなんて本気で考えているとしたら・・・ほんと、政治的センス、なさ過ぎですね。

Posted by 小倉秀夫 at 02:41 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (1)

02/25/2004

自民党に物申す

今日、自民党のwebサイトにアクセスして、次のような投稿をしました。


商業用レコードの日本国内への輸入を禁止する権利をレコード製作者に付与する著作権改正法案を自民党の部会が承認したとの報道がなされています。

英米のメジャーレーベルからライセンスを受けて日本のレコード会社が生産し販売するディスクの大部分が、同じ先進国であるアメリカやイギリスの市場価格よりも遥かに高い「定価」が付けられており、しかも、規格に従ったCDプレイヤーによる再生すら保証されていない(レコード会社もオーディオメーカーも再生を保証してくれません)コピーコントロールディスク(CCCD)規格が用いられているため、多くの洋楽愛好家は、英米で正規に流通している音楽CDの並行輸入品をHMV等の大手量販店で購入するか、Amazon.com等のネット通販で取り寄せるかすることにより、何とか、安心して再生できる新譜を入手しているというのが実情です。

しかし、レコード製作者に音楽CDの輸入禁止権が与えられてしまうと、我々洋楽愛好家の一縷の望みすら絶たれてしまう虞が大いにあります。文化庁や日本レコード協会は、レコード輸入権が創設されても英米のメジャーレーベルが洋楽CDの並行輸入を禁止するためにこれを行使することは考えられないと説明しているようですが、国際的市場分割に活用できる法制度を日本が創設してくれたというのに、英米のメジャーレーベルがこれを活用しないと考えるのは余りに楽観的です(私が彼らの顧問弁護士ならば、当然これを活用して、日本の消費者には高い価格を押しつけ、利潤を極大化するように進言することでしょう。世界的映画産業が、DVDについて、「リージョンコード」を用いて国際的市場分割を行っているのと同じように、世界的音楽産業が、輸入権を行使して、国際的市場分割を図ろうとすることは考えられない、となぜ考えられるのか、私には不思議でなりません。)。

 もし、自民党が、文化庁の著作権法改正案を了承し、法案として成立させるつもりであるのならば、せめて、それが洋楽CDの並行輸入を英米のメジャーレーベルが禁止するのに用いることができないような文言に改めるべきです。

 それもしたくないというのであれば、せめて、今回の著作権法改正の目的は、「邦楽CDの日本国内環流の防止」ではなく、邦楽・洋楽を問わず、海外で流通している商業用レコードの日本国内流入防止であるという正しい説明を国民に対し行うべきです。

 政権政党としてもっとも許されないことは、特定の業界と癒着して、当該業界のために、国民を騙して、他の国民の犠牲の下に特定の業界の利益を保護する新たな規制を作り上げてしまうことです。

 私は、自民党本部の裏で執務する者として、自民党がそのような愚を犯さないことを願ってやみません。

Posted by 小倉秀夫 at 10:03 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (5) | TrackBack (2)

02/23/2004

見ざる、言わざる、聞かざる

 新聞社などを被告として名誉棄損訴訟などを提起したりすると、彼らは大抵「社会の木鐸」を自認し、「国民の知る権利に奉仕している」かのように主張するのですけど、音楽CDに関する昨今の騒動を見る限り、「そういう悪い冗談はやめてもらいたい」という気分にさせられます。
 
 新譜をコピーコントロールCDで発売する予定との情報が流されたアーティストの掲示板に、ファンたちの悲痛な叫びが書き込まれるという現象が近年頻発しています。ファンの声が届き、コピーコントロールCDでの発売が回避されたり、次作からはコピーコントロールCD規格は使用しない旨の表明が制作サイドから出されたりという現象も生まれています。基本的に大人しい日本の若者が声を上げて理不尽に対し抗議し、行動している姿は、立派にニュースバリューがあります。
 でも、新聞も、テレビも、それどころか日頃大新聞に対し対抗意識を燃やし「大新聞が絶対書けない」などと称して「タブーねた」を掲載する週刊誌や夕刊紙も、この問題には触れません。
 
 レコード輸入権の問題にしても、2月17日付の読売新聞等を読んでも、法改正によって原盤権者による差止めが可能になるのは、邦楽CDに限られない、洋楽CDもそうなのだということはわかりません。まして、つい最近まで正規の音楽CDについても輸入禁止権が認められていたオーストラリアにおいてはメジャーレーベルの音楽CDを流通業者が並行輸入することができず、オーストラリアの消費者は「少ない品数、顕著な高価格」を余儀なくされたということや、正規品の並行輸入を合法化する法改正を与党連合が提案したときにアメリカ大使館が反対に回ったことや、長らく並行輸入を禁止してきたことはオーストラリア国内の音楽産業の活性化には繋がらず、オーストラリアは音楽に関しては輸入大国であり続けたこと等は全く報告されません。
 
 それよりなにより、政官財が癒着して消費者の利益を損なう規制が作られていく場面が、今まさに、ある意味公然と行われているのに、「規制緩和」とか「構造改革」とかそういうことを普段声高に叫ぶ人たちが、「見ざる、聞かざる、言わざる」を決め込んでしまっているということに違和感を感じざるを得ません。

Posted by 小倉秀夫 at 01:02 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (1)

02/19/2004

音楽産業はいずこも傲慢?

 TIMES ONLINEの2004年1月22日の記事によれば、The British Phonographic Industry (BPI) と、CD Wow!という、香港で売られている音楽CDをイギリスの消費者に安価で販売する香港の会社との間で、低価格市場から仕入れた音楽CDをイギリスの消費者には販売しないということで和解したそうです。同記事によれば、BPIは、ジャージー島にある「Play.com」というCD及びDVDのネット通販業者に対しても別途訴訟を提起しており、さらにAmazon.comのような著名なネット通販業者が並行輸入をするのではないかと監視を続けるつもりだといっているのだそうです。
 この例を見ると、「レコード輸入権が創設されても、Amazon.comを利用すればよいから自分には関係がない」と思っている洋楽ファンは、もう少し危機意識を持った方が良さそうです。個人輸入代行業者を利用すれば大丈夫だと考えている人も「甘い!」ということがいえそうです。レコード団体からの要求が不当なものであっても、CD Wow!がそうであったように、訴訟を続けることは時間的にも金銭的にも高くつきすぎるということで和解に応じざるを得なくなってしまうのです。

 日本で同じような悲劇が行われないようにするために、今何ができるでしょうか。
 誰にでも簡単にできるのは、地元選出の国会議員に、レコード輸入権が創設されると、洋楽CDの並行輸入も止まってしまうし、Amazon.com等でUS版、UK版の音楽CDをネット通販することもできなくなってしまうので反対して欲しいと陳情すること、及び、口コミで陳情する仲間を増やしていくことではないでしょうか。そして、地元選出の国会議員が、今回の法改正は「邦楽CDの逆輸入を禁止する」だけのものだと勘違いしているようだったら、それは違うということを伝えることが大切です。
 きちんとした身なりで、きちんとした態度で、きちんと実名を明示して陳情をすれば、地元選挙民からの陳情を門前払いできる国会議員は滅多にいないはずです。

Posted by 小倉秀夫 at 02:04 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (5)

02/17/2004

異例ずくめのレコード輸入権騒動

 私は、一応法律の専門家ですから、法律に関する諸々の事象について基礎知識はあるつもりなのですが、今回のレコード輸入権騒動は非常に異例です。
 
 まず、法律の概要として公表されていることと法律案の文言との間に瑣末的でない齟齬があるという点があります。文化庁は、「海外生産の邦楽CDの日本国内への還流」を禁止できるようにする法改正を行うかのような説明をしているようですが、提出される法律案は、「海外生産の音楽CDの販売目的での日本国内への輸入」一般を禁止することができるようにするものであるようです。「海外生産の洋楽CDの日本国内への輸入」は禁止されないというのは、せいぜい文化庁関係者の希望的観測でしかないわけです。このような官僚の希望的観測に過ぎないものをあたかも改正法案の内容に組み込まれているかのように説明している例を私は知りません。
 
 また、中央官庁が法案提出前にパブリックコメントを求めるようになって以降、パブリックコメントとして寄せられた意見の概要をまとめたものを公表するというのが慣例でした。多岐に渡る論点についてパブリックコメントを求めておきながら、その中の2つの論点について、賛成意見の数と反対意見の数だけを公表するにとどめ、改正案をそのまま法案として提出してしまおうとした例を私は知りません。しかし、昨年の12月24日締切りのパブリックコメントについては、レコード輸入権の創設と書籍貸与権の創設に関する賛成意見と反対意見の数しか公表されていません。
 文化庁としては賛成意見の数と反対意見の数を知りたいだけだったのならば、そのように言ってくれれば、「まとまった意見を書くのは出来ないけれども、賛否は表明したい」という人々がそれぞれの法改正に対する賛否を表明したのではないかとも思います。しかし、少なくともレコード輸入権の創設に反対するような人々には、文化庁のそのような意図は伝えられなかったようです。
 
 また、国の基本政策に真っ向から反対するような法改正が、特定の業界からの要請で、あっさりなされてしまうというのも異例です。規制緩和を行い、競争を促進して、小売価格を引き下げ、内外価格差を是正して、国民経済に利益をもたらすということが10年来の日本政府の基本政策となっています。しかし、レコード輸入権の創設というのは、内外価格差を法律の力で維持することが唯一の目的です。アメリカの約2倍という価格差を全ての国民に押しつけることこそが制度の目的です。他の「規制」と異なり、小売価格の高値維持による特定業者の保護以外に何の目的もありません。
 規制緩和を求めて様々な提言を行ってきた経団連も、会員企業が内外価格差を維持するための規制創設を求めたら、押し黙ってしまいました。情けないの一言です。
 
 また、明らかにわかる嘘を誰も指摘しようとしないというのも異例です。2月16日付朝日新聞朝刊によれば、「レコード協会は『全世界を市場とする欧米会社が、販売地域を限定したCDを発売することは考えにくく、実質的に還流禁止の対象にならない』としている」とのことです。しかし、全世界を市場とするからこそ市場を分割しようとする、というのが世界の常識です。だから、レコード輸入権が創設されたら、全世界を市場とする欧米会社が販売地域を限定したCDを発売することは容易に考えられます。日本における並行輸入に関する訴訟が「全世界を市場とする欧米会社」の商品について行われてきたこと、DVDにおいて「リージョンコード」が設けられたのは「全世界を市場とする欧米会社」の意向に基づいていることなどを考えても、「全世界を市場とする欧米会社が、販売地域を限定したCDを発売することは考えにくく、実質的に還流禁止の対象にならない」なんていえないことは、簡単にわかることです。

Posted by 小倉秀夫 at 02:12 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (19)

02/13/2004

世界に目を向けよう

 前回に続いて、iTunesの1曲99セントという価格が「音楽生産のサイクル」を破壊するほど安いかどうかを見てみましょう。

 Amazon.comでPops部門TopのNorah Jonesの「Feels Like Home」ですが、13曲収録されていて、Amazon.comでのセールス価格が13.49ドルです。つまり、1曲あたり約1.03ドルです。CDの場合、様々な製作コストや流通コストがかかることを考えると、アメリカでは、音楽CDがレコード会社にもたらす1曲あたりの収益はそれほど多くありません。それでも、アメリカでは、良質の音楽が日々生産されています。
 そして、Amazon.comをブラウジングしていると明らかですが、Norah Jonesのアルバムが特別安いわけではありません。当然ですね。Norah Jonesほどたくさん売れる見込みがないからといって、Norah Jonesのアルバムより遥かに高い価格設定をしたら、余計に売れなくなってしまいます。
 したがって、アメリカでは、全世界で何百万枚も売れることが見込めるアーチストの作品にしても、数万枚程度しか売上げが見込めないアーティストの作品にしても、売上げベースで1枚1曲あたり1ドルちょっと、粗利ベースで30セント前後しか得られない前提で、レコードの制作にあたることになります。
 
 したがって、アメリカでは、1曲99セントのiTunes価格で「音楽生産のサイクル」が壊れることはなさそうです。音楽配信サービスを提供する企業のマージンを下げれば、さらに価格を低下させることもできそうです。
 
 特段の事情がない限り、アメリカでできていることが日本ではできないわけはありません。「特段の事情」としてアメリカの音楽産業の市場の広さをあげる人もいるかもしれませんが、アメリカで制作されるCDがみな世界市場で何百万枚も売れるわけではありません。したがって、このような見解は説得力がないですね。
 
 なお、前回の私のblogに対して、
 
 仮にbenli氏の見積もりが正しい場合を考えても86円から70円は、約20%の付加価値の低下である。この変化は、企業を取り巻く経営環境としては大きいものがある。音楽生産サイクルの破壊までには至らなくとも、変化を与えることは間違いない大きさだろう。
 
との懸念を有しているがおられます。
 音楽配信サービスが、音楽CDの代替品にしかならず、新たな需要を喚起しないとすれば、そういう懸念もあり得るかもしれません。しかし、嗜好品の需要は一般に価格弾力性が高いことを考えると、その前提には大いに疑問があります。CMで流れたり、有線やラジオで流れてきたりした曲を「ちょっといいな」と思い、「もう少し聞きたいな」と考えたときに、1000円出して12インチのCDシングルを買わなければならないといわれたら「それならいいや」と気持ちを切り替えてしまうけれども、100円でダウンロードできるならば購入するということが、あり得ないか又はあり得たとしても非常にレアケースといえるのかというと大いに疑問があります。
 また、日本の場合、アメリカよりもポータブル機器のニーズが高いという特徴があります。電車・バスなどの公共交通機関で通勤・通学する人の割合が高く、彼らは電車等で移動中音楽を聞きたいという強いニーズをもっているからです。そういう意味では、iPodというのはまさに日本向きの商品なのですが、そこに立ちはだかるのが「CCCD」規格です。まあ、SACDやDVDオーディオでも一緒なのですが、パソコンにリッピングできない規格では、「正規のパッケージを購入して自分のパソコンにリッピングしてiPodにインストールして通勤・通学中に楽しむ」ということが阻害されます。すなわち、iPodで移動中に音楽を楽しみたいというユーザーにとっては、CCCDもSACDもDVDオーディオも、「購入するに値しない」商品ということになります。しかし、楽曲データがiTunesで提供されれば、そのようなユーザーは有料で楽曲をダウンロードしてそれをiPodにインストールして楽しむことができます。ここにおいて、新たな需要が喚起されることになります。

 そうなると、CDはコレクターズアイテムになってしまうとも懸念されているようですが、パッケージメディアがコレクターズアイテム化するというのはむしろ正常な姿ではないかと思います。「フルコーラス聞いてみたい」とか「カラオケ用に覚えたい」等の薄弱な動機で高額なパッケージメディアを購入するというのは、90年代中盤はよく見られましたが、むしろ歴史的にみても世界的に見ても異常だったというべきでしょう。
 
 さらに、音楽データがインターネットを介して配信されるということは、配信業者に配信先の国ごとに市場分割することを要求しない限り、全世界のリスナーを対象に楽曲を販売することができます。日本の音楽業界は、「海外進出」というと、すぐに「アメリカ」か「東・東南アジア」を想定する悪い癖がありますが、ヨーロッパ市場進出だって夢ではありません。一昨年、ブリュッセルのホテルで何気なくテレビを見ていたら、現地のバンドが「アジアの純真」を日本語でカバーした楽曲が流れていたくらいですから、日本のポップミュージックがヨーロッパで受け入れられる素地は十分にあります。音楽配信サービスは、ローリスクでの海外市場へ進出することを挑戦するのに非常に便利です。
 
 日本の音楽業界は、「どうやったら利益を増やせるのか」という観点を離れて、「どうやったら他人が自分たちの音楽を自分たちに無断で利用することを阻止できるのか」ということに注目しがちです。その結果、「着うた」等というアーティストにとって屈辱的な利用方法に支えられる恥ずかしい姿になってしまいました。悲しい話です。
 

Posted by 小倉秀夫 at 02:19 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (1)

02/11/2004

iTunes日本参入で「音楽生産サイクル」は壊れるのか。

 音楽配信サービスは、基本的に「濫聴派」向けのサービスです。あるいは「行動派」向けのサービスです。特定のアーティストのCDまたはCCCDを何回も繰り返し聞いていたいという人とは所詮求めるサービスの質が違います。SACDやDVDオーディオが普及しても、それはそれで音楽配信サービスの需要は残るのです。
 
 音楽配信サービスが普及すると、アーティストは音楽だけで生活できなくなるでしょうか。そういう心配をするもいるようなので、少し考えてみましょう。

 15曲入り3000円(税抜き、ケース代抜き)のアルバムの場合、JASRACに支払う著作権料が180円、参加アーティストに支払われるアーティスト印税の総額が、個別契約によるので差はあるにせよ、だいたい30円程度ですから、1曲あたりに直すと、著作権料が12円、アーティスト印税が2円程度ですね。なお、小売価格の半分程度は流通経費等で消えますから、レコード会社はおおざっぱに言って1曲あたり86円前後の収入を得ることになります。
 iTunesのダウンロード料金を1ダウンロード100円(税別)とした場合、JASRACへ支払うライセンス料は7円70銭ですね。アーティスト印税を同様に売上げの1%だとすると1ダウンロード当り10円ということになります。また、iPodというハードウェアメーカーであるアップル社は、アメリカのiTunesにおいては1ダウンロードあたり10数セントしか取っていないといわれています。同じ条件で日本版iTunesが運用されるならば、レコード会社は1ダウンロードあたり70円前後の収入を得ることになります。
 すると、「CCCDでは買わなかったであろうリスナーがiTunesなら購入してくれる」可能性を考えたら、アーティストやレコード会社にとって、言われるほど悪い数字ではありません。だから、アメリカでは、メジャーレーベルがGOサインを出したのでしょう。
 
 日本の場合、メジャーレーベルが自前で(高くて使い勝手が悪い(しかもMacユーザーをのけ者にしている))音楽配信システムを既に構築してしまっていること、メジャーレーベルの多くが資本関係やCMタイアップなどでオーディオ機器メーカーと結びついてしまっていることが、レコード会社関係者によるiTunesに対する謂われのない批判に結びついているのではないかという気がします(CCCDの普及は、オーディオ機器の買い換えを促進しますし。)。

Posted by 小倉秀夫 at 05:03 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (5) | TrackBack (3)

02/09/2004

我々は猿よりは賢い。────果たして政治家はどうか?

産経新聞の報道によると、日本レコード協会や日本音楽著作権協会など音楽関係8団体が、アジア地域で廉価販売された日本の音楽CDの逆輸入を防ぐ措置が法制化されれば、国内販売のCD価格の値下げに業界として取り組む考えを表明したとのことです。

音楽関係8団体って、おそらく、社団法人日本音楽著作権協会 社団法人日本芸能実演家団体協議会 社団法人日本レコード協会 社団法人日本音楽事業者協会 社団法人音楽出版社協会 社団法人音楽制作者連盟 日本レコード商業組合 全国レコード卸同業界のことなのでしょうが、彼らはいかなる権限で「国内販売のCD価格の値下げに業界として取り組む」のでしょうか。

国内のレコード会社が正規にプレスして全国レコード卸同業界加盟の問屋を介して日本レコード商業組合加盟のレコード店が販売する音楽CDに関していえば、再販価格の指定がなされているので、「国内販売のCD価格」は各CDを製造しているレコード会社が決定することになっているはずですし、日本レコード協会に加盟しているレコード会社間で国内販売のCD価格について協議を行うのは独占禁止法上違法となる疑いが高いように玄人判断では思えてなりません(国内販売価格の決定は「著作権の行使」にはあたりませんし。)。

 一つの考え方としては、再販価格の指定をやめてしまうということは論理的にはありえる(別に、独占禁止法上は、レコード会社がレコード・CDの再販価格を指定しても独占禁止法違反には問わないとしているだけで、再販価格を指定する義務をレコード会社に課しているわけではないですから)のですが、その場合、負け組は、日本レコード商業組合に加盟している中小のレコード店ということになりそう(小売店で再販価格(小売価格)を自由に設定していいということになると、中小のレコード店はHMVやタワーなどの大型レコード店に比べて、品揃えだけでなく、特に売れ筋商品について価格でも不利益な状況に立たされてしまう。)なので、音楽関係団体のうち残り7団体はそこのところを説得し切れたのだろうかという点に疑問の余地がないわけではありません。もっとも、レコード輸入権が創設され、HMV等が洋楽の並行輸入を扱えないようになれば、洋楽について現存している救いようないほどの品揃え及び価格の格差が、HMV等のサービス水準を無理矢理引き下げる方向で解消されるわけで、そうなると、再販制度を廃止して邦楽レコードで「規模の利益」から来る価格格差を甘受するか、HMV等だけが海外の安い洋楽CDを並行輸入してくることから来る価格格差を甘受するかという選択である可能性もあり、日本レコード商業組合加盟の中小のレコード店が前者を選択するということもあり得なくはありません。とはいえ、そのつもりがあるならば、政治的には、レコード・CDに関しては再販価格の指定はもうしないからその分輸入権を認めてくれと表明した方が、与党や公取の覚えもめでたくなり、レコード輸入権の創設を悲願とする音楽関係団体の皆様にはお得な状況がやってくることは明らかなのにそうしないということは、再販価格の指定をやめるなんてことはする気がないんだろうなと想像するのがよさそうな感じですね。
 
 もちろん、日本芸能実演家団体協議会の会員である実演家が歌唱印税の引き下げに応じたり、日本音楽著作権協会(JASRAC)が商業用レコードに関する使用料を引き下げたりすれば、CDの国内販売価格は若干下がるのかもしれないですが、JASRACが徴収する使用料自体CD価格の6%程度ですし、歌唱印税も普通はCD価格の1%前後ですから、アーティストたちを全員ただ働きさせたところで、アメリカどころか、フランスとの価格差すら埋まらないんですよね(例えば、Amazon.frによると、今週第3位のKyoの「Le Chemin」が16.45ユーロ(約2200円)で売られています。)。「市場規模」を考えたら、邦楽CDの方が、仏楽CDより有利な状況にあるのですけど。

Posted by 小倉秀夫 at 01:57 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)