« avril 2004 | Accueil | juin 2004 »

05/27/2004

誰もが洋楽CDを買いに渡米できるわけではない

河野太郎衆議院議員が余りにいい加減なことを言い続けるので、以下のようなメールを送りました。

庶民の生活水準を知らないおぼっちゃまには困ったものです。


河野太郎先生へ

 特定の業界団体が待ち望む特定の法案を可決成立させるために、国民に嘘を付く政治家に存在意義はあるのでしょうか。

>Q:改正115条5項では、輸入時及び頒布目的での所持中に、当
>該音楽CDが専ら日本国外で頒布する目的のものであるという事情
>を知っていれば足ります。そのような事情を知るに至った過程を一
>切問いません。したがって、「日本国内頒布禁止」等の表示がなく
>とも、それ以外の方法で当該音楽CDが専ら日本国外で頒布する目
>的のものであるという事情を知ってしまえば、この要件を満たすこ
>とになりませんか。
>A:今、手に取っているCDそのものがこの法の適用を受けるかど
>うか判断できるということが「情を知って」ということですので、
>日本販売禁止という表示が必要です。テレビコマーシャルでこのC
>Dは日本の販売禁止だと流したり、内容証明郵便で業者に通知した
>だけでは、要件を満たしません。

とのことですが、例えば「米国国内向けに出荷されたEMI傘下レーベルの音楽CDは全て、専ら日本国外で頒布されることを目的とするものであるから、日本国内での販売目的で輸入・所持することは禁止されている」との事情を内容証明郵便による通知書その他で知らされていた場合には、手に取った音楽CDが「米国国内向けに出荷されたEMI傘下レーベルの音楽CD」であることを知れば、すなわち、当該音楽CDそのものがこの法の適用を受ける「国外頒布目的商業用レコード」に該当することがわかるわけです。「日本販売禁止」なんて表示は必要ありません(法律の読み方を知らない素人はごまかせても、玄人はごまかせません。)。

しかも、政府はご丁寧に、情を知って輸入する行為だけでなく、情を知って販売目的で所持する行為をも著作権等侵害行為とみなすように法案を作成しています。「所持」というのは継続的行為ですから、「米国国内向けに出荷されたEMI傘下レーベルの音楽CD」を大量に入荷した後に、「米国国内向けに出荷されたEMI傘下レーベルの音楽CDは全て、専ら日本国外で頒布されることを目的とするものであるから、日本国内での販売目的で輸入・所持することは禁止されている」との通知を受ければ、それ以後の所持は、情を知って販売目的で国外頒布目的商業用レコードを所持する行為、すなわち、著作権等侵害行為とみなされる行為となってしまいます。

「日本国内頒布禁止」との表示がなされている音楽CDに限って適用されることを明文化することを自民党が拒絶するのは、「日本国内頒布禁止」との表示がなされていない音楽CDを輸入または販売目的で所持している場合であっても、著作権等侵害とみなされるのだと示すことによって、より広範囲に音楽CDの並行輸入を阻止することにあるからでしょう。本気で「『日本国内頒布禁止』との表示がなされている音楽CDに限って適用される」こととするつもりならば、その旨を条文上に明記することは、立法技術的に容易なのですから(法律の読み方を知らない素人はごまかせても、玄人はごまかせません。)。

そして、

>Q:輸入業者が国内盤の出ていないCDを輸入↓
>しばらくたってから国内盤のリリースが決定↓
>以降は「国内盤リリース」の「情を知っている」ことになるから
>、在庫も販売も禁止??
>A:輸入する時にこの法が適用されていないCDに関しては、そ
>の後の在庫も販売も自由です。

とのことですが、法案では、「輸入する時にこの法が適用されていないCDに関しては、その後の在庫も販売も自由です」とのんきなことを言える文言になっていません。「輸入」行為とは別に、「頒布目的の所持」が独自に著作権等侵害行為とみなされる行為になっています。すなわち、「輸入」行為については改正113条5項の要件を満たさず税関をパスしたとしても、頒布目的で所持している過程で改正113条5項の要件を全て満たすに至れば、「頒布目的の所持」を継続することは、著作権等侵害行為とみなされることになるのです。法律の読み方を知らない素人はごまかせても、玄人はごまかせません。

また、河野先生は、個人が輸入するCDについてはこの法は適用されないということを盛んに強調されますが、個人がCDを輸入することに関し業者が関与した場合にこの法律が適用されかねない十分な危険があることを、国民に対して黙っておられるのはフェアではありません。

ご存じのとおり、我が国では、
1 自己の管理の下に、ユーザーに、著作権等の利用行為を行わせ、
2 かつ、そのことによって利益を図る意思がある場合には、
著作権法の規律の観点から当該業者を著作権等の利用主体とみなす、利用主体拡張法理が判例法理として定着しています(例えば、個人が1人で練習のためにJASRACの管理楽曲を歌唱すること自体は著作権(演奏権)の侵害とはされていませんが、カラオケボックスに1人で入って個室でJASRAC管理楽曲を歌唱した場合、著作権法の規律の観点から、カラオケボックスの経営者が歌唱(演奏)の主体とみなされ、当該カラオケボックス経営者と特段の人的な繋がりのない当該顧客すなわち公衆に直接聞かせる目的でJASRAC管理楽曲を歌唱したとして、著作権(演奏権)侵害と認定された裁判例(ビッグエコー事件地裁判決)は実在します。)。

このような判例法理を有する我が国においては、例えば、米国で流通している洋楽CDを、日本国内に在住する洋楽ファンの注文に応じて当該ファンの下に発送するサービスというのは、自己の管理の下にユーザーに米国盤洋楽CDの輸入行為を行わせ、これによって対価を得ているとして、著作権の規律の観点から、当該サービスの経営者こそが輸入行為の主体であるとみなされる可能性が大きいです。この場合、当該経営者と個々の顧客との間には特段の人的繋がりがないのが通常ですから、公衆に頒布する目的で輸入行為を行ったとして、輸入権侵害とされる可能性が大きいです。すなわち、Amazon.comのようなサービスは、日本向けに米国盤CDを出荷するサービスを停止しなければならなくなる可能性が大きいと言えます。

すると、個人として輸入する行為は大丈夫だといっても、再生非保証ディスク(CCCD)ではない洋楽CDを購入するためには、その都度米国に渡航して、現地のCDショップ等で音楽CDを購入しなければならないということになります。我々洋楽ファンは、「個人がアメリカに行って再生非保証ディスク(CCCD)ではない洋楽CDを購入する行為までは処罰しないから、安心しなさい」といわれて、素直に安堵できると本気で思っているのですか。

Posted by 小倉秀夫 at 02:52 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (2)

05/26/2004

衆議院議員はみな、今、試されている。

既に参議院で全会一致で可決されている著作権法改正案に関し衆議院で提出されていた質問趣意書への回答が公表されました。

このような回答書で「これで洋楽の並行輸入は大丈夫」だなんていって著作権法改正案に賛成する衆議院議員については、官僚の誤魔化しを見抜く能力がないか、官僚と一緒になって国民を騙そうとしているかどちらかであるから、いずれにせよ、国会議員たるべき資質を有しないと評価可能です。そういう議員の選挙区にいる人は、その議員を落選させるべく次の選挙で投票行動を起こしましょう。そういう議員(候補)しかいない選挙区にいる人は、棄権するのではなく、積極的に白票を投じましょう。

さて、具体的に見ていきましょう。

今回の回答書を貫く思想は、「法律の解釈については、適当なことを言って誤魔化します。しかし、輸入業者も販売店も、回答書で示された解釈を金科玉条として洋楽CDの並行輸入を強行した場合には、検察は「適切に」対処するし、経営者の逮捕、起訴、刑事罰、在庫品の廃棄、国内盤との差額の賠償等により生じた損害は自己責任で負担してもらうから、わかっているだろうな。」というものですね。

まず、

「US Only」との文言は、当該音楽CDが専ら国外において頒布することを目的とするものであることを必ずしも意味するものではなく、その文言の印刷があることをもって、当該音楽CDが専ら国外において頒布することを目的とするものであるとの情を必ずしも知り得るということにはならないと思料され

との点ですが、「US Only」とあれば、専ら米国国内において頒布することを目的としているということを意味しているわけですから、常識的に考えて、「専ら(日本)国外において頒布することを目的」としていることは明らかです。文部科学省では、米国国内であって、かつ、日本国外ではない地域というのが存在するということなのでしょうか。私は、「米国国内」というのは「日本国外」の部分集合だと思っているのですが。

また、

当該内容証明郵便(「当社が並行輸入を禁止している音楽CD一覧」が記載されており、その中に当該作品を含んでいるもの)では、並行輸入を禁止する理由が明らかではなく、当社が並行輸入を禁止している音楽CD一覧」に記載されている音楽CD(以下「一覧CD」という。)が専ら国外において頒布することを目的とするものであることを明確にする記載があり、当該音楽CDが当該一覧CDに含まれていることを識別することが可能な表示が当該音楽CDに記載されていない限り、当該音楽CDが専ら国外において頒布することを目的とするものであるとするものであるとの情を必ずしも知り得るということにはならないと思料され

との点ですが、今回の著作権法改正案では、いつから、「並行輸入を禁止する理由が明らか」とすることが必要になったのでしょうか。著作隣接権者である欧米のレコード会社から日本国内への並行輸入を禁止する意思を明確に表示されている音楽CDであって、かつ、専ら国外において頒布することを目的とするものではない場合としてはどのようなケースを想定しているのでしょうか。少なくとも米国盤を著作隣接権者である欧米のレコード会社自体が発行しているものに関していえば、そういうケースは想定しがたいわけですが。


また、特定の「事情」が特定の複製物に記載されていない限り、当該事情を知っていたことにはならないという解釈はどこから出てきたのでしょうか。「情を知って」との文言は、著作権法113条1項2号や同条2項等で用いられているわけですが、いずれも、「著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物」であるとの事情や、「プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物」であるとの事情は当該複製物には記載されていないのが通常ですが、そのような場合にも適用されると一般に解されています。また、113条2項は敢えて「これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り」との限定を付していますが、それはこれらの複製物を使用している途中で情を知るに至る場合が想定されていることが前提となっています(当該複製物に「これはプログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物です」との表示がなければ「情を知って」いたことにはならないとするならば、当該複製物を使用している途中で「情を知」るに至る即ち当該複製物に「これはプログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物です」との表示がなされることというのは通常想定しがたいですね。)。


また、

当該新聞記事を輸入業者が必ずしも知り得るとは限らないので、当該音楽CDが専ら国外において頒布することを目的とするものであるとするものであるとの情を必ずしも知り得るということにはならないと思料され

との点ですが、すると、当該新聞記事を輸入業者が知っていたと言うことを別途立証してしまえば良いということですね。企業体としての知・不知が問題となるのであれば、そのハードルは低いですね。


また、

米国盤と価格の全く異なる日本盤が税関に提出されたとしても、価格が全く異なることが、当該音楽CDが専ら国外において頒布することを目的とするものであることを必ずしも意味するものではなく、米国盤と価格の全く異なる日本盤が税関に提出されたことをもって、当該音楽CDが専ら国外において頒布することを目的とするものであるとの情を必ずしも知り得るということにはならないと思料され

との点ですが、同一の内容のアルバムについて、欧米のレコード会社からライセンスを受けた日本のレコード会社から日本盤が発行され、かつ、上記レコード会社経由で米国盤が直輸入されているときに、なお、米国国内で市場で流通している音楽CDは日本国内で頒布されることをも目的としているものであると考えることには無理がありますね。価格に大きな差異があるのであればなおさらです。


また、

一般論として申し上げれば、個別の事案について著作権法違反による告訴がなされた場合、検察当局において、適切に対処するものと考える

との点ですが、結局、検察としては、欧米からの洋楽CDの並行輸入には適用しないとの大臣答弁がなされたところで、欧米のレコード会社等から告訴等がなされれば、法律の規定通りに、「適切に対処する」すなわちアジア諸国からの邦楽CDの並行輸入を行ったものと同様の扱いをするということですね。


また、

一般論として申し上げれば、例えば、平成十六年四月二十日の参議院文教科学委員会において文化庁は、欧米の主要なレコード会社五社が、欧米諸国において発行した商業用レコードについて、法案第百十三条五項の規定に基づいて我が国への輸入を差し止める考えがない旨を述べているが、このように国会に提出している法律案について、当該法律案の所管省庁が了知している事実を説明する行為が、直ちに国家賠償法上の責任を負うべき行為と判断されることはないものと考える

とのことですが、「欧米の主要なレコード会社五社が、欧米諸国において発行した商業用レコードについて、法案第百十三条五項の規定に基づいて我が国への輸入を差し止める考えがない旨を述べている」から今回の著作権法改正法案が可決施行されたとしても洋楽CDの並行輸入が止まることはない云々という発言に関しては、文化庁は一切の責任を持たないということですね。法案さえ通ってしまえば、国会等で言ったことなど、後は野となれ山となれ、リスクを背負いたくなかったら、洋楽CDの並行輸入もやめてしまえという文化庁の役人たちの強固な意思の表れですね。


最後に、

法案第百十三条五項は、お尋ねのように特定の類型に属する者が権利行使を控えることを前提に起草したものではない

とのことですが、これは、文化庁が、5メジャーが権利行使することをも想定した上で、改正著作権法113条5項を起草したということを明らかに表明した発言として、注目すべきでしょうね。河村文科大臣も河野太郎議員も、付帯決議でお茶を濁した参議院議員の皆様も、はしごを外されてしまいましたね。衆議院では「5メジャーは権利行使しないといっているから大丈夫だ」なんて話は、もうこれでできなくなったはずです。

Posted by 小倉秀夫 at 02:27 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (7)

05/22/2004

J'en suis resté baba

 河野太郎衆議院議員のメルマガが更新されたようです。
 「大臣答弁」云々の部分を除けば、文化庁の見解を繰り返しているだけのようです。ということは、河野議員は、今回の著作権法改正問題について、文化庁の役人に尋ねるだけで、他の情報源を持っていないのではないかとの推測も成り立ちます。
 そうだとすれば、著作権法改正問題を離れても由々しき問題です。中央官庁の役人が国会議員にわざと間違った説明をして回れば、国会でのコンセンサスが得られないような内容の法律改正も簡単に行えることになるからです。「役人の説明」に対するチェック機能を持たないのでは、国会議員の方々が主観的にどう思おうとも、「役人天国」を脱却することはできないからです。こういう議員たちは、幾ら抽象論で立派なことを言っていても何の役にも立たないことでしょう。
 
 とはいえ、そのようなことを嘆いていても仕方がないので、河野議員に次のようなメールを出しておきました。
 
前略 河野先生のウェブサイトで「ごまめの歯ぎしり メールマガジン版」が更新されているのを拝見いたしました。河野先生が我々市民の疑問の声を文化庁の官僚にぶつけ、さらにその結果を市民に報告されていることには頭が下がる思いです。さらに官僚から得た回答をチェックするブレーンをお持ちになると、先生が政治家としてより飛躍することに繋がるのではないかと思料いたします。

さて、河野先生がメルマガでお書きになったことのうち、明らかな誤りについて幾つか指摘をさせて頂きます。

「改正115条5項に「『情を知って』当該国外頒布目的で商業目的用レコードを国内において頒布する目的を持って輸入する行為..」という部分がありますが、その『情を知って』というところを客観的に判断するために、当該レコードに表示がしてあることという要件が必要になります。」

との点ですが、これは明らかに誤りです。

改正115条5項では、輸入時及び頒布目的での所持中に、当該音楽CDが専ら日本国外で頒布する目的のものであるという事情を知っていれば足ります。そのような事情を知るに至った過程を一切問いません。したがって、「日本国内頒布禁止」等の表示がなくとも、それ以外の方法で当該音楽CDが専ら日本国外で頒布する目的のものであるという事情を知ってしまえば、この要件を満たすことになります。しかも、当該音楽CDを仕入れた後頒布目的で所持している最中に知らされた場合、知らされた以降なおも頒布目的で所持し続ければ、改正115条5項が適用されることになります。

また、

「表示ということをストレートに法案に書くと、表示が剥がれた時はとか、権利を持っていない者が表示をした時はなどについて法案のなかで手当をしなければならなくなり、法案が非常に複雑になってしまうのを避けたためです。」

との点ですが、これも明確に誤りです。

 まず、そもそも「専ら国外で頒布することを目的」としていない音楽CDについては、権利を持っていない者が表示をしたとしても、法的には、その音楽CDを輸入し、販売目的で所持することは、改正115条5項には抵触しませんし、表示ということをストレートに法案に書いた場合についても同様です。ただ、事実上、著作隣接権者等の真意を知らない輸入業者・販売店としては萎縮的に対処しなければならなくなるということです。
 「専ら国外で頒布することを目的」としている音楽CDについて権利を持っていない者が表示をした場合、法的には、その音楽CDを輸入し、販売目的で所持することは、改正115条5項に抵触することになります。表示ということをストレートに法案に書いた場合についても同様です(尤も、解釈の余地はあります。)。唯一の例外は、表示を付する者を権利者に限定するように法案に書き込んだ場合だけです。
 
 「専ら国外で頒布することを目的」としている音楽CDについて表示が剥がれた場合、それでもその他の資料等から国外頒布目的音楽CDであることがわかる場合には、改正115条5項が適用されることになります。これに対し、行為時に表示が付されていることを要件とした場合には、その他の資料等により国外頒布目的音楽CDであることがわかる場合であっても、改正115条5項は適用されないことになります。しかし、権利者が表示を付したこと(及び行為者がその事情を知っていること)を要件とした場合、積極的に表示を剥がしたり、大量に入荷した音楽CDの一部について輸入の際に表示が剥がれてしまったときなどについては改正115条5項が適用されることになります。
 
 いずれにせよ、法文は、それほど複雑にはなりません。
 
 表示ということをストレートに法案に書くことを文化庁が拒む理由は別のところにあると推察されます。
 
 「日本国内頒布禁止」という表示がなくとも後に知らされればそれ以降は頒布目的で所持することが違法となる(通知を受け取ったら直ちに当該CDを店頭から撤去してこれを廃棄しなければならない)ということにしておけば、輸入業者・販売業者の方で、米国盤CDの輸入・仕入れ等を広範に自粛することになるだろうということを狙ってのことでしょう。これなら、日本国民が、再生保証CDを入手する機会を失うこととなっても、「輸入・販売業者が勝手に自粛しているだけであって、欧米のレコード会社は全然悪くない」と欧米のレコード会社を擁護することができます。
 
 また、
 「改正案が取り上げているのは、小売価格の問題ではありません。著作権者、著作隣接権者のライセンス料の問題です。ですから、小売価格がいくらだったかということは問題ではありません。」
とのことですが、1枚12ドル程度の小売価格が設定されている米国国内盤の生産・販売によって著作権者、著作隣接権者の得られるライセンス料はいずれも、1枚2500円程度の定価が設定されている日本盤の生産・販売によって著作権者・著作隣接権者が得られるライセンス料と同等かそれ以上であるとのデータはあるのでしょうか。
 また、並行輸入を禁止できれば並行輸入品との競争のために邦楽CDよりは引き下げられている洋楽日本盤の価格が邦楽CDと同水準(1枚3000円程度)まで引き上げられる可能性が十分にあります。その場合になお、米国国内盤の生産・販売によって著作権者、著作隣接権者の得られるライセンス料はいずれも日本盤の生産・販売によって著作権者・著作隣接権者が得られるライセンス料と同等かそれ以上である状態を維持できるのでしょうか。
 
 また、「国会での大臣の答弁というのは非常に重いものです」、「実際に輸入が規制されるためには、輸入を規制している法律の要件に該当するかどうかが問題になります。その実務について大臣が国会で明確にすれば、法の運用はそれに従います」とのことですが、これも全くの誤りです。
 
 私はまさに法の運用に携わることを生業としているものですが、大臣答弁と全く異なる運用がなされている法律など枚挙にいとまがありません。例えば、プロバイダ責任制限法上の「特定電気通信」については大臣答弁である「1対1通信」説は、多くの裁判例において採用されていません。具体的な条文の文言解釈として無理があるからです。
 
 そもそも、法文上で特定の国を除外することが問題とされる場合に、運用面で特定の国を除外することが問題とならないというのは、不思議な発想です。法律の文言にかかわらず、大臣が答弁を行えば、恣意的に運用することが許されるのだという発想を政権政党である自由民主党の国会議員が公言しているということ自体、日本は法治国家ではない、近代国家ではないとして、日本の国際的評価を貶めることに繋がります。
 
 自由民主党にとって、音楽業界というのは、我が国の評価を貶めてまで守らなければならない存在なのでしょうか。
                                     草々

Posted by 小倉秀夫 at 12:17 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (3)

05/20/2004

河野議員へ

河野太郎衆議院議員へ下記のようなメールを出しました。


河野太郎先生へ

 前略 私は、著作権法に関するいくつもの訴訟事件等を担当する弁護士であるとともに、著作権法の注釈書の編集代表を務め、かつ、中央大学法学部において兼任講師として著作権法の法学演習を担当するものであります。先生が開設されているWebサイト中の、「ごまめの歯ぎしり メールマガジン版」という連載記事における2004年5月16日(日)分の記事、すなわち、「著作権法の改正」と題する記事を拝読いたしました。その結果、今回の著作権法改正案について先生に誤解があることがわかりましたので、不躾ながら、ご連絡させて頂く次第です。
 
  先生は上記記事の中で、
  
  今回の著作権法の改正は、こうしたことを防ぐための改正です。
一、日本国内で販売されているCDと同じモノが
二、先進国以外で製造販売されている場合(海賊版はどんなケースでもアウトですから除きます)
三、そして、発展途上国で生産されているCDに「日本での流通販売を禁止する」という表示がしてある場合、
この一、二、三を満たした商品を日本に輸入することをできなくするものです。

と述べられています。しかし、それは、今回内閣が提出した著作権法改正案の具体的な条項(新設予定の著作権法113条5項)の解説としては、正しくありません。

 まず、新設予定の著作権法113条5項は、先進国で製造販売されているCDと先進国以外で製造販売されているCDとを分けておりません。したがって、「先進国で製造販売されているCD」だからといって輸入禁止の対象外であるとすることはできません。
 また、価格面についても、中国本土を除くアジア諸国(今日、いわゆる邦楽CDの逆輸入版の発行元の多くは、香港又は台湾です。)における音楽CDの小売価格と米国における小売価格はだいたい同程度(アルバムCDで12ドル前後)であり、日本における音楽CDの小売価格の約半額程度であり、これが日本に並行輸入(「逆輸入」は並行輸入の一種です。)されると2000円前後の小売価格が設定されるというのが実情です。吉川著作権課長が読売新聞のインタビューで答えていた「価格差2割」という基準で言うと、洋楽CDの並行輸入品に関しては、そのほとんどがこの基準をクリアし、著作権者等の利益を損なうことになってしまうのが実情です。
 
 また、新設予定の著作権法113条5項は、CDに「日本での流通販売を禁止する」という表示がしてある場合に限定されません。外国で生産された特定の音楽CDについて、専ら日本国外で販売することを目的として生産されたものであるという事情を知った後に当該音楽CDを輸入しまたは販売目的で所持する行為を著作権侵害行為とみなすという規定です。どのような方法でそのような事情を知るに至ったかは全く問われません(参議院の文教委員会で共産党の小林議員が、国内販売禁止との表示がなされていることを輸入禁止の要件とすることを条文で明示した方がよいのではないかと質問したのに対し、文化庁次長はこれを拒絶したことからも、文化庁の意思は明らかです。)。
 したがって、新設予定の著作権法113条5項の施行日以降は、欧米のレコード会社から「私たちが米国国内で流通させている音楽CDは全て米国国内で頒布されることを目的として生産・出荷されたものです。従いまして、これら米国国内向けCD輸入し、日本国内で販売することは法律で禁止されています」との通知を受け取ったのちは、輸入盤の販売店としては、今後新たに米国国内盤を輸入できないのみならず、既に仕入れてしまっている米国国内盤につき即座に店頭から撤収し、廃棄等の措置を講じなければならないことになります。これに違反すると、日本のレコード会社がライセンス生産した音楽CDとの価格を賠償しなければならないのみならず、3年以下の懲役刑に処せられることになります。
 このように新設予定の著作権法113条5項では、仕入れのときに「日本国内での頒布が禁止されている」との事情を知らなくとも、そのような事情を知らされた後なおも頒布目的で米国盤を所持することを処罰する規定となっています(現行著作権法113条2項では「これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り」という文言を用いているのに、新設予定の著作権法113条5項ではそのような文言を用いていないことに注意して下さい。)。
 このため、仕入れを行った後に欧米のレコード会社から廃棄命令が出た場合の損失(「5メジャーは輸入権を行使するはずがない」などといっている著作権課の官僚や日本レコード協会の人間は一切補填してくれないでしょう。)を考慮したら、「日本国内頒布禁止」の表示がなくとも、合理的なレコード輸入業者や販売店は、洋楽CDの並行輸入品を仕入れることを差し控えざるを得ないということになります。かくして、日本の消費者は、洋楽CDの並行輸入品を入手する機会を失います。
 
 さらに、「日本国内で販売されているCDと同じモノ」云々という点も不正確です。
 欧米のレコード会社からライセンスを受けた日本のレコード会社により再生無保証ディスクにプレスされて出荷された実演については、国外で生産された正常なCDやアナログレコードは全て「日本国内で販売されているものと同じもの」として輸入禁止の対象となります。流通やエンドユーザーには全く別物として捉えられているこれらのものが法律上は同じものとして扱われるのです。
 
 以上に述べたところからも明らかなとおり、今回の著作権法改正案が原案通り可決・成立した場合、日本国内在住者は、通常のオーディオ機器での再生すら保証されていない欠陥商品を、世界一高い価格で購入する以外には選択肢が与えられないということになります。
 
 私は、河野先生がそのような世の中を望んでいるとは思いません。国会議員の方々が、具体的な法律案の条項を吟味し、シミュレートすることは滅多にないことを知っている官僚たちが、具体的な条文とはかけ離れた内容を国会議員の先生方に説明して、あたかも問題の少ない法改正であるかのように誤魔化しているだけなのだと思います。つきましては、先生には、今回の著作権法改正案について正しい理解をして頂いた上で、善良な洋楽愛好家を悲しませることになる法改正に与しないようにして頂ければ幸いです。
                            草々
 
 
 

Posted by 小倉秀夫 at 02:03 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (3)

05/11/2004

Winny作者の逮捕に関して

昨日は、ネット業界はWinnyの作者の逮捕の話で持ちきりでしたね。私も、数件のマスメディアから取材を受けました。

どの社に対しても、Winnyの頒布という価値中立的な行為が著作権侵害という犯罪行為を助長した場合に幇助罪に問われるべきかという問題は、「中立的行為による幇助」という少し昔からある論点をどう解釈し適用するかという問題であって、議論が分かれるところであると答えておきました。その上で、犯罪行為によって利用されるかもしれないけどそれでもかまわないという未必の行為がある場合に中立的な行為であっても幇助責任を認めた場合、犯罪行為に利用される可能性を除去しない限り新たな商品・サービスを提供することができなくなり、科学技術の発展は阻害されるおそれがあるとの話も、幾つかのメディアにはいたしました。

なお、「中立的行為による幇助」という論点に関しては、九州大学の松生光正教授が姫路獨協大学時代に論文を書いておられるので、ドイツでの議論の紹介を含め、日本語で読むことができます。

また、安達光治「客観的帰属論の展開とその課題 」の注42は、この問題に関する概略を説明するとともに、熊本地判平成元年3月15日判例時報1514号169頁を「日常取引(中性的態度)による幇助は処罰すべきではないというテーゼを正面から認めたと評価できる判例として注目に値する」としています。

Posted by 小倉秀夫 at 02:13 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (3) | TrackBack (6)

05/09/2004

恩を仇で返す

国会議員のほとんどが、邦楽CDの国内還流防止措置という考え方に賛同してしまっているので、そのためのシステムが洋楽CDの並行輸入防止措置とならないように修正案を提示するなどしているわけですが、本当のところは、邦楽CDの国内還流防止措置という考え方自体がおかしいことはいうまでもないことです。

この考え方は、結局のところ、

 中国等の人民は、平気で海賊版を製作し、購入する
          ↓
 中国等の人民に対しては低価格で真正品を提供する
 
 日本国民は、ほとんど海賊版を製作もしないし、購入もしない
          ↓
 日本国民に対しては安心して高価格で新製品を提供する

という、いわばレコード会社たちの「恩を仇で返す」ような所業を法律で保護してやろうという不道徳な考え方だからです。

 そして、このような所業が是認される場合、「違法コピーが広く行われると、結局善良な消費者が損害を被ることになる」ということが全く真実味を持たなくなります。むしろ、「誰かが違法コピーを広く行ってくれないと、結局善良な消費者が損害を被ることになる」ということになってしまいます。

 同じことは、音楽配信サービスについても言えます。
 米国においては違法な音楽配信が広く行われているため、これに対抗するため、レコード会社等は、安価で使い勝手のよい音楽配信サービス(例えば、iTune Music Store等)にて自社が権利を有する楽曲を配信することを許可する。他方、日本においては違法な音楽配信サービスはそれほど普及していないため、レコード会社はこれに対抗する必要性を強く感ずることがなく、そのため、安価で使い勝手のよい音楽配信サービスにて自社が権利を有する楽曲を配信することを許可せず、レコード会社らが自ら出資した会社に高くて使い勝手の悪い音楽配信サービス(例えば、レーベルゲートやMora等)を提供するにとどめる。
 これでは、日本の消費者は、P2Pファイル交換ソフトなどを活用して大量に音楽ファイルの交換を行ったりしなかったことによって、却って自分たちの首を絞めたということができてしまいます。
 
 でも、それって、音楽業界にとって、全然望ましくないことなのではないでしょうか?

Posted by 小倉秀夫 at 02:17 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (4)

It Ain't You, Babe.

 社団法人日本レコード協会、ユニバーサル ミュージック株式会社、東芝EMI株式会社、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント、株式会社ワーナーミュージック・ジャパン、株式会社BMGファンハウス
、日本レコード商業組合は、平成16年5月7日付で、「日本の洋楽ファンの皆様へ」と題する声明を、日本レコード協会のウェブサイト以上で公開しています。そこでは、

私たちは、欧米諸国で製作され、日本に輸入された音楽レコードを楽しんでいただいている日本の音楽愛好家の方達に何ら不利益、不自由を与えることなく、今後ともこのような状況を維持し、さらに多くの洋楽レコードを提供してまいりますので、ご安心いただきますようお願い申し上げます

との記載があります。

 しかし、文化庁が「欧米諸国で製作され、日本に輸入された音楽レコードを楽しんでいただいている日本の音楽愛好家の方達」に「不利益、不自由を与える」権限を与えようとしているのは、欧米諸国のレコード会社であり、実演家であり、作詞家、作曲家たちであって、日本のレコード会社たちや、日本のレコード会社たちの業界団体である日本レコード協会、そして中小のレコード販売店の業界団体である日本レコード商業組合は、いずれにせよ「欧米諸国で製作され、日本に輸入された音楽レコードを楽しんでいただいている日本の音楽愛好家の方達に何ら不利益、不自由を与える」権限はないわけですから、そりゃ、「何ら不利益、不自由を与えること」はないわけです。そりゃもう、魚屋さんや八百屋さんが「私たちは、欧米諸国で製作され、日本に輸入された音楽レコードを楽しんでいただいている日本の音楽愛好家の方達に何ら不利益、不自由を与えること」はしませんからご安心下さいというのと同じように、全く無意味な宣言です。
 
 また、「私たちは、……今後ともこのような状況を維持し、さらに多くの洋楽レコードを提供してまいりますので、ご安心いただきますようお願い申し上げます」と宣言されても、今問題となっているのは、文化庁が企む今回の著作権法改正によって、日本レコード協会傘下のレコード会社が国内でライセンス生産した音楽CDや、日本レコード協会傘下のレコード会社が輸入し、日本レコード商業組合傘下のレコード店等に卸した音楽CDとは別ルートで行う洋楽CDの輸入・販売が禁止されるのではないかということなのですから、日本レコード協会傘下のレコード会社が国内でライセンス生産した音楽CDや、日本レコード協会傘下のレコード会社が輸入ないし国内生産した洋楽レコードを日本レコード商業組合傘下のレコード店がさらに提供していきますといわれても、全然安心などできないわけです。ブランド品の輸入代理店が「これからも海外生産品をどんどん輸入して国内で販売しますから、並行輸入を禁止する法律が成立することになったとしても、安心して下さい」というのと同じくらい意味がないわけです。
 
 消費者を安心させたければ、少なくとも洋楽CDの並行輸入を阻止するために欧米のレコード会社が活用することができないような条項に修正するように、日本レコード協会や日本レコード商業組合も洋楽ファンと一緒になって文化庁や衆議院議員の諸先生方に働きかけることをまずすべきです。
 もしくは、輸入禁止権を行使できることになる欧米のレコード会社等に対して、「日本の音楽ファンに対して直接『著作権法改正案が可決施行されても、我が社が権利を保有している音楽CDについては、何人も自由に並行輸入してくれて構わない』との声明を出してもらえないか」と働きかけるべきでしょう。
 
 今回の声明からは、むしろ、日本レコード協会傘下のレコード会社が国内でライセンス生産し又は欧米から「直輸入」した音楽CD以外の洋楽CDは全て国外頒布目的商業用レコードであるということを、知られた輸入業者及びレコード販売店に通知することによって、「日本レコード協会傘下のレコード会社を経由せずに国内に輸入される洋楽CD」(いわゆる「並行輸入」品)を禁止してしまおうという気なのではないかという疑念すら生まれてきます。

Posted by 小倉秀夫 at 01:29 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1)

05/04/2004

知的財産推進計画の見直しに関する意見募集

「知的財産推進計画の見直しに関する意見」が募集されていたので、仮案を作成してみました。

一 全体について
  既に一定の商業的価値を有している知的財産の保護と将来的な知的財産の創造の促進とは、しばしば相矛盾し衝突する。日本が今後知的財産立国として栄えることを目指す場合、既に一定の商業的価値を有している知的財産の保護については、将来的な知的財産の創造の促進の妨げとなるものについては、せいぜい諸外国と同程度かできればそれ以下に抑えることこそが賢明である。現在の政治的な「声の大きさ」に目を奪われて既に一定の商業的価値を有している知的財産の保護を過度に強化することは、将来的な知的財産の創造の促進の妨げになり、未来に禍根を残すことになる。戦略本部において「知的創造サイクル」との言葉が語られるとき、資本的な側面のみがクローズアップされるが、若い世代が「クリエイター」としての技量を獲得しなければ、如何に資本的な側面を保護しようとも、知的創造は促進されないのである。

二 クリエーターの育成
1 日本国民、特に若い世代が将来優れたクリエーターになる為には、よい作品にたくさん触れることが必要である。従って、図書館、レンタル業者、中古品販売店等、国民が無料であるいは安価に作品に触れる機会を提供する事業者等を積極的に保護することが知的財産の創造基盤の整備には不可欠である。なお、これらの事業者を撲滅して国民が1つの作品に触れるために支払わなければならないコストを上昇させても、国民が芸術・娯楽作品に触れるために費やすことができる金額の総額が大幅に増えることが期待できない以上、現在のクリエーターの収入を大幅に増大させることには繋がらない。国民が触れることができる作品の数を大幅に減少させるだけである。
2 優れたクリエーターになるためには、既存の作品から多くを学ばなければならない。既存の作品を模倣したり、自分なりにアレンジしたりして、自分なりの作風を確立する──ほとんどのクリエーターにとってそのような時期が不可欠である。ところが、現行法では、私的使用目的の改変であっても同一性保持権侵害にあたるという見解が根強い。したがって、私的使用目的の改変は同一性保持権侵害に当たらないことを著作権法上に明記することが、優れたクリエーターの育成のためには不可欠である。
 また、同様の理由で、国や地方自治体が所蔵している絵画等の芸術作品を若きクリエーターが模写、模倣する機会を設けるべきである(クリエーターの育成に熱心なフランス等では既に当たり前になっていることである。)。
3 優れたクリエーターといえども、全くの「無」から優れた作品を作り出すことは困難である。多かれ少なかれ、意識的であれ無意識的であれ、過去に他人が創作したものを取り入れつつ作品を作り上げているのが実情である。もし、新たな作品を創作するにあたって、過去に他人が創作したものを一切取り入れてはならないとしたら、ほとんどのクリエーターは新たな作品をほとんど創作することができなくなることだろう。この傾向は、著作権の保護期間が長くなり、かつ、インターネットの発展により誰もが膨大な数の著作物にアクセスする可能性を有するに至った現代において特に顕著である。
  このような弊害を除去し、優れたクリエーターが新たな作品を安心して創作できるようにするためには、過去に他人が創作したものを取り入れつつ新たな作品を作り上げる行為は原則として著作権(翻案権)侵害にはあたらないこととし、取り入れられた過去の作品の著作権者にはせいぜい報酬請求権を付与するという方向で法改正を行うべきである。特に「パロディ」や「オマージュ」表現の自由化は、サブカルチャー部門の発展のためには必要不可欠である。
4 日本では、エンターテインメント企業は膨大な作品を著作権・著作隣接権によって囲い込むことには熱心だが、それを活用し続けることには熱心ではない。今日多くの作品がエンターテインメント企業のために死蔵されてしまっている。知的財産は、クリエイティブな人々の目に触れるなどして享受されることにより、新たな知的財産を生み出すことに繋がっていくことを考慮すれば、この「死蔵」問題を克服することは、将来的な知的財産の創造の促進する上で重要な問題である。
  この問題を克服するためには、権利者又は権利者から許諾を受けた者により発行されなくなったときは、自由に複製、公衆送信(送信可能化)できるように法改正すべきである。
5 「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」においても、人材育成のための施策はいくつか提示されている。しかし、それらは、大衆音楽、映画、漫画、アニメ等のサブカルチャー分野の人材の育成方法としてはいずれも的はずれなものである。    

三 環境の整備
1 日本では、ミュージシャンはライブ活動では生活できないとの声を聞く。そうだとすると、ミュージシャンは定期的に新作を発表し、音楽CD等を製作しなければならなくなる。新作のCD等がヒットしなければ、旧作が好きだというファンが幾らいても、廃業に追い込まれることになる。レコード会社等としては次々と新しいミュージシャンを開拓しては古いミュージシャンを切り捨てればいいだけの話であるからさしたる問題とはならないが、ミュージシャンとしては死活問題である。
  このような問題を克服するためには、日本においても、ライブ活動でアーティストの生活費等を稼ぎ出せるようにすることが必要である。しかし、そのために壁として立ちはだかっているのは、日本国内における会場使用料の高さである。だとすれば、国や地方公共団体が運営している質の高い音楽ホール等を、大衆音楽等におけるライブ活動にも活用させるとともに、その使用料を、他の先進諸国における会場使用料と同程度か又はそれ以下に抑えることが有益である。
  
四 国民の知的財産意識を向上させる
1 国民の知的財産意識を向上させるためには、知的財産権諸法によって規制される範囲を国民の常識に合致させることが肝要である。エンターテインメント業界の声にのみ耳を傾け消費者の意向を無視して新たな知的財産権を創設した場合、これを守らなければならないという意識が国民に根付かないのは当然である。「中古品の販売は犯罪である」「正規品の並行輸入は犯罪である」「図書館がベストセラーを貸すのは問題だ」などという常識とかけ離れたことを幾ら教育により植え付けようとしても、それが根付かないのは当然なのである。
2 国民が日常的に行っている行為でも厳密にいえば著作権侵害とされている場合が少なくない。このようなことを国民が知れば、国民は知的財産権諸法など守ろうという意識が薄れていくのは当然である。そのような事態を回避するためには、「フェアユース」規定を創設し、国民の知的財産権意識に法律を近づけることが肝要である。

Posted by 小倉秀夫 at 02:12 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

05/02/2004

国民の声

レコード輸入権の創設と書籍・雑誌への貸与権の付与については、私が知る限りにおいては、世論調査は行われていませんね。マスメディアの中で、次のような質問項目で世論調査を行ってくれるところはないでしょうか。

問1 あなたは並行輸入についてどう思いますか。
 a) およそ全ての工業製品について並行輸入を禁止すべき
 b) 音楽CDについては全面的に並行輸入を禁止すべき
 c) 邦楽のアジアでのライセンス生産品の並行輸入に限定して禁止すべき
 d) 一切並行輸入は禁止すべきではない

問2 あなたは工業製品を貸し借りするということについてどう思いますか。
 a) 貸与というのはその製品の製作に関与した人に利益を還元しないから、全ての工業製品について、使用したければお金を出して購入すべきであって、業者や公共機関から借りてすますというのは間違っている。
 b) 作家や漫画家というのは、発明家やデザイナーや工場労働者とは違って尊い存在であるから、書籍や雑誌については、読みたければお金を出して購入すべきであって、図書館や貸本業者から借りてすますというのは間違っている。
 c) 書籍・雑誌を含めた工業製品一般について、一時的にしか使用しないものを借りて済ますことが間違っているとは思わない。

Posted by 小倉秀夫 at 03:20 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2) | TrackBack (0)