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05/04/2004

知的財産推進計画の見直しに関する意見募集

「知的財産推進計画の見直しに関する意見」が募集されていたので、仮案を作成してみました。

一 全体について
  既に一定の商業的価値を有している知的財産の保護と将来的な知的財産の創造の促進とは、しばしば相矛盾し衝突する。日本が今後知的財産立国として栄えることを目指す場合、既に一定の商業的価値を有している知的財産の保護については、将来的な知的財産の創造の促進の妨げとなるものについては、せいぜい諸外国と同程度かできればそれ以下に抑えることこそが賢明である。現在の政治的な「声の大きさ」に目を奪われて既に一定の商業的価値を有している知的財産の保護を過度に強化することは、将来的な知的財産の創造の促進の妨げになり、未来に禍根を残すことになる。戦略本部において「知的創造サイクル」との言葉が語られるとき、資本的な側面のみがクローズアップされるが、若い世代が「クリエイター」としての技量を獲得しなければ、如何に資本的な側面を保護しようとも、知的創造は促進されないのである。

二 クリエーターの育成
1 日本国民、特に若い世代が将来優れたクリエーターになる為には、よい作品にたくさん触れることが必要である。従って、図書館、レンタル業者、中古品販売店等、国民が無料であるいは安価に作品に触れる機会を提供する事業者等を積極的に保護することが知的財産の創造基盤の整備には不可欠である。なお、これらの事業者を撲滅して国民が1つの作品に触れるために支払わなければならないコストを上昇させても、国民が芸術・娯楽作品に触れるために費やすことができる金額の総額が大幅に増えることが期待できない以上、現在のクリエーターの収入を大幅に増大させることには繋がらない。国民が触れることができる作品の数を大幅に減少させるだけである。
2 優れたクリエーターになるためには、既存の作品から多くを学ばなければならない。既存の作品を模倣したり、自分なりにアレンジしたりして、自分なりの作風を確立する──ほとんどのクリエーターにとってそのような時期が不可欠である。ところが、現行法では、私的使用目的の改変であっても同一性保持権侵害にあたるという見解が根強い。したがって、私的使用目的の改変は同一性保持権侵害に当たらないことを著作権法上に明記することが、優れたクリエーターの育成のためには不可欠である。
 また、同様の理由で、国や地方自治体が所蔵している絵画等の芸術作品を若きクリエーターが模写、模倣する機会を設けるべきである(クリエーターの育成に熱心なフランス等では既に当たり前になっていることである。)。
3 優れたクリエーターといえども、全くの「無」から優れた作品を作り出すことは困難である。多かれ少なかれ、意識的であれ無意識的であれ、過去に他人が創作したものを取り入れつつ作品を作り上げているのが実情である。もし、新たな作品を創作するにあたって、過去に他人が創作したものを一切取り入れてはならないとしたら、ほとんどのクリエーターは新たな作品をほとんど創作することができなくなることだろう。この傾向は、著作権の保護期間が長くなり、かつ、インターネットの発展により誰もが膨大な数の著作物にアクセスする可能性を有するに至った現代において特に顕著である。
  このような弊害を除去し、優れたクリエーターが新たな作品を安心して創作できるようにするためには、過去に他人が創作したものを取り入れつつ新たな作品を作り上げる行為は原則として著作権(翻案権)侵害にはあたらないこととし、取り入れられた過去の作品の著作権者にはせいぜい報酬請求権を付与するという方向で法改正を行うべきである。特に「パロディ」や「オマージュ」表現の自由化は、サブカルチャー部門の発展のためには必要不可欠である。
4 日本では、エンターテインメント企業は膨大な作品を著作権・著作隣接権によって囲い込むことには熱心だが、それを活用し続けることには熱心ではない。今日多くの作品がエンターテインメント企業のために死蔵されてしまっている。知的財産は、クリエイティブな人々の目に触れるなどして享受されることにより、新たな知的財産を生み出すことに繋がっていくことを考慮すれば、この「死蔵」問題を克服することは、将来的な知的財産の創造の促進する上で重要な問題である。
  この問題を克服するためには、権利者又は権利者から許諾を受けた者により発行されなくなったときは、自由に複製、公衆送信(送信可能化)できるように法改正すべきである。
5 「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」においても、人材育成のための施策はいくつか提示されている。しかし、それらは、大衆音楽、映画、漫画、アニメ等のサブカルチャー分野の人材の育成方法としてはいずれも的はずれなものである。    

三 環境の整備
1 日本では、ミュージシャンはライブ活動では生活できないとの声を聞く。そうだとすると、ミュージシャンは定期的に新作を発表し、音楽CD等を製作しなければならなくなる。新作のCD等がヒットしなければ、旧作が好きだというファンが幾らいても、廃業に追い込まれることになる。レコード会社等としては次々と新しいミュージシャンを開拓しては古いミュージシャンを切り捨てればいいだけの話であるからさしたる問題とはならないが、ミュージシャンとしては死活問題である。
  このような問題を克服するためには、日本においても、ライブ活動でアーティストの生活費等を稼ぎ出せるようにすることが必要である。しかし、そのために壁として立ちはだかっているのは、日本国内における会場使用料の高さである。だとすれば、国や地方公共団体が運営している質の高い音楽ホール等を、大衆音楽等におけるライブ活動にも活用させるとともに、その使用料を、他の先進諸国における会場使用料と同程度か又はそれ以下に抑えることが有益である。
  
四 国民の知的財産意識を向上させる
1 国民の知的財産意識を向上させるためには、知的財産権諸法によって規制される範囲を国民の常識に合致させることが肝要である。エンターテインメント業界の声にのみ耳を傾け消費者の意向を無視して新たな知的財産権を創設した場合、これを守らなければならないという意識が国民に根付かないのは当然である。「中古品の販売は犯罪である」「正規品の並行輸入は犯罪である」「図書館がベストセラーを貸すのは問題だ」などという常識とかけ離れたことを幾ら教育により植え付けようとしても、それが根付かないのは当然なのである。
2 国民が日常的に行っている行為でも厳密にいえば著作権侵害とされている場合が少なくない。このようなことを国民が知れば、国民は知的財産権諸法など守ろうという意識が薄れていくのは当然である。そのような事態を回避するためには、「フェアユース」規定を創設し、国民の知的財産権意識に法律を近づけることが肝要である。

Posted by 小倉秀夫 at 02:12 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Commentaires

私は「知的財産立国」という言葉が知的財産権強化と同義であるように感じておりましたが、先生のようなバランスの取れた専門家のご意見に接して、非常に心強く思います。私は専門家でないので、アメリカと日本において「フェアユース」の概念が本質的にどこが違うのかという点が、よく分かっておりません。アメリカで認められていて日本で認められていない著作物・知的財産の利用はどのようなものか、ぜひご教示いただければ幸いです。とくに一定のメカニズムを持つ知的財産についてリバースエンジニアリングが認められるのかどうかについて関心があります。

私は、知的生産というものが、ほとんど例外なく(学術、芸術、その他の分野を問わず)以前になされた知的生産に依拠していると感じております。そのような中で将来の知的生産が永続的に効率よく行われるような権利関係を、社会にインプリメントすることが真に「知的財産立国」を構築できる政策だと確信しています。

Rédigé par: netwind | le 05/22/2004 à 11:48

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