河野議員へ
河野太郎衆議院議員へ下記のようなメールを出しました。
河野太郎先生へ
前略 私は、著作権法に関するいくつもの訴訟事件等を担当する弁護士であるとともに、著作権法の注釈書の編集代表を務め、かつ、中央大学法学部において兼任講師として著作権法の法学演習を担当するものであります。先生が開設されているWebサイト中の、「ごまめの歯ぎしり メールマガジン版」という連載記事における2004年5月16日(日)分の記事、すなわち、「著作権法の改正」と題する記事を拝読いたしました。その結果、今回の著作権法改正案について先生に誤解があることがわかりましたので、不躾ながら、ご連絡させて頂く次第です。
先生は上記記事の中で、
今回の著作権法の改正は、こうしたことを防ぐための改正です。
一、日本国内で販売されているCDと同じモノが
二、先進国以外で製造販売されている場合(海賊版はどんなケースでもアウトですから除きます)
三、そして、発展途上国で生産されているCDに「日本での流通販売を禁止する」という表示がしてある場合、
この一、二、三を満たした商品を日本に輸入することをできなくするものです。
と述べられています。しかし、それは、今回内閣が提出した著作権法改正案の具体的な条項(新設予定の著作権法113条5項)の解説としては、正しくありません。
まず、新設予定の著作権法113条5項は、先進国で製造販売されているCDと先進国以外で製造販売されているCDとを分けておりません。したがって、「先進国で製造販売されているCD」だからといって輸入禁止の対象外であるとすることはできません。
また、価格面についても、中国本土を除くアジア諸国(今日、いわゆる邦楽CDの逆輸入版の発行元の多くは、香港又は台湾です。)における音楽CDの小売価格と米国における小売価格はだいたい同程度(アルバムCDで12ドル前後)であり、日本における音楽CDの小売価格の約半額程度であり、これが日本に並行輸入(「逆輸入」は並行輸入の一種です。)されると2000円前後の小売価格が設定されるというのが実情です。吉川著作権課長が読売新聞のインタビューで答えていた「価格差2割」という基準で言うと、洋楽CDの並行輸入品に関しては、そのほとんどがこの基準をクリアし、著作権者等の利益を損なうことになってしまうのが実情です。
また、新設予定の著作権法113条5項は、CDに「日本での流通販売を禁止する」という表示がしてある場合に限定されません。外国で生産された特定の音楽CDについて、専ら日本国外で販売することを目的として生産されたものであるという事情を知った後に当該音楽CDを輸入しまたは販売目的で所持する行為を著作権侵害行為とみなすという規定です。どのような方法でそのような事情を知るに至ったかは全く問われません(参議院の文教委員会で共産党の小林議員が、国内販売禁止との表示がなされていることを輸入禁止の要件とすることを条文で明示した方がよいのではないかと質問したのに対し、文化庁次長はこれを拒絶したことからも、文化庁の意思は明らかです。)。
したがって、新設予定の著作権法113条5項の施行日以降は、欧米のレコード会社から「私たちが米国国内で流通させている音楽CDは全て米国国内で頒布されることを目的として生産・出荷されたものです。従いまして、これら米国国内向けCD輸入し、日本国内で販売することは法律で禁止されています」との通知を受け取ったのちは、輸入盤の販売店としては、今後新たに米国国内盤を輸入できないのみならず、既に仕入れてしまっている米国国内盤につき即座に店頭から撤収し、廃棄等の措置を講じなければならないことになります。これに違反すると、日本のレコード会社がライセンス生産した音楽CDとの価格を賠償しなければならないのみならず、3年以下の懲役刑に処せられることになります。
このように新設予定の著作権法113条5項では、仕入れのときに「日本国内での頒布が禁止されている」との事情を知らなくとも、そのような事情を知らされた後なおも頒布目的で米国盤を所持することを処罰する規定となっています(現行著作権法113条2項では「これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り」という文言を用いているのに、新設予定の著作権法113条5項ではそのような文言を用いていないことに注意して下さい。)。
このため、仕入れを行った後に欧米のレコード会社から廃棄命令が出た場合の損失(「5メジャーは輸入権を行使するはずがない」などといっている著作権課の官僚や日本レコード協会の人間は一切補填してくれないでしょう。)を考慮したら、「日本国内頒布禁止」の表示がなくとも、合理的なレコード輸入業者や販売店は、洋楽CDの並行輸入品を仕入れることを差し控えざるを得ないということになります。かくして、日本の消費者は、洋楽CDの並行輸入品を入手する機会を失います。
さらに、「日本国内で販売されているCDと同じモノ」云々という点も不正確です。
欧米のレコード会社からライセンスを受けた日本のレコード会社により再生無保証ディスクにプレスされて出荷された実演については、国外で生産された正常なCDやアナログレコードは全て「日本国内で販売されているものと同じもの」として輸入禁止の対象となります。流通やエンドユーザーには全く別物として捉えられているこれらのものが法律上は同じものとして扱われるのです。
以上に述べたところからも明らかなとおり、今回の著作権法改正案が原案通り可決・成立した場合、日本国内在住者は、通常のオーディオ機器での再生すら保証されていない欠陥商品を、世界一高い価格で購入する以外には選択肢が与えられないということになります。
私は、河野先生がそのような世の中を望んでいるとは思いません。国会議員の方々が、具体的な法律案の条項を吟味し、シミュレートすることは滅多にないことを知っている官僚たちが、具体的な条文とはかけ離れた内容を国会議員の先生方に説明して、あたかも問題の少ない法改正であるかのように誤魔化しているだけなのだと思います。つきましては、先生には、今回の著作権法改正案について正しい理解をして頂いた上で、善良な洋楽愛好家を悲しませることになる法改正に与しないようにして頂ければ幸いです。
草々
Posted by 小倉秀夫 at 02:03 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
TrackBack
Voici les sites qui parlent de: 河野議員へ:
» 5月20日のレコード輸入規制問題 de OTO-NETA
輸入CD規制に広がる不安 著作権法改正案(asahi)←音楽配信メモ 河野議員へ(benli)←音楽配信メモ 小倉弁護士が、先日の河野議員のメルマガの内容を見... Lire la suite
Notifié: 21 mai 2004, 00:27:51
» 「輸入権」問題:衆院審議“前夜”の攻防戦 de 試される。
書き物があって少なからぬ時間を割いていたので、 久しぶりのエントリーとなる。 (しかも、これを書いている最中、 そしてその後にも更なる展開があった。 それ... Lire la suite
Notifié: 25 mai 2004, 18:55:45
» 河野太郎氏への質問 de MAL Antenna
河野太郎議員のホームページにて、ごまめの歯ぎしり メールマガジン5月25日版にて Lire la suite
Notifié: 26 mai 2004, 23:08:35
L'utilisation des commentaires est désactivée pour cette note.
Commentaires