コンピュータによる私的複製
「社団法人日本映像ソフト協会」なる公益法人の「著作権部会幹事会」なるところが、「DVDコピーソフトに関する法律的検討について」なる意見書を平成16年7月28日付で公表したようです。この「著作権部会幹事会」なるものに弁護士を初めとする法律専門家がいるかどうかは分からないのですが、いたとしたら非常に恥ずかしいものといわざるを得ないでしょう。
例えば、
著作権法30 条は、ベルヌ条約9条2項、TRIPS 協定13 条及びWIPO 著作権条約10 条2項に適合的に解釈されるべきところ、ビデオソフトを著作権者の意思に反してコピーするツールを提供することは、著作権者の利益を不当に害する結果を引き起こすから、複製権の侵害であると解すべきである。
等という記載があります。しかし、この「合条約的限定解釈」論は、スターデジオ事件地裁判決(東京地判平成12年5月16日判タ1057号221頁)ではっきりと否定されているわけです。具体的には、
まず、ベルヌ条約九条(2)の規定と著作権法三〇条一項との関係をみると、同法三〇条一項は、同条約九条(2)本文が特別の場合に著作者等の複製権を制限することを同盟国の立法に留保していることを受け、右複製権の制限が認められる一態様を規定したものということができるから、同条約九条(2)との関係においては、同法三〇条一項が同条約九条(2)ただし書の条件を満たすものであることが必要である。しかしながら、具体的にどのような態様が右条件を満たすものといえるかについては、同条約がこれを明示するものではないから、結局のところ、各同盟国の立法に委ねられた問題であるといわざるを得ない。そして、右のような同条約九条(2)を具体化するものとして規定されている同法三〇条一項は、それが同条約九条(2)ただし書の条件に沿うものであるとの前提の下で、前記(一)のような要件の下における複製を複製権に対する制限として認めることを規定しているというべきである。したがって、著作権法によって認められる私的使用のための複製であるか否かを論じるに当たっては、同法三〇条一項の規定に当たるか否かを問題とすれば足りるものであって、同条項の背景となるベルヌ条約の規定を持ち出して、その規定に当たるか否かを直接問題とするまでもないというべきである。したがって、原告らの前記主張は、その立論の前提において誤りがあるといわざるを得ない。
と判示されているのです。それなのに、スターデジオ事件地裁判決に触れてすらいない。はっきり言って無茶苦茶です。そもそもベルヌ条約もWIPO著作権条約も自動執行条約ではないわけですし、コンテンツホルダーの利益を擁護するためであれば罪刑法定主義や(準)物権法定主義などの近代市民法原理の中核的概念をないがしろにしても構わないということは常識的には考えられないわけです。
また、この意見書には、
私的複製が無制限に認められるかは、著作権審議会第10 小委員会においてすでに決着済みの問題である。すなわち、何らの代償措置のない私的複製はベルヌ条約9条2項但書に反するが、制度の円滑な導入のためにデジタル複製についてのみ代償措置を設けるということである。そして、著作権法施行令1条2項は「主として録画の用に供するもの」を代償措置の対象機器とし、コンピュータを対象から除外している。 したがって、コンピュータによるデジタル方式の私的複製は適法とはいえない。
なる記載があります。しかし、著作権審議会第10小委員会には、そのような問題を決着させる権限はそもそもありません。更にいうならば、平成3年12月付けで公表された「著作権審議会第10小委員会(私的録音・録画関係)報告書」をどう読んだら、「何らの代償措置のない私的複製はベルヌ条約9条2項但書に反するが、制度の円滑な導入のためにデジタル複製についてのみ代償措置を設けるということである」ということが著作権審議会第10 小委員会においてすでに決着済みとなったと結論付けられるのか不思議でなりません。同報告書は、
その後の実態の推移によって、現在では、私的録音・録画は著作物等の有力な利用形態として、広範に、かつ、大量に行われており、さらに、今後のデジタル技術の発達普及によって質的にも市販のCDやビデオと同等の高品質の複製物が作成されうる状況となりつつある。これらの実態を踏まえれば、私的録音・録画は、総体として、その量的な側面からも、質的な側面からも、立法当時予定していたような実態を超えて著作者等の利益を害している状態に至っているということができ、さらに今後のデジタル化の進展によっては、著作物等の「通常の利用」にも影響を与えうるような状況も予想されうるところである。
としているのであって、少なくとも平成3年の時点では未だ「著作物等の『通常の利用』にも影響を与えうるような状況」に至っているとは考えられていません。その上で、同報告書は、
私的録音・録画は、従来どおり権利者の許諾を得ることなく、自由(すなわち現行第30条の規定は維持)としつつも、私的録音・録画を自由とする代償、つまり一種の補償措置として報酬請求権制度を導入する
と結論付けています。そして、
私的録音・録画行為は、権利制限の範囲から除外し、複製権、すなわち、許諾権が及びうる状態に戻すこととし(すなわち現行第30条の規定の適用範囲から私的録音・録画を除外)、個別の権利処理が必要な状態とするものの、従来どおり私的録音・録画は自由であるという状態を確保するため、一種の法定許諾制度(権利者の個別の許諾を得なくとも、法律上著作物等の利用ができることとし、一定の対価の支払を義務付ける制度)として報酬請求権制度を位置付けるという考え方
は大勢を占めるに至らなかったとはっきり報告されています。すなわち、代償措置の伴わない私的複製を─それがデジタル技術を用いたものであろうとなかろうと───適法な複製としないという結論を第10小委員会は下していないということがいえます。したがって、コンピュータによるデジタル方式の複製は著作権法30条1項により正当化されることはないという見解は明らかに間違っているといえます。
公益社団法人がこういう間違った見解をさも自明の理のように述べるというのはいかがなものなのでしょうか。
Posted by 小倉秀夫 at 01:12 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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Commentaires
ありがとうございます、キャッシュで読みましたが・・・。
結局のところ新しく出来た機械に権利を主張するという、ず~と同じ問題ですね。
言葉を変えると私的複製は全く認めないと。
理由はどうあれ、そんなのは続かないと思いますが、それにしても音楽流通で全く遅れを取るというのをどう考えているんでしょ>音楽業界。
Rédigé par: 酔うぞ | 2 août 2004, 19:54:33
googleのキャッシュを使うとまだ読めるようです。
http://www.google.co.jp/search?q=cache:IFQQyDOPEK4J:www.jva-net.or.jp/jva/newsrelease/040728-2.pdf+%EF%BC%A4%EF%BC%B6%EF%BC%A4%E3%82%B3%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B%E7%9A%84%E6%A4%9C%E8%A8%8E&hl=ja&ie=UTF-8&inlang=ja">http://www.google.co.jp/search?q=cache:IFQQyDOPEK4J:www.jva-net.or.jp/jva/newsrelease/040728-2.pdf+%EF%BC%A4%EF%BC%B6%EF%BC%A4%E3%82%B3%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B%E7%9A%84%E6%A4%9C%E8%A8%8E&hl=ja&ie=UTF-8&inlang=ja
Rédigé par: 小倉秀夫 | 2 août 2004, 10:17:03
社団法人日本映像ソフト協会のサイトは今アクセス出来ません。
どういう結論になっているのでしょうか?
私的複製が出来ないように、複製できる機械の禁止とかでしょうか?
なんか「偽札を作れるからコピー機を禁止する」というようなことになりそうですが・・・・。
Rédigé par: 酔うぞ | 2 août 2004, 08:42:10