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08/05/2004

社団法人日本映像ソフト協会への回答

前回のblog記事に対し、社団法人日本映像ソフト協会の管理部管理課課長 酒井信義氏から質問状が電子メールで寄せられましたので、下記のとおり回答いたしました。


社団法人日本映像ソフト協会
管理部管理課課長 酒井信義様

 私のblogを御覧いただきありがとうございます。電子メールで幾つかご指摘、ご質問をいただきましたので、簡単にではありますが、下記のとおりご回答いたします。

 CSSはコピーコントロールと見るべきではないかとの点ですが、現行法を前提とする限り、意味がない議論です。
 現行著作権法は、保護の対象である「技術的保護手段」(俗に言う「コピーコントロール」)を、「『電磁的方法』により、『著作権等』を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。)をする手段であつて、『著作物等』の利用に際しこれに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、又は送信する方式によるもの」と定義しています(2条1項20号)。他方、現行不正競争防止法は、保護の対象である「技術的制限手段」(俗に言う「アクセスコントロール」)を、「『電磁的方法』により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、『視聴等機器』が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるもの」と定義しています(2条5項)。すなわち、「視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式」は、不正競争防止法上の保護の対象である「技術的制限手段」となることはあっても、著作権法上の保護の対象である「技術的保護手段」となることはあり得ません。
 ご存じのとおり、CSS(Content Scrambling System)は、視聴等に用いられる機器が特定の反応をする信号を影像等とともに記録媒体に記録または送信するものではなく、視聴等に用いられる機器が特定の変換を必要とするよう影像等を変換して記録媒体に記録するものです。したがって、CSSは、技術的制限手段となることはあっても、技術的保護手段となることはありません。
 したがって、現行法の解釈としては、CSSを回避して行う私的複製について、著作権法30条1項2号を適用してこれを違法とする見解は明らかに誤っているといえます。
 
 リッピングソフト等の問題についていえば、それが技術的保護手段(繰り返しますが、CSSは含みません。)の回避(技術的保護手段に用いられている信号を除去又は改変することをいいます。)を行うことを専らその機能とするものであるならば、これを収録した雑誌等を販売することは刑事罰の対象となります。また、営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像の視聴を、当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有するものであるならば、プログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体を譲渡することは刑事罰の対象となります。どちらも「専ら」要件がついているので、当該ソフトの機能を見ないと何ともいえないということになります(ただし、DVDソフトの製造者は、ユーザーによるDVDソフトの視聴を制限するためにCSSを用いているわけではないのではないかとも思うのですが。)。
 
 最後に、私的録画制度の制度設計についての私の意見をお聞きになりたいとのことですので、簡単に述べます。
 
 近時、ユーザーによる利用を法的にまたは技術的に制約したいという要求がコンテンツホルダーの間に熱病のように広がっています。しかし、ユーザーによる利用を制約すること自体はコンテンツホルダーに必ずしも経済的利益をもたらすものではありません。このことは、CCCDを強引に導入したり、欧米と同条件での音楽配信サービスを排除したが一向に音楽CDの売上げ増大を実現できていない音楽産業の体たらくを見れば明らかです。ユーザーは、自由な利用を妨害されたときに、不自由な利用に甘んずるという選択肢の他に、利用しないという選択が可能である以上、ユーザーの許容範囲を超えた制約をコンテンツホルダーがユーザーに課した場合、ユーザーは、利用しないという選択を往々にしてとるからです。
 
 現在のところ、商用コンテンツの私的録画の大部分は、「テレビで放映された作品を、家庭用ビデオデッキで録画する」という態様で行われています。そして、これについては、私的録音録が補償金制度による補償の対象となっています。他方、「レンタルショップで借り受けたビデオカセットまたはDVDを私的使用目的でダビングする」という態様はあまり多くありません(だから、そもそも補償金をうける基礎を欠きます。)。「有体物としてのDVDが摩耗するまで当該コンテンツを繰り返し視聴したい」ユーザーは商用DVDソフトを購入し、1回または少数回視聴すれば足りるユーザーは、レンタルしたDVDを視聴してすぐに返却したり、米国で既に行われているように、数日程度コンテンツが閲覧できなくなるDVDを低価格で購入して視聴すれば足ります。だから、技術的保護手段の有無以前に、DVDソフトをダビングするメリットがあまりないので、ダビングをしないのです。そして、ユーザーのニーズに合わせた複数の商品体系が用意されていれば、ユーザーの財布の紐は緩みます。実際、商用DVDソフトの売上げは近時年々伸びています。
 
 商用DVDについていえば、現在は、ユーザー側の利益とコンテンツホルダーの利益とが比較的バランスがとれています。いま、このバランスを崩すことを提唱するメリットは、貴協会傘下のコンテンツホルダーにはないのではないかと思います。ユーザーの犯罪者視してユーザーの怒りを買い結果的にユーザーから見捨てられ売上げを減少させる愚は犯さないことが肝要だと思っております。
 
 もちろん、パソコンのHDDの記憶容量の増大に伴って、複数のDVDソフトをHDDにリッピングして視聴するという利用は今後も増えていくことでしょう(iTunes,iPodの隆盛を見れば明らかですが、メディアをいちいち入れ替えるという作業をユーザーは嫌っているのです。)。ビジネス系DVDソフトでは既にそのような利用は一般的であり、コンテンツホルダーも明示的にまたは黙示的に認めています。禁止したって、DVDソフトの売上げが増大するわけではありませんから。エンターテイメント系DVDソフトのコンテンツホルダーとしては、ユーザーの利便性を犠牲にしなければならない程、このような利用を容認することによってDVDソフトの売上げが落ちるのか(そのような利用を禁止するとDVDソフトの売上げが増大するのか)を冷静に分析した上で、ロビー活動を行うかを決めるのが肝要だと思います。
 
 

Posted by 小倉秀夫 at 08:56 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Voici les sites qui parlent de: 社団法人日本映像ソフト協会への回答:

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日本ではこんなにiPodが売れているというのに、iTunes Music Store(以下iTMSといいます)は始まらないかも知れないという記事がありました。... Lire la suite

Notifié: 5 août 2004, 21:32:17

» アマゾンでDVD複製指南 de Mac de DVD
アマゾンを知らぬ人は居まい。誰もが知っている有名なオンラインショッピングサイトである。そこになんと市販DVDコピーのための情報が書いてあるのだ。... Lire la suite

Notifié: 6 août 2004, 09:52:28

» 結局 CSS は技術的保護手段たり得るのか de blog de ジロン@WebryBlog
 小倉弁護士が明快に回答しています(トラックバック)。 Lire la suite

Notifié: 6 août 2004, 23:46:28

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