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08/14/2004

議論の仕方

 警察や検察の裁量次第で、普通に社会生活を営んでいる人々、普通に経済活動を行っている企業の責任者が逮捕され、起訴される社会というのは、警察や検察関係者以外には、住みやすい社会ではないですね(そういう社会では、企業は、警察OBを総務部長などとして高給で迎え入れたり、検察OBを高い顧問料を支払って顧問弁護士として迎え入れたりすることが、リスク回避のための合理的な行動としてとられやすくなりますから、警察や検察関係者にとっては住みやすい社会ということになるかもしれません。)。
 
 したがって、普通に行われる社会活動ないし経済活動が可罰性を帯びるような法解釈は基本的に間違っているし、そのような解釈しか取り得ないのだとしたら、その法律は改廃されるべきです(そのように解釈され得るというだけでも十分改廃に値します。)。
 
 ですから、「Aという行為は、aという要素がある故に、可罰性がある」という見解(甲)に対し、「同じくaという要素を有しているBという行為は、罰せられるべきでない。従って、見解(甲)は間違っている」という批判(乙)は正しい批判です。
 
 これに対しては、「Bという行為も罰せられるべきである」という再反論(丙)や「Bという行為は、aという要素と同時にbという要素もあるから、罰せられるべきではないのだ」という再反論(丁)、「Aという行為は、aという要素の他に、a’という要素があるから罰せられるべきであるが、Bという行為にはaという要素はあるものの、a’という要素はないから罰せられるべきではない」という再反論(戊)は正しい再反論です。
 
 しかし、「見解(甲)ではBという行為の可罰性は論点としていないのに、反論のためにBという行為の可罰性を持ち出すのは論点ずらしである」という再反論は正しくない再反論です。
 
 この程度の話は、法学部で普通に法学教育を受けていれば普通に身に付くはずのものですが、ネット上では、法学部出身者以外の方も法律論議を行うようになりましたから、そのような方が上記のような道理を身につけていないということはある種やむを得ないことです。ただ、匿名の鎧を身にまとってはいるものの法学教育を相当受けてきたことが見え隠れする人々が、上記のような正しくない再反論を行うのはいかがなものかという気はします。
 
 例えば、普通の市民が検閲されることなく情報を送信することを可能とするサービスの特徴としては、例外はありますが、
 
(1) 当該サービスが違法な情報の送信に利用されることがある程度のこと知りつつもそれを未然に防ぐための措置を講じていないし、違法利用を完全に防止することが技術的に可能となるまでサービスの提供を一旦中止しようなどという意思は全くない。
(2) そもそもサービスの提供者は、当該サービスがどのような内容の情報の送信に利用されているか把握していない。
(3) 当該サービスを利用した情報の送信の何パーセントを違法な情報の送信とするかをコントロールする能力は当該サービスの提供者にはなく、従って当該サービスを利用した情報送信の何パーセントが違法な情報の送信であったとしても、それは、当該サービス提供者の意図した結果ではない。
(4) サービス提供者は、送信者の戸籍上の氏名と住民票上の住所を確認することなく特定の情報の送信を媒介するなどのサービスを提供している。
(5) サービスの提供者は、特定の情報の送信者について把握している情報ですら、法令による根拠なしには、当該送信者の意に反して受信者や被害者を含む第三者にこれを教えたりしない。

などがあります。また、情報には、

(6)一旦公表してしまうと、公表者すらその流れを阻止することはできない

という特徴があります。

 「Winny」の開発者が著作権法違反の幇助の容疑で起訴されている件で、「Winny」の開発者は処罰されるべきとする論者が、処罰されるべきとする根拠に上記特徴の一つをあげた場合、同じ特徴を有する他の情報サービスをも処罰することの当否が議論の対象となることは当然です。でも、そういうことには耐えられない論者も少なからずおられるようですね。

Posted by 小倉秀夫 at 03:13 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Voici les sites qui parlent de: 議論の仕方:

» benli 議論の仕方 de 更紗姫10歳のイチゴ畑日記!(過激議論週間)
小倉弁護士様がご自身のブログで反論されてますね。。 >> 警察や検察の裁量次第で、普通に社会生活を営んでいる人々、普通に経済活動を行っている企業の責... Lire la suite

Notifié: 14 août 2004 à 16:13:31

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まえおき Winny作者が著作権侵害の幇助罪に問われている事件について、当人の意図がどうだったかは別として、Winnyというコンピュータプログラムの性質に着... Lire la suite

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» Open Secrets de けったいなほう
Winnyのような機能とは 小倉秀夫弁護士によれば 「市民が検閲されることなく... Lire la suite

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Notifié: 24 août 2004 à 10:12:08

Commentaires

私の反論は、「小倉さんは(1)ないし(6)を根拠にBの事業者も責任を負う場合があるようなことをおっしゃっていたのでは・・・(もっとも民事ですが)・・・だったらAだって・・・」というものです。正しい反論になっているでしょうか?

冗談はさておき、本当に、Winnyと同様の理屈でBも違法だという議論が出てきており、少し驚いています。すでにご承知かもしれませんが、コピライト8月号の20頁以降に小学館事件の評釈があります。是非ご覧ください(特にp33以降)。

Rédigé par: 森 | 17 août 2004 à 18:43:32

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