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08/17/2004

プライバシー情報放流装置

 実は、「プライバシー情報の放流」という点に関していえば、そもそも発信者のIPアドレスを隠す必然性は余りありません。プライバシー権侵害は刑罰の対象ではないので、それだけだと警察が介入できないからです。したがって、IPアドレスと送信日時がわかっても、発信者を知るためには、プロバイダ責任制限法4条に基づく発信者情報開示請求を行わなければいけません。しかも、プロバイダの中には、そのようなプライバシー情報の発信者を庇い立てして、「開示して欲しければ裁判を起こせ」「和解になど応ずる気はない」などと被害者側の要求を可能な限り突っぱねるところも少なからずあります。ですから、被害者の側がお金を用意して弁護士に依頼する覚悟を決めない限り、発信者は匿名のままでいられます。

 匿名性こそが問題だという論者は、Winnyが云々以前に、ISPの態度の方を問題としないといけないのではないかと思うのです。
 現状では、ISPにアクセスログの保管義務がないので、アクセスログを保管していないISPからアクセスした場合には、発信者のIPアドレスがわかっても、発信者が誰かをトレースすることは確実にはできません(この点については、警察が介入できる著作権侵害や名誉毀損の場合でも一緒です。)。そうだとすると、そもそもアクセスログの保管義務をISPに負わせるところから始めないと、Winnyのような技術を禁圧してみたところで、「匿名の発信者による権利侵害情報の放流」を防止することなどできやしないということが言えます。
 さらに、民事訴訟を提起するのに必要な資料が調った場合には、わざわざ発信者情報開示請求訴訟など起こさなくとも、ISPから発信者情報の開示を受けられる法制度づくりも必要です。

Posted by 小倉秀夫 at 09:35 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Voici les sites qui parlent de: プライバシー情報放流装置:

» 知財ウォッチ de 6'' (ログ)
プライバシーとISP benliより。 http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2004/08/post_7.html ... Lire la suite

Notifié: 18 août 2004, 18:43:05

» 建前論議を避けられない難儀な職業に同情と敬意を表しつつ de 高木浩光@茨城県つくば市 の日記
情報処理学会と情報ネットワーク法学会共催で6月に開かれた「Winny事件を契機に情報処理技術の発展と社会的利益について考えるワークショップ」のレポートが情報処... Lire la suite

Notifié: 23 août 2004, 09:33:02

» 発信者IPと名寄せ問題 de philosophical
表現の完全な匿名性を排除することがプライバシーにどの程度影響を及ぼすか。論点は P2P を含む匿名での情報発信ツールを作成する場合に意識すべきこと。 benli:... Lire la suite

Notifié: 23 août 2004, 23:44:00

» kw/匿名性 de PukiWiki/TrackBack 0.2
http://newsnews.exblog.jp/1868249 インターネットは実名の時代 † インターネットの活用が進む中で、さらに情報の質が問われています。とくにWebログの普及は、個人による情報発信を活発にしています。インターネットは、情報が氾濫しており、インターネット活用... Lire la suite

Notifié: 17 juil. 2005, 11:59:27

Commentaires

僕も「完全な匿名性を保証すべき」とは考えてません。ある違法な表現に対してその発信者の責任は追及できたほうが良いと思います。

しかし、そこを起点にしてその人の他の(違法性のない)表現活動についてまでその人との関係が露見したり、その人が使い分けていた複数の立場が関連付けられてしまうとしたら、それは必要以上に発信者のプライバシーを侵害していると思います。なので、トラッキングが問題になりうると思いました。

そういうわけで、トラッキング問題に対する対策(表現とIPアドレスの対応表を蓄積しないとか、蓄積してもそれを検索する際に一定の歯止めをつけるとか)がないまま(固定IDとして機能するような)発信者IPアドレスの確実なトレーサビリティが確保されるのは反対です。

Rédigé par: rna | 21 août 2004, 10:38:23

> 「匿名性を保障すべき」という意見にも一理あり
「完全な匿名性の保証」には一理無いですよね?
Winny で IP を記録するくらいのことはできます。そしてそれでもある程度の匿名性は存在します。
悪意の助長以外に積極的(助長を超えて有意義な)な理由が無いのに IP を隠そうとしたことをどのように正当化するのでしょうか?

>そういう意味で、「トレーサビリティを裁ち切り、権利侵害行為を行いやすくした」ということを理由にWinnyの開発者を処罰するということは、むしろ、反資本主義的所業ということができます。
この部分とその前の部分との繋がりがよく分からないです。

ISP 業界が萎縮する可能性があることに同意しますが、それは ISP が
>プロバイダ責任制限法4条が一つの基準(持っているデータを開示すればよく、積極的にデータを収集し保管するための措置を講ずることまでは要求しない。)を示しています。

これを超えた要求を突きつけられたという仮定の上ですから、現実には妥当性があり萎縮することも無いと思います。
先の引用部分は、仮定を何かの前提にされていますでしょうか?

念のためですが私の論点は、ISP が常に情報開示責任を果たすことは前提になっていないです。ある程度健全に運営している ISP であれば最低限の情報記録は当然行っており、そのような運営が一定割合以上であることは前提にしています(これは実態の話ではなく世の中の多くの人がどう認識しているかという問題)。これは前提にして良いと思っています。そして、その前提があれば、抑止力としての効果は期待できます。問題は、なぜ トレーサビリティを完全に断ち切ろうとする必要があったのか?です。

んーでもまぁ私としては、責任論より、今後の P2P を考えるに当たって注意しておきたいところとして考えているので、一般人に分かる程度の不完全な匿名性にしておけば(あるいは分からせる努力を行う)問題にはならないと思う、ということが言いたいところです。まぁそのかわり Winny のようには普及しないでしょうけれど。

Rédigé par: Shin | 20 août 2004, 23:34:03

 「匿名性を保障すべき」という意見にも一理あり、「トレーサビリティを保障すべき」という意見にも一理あるわけで、「最低この程度は匿名性を保障すべき」とか「最低この程度はトレーサビリティを保障すべき」というふうに国民の代表者である議会が「法律」という形で基準を決めるのであれば、それが憲法に反するものでない限り、公衆用情報発信サービス等の提供者はこの基準の枠内で匿名性とトレーサビリティの相矛盾する要請を調整していけばよいわけです。そして、現行の法律を見渡す限り、トレーサビリティの保障については、プロバイダ責任制限法4条が一つの基準(持っているデータを開示すればよく、積極的にデータを収集し保管するための措置を講ずることまでは要求しない。)を示しています。
 この基準をクリアしていれば刑事上または民事上の責任を負わされることがないという保障があれば、企業は、大衆用情報送信サービスの為に安心して投資ができますが、刑事上または民事上の責任を負わされるかどうか「やってみてからでないとわからない」ということになると、企業としては投資を躊躇せざるを得なくなり、萎縮的な効果を生み出します。そういう意味で、「トレーサビリティを裁ち切り、権利侵害行為を行いやすくした」ということを理由にWinnyの開発者を処罰するということは、むしろ、反資本主義的所業ということができます。
 一番の問題点は、そこにあるのではないでしょうか。

Rédigé par: 小倉秀夫 | 20 août 2004, 17:39:45

私も支持しています。
なぜ表現の「完全な」匿名性が必須なのか、誰も示していないです。ある程度の匿名性はあって良いと思いますが。
この点について「完全でなければならない」という主張は、国家(などの)権力による締め付けを過度に危惧する極左的根拠しか見たことがありません。
技術的でなくても、自治的/社会的解決でもなんでも、悪用が十分に少なくできるのであれば私も完全な匿名性を支持します。私には悪用する輩が自ら規制(あるいは完全匿名は悪という世論)を誘き寄せているようにしか思えないです。
と、だいぶオフトピックになってきました_o_。それでは。

Rédigé par: Shin | 20 août 2004, 15:23:39

トラッキング自体はどちらの場合も発生します。

Shin さんがリンクされたエントリで高木さんが言っているのは、二つの匿名性について異なるポリシーを適用しうる、例えば消費生活がトラッキングされるのは問題だけど表現活動がトラッキングされるのは問題ない(しかたがない・甘受すべき)という価値判断もありうる、という事であって(ここまでは僕も同意)そういう判断の妥当性を強く主張しているわけではないと思います(高木さん自身はそういう価値判断を支持していると思いますが)。

Rédigé par: rna | 20 août 2004, 00:03:59

トラッキングは消費生活の匿名性の話題です。ここでは表現の匿名性の話題の方ですね。
http://d.hatena.ne.jp/HiromitsuTakagi/20040621

>「IPアドレスをもとに放流者を必ず追跡する」という実態
WinMX も Winny も利用者の逮捕者は IP アドレスを元につきとめられたはずです。

Rédigé par: Shin | 19 août 2004, 14:18:01

「固定ID」によるトラッキング問題というのもあります。
http://d.hatena.ne.jp/HiromitsuTakagi/20030817

固定IPアドレスを使っている人に関しては、開示請求などでアドレスを個人情報に直接結びつけなくても同じアドレスと関連付けられた様々な記録を参照すればその人のプライバシーを侵害できてしまいます。高木さんが紹介しているような匿名IPアドレスが普及しない限り「IPアドレスを隠す必然性」はあるのではないでしょうか。

というかIPアドレスの場合e-mailヘッダやIRCのログなんかに記録される事を考えると、個人情報と結びつけるのも容易です。IPひも付きWinnyの例だと、特定の誰かが流したファイルを探すのは無理ですが、特定のファイルが知り合いの誰かが流したものかどうかを調べるのは簡単です。

Rédigé par: rna | 19 août 2004, 04:22:56

 IPアドレス垂れ流しのWinMXの実情を見ると、「IPを必ず追跡できる」ということが抑止力になるのか疑問がないわけではありません。権利者側が、「IPアドレスをもとに放流者を必ず追跡する」という実態が必要なのではないかという気がします。

Rédigé par: 小倉秀夫 | 18 août 2004, 13:42:34

Winny がコンテンツ放流者の IP を必ず追跡できるようになっていれば、その IP から個人特定できない可能性があったとしても間違いなく抑止力となっていたと思いますけどね。そして 47氏の免責にも。
「普通の人には付き止められないが、付きとめようと思えば付きとめられる」つまり「悪いことはできないな」と「一般の人」に思わせることができればよいのです。

Rédigé par: Shin | 18 août 2004, 12:09:50

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