著作権法改正パブコメ2004_案04_01
4. 著作権等の制限について
(39)について、方向性は悪くないと思いますが、社内コピー問題の根幹は、企業内コピーについては一律に著作権法第30条1項の適用を受けないと解する多数説及び下級審裁判例にあります。30条1項の文言自体は、企業内コピーを排除していないし、作成した複製物を営利活動に用いることをも排除していないのに、「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において」というふうに「家庭内」という文言が用いられているのを過度に重視して「だから企業内コピーには適用がないのだ」と曲解されているのが現状です。このような誤解をなくすために著作権法第30条第1項の該当部分を「限定的かつ閉鎖的は範囲内において」と変更することによって、企業内コピーであっても、一定の場合に、著作権法第30条1項が適用されるのだということを明示し、現実の社会では普通に行われていることを違法としてしまうことをさけることができます。
(40)は附則第5条の2を廃止せよというものです。その理由としては、学術著作権センターなどの集中処理機関が整備されてきたことをあげていますが、書籍や雑誌に掲載された文章の著作権については、集中処理機関の網羅性には未だ不十分なところがあり(権利集中機関を社団法人化したからといって、網羅性を達成できるわけではありません。1著作物あたりの想定許諾料収入が低いこと、集中処理する権利が限定的であること、著作権者の数が多いこと等を考えると、集中処理機関に権利を付託するメリットが書籍・雑誌等の文章については低いので、網羅性が飛躍的に向上することは見込めないと思います。)、現段階で附則第5条の2を廃止した場合、複製をしたくとも、許諾を受けるに受けられないという事態が生じてしまう虞が高いといえます。したがって、現時点で附則第5条の2を廃止するのは時期尚早です。
(41)は、著作権法第30条1項の目的を「個人的に使用すること」に限定せよというものです。しかし、子供から頼まれてビデオの録画ボタンを押してしまった母親を著作権法違反(複製権侵害)で逮捕起訴して懲役刑を科すことを法的に可能とせよというのがまともな人間の考えることとは思えません。よって、私は(41)には反対します。
(42)については、「著作権者の利益を不当に害することとなる複製」か否かというのは、著作権法を得意とする法律実務家の目から見ても非常に難しい問題です。「著作権者の利益を不当に害しない利用」一般を個別的救済規定たるフェアユース規定に用いるのはともかくとして、定型的な免責規定である著作権法30条1項にこのような抽象的な規定を設けることには反対です(そもそも、30条1項は、閉鎖的かつ限定的な人的な範囲でのみ使用されることを目的とする複製のみを対象とした規定であり、著作権者の利益を侵害する度合いが軽微なものであり、それはデジタル技術が普及しても何ら変わるところはありません。著作権法は消費者に無駄を強制することによる需要の創出を「正当な利益」に含めないのです。)。
(43)については、「知りながら」という文言が未必の故意を含んだり、大量の情報の中の一部に著作権を侵害して送信可能化されているものがあることを知っている場合を含む場合には、ウェブブラウザー等を用いたネットサーフィンなど、いつでも逮捕起訴され場合によっては懲役刑を受ける覚悟がなければできなくなります。例えば、電子掲示板等を開設していると、新聞等の記事を引用の要件の範囲を超えて複製した投稿が書き込まれることがありますから、未必の故意でも著作権侵害罪が成立するということになると、自分が開設する電子掲示板を閲覧することも危なくてできなくなります。また、未必の故意は含まないとしても、他人の電子掲示板を閲覧した際に、著作権侵害となるような投稿が書き込まれているのを発見してしまった場合、再びその掲示板を閲覧すると、著作権侵害罪に問われる可能性が出ていきます。したがって、私は、インターネット文化を破壊する効果をもつ(43)には反対します。
(44)については、著作権法第2条1項20号が「著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(次号において「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際しこれに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、又は送信する方式によるもの」という要件を設けたのは、規制対象の明確化を図ったものです。技術的保護手段の回避を専らその機能とする装置等の公衆への譲渡等や、業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行う行為が刑事罰の対象とされている以上、罪刑法定主義の観点からも、規制対象たる「技術的保護手段」を明確に規定する定義することは必要です。また、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会の意見をみると現行法では特定の「プログラム」に反応する信号は保護されないかのように見えますが、特定の信号に反応する「プログラム」が組み込まれたコンピュータはここでいう「機器」にあたると解されており、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会の意見は前提を間違えています。また、技術的保護手段の定義を(44)の求めるように改正した場合には、「回避」等の定義も変更せざるを得ず、例えば、パソコンのOSのCDドライブを制御する部分において、エラー情報を訂正し、CD等の表面に細かい傷がついていたとしてもCDドライブが異常動作しないような機能を組み込んだ場合に、これが違法とされる虞もあります(一部のレコード会社が採用したCDS-200方式のコピー制御技術は正に、CDにエラー情報を混入してパソコンのCDドライブに異常動作を行わせることによってパソコンを使ったコピーを制御しようというものだったので、あながち杞憂ではありません。)。
今後コピープロテクトは進化、多様化することはあろうかとは思いますが、それに対しては、ソフトメーカーと機器メーカーと消費者団体とが協議をして、法的に保護するに値するということについて意見の一致を見たコピープロテクトについて、それが「技術的保護手段」の定義に合致するようにその都度法改正をすれば足り、また、罪刑法定主義の観点からはそのような手続きを踏むことが望ましいと言えます。したがって、私は(44)の意見に反対します。
また、社団法人日本映像ソフト協会は、DeCSSを著作権法により規制するために法改正を望んでいるようです。しかし、DeCSSは、必ずしも商業的に配布されているわけではないOS(例えば、Linux等)を用いてコンピュータを稼働させている者が、正規に購入したDVDソフトをそのコンピュータを用いて再生するために開発されたという側面もあり、これをDVDを複製するためのソフトと安易に位置づけてこれを禁止するような立法を行うことには大いに疑問があります(なお、DVDソフトには、CGMS等のコピー制御技術が用いられており、これは著作権法上の技術的保護手段にあたるので、DeCSS等を違法化しなくとも、コピー制御することに問題はないはずです。)。
Posted by 小倉秀夫 at 08:28 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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またも本州を直撃しそうな台風が降らせる雨の中、筆者にとっての「最大の山場」である部分のパブリックコメントを朝イチで提出。 添付資料が図表を含めて膨大で、ちっと... Lire la suite
Notifié: 19 oct. 2004, 20:42:31
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