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12/29/2004

知財戦争

 三宅伸吾「知財戦争」(新潮社・平16)を読みました。著者の三宅氏は、日経新聞社の編集委員であるとのこと。
 
 内容的には薄すぎて、とても680円という定価に見合うものではないというのが私の感想です。「あとがき」で取材協力先として列挙されている面々ならびに主要参考文献を見ただけで、「一方からしか物を見ようとしない」薄っぺらい書籍であることは見当が付くのですが、予想を裏切られることはありませんでした。
 
 例えば、61~62頁にかけて

 2003年1月15日、ミッキーマウスの寿命が20年延びた。この日、米連邦最高裁判所が、アニメのキャラクターや映画、音楽などの著作権による保護期間を延ばす法律を「合憲」と判断したためだ。AOLタイムワーナー社の「風と共に去りぬ」(1936年)、カサブランカ(1942年)などの独占使用権限も延長された。
 問題となっていた法律は、1998年に成立した著作権延長法。それまで企業が保有していた著作権の起源は、作品の制作から75年間だったが、同法はこの期間を20年延長するという内容だ。
 ミッキーマウスは1928年、白黒アニメ映画「蒸気船ウィリー」で誕生した。ウォルト・ディズニーが、喜劇俳優チャールズ・チャップリンをモデルにして作ったとも言われる。著作権延長法がなければ、80歳近いミッキーマウスの権利は2003年に期限切れとなるはずだった。期限切れ後にミッキーマウスの配信で一儲けしようと計画していたネット事業者は、最高裁判決に肩を落とした。
という記載があります。
 

これでは、著作権の保護期間が延長されることの問題点は分からないし、なぜ、著作権による保護期間を延ばす法律の合憲性が裁判で争われたのか分かりません。「期限切れ後にミッキーマウスの配信で一儲けしようと計画していたネット事業者」が、予定どおりミッキーマウスの権利を2003年に期限切れとさせるために起こしたとの誤解すら生みかねません。
 もちろん、レッシグ教授の「フリーカルチャー」を読んだ人は誤解しないでしょう。しかし、あちらは大きくて厚いですから、新潮新書の「知財戦争」の読者と必ずしも重ならないことが予想されます。「知財攻防の最前線」に深い関心を有し、著書までしたためてしまう三宅氏がレッシグ教授の「フリーカルチャー」を読んでいないとは信じたくはないし、仮に読んでいなかったとしても、著作権の保護期間を延ばす法律が延期とされたとしても保護期間が経過し「パブリック・ドメイン」となるのは75年以上前に制作された映画(とりあえずは、「蒸気船ウィリー」)とそのころのミッキーマウス等のキャラクター図柄だけであって、それ以降のミッキーマウス作品が直ちに「パブリック・ドメイン」になるわけではないのだから、ネット事業者が「期限切れ後にミッキーマウスの配信で一儲けしようと計画していた」なんて話が嘘くさいことは分かりそうなものです(それに、ミッキーマウスがパブリックドメインになってしまえば、何人もそれを自由に無料で流通させることができるわけで、そのようなものの配信で一儲けを計画するネット事業者がいようとはにわかに信じがたいです。)。
 
 しかも、三宅氏は、全体で7章しかない「知財戦争」のうち2章を「司法問題」にあててしまっています。その一方で、「クリエイターにお金が流れない仕組み」については触れられていません。しかし、例えばアニメについていえば、「買い手」(テレビ局)の新規市場参入が制限されているのに対し、「売り手」(アニメ制作会社)の新規市場参入が制限されておらず実際乱立していることから、「買い叩き」が起こっており、そのため、実際の制作スタッフが低所得にあえいだり、あるいは制作作業を中国等の人件費の安いところに委託せざるを得ない状況に追い込んでいることが問題であって、「アニメ産業」を日本の重要な輸出産業として位置づけるのであれば、テレビ局がアニメ制作会社に発注する際の発注代金の下限を法定するなどの施策を講ずる必要があるのです(そして、岸本周平さんあたりからきちんと取材をしていればそのような問題があることは容易に知ることができたし、「知財」に関する最前線に関心のある三宅氏が、岸本周平氏を知らなかったとは信じがたいです。)が、そういう日本経済新聞的に不都合な話には一切触れられていません。対消費者関係で知的財産権を強化したって仕方がないし、結局力関係のアンバランスが問題なのですから、法曹人口の大幅増員で「アニメ専門弁護士」が生まれたって制作会社をテレビ局による「買い叩き」から救ってやれるわけではないので、戦略本部的な処方箋は、「アニメ産業の育成」の役に立たないわけで、そういう意味では、7章のうちの2章を「司法問題」にあててしまっている「知財戦争」のアンバランスさが目立ちます。

Posted by 小倉秀夫 at 07:32 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Commentaires

横山久芳「著作権保護期間延長立法と表現の自由に関する一考察-
アメリカのCTEA憲法訴訟を素材として-」(学習院大学法学会雑誌39巻2号)は
文化庁を含む「何が何でも著作権を延長したくてしょうがない勢力」との
来るべき対決において必読の論文。

Rédigé par: 謎工 | 30 déc. 2004, 05:38:03

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