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04/30/2005

音楽CDは、なぜ売れたのか

 1990年代末から2000年代初頭にかけて、なぜ音楽CDが売れなくなったのかという議論が流行しました。そこでは、携帯電話やP2P、blankCDを利用したカジュアルコピー等がやり玉に挙げられました。しかし、最近は、1980年代末から1990年代前半にかけて、なぜ音楽CDがあれほど売れたのかという議論がなされているようです。

 烏賀陽弘道「Jポップとは何か──巨大化する音楽産業──」(岩波書店)は、

この成長は、アナログからデジタルへの技術革新や消費性向の変化という土壌に、テレビ・タイアップ、通信カラオケ、ミュージック・ビデオ、マーケッティングといった「Jポップ産業複合体」から生まれてきたセールス方法や新しい音楽メディアが花開いた結果である。
と述べています(194頁)。

 他方、David Kusek=Gerd Leonhard「The Future Of Music」(Barklee Press)は、

When CDs came onto the market and everyone had to convert from vinyl to digital, it was an unprecedented boom time for the music industry.
と述べています(86頁)。

 私が大学生のころにvinyl recordsからCDsへの切り替えが進み、そのことが60年代や70年代の音楽に再注目するきっかけを与えてくれたという意味で、"media conversion"のレコード産業全体の売り上げの増加への貢献は小さくないとは思いますが、"million seller"がいくつも生まれるようになったという現象の理由に関しては、烏賀陽さん的なアプローチの方が説得的であるように思います(「The Future Of Music」は主にアメリカの音楽事情を視野に入れているので、日本の音楽事情との間に齟齬があるのは仕方がないのですが。)。

 主に音楽CDを購入する人たちの情報摂取・娯楽の手段がテレビからインターネットへと移行するようになっていけば、ドラマやCMとのタイアップとして視聴者の意思にかかわらず楽曲を浴びせかけるという90年代的なセールス方法が効力を失っていくのは、やむを得ないことのように思われます。週間視聴率ベストテンの中に「サザエさん」や「笑点」が入ってくる現状では、テレビドラマとのタイアップに成功したということが「ヒット」への近道に必ずしもならなくなっています(タイアップ先のドラマがヒットすれば、タイアップ楽曲のヒットに結びつきやすいということは、「Born to love you」や「世界に一つだけの花」等の大ヒット等を見ても、未だ言えることではあるのですが。)。

 ネット時代に対応した「視聴者の意思にかかわらず楽曲を浴びせかける」手法が開拓されれば、テレビ視聴率の低下に伴うExposure機会の減少をある程度カバーできるのかも知れません。しかし、それを阻んでいるのは、IT産業に自由な(「無償」という意味ではありません。)楽曲の利用を許さないレコード業界自身ではないかと思います。
 
 

Posted by 小倉秀夫 at 12:00 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Voici les sites qui parlent de: 音楽CDは、なぜ売れたのか:

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 BENLIさんとこで音楽CDは、なぜ売れたか を扱っていたので、さらに戻って買わなくなった理由を今一度確認してみたい。個人的に。  私は昔ほど音楽CDを買わなくなった。理由はその負担にある。高けーなーという価格の負担はよく言われますが、それよか邪魔なのだ。置く場所の負担がキツイ。既にスペース的にマックスなんだもの。  なので近頃は選りすぐった物しか置かないよう心掛けている。残りは... Lire la suite

Notifié: 1 mai 2005, 15:09:04

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Notifié: 1 mai 2005, 23:59:07

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Notifié: 16 mai 2005, 17:55:53

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そういえば「週刊FM」が書店から消えたことに気付いたのはいつの頃だっただろう。引越しをした時にFM局の周波数を調べようと、本屋に行ったところ、全く「FM誌」が見つからなかったことを覚えている。あぁ、そうか僕がオーディオに凝っていた頃は「エアチェック」が当たり前だったけど、そういえば最近、そういうことをした記憶がないけど、結局、そういうことなんだ。 この本は�... Lire la suite

Notifié: 23 mai 2005, 00:00:52

Commentaires

「消費資本主義のゆくえ」において、松原隆一郎東大教授は、90年代にメガヒット商品が相次いだ原因を以下のように述べています。

・80年以前は、人々は、販売店において、店員や営業マンの話を聞いて、買うものを選んでいた。
・80年以後、CVSやスーパーマーケットが発達し、一部のマニアックな店以外では、専門知識のある店員はいなくなった。(流通費用の削減)
・個人の判断力には限界があり、通常は自分の好む数個の分野においてしか、独自の判断はできず、残りの部分は、周りに合わせて買うようになった。
・情報雑誌や携帯電話やInternetは「付和雷同型」の消費を後押しした。みんなに合わせて買えば、考える手間が省けるのである。

 「売り手市場」が「買い手市場」に変わったことが、短期間大量販売型のメガヒットをつくった、という仮説です。

Rédigé par: 井上 | 30 avr. 2005, 15:49:33

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