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04/28/2005

赤本掲載部分を読まれただけで満足されてしまう作品なんて

 高校受験にせよ、大学受験にせよ、受験対策をする際に、志望校(志望学部)の過去の入試問題を研究するというのは王道中の王道です。そして、志望校の過去の入試問題を研究するにあたっては、当該学校(学部)の直近数年分の入試問題とその回答・解説を掲載した過去問集を購入するのが便利です。著名大学(学部)の入試過去問集としては、駿台予備校やZ会で出版しているものもありますが、やはり老舗は、世界思想社教学社が出版している、いわゆる赤本シリーズです。

 本日の新聞各紙の報道によれば、世界思想社教学社が赤本シリーズに自分の作品を無断使用したのは著作権侵害に当たるとして、なだいなださんや、平田オリザさんら十一人と、財団法人川端康成記念会が計約730万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたとのことです。

 大学等が入試問題においてなだいなださん等の作品を転載するにあたっては、なだいなださんの許諾を必要としません。著作権法第36条第1項により正当化されるからです。

 著作権法第36条第1項

公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

他方、過去問集の場合、「入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要」だからではなく、「入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定」に備えるために必要だから、当該著作物を「当該試験又は検定の過去の問題」として複製しているにすぎません。したがって、著作権法第36条第1項の適用を受ける可能性はほぼないでしょう。

しかし、過去問集への著作物の転載に対する利用許諾を集中的に管理する組織がない現状において、「過去問集の場合、著作権法第36条第1項の適用がないから、過去問に用いられた作品の著作権者から予め許諾を得ることなくこれを出版するのは著作権侵害だ」なんてことを言い始めたら、過去問集など出版できません。新聞報道によれば、2005年度版では、なだいなださんら11人の原告の対象作品については、「編集の都合上省略」と記載の上、過去問集から削除されているそうですが、これでは過去問集として求められている機能を十分に果たすことができていません。

ここ数年、副教材や問題集等に自己の作品が転載されている作家たちが副教材や問題集等の出版元を訴えるケースが激増しています。これらの出版元が適切な抗弁事由を見いだせないでいることもあって、作家たちは勝訴しているわけですが、結局この種の訴訟って、「私の作品を勝手に利用して収益を上げるのはけしからん」という一種のエゴイズムを満足させる意味しか持っていないように思われます。所詮、入試問題で転載されるのは各作品のごく一部にすぎず、過去問集の出版元は原則として入試問題で転載された範囲を同じように転載するにすぎないので、これが元の作品の「代替物」となる可能性はほとんどなく(逆に、入試問題や過去問集で一部分が転載されているのを読んで、その作品に興味を持ち、全体を読んでみようという気になるケースは少なからずある(少なくとも私が高校生の頃はそういうきっかけで元の作品を読むようになったことは少なからずあった。)、したがって、過去問集への自分の作品の一部分の転載を禁止したところで、各作家の収入が増えるわけではなく、「創作活動へのサイクル」が強化されるわけではないからです。

私は、誰がこれら作家たちを焚きつけているのかわかりませんが、「著作権=金のなる木」とばかりに欲に目がくらんで教育的配慮を忘れてしまうこれら作家たちの本を購入して読むことは当面差し控えたいと決意しました。

Posted by 小倉秀夫 at 12:33 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Commentaires

大学においても過剰に著作権に反応している部分があるように思われます。
この件に反応したせいでしょうか。
「大学講義資料公開」の一例
ttp://ocw.osaka-u.ac.jp/contents/20/no1.pdf
それともこの程度の配慮は必要なのでしょうか。

Rédigé par: 紫煙 | le 06/13/2005 à 21:28

改めて投稿いたします。

大分前になりますが、報道特集で大学受験の入試問題の作成はそこの大学の教授が行うが、河合塾などの予備校に任せた方が問題の質が上がるのではないかというようなことを放映したようです。

かなり前に見たので、今もそうなのかはわかりません。もし大学の入試問題の作成が外部に委託されるのではなく、内部の教授陣が行っているのであれば、今回の赤本に関する訴訟は問題作成者の怠慢のつけが溜まって起きたのではないかと思います。

アタシが理解できないのは、大学の入試問題になぜ同じような作品(過去の名作と呼ばれる類のもの)を使いまわすのかということです。入試問題ように文章を改めて書いたり、または過去一年以内に出版された文学作品やらノンフィクションなど、時代の先端を行く素材を発掘して、それを基にして問題を作るということができないのはなぜか?

それは大学の教授陣も入試問題の作成にかける時間が限られているからではないでしょうか。

報道特集では河合塾などの大手の進学教室ではそういった入試問題の委託を受け付けていると報道していました。こうした入試のプロであれば、試験の問題のデータベースなどもあり、クライアントの要望に対応することが可能であると考えられるので、使い古しの過去の名作など使わずに斬新な問題を作ることも出来ると思います。

☆赤本に有名作家の作品を使用する際に著作権の保持者にひとことでもあいさつがあったのであれば、今回のような訴訟はなかったのかもしれないなと思います。無断で転載されて、その挙句、自分の作品を適当に切り取り赤本にして売られる。仮にですが、アタシのブログの投稿を同じような形で利用されたら、アタシだって頭に来るし、そういう無礼者には金払え(賠償ということで脅しているわけではない)という形で、自分の中で無礼者への怒りを終結させるということを考えるかも知れません。

問題の本質は金銭的なものというよりも、礼節に欠けた相手への怒りの表明であるのではないでしょうか。

Rédigé par: koneko04 | le 05/14/2005 à 05:19

よく考えてみたのですが、どうも投稿を送信するというボタンを押さな駆ったようです。

書き直して再投稿させていただくことになると思います。
嫌味なコメントだけど、小倉先生を含め、他の人がどのような感想を抱かれるのか気になります。

Rédigé par: koneko04 | le 05/13/2005 à 15:32

こちらのblogは最近コメント削除していないつもりなのですが・・・。

Rédigé par: 小倉 | le 05/13/2005 à 11:05

2~3日前に、こちらにコメントを投稿したと思いましたが見当たりません。

毎度のことですが、少し嫌味が入っていたので、もしかして削除されたのかな?

嫌味の対象は訴えられた大学や赤本の出版社でした。差し支えなかったら、再投稿したいのですが、よろしいでしょうか?

Rédigé par: koneko04 | le 05/13/2005 à 05:20

一部を広く公開することでその一部にピンとくる人と作品が出会う可能性をより高める、という局面から展開する未来をどう思い描くのか、がより重要な点。収益面での得失や権益の法的整合性、管理利便性だけでなく、ね。
なお、私も過去問題集(赤本ではなかった)に掲載された一節に触れて司馬遼太郎の著作をずらっと買い揃え、読み耽ったクチです。

Rédigé par: まむし | le 05/04/2005 à 18:41

 なだいなだがクレームつけていると知って、驚いてしまいました。私は、なだいなだの文章を、入試過去問集で読んでおもしろかったので、本を購入して読み始めたのです。
 それに、なだいなだ氏はこういう愚かな行動にはいちばん無縁な人だと思ってましたので、びっくりしました。老境に入ってモウロクしたんじゃないか。

Rédigé par: 井上 | le 04/28/2005 à 21:30

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