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07/30/2005

ベルヌ条約には私的複製の制限についての記載はない

 日本音楽著作権協会ら音楽関係の7団体は、相変わらずiPod等のハードディスク型音楽再生機を私的録音録画補償金の対象とするように強く要請しているようです。

 私的録音録画補償金制度自体、利用者側が権利意識に目覚める前に作り上げてしまったものなのですから、利用者側が権利意識に目覚めてしまった昨今、私的録音録画補償金の対象を拡張したいなんて言い出せば、却って、私的録音録画補償金制度自体見直せという声が利用者から上がってくることくらいは普通に予測できたわけだし、昨年のレコード輸入権騒動以来、政治家にとってその種の利用者の声というのは必ずしも無視できないものになってきているくらいの認識はあってもよさそうなものなのですが、音楽7団体側にそのような戦略性は感じられません。

 特に、日本の音楽ファンの間では、「iTunes Music Store」による合法的な音楽配信サービスを受けられないことの不満がたまっているわけで、そのような中、「iPodを私的録音録画補償金の対象とせよ」なんて言ってしまえば、強い反発を受けることは目に見えていると思うのですが。

ITMediaの記事によると、日本音楽著作権協会の吉田茂理事長は、

私的複製の制限については、ベルヌ条約(著作権に関する国際条約)にも記載されており、日本でHDD/フラッシュメモリオーディオなどに関する補償金制度がないのは条約違反ですらある
なんて述べたそうなのですが、ベルヌ条約には私的複製の制限については何も記載されていないですし、実際、ベルヌ条約加盟国のほとんどはHDD/フラッシュメモリオーディオ等に関して補償金制度なんてないわけで、吉田理事長が本当にこんなことを言ったのだとすればお粗末としかいいようがないです。

ベルヌ条約において「複製権」について規定しているのは第9条です。第9条は次のように定められています。

(1) Authors of literary and artistic works protected by this Convention shall have the exclusive right of authorizing the reproduction of these works, in any manner or form.

(2) It shall be a matter for legislation in the countries of the Union to permit the reproduction of such works in certain special cases, provided that such reproduction does not conflict with a normal exploitation of the work and does not unreasonably prejudice the legitimate interests of the author.

(3) Any sound or visual recording shall be considered as a reproduction for the purposes of this Convention.

 第1項では、ベルヌ条約で保護される作品の作者は、その作品を複製する権限を与える排他的権利を持つべきであるということを規定しています。正確にいうとこれは条約(国と国との間の約束)ですから義務の主体は「国」ということになりますので、そのような作品の作者がそのような排他的な権利を持つように国内法を整備することを加盟国は義務づけられているということになります。

 第2項では、特定の場合にそのような作品の複製を許可するべきか否かということは、ベルヌ条約加盟国において、立法府が取り扱うべき問題である、つまり、どういう場合に(作者の許可なくして)作品の複製を行うことは、ベルヌ条約加盟国の各国内において立法府が決めればいいことであって、立法府の決定に対してはとやかく言われる筋合いはないということを定めています。

 ただし、そのような立法を行うにあたっては、二つの条件に従う必要があります。

 1つは、そのような複製が、その作品の「a normal exploitation」と「conflict」しないことです。
 もう1つは、そのような複製が、その作品の作者の「the legitimate interests」を「unreasonably」に害しないことです。

 ここで、「exploit」とは、 Merriam-Webster Online Dictionaryによれば、「to make productive use of」という意味ですから、「a normal exploitation」とは、(その作品の)通常の営利的な利用くらいの意味になります。そのような利用と「conflict」するような、すなわち、そのような利用と競合してこれを成り立たなくするような複製まで許可してしまうような立法はさすがにやめてくれと言うことをベルヌ条約はいっているわけです。
 また、ベルヌ条約が合理的な理由なくして害するなといっているのは「the legitimate interests」であって、「私が苦労して創作した作品を活用して勝手に儲けている人がいると、『明日のインセンティブ』が奪われてしまうよう!」なんていっても、そういう「明日のインセンティブ」みたいなものは「the legitimate interests」にはあたらないのです。

 では、音楽ファンが、個人的に使用する目的でiPodに(パソコンを介して)楽曲をダウンロードすることは、作詞家・作曲家、実演家、レコード会社等々による当該楽曲の「通常の営利的な利用」と競合してこれを成り立たなくするようなものなのかといえばたいそう疑問ですし、そのようなダウンロードが行われたからって作曲家等の「the legitimate interests」なんて全然害されてなんかいないでしょう。通常は、いつでもどこでもその楽曲を聴けるようにするために、携帯型メディアであるiPodにメディアシフトしているだけなのですから。

 iPod等を私的録音録画補償金の対象としないことがベルヌ条約に違反するといいたいのであれば、iPodによって通常行われる私的使用目的の複製(メディアシフトとしての複製)が作詞家・作曲家、実演家、レコード会社等々による当該楽曲のどのような営利的利用とconflictするのか、あるいは、どのような「the legitimate interests」が害されているというのかを、先ず示すべきでしょう。

 音楽関係7団体は、「音楽の創作サイクルのため、必要であると考えている」「政令指定をしないまま現状を放置することは、文化芸術の振興を妨げる」なんてことを言っていたようですが、ハードディスク型音楽再生機が私的録音録画補償金の対象となっていない国々(そもそも、私的録音録画補償金制度がない国々を含む。)にて、「音楽の創作サイクル」が崩壊し、「文化芸術の振興」が妨げられてしまっているのかというと、大いに疑問です。彼らは、まともに比較制度論ができないのでしょうか。

【追記】
Internet Watchの方の記事をみると、音楽関係7団体の声明では、

私的録音が許されるのは極めて零細な使用だからだと主張。権利者団体の調査によると、私的録音された楽曲の51%が私的録音補償金制度に含まれないデジタルオーディオプレーヤーなどの機器や記録媒体で録音され、仮にそれらの楽曲をパッケージで購入すると試算すると3,400億円に達する。こうした状況は「零細な使用とはいえない」
ということのようですね。

 しかし、著作権法第30条第1項により私的使用目的の複製が許されるのはそれが極めて零細な使用だからであるという方をする場合(それ自体、必ずしも正確ではないのですが)、「極めて零細な使用」というのは、個々人が当該著作物に関して行う複製について表現しているわけで、日本国中で行われている同種の複製をかき集めた上で相対的に見たとしてもなお「極めて零細な使用」といえるか否かなんてことはもともと考慮の対象外です。したがって、デジタルオーディオプレーヤーなどの機器や記録媒体で録音された楽曲数が日本中で何曲あるかなんてことは、デジタルオーディオプレーヤーを用いて行われる私的使用目的の複製が「極めて零細な使用」といえる限度を超えているかどうかという議論とは全く関係がありません。

 さらにいえば、「デジタルオーディオプレーヤーなどの機器や記録媒体で録音され」た「楽曲をパッケージで購入すると試算すると3,400億円に達する」なんて数字は全く意味がありません。
 私は、正規のCDをAmazonやHMV等で購入した上で、PowerBookG4→iPodという経路で私的使用目的の複製を行うことで、通勤中や出張先で音楽を聴いて楽しんでいるわけですが、ではPowerBookG4のような音楽再生が可能なパソコンや、iPodのようなデジタルオーディオプレーヤーがなかったとしたら、PowerBookG4内の私的複製物、iPod内の私的複製物の代わりに、正規のCDをさらに買い足していたであろうかと問われれば、そんな馬鹿なことはしないと答えることでしょう。正規のCDパッケージがたくさんあったって、iPodのハードディスク内の音楽ファイルの代替品などなりはしないのですから。従来は、私的複製物が正規商品と代替性を有するのか否かということが議論の対象となっていたと思うのですが、「メディアシフト」についていえば、そもそも正規商品が私的複製物と代替性を有しているのか否かということが問われているのです。そして、正規商品:同一楽曲についての2枚目以降のCD、私的複製物:メディアシフトの目的でiPodの内蔵ハードディスクに蔵置された音楽ファイルという場合についていえば、もはや正規商品は私的複製物と代替性を有していないといわざるを得ないのです。したがって、「『メディアシフトの目的でiPodの内蔵ハードディスクへの音楽データの複製』がなければ音楽著作権者らはこれだけの利益を実際よりも多く得ていたであろう」という関係を見出すことができず、私的録音録画補償金制度により補償すべき「損失」自体を観念できないのではないかと思ってしまいます。

Posted by 小倉秀夫 at 07:37 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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» ベルヌ条約には私的複製の制限についての記載はない・・・さてどうする?(自称)権利者団体 de Where is a limit?
 benli経由ベルヌ条約には私的複製の制限についての記載はないと言う記事が掲載されています。気になる部分は・・・敢えて引用しません。全文読んで欲しいと思います。  え〜〜っと後は幾つか気になる所をば・・・  関連リンク  趣味の問題2さん経由私的録音の損害が3..... [Lire la suite]

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要するに金をもっともっと、よこせと言っておられるのですね?おっそろしいなあ。 音... [Lire la suite]

Notifié le 31 juil. 05 00:11:35

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昨日から、今回の私的録音補償金制度改正について情報を集めると共に、自分なりに法律論&実際論あわせて考察しました。正式な議事録が出るまで待てないので、以下に述べます。(この考察に当たり、zfylさんの貴重な議事速報を参考にさせて頂きました)  →誠に有難うございます... [Lire la suite]

Notifié le 31 juil. 05 01:00:33

» ベルヌ条約には私的複製の制限についての記載はない de 日々適当なBLOG 著作権云々編
ベルヌ条約には私的複製の制限についての記載はない・・・さてどうする?(自称)権利者団体(Where is a limit?:)Where is a limit?さん同様リンク先をご参照下さい。 [Lire la suite]

Notifié le 31 juil. 05 06:32:14

» 作為のライツは荷車を引く de 恵比寿法律新聞
「iPodからも金を取れ」――私的録音補償金で権利者団体が意見書(ITmedia [Lire la suite]

Notifié le 31 juil. 05 21:57:06

» ベルヌ条約には私的複製の制限についての記載はない de 「みんみんうぇぶ」
【記事先】 ベルヌ条約には私的複製の制限についての記載はない   【情報元】 駿 [Lire la suite]

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» 検討:ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定について de 音楽リスナーとPCユーザのための著作権パブコメ準備号
 ここでは、私的録音録画補償金制度そのものの見直しまで踏み込むことは避けておきます。  つまり、現在行われているMDや音楽用CDRやDVDRやビデオやカセットデッキへの課金には関心がない、 または積極的に賛成だが、ipodなどのHDDを使った音楽プレイヤーへの課金には反対、... [Lire la suite]

Notifié le 19 sept. 05 22:58:15

Commentaires

茶々になって申し訳ないのですが、おそらく日本音楽著作権協会の吉田茂理事長が言ったのは、ベルヌ条約の13条の話ではないかと推測しますがいかがでしょうか?

私的録音録画補償金は、音楽の著作物の複製権の制限に対する条件であり、13条1項のケースだと個人的に考察しています。

Rédigé par: | le 08/04/2005 à 11:03

的確な指摘だと思います。
規制すればその分を代わりに買うようになるとは思えません。また、音楽を売らなくてもiPodが売れるごとに金が入るビジネスモデルでも作りたいのかと思えるほど規制側の論拠が強引で矛盾点が多すぎるとおもいます。

Rédigé par: SAIKE | le 08/03/2005 à 20:07

こんばんわ。お久しぶりです。
だれか、経済学の先生に、こういった場合の経済損失についての論文なんかを出していただけるとありがたいですね。僕も、小倉先生の仰るように、2枚目のCDを買うことはしませんので、損失の発生を観念できるのか非常に疑問です。

著作権法については殆ど分かりませんが、音楽業界のやり方を見ていると、政府税調みたいに、取れるところから、取ってやる、と言う印象を受けます。

Rédigé par: こう | le 08/02/2005 à 00:02

そもそも、レンタル自体認めている訳ですから、
それに対しての経済的損失うんぬんということ自体に疑問を持ちます。
実際レンタルに関しては期限などもある訳ですし。
レンタル用CDをつくって、それのみコピーコントロールすると言う方法も考えられると思います。
なので、レンタルCDに関しての経済的損失は、
ipodなどのプレーヤーが負うべきではなく、
レンタルを許諾している当事者が負うべきと思っています。

だいたい、レンタル屋のレジ脇にCD-R置いてあるのを見ると気分が悪くなる。
あ、自分はCDはレンタルしないもので。
アーティストに金払いたいから〜。

Rédigé par: 七節 | le 08/01/2005 à 00:13

正規に購入したCDであっても、
それを一回聞く毎に使用料が徴収できるならば、もっと儲かるじゃないですか。
何回聞かれても金が入ってこないのは、経済的な損失ですよ。
楽曲を記憶されて、思い出されても、金が入ってきません。これって経済的な損失ですよね。

メディアシフトでも、再生でも、想起でも、金が取れれば経済的な利益が得られるじゃないですか。金を取る方法さえ確立できれば、大儲けですよ。

人間の脳からも私的録音録画補償金を取り立てたいですなぁ。

ということですよ。

Rédigé par: shino | le 07/31/2005 à 09:08

いつも拝見させていただいております。

私的録音録画補償金の話を考える時にいつも気になるのが、「正規に買ったCD」と「レンタルしたCD」の問題なのです。

正規に買ったCDをipodに入れる場合、それは単なるメディアシフトですから何の経済的損失も発生しませんが、
レンタルしたCDをipodに入れる場合、本来購入することによって得られる利益が得られないという観点から損失が発生するとも考えられるような気がします。

秋のパブコメに向けて自分なりの意見を整理しているところなのですが、この問題が整理できず、未だに賛否が決められません。

レンタルCDをipodに入れる場合の経済的損失についてどう考えるか教えていただけますでしょうか。

Rédigé par: 悩ましい | le 07/31/2005 à 08:29

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