« Q&Aのレベル | Accueil | フランスP2P合法化動議騒動の後日談 »

02/18/2006

Prof.Murai on Winny Trial

 慶應義塾大学環境情報学部教授の村井純先生が、Winny事件で証言したのだそうです。この件は、壇先生はもちろん、落合先生も触れています。

 村井先生は「効率の良い情報共有のメカニズムが、著作権法違反行為を助長させることに結び付くということは理解できない」と主張されたとのことです。しかし、効率の良い情報共有のメカニズムが、著作権法違反行為を助長させることに結びつくということは理解すべきでしょう。問題は、だからといって、著作権保護という要請を重視して「効率の良い情報共有のメカニズム」を断念しなければならないのかということでしょう。私もファイルローグ事件の被告側代理人を務めていましたから、そういうメカニズムを実現しようとしている側は、著作権法違反行為を積極的に助長させようと思っているわけではなく、著作者の経済的権益を保護するための従前のシステムと「効率の良い情報共有のメカニズム」とが互いに相容れないのであれば従前のシステムを改良して「効率の良い情報共有のメカニズム」と両立できるようにしてほしい(「効率の良い情報共有のメカニズム」への流れが押しとどめようがないのであれば、いずれ従前のシステムは見直さざるを得ない)という程度だろうということは予想することができます(それを「著作権システムを崩壊させる」という意図と結びつけようと言うのは無責任な周囲(特にマスメディア。ファイルローグのときはTBS。)であって、本人は周囲に煽られてオーバーな表現をしてしまうことはあっても、もともとコンテンツ産業に恨みがあるわけではありませんから、「著作権システムを崩壊させる」こと自体に積極的な意義なんて見出していないものです。)。

 そして、この問題は、2つの正義が衝突し、それをどこで調整するのかという話ですので、一方当事者のみが非常なリスクを負い、他方当事者または利害関係者の声が直接反映されず、かつ判断者が当該正義について素人である刑事裁判において解決が図られるものではなく、公開討論やパブリックコメントなどを繰り返して様々な利害関係者の声を反映させた上で、立法的に解決されるべきものなのだろうと思います(もちろん、金子さんが匿名であったために、「刑事裁判」でしか議論の場を設けることができなかったという「事情」はあるわけですけど。)。

 村井先生はまた、検察側が、キャッシュやクラスタ化などのWinnyの個別の機能について、著作権法違反行為を助長させる目的を持って搭載されたものだと主張していることをどう思うかという質問に対して、これらの技術は「ネットワークの効率を上げるための洗練された技法であり、これを利用の目的と結び付けて考えるのは理解できない」と述べたとのことです。確かに、キャッシュ等の機能は、「ネットワークの効率を上げるための洗練された技法」といえそうです。ただ、金子さんのWinny開発の動機が匿名性の保障の側にある以上仕方がない面はあるにせよ、匿名性を排除しつつキャッシュ等の「ネットワークの効率を上げるための洗練された技法」を導入することも可能だったのではないかという気はします(例えば、特定のファイルをWinnyネットワークの外からWinnyネットワーク内に持ち込んだユーザーについてはそのID情報をメタデータとして暗号化の際に当該ファイルにくっつけるとか。)。

 なお、村井先生は「情報システムにおいては匿名性の確保は追及すべき重要性の高い技術だと説明。プライバシーの保護や、電子投票のシステムなどを考える上で、どのように匿名性を担保するのかといった研究は広く行なわれているとした」とされています。ただ、電子投票システムを考える上で必要となる匿名性とWinnyによってシステム的に保障される匿名性とは性質が異なるのは気になるところです。つまり、電子投票システムでは、個々の投票に関してその投票を行ったのがどこの誰であるのかを開票システム側で正確に把握する必要があります(投票権がない人による投票を排除したり、1人で複数回の投票を行うことを排除したりしなければなりません。)。電子投票システムにおいて要求される「匿名性」というのは、どこの誰がその投票を行ったのかという情報と、その投票の内容がいかなるものであったのかという情報とを切り離すという限度で認められるべきものです。proxyを多段階に経由させることによって誰がその情報のOriginであったのかをわからなくすることを志向するWiinyとはだいぶ方向性が異なるのではないかと思います。

【今日聴いた曲の中でお勧めの1曲】


Sing For Absolution

 by Muse

Posted by 小倉秀夫 at 11:18 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

TrackBack


Voici les sites qui parlent de: Prof.Murai on Winny Trial:

Commentaires

Winnyは、一国の首相に被害の言及をさせたり、マイクロソフト社が特別の対策を実施するほど「効率の良い情報漏えいシステム」です。
こうなることをどうして作者のような優秀な技術者が予見できなかったのでしょうか?

Rédigé par: 小倉(コクラ)秀夫です | 16 mars 2006, 16:35:43

電子投票のシステムのあたりですが、その実現方法として、

1. 内容を見ずに、ある人が投票したことを証明するブラインド署名
2. 投票者が誰かと、その投票内容を切り離す匿名化

という二段階をとる方法があります。
このやり方における後者はWinnyがやっているものに近いもので、村井さんはこの後者の部分を指しているんだと思います。

Rédigé par: Aki | 2 mars 2006, 16:19:02

 ふと思ったのですが、Winnyのキャッシュ情報保持者は、プロバイダ責任制限法上の「特定電気通信役務提供者」に当たりそうな気がするのですが、どうなんでしょう。

Rédigé par: 森 | 1 mars 2006, 17:49:39

>電子投票システムを考える上で必要となる匿名性とWinnyによってシステム的に保障される匿名性とは性質が異なるのは気になるところです。

おっしゃる通りですね。
高木浩光さんなんかもご指摘なさっているように、Winnyの「匿名性を確保する技術」というのは、あくまで発信者を匿名にするための技術ですから、「表現の匿名性」を確保するためのものであって、情報システム論などで議論されるような「存在(消費生活)の匿名性」(例えばRFIDの問題とか)との関係性は殆どないでしょう。Winnyを擁護するために、匿名うんぬんの話を持ってくるという村井氏のロジックは、まさに「表現の匿名性のために、消費生活の匿名性を人質にするようなもの」だと言えそうです。

Rédigé par: 福田 | 18 févr. 2006, 20:32:10

L'utilisation des commentaires est désactivée pour cette note.