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08/08/2006

技術革新の成果を市民が享受することへの配慮について

 まねきTV事件の仮処分却下決定は、ネット上でもそこそこ話題になっているようです。

 債務者側は、技術革新の成果を市民が享受することを著作権法が阻害する近時の裁判例の流れが変わることを祈って、準備書面の一節に下記のような文章を織り込んだわけですが、これが功を奏したのであれば、これ以上の幸せはないといったところです。


第5  技術革新の成果を市民が享受することへの配慮について

1 米国の連邦最高裁判所は,技術革新により著作物の新しい利用が可能となった場合に,裁判所がこの可能性を摘み取ることには非常に慎重である。それは,いわゆるベータマックス事件最高裁判決(Sony Corp. v. Universal City Studios, 464 U.S. 417 (1984))をみても明らかであるし(この技術革新の結果、従来在宅しなかったために視聴できなかった者がベータマックスにより情報にアクセスできるようになったという点を積極的に評価している。),結果的に新しい技術の提供者に法的な責任を認めたグロックスター事件最高裁判決(MGM Studios, v. Grokster, Ltd., (04-0480) 545 U.S. ; 125 S.Ct. 2764 (2005))においても,グロックスター社がその提供するソフトウェアを用いて利用者が違法行為を行うことを積極的に誘引したという事実が認定されて初めて法的責任が認められたのであり,逆にいえば,そのような事実認定なしにはグロックスター社に法的責任を認める判決は下されなかった(高裁の判断がまさにそうである。)。

 2 他方,日本の裁判所はこれまで,技術革新の結果著作物の新しい利用が可能となった場合に,裁判所がこの可能性を摘み取る危険を十分に考慮してきたとは言い難い。その結果,一般市民が,専ら自分がいい気分に浸りたいがために酒場や小部屋で歌を歌うことすら音楽著作権管理団体にお金を支払わなければ許されず(平成18年6月3日にエンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク主催で行われたシンポジウムにおける社団法人日本音楽著作権協会企画部長北田暢也氏の説明によれば,米国では,カラオケ等での客の歌唱について音楽著作権管理団体は料金を徴収していないとのことである。),テレビ番組の録画用機器を共同住宅の所有者間で共有しコストを下げることも許されないという事態になり,また,テレビ番組の受信・録画機能のあるコンピュータを用いて海外在住者が日本のテレビを視聴することも許されないという事態になりうる危険がある。

 では,技術革新の成果を市民が享受することに配慮が行われてきた米国と,市民の利益への配慮が十分でなく,技術革新の波から著作権者等の言わば既得権者を守ってきたと言える日本とを比較した場合に,米国のクリエイターたちは創作のインセンティブを失った結果,国際競争力のある良質なコンテンツを創作しなくなったかとか,他方,創作のインセンティブを裁判所から十二分に保障してもらった日本のクリエイターたちは国際競争力のある良質なコンテンツを次々と創作するようになったかというと,実際はその正反対である。著作権者等を過大に保護することは,結局,文化の発展に貢献していないと言わざるをえないのではないだろうか。

 本件においても,債権者らは,本件仮処分が認容されないと大変なことになるということを縷々主張していたが,債務者がその主張について具体的な根拠を問いただしても答えず,債務者がその主張に対して具体的に反論をしても再反論をしなかった。それは,「NHKや東京キー局等の『強者』」対「技術革新の成果を生かして消費者に利益をもたらす新たなサービスを提供し始めた『弱者』」という構造において,日本の裁判所が「強者」の保護を続けてくれると信じているからとしか考えられないところである。

 現在までの技術革新の成果を利用して訴外ソニーが実現した「ロケーションフリー」という新たなTVの視聴スタイルは,ハウジングサービスと組み合わされることによって,より多くの日本国民に「TVを通じて知る権利」の実質化に貢献することとなる。そして,そのことによって債権者らの利益が実質的に害されることはない。したがって,米国の連邦最高裁判所であれば,債務者による本件サービスを違法とする判決が下されることは考えがたい。では,日本の裁判所はどうなのだろか。米国の連邦最高裁判所と同様に,技術革新が国民の福祉にもたらす成果を正当に配慮するか否かが本件では問われていると思われる。

Posted by 小倉秀夫 at 12:01 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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