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01/26/2007

レジュメ on Winny

昨日、東大のコンピュータ法研究会と、ソフトウェア情報センターの研究会とで、Winny事件地裁判決についての研究発表をしてきました。

下記は、そのときのレジュメです。







京都地裁平成16年(わ)第716号 著作権法違反幇助被告事件について




弁護士 小倉 秀夫




罪となるべき事実





被告人(X)は、送受信用プログラムの機能を有するファイル共有ソフトWinnyを制作し、その改良を重ねながら、自己の開設した「Winny
Web Site」及び「Winny2 Web Site」と称するホームページで継続して公開及び配布をしていたものであるが、

Yが、法廷の除外事由なく、かつ、著作権者の許諾を受けないで、平成15年9月11日から翌12日までの間、愛知県松山市○○町○丁目○番○号の同人方において、別表記載の各著作権者が著作権を有するプログラムの著作物である「スーパーマリオアドバンス」ほか25本のゲームソフトの各情報が記録されているハードディスクと接続したパーソナルコンピュータを用いて、インターネットに接続された状態の下、下記各情報が特定のフォルダに存在しアップロード可能な状態にあるWinnyを起動させ、同コンピュータにアクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし、上記各著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害して著作権法違反の犯行を行った際、これに先立ち、同月3日ころ、Winnyが不特定多数者によって著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する情報の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら、その状況を認容し、あえてWinnyの最新版である「Winny
2.0 β6.47」を東京都文京区△△町△丁目△番△号の被告人方から前記「Winny2 Web Site」と称するホームページ上に公開して不特定多数者が入手できる状態にした上、同日頃、上記Y方において、同人にこれをダウンロードさせて提供し、

もって、Yの前記犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。





補足説明



1.訴因不特定

(弁護人らの主張)

 検察官がXの行為として特定したのはWinny2のβ版を公開したのみであって、幇助に該当する具体的な行為が特定されていないのであるから訴因の特定を欠き、本件は公訴棄却されるべきである。



(裁判所の判断)

 起訴状記載の公訴事実は、Xが公開した対象であるWinny2をそのバージョンを含めて特定し、Xがこれを公開した日や、X自身が開設したホームページ上に公開するという具体的な方法、態様についてまで記載されているのであって、幇助に該当する行為は具体的に特定されているというべきである。



2.著作権侵害罪と幇助

(弁護人らの主張)

 著作権法120条の2に関する法改正の経緯等からすると、著作権法は同法120条の2で処罰される場合を除いては、技術の提供による間接的な関与行為に止まる場合を処罰の対象とはしておらず、著作権法は刑法総論の幇助犯による処罰を予定していないものと解すべきである。



(裁判所の判示)

 刑法62条1項の幇助犯に関する規定は、刑法以外の法令の罪についても、その法令に特別の規定がある場合を除いて適用されるのであり(刑法8条)、かつ、著作権法には、刑法総則ないし刑法62条1項の適用を除外する旨の規定も存在しない。



3.不特定の者に対する幇助

(弁護人らの主張)

 刑法62条は、特定の相手方に対して行うことが必要であり、不特定多数の者に対する技術の提供は刑法62条の幇助犯にあたらない。



(裁判所の判示)

 刑法62条に、弁護人らが主張するような制限が一般的に存するとは解されない。



4.幇助犯に対する告訴の要否

(弁護人らの主張)

 本件は、著作権法119条1号、同法23条違反の罪にかかる事案であり、同罪は同法123条によって親告罪とされているところ、本件においてXに対する告訴の事実が認められない。著作権者は他人に対してその著作物の利用を許諾することができる(著作権法63条1項)のであるから、その処罰意思に関しても相手ごとに判断されるべきであり、本件においていわゆる告訴不可分の原則を採用することは著作権法の趣旨に反するものであって、Yに対する告訴はXに対して効力を生じない。



(裁判所の判示)

 著作権者によってなされた告訴の効力がどの人的範囲に認められるかという問題と、著作権者が誰に対して著作物の利用を許諾したかということは、明らかに場面を異にするものであって、弁護人らの主張は独自の見解といわざるを得ない。



5.Yの正犯性

(弁護人らの主張)

 Y方にあったパソコンのアップフォルダには、捜索差押えの時点で、本件ゲームデータファイルは存在しなかったこと、京都府警によるダウンロード実験でダウンロードしたファイルは、同じキャッシュを有する他のパソコンをYのパソコンが中継したに過ぎない可能性があるから、Yには著作権法違反の正犯が成立しない。



(裁判所の判示)

 Yは、本件ゲームデータファイルをアップロードしていたかどうか直接明らかにはしていないが、アップロードをしていた理由としてダウンロード効率を上げるために多くのファイルをアップロードしていたことや、ファイルをインターネット上で見つけてきてそれをアップロードし、そのファイル数が増えること自体がうれしかったなどと述べていることからすれば、Yは本件ゲームデータファイルについてもアップロード可能な状態にして、これを蓄積していたものと考えるのが自然である。

 また、Winnyにはファイル転送に関して中継機能が存するが、Winnyのファイル転送は原則として直接なされるというのであり、中継が発生するのは4%程度と例外的であること、Yは捜索差押えを受ける日の近い時期にOSを再インストールことをしたことがあることなどを合わせて考慮すれば、上記ダウンロード実験によって本件ゲームデータファイルがダウンロードされた以上、Yがその時点において本件ゲームデータファイルを故意に公衆送信可能な状態に置いておいたものと認められる。



7.Xに対する著作権法違反幇助の成否

(1) 助長行為の有無

(弁護人らの主張)

 Xの行為は、正犯の客観的な助長行為となっていない。



(裁判所の判示)

 Xが開発・公開したWinny2がYの実行行為の手段を提供して有形的に容易ならしめたほか、Winnyの機能として匿名性があることで精神的にも容易ならしめたという客観的側面は明らかに認められる。



(2) 価値中立的な技術の提供と幇助の成否

(弁護人らの主張)

 WinnyはP2P型ファイル共有ソフトであり、それ自体はセンターサーバを必要としないP2P技術の一つとして様々な分野に応用可能で有意義なものであって、Xがいかなる目的のもとに開発したかにかかわらず、技術それ自体は価値中立的であること、さらに、価値中立的な技術を提供すること一般が犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助犯の成立範囲の拡大は妥当でない。



(裁判所の判示)

 価値中立的な技術を実際に外部へ提供する場合、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、さらに提供する際の主観的態様如何によると解すべきである。

ア.技術の社会における現実の利用状況

 ACCSにより平成16年4月になされたファイル交換ソフト利用実態調査によれば、ファイル共有ソフトにより利用されているコンテンツのうち、著作権等の対象になり、かつ、著作権者の許諾が得られていないと考えられるものは、音楽ファイルで92パーセント、映像ファイルで94パーセント、ソフトウェアで87パーセントであった。

 平成15年9月ころまでには、インターネットや雑誌等において、ファイル共有ソフトが著作物の流通に著作権者に無断で相当程度利用されている旨の情報が流れており、Winnyに関しては、逮捕されるような刑事事件となるかどうかの観点から安全である旨の情報も多数流れていた。

イ.上記利用状況に対する認識

 Xは、Winnyが一般の人に広がることを重視し、ファイル共有ソフトが、インターネット上において、著作権を侵害する態様で広く利用されている現状をインターネットや雑誌等を介して十分認識しながらこれを認容していた。

 そして、Winny2がP2P型大規模BBSの実現を目的としたものであり、 Winny1との互換性がないものであるとしても、Winny2にほぼ同様のファイル共有機能が備えられていることや、上記の「Winnyの将来展望について」が平成15年10月10日付のものであることなどからすれば、本件で問題とされている同年9月ころにおいても、同様の認識をしてこれを認容し、Winny2の開発、公開を行っていたものと認められる。

ウ.提供する際の主観的態様

 Winnyによって著作権侵害がインターネット上にまん延すること自体を積極的に企図したとまでは認められないが、著作権を侵害する態様での利用が広がることで既存のビジネスモデルとは異なるビジネスモデルが生まれることも期待しつつ、Winnyを開発、公開した。

cf. 「既存のビジネスモデル」

     パッケージベースのデジタルコンテンツビジネスモデル

  「既存のビジネスモデルとは異なるビジネスモデル」

     コピーフリーでも成り立つコンテンツモデル



(3) 結論

 本件では、インターネット上においてWinny等のファイル共有ソフトを利用してやりとりがなされるファイルのうちかなりの部分が著作権の対象となるもので、Winnyを含むファイル共有ソフトが著作権を侵害する態様で広く利用されており、Winnyが社会においても著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ、効率もよく便利な機能が備わっていたこともあって広く利用されていたという現実の利用状況の下、Xは、そのようなファイル共有ソフト、とりわけWinnyの現実の利用状況等を認識し、新しいビジネスモデルが生まれることも期待して、Winnyが上記のような態様で利用されることを認容しながら、Winny2.0β6.47を自己の開設したホームページ上に公開し、不特定多数の者が入手できるようにしたことが認められ、これによってWinny2.0β6.47を用いてYが、Winnyが匿名性に優れたファイル共有ソフトであると認識したことを一つの契機としつつ、公衆送信権侵害の実行行為に及んだことが認められるのであるから、Xがそのソフトを公開して不特定多数の者が入手できるように提供した行為は、幇助犯を構成すると評価できる。



検討



1.Winnyの公開とYによる自動公衆送信との因果性

 XによるWinny2の公開は、Yによる本件ゲームデータファイルの自動公衆送信を容易ならしめたといえるか。

(1) 幇助の因果性

 正犯の実行に必要不可欠であることは要しない が、物理的にまたは心理的に正犯の犯行を促進することは必要である 。

(ア) 物理的因果性

 XによるWinny2.0β6.47の公開は、Yによる本件ゲームデータファイルの自動公衆送信を物理的に容易ならしめたといえるか。

・ 一般に、実行行為の手段を正犯に提供する行為は、幇助としての物理的因果性を持つ。

・ (適法な)代替的給付がある場合にも物理的因果性を認められるか。

  XがWinny2(ないしWinny2.0β6.47)を公開した時点では、本件ゲームデータファイルを含むデジタルデータを自動公衆送信するためのソフトウェアは他にも広く出回っていた(WinMXやWinny1、あるいはWinny2.0のβ6.47より前のバージョン等)のであり、かつ、Yはこれら同種ソフトウェアを容易に入手することが可能であった(あるいは、既に入手していた。)。したがって、XがWinny2.0β6.47を公開しなかったとしても、Winny2.0β6.47以外のソフトウェアによって、本件ゲームデータファイルを自動公衆送信していた可能性がある。その場合に、XがYに対してWinny2.0β6.47を自動公衆送信することは、Yによる本件ゲームデータファイルの自動公衆送信を物理的に容易にしたといえるのか。

  

(イ) 心理的因果性

・ 一般に、実行行為ないしその行為者の発覚を困難とする行為は、そのことを正犯が認識している場合には、正犯の犯罪意思を維持・強化・喚起することに繋がるので、幇助としての心理的因果性を持つ


・ Winnyの場合、ファイルの位置情報等が要約された「キー」が一定の割合で書き換えられ、書き換えられたキーをもとにダウンロードがなされると、もともと当該ファイルのあったパソコンとは別のパソコンにファイルが複製され、この複製されたファイルがさらにダウンロードされるという「中継機能」を有しており、これによって当該ファイル情報の一次発信者が誰であるのかが判別できなくなることから、情報発信主体についての匿名性が確保されるという仕組みが採用されていた。しかし、実際には、中継が発生するのは4%程度と例外的であり、実際Yについては、ダウンロード実験中の警察官のパソコンに対して直接ファイル転送を行ってしまったために、氏名等が明らかにされてしまった。このような場合にも、「実行行為ないしその行為者の発覚を困難」としたとして、心理的因果性を認めることができるのか。

・ インターネット上での情報送信を行うことによる犯罪について、「実行行為ないしその行為者の発覚を困難とする行為」とは、誰のいかなる行為か。送信時刻と送信時のIPアドレスが秘匿されていなくとも、利用者の「戸籍上の氏名と住民票上の住所」が登録されていなければその匿名性により既に「実行行為ないしその行為者の発覚」が困難となっている(cf.ファイルローグ事件)のだとすれば、XによるWinnyの公開はことさら「実行行為ないしその行為者の発覚を困難とする行為」とは言えないのではないか。

(ウ) インターネット関連サービスと幇助の因果性























心理的因果性あり

心理的因果性なし

物理的因果性あり

Winny、2ちゃんねる、freemail、匿名Proxyサーバ

実名強制型SNS、企業向けレンタル・サーバ

物理的因果性なし

Whois Protect Service










2.中立的行為と幇助

 Winny(ないしWinnyを含むファイル共有ソフト)により自動公衆送信され得るデータファイルは、その著作権者等の意に反して自動公衆送信されたものに理論的に限られないし、実際、著作権者等の許諾のもとに自動公衆送信されているものもそれなりに存在している。

 このように、適法行為にも違法行為にも同様に利用され得る行為(中立的行為)について、それが違法行為に利用されたときには、未必の故意が認められる限り、幇助犯としての責任を理論的には負うのか。それとも、さらに何らかの条件を満たしたときに初めて幇助犯が成立するとすべきか。



a.幇助の「故意」については、確定的故意に限定する。

b.正犯者が既に犯行を決意しているか、決意を抱く客観的な兆候が存在していたことの認識、あるいは自己の行為がそれ自体正犯者に犯行を決意させるに足りるものであることの認識がある場合に限り「故意」を認めるべきであるとする。

c.「『故意』ありといえるためには、結果発生のある程度高い可能性(=蓋然性)を認識していなければならない」とする蓋然性説、または、「結果発生の蓋然性を認識しつつ、その認識を反対動機としなかった場合には未必の故意を認めてよい」とする修正された動機説を採用して、結果発生のある程度高い可能性(=蓋然性)を認識していなかった場合には幇助の故意がないとする。

d.不特定の者に対する教唆が認められないのと同様に、不特定の者に対する幇助も認められないとする。

e.適法行為にも利用され得る行為であることを重視して(あるいは蓋然性及び結果の重大性等により利益考量した上で)、正当行為として違法性を阻却することとする(cf.ベータマックス訴訟やグロークスター訴訟も?)



本判決の位置づけ

・ 不特定多数人に物・役務を提供する場合には、個々の正犯ごとに犯罪結果を生じさせることの蓋然性の認識・認容ではなく、不特定多数人がその物等を利用して犯罪結果を生じさせる蓋然性の認識・認容で足りるとしている。

・ 「さらに提供する際の主観的態様如何による」とするが、いかなる主観的態様の場合に幇助責任を問うのか(あるいは問わないのか)は明らかではない。



3.今後の課題

 では、今後P2Pファイル共有システム・ソフトを公衆に提供しようという人・企業はどうすればいいのか。

Posted by 小倉秀夫 at 01:12 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Commentaires

エントリーと関係のないコメントで申し訳ありません。
2ちゃんねるの投資板のこのスレで小倉先生の名前が度々出ております。
お差し支えないようでしたら、真偽の程を教えていただきたくコメントいたしました。
なお、私のサイトには簡易メールを設定しておりますのでそちらへのお返事でも結構です。

該当スレ
http://live25.2ch.net/test/read.cgi/market/1169886888/427-500

該当レス
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Rédigé par: nami | 29 janv. 2007, 18:58:30

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