Winnyシンポ
たまたま選撮見録事件の控訴審(高裁での口頭弁論が終結し、判決言渡しが6月14日に指定されました。)の関係等で大阪に行く機会があったので、2月17日に大阪弁護士会で行われたWinnyシンポジウムに出席してきました。
そこには、岡村先生や奥村先生や落合先生や町村先生等の「いつもの顔」がありました。
Winny事件地裁判決については、既に東大とSofticとで研究発表していることもあり、このシンポジウムには参加しないような法学研究者や法律実務家の感想というのも私は聞いていました。そういう観点から見ると、現状の方針では高裁で逆転無罪を勝ち取るには厳しいのではないかという感想を持ちました。
まず、Winnyにおいて「キャッシュ」といわれている仕組みは何のために用意されたのかという質問を、両研究会において受けたわけですが、実際、第1放流者のIPアドレスを隠蔽する必要性というのが「Winny」における「ファイル共有」には見いだしにくいと思います。もちろん、金子さんの本には「プライバシー保護」というお題目を掲げているし、壇先生は「IPアドレスもプライバシーの対象でしょう」とはおっしゃるのですが、その漠然とした「Winnyネットワークに放流するファイルが違法性を欠くものであったとしても第1放流者がIPアドレスを知られたくない」という希望に叶えることが、第1放流者のIPアドレスを隠蔽することにより著作権侵害ファイル等の違法ファイルの放流を助長してしまうというデメリットを凌駕するほどの社会的な利益として認めてもらえるのかというと、少なくとも日本の高等裁判所、特に刑事部では難しいのではないかという気がしています。
また、Winny2において、Winny1のそれよりは機能的に劣るものであるとはいえ、ファイル共有機能を付加した理由というのも、説得的に説明できていないなあと思いました。電子掲示板の管理に必要な「ネットワーク上から特定の情報を消去する機能」が完成したのでそれをファイル共有部分にも応用してみたというのであればそれを全面に押し出せばいいわけですが、そうでないのであれば、既にWinny1で実験を完了しているはずのファイル共有機能をWinny2に実装した動機を「実験目的」という言葉で押し切るのは難しいのではないかと思いました。
Posted by 小倉秀夫 at 12:25 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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Commentaires
判決内容についての誤導・誤解を招かないためには判決文を公開されるのがいいと存じます。
Rédigé par: 奥村(大阪弁護士会) | 23 févr. 2007, 12:59:57
「社会的相当性」論による違法性阻却など狙わないという弁護方針ならばそれはそれで一つの見識だとは思いますが(学説が批判するとおり、確かにアドホック的な利益考量に依存するので、予測可能性に欠けますから)、ただ、Winnyに判決が指摘するような特徴を持たせた、「違法なファイルの流布を安心して行えるようにするため」以外の積極的な理由を説得的に主張していかないと、無罪を勝ち取るのは現実問題として難しいのではないかと弁護士として感じたまでのことです。
Rédigé par: 小倉秀夫 | 20 févr. 2007, 12:06:44
> Winny事件地裁判決は、技術の価値中立性及び有用性は認められております。
検察は控訴していると思いますが、そもそも上記の表現は「Winny事件地裁判決は、金子氏を有罪と認めています」というのと同じではないでしょうか。
“技術者”の高木浩光氏は、この点について解説されなかったのでしょうか。
Rédigé par: mohno | 19 févr. 2007, 21:49:15
たしかに、判決の理解は人それぞれかもしれません。
小倉先生が匿名性の否定に引き寄せて独自の判例解釈をされることに対しては、おそらく何らかの高尚な意図があるとは推察いたします。
私は、シンポでの指宿先生の講演をお聞きになられたらわかりますように、幇助の成否に関する先生のお考えは決して一般的ではないということを読者に誤解の無いように示した次第です。
さらに、判決は、Winnyの機能の有意義性については、特定の機能に限定した記載になっておりませんことも申し添えます。
失礼申し上げました。
Rédigé par: Toshimitsu Dan | 19 févr. 2007, 19:21:43
壇先生へ
判決文を読む限り、「Winnyの技術的内容」として「P2P型ファイル共有ソフトであること」と並んで「匿名性」が認定されており、さらに正犯の「各実行行為における手段を提供して有形的に容易ならしめたほか、Winnyの機能として匿名性があることで精神的にも容易ならしめたという客観的な側面は明らかに認められる」と判示しています。したがって、「Winnyに匿名性技術があるとして有罪とされたわけではありません」との点は必ずしもあたっていないように思います。
さらに判決文を読むと、「WinnyはP2P型ファイル共有ソフトであり、……それ自体はセンターサーバを必要としないP2P技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義なものであって、被告人がいかなる目的のもとに開発したかにかかわらず、技術それ自体は価値中立的である」との認定はなされており、Winnyの機能のうち「センターサーバを必要としないP2P技術の一つとして」の有意義性は認定されているものの、「Winnyの機能として匿名性があること」の有意義性は認定されておらず、結果として、Winnyを配布する行為に著作権侵害幇助の違法性を阻却するほどの社会相当性があるとの認定を勝ち取っていません(「社会的相当論」だとどうしたって利益考量論になっていくので、著作権侵害行為に広く活用されるというデメリットを超えるメリットを具体的に示して行かざるを得ないのではないかと思うのです。)。
Rédigé par: 小倉秀夫 | 19 févr. 2007, 17:13:46
Winny事件地裁判決は、技術の価値中立性及び有用性は認められております。
また、Winnyに匿名性技術があるとして有罪とされたわけではありません。
先生のご意見は、判決文を入手していない読者に対して著しい誤解を招くと思われますので、老婆心ながらご指摘させていただきます。
Rédigé par: ToshimitsuDan | 19 févr. 2007, 14:21:11