カラオケ業者の不当利得?
JASRACがカラオケスナック等に使用料相当金を突然がさっと請求した事案について裁判所の判決を見ると、ふと奇妙なことに気がつきます。不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償請求が一部時効消滅により却下されているのに、使用料相当金を不当利得としてそのJASRACへの返還をカラオケスナック等に命じている例が散見されるのです。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、加害者及び損害を知ったときから3年で時効消滅します。従って、JASRACの調査員がその店にカラオケ設備が備えられておりかつこれが客の用に供されていることを把握してから3年間が経過した後は、訴え提起の日から3年以上前の分については原則として時効消滅しているということになります(但し、時効期間経過前に裁判外で催告をしていた場合は、催告の日から6ヶ月以内に訴訟を提起した場合に限り、時効消滅を免れます。逆にいえば、訴えの提起の日から半年以内に内容証明郵便等で使用料相当金の支払いを催告していた場合には、その催告日の3年前以降の分については時効消滅していないということになります。)。
これに対し、不当利得返還請求権は、債務者に不当利得が生じたときから10年で時効消滅します。だから、いくつかの下級審裁判例がそうしているように、これらカラオケスナック等(Y)がJASRAC(X)に無断でカラオケ業を営んだ場合にYに使用料相当の不当利得が発生しているとするならば、訴え提起の日から10年前以降の分についてなおも請求できるということになります。しかし、よく考えてみると、これはおかしな話です。
XのYに対する不当利得返還請求権の要件事実は、
- Yに利得が発生したこと
- Xに損失が生じたこと
- 1.と2.との間に因果関係があること
- 1.〜3.につき法律上の原因がないこと
では、YがXの許諾を得ることなしにカラオケスナックを営みその管理の下で客にXの管理著作物を歌唱させたことにより、XはXの定める著作物使用料相当の損失を被ったのでしょうか。
まず、著作権法114条3項は「著作権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。」と規定しており、ここでいう「損害」は「賠償」の対象としての「損害」をいうことは明らかです。従って、不当利得返還請求(703条等)の対象となる「損失」の額について同項を適用して「みなし」を行うことはできません(704条後段の「損害」は「賠償」の対象ですから、これを賠償する義務の本質は不法行為であり、3年で時効消滅します。)。
従って、XがYに対し不当利得の返還請求を行うためには、Yが営利目的でその管理の下で客に管理著作物を歌唱させたことによりXに実際に生じた「損失」の価額を具体的に主張立証しなければなりません。従来の下級審裁判例は、使用料(それも包括的利用許諾契約が締結された場合の月額使用料率!)相当の損失がXに生じたと漫然と認定してきたわけですが、上記Yの行為によりXの売上げ等は減少しませんし、XはYに対して使用料相当損害金を請求しうるわけですから、使用料相当の損失がXに生じたと見るのはおかしいのではないかと思います(損害賠償義務を不法行為者が任意に履行してこないことをもって「損失」と解して不当利得返還請求権を認めてしまうと、不法行為について短期消滅時効を特別に定めた趣旨が蔑ろになってしまいます。)。
Posted by 小倉秀夫 at 01:09 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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Commentaires
自分のカキコミ読み返しましたら↓、文末にある「740万請求で月額8万円」というのは「840万請求で月額7万円」の間違いですね。かなり前のカキコミですけど、今気付いた次第で(汗
Rédigé par: COMAP墨田 | 23 août 2007, 22:06:39
>従って、XがYに対し不当利得の返還請求を行うためには、Yが営利目的でその管理の下で客に管理著作物を歌唱させたことによりXに実際に生じた「損失」の価額を具体的に主張立証しなければなりません。
やぱりですか!このへんはメチャメチャなんですよ。自分は司法というものがこの程度の事なの?とビビリましたですw
しかも、ライブハウス裁判の場合、包括利用額相当じゃないんですよ(泣
>従来の下級審裁判例は、使用料(それも包括的利用許諾契約が締結された場合の月額使用料率!)相当の損失がXに生じたと漫然と認定してきたわけですが、
「包括算定は契約後の優遇料金であって、違反者にこれを適用する必要はない、通常料金として個別一曲ごとを10年分総額計算で請求」→裁判所>OK了解、という論理ですね。こういうことなので、名古屋ライブハウス逮捕事件は1千万円以上の額になるんですね。あの場合、包括相当で計算したら絶対そんな金額になりません。ビートルズ逮捕事件もおそらく同じですね。たった33席の店で740万請求ですが、これ月額だと8万円です。包括料金でそのランクだとちょっとしたホール持った店ですよ。
Rédigé par: COMAP墨田 | 25 avr. 2007, 19:50:34