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06/24/2007

平成18年改正についての岸博幸さん危惧

 さらに、岸博幸さんネタを。

 岸さんは、著作権法の平成18年改正に関して、次のように述べています。

 第1は、IPマルチキャスト放送を行う事業者のみならず、個々のユーザーの要求に応じて配信するストリーミングで映像コンテンツを流す者も、地域を限定すればこの特権の対象となり得る、ということだ。

 これは、著作隣接権を有する実演家にとっては大問題である。技術に詳しい人ならばストリーミング配信を行うことは簡単なので、極端に言えば、無数の人が実演家の許諾なしに映像コンテンツを流せるようになる。実演家は、それらをいちいち突き止めて報酬を請求しないといけなくなるが、そのようなことは事実上不可能だ。

 第2は、IPマルチキャスト放送に与えられる権利処理の特権の対象が、地上デジタル放送に限定されていない、ということだ。その結果、例えばCS放送の音楽チャンネルやラジオ放送などもIPマルチキャスト放送で再送信できるようになるので、特に音楽の実演家の立場からは、自分が演奏した曲が許諾なしで無制限に流され、そのたびに報酬を請求しないといけなくなる。

 この2点はいずれも著作権法改正法案の第102条3項にからむもので、法案の文言を素直に読めばそう解釈できてしまう。


 改正著作権法102条3項で実演家の隣接権が制限されるのは、「著作隣接権の目的となっている実演であって放送されるもの」ですから、岸さんが仰るように「個々のユーザーの要求に応じて配信するストリーミングで映像コンテンツを流す者も、地域を限定すればこの特権の対象となり得る」とするためには、「個々のユーザーの要求に応じて配信するストリーミングで映像コンテンツを流す」行為が著作権法上の「放送」であることが必要です(普通に読めば、「有線放送」ではだめです。)。しかし、著作権法上の「放送」は、「公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信」をいう(2条1項8号)ですから、「個々のユーザーの要求に応じて配信するストリーミングで映像コンテンツを流す」行為が著作権法上の「放送」となる可能性はないように思います。著作権法は経産省の所管ではないとはいえ、こんなところで条文の読み方を間違えていて大丈夫でしょうか?

 後段についていえば、次のようなことが言えます。

 IPマルチキャスト放送を行うためには、放送事業者の著作隣接権としての送信可能化権を侵害することができないので(改正102条3項但書)、IPマルチキャスト放送の主体は放送事業者かまたは放送事業者から委託を受けた者に限られます。だから、適法なIPマルチキャスト放送の主体を見つけ出すのは、少なくとも芸団協等の実演家団体に所属しているアーティストにとっては容易なことです。
 そして、放送事業者は、実演家の許諾を得てCD等に収録した実演については、実演家の事前の許諾なくして放送することができる(92条2項)わけですが、その場合には、芸団協等の実演家団体を通じて二次使用料を支払わなければなりません。ですから、その放送をIPマルチキャスト放送する放送局に対しては、2次使用料を支払うための利用実績データに基づいて、IPマルチキャスト放送にかかる補償金を支払うように要求すれば済む話です(放送番組を制作する側からいえば、放送前に事前にすべての実演家から許諾を受けよといわれるとうんざりしますが、すでに放送した番組についてどの楽曲を使用したか報告せよといわれる分にはそれほどの手間ではありません。)。もちろん、立法技術としては、IPマルチキャスト放送の対価を「2次使用料」ではなく「補償金」扱いにしたのは稚拙だとは思いますが(「2次使用料」ならば、個々の実演家からの委任等がなくとも、芸団協等の実演家団体が一括して請求し、これを個々の実演家に分配することができたのに対し、「補償金」だと建前上は各実演家が権利行使をする必要があります。)、実演家団体として放送事業者側と上記のような交渉をすることにより、権利行使費用はさほどかけないことが可能です。

Posted by 小倉秀夫 at 04:26 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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