「IT事業者対アーティスト」なのか?「IT事業者対レコード会社」なのか?
岸博幸さんがエイベックスの特別顧問だということを考えると、経産省のOBであるにもかかわらず、岸さんが文化庁のOBのような発言をしていた理由も納得がいきます。
法律の内容として、デジタルコンテンツに関する著作権の登録制度を設立すべきといった主張がすでに出ているようだが、もし、一部報道にあったように、デジタル流通のためにコンテンツを創作するアーティストの著作権や著作隣接権を制限するような内容となった場合、この法律は必ずや権利者の感情を逆撫でし、デジタル流通の優遇が結果的にコンテンツ制作に悪影響を及ぼすことになるであろう。
コンテンツのバリューチェーンは、簡単に言えば“制作—流通(アナログ—デジタル)”である。その一部分であるデジタル流通の振興に目が行き過ぎて、肝心の制作のインセンティブが低下したら元も子もないのではないか。
しかし、現在の日本の音楽業界の実務では、コンテンツを創作するアーティストは、作詞家、作曲家はもちろん、実演家だって、自分の作品をデジタル流通させるか否か、させるとすればどのメディアを用いてデジタル流通させるのかについて、これをコントロールする権限を有していません(著作権法上は、実演家にも送信可能化権が認められていますが、レコード会社のひな形を用いて契約すると、この送信可能化権を取り上げられてしまいます。)。
従って、自分の楽曲をデジタル流通させるか否か、させる場合にどのメディアで流通させるかをコントロールできなければアーティストが制作のインセンティブを低下させてしまうのであれば、実演家の送信可能化権につきレコード会社が譲渡を受けまたは排他的包括利用許諾を受けることを強行法規で禁止する必要があるのでしょうし、それ自体は制作のインセンティブを低下させないのであれば、「送信可能化」について禁止権から報酬請求権へと変更することによりデジタル流通側の権利処理コストを低下させても「元も子もない」ことにはならないということができます。
実際には、音楽コンテンツのデジタル流通の阻害は、「レコード(CD)をプリントし頒布する」という方法でコンテンツを流通させていたレコード製作者がそれ以外の方法で音楽コンテンツを流通させることを禁止する権利を有していること、並びに、自社が資本提携している業者以外の業者によるデジタル流通を排斥する方向でこの禁止権が非競争的に運用されていることに由来しています。デジタル流通を促進するための著作権・著作隣接権の制限といっても、実際には、レコード製作者の強すぎる権限を少し緩和する程度の話で、コンテンツを創作する側の権限を実際に縮小する話ではないのです。
しかし、岸さんの文章を読んでいると、あたかも、デジタル流通を促進するための著作権法改正が、「IT事業者対アーティスト」という利害対立問題だと思えてしまい、「IT事業者対レコード会社」という流通業者間の利害対立問題だということが視野から消えてしまいそうです。レコード会社の特別顧問としては良い仕事をしているというべきでしょうか。
PS.
Blood Red Shoesの「Its Getting Boring By The Sea」はなかなかの作品です。
Posted by 小倉秀夫 at 10:49 AM | Permalink
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Voici les sites qui parlent de: 「IT事業者対アーティスト」なのか?「IT事業者対レコード会社」なのか?:
» 情報通信政策を動かすレコード会社のロビイスト de 池田信夫 blog
小倉秀夫氏が、岸博幸氏のコラムを批判している。最初は「CDやDVDをレンタル店から安価で借りてデジタルコピーして、ネット上で違法配信するのが日常茶飯事になった」という岸氏の事実誤認の指摘だったが、彼がエイベックス・グループ・ホールディングスの非常勤取締役に就任することがわかり、問題は政治的な様相を帯びてきた。
岸氏は、もとは経産省の官僚で、竹中平蔵氏の秘書官となり、彼が総務相になってからは、その通信政策は実質的に岸氏が仕切った。去年の「通信・放送懇談会」を迷走させた張本人は彼である。竹中氏が辞任し... Lire la suite
Notifié: 24 juin 2007, 13:43:04
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携帯電話に音楽やゲームなどのコンテンツを配信する主要10社の今期連結経常損益は、6社が前期比で改善する見通しだ。高速データ通信を生かした新サービスへの対応が進み、既存サイトの会員数も一部で下げ止まりつつある。... Lire la suite
Notifié: 25 juin 2007, 10:02:29
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Commentaires
「レコード会社が本気で保護しようというアーティストは、レコード会社と契約したアーティスト」
→「レコード会社が本気で保護しようとする作品は、レコード会社と契約したアーティストによる作品」
自分で突っ込みそうになりましたが、わざわざ反論可能性を提供したのではありませぬ。
Rédigé par: mohno | 25 juin 2007, 09:14:48
「対アーティスト」≠「対レコード会社」と主張するなら、レコード会社はアーティストのことなど考えていないということを、アーティストに啓蒙する方がよいでしょうね(→ http://www.ymo.org/ とか)。
レコード会社が本気で保護しようというアーティストは、レコード会社と契約したアーティストなのですし、レコード会社は(おそらく)「アーティストが創作活動に専念できるように、最善の権利を確保する」というのでしょうから、そこに突っ込むよりも、「レコード会社に縛られている」(より正確には「リスナーのことを考えていないと思うレコード会社に縛られている」)アーティストのことなど放っておいて、「ネットの力」で“本物の”アーティストを発掘するように仕向けてはいかがでしょうか。
http://jp.techcrunch.com/archives/imeem-now-officially-legitimate/
私はミーハーなので、あまり同調はしませんが。
Rédigé par: mohno | 25 juin 2007, 05:04:31