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11/14/2007

私的録音録画小委員会中間整理に関する意見 in 2007

「私的録音録画小委員会中間整理に関する意見」についてのパブリックコメントも、先ほど文化庁に送信しました。


5 100頁以下、「第7章第2節 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて」


6 まず、正規商品の流通前に音楽や映画が配信され複製される例が紹介されるなど、正規商品等の流通や適法ネット配信等を阻害している実態が報告されたとあります(101頁)。

 しかし、正規商品の流通前に音楽や映画が配信される例は大きく二つにわけて考えるべきです。

 一つは、当面正規商品が流通する見込みのない場合です。例えば、事実上CD等が廃盤になってしまった音楽や、日本でデビューする予定のない海外アーティストの作品等がこれにあたります。この場合、「海賊版」がなかったとしても、権利者は正規商品等の流通によって利益を得る可能性がなかったわけで、権利者は「海賊版」の流通により何ら経済的利益を失っていないというべきです。

 もう一つは、正規商品の流通前に、正規商品のサンプル等を有する関係者が、これを配信してしまう場合です。これは主に、レコード会社等における内部統制の問題です。


 次に、レンタル事業者が権利者に支払う貸与使用料に私的録音の対価が含まれているかという点(102頁)についてですが、


  1.  貸与を受けたレコードを用いて消費者が私的録音を行うという実態があったからこそレコードの貸与を著作権法にて禁止する立法がなされたこと、

  2.  工業製品を貸与した場合に、当該工業製品に化体されている知的財産権の権利者にライセンス料を支払わなければならないとの観念は我が国には存在していないこと、

  3.  条約上も、著作物等について権利者に貸与権を付与するのは、貸与を受けた側において容易に正規商品と同様の複製物を作成しうる物に限定されており、著作権法により制限を受ける貸与はあくまで、複製行為の準備行為としての位置づけがなされていること

等を考慮すると、レンタル事業者が権利者に支払う貸与使用料には、レンタルされたレコード等を用いて私的複製物が作成されることによる経済的損失の補塡分が含まれていると考えるのが素直です(現時点でも、エンドユーザーは著作権者等の許諾なくして私的録音をなし得るので、エンドユーザーが私的録音をすることの対価を(レンタル事業者が代わりに)支払うというのは筋が違うので、その意味においては「レンタル事業者が権利者に支払う貸与使用料に私的録音の対価が含まれている」とはいえませんが、そのことと上記点とは別問題です。)。


 次に、違法録音録画物等からの私的録音録画を第30条の適用範囲から除外するとの点(104頁以下)についてですが、私はこれに反対します。理由は下記のとおりです。

  1.  著作権者等の許諾なくして自動公衆送信(送信可能化を含む。)されている著作物等には、正規商品が流通しておらず、適法ネット配信の対象となっていないものが多く含まれています。このようなものをダウンロードして私的に複製したとしても、当該著作物等の通常の流通を妨げることはありません(そもそも「通常の流通」自体がないのです。)。他方、このようなものについてのダウンロードまで禁止した場合には、日本国民は、当該著作物等の内容を知り、これを享受することにより幸福を追求する機会を奪われることになります。

  2.  ダウンロード行為を規制するためには、商業用レコードのレコード製作者又は商業用レコードに複製されている音楽著作物の著作権者若しくはそれらの著作権等を集中的に管理する団体に、証拠保全等の形で、国民が使用しているコンピュータ等を差し押さえて、同コンピュータに接続しているハードディスク等の中身及び同コンピュータの操作ログ等を精査する権限を与えることが必要となります。しかし、それは、国民のプライバシー権ないし思想・良心の自由を大いに侵害することとなります。

  3.  「中間整理」104頁では、「個々の利用者に対する権利行使は困難な場合が多いが、録音録画を違法とすることにより、違法サイトの利用が抑制されるなど、違法サイト等の対策により効果があると思われる」としていますが、その論拠は薄弱です。そのような薄弱な論拠をもとに国民の基本的人権を制約する立法を行うことが、我が国の憲法の下で許されるのか大いに疑問です。

  4.  ファイル共有ソフトを使用した違法複製物の送受信に関して言えば、プロバイダ責任制限法第4条第1項の発信者情報開示請求権を行使することによって氏名・住所等を探知することが可能な「送信者」を規制する方が圧倒的に楽です。なお、ファイル共有ソフトを通常の設定で使用する場合には、ダウンロードされた電子ファイルは「共有フォルダ」に蔵置されるので、受信者は即発信者となりますので、発信者としての側面を捉えて、損害賠償請求等を行えば済みます。


 また、違法録音録画物等からの私的録音録画を第30条の適用範囲から除外した場合に、違法録音録画物等から私的録音録画を行った者が支払うべき賠償金額は如何にして算定するのか、私的録音録画をした者が負うべき賠償義務と送信者が負うべき賠償義務との関係はどうなるのか(不真正連帯債務だとした場合に、送信者が行った弁済の効果は個々の私的録音録画者にどのように帰属するか)など不明な点が多すぎるように思います。


 最後に、第30条の適用から除外する場合の条件(105頁)についてですが、正規商品が流通しておらず、適法ネット配信の対象となっていないものについては、その私的録音録画を放置しても、著作権者等の経済的な利益を害するおそれが乏しい反面、これを私的録音録画することが違法とされると、当該情報を適法に入手する方法がなくなってしまい、知る権利等の国民の基本的人権が大いに制約されることとなってしまいます。従って、当該録音録画物に関して、正規商品が適切な対価を支払うことにより容易に入手可能な状態におかれていることを「第30条の適用から除外する場合の条件」に加えるべきだと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 06:29 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Commentaires

 マッシュアップやフリードメインの文化の敷衍を主張なさるなら、フリー素材の使用を呼びかければ良いだけの話です。欲をかいて、進んでそれ以外の物件に手を出し、あるいは食指を動かしするから、著作者やその私的業務的関係者の権利や感情を害し、揉め事にもなるのです。
 必然的に、著作物の同一性や公衆送信、頒布に将来的な権利と展望を持ち、一元的に厳しい管理を施す著作者の創作意欲も萎えるというものです。

Rédigé par: zero | 9 mars 2008, 01:39:18

例の初音ミクが木綿のハンカチーフを歌った動画が一昨日削除請求の基づきニコニコ動画が削除した、ということを知り、その権利者JASRACが削除を要請する権利を有しているのはわかっていますが、それがニコニコ動画に使用されたことにより、宣伝効果があるかもしれないと考えることはあっても、具体的な損害の発生というものが果たしてあるのか、自分にはただの権利濫用にしか思えないからです。
「法律は権利の上に胡坐をかくものを擁護しない」という格言がありますが、社会的に見て、現在価値のある(つまり商用として貨幣価値を生む)情報と、そうでないものを客観的に区別する必要がある時代になったのではないかと思います。
CDなのでは一定期間レンタルできないという制度があるようですが、それの準用のようなものなのでうが、商用を除き一定期間を経て著作物を一次生産した製品が著しく情報としての貨幣価値が落ちた場合、その私的複製に関してはパブリックドメイン扱いにしてよいのではないかと思います。
現在のようにその情報がすぐに一般的価値を持たなくなる時代に、すべての著作物を等価に扱い議論をすると、「著作権者の著作物の価値を保護する」ための法律でなくなり、あまりに現在の一般常識からかけ離れた法律になってしますのではないかと懸念するのです。
それだけが言いたい為に長々と書き込んでしまいました。

Rédigé par: 小宮隆生 | 19 nov. 2007, 23:49:01

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