純粋ダウンローダーに権利行使した例が見あたらない
mohnoさんが「ダウンロード違法化を無力化するには 」というエントリーの中で,
ちなみに「日本は終わりだ。外国に引っ越そう」みたいな話をしている人は、文化審議会の資料を読んでないのかな。違法著作物からの複製について、ドイツでは2003年に違法化されたみたいだし、フランスは(悪名高き?)スリー・ステップ・テストがあるし、そもそもイギリスでは娯楽目的で録画録音を認容する規定がないというし、アメリカのフェアユースにも該当しないだろうし、スペインでも私的複製から除外されているらしいし、カナダもアウトのようだ。違法とされていないのはオランダとオーストリアくらい。
と述べています。
ただ,かなりの点で外しているように思えてなりません。「スリー・ステップ・テストが導入されている→違法にアップロードされているサイトからのダウンロードは違法」とは必ずしもいえないし(例えば,事実上廃盤になってしまった楽曲や日本国内盤がない楽曲など,正規商品を入手することが困難なデータについては,(海外のサイトなどに)無許諾でアップロードされているデータを日本のユーザーが指摘しよう目的でダウンロードしたところで,「著作物の通常の利用を妨げず,その著作者の正当な利益を不当に害しない」と言えなくもないように思ったりします。),イギリスの場合判例法国なので,「娯楽目的で録画録音を認容する規定がない→娯楽目的の録音録画は著作権侵害」ということにはなりませんし(米国でも,フェアユースは,もともとエクイティ(衡平法)の一カテゴリーとして,判例法として発展してきた(後に,判例法をまとめる形で条文化)したわけですし,実際,英国でも,正規商品たる商用音楽CDを正規ルートで購入して,PC経由で,自分のiPodにリッピングすることは,禁止されていないようです。)。
また,違法サイトからのダウンロードがフェアユースに当たらないとした連邦高裁の判例として文化庁が紹介する事案というのは,ファイル共有に関する事案であって,我が国の法体系でいえば,法改正などしなくとも,送信可能化権侵害ということで,法的措置を講じうるケースだということです(ファイル共有者約3万人に対し訴訟を提起してきたRIAAですら,ファイル共有を伴わない純粋ダウンローダーをターゲットとした訴訟は提起していません。)。
しかし,日本の著作権等の権利者団体は,送信可能化も行うダウンローダーを摘発するだけでは不十分だということで,純粋なダウンローダーに対しても権利行使を行いたいとして,違法にアップロードされたファイルを私的使用目的でダウンロードする行為を違法化するように要求しているわけですから,米国よりも,かなり個人のプライバシーに踏み込んだ運用を想定していることは間違いありません。同時にアップローダーでもあるファイル共有者の摘発では飽きたらず,純粋なダウンローダーを探し出して権利行使するとなれば,純粋なダウンローダーのIPアドレスを,データの送受信の一方当事者ではない著作権者等が知る機会はありませんから,違法ファイルのダウンロード行為を行っている蓋然性が高いことを示す特段の資料なしに,任意の個人のパソコンの中身をまるごと押さえて精査するよりありません 注。
。
いまのところ,このように個人のプライバシーを大いに侵害することなしには権利行使することができない,純粋ダウンローダーの摘発に踏み切った国があることを私は知りません。文化審議会の思惑通りに法改正がなされれば,純粋ダウンローダーを取り締まるために,一般市民のプライバシー等JASRACとテレビ局にくれてやる,世界で最初の国に日本がなるということです。
注
mohnoさんは「ダウンロード違法化が実現しても、一般市民の情報プライバシー保護には厳重な配慮が必要だ」と言ってはいかんのか?
と仰いますが,この法改正自体一般市民をターゲットとしたものですし,一般市民のハードディスクの中にJASRACやテレビ局が著作権等を有する作品の複製物のどれとどれが蔵置されているかを精査するに当たっては,そのハードディスクを丸ごと精査するしかありません。つまり,この改正法により創設された権利を行使する限り,一般市民の情報プライバシー保護に配慮した運用というのはありえません。
Posted by 小倉秀夫 at 03:26 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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Voici les sites qui parlent de: 純粋ダウンローダーに権利行使した例が見あたらない:
» ダウンロード違法化は新たなビジネスを委縮させるか de mohno
(以前も同じことを書いた気がするけれど)前述した通り、私的録音録画小委員会で唯一の反対意見を示していたという津田大介氏のまとめ記事には、今回のダウンロード違法化についての問題提起はない。将来についても、「効果がないことがわかれば罰則規定が追加されるといった制限が厳しくなるかもしれない」という程度の懸念である。罰則規定が追加された場合に、どんな問題が起きるのかといった具体的な指摘もない。にもかかわらず、ダウンロード違法化によって「新しいビジネスが委縮する」と指摘する人がいる。これはおかしい。ダウンロー... Lire la suite
Notifié: 2 nov. 2008, 21:44:43
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Commentaires
ビデオゲーム大手アタリが無実の人に対してゲームソフトを不正コピーしたとして「振り込め詐欺」まがいの手紙を送る
http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200811011704
Rédigé par: 無七志 | 7 nov. 2008, 08:52:49
「違法ファイルのダウンロード行為を行っている蓋然性が高いことを示す特段の資料なしに,任意の個人のパソコンの中身をまるごと押さえて精査する」ことを許すべきだ・・なんて主張している論者を私は知りません。
Rédigé par: あなたが嫌がる「印象操作」もたいがいにしたらどうですか? | 26 oct. 2008, 13:40:43