アジア海賊版文化
土佐昌樹「アジア海賊版文化──『辺境』から見るアメリカ化の現実」の第2章,第3章は面白かったです。
軍事独裁が続くビルマ(ミャンマー)では,外国放送局による衛星放送の域外受信と,外国映画の海賊版VCDおよびDVDこそが,市民にグローバルな文化を届ける数少ない手段となっている事実。イギリス植民地時代に作られたイギリス著作権法とほぼ同様のビルマ著作権を可能な限り完全実行せよと西側先進国がビルマ政府に迫ることは,軍事独裁政権による情報統制をさらに強めることになるという現実。このような極端な実例こそが,著作権法が情報統制の為のツールという側面を本来的に有することを私たちに改めて思い起こさせます。
もちろん,理論的にはビルマ国民が正規商品を購入すれば政府から著作権法違反を理由とする統制を受けずに済むといえなくもありません。しかし,DVD等の正規商品は,その国の,一般大衆の購買力に応じた値付けがなされていないので,そもそもこの国の一般大衆が西側先進国で作られた映画等の正規DVD等を購入するというのは無理がありますし,また,軍事独裁政権なので正規商品を輸入しようとすると厳しい検閲に晒されます。従って,国民がグローバルな情報を知るためには,域外放送の受信と海賊版VCDおよびDVDが事実上不可欠となっているのです。
日本を含む西側先進国では,さすがに政府が外国からの情報を逐一検閲して排除するということは──わいせつ系をのぞくと──ほぼなくなってはいます。しかし,「コンテンツホールダー」といわれる人々が正規商品による情報の流通を地理的に統制しようとする動きは日に日に強まっています。地上波放送のデジタル化により域外放送の受信が困難となれば,佐賀,徳島は,たちまち「情報鎖国」に陥ります。また,「オンライン配信のみ」のコンテンツが増えると,受信者の滞在国ないしビリングアドレス所在国によりその正規サービスによる受信が拒まれるシステムの下では,「日本在住者は正規には知り得ない情報」がどんどんと増えていくことになります。それは音楽・映像作品にとどまりません。Kindleの普及により,堅い内容の書籍もオンラインで配信される例が実際に米国で増加しています。今後は,そのような形式で配布される論文等については,日本在住者のみ蚊帳の外に置かれるという事態も増えてきそうです。
「軍事独裁政権による情報統制は悪い情報統制だが,コンテンツホルダーによる情報統制は良い情報統制」と考える人たちは,ダウンロード行為の違法化に賛成するのでしょう。実際,ある研究会で,コンテンツホルダー側の代理人をされる弁護士さんは,どの情報を日本国民に視聴させ,どの情報を視聴させないかを含めて,コンテンツホルダーが決定をするということで何が悪いのだと言っていましたし。しかし,民間企業に情報コントロール権を認めてしまって,本当によいのでしょうか。
Posted by 小倉秀夫 at 08:46 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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