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11/28/2009

由是著作者怠倦?

 少し日本史の復習をしてみましょう。

 朝廷は,西暦723年に三世一身法を制定し,灌漑施設を新設して墾田を行った場合には三世までの私有を許し,季節の灌漑施設を利用して墾田を行った場合は開墾者本人のみの土地私有を認めることとしました。ところが,朝廷は,西暦743年には墾田永世私有法を制定し,墾田の永世私有を認めることとしました。その理由は,

墾田拠養老七年格。限満之後、依例収穫。由是農夫怠倦、開地復荒。自今以後、任為私財無論三世一身。悉咸永年莫取。

というものでした。三世一身法の制定から20年では墾田の返納期限には未だ到達していないと思われますので,「限満之後、依例収穫。由是農夫怠倦、開地復荒」という実態があったのかは多分に疑問ですが,大和朝廷ですら,現状では「由是農夫怠倦、開地復荒」ことを,独占期間の延長をするための立法事実として提示していたわけです。

 他方,オリコンは,「『著作権保護期間の延長』はなぜ必要か」という文章を発表しています。しかし,「限満之後、依例収穫。由是農夫怠倦、開地復荒」に相当するような立法事実は提示されていません。著作権の保護期間が著作者の死後50年しかないが故に,アーティストがやる気を失って怠けているだとか,出版社が作品の継続的な出版を怠っているだとかという立法事実はいまだ提示されていないのです。

 オリコンは,

クリエーターの権利が保護され、それを基盤として創作活動が活性化されることが、ひいては国民の生活を豊かにする知的財産を生み出していくという考え方が是とされたわけだ。

と述べてはいるのですが,ベルヌ条約で定められた通りに「著作者の死後50年」の保護期間では創作活動が活性化されず,そのために現在国民の生活を豊かにする知的財産が生み出されていないという実情が存在することは何ら示されていないのです。そして,より開発にコストがかかる傾向が高い「発明」という知的財産についていえば,より短い保護期間しか保障されていなくとも次々と新たな創作がなされているのに,開発コストがより小さい「著作物」という知的財産については「著作者の死後50年」程度の保護期間では創作活動が活性化されない(しかし,著作者の死後70年著作権を保護すれば創作活動が活性化される)ということについて説得的な説明は未だなされていないのです。

 墾田永世私有法が認められると,貴族や寺院等の大土地所有者は不輸不入の権を認めさせるにいたり,朝廷を弱体化させることになりました。著作権についても,保護期間が延長,延長され,事実上永久に保護されることになると,例えば音楽についていえば,膨大な数のメロディラインについて独占的な権利を握っている大企業の傘下に入らなければ人の耳に心地の良い作品を発表することができないという事態に至り,むしろ,国民生活は貧しくなるかもしれません。あるいは,貴族たちが不輸不入の権を認めさせその荘園に「公」が介入することを拒んだように,次は著作権の制限規定の廃止を狙いに来るかもしれません。歴史の教訓としていえば,3世程度の独占期間では足りないという人々には,「公」を尊重するという意識はなく,欲望だけはとどまるところを知らないのですから。

Posted by 小倉秀夫 at 11:18 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Commentaires

 松本零士氏と槇原敬之氏の裁判に象徴されるように、現在著作者同士の争いが、特に翻案権を中心に増えています。いたずらな権利強化によって「権利者意識」に目覚めた人々が、著作権が成立した近世以前には全くもめごとにもならなかったような「パクリ」問題で、互いを糾弾するようになったのです。これは人類の文化史上、異常な出来事だと言えるでしょう。
 「自分の権利さえ増えればいい」という考えに基づいて、著作者と権利者は目先の権利強化を続けてきました。著作権が規制するのは、海賊版業者や、「違法」コピーを行う「悪い」利用者だけだと思っていたからです。しかし、冒頭で述べたように、著作者に強大な権限があれば、著作者と著作者が争った場合に、深刻な事態が起きます。それは自分たちをも傷つける諸刃の剣であるわけです。
 このまま権利強化を繰り返し、自分たちがボロボロになれば、彼らもことの仕組みに気付くかもしれません。しかし問題は、現状を見る限り、彼らはそのような状態に陥ってもなお、「これは権利者が十分に保護されていないからだ」と言って権利強化を続ける可能性があるということです。やはりどこかで、政府が介入する必要があるでしょう。

Rédigé par: gase2 | le 11/28/2009 à 13:39

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