フェアユースが日本の法体系にも馴染む
前回のエントリーに対し、vidさんが次のようなはてブコメントを残しています。
そもそもフェアユースが日本の法体系に馴染まないってのも問題なんだよな。日本は成文したものが「許諾」と言うやり方。米英は「フェア」をつど裁判で決めようというやり方。米英式に変えるにも法体系の問題があるし
果たしてそうでしょうか。
著作物の公正な利用に対する著作権の行使の制限を明文の定めなくして裁判所が行うということが日本の法体系に馴染まないという趣旨であればまだわからなくはありませんが、抽象度の高い文言の条文で私権の行使を制限すること自体が日本の法体系に馴染まないという趣旨であればそれは明らかに違います。なにしろ、日本の民法という基本的な法律の第1条には、
権利の濫用は、これを許さない。
という非常に抽象度の高い規定があるのですから。私は、民法第1条第3項は日本の法体系には馴染まないので、これを廃止して、私権の行使を制限する必要があるものについてはすべて個別立法によるべきであると提唱する民法学者並びに法律実務家に出会ったことがありません。
Posted by 小倉秀夫 at 12:40 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
Commentaires
小倉 先生
夏井です。
審議会等では随分と「わかりやすい」議論になっているようですね。ここまですさまじく露骨だと怒る気にもなれません。(笑)
フェアユースに関しては,小倉先生のご意見に賛成です。
ちなみに,小倉先生もご指摘のとおり,日本の裁判所の判決中では,一般条項を適用して原則的ルールの適用を抑制したり修正したりする例が数え切れなくあります。これらを「フェアユース」またはそれに類似したものと呼ぶことが妥当かどうかは趣味の問題に属するかもしれませんが,要するに,一般条項のない法令など想像しただけでも恐ろしくなります。例えば,もし不法行為について定める709条が限定列挙だったとしたら,著作権侵害を不法行為の一種として損害賠償する途を狭くしてしまうかもしれませんが,幸いなことに709条は一般条項(白地条項)なので,(著作権を含め)法的に保護されるべき利益の侵害があれば損害賠償請求をすることができるわけですが,フェアユース反対派の人たちはそこらへんのところを理解しているのかどうか若干疑問に思うことがあります。
著作権云々を議論する前に,民法をちゃんと理解しているかどうか,よく考えてから議論をしてもらいたいものだと感ずることがしばしばあります。
また,「英米では・・・」という発言をされ,かつ,「だから日本では適用されない」と力説される方が本当に英米法のことを細部まで正確に理解しているのかどうか,また,英米法のルールの中で日本法の中に既に盛り込まれているもの(継受の一種)があることをちゃんと踏まえた上でそう力説されているのか,時として若干疑問に感ずることがありますね。(笑)
ともあれ,このフェアユースをめぐる議論がなかなか収束しそうにないところにも「法文化における日本の後進性」のようなものが顕著に現れているのでしょう。
さて,2009年度中はいろいろとお世話になりました。2010年度には更に良い成果をあげられることを期待しております。よろしくお願いします。
Rédigé par: 夏井高人 | 11 févr. 2010 à 23:12:40
極端なことを言えば、文化庁の審議会の絶対多数を占めてる人たちなんかは常に「事後の法整備で十分」と言ってるわけですから、裁判で「フェア」と認められても、それを皆が「おかしい」と思えば、明文で事後的に禁止すればいいだけです。「事前の禁止、事後の許可」で社会が被る経済的損失については補填しないくせに、「事前の許可、事後の禁止」で自分たちが被る損害は許さないというのは理屈に合いません。それでも法律による禁止権の優越性を捨てたくないというのなら、この言葉は嫌いなんですが、何らかの「社会的責任」を負わせてしかるべきでしょう。
あと「法体系の問題」云々は、文化庁の天下り先のプロパガンダそのままで笑ってしまいました。こんなの本気で信じてる人がいるんですね。
民法は明文で禁じてるもの以外は原則自由です。刑法だってそう。著作物の利用が明文で許諾されない限り違法になるのは、著作権が禁止権だから。それだけのことです。法体系でもなんでもありません。
それともこのコメントを書いた人は、我々が自由に自転車に乗れるのは、民法に「自転車に乗るのは、これを自由とする」と書いてあるからだとでも思っているのでしょうか。それが日本の「法体系」だというのなら、なるほど、フェアユースは日本に馴染まないと言えるでしょう。
Rédigé par: tarusaki | 27 janv. 2010 à 22:57:51