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05/24/2010

研究等の目的による書籍スキャンと私的使用目的複製の抗弁

 研究や業務で使用する目的で、購入した書籍を自ら裁断し自ら所有するスキャナでScanするということが、しばしば行われています。これは著作権法上問題があるでしょうか。

 まず、書籍等をScanし、デジタルデータとしてハードディスクに保存する行為は、その書籍等に掲載されている文章や絵画等をパソコン等で再生することを可能としますので、「複製」にあたることは疑いの余地がありません(もとの書籍等が裁断され、使い物にならなくてもダメです>弾さん。)。

 そこで、検討すべき課題は、このような「複製」は、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的として、「その使用する者」が行う複製と言えるかどうかということです。いえる場合には、著作権法第30条第1項により、この複製は、著作権者の同意なくして行われたとしても、適法となります。

 まあ、「BOOKSCAN」サービスは異なり、書籍等の購入者が自ら使用する目的で自ら書籍を裁断し、自ら所有するスキャナでScanする場合、「その使用する者」が行う複製と言いうる点は疑問の余地がないように思います(業者が所有し、有償で公衆に提供しているスキャナが用いられる場合、カラオケ法理との関係で、「著作権法の規律の観点」から見て誰が複製をしていることにされるのかよく分からないのですが。)。

 すると、問題は、このような複製は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的としてなされていると見ることができるのかということになります。

 この点につき、現行著作権法の起草を担当された加戸守行氏の「著作権法逐条講義[五訂新版]」では、

『これに準ずる限られた範囲内』といいますのは、複製をする者の属するグループのメンバー相互間に強い個人的結合関係のあることが必要で」あり、「会社等における内部的利用のための複製行為は、よく問題となりますけれども、著作権法上の『家庭内に準ずる限られた範囲内』での使用には該当いたしません

と説明されています(225頁〜226頁)。ここで注意すべきは、起草者の説明では、あくまで、作成した複製物を複数人で使用する場合に、その複数人の間にどのような関係がある場合に、「これに準ずる限られた範囲内」といえるのかが問題とされているに過ぎないということです。作成した複製物を作成者のみが使用することが予定されている場合に、作成者の主観如何で「個人的に」使用する目的とはいえない云々という話は出てきていないということです。むしろ、会社の社長が秘書にコピーをとってもらうというのは、社長がコピーをとっているという法律上の評価をするわけでありますとの説明が加戸・前掲227頁でなされていることを考えると、会社の業務に資するための複製であっても、それが複数人間で使用されることを目的としていないものである場合には、なお、「個人的に」使用する目的での複製であるとして30条1項が適用されるものと起草者は考えていたのではないかと思われます(社長が秘書に命ずるのは、通常、会社の業務に役立てるために情報を収集し、把握するために行うコピーでしょ?)。著作権法制定時、安達健二文化庁次長(当時)は、昭和45年4月8日の衆議院文教委員会で、

「個人的に」というのは「一人で」ということになります。

と答弁しており、間接的にも営利目的に繋がらない云々ということまでこの文言に意味を込めていなかったことは明らかです注1

 この分野で唯一の下級審判決である東京地判昭和52年7月22日判タ91号132頁も、

企業その他の団体において、内部的に業務上利用するために著作物を複製する行為は、その目的が個人的な使用にあるとはいえず、かつ家庭内に準ずる限られた範囲内における使用にあるとはいえない

と判示しているに過ぎず、個人が業務上利用するために著作物を複製する行為が私的使用目的の複製にあたるかどうかには言及されていません。

 実際、研究や会社の業務に間接的に利用するためとはいえ、このような零細な利用について事前にその著作権者にコンタクトをとって許諾を得ることを求めるのは、それによって通常得られる利益に比してコストがかかりすぎることには変わりありませんから、これを30条1項の適用対象外としてしまうと、研究等のために広く情報を収集するという行為を著作権法が阻害することになってしまいます。それは、文化の発展に寄与することを究極目的とする著作権の立法趣旨に却って反します。

 しかし、文化庁は、昭和51年に発表した「著作権審議会第4小委員会(複写複製関係)報告書」において、

第1に使用の目的であるが、個人的な立場において又は私的な場である家庭内若しくはこれと同一視し得る閉鎖的な範囲(例えば親密な少数の友人間)内において使用するための著作物の複製(Personal use又はDomestic useのための複製)を許容したものであり、例えば、企業その他の団体内において従業員が業務上利用するため著作物を複製する場合には、仮に従業員のみが利用する場合であっても、許容されるものではない。

等と言い始めます。そして、研究者もこれに追随します。例えば、作花文雄「詳解著作権法[第3版]」318頁は、『個人的』な利用の意味するものは多義的であるが、立法趣旨としては本条で複製された当該複製物を個人の趣味や教養のために使用することが想定されているものと思われる。その複製物の使用目的が、職業や何らかの事業に結びつく場合には、基本的に個人的とは言わない

と説明します。しかし、少なくとも立法当時の国会での議論を見る限り、立法趣旨がそのようなものであるといえる根拠はないようです。

 このように考えていくと、自己の研究や業務に活かす意図に基づくとはいえ、Scanしたデータを自分だけで閲覧する目的で、購入した書籍を自ら裁断し自ら所有するスキャナでScanする行為は、「個人的に」使用することを目的としているが故に、30条1項の適用を受ける(すなわち、著作権侵害とはならない)と解するのが適切だし、それは、起草担当者の意思や、過去の下級審裁判例とも抵触しないといいうるように思います。

注1このとき、安達次長は、たとえば三、四人程度のごく少人数の友人で組織する音楽の同好会というようなものが、その楽譜を印刷してお互いに歌うというような、そういう家庭に準ずるような、家庭といっても大体大きさというものがあるわけであります、それに準ずるような小グループの中で――これは家庭ではないけれども、家庭くらいの人数の小グループの範囲内というような意味で「これに準ずる限られた範囲内」、こういうように表現した次第でございます。と答弁しており、ここではグループの人数のみが問題とされています。「グループのメンバー相互間に強い個人的結合関係がある場合」でなければ云々という話にはなっていません。

Posted by 小倉秀夫 at 07:35 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/23/2010

FairUse規定のある国とない国の違い

 昨日は、著作権法学会の研究大会に出席し、懇親会にも出てきました。

 しかし、未だにFairUse規定など必要ないという専門家もいるのだなあということが驚きです。FairUseがあるとないとでどういう違いが生ずるのか、理解できていないのかもしれません。

 事業家が新しいビジネスモデルを思いついたが、それは第三者の著作権等と形式的に抵触する可能性が高い場合を考えてみると、よくわかると思うのです。

 FairUse規定があれば、そのビジネスモデルをまず実施した上で、その過程で行われる著作物等の利用が「Fair」であることを著作権者等に向けて説得し、説得に失敗し訴訟を提起されたときは裁判所に向けてそれが「Fair」であることを主張することができます。

 そして、その過程では、第三者の著作権等との折り合いをつけるために、ビジネスモデルなりそれを実現するためのソフトウェア等を微妙に修正していったりすることができますし、著作権者等に著作物利用料(相当金)を支払うための原資を、営業利益または増資によって確保することも可能です。

 しかし、FairUse規定がないとこうはいきません。

 このビジネスモデルを正当化する個別の権利制限規定が新設される前に、そのビジネスモデルを先行実施すると、ほぼ確実に敗訴することになります。従って、FairUse規定がある国の企業がそのビジネスモデルを先行実施し、デファクトスタンダードを築き上げている間、FairUse規定がない国の企業は手を拱いてみているしかありません。このため、個別の権利制限規定が新設され、そのビジネスモデルを国内で実施することが可能となったころには、海外でデファクトスタンダードを築き上げた企業が国内に参入してきた場合に、これと太刀打するのが非常に困難となってしまいます。

 さらにいえば、新たなビジネスモデルをベンチャー企業や創造力のある学生等が考案したとしても、それを正当化する個別の権利制限規定を創設するように文化庁や国会議員に対してロビー活動を行う資金的余裕はないし、人的なコネクションもないのが普通です。そもそも、まだ実施されていない新たなビジネスモデルを実施可能とするために個別の権利制限規定を創設しようということに、文化庁や国会議員が賛同してくれるのか、冷静に考えると疑問です。結局、FairUse規定がある国の企業がそのビジネスモデルを実施して普及させた後に、これを国内でも実施することが可能とする権利制限規定が創設されるのが関の山といったところでしょう。

 FairUse規定をこのまま設けずにいると、FairUse規定がある国の企業にこれからも先行者利益を攫われ続けるというお話でした。

Posted by 小倉秀夫 at 01:10 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)