その事実を知っているか否かは「その事実を知りながら」複製したか否かに関係がない。
大阪大学の茶園成樹教授がジュリスト1405号85頁以下に「違法配信からの録音・録画」という論文を発表されています。
その前におさらいをしておくと、平成22年1月1日施行の著作権法第30条第1項第3号では、
著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合
については、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的として、その使用者が行う複製であっても、複製権侵害とすることとされました。
ここでいう「その事実を知りながら」とはどういうことをいうのかという点に関しては、具体的な法案の文言が明らかになって以降論争となっていました。
この点に関し、茶園教授は、上記論文の中で、
一般人が有する通常の知識から、自動公衆送信が著作権を侵害するものであることを高度の蓋然性をもって認識することができる場合には、「その事実を知りながら」の要件を満たすと解されるべきであると思われる。
とされています。具体的には、
現在、ヒットチャートの上位にランクインしており有料で提供されている楽曲や映画館において有料で上映されている映画が無料で自動公衆送信されている場合、一般人が有する通常の知識によれば、その自動公衆送信が著作権を侵害しないものである可能性はほとんどないと考えることができるため、この要件を満たすと判断されよう。
とされています。
しかし、起草担当者ががわざわざ「その事実を知りながら」という文言を用いることで反対論者の唱える危惧(違法にアップロードされたものかどうか解らないではないか!)を抑えこもうとしたのに、「その事実を知りながら」という文言を、いわば重過失まで含むものとアクロバチックに読み込んで、反対論者からの危惧を現実化しようというのはいかがものかなあと首をかしげざるを得ません。裁判所が想定する「一般人」が有する通常の知識を備えていなければ──それはネット上ではどういうものが違法コンテンツとして流通しているのかについて絶えず「一般人」並みの情報を仕入れていなければ、違法行為を行ったものとして糾弾されてしまうことを意味しかねません。そのような法制度を採用するのであれば、「その事実を知りながら」という故意犯限定の文言等使うべきではなく、立法段階で、「ネット社会に関する情報に疎い奴はガンガン摘発してやるぜ」という宣言を法案推進者はすべきであったというべきでしょう。
Posted by 小倉秀夫 at 12:38 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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Commentaires
昨今のフリーミアムの盛り上がりからすると、その著作物の関係者でもない限り違法かどうか見極めるのは難しいとさえ言える状況ですから、茶園成樹教授の主張は完全に無茶ですね。全く同じものが期間によって有料だったり無料だったりするのも全て把握しろと言われても・・・
Rédigé par: J | 1 août 2010, 11:13:10