コンテンツの実質価格とコンテンツ産業総体の収入
総体としてのコンテンツビジネスが栄えるためには、総体としての消費者のコンテンツに対する消費の総量を増加させていく必要があります。そのためには、1コンテンツあたりの実質価格を上昇させることが効果的なのでしょうか、下降させることが効果的なのでしょうか。
コンテンツを収録したパッケージの小売価格を下げることは、1コンテンツの実質価格を下げる方法の1つですが、それが全てではありません。1つのコンテンツを満足のいくまで享受するのにかかる時間が、そのコンテンツの収録したパッケージの「物」としての商品寿命より顕著に短い場合、1つのパッケージを複数人で時間差で消費することにより、1コンテンツあたりの実質価格を引き下げることができます。その方法としては、団体での行動購入の他、パッケージのレンタルやパッケージの中古流通などがあります。
消費者がコンテンツを消費するのに費消できる資金が一定だとすると、1コンテンツあたりの実質価格が上昇しようが下降しようが、消費者側からコンテンツビジネス側に移転する資金は一定ということになります。実際には、消費者に届くパッケージの個数が増えれば、パッケージの製産・流通コストの分、コンテンツ事業者側の取り分が減りますが、IT革命によりこのコストが下がっていくに連れて、このコストは次第に無視できるものとなっていきます。他方、1コンテンツあたりの実質価格が下降すると、消費者側はより多くの種類のコンテンツを享受できるようになります。
すると、コンテンツビジネス側の総体としての収入を概ね維持しつつ、消費者の満足度を引き上げられるという意味において、1コンテンツあたりの実質価格を引き下げることには合理性があり、逆に、1コンテンツあたりの実質価格を引き上げるような改革は、コンテンツビジネス側の総体としての収入を引き上げないのに、消費者側の満足度を引き下げるという意味において最悪です。
さらに問題なのは、1コンテンツあたりの実質価格を引き下げ、消費者が享受できるコンテンツの種類を減少させた場合に、当該類型のコンテンツを消費するという娯楽の満足度自体が下がり、結果として、消費者がその類型のコンテンツから離れていくおそれがあります。そうなった場合には、コンテンツビジネス側の総体としての収入自体が縮小していくこととなります。
他方、1コンテンツあたりの実質価格が下がった場合、消費者は可処分所得の上昇に合わせてコンテンツ消費への支出を増やすことが容易になります。それは当該コンテンツ類型への消費者の満足度を高めるので、コンテンツビジネス側の総体としての収入自体を拡大することに繋がります。
もちろん、個々の消費者が享受するコンテンツの総量には自ずと限界があるので、1コンテンツあたりの実質価格が下がりすぎると、コンテンツビジネス側の総体としての収入自体が縮小することになります。ただ、それは「これ以上値下げされたからって、これ以上購入してらんないよ」というレベルになってはじめて遭遇する事態であって、我が国では当面そういう域に達することはなさそうです。
ですから、結論から言うと、レンタルを禁止すれば、中古品の売買を禁止すれば、コンテンツ産業の売り上げが向上するはずだ、というのは幻想であり、むしろ逆効果を生ずるのではないかと思う次第です。
Posted by 小倉秀夫 at 08:36 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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