出版社に隣接権を付与するよりも役立つこと
出版社に著作隣接権を云々という議論が喧しいようです。この点について私も、日経新聞の取材を受け、その一部が今日の朝刊に掲載されたようです。
ただ、著作隣接権を求める理由として出版社サイドが表向き唱えていることを実現するためには、別の方法をとった方が早道なのになあと正直思ったりする私がいます。
著作物の利用を円滑化するためには、権利処理の窓口を一本化することが有益です。そして、この一本化された窓口は、その著作物の利活用の活性化とは別の思惑で恣意的な利用許諾拒否を行わないことが有益です。その意味では、JASRAC類似の権利処理機構を、文芸著作物や漫画の著作物についても作ってしまうのが有益です。
とはいえ、漫画雑誌を発行している出版社からすると、自社の雑誌で連載させている作品の中で特に人気が出た作品について、他の出版社から自由に単行本が出されてしまうというのは問題でしょう。その意味では、出版社にも一定の独占権を付与する必要がある。そこまではいいのですが、それが隣接権という「大なた」である必要はありません。
作家、漫画家と出版社との間では、その作品の利用に関して契約が結ばれるのが通常ですが、その契約において、契約の有効期間中、その作品の著作権をその出版社に信託譲渡し、または、独占的利用許諾を受けることにすれば、事が足ります。
もっとも、作家、漫画家としては、そのような強い権利を出版社に付与してしまうと、その出版社に干されたときに困ってしまいます。したがって、作家や漫画家が安心して上記のような権利を出版社に付与できるようにするためには、一定の解約事由を法定してしまうのが便利です。例えば、在庫がなくなったときに増刷を作家側が求めてもこれを拒絶するとか、広く普及している電子書籍端末に対応する電子書籍バージョンを販売するように作家が求めたのに不当にこれを拒絶するとかの事由が生じた場合です。そのようなことをする出版社は、著作物の普及を通じたわが国の文化の発展を阻害しようとしているわけですから、一定の不利益を被ることはやむを得ません。
著作権法に関する立法政策において、排他権を増やすことこそ著作物の利活用の活性化に繋がるのだという根拠のないドグマから、一日も早く抜け出すことを望む次第です。
Posted by 小倉秀夫 at 12:33 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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Commentaires
出版社が今ある法律まで変えて権利を強制的に得ようとするよりも、
出版社が作家とちゃんと契約をかわすようにしたらよさそうな話だなあ。
出版社の従業員に比べて、多くの作家の生活は不安定だし、
作家からしても個々に契約を結べるようになったら
その間は少しは安心だろうし。
Rédigé par: 山田 | 21 mars 2012 à 08:57:16
>作家、漫画家と出版社との間では、その作品の利用に関して契約が結ばれるのが通常です
いや、通常契約なんて結ばないかと。慣習だけで進めるのが漫画出版の現状です。契約をしっかり結ぶむしろ特殊な場合かと思います。
Rédigé par: HM | 20 mars 2012 à 16:00:33
レコード製作者や放送事業者とは異なり、隣接権を保護する条約がないのに、「創作に貢献しているのに、出版社だけないのはずるい」という論法自体、著作権に対するセンスのなさを暴露していると思います。
Rédigé par: とおりすがり | 19 mars 2012 à 23:23:57