« 新設119条3項の解説(ちょっと更新、でもまだ未完) | Accueil | 2012年の私的BEST5 »

08/24/2012

ACTA条約と著作権侵害罪の非親告罪化

 ACTA条約第26条が著作権侵害罪の非親告罪化を義務づけたものか否かについて、東京新聞に私のコメントが掲載されて以来問合せが散見されるので、少しまとめてみることにします。

 この点に関し、平成24年7月31日に行われた参議院外交防衛委員会で八木毅外務省経済局長は、

ACTAの第二十六条は、第一に、故意により商業的規模で行われる商標の不正使用並びに著作権及び関連する権利を侵害する複製、それから第二に、登録商標を侵害するラベル、包装の輸入、使用、第三に、それらの幇助及び教唆等であって、自国が刑事上の手続及び刑罰を定めるものに関し、適当な場合には権限のある当局が捜査を開始し、又は法的措置をとるために職権により行動することができることを規定しているということでございますが、この適当な場合の範囲でございますけれども、これは各締約国の判断に委ねられていると解されます。したがいまして、必ずしも、今申し上げたような犯罪の各類型全てについて権限のある当局が職権により行動できることを国内法令上定める必要はないということでございます。

 以上を踏まえまして、我が国としては、同条の実施のために現行国内法令の改正を行う必要はないと判断しております。

と述べ、玄葉光一郎外務大臣も、

先ほど政府委員から答弁ありましたけれども、結局、職権でやってもよくてやらなくてもいいということなので、日本はまあやらなくていいと、そういうふうに解釈をしているわけです。ですから、第二十六条に関して、適当な場合の範囲について各締約国の判断に委ねられていると。したがって、第二十六条に言う犯罪の各類型全てについて権限のある当局が職権により行動できることを必ずしも国内法令上定める必要はないと。したがって、著作権侵害について、今、非親告罪化という話がありましたけれども、本協定によって各締約国に義務付けられているわけではないというふうに考えております。

と述べています。果たしてそうでしょうか。

 第26条についての原文(英文)を見てみましょう。

ARTICLE 26: EX OFFICIO CRIMINAL ENFORCEMENT

Each Party shall provide that, in appropriate cases, its competent authorities may act upon their own initiative to initiate investigation or legal action with respect to the criminal offences specified in paragraphs 1, 2, 3, and 4 of Article 23 (Criminal Offences) for which that Party provides criminal procedures and penalties.

 これを見ると、「in appropriate cases」(適当な場合)という言葉は、that節の中に組み込まれていますので、「shall provide」(規定しなければならない)を修飾するものではなく、「may act」(行動することができる)を修飾するものであると読むのが自然です。「適当」っていう言葉は日本語では多義的ですが、ここでは「appropriate」という言葉が使われていますから、「適切な」という意味です。結局、ここでは、「特定の犯罪に関して、適切な事案では、権限のある当局は、職権で、捜査を開始したり、法的な措置を講じたりできる」ような条項を「規定しなければならない」といっています。

 つまり、この条文を素直に読めば、加盟国において著作権侵害罪を非親告罪化することが適切だと判断した場合に非親告罪すればいいという趣旨に読むことは困難であって、権限ある当局が捜査を開始したり法的な措置を講ずることが適切だと判断した時にはそれをなし得るような国内法を規定する義務が加盟国に課せられるということになります。つまり、加盟国は、起訴便宜主義まで放棄することはないけど、当局が職権で捜査、起訴できるようにする義務を負うということです。これは、普通に表現すれば、「立法による非親告罪化が義務づけられる」といってよいのだと思います。

 少なくとも、ACTA条約第23条1項に定める刑事犯罪のうち、「少なくとも故意により商業的規模で行われる…著作権及び関連する権利を侵害する複製」については、日本では既に国内法で罰則規定が定められており、かつ、現在のところそれは親告罪として規定されているわけですから、上記行為を非親告罪とする立法までは、ACTA条約の発効によって義務づけられると思います。

 それだけであればそれほど悪くはないようにも見えるのですが、問題は、上記条約上の義務に基づく著作権法改正を行うにあたって、非親告罪化する範囲を本当に「故意により商業的規模で行われる…著作権及び関連する権利を侵害する複製」に限定することが政治的に、あるいは内閣法制局的な意味で行えるのかということです。「商業的規模で行われる」という要件が曖昧すぎるというチェックが入り、結局、著作権侵害罪全体に及ぶような非親告罪化が行われる危険があるということが問題だということになります。

Posted by 小倉秀夫 at 05:28 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

TrackBack

URL TrackBack de cette note:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13499/55497579

Voici les sites qui parlent de ACTA条約と著作権侵害罪の非親告罪化:

Commentaires

Poster un commentaire