「『出版社への権利付与等』についての方策」のB案について
「『出版社への権利付与等』についての方策」のうち、B案が近々成立してしまいそうな雰囲気です。
ただ、この、
【内容】
著作権者との契約により権利が発生する「出版権」は、自己の名において侵害者に差止請求等を行うことができるが、現行の著作権法では、電子書籍を対象としていないため、電子書籍を対象とした場合についても同様の権利が認められるようにするなど、制度改正を行う。
【権利者】
著作権者と設定契約を締結した者
【権利の対象】
設定契約の対象となった著作物
って、今ひとつよくわかりません。
もちろん、79条1項の「その著作物を文書または図画として出版することを引き受ける者に対し」の部分を拡張し、電子書籍として「出版」(定義規定でこの「出版」という語の意味が拡張されるんだと思いますが。)することを引き受ける者に対しても、出版権を設定することができるとするのだろうということは予想できます。問題は、その効果をどうするのかということです。
「海賊版対策」という触れ込みを信じるのであれば、出版権の内容として、「出版権の目的である著作物を原作のまま」公衆送信(送信可能化を含む。)する権利を出版権者が専有することになるのだろうと思うのですが、そうだとすると、出版権が付与された著作物については、電子書籍が作成できなくなるのではないかというおそれがあります。というのも、出版権者は、他人に対し、その専有している方法での著作物の利用を許諾することはできないからです(80条3項参照)。もちろん、電子書籍化をするにあたっては、ePub形式やmobi形式への変換作業を行っているので「原作のまま」ではないという考え方もあろうとは思いますが、裁判所が取り得る解釈かというと疑問です。また、電子書籍化したデータを、AppleやAmazonやSonyに渡して各社のプラットフォームで販売してもらっているときに、プラットフォーマーではなく出版社が送信の主体であるとすることも解釈としては苦しいように思います。
また、出版権者には、「複製権者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品又はこれに相当する物の引渡しを受けた日から六月以内に当該著作物を出版する義務」及び「当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務」があります(81条)が、著作物を電子書籍として出版する権利までも出版権の内容に取り込んだときに、出版権者としては、① 紙の書籍または電子書籍として出版していればこの義務を遵守したことになるのか、② 紙の書籍及び電子書籍として出版していなければこの義務を遵守したことにならないのかという問題が生じます。
さらに、「著作者は、その著作物を出版権者があらためて複製する場合には、正当な範囲内において、その著作物に修正又は増減を加えることができる。」という規定があります(82条)が、電子書籍の出版まで出版権に取り込んだ場合、常に「その著作物を出版社があらためて複製する場合」にあたるということにするのかが問題となるところです(そうしない場合、電子書籍の場合、人為的に設定しなければ、増刷等の「区切り」が発生しないので、著作者が修正増減の申し立てを行える「区切り」を設ける必要があります。)。
独占的利用許諾を受けた出版社が著作権侵害行為者に対し著作権者を代位して侵害行為の差止め請求を行うことが下級審レベルで認められている現状で、上記のような法改正を行う必要があるのかということを含め、検討すべき課題は多いように思われます。
Posted by 小倉秀夫 at 12:28 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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