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07/18/2013

陛下プロジェクト事件

 佐藤秀峰先生が@udxさんを訴えた事件の判決が7月16日に下されました。

 佐藤先生が直々にお描きになった絵を無断でアップロードしたわけですから、公衆送信権侵害が認められるのは当然として、注目すべきは、このようなケースで著作権法113条6項のみなし人格権侵害規定が適用された点です。判決文を引用すると下記の通りです。

 被告は,自作自演の投稿であったにもかかわらず,被告が本件似顔絵を入手した経緯については触れることなく,あたかも,被告が本件サイト上に「天皇陛下にみんなでありがとうを伝えたい。」「陛下プロジェクト」なる企画を立ち上げ,プロのクリエーターに天皇の似顔絵を描いて投稿するよう募ったところ,原告がその趣旨に賛同して本件似顔絵を2回にわたり投稿してきたかのような外形を整えて,本件似顔絵の写真を画像投稿サイトにアップロードしたものである(本件行為1)。本件似顔絵には,「ゆぅ様へ」及び「佐藤秀峰」という原告の自筆のサインがされていたところ,「ゆぅ様」は,被告が本件サイトにおいて使用していたハンドルネームであった(乙2の1・2,弁論の全趣旨)。

 上記の企画は,一般人からみた場合,被告の意図にかかわりなく,一定の政治的傾向ないし思想的立場に基づくものとの評価を受ける可能性が大きいものであり,このような企画に,プロの漫画家が,自己の筆名を明らかにして2回にわたり天皇の似顔絵を投稿することは,一般人からみて,当該漫画家が上記の政治的傾向ないし思想的立場に強く共鳴,賛同しているとの評価を受け得る行為である。しかも,被告は,本件サイトに,原告の筆名のみならず,第二次世界大戦時の日本を舞台とする『特攻の島』という作品名も摘示して,上記画像投稿サイトへのリンク先を掲示したものである。

 そうすると,本件行為1は,原告やその作品がこのような政治的傾向ないし思想的立場からの一面的な評価を受けるおそれを生じさせるものであって,原告の名誉又は声望を害する方法により本件似顔絵を利用したものとして,原告の著作者人格権を侵害するものとみなされるということができる。

 著作権法コンメンタールでも書いたとおり(113条6項の注釈は、私自身が担当しています。)、同項の「著作者の名誉または声望を害する」とはどういうことをいうのかについては大きく分けて二通りの考え方がありますが、今回の判決は、「著作物の利用を通じての著作者の社会的な評価の下落をもたらすような利用」を名誉・声望を害する方法での利用ととらえる近時の裁判例の流れに沿ったものと言えるでしょう。とはいえ、特定の政治的、思想的な傾向を有していると誤解されるような利用を「著作者の名誉または声望を害する」方法によるものと認めたのは、悪妻物語事件(東京地判平成5・8・30知財集25巻2号310頁)以来のようにも思いますし、そういう意味では先例的な価値は高いのではないかと思います。

 実際には、法廷では、天皇についてどう思っているのか云々と被告から問いただされたりしたのですが、問題は、自己が有していない政治的・思想的傾向を有していると誤解される状態を作り出すこと自体が「名誉又は声望」を害するのであって、その政治的・思想的傾向自体の価値ないし世間からの評価が低いかどうかは問題ではありません(以前、学部のゼミで、あたかも読売ジャイアンツのファンであるかのように誤解されるような方法で、ある阪神タイガースファンの著作物を利用した場合に見なし人格権侵害の規定が適用されるかという問題を出したことがありましたが、阪神タイガースファンには阪神タイガースファンとしての社会的評価が形成されているわけですし、「天皇」についての政治的・思想的な立ち位置を明示せずして太平洋戦争についての作品を創作している漫画家にはそういう漫画家としての社会的評価が形成されているわけです。そのような社会的な評価が害されるのであれば、それはそれで「名誉又は声望を害する」といえるのだろうと思います。)。

Posted by 小倉秀夫 at 04:30 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

07/17/2013

TPPに関するパブリックコメント

 TPP関係のパブリックコメントですが、個人としての応募が可能かどうかよくわからず、また、ちょうど忙しい時期に重なってしまいましたので、この程度しか送りませんでした。

TPPの趣旨からいえば、ベルヌ条約を超える長期の著作権保護期間、著作物を利用した商品の流通を阻害するような規制の設定を禁止するルールを盛り込むことが望ましい。

また、著作権の間接侵害についても、制限従属性説を加盟国間の共通ルールとすべきであり、エンドユーザーによる適法な著作物の利用・使用を容易にする商品,サービス等の提供等を違法とすることは禁止されるべきである。

また、加盟国の一カ国で行われたサービスが他の加盟国でも行えるように、権利制限規定や強制許諾制度についても、拡張する方向で統一を図るべきである。

Posted by 小倉秀夫 at 05:12 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

07/10/2013

パブリシティ権侵害と差止め請求

 ピンクレディ事件最高裁判決は、肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合に、人格権に由来する「肖像等をみだりに利用されない権利」の一態様として、その顧客吸引力を排他的に利用する権利があるとして、最高裁レベルで初めて「パブリシティ権」を認めました。とはいえ、同再々判決は、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるとして、具体的には、肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とすると言える場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当であると判示しました。つまり、最高裁は、人格権の一態様であるパブリシティ権と、基本的人権の中核をなす表現の自由との調和を図る観点から、他人の肖像等を無断で使用する行為が不法行為法上違法となる場合を上記3類型に限定したわけです。

 では、この3類型のいずれかに合致することを理由として出版物の出版及び販売等の差止めを命ずることはできるでしょうか。

 「お金を払えばいい」ということと比べて、「その表現を公衆に流布すること自体が禁止される」ということは、表現の自由を制約する度合いが大きいと言えます。したがって、「人格権の一態様であるパブリシティ権と、基本的人権の中核をなす表現の自由との調和」という意味で言えば、「その表現を公衆に流布すること自体が禁止される」場合というのは、それを放置することによりパブリシティ権者の被る不利益がより大きい場合に限られると考えるのが素直です。

 実際、最判平成14年9月24日(石に泳ぐ魚事件最高裁判決)は、「人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる」としつつ、「どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである」と判示しており、「人格権侵害」即「差止請求認容」という単純なルールを否定しています。

 では、パブリシティ権侵害があきらかに予想される場合、その侵害行為によって被害者は「重大な損失を受ける恐れがあり」、かつ、「その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められる」のでしょうか。

 ピンクレディ事件最高裁判決においては、パブリティ権は、「肖像等それ自体の商業的価値に基づくもの」であると位置づけられています。商業的価値に基づく権利が侵害されても、その被害者が受ける損失は、金銭賠償等により事後的に回復を図ることができるのが通常です。名誉毀損の場合、名誉毀損行為により社会的評価が低下したことによる不利益が金銭賠償により完全に回復するかといえば回復しないので名誉毀損表現を含む出版物等について差止め請求を認容することは上記差止めの要件を満たすと言えると思いますが、たとえば、芸能人の写真が商業誌にて無断で使用されていたという場合に、金銭賠償により回復できない不利益が生じているのかといえば、多分に疑問です。

 これに対し、肖像等が商品等の広告として使用されている場合には、その商品に対する評価がその著名人の評価に結びつきかねないため、金銭賠償によっては回復し得ない不利益が生ずるかもしれません。商品等の差別化を図る目的で肖像等が商品等に付される場合であっても、商品等の種類によっては、その商品のイメージがその著名人の評価に結びつきかねないため、金銭賠償によっては回復し得ない不利益が生ずるかもしれません。ただ、そのような特段の事情が主張・立証されない場合には、不法行為法上違法となる程度にパブリシティ権が侵害されたというだけで、出版の差止め等を認容するのは、表現の自由を過剰に規制するものであって、許されないというべきではないかと思うのです。

Posted by 小倉秀夫 at 07:48 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)