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11/17/2013

JASRACと私的独占行為

 昨日のTokyo BootUP Conferenceで、JASRACに対する排除措置命令取り消した審決を破棄した東京高裁判決についての解説を、ワタベさんと一緒に行いました。とはいえ、Tokyo BootUPConferenceは、ミュージシャンや音楽業界関係者が集まることを予定していますので、平易に解説しないといけないという要請が通常よりも強かったので、ここではもう少し詳しい話をしようと思います。

 そもそもの発端は、公正取引委員会がJASRACに対し、私的独占行為の排除措置命令を下したことにあります。ここで、私的独占行為とされた行為(「以下、「本件行為」といいます。)は下記の通りです。

社団法人日本音楽著作権協会は,放送法(昭和25年法律第132号)第2条第3号の2に規定する放送事業者及び電気通信役務利用放送法(平成13年法律第85号)第2条第3項に規定する電気通信役務利用放送事業者のうち衛星役務利用放送(電気通信役務利用放送法施行規則(平成14年総務省令第5号)第2条第1号に規定する衛星役務利用放送をいう。)を行う者であって,音楽の著作物(以下主文において「音楽著作物」という。)の著作権に係る著作権等管理事業を営む者(以下主文において「管理事業者」という。)から音楽著作物の利用許諾を受け放送等利用(放送又は放送のための複製その他放送に伴う音楽著作物の利用をいう。以下主文において同じ。)を行う者(以下主文において「放送事業者」という。)から徴収する放送等利用に係る使用料(以下主文において「放送等使用料」という。)の算定において,放送等利用割合(当該放送事業者が放送番組(放送事業者が自らの放送のために制作したコマーシャルを含む。)において利用した音楽著作物の総数に占める社団法人日本音楽著作権協会が著作権を管理する音楽著作物の割合をいう。)が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用することにより,当該放送事業者が他の管理事業者にも放送等使用料を支払う場合には,当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加することとなるようにしている行為

 括弧書きが多くてわかりにくいので枢要部分だけ取り出すと次の通りとなります。

放送事業者から徴収する放送等使用料の算定において,放送等利用割合が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用することにより,当該放送事業者が他の管理事業者にも放送等使用料を支払う場合には,当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加することとなるようにしている行為

ここでいう「放送等利用割合」とは、「当該放送事業者が放送番組において利用した音楽著作物の総数に占めるJASRACが著作権を管理する音楽著作物の割合をいいます。

 公正取引委員会は当初、JASRACの上記行為を「排除型の私的独占」にあたるとして排除措置命令を下しました(実はこれ、非常に適用事例が少ないのです。)。では、排除型の私的独占ってどのような場合に成立するのでしょうか。

 独占禁止法2条5項は次のように定めています。

この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

 すなわち、排除型私的独占が成立するためには、次の3つの要件を満たすことが必要です。


  1. 事業者が他の事業者の事業活動を排除したこと

  2. 上記排除により一定の取引分野における競争が実質的に制限されたこと(③)

  3. 上記競争の制限が公共の利益に反していること(④)


です。公取の審決では、1の要件は、結果と行為とを分けて、


  • 本件行為が、他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有すること(①)、

  • 本件行為が、正常な取引手段の範囲を逸脱するような人為性を有すること(②)、


に分解されています。そして、審決では、①の要件を満たしているとは言えないとして、②〜④の要件を満たしているかを判断することなく、排除命令を取り消したのです。

 これに対して、高裁判決は、本件は①の要件を満たしているので審決は取り消す、②〜④の要件を満たすのかについては、審決で判断をしていないので、判断するようにということで、事件を公取に差し戻しています。

 公取の審決が、①要件の充足を否定した理由は、簡単に言えば次の2つです。


  1. 放送事業者の多数の社内通知文書について、イーライセンス管理楽曲の利用を差し控えさせる効果があったとは認められない。

  2. 放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度を取ったことが認められるとしつつも、利用を回避したとは認められない


 高裁は、この2点を覆していきます。

 ここでいう「社内通知文書」とは、例えば、テレビ朝日において番組制作担当者に送られた社内通知文書には以下の内容が記載されていたと認定されています。


  • イーライセンスの管理楽曲を使用する場合は「使用報告書の提出」と「放送使用料の支払い」が必要になること

  • 使用報告書には、楽曲名、アーティスト名等を記入して、放送日から1カ月以内に提出すること

  • 放送等使用料の額

  • 放送等使用料は番組負担となること


 このような文書が社内で配布されることにより、番組制作担当者は、番組の制作費用からイーライセンスへの放送等使用料の支払いを避けるため、同社の管理楽曲の使用を差し控えたわけです。審決では、そうはいっても使用されていなかったわけではないということが強調されるわけですが、高裁は次のような判断を示して、これを一蹴するのです。

 楽曲の選定については、さまざまな要因があり、例えば、歌手、演奏者の人気度、聴取者の嗜好等に影響を受けたり、カウントダウン番組、リクエスト番組、歌手がパーソナリティやゲストとして出演する番組など、番組の性格により影響を受けたりする面があることは否定できない。

 そのような特別な場合を除くと、多くの場合は、選定の対象とされる楽曲は、1つではなく、複数となると考えられる。

(中略)

複数の選定対象楽曲の中に、放送等使用料の追加負担が不要な楽曲と必要な楽曲があれば、経費負担を考慮して追加負担の不要な楽曲が選択されることは、経済合理
性に適った自然な行動と言える。

 そして、エイベックスグループが、放送等使用料に関してイーライセンスとの契約を解約するに至った経緯についても次のように認定します。

 まずは、上記のようにイーライセンスの管理楽曲の利用が差し控えられているということをエイベックスグループの側で把握するところから始まります。これを受けて、エイベックスグループとイーライセンスはH18.10.16に協議を開き、次のことを決めます。


  • 同年12月末まで、エイベックス楽曲の利用を無償とする。

  • 同年12月末までに、イーライセンス管理楽曲の利用回避について決着をつける。


 その後、イーライセンスは、放送局に足を運び、事態の打開を図ろうとするわけですが、結局うまくいかないわけです。このため、エイベックスグループでは、無償化の終了する平成19年1月以降、イーライセンスの管理楽曲をベイエフエム等が利用することについて、確証を得られなかったため、イーアクセスとの契約を解約したのです。

 審決では、現実には,放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したということはできず,イーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度をとったことが認められるにとどまるのであるから、エイベックスグループが正確な情報に基づいてイーライセンスとの委託契約を解約したとはいえないと認定して、JASRACの行為とエイベックスグループによるイーライセンスとの契約の解約との間の因果関係を否認します。

 これに対して高裁は、現に利用回避がなされていた以上、エイベックスの認識が間違っていたとは言えないと判示します。

 また、審決では、

イーライセンスがNHKとの間で平成20年3月以降も利用許諾契約を継続し,それに応じた放送等使用料を徴収していることが認められることを併せ考えると,イーライセンスが,放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態になっていたというには疑問が残る。

として、イーライセンスが排除されていたということすら否定しにかかるのですが、高裁は、イーライセンスと契約を結んでいるNHKですら、平成20年に4曲、平成21年に3曲
利用しただけであり、イーライセンスが徴収した放送使用料は平成22年になっても9月末までの概算値で2〜30万円程度にしかなっていないことを指摘します。この売り上げでは、事業としてやっていくのは困難です。

 何でそういうことになっているのでしょうか。著作権等管理事業法制定前は、JASRACのみが音楽著作権の管理事業を行っていました。ですから、当時は、放送事業を営む者は、市販のレコード等に収録されている楽曲を合法的にしようと思えば、JASRACと利用許諾契約を締結せざるを得ませんでした。だから、ほとんどの放送事業者は、放送にかかる音楽著作物の利用に関して、JASRACと利用許諾契約を結びました。その際、JASRACは、放送事業収入の1.5%を支払えば管理楽曲を使い放題使える包括許諾契約を推奨し、ほとんどの放送事業者は、これに応じました。IT技術が未発達のころは、日々の放送の中でどの楽曲を何回使用したのかを管理することはJASRACにとっても放送事業者にとっても相当の手間がかかることだったので、この仕組みは当時としては合理的だったのでしょう。その後、著作権等管理事業法が制定され、JASRAC以外の事業者が音楽著作権の管理事業を行えるようになり、実際にそのような事業者があらわれたわけですが、ほとんどの放送事業者は依然として、放送におけるJASRAC管理楽曲の利用について包括許諾契約を引き続き結んでおくという道を選びました。現状を変える合理的な理由がないからです。

 このような事情の下では、放送局がJASRAC管理楽曲を放送で使用することの追加コストは0円ということになります。したがって、JASRAC以外の管理事業者は、放送局から徴収する放送等使用料の価格付けという側面においてJASRACに価格競争を挑んでも、勝ち目がありません。実際、イーライセンスと契約締結にいたっているNHKですら、上記程度でしかイーライセンスの管理楽曲を使用しなかったのです。

 そして、このような事情の下では、JASRC以外の管理事業者に放送にかかる利用の管理を委託してしまうと放送局においてどうしてもその楽曲を使用しなければならないという場合以外放送等において使用されなくなるわけですから、放送等において使用されることを権利者自らが望んでいる楽曲については、JASRAC以外の事業者には管理を委託できないということになります。その結果、放送等で使用されるようなメジャーな楽曲は、管理委託先がJASRACにますます集中していくわけですから、放送事業者としてはJASRAC以外の管理事業者と契約を結ぶ必要性がますます薄れていくわけです。

 このように、管理事業法制定前の法制度の関係でスタートラインが圧倒的に不均衡な状況下で、管理著作物(音楽)の利用許諾という取引分野において、漫然と市場に委ねた場合には、新規参入者が市場で生き残る余地はなくなっていきます(本件に関して、イーライセンス側の努力不足を責める見解もありますが、上記の通り、JASRACが包括契約を放送事業者に提供し続ける限り、新規参入者がどんな企業努力をしようと、放送等における音楽著作物の利用許諾という分野において、採算を度外視することなくJASRACのシェアを奪い取る余地はありません。)。

 このように考えていくと、本件において、「本件行為が、他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有すること」という要件を満たさないとした公取の判断自体に無理があったといわざるを得ません。

 では、JASRACの行為は、私的独占行為であって許されないと解するべきでしょうか。もちろん、今回の判決では、上記①の要件を満たすと判示しただけです。②〜④の要件の充足の有無は、これから審決で判断されることになります。その際、最も問題となるのは、本件行為による競争の制限が「公共の利益」に反しているといえるかどうかという点なのだろうと思います。

 独占禁止法2条6項にいう「公益に反して」の意義について最判昭和59年2月24日刑集38巻4号1287頁は下記のように判示しています。そして、これは、2条5項の「公益に反して」の意義としても妥当するものと一般に考えられています。

独禁法の立法の趣旨・目的及びその改正の経過などに照らすと、同法二条六項にいう「公共の利益に反して」とは、原則としては同法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを指すが、現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であつても、右法益と当該行為によつて守られる利益とを比較衡量して、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的(同法一条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合を右規定にいう「不当な取引制限」行為から除外する趣旨と解すべきであり、これと同旨の原判断は、正当として是認することができる。

 つまり、形式的には「排除型私的独占」にあたる(①〜③の要件を全て満たす)としても、「自由競争経済秩序」を守るという法益と、当該行為によって守られる法益を比較考量して、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的(同法一条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合には、「公益に反して」いないとして、当該行為の私的独占該当性を否定することになります。

 ここでは、JASRACによる放送事業者に対する包括許諾契約により、放送事業者のJASRACに支払う放送等使用料及び放送使用料支払いにかかる経費が抑えられており、その結果、放送事業者はふんだんにJASRAC管理楽曲を放送の中で使用できているということをどう評価するのかが問題となっていきます。

 「放送事業者のJASRACに支払う放送等使用料が抑えられる」というのは他方で著作権者の犠牲の下に成立している話であり、また、IT技術の発展により、包括許諾方式をやめて全曲個別申請としたとしても、そのための事務経費は以前ほどではなくなってきています。そのようなこと等を考えたときに、包括契約を提供することによるこれらの利点が、私的独占を排除することによる「自由競争経済秩序」を守るという法益に優越するのかといわれると、どうかなと思ってしまいます。

Posted by 小倉秀夫 at 05:17 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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