「加護亜依」というブランド
ゲームラボの10月号に掲載したコラムの元原稿です。
元モーニング娘。の加護亜依さんが「威風飄々」というプロダクションから芸能界に再復帰しようとしたところ、加護さんの前所属事務所である株式会社メインストリームから、加護さんがその名前で芸能活動を行うことは同社の商標権を侵害することになるとして、ストップがかかったというニュースが話題となっています。
確かに、特許電子図書館で「加護亜依」という商標が登録されているかを調べてみると、メインストリーム社が平成21年12月11日に、41類の「演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、歌唱の上演、ダンスの演出又は上演、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作」云々という指定役務で商標登録をしているようです。
では、加護さんは、「加護亜依」という本名を使って芸能活動をすることが本当にできないのでしょうか。
商標法26条1項1号は、「自己の肖像又は自己の氏名若しくは自己の名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標」については、商標の効力は及ばないとしています。「加護亜依」は本名とのことですので、加護さんから見ると、これは「自己の氏名」にあたりますから、本号でいけそうな気がします。
ただし、本号で正当化しようとする場合、今後、加護さんがソロCD等をリリースする際に、加護さんの名前を「一般需用者の注意を引くような特別な字体」を用いてしまうと、「普通に用いられる方法で表示したもの」とはいえないとして、商標権侵害が認められてしまう危険があります(名古屋高判昭和61年5月14日【東天紅事件】)。
もっとも、加護さんがライブ活動を行う場合、役務提供の主体は、加護さんなのか、現所属事務所の威風飄々社なのか、あるいはライブの主催者なのかということも問題となります。後二者だとすると、「加護亜依」という標章は、「自己の氏名」にはあたらないとして商標権侵害が成立しそうにも思われるからです。もっとも、ライブのチケットや会場の看板等にそのアーティストの氏名等が記載されている場合、その主催者によるライブであることを示す標章としてそのアーティストの氏名を使用しているわけではありません。したがって、ファンこそが役務提供の相手方と考えて役務提供の主体こそが主催者だと解した場合、「加護亜依」という名称は商標として使用されていないので、商標権侵害とはならないということになりそうです。
これに対し、主催者を役務提供の相手方と考えた場合、主催者と上演契約を結ぶ主体は通常所属事務所ですから、役務提供の主体は所属事務所とみることもできそうです。この場合、芸能事務所にとっての所属タレントの芸名(実名と同じ場合を含む)は、その事務所が提供する役務を他の事務所が提供する役務を識別するものとして使用されるものと言いうるかが問題となるように思います。言いうるのであれば、威風飄々が自社の所属タレントとして「加護亜依」という芸名の者がいることを示して、主催者にタレントを派遣し上演等をさせるのは、「加護亜依」という商標の使用にあたるといえそうです。
ただ、商標法4条1項8号は、他人の氏名を含む商標については商標登録を受けることができないのを原則としており、その他人の承諾を得ている場合に限り例外的にそのような商標の登録を可能としています。問題となっている商標についても、加護さん自身がその登録を承諾したのだろうと推測できます。それはなぜかと言えば、当時加護さんとメインストリーム社との間で専属契約が締結され、これに基づき加護さんの芸能活動をプロモートする義務をメインストリーム社が引き受けたからでしょう。だとすると、専属契約が解除等により終了した場合は、この前提が覆されているわけですから、メインストリーム社は、「加護亜依」という標章について商標登録を維持する社会経済的な基礎を失っているといえます。このような場合に、形式的に商標登録が維持されることを奇貨として、加護さんの芸能活動を妨害する目的で商標権を行使することは、権利の濫用に当たると解することは十分可能だと思います。
Posted by 小倉秀夫 at 01:44 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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