浮き世における世知辛い話
「UQiYO」という音楽ユニットがあります。
2012年結成の若いユニットですが、2013年9月にセカンドアルバムを出し、また2015年3月にサードアルバムを出す予定とのことです。タワーレコード渋谷店を初めとする全国のレコードショップでインストアライブを行ったり、その楽曲がJ-WAVEでOn Airされたりしているので、知っている人も多いでしょう(skream.jpでは、その新譜が阿部真央やNICO Touches the Wallらと並んで紹介されていますし、ototoyでもこの高評価です。)。
そんな「UQiYO」に突然のBad Newsが舞い降りました。
株式会社ビーグリーが「UQIYO」というサービス名を用いて、「世の中のニュースをイラストで表現して投稿する」イラストキュレーションサービスを開始するというのです。
さらにまずいことに、株式会社ビーグリーは、「Uqiyo」という標章について、2014年11月20日付けで商標出願を行い、2014年12月18日付けでこれが公開されてしまっています。
指定商品・役務を見てみると、
9 ダウンロード可能な画像,ダウンロード可能な静止画及び動画,ダウンロード可能な電子出版物,ダウンロード可能な電子漫画,ダウンロード可能な音楽・音声・映像,ダウンロード可能な音声付き画像,ダウンロード可能な音声付き静止画及び音声付き動画,ダウンロード可能な音声付き電子出版物,ダウンロード可能な音声付き電子漫画,電子出版物,通信ネットワークを介して文字・画像又は映像に関する情報をウェブサイトに投稿するためのコンピュータプログラム,インターネット又はその他の通信ネットワークを介して電子媒体又は情報をアップロード・投稿・提示・展示・タグ付け・ブログ作成・共有利用・その他提供することを可能にするためのコンピュータソフトウェア,電子応用機械器具及びその部品,電子計算機用プログラム
35 広告業,広告スペースの貸与又は提供,新聞記事情報の提供(電子通信回線を利用した新聞記事情報の提供を含む。)
38 電子掲示板通信,電気通信(放送を除く。),写真の共有・画像の送信・ファッション情報・ニュース情報に関するメッセージの送信に用いるソーシャルネットワーキングユーザーのためのチャットルーム形式の電子掲示板通信,コンピュータ・携帯型コンピュータ及び有線又は無線の通信機器を利用したユーザー間のリアルタイムで且つ双方向のオンラインによる通信,電子メール・インターネット上のインスタントメッセージ又はインターネット上のウェブサイトによりメッセージを交換するための通信,報道をする者に対するニュースの供給
41 通信ネットワークを用いて行う画像の提供,通信ネットワークを用いて行う静止画及び動画の提供,通信ネットワークを用いて行う電子出版物の提供,通信ネットワークを用いて行う電子漫画の提供,通信ネットワークを用いて行う映像・音楽及び音声の提供,通信ネットワークを用いて行う音声付き画像の提供,通信ネットワークを用いて行う音声付き静止画及び音声付き動画の提供,通信ネットワークを用いて行う音声付き電子出版物の提供,通信ネットワークを用いて行う音声付き電子漫画の提供
42 ンターネット上での記憶領域のホスティング,コンピュータウェブサイトのホスティング,インターネットサーバーの記憶領域の貸与,オンラインミーティング・集会・インタラクティブな議論の開催・運営を目的とする他人のためのオンラインウェブサイトのホスティング,ユーザーにより定義された情報・個人のプロフィール・情報を特徴とするカスタマイズされたウェブサイトのホスティング,ユーザーにより定義された情報・個人のプロフィール・情報を特徴とするカスタマイズされた電子掲示板又はホームページのためのサーバーの記憶領域の貸与,インターネットにおいて利用者が交流するためのソーシャルネットワーキング用サーバーの記憶領域の貸与,インターネットを介したコンピュータプログラムの提供,ユーザーにより定義された情報・個人のプロフィール・情報を特徴とするカスタマイズされたウェブページ用プログラムの提供,コンピュータソフトウェアの提供,ウェブサイトを通じたアプリケーションソフトウェアの提供,電子計算機用プログラムの提供,インターネットにおける会員同士のコミュニケーションを目的としたウェブサイト用コンピュータプログラムの提供又はこれに関する情報の提供
45 著名人・芸能人・漫画家・声優に関する情報の提供,ファッション情報の提供(電子通信回線を利用したファッション情報の提供を含む。),インターネットの電子掲示板を用いたプロフィール等の個人に関する情報の提供,個人に関する情報の提供,インターネット上でのウェブサイトを通じたソーシャルネットワーキングユーザー向けの友達探し及び紹介のための情報の提供
となっています。
Live活動を行ったり、音楽番組に出演したりというサービスや音楽CD等の商品は、指定商品・役務に含まれていないので、直ちに音楽活動の妨げになるわけではありません。ただ、プロのミュージシャンとしては、インターネットを通じたファンとの交流を確保していくことがほぼ必須になってきているので、「通信ネットワークを用いて行う画像の提供,通信ネットワークを用いて行う静止画及び動画の提供」「通信ネットワークを用いて行う映像・音楽及び音声の提供」「通信ネットワークを用いて行う音声付き画像の提供」「通信ネットワークを用いて行う音声付き静止画及び音声付き動画の提供」でユニット名の使用が制約されるとなると、厳しいだろうなあとは思います。
では、「UQiYO」としては、この商標出願に対して何かできることはあるのでしょうか。
まず、商標法43条の2では、次のような定めがあります。
(登録異議の申立て)
第四十三条の二 何人も、商標掲載公報の発行の日から二月以内に限り、特許庁長官に、商標登録が次の各号のいずれかに該当することを理由として登録異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の指定商品又は指定役務に係る商標登録については、指定商品又は指定役務ごとに登録異議の申立てをすることができる。
一 その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたこと。
二 その商標登録が条約に違反してされたこと。
この登録異議申立は、「何人も」すなわち利害関係の有無にかかわらず、申し立てることができます。ただし、商標掲載公報の発行の日から二ヶ月以内に限定されてしまいます。
これとは別に、商標法46条1項は以下のように定めています。
(商標登録の無効の審判)
第四十六条 商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
一 その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたとき。
二 その商標登録が条約に違反してされたとき。
三 その商標登録がその商標登録出願により生じた権利を承継しない者の商標登録出願に対してされたとき。
四 商標登録がされた後において、その商標権者が第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定により商標権を享有することができない者になつたとき、又はその商標登録が条約に違反することとなつたとき。
五 商標登録がされた後において、その登録商標が第四条第一項第一号から第三号まで、第五号、第七号又は第十六号に掲げる商標に該当するものとなつているとき。
六 地域団体商標の商標登録がされた後において、その商標権者が組合等に該当しなくなつたとき、又はその登録商標が商標権者若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているもの若しくは第七条の二第一項各号に該当するものでなくなつているとき。
この無効審判の申立ては、同法47条に該当する理由に基づくときは商標権の設定の登録の日から5年以内に申し立てる必要がありますが、それ以外の場合は特に申立期限はありません。ただし、無効審判請求を行い得るのは、商標登録を無効とすることに何らかの利害関係があることが必要だとされています。
まあ、まだそもそも出願が公開された段階なので、除斥期間の心配をする必要はないし、「UQiYO」というユニット名で活動している以上「Uqiyo」の商標登録を無効とすることに利害関係があることは認められるでしょうから、「Uqiyo」についての商標登録がなされてもとりあえず「UQiYO」のメンバーにこの登録異議申立てや無効審判の申立てができることは問題ありません。
では、株式会社ビーグリーが「Uqiyo」という標章につき商標登録を行うことは法的に許されないのでしょうか。
こういうときは、通常、商標法3条ないし4条1項の各号の規定のどれかに該当しないかを見てみることになります。
すると、4条1項8号の
他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
や、10号の
他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
や、15号の
他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
や、16号の
商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
あたりが、目に飛び込んできます。
16号は遠いように思われるかも知れませんが、「LADY GAGA」という登録商標について、
本件商品である「レコード,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる音楽ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」のうち「LADY GAGA」(レディ(ー)・ガガ)が歌唱しない品質(内容)の商品に使用した場合,「LADY GAGA」(レディ(ー)・ガガ)が歌唱しているとの誤解を与える可能性があり,商品の品質について誤認を生ずるおそれがある。したがって,本願商標は,商標法4条1項16号に該当する
とする裁判例(知財高判平成25年12月17日)があるので、検討の対象となります。
まあ、本筋は10号該当をメインに争うというものだとは思います。そこでは、「UQiYO」が「需要者の間に広く認識されている」と言えるかどうかという点が争点になるのだろうとは思いますね。インディーズながら注目され始めているユニットについて、ユニット名について商標登録がなされていないことを奇貨として、「通信ネットワークを用いて行う画像の提供,通信ネットワークを用いて行う静止画及び動画の提供」「通信ネットワークを用いて行う映像・音楽及び音声の提供」「通信ネットワークを用いて行う音声付き画像の提供」「通信ネットワークを用いて行う音声付き静止画及び音声付き動画の提供」等の役務について商標出願してしまうと言うことが広く認められてしまうと、「インディーズデビュー時にユニット名を商標登録しておく」ということが頭の片隅にすらないほとんどのアーティストは厳しいだろうなとは思います。
「UQiYO」の場合、そのCDはAmazon.co.jpやHMV等で購入出来ますし、その楽曲をiTunes Store等でダウンロードすることもできますし、主要都市でのインストアライブを成功させていますので、「地域性」のところでは問題は生じないと思います。ただ、音楽市場においては、ジャンルごとの市場の細分化が進んでいることから(NHKの紅白歌合戦に出場している歌手ですら、音楽CD等の需用者の1割に知られているというのはごく一部です。)、「需要者の間で広く認識されている」と認められるためにどの程度の「浸透度」が必要かは、問題となり得るところです。「細分化された音楽ジャンルの愛好家の中での浸透度」で周知性の有無を判断しないと、音楽ジャンルでは、現実的妥当性のある結論を導けないのではないかという気がしてならないところです。
まあ、「需要者の間で広く認識されている」とはいえないとして4条1項10号の適用が認められなかったとしても、「先使用権」(32条1項)の要件としての「需用者の間に広く認識されている」はそれよりも緩く解釈されるとするのが一般的ではあるのですが。
Posted by 小倉秀夫 at 08:40 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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