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08/25/2015

TPP知財以降の国内法整備について──保護期間編

 TPP交渉がまとまるかどうかは未だ予断を許しません。そして、TPP交渉がまとまった場合に、知的財産権関連の条項がどうなるのかも未だよくわかりません。

 仮にTPP交渉がまとまった場合、国会でこれを批准したときに初めて日本としてこれに拘束されることとなり、TPP上の立法義務に合わせた国内法を国会が制定したときに初めて、私たちはこれに拘束されることとなります。

 そういう意味では、TPP交渉がまとまったら即時著作権の保護期間が延長されるわけでも、著作権侵害罪が非親告罪化するわけでも、法廷賠償制度が導入されるわけでもありません。

 ただ、包括通商条約というTPPの性質上、一部の条項だけ留保して批准と言うことも難しいでしょうし、与党が衆議院で3分の2以上の議席を有している以上、議会で批准をひっくり返すというのも難しいでしょう。したがって、農村部選出の議員を中心に反対意見が表明されるだろうとは思いますが、程なく批准はされてしまうのだろうと思います。したがって、鍵は、どういう風に国内法を制定していくのかという話になりますが、WIPO著作権条約の時も世界に先駆けて国内法を整備してしまった日本政府のことですから、一気に法改正がなされてしまう危険があります。

 だからこそ、TPP交渉がまとまる前に、リークされているTPP知財の条項案を前提に、いかに国内法を整備していくのかを論じ、ある程度まとまったら文化庁や各政党に提示しておくことが有益だと思います。

 例えば、著作権の保護期間については、どのようなことが考えられるでしょうか。

 現行著作権法51条は次のような規定になっています。

(保護期間の原則)
第五十一条  著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2  著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)五十年を経過するまでの間、存続する。

 TPPにおいて著作権の保護期間を最低70年とすることが義務づけられた場合、この「五十年」の部分が「七十年」に置換される法改正が予想されます。

 では、何も出来ないのでしょうか。そうでもありません。

 例えば、著作権法を改正する際には、通常、「附則」というのを定めて、法改正前にすでに存する著作物等について改正法をどの範囲で適用するのかを定めることになっています。著作権の保護期間については、例えば、

(著作物の保護期間についての経過措置)
第××条  改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第五十四条第一項の規定は、この法律の施行の際現に公表されている著作物については、なお従前の例による。

という規定を附則に置けば、著作権の保護期間が70年に延長されるのは、改正法施行後に公表された著作物に限定されることとなります。日本では、著作権法は、「著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」(1条)ものとされており、著作権法による保護、言い換えれば著作物の利用について著作権者への独占権の付与は、それが新たな創作活動へのインセンティブの付与に繋がるからこそ例外的に認められているとの考えが一般的ですので、新たな創作活動へのインセンティブの付与に繋がらない「すでに公表されている著作物についてまでその保護期間を延長すること」は、その立法目的を超えて他者の権利(表現の自由ないし営業の自由等)を制約することとなり許されないといえますので、理屈は立つことになります。

 また、公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物については、文化庁長官の裁定を受け文化庁長官が指定する特定の登録機関にその現在の著作権者が登録されていない場合(登録上の著作権者がすでに死亡している場合を含む。)には、裁定手続きの対象とするような法改正を行うことにより、著作者の死後50〜70年後の、転々相続による著作権の共有者全員を探し出すコストから、その著作物の利用希望者を解放することが出来ます。

Posted by 小倉秀夫 at 12:04 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

同人誌の表紙絵

同人誌の写真をネットで公開することについて法律的にどのような問題が生じてくるのかについて、AVANCE LEGAL GROUP LPCの山岸純弁護士と児玉政己弁護士に聞いたニコニコニュース内の記事が反響を呼んでいます。その真偽について検討してみましょう。

 両弁護士によれば、

この種の同人誌は、既存のマンガなどのキャラクターの特徴が忠実に再現されていてこそ購買意欲が生じると言われていますので、『同人誌の製作者』のオリジナリティはかえって購買者にとって邪魔になるだけであり、このようなオリジナリティの発現はおのずと否定される場合が多くなるかと思います。とすると、“オリジナリティが欠ける”=“著作権が発生しない”ということになりますので、『二次創作系同人誌』の表紙については、無断掲載されても、『同人誌の製作者』への著作権侵害の可能性は低くなると考えることができるわけです

とのことです。

 どうも、同人誌というものを誤解されているような気がしてなりません。二次創作系の同人誌においては、既存の漫画のキャラクターの特徴を押さえつつ、各同人作者の個性を反映させたり、ストーリーにあわせたり、さらにデフォルメしたり、むしろデフォルメを弱めたりして、元のキャラクターとは明らかに異なるキャラクター絵を生み出す方がむしろ一般的です。ピカチュウすらHに変身させるのが同人誌です。既存の漫画のキャラクターに同人作家の創作性が加えられた新たなキャラクターが表紙に登場することは何ら不思議ではありません。

 さらに言えば、キャラクターの描き方自体は元の漫画のキャラクターに忠実だったとしても、表紙絵における構図、各キャラクターのポーズやその衣装の組み合わせ、背景等の描き方にその同人作家の個性が反映されていれば、表紙絵自体、二次的著作物たりうると言うことになります。

 記事では、上記両弁護士の見解から、

『二次創作系同人誌』は、そのほとんどが“著作権が発生しない”。よって、写真をネットにアップすることは法的には問題ないようだ。

との結論を導きます。これはとんでもない間違いです。同人誌の表紙絵が二次的著作物にあたるかどうかに関わりなく、元の漫画のキャラクターの表現上の本質的特徴を直接感得できるものである限り、これをウェブ上にアップロードすることは、原則として、元の漫画の著作権を侵害することとなります。二次的著作物の利用についても、原作品の著作権者は権利行使をなし得るのです(著作権法27条)

 さらに、同記事では、両弁護士の発言として、以下のように続けます。

例えば、写真全体に表紙が納まるように撮影する場合などは、表紙の「複製」と評価される可能性が高く、「著作権」侵害となりますが、表紙だけではなく、ほかの被写体(同人誌を持って立つ購買者、東京ビックサイトの外観、そのほかの背景等)とともに撮影されている場合には、当該写真は表紙の「複製」と評価することは難しくなるものと考えられます。

 しかし、表紙が他の被写体とともに撮影されていようとも、その表紙の表現上の本質的特徴部分がその写真から直接感得できる限り、その写真はその表紙の複製物ないし二次的著作物たりうるのです。もちろん、その表現上の本質的特徴部分を直接感得できない程度に「引き」で写真撮影をすれば「複製」に当たらないこととなる場合もあるとは思いますが、それはむしろ、小さくしか取れていないことによるものであって、他の被写体とともに撮影されていることによって生じた現象ではありません。

 あとは、著作権法30条以下の権利制限規定に当たるかどうかの問題です。コミケ会場等の写真を撮る際に、自分と無関係の参加者が持っていた同人誌の表紙等が写り込んだと言うことであれば、著作権法30条の2が適用される可能性がありますが、撮影時に敢えて同人誌をもって表紙を前面に掲げて写真を撮ったということですと、同条の適用は難しいのではないかという気がします。この場合、当該同人誌の表紙絵は、「写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難である」とは言いがたいからです(仲間を撮影する際には、「その同人誌の表紙絵が写り込むとまずいので、一旦下に置いて下さい云々と指示するのは大変ではありませんので。)。

Posted by 小倉秀夫 at 02:12 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)