森のくまさん
パーマ大佐による「森のくまさん」について、童謡である「森のくまさん」についての馬場祥弘の訳詞に係るの同一性保持権を侵害するものであるとして、馬場氏よりクレームがつけられた件が話題になっています。
ただ、パーマ大佐による「森のくまさん」の歌詞を見る限り、馬場氏の訳詞を流用している部分は、特に改変等をしておらず、単に、馬場氏の訳詞の一部と一部の間に、パーマ大佐が創作した文章表現を挿入しているだけのように見えます。
そうだとすると、ここでは、「既存の言語作品の一部を複数切り取って、その間に、新たな文章表現を挿入することが、既存の言語作品に係る同一性保持権を侵害するものと言えるのか」ということが問題となると言えます。
同一性保持権について定めた著作権法第20条1項は「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。 」と定めていますので、既存の言語作品をその意に反して切除すること自体が同一性保持権侵害にあたるのだとする見解もあり得なくはないでしょう。しかし、言語著作物は古来より「引用」されてきたことを考えると、既存の言語作品の一部が切り取られて別の作品に挿入されて利用されたとしても、必ずしもそれがその言語作品の全体だと受け取られるおそれが低く、その切り取られて別の作品に挿入された部分だけを見て、元の言語作品の作者に対する評価を決める人は希であると考えられるので、切り取り方が不適切で、その部分から感得される作者の人格的評価が歪められるような方法による場合を除けば、同一性保持権を侵害するものとまでは言えないのではないかと思います。
パーマ大佐による「森のくまさん」についていえば、馬場氏の訳詞について、その部分から感得される作者の人格的評価が歪められるような不適切な切り取り方をしていないので、同一性保持権侵害にあたるとまでは言えないのではないかと思います。
では、パーマ大佐による「森のくまさん」における、馬場祥弘の訳詞の一部の利用が、訳詞者である馬場氏の名誉または声望を害するものであって、馬場氏の著作者人格権を侵害する(著作権法113条6項)ものと認められるかというと、これが一種のパロディであることが明確であること、その方向も特に一般の人をして嫌悪感を抱かせるようなものではないことを考えると、難しいのではないかと思います。
童謡である「森のくまさん」についての馬場氏の訳詞は、JASRACによる管理がなされており、馬場氏は翻案権以外の著作権を有していないので、馬場氏自体がパーマ大佐等に対して著作権を主張することはできません(だから、「同一性保持権侵害だ」と言っているのではないかと推測します。)。
では、JASRACは、パーマ大佐等に対して著作権を行使することができるのでしょうか。
おそらくその場合、馬場氏の訳詩の一部を切り取ってパーマ大佐版のの「森のくまさん」に利用したことが著作権法32条の適用を受ける「引用」にあたるかどうかが問題となろうかと思います。
パーマ大佐が新たに挿入した部分の方が明らかに多いので、主従関係が認められることが明らかです。明瞭区別性について言えば、実際のパフォーマンスにおいて、原曲たる「森のくまさん」の一部を歌っているのか、パーマ大佐が新たに創作した部分を歌っているのかが区別できるようになっていれば、十分に満たされるのではないかと思います。
あとは、いわゆる「本歌取り」という目的が著作権法32条にいう「報道、批評、研究その他の引用の目的」に含まれるのか、そして含まれる場合に、パーマ大佐版「森のくまさん」における馬場氏の訳詞の利用が、「目的上正当な範囲内で」行われたといえるかどうかが問題となろうかと思います。パーマ大佐版「森のくまさん」のストーリー展開を前提とすると、「目的上正当な範囲内で」行われているように私には思えるのですが。
Posted by 小倉秀夫 at 12:37 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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