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02/06/2017

還元の要否に関する原則と例外

 音楽教室とJASRACとの関係についての議論を見ていて気になることがあります。著作物を用いて事業者が利益を上げたらその利益の一部は著作権者に還元されなければならないという間違った考え方をお持ちの方が少なからずいるということです。

 少なくとも日本の現行の著作権法は、そういう考え方を採用していません。著作物を公衆に提示・提供する行為のうち所定の態様で行われるもの(並びに、その準備行為たる著作物の複製行為、二次的著作物の創作行為)のみを法定利用行為として著作権者に独占させる制限列挙方式を採用しています。著作物の創作に一定の資本を投下した人に投下資本回収の機会を与えるために一定期間競合を排除するという著作権法の基本的な枠組みからすれば、新たな公衆への提示・提供態様が著作物にかかる本来的な投下資本回収手段の一つとして位置づけるに値するものとなったときに、新たに支分権を創設する立法を行えばよく、そのような立法がなされるまでは、著作物を利用して事業者が利益を上げてもその利益の一部を著作者に還元する必要はありません。実際、例えば、漫画喫茶は他人の著作物を用いて事業者が利益を上げているわけですが、営利目的で著作物の複製物を公衆に展示することが法定利用行為に含まれていない現行法上は、漫画喫茶の経営者は漫画本の著作権者等にその利益を還元する必要はありません。

 従って、音楽教室におけるJASRAC楽曲の使用についても、それが「公衆に直接聞かせる目的でなされる演奏」にあたらなければ音楽教室が上げた利益を著作権者に還元する必要はありませんし、「公衆に直接聞かせる目的でなされる演奏」にあたって著作権の制限事由のいずれかに該当する場合は音楽教室が上げた利益を著作権者に還元する必要はありません。また、法定の権利制限規定のいずれも当てはまらない場合であっても、事業者の上げた利益の一部を著作権者に還元させることが不適切とされ、権利侵害の成立が否定される場合があります(消尽論が適用される場合もその一つです。)。その場合も、事業者は利益を還元する必要はありません。

Posted by 小倉秀夫 at 03:54 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Commentaires

著作権は「特権」であって「権利」ではない、ということは、日本であまり意識されていませんね。
英語だと著作権料royaltyは、王様が特別の配慮で与えた特権、というroyalから来ていますし、特許patentはそのもの特権です。
著作権などと言わず著作特権、演奏権と言わず演奏特権と言った方がわかり易いですね。

Rédigé par: こんにちは | 7 févr. 2017, 22:42:01

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