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04/15/2018

政府解釈の意味

 慶應義塾大学の中村伊知哉先生によると、海賊版サイトブロッキング問題について、知財本部・犯罪対策閣僚会議は、下記の方針を決めたとのことです。

1.法制度を整備する。次期通常国会を目指しブロッキングの法的根拠となる制度を整備する。リーチサイト対策も進める。

2.それまでの緊急避難としてのブロッキングについて、政府は「違法性が阻却される」との解釈を示す。

3.これを受けてISP+コンテンツら民間の対応を進めるタスクフォースを作る。

 この中で一番分からないのは2.です。

 緊急避難という制度は古くから刑法に組み込まれているものであり、その解釈については学説・判例が既に積み重なっています。司法部門は通常、既存の最高裁判例や下級審裁判例、そして通説的理解に沿って、認定事実に法を当てはめて結論を導きます。したがって、ISPが海賊版サイトへのアクセスをブロッキングすることについて刑法上の「緊急避難」が成立するかどうかは、緊急避難に関する判例・通説に従って判断されるわけです。

 では、政府がISPが海賊版サイトへのアクセスをブロッキングすることについて刑法上の「緊急避難」が成立するので「違法性が阻却される」との解釈を示すことに何の意味があるのでしょうか。

 緊急避難制度を創設する際の起草者の意思や国会での議論であれば、立法者意思が示されたという意味で、解釈論上の重要な参考資料となります。しかし、緊急避難制度は遥か昔に創設された制度ですので、今更政府が緊急避難についての法解釈を示したところで、それが立法者意思を示したものでないことは明らかです。

 日本国憲法は三権分立制度を採用しており、裁判所は、法令を解釈して、これを認定事実に当てはめる過程において、行政機関の指示や解釈に従う義務を負いません。したがって、海賊版サイトへのアクセスのブロッキングについては違法性が阻却されるという解釈を政府が示したとしても、その解釈を採用する必要が裁判所にはないのです。

 「過去の判例・裁判例や学説を検討した結果、海賊版サイトへのアクセスのブロッキングについては、緊急避難が成立し違法性が阻却されるという判断を裁判所が下す可能性が高い」という分析を政府機関がしてみせるというのはありかも知れません。ただ、知財本部・犯罪対策閣僚会議の構成メンバーを見る限り、そのような分析を行うには力不足の感が否めません。刑法学者や刑事部回り中心のベテラン裁判官、刑事弁護で定評のある弁護士などがメンバーに含まれていないからです。

 あるいは、電気通信事業法違反(通信の秘密違反)の罪については、警察に捜査をさせず、検察に起訴をさせないという、政府としての態度表明なのかもしれません。ただ、警察も検察も行政機関の1つとは言え、準司法機関たる性質を有するので、従前の判例通説に従えば犯罪となるべき行為について捜査・起訴をしないように政府が介入してみせることが適切なのかという問題を生じます。

 中村先生は、上記指針をもって、「ブロッキングについて政府は法的リスクを負い、ゴーサインを出す。」と評価するのですが、ブロッキングを許せないとする市民からの刑事告発に応じて警察が捜査を開始し、検察がこれを起訴しようとした場合に、政府として指揮権発動などの強硬手段を採用する覚悟まであるのかがよくわかりません。実際に起訴されてしまえば、ブロッキングに関与したISPの担当者は、「政府解釈を信じたのだ」という主張をしても無意味です。法令の解釈を間違って、自己の行為は適法であると信じていたとしても、裁判所がその行為を違法だと判断したら、故意責任は阻却されないからです。その場合に、政府はどのように責任をとるのでしょうか。

Posted by 小倉秀夫 at 12:01 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)