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01/04/2019

平成最後のパブコメ

A:リーチサイト等を通じた侵害コンテンツへの誘導行為への対応

権利侵害情報を含むWebページへのリンクの提供行為自体を違法な行為と規定するか否か、規定する場合どのような条件を課すか、リンク先のWebページに権利侵害情報が含まれている場合にリンクの削除義務を課す規定を置くか否か、置くとした場合どのような条件を課すか、その場合、検索エンジンについて特別の規定をおくか否かという問題については、そのWebページにおいて侵害されている権利が著作権や著作隣接権であるか否かによって対応を変える必要があるとは思えない。したがって、この問題は、著作権法の改正により著作権等が侵害された場合に限定した問題として立法的な解決を図るべき問題ではなく、プロバイダ責任制限法の改正等により、汎用的に立法的な解決が図られるべきものである。

なお、検索エンジンの大半は外国企業によって運営されているから、日本にいる被害者が外国企業たる検索エンジン提供事業者に対し安価かつ迅速に侵害情報へのリンク等の削除を求める仮処分等を申し立てることができる仕組みを構築しなければ、著作権法改正により上記削除義務を法定しても実効性を持たないことが予想される(例えば、Google Incは、日本在住者をもターゲットとして検索エンジンサービス等の提供を業として行なっているにも関わらず、外国法人としての登記を日本において行なっておらず、日本における代表者も定めていない。このため、Google Incに対し、違法サイトへのリンクの削除を求めて仮処分を申し立てまたは訴訟を提起しようとしても、Goole Incの代表者を証した公文書を取り寄せることが求められるとともに、主著書面および書証を英訳することが求められ、さらに仮処分であれば決定書が領事送達の方法によりGoole Incに送達されなければ効力が生じず、訴訟であれば訴状等が領事送達の方法で送達されなければ第一回口頭弁論期日さえ行えない。Google合同会社に対して仮処分を申し立てたり訴訟を提起したりしたところで、自分たちには権限がないと主張されて終わるだけである。)。したがって、外国の事業者に対する訴訟ないし民事保全に関する法整備を行うことなくただ漫然と検索エンジンサービス提供事業者に違法サイトへのリンクの削除義務を負わせる立法をしたところで、日本国発の新たな検索エンジンサービス事業の創設を阻害する以上の機能を持たないことは容易に予想される。

B:ダウンロード違法化の対象範囲の見直し

 違法にアップロードされたコンテンツの私的使用目的のダウンロード行為を不法行為としまたは犯罪行為とした場合、特定の人物(以下、「被疑者等」という。)がそのようなダウンロードをしたことを権利者がその権利者が民事訴訟または保全手続において立証し、もしくは検察が刑事裁判の中で立証するためには、被疑者等が使用している端末を物理的に押さえ、専門家による調査を行わせることが必要である。そのためには、訴えや保全申立て前の証拠保全や、捜査段階での捜索差押が用いられることにならざるを得ない。このようにして被疑者が使用するコンピュータ等の端末が押さえられ調査された場合、証拠保全を申し立てた「権利者」や捜索差押を実施した捜査機関は、その「被疑者」がいつどこにアクセスしてどのようなコンテンツをダウンロードしたのかを包括的に知ることになる。それはプライバシー権や思想・良心の自由を大いに侵害することになる。
 インターネットに接続しコンテンツをダウンロードする機能を有する端末機器を保有しているほとんどの市民には違法にアップロードされたコンテンツを私的にダウンロードしている可能性がある反面、そのようなダンロードにはそれ以上に特別な機器等を必要としない。このため、裁判所としては、被疑者等がそのような端末を保有している蓋然性が高いことだけチェックして令状の発布等を行うか、その他に違法ダウンロードをしている蓋然性が高いことを示す資料の提出を求めて事実上令状等の発布等を行わないこととするかの二者択一を迫られることとなる。前者の場合、別件の捜査のために、私的ダウンロード罪を被疑事実としてパソコン等の捜索差押がなされたり、マスメディア等が著名人に関する醜聞を追いかけるためにその著名人等のパソコン等について証拠保全の申立てをしたりする危険性がある。後者の場合、改正法はほぼ実効性を有しないこととなる。
 
 また、違法アップロードコンテンツのダウンロードの違法化・犯罪化は、その捜査等の過程で広く市民のプライバシー権や思想・良心の自由を制約することとなるので、これによりコンテンツの売上が飛躍的に向上する見込みが立たないのであれば実施すべきではない。それゆえ、上記立法が先行的になされた音楽・映像コンテンツについて、法改正の結果正規の音楽コンテンツおよび映像コンテンツの売上額の向上に繋がったのかをまず検証すべきである。
 なお、音楽コンテンツについては、違法にアップロードされたコンテンツの私的使用目的でのダウンロードを違法化しても音楽CDの売り上げの減少傾向に歯止めはかかっておらず、ダウンロード配信の伸びも、人気アーティストのデジタル配信への参加が広まっていったにも関わらず、ダウンロード行為を犯罪化した2012年以降、有料配信回数は着実に減少している(日本レコード協会が公開しているデータをもとにシングルトラックとアルバムの音楽配信売上額の推移を見てみると、ピークである2009年を1とした場合に、2010年が0.97、2011年が0.83、2012年が0.66、2013年が0.50、2014年が0.49、2015年が0.48。2016年が0.46である。)。反対に、違法にアップロードしたものであってもその視聴等が違法化されていないストリーム配信の売上額は2009年度のそれと比べて2016年度のそれは約20倍となっている。これをみる限り、ダウンロードの違法化、犯罪化は、コンテンツのうる上げを増大させるという目的との関係では、むしろ逆効果となっている可能性が高い。

 著作権等の制限に関する規定やこれに関する判例は国ごとに大きく異なっており、有償で正規にコンテンツ配信を行う事業者において自国法に基づいて必要な権利処理を行ったとしても、日本法を前提とした場合には権利処理が不十分とされる場合がありうる(例えば、著名な有償著作物に関するパロディ作品など。)。この場合、日本在住者または日本国外にいる日本国民は、その事業者の本国において適切に権利処理されている作品をダウンロード購入したのになお、日本で処罰される危険を負うことになる(理論的には、ダウンロード購入をする前に、日本法を前提とした場合には配信者がしなければならない権利処理を購入者側で行うことでこのリスクを回避することが可能であるが、現実的ではない。)。
 これは、日本在住者等のみが、特定の情報を知ること自体許されなくなるという事態を招来させるものであり、国民の知る権利をないがしろにするものである。したがって、配信事業者の本国法において必要な権利処理がなされたコンテンツについては、日本法のもとで必要とされる権利処理に不備があったとしても、そこからのダウンロードを不法行為ないし犯罪行為とするべきではない。

Posted by 小倉秀夫 at 12:55 PM dans D'autre problème de droite | | Commentaires (0) | TrackBack (0)