10/04/2018

シラバス変更

明治で担当している法情報社会Bの授業、ちょっとシラバスを変更することにしました。まあ、ブロッキング問題に言及する回を設定するだけですが。
































































回  テーマ 
第1回 IT社会の発展史
第2回 フェアユース
第3回 利用規約
第4回 CLOUD
第5回 フリーソフトウェア
第6回 大学と情報法
第7回 ヴォーカロイド
第8回 ポイント・仮想通貨
第9回 ブロッキング問題
第10回 政治と選挙と情報法
第11回 AIと法律
第12回 風評被害
第13回 IT犯罪
第14回 発信者情報開示をめぐる最前線

Posted by 小倉秀夫 at 12:21 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0)

04/15/2018

政府解釈の意味

 慶應義塾大学の中村伊知哉先生によると、海賊版サイトブロッキング問題について、知財本部・犯罪対策閣僚会議は、下記の方針を決めたとのことです。


1.法制度を整備する。次期通常国会を目指しブロッキングの法的根拠となる制度を整備する。リーチサイト対策も進める。

2.それまでの緊急避難としてのブロッキングについて、政府は「違法性が阻却される」との解釈を示す。

3.これを受けてISP+コンテンツら民間の対応を進めるタスクフォースを作る。


 この中で一番分からないのは2.です。

 緊急避難という制度は古くから刑法に組み込まれているものであり、その解釈については学説・判例が既に積み重なっています。司法部門は通常、既存の最高裁判例や下級審裁判例、そして通説的理解に沿って、認定事実に法を当てはめて結論を導きます。したがって、ISPが海賊版サイトへのアクセスをブロッキングすることについて刑法上の「緊急避難」が成立するかどうかは、緊急避難に関する判例・通説に従って判断されるわけです。

 では、政府がISPが海賊版サイトへのアクセスをブロッキングすることについて刑法上の「緊急避難」が成立するので「違法性が阻却される」との解釈を示すことに何の意味があるのでしょうか。

 緊急避難制度を創設する際の起草者の意思や国会での議論であれば、立法者意思が示されたという意味で、解釈論上の重要な参考資料となります。しかし、緊急避難制度は遥か昔に創設された制度ですので、今更政府が緊急避難についての法解釈を示したところで、それが立法者意思を示したものでないことは明らかです。

 日本国憲法は三権分立制度を採用しており、裁判所は、法令を解釈して、これを認定事実に当てはめる過程において、行政機関の指示や解釈に従う義務を負いません。したがって、海賊版サイトへのアクセスのブロッキングについては違法性が阻却されるという解釈を政府が示したとしても、その解釈を採用する必要が裁判所にはないのです。

 「過去の判例・裁判例や学説を検討した結果、海賊版サイトへのアクセスのブロッキングについては、緊急避難が成立し違法性が阻却されるという判断を裁判所が下す可能性が高い」という分析を政府機関がしてみせるというのはありかも知れません。ただ、知財本部・犯罪対策閣僚会議の構成メンバーを見る限り、そのような分析を行うには力不足の感が否めません。刑法学者や刑事部回り中心のベテラン裁判官、刑事弁護で定評のある弁護士などがメンバーに含まれていないからです。

 あるいは、電気通信事業法違反(通信の秘密違反)の罪については、警察に捜査をさせず、検察に起訴をさせないという、政府としての態度表明なのかもしれません。ただ、警察も検察も行政機関の1つとは言え、準司法機関たる性質を有するので、従前の判例通説に従えば犯罪となるべき行為について捜査・起訴をしないように政府が介入してみせることが適切なのかという問題を生じます。

 中村先生は、上記指針をもって、「ブロッキングについて政府は法的リスクを負い、ゴーサインを出す。」と評価するのですが、ブロッキングを許せないとする市民からの刑事告発に応じて警察が捜査を開始し、検察がこれを起訴しようとした場合に、政府として指揮権発動などの強硬手段を採用する覚悟まであるのかがよくわかりません。実際に起訴されてしまえば、ブロッキングに関与したISPの担当者は、「政府解釈を信じたのだ」という主張をしても無意味です。法令の解釈を間違って、自己の行為は適法であると信じていたとしても、裁判所がその行為を違法だと判断したら、故意責任は阻却されないからです。その場合に、政府はどのように責任をとるのでしょうか。

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11/02/2017

リーチサイトと違法私的ダウンロード

 リーチサイトが行っていることって、既に送信可能化が行われているコンテンツについて、公衆が送信要求をする機会を増やすことでしかありません。したがって、送信可能化を客観的に容易にしたといえないことは明らかです。では、公衆が送信要求をする機会を増やし、その結果、自動公衆送信がなされる機会を増大させた(あるいは、実際に自動公衆送信がなされる回数を増大させた)ことは、自動公衆送信を幇助したことにあたるでしょうか。

 自動公衆送信の回数を増大させる行為のうち、自らがダウンローダーとして送信要求を行う行為については、自動公衆送信の教唆又は幇助して扱うのではなく、送信されてきたデータをユーザー側の記録媒体に複製する行為の一部を複製権侵害(私的証目的がない場合)ないし違法コンテンツ私的ダウンロード罪(119条3項)として取り扱うというのが、現行の著作権法の基本的な枠組みです。

 そうだとすると、リーチサイトを運営することによって違法コンテンツについて公衆が送信要求する機会を増やしたことをもって自動公衆送信の幇助とするのは、上記基本枠組みとの関係で唐突という感が否めません。

 どうしてもリーチサイトを刑事罰の対象としたいのであれば、むしろ、公衆が違法コンテンツ私的ダウンロード罪を犯すことを客観的に容易にしたということで、違法コンテンツ私的ダウンロード罪の幇助とする方がまだいいのではないかと思います。この場合、当該リーチサイトを経由して私的ダウンロードをした人(正犯)が119条3項の要件を具備していること並びにそのことについてリーチサイトの運営者に故意があることが必要となるので、要件が大分絞られるからです。

 とはいえ、違法コンテンツの私的ダウンロードは、民事的にも違法とされているのですから、権利者たちは、まず民事訴訟を提起することにより、違法コンテンツにリンクを貼ることが違法私的ダウンロードの幇助になるのか否かについて、知財部の判断を仰ぐべきだったのではないかと思うのです。

Posted by 小倉秀夫 at 12:21 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/01/2017

リーチサイトについての取材(ロングバージョン)

 リーチサイト問題について、一昨日共同通信から取材があり、一昨日から昨日にかけてこれに応じていました。その結果を盛り込んだ記事が共同通信から各メディアに送られているとは思います。

 もっとも、紙面の都合上、非常に圧縮された形で私の見解が掲載されたに留まりますので、備忘録的な意味もかねて、ロングバージョンをこちらに記載しておこうと思います(Qについては、適宜要約しています。)。

【Q】リーチサイトそのものを規制するべきかどうか。

【A】現行法においても、他人の犯罪行為を違法に幇助した者は従犯として処罰の対象となっており、著作権侵害罪を幇助したものについても同様である。著作権侵害罪の従犯とならないリーチサイトについてまで新規立法で規制することは、バランスを欠くこととなる。

【Q】規制するならどういう形がふさわしいか。

【A】仮にリーチサイトを規制する新規立法を行う場合、国内在住者の知る権利を不当に害しないように、無償でまたは所定の対価を支払えば誰でも正規に提示・提供を受けることができる著作物等をアップロードしているサイトにリンクしている場合等に限定するべきであろう。また、リンク先が違法アップロードサイトであることについて確定的故意を要することにことも必要である(リンクを貼るにあたって、権利処理の有無についてリンク先に照会する義務を負わせることは適切でないからである。)。また、サーバ所在国において著作物等の無許諾アップロードが不可罰又は微罪である場合に、そこに国内からリンクを貼る行為に重い刑を科すことができるようにすることは、主犯と従犯との刑罰のバランスという観点からして不適切である。

【Q】日本人向けリーチサイトが多数存在する現状についてどう思うか。

【A】元来遵法精神の高い日本人のうちそれほど多くの人がリーチサイトを利用して違法アップロードされたデータにアクセスしているとすれば、それは、コンテンツを正規に提供するビジネスの側が様々なニーズに応えられていないということだと思う。また、動画については、違法にアップロードされたものをダウンロードする行為自体を刑事罰の対象とする立法が権利者団体のロビー活動の成果としてなされたが、それが全く無意味であったことを意味すると思う。

【Q】今回、大阪府警などの合同捜査本部が著作権法違反容疑でリーチサイトの運営者らを捜査している件について、どう考えるか。

【A】他人の著作物を違法にアップロードしているサイトにリンクを貼ることが著作権侵害行為の違法な幇助となるか否かについては法律解釈の争いがある状況下において、刑事事件として処理をすることは適切さを欠いている。刑事裁判の場合、訴追側と弁護側とで法律論争をする局面が極めて限られている上、これを裁くのが、知的財産権専門部の裁判官ではなく、(知的財産権については素人である)刑事部の裁判官だからである。

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09/04/2017

CM出演契約における結婚禁止特約と公序良俗

 武井咲さんが、いわゆるデキ婚をしたことを発表したことに伴い、スポーツ紙などでは、所属プロダクションが巨額の違約金を支払わされるのではないかということが話題となっています。これに対して、そもそも結婚や妊娠をしたら違約金を支払わせる旨の条項は公序良俗に反し無効なのではないかとの見解も発表されています。

 もっとも、民法90条自体が「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」という抽象的な条文であり、何をもって「公の秩序」とし、何をもって「善良の風俗」に反するとするのかは不明です。このため、民法学では、公序良俗違反となる行為を類型化することで、無効となる行為の予測可能性を高めようとしています。

 公序良俗違反の類型論として著名なのは我妻栄先生のものなのですが、さすがに初出が大正12年ということで古いので、ここでは山本敬三先生の類型論を参考にしてみましょう(ただし、新版注釈民法からの孫引きです。)。
 山本先生は、公序良俗を、A:秩序の維持、B:権利・自由の保障、C:暴利行為の規制とに区分しています。ここでは、とりあえずBが問題になりそうです。憲法第24条1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と定めているからです。

 もっとも、憲法上保障された権利や自由を制限する条項だから直ちに公序良俗に違反するとは言えません。憲法は、個人に保障された権利等を行使することを特定の個人に強いるものではなく、一定の反対給付と引き替えに、自己の有する憲法上の権利の行使を制限する義務を負うこともまた、契約自由の原則の一環として認められるべきだからです(最高裁は、雇用契約中に政治活動をしないことを条件とする特約の有効性を認めています(最判昭和27年2月22日民集6巻2号258頁))。

 当該商品・役務等を広告するのに相応しいイメージに合致すること、並びに、その氏名・肖像等が高い顧客吸引力を有しているが故に、広告主から広告代理店経由で所属プロダクションに広告のオファーが来ます。広告主としては、一定期間その肖像等を広告として使用する対価として相当の広告出演料をプロダクションに支払う以上、そのタレントに広告をオファーする際に重視した「イメージ」が広告契約期間中維持されることを求めるのは合理的です。したがって、上記イメージを損なうような行為を当該所属タレントに行わせないようにする義務を課す条項を広告出演契約の中の特約として含めるのは、広告主としては経済的に合理的であり、通常、反対給付(広告出演料)とバランスがとれています。
 プロダクションとしては、そのような特約を含むオファーを受け入れた以上は、所属タレントがこれに反する行為をし、広告主が求めていたイメージを損なうことをしてしまった以上は、債務不履行責任を負うのはやむを得ないように思います。広告出演契約においては、そのタレントが有するイメージを含めて対価が支払われているのであり、かつ、そのタレントが有する「イメージ」は必ずしも「役柄」によって形成されるものに限らず、そのタレントについて公的に知られている私的な事項も含まれているからです(おしどり夫婦として知られているタレントに、仲の良い夫婦をターゲットとした商品等に関するオファーが来ることを想像してください。)。したがって、「清純」というイメージを売りにしているタレントについて広告出演契約をオファーするに当たって、「清純」というイメージを損なう行為の禁止する特約を織り込むことも対価性のバランスがとれており、公序良俗に反するものとまでは言えないように思います。

 したがって、所属タレントが特約に反する行為を行ったために当該CMを放送しないことにしたり、急遽別のタレントを使用したCMを作成するなどして被った損害について、広告主が所属プロダクションに賠償請求することは問題が無いように思われます。その特約に反する行為が、妊娠、結婚など、憲法上自由に行うことが可能な行為であったとしてもです。

 その結果、プロダクションが弁済を余儀なくされた賠償額を当該タレントに求償しうるかというのは、また別の問題です。ただし、そのような損害を求償できる旨の条項が専属実演家契約に含まれており、かつ、当該タレント自身、当該特約が含まれていることを知りつつ、当該CMのオファーを受けることを社内的に承諾している場合には、プロダクションによる求償権の行使を制約する理由がないように思います。

 もっとも、その場合であっても、所属プロダクションは、CM出演契約に特約として定められている違約金全額を支払わなければいけないかは別問題です。損害賠償額の予定ないし違約金条項が、想定される損害に比して過大である場合には、超過部分について公序良俗に反し無効とされる可能性があるからです。所属タレントが特約に反した行為を行い、その広告に利用しようとしていたイメージが損なわれたとして、通常は、そのCMを継続して使用しなければ良いだけの話ですから、特段の事情がない限り、新たなCMを急遽作成するのに要する費用を大きく上回る額を違約金として定めていたとすれば、超過分は無効となるのではないかと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 10:22 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/14/2017

インターネット放送の合法化

 今日の著作権法学会の午後のシンポジウムは、CD等に収録されている音源をインターネット放送で送信する際の権利処理コストを引き下げるための制度設計に関する話でした。

 この点に関する私の意見を述べてみたいと思います。

 私は、当該コンテンツの視聴を選択したユーザーが同時に同じ音声を聴くように設計されているものについては著作権法上の放送または有線放送にあたるとする見解に立ちます。しかし、この見解は現状少数説に留まるので、この見解に立脚したビジネスを立ち上げるのは勇気が要ることでしょう。したがって、日本国内にベースをおいたインターネット放送事業を支援しようと思ったら、法改正が必要です。では、どんな法改正が必要なのでしょうか。

 要するに、特定の音源について「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能となる」と、それはその音源をCD等に収録して販売するというレコード製作者の通常のビジネスとバッティングするので、レコード製作者に排他権を付与すべきというのが実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約14条の趣旨であります。逆に言えば、特定の音源について「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能となる」もの以外については、レコード製作者に排他権を付与する必要はないと言うことになります。

 では、具体的にどのようにするのがベストでしょうか。シンポジウムでは、強制許諾制度を導入するべきとする見解や、権利制限規定を設けた上でレコード製作者等に報酬請求権を付与するべきという見解が示されていました。利益状況としては放送におけるCD音源の使用と同様なので、法的な取扱いとしても放送におけるCD音源の使用と同様とするのが理想です。すなわち、特定の音源について「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能となる」公衆送信以外の公衆送信以外をレコード製作者及び実演家の排他権の対象から除外しつつ、レコード製作者及び実演家に対する二次的使用料の支払い義務を負わせるというものです。

 では、具体的にはどうしたら良いでしょうか。

 まずは、2条1項各号の定義規定の中に、排他権の対象から除外するインターネット放送の定義規定を入れてみましょう。

インターネット放送 レコードの送信可能化であって、公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において当該レコードの利用が可能となるような状態に置くものでないもの(政令で定める除外条件を具備するものを除く。)

 シンポジウムでは、放送事業者は放送法により放送事業主体の名称、所在地等が明らかになっているのに対し、インターネット放送の場合必ずしもそうではないので、後者について報酬請求権化してしまうと取りっぱぐれてしまうリスクが高まることが問題視されました。そうであるならば、放送法上の放送事業者と同程度に名称、所在地等を登録してある事業者に限定して、排他権の対象から除外すればよいだけのように思います。

 例えば、2条1項各号の定義規定の中に次のような条項を加えてみましょう。

インターネット放送事業者 業としてインターネット放送を行う者であって、政令で定めるもの

 放送事業者、有線放送事業者がそのコンテンツをサイマル送信したりすることも有り得ますから、放送法上の認定基幹放送事業者及び登録一般放送事業者は、上記インターネット放送事業者に含めるべきでしょう。さらに、文化庁長官の登録を受けた事業者をインターネット放送事業者とすれば足りるでしょう(登録申請にあたって、氏名又は名称及び住所(並びに法人にあつてはその代表者の氏名)とインターネット放送に用いるURLを申請書の必須記載事項とし、さらに、破産等を認定資格喪失事由とすれば、二次的使用料等をいつまでも支払わずにインターネット放送だけ続けることは難しくなります。)。

 その上で、現行の著作権法第96条の2

レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する。


レコード製作者は、そのレコードを送信可能化(インターネット放送事業者によるインターネット放送に該当するものを除く。)する権利を専有する。

としてしまえば、済むように思います。

 その上で、例えば、95条1項を

放送事業者、有線放送事業者及びインターネット放送事業者(以下この条及び第九十七条第一項において「放送事業者等」という。)は、第九十一条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て実演が録音されている商業用レコードを用いた放送、有線放送又はインターネット放送を行つた場合(営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けずに、当該放送を受信して同時に有線放送を行つた場合を除く。)には、当該実演(第七条第一号から第六号までに掲げる実演で著作隣接権の存続期間内のものに限る。次項から第四項までにおいて同じ。)に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない。

としたり、97条1項を、

放送事業者等は、商業用レコードを用いた放送、有線放送又はインターネット放送を行つた場合(営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、レコードに係る音の提示につき受ける対価をいう。)を受けずに、当該放送を受信して同時に有線放送を行つた場合を除く。)には、そのレコード(第八条第一号から第四号までに掲げるレコードで著作隣接権の存続期間内のものに限る。)に係るレコード製作者に二次使用料を支払わなければならない。

としたり、44条3項として、

2  インターネット放送事業者は、第二十三条第一項に規定する権利を害することなくインターネット放送することができる著作物を、自己のインターネット放送(放送を受信して行うものを除く。)のために、自己の手段により、一時的に録音し、又は録画することができる。

との規定を新設した上で、従前の第3項を第4項とし、「前二項」とあるのを「前三項」とするなどの調整をしたらいいように思います。

Posted by 小倉秀夫 at 04:09 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/07/2017

演奏の「指導そのもの」から得た利益の一部をJASRACに支払うのは不自然

 東京大学の付属研究機関である先端科学技術研究センターに所属し、JASRACで外部理事を務める玉井克哉教授が以下のようなツイートをしています。

はい。そして、その「指導そのもの」が、他人の創作を用いた営利事業なのです。得た利益のごくごく一部を創作者に払うのは、当然ではないですか。

 このクラスの肩書きを持った方にも、著作権法の基本的な枠組みをご理解いただけていないのかと、がっくりきてしまいます。

 著作権法は、著作物を用いた営利事業全てを著作権者の支配下に置くものではありません。あくまで、著作権法21条以下の規定により著作者が専有すると規定された「法定利用行為」についてのみ、著作権者は自己の著作物に関してそれがなされることをコントロールできます。したがって、「指導そのもの」が「他人の創作を用いた営利事業」であったとしても、「指導そのもの」が著作物の法定利用行為にあたらなければ、得た利益の一部を著作者に支払うべき合理的な理由はありません。そして、第三者の演奏を指導すること自体は法定利用行為にあたりません。

 もちろん、指導に当たって教師が自ら見本を見せるために演奏をしてみせることが「公の演奏」にあたるかどうかは争点となり得るでしょう。しかし、それは、指導に際してなした「演奏」が法定利用行為にあたるとすればこれによって得た利益の一部を著作者に支払うとの条件で許諾を得る必要があるというだけのことです。演奏を指導する際に自ら手本を見せることは必須ではないので、「指導そのもの」は、利益の一部を支払うことを約束してでも著作権者から許諾を受けなければいけない行為にはあたりません。

 なお、「得た利益のごくごく一部」なんて言いますけど、音楽教室の利益率はあまり高くないので、授業料収入の2.5%も支払わされたら、利益の大半が飛んでしまうと思いますけどね。その分生徒からとればいいではないかと言われても、「授業料収入の2.5%」ということだと、JASRAC管理楽曲を使用していない生徒から徴収した授業料収入を含めて2.5%をかけて算出した金額をJASRACに支払わなければいけなくなるわけで、だからといって、JASRAC管理楽曲を使用していない生徒からは著作物利用料は徴収できないし、とはいえ、JASRAC管理楽曲を使用していない生徒から徴収した授業料収入に2.5%掛け合わせた分を、JASRAC管理楽曲を使用している生徒に上乗せして徴収するわけにも行かないし、結局その分は音楽教室の自己負担になるんですよね。

Posted by 小倉秀夫 at 11:32 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/06/2017

還元の要否に関する原則と例外

 音楽教室とJASRACとの関係についての議論を見ていて気になることがあります。著作物を用いて事業者が利益を上げたらその利益の一部は著作権者に還元されなければならないという間違った考え方をお持ちの方が少なからずいるということです。

 少なくとも日本の現行の著作権法は、そういう考え方を採用していません。著作物を公衆に提示・提供する行為のうち所定の態様で行われるもの(並びに、その準備行為たる著作物の複製行為、二次的著作物の創作行為)のみを法定利用行為として著作権者に独占させる制限列挙方式を採用しています。著作物の創作に一定の資本を投下した人に投下資本回収の機会を与えるために一定期間競合を排除するという著作権法の基本的な枠組みからすれば、新たな公衆への提示・提供態様が著作物にかかる本来的な投下資本回収手段の一つとして位置づけるに値するものとなったときに、新たに支分権を創設する立法を行えばよく、そのような立法がなされるまでは、著作物を利用して事業者が利益を上げてもその利益の一部を著作者に還元する必要はありません。実際、例えば、漫画喫茶は他人の著作物を用いて事業者が利益を上げているわけですが、営利目的で著作物の複製物を公衆に展示することが法定利用行為に含まれていない現行法上は、漫画喫茶の経営者は漫画本の著作権者等にその利益を還元する必要はありません。

 従って、音楽教室におけるJASRAC楽曲の使用についても、それが「公衆に直接聞かせる目的でなされる演奏」にあたらなければ音楽教室が上げた利益を著作権者に還元する必要はありませんし、「公衆に直接聞かせる目的でなされる演奏」にあたって著作権の制限事由のいずれかに該当する場合は音楽教室が上げた利益を著作権者に還元する必要はありません。また、法定の権利制限規定のいずれも当てはまらない場合であっても、事業者の上げた利益の一部を著作権者に還元させることが不適切とされ、権利侵害の成立が否定される場合があります(消尽論が適用される場合もその一つです。)。その場合も、事業者は利益を還元する必要はありません。

Posted by 小倉秀夫 at 03:54 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

02/05/2017

音楽教室でJASRAC管理楽曲は「演奏」されているのか。

 ヤマハ音楽振興会が運営している「ヤマハ大人の音楽レッスン」は、どんなことをやるのかを動画で説明しています。

 例えば、エレキギターについてはこれ、ドラムについてはこれです。

 これを見ると、果たして、これらの授業において、JASRACが信託譲渡を受けている「音楽著作物」が「演奏」されていると言えるのかに疑問を持ってしまいます。仮に、ここで生徒さんが演奏するのが、特定のJASRAC管理楽曲における特定のアーティストによる特定の音源ないしライブでの実演とほぼ同じ内容だったとして、そこまでJASRACは管理しているのだろうか、ということです。ドラムをどう叩くのか、エレキギターにおいてどのように弦を抑え、はじくのかということまで作曲家が決めるというのは、ポピュラーミュージックにおいては通常形態ではない以上、作曲家の権利について信託譲渡を受けているにすぎないJASRACは、そこまで専有する権限を持っていないのではないかということです。

 実際、ある楽曲のある音源におけるドラムが格好いいからこれを勉強したいということで、特定のCDに収録された楽曲におけるドラム譜を教材にした場合、ドラマーはそのドラム譜についてJASRACに何の信託譲渡もしていないので、仮に音楽教室が許諾料をJASRACに支払っても、そのドラマーには何も還元されないんですよね。

 そう考えると、ボーカルが入るなど主として主旋律が使用されている例外的な場合を除けば、音楽教室においては、そもそもJASRACが信託譲渡を受けている音楽著作物は「演奏されていない」といえるのではないかという気がします。

Posted by 小倉秀夫 at 07:10 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/02/2017

音楽教室とJASRAC

ヤマハや河合楽器製作所などが手がける音楽教室での演奏について、日本音楽著作権協会(JASRAC)は、著作権料を徴収する方針を固めた。
というニュースが話題となっています。

 音楽教室では、既存の楽曲について、教師が一部のフレーズを演奏して見本を示し、生徒がその見本に従ってそのフレーズを演奏してみるということが通常行われます。生徒については、一曲通しで演奏することもまま行われるのでしょう。このような形での楽曲の演奏は、音楽教室の教師(ないしその雇い主である音楽教室の運営会社)による著作権侵害に当たるのでしょうか。

 まず、一部のフレーズの演奏したに過ぎない場合に、元の「音楽著作物の利用」と言えるかどうかが問題となります。元の音楽著作物の表現上の本質的特徴部分を直接感得できるものでないと、著作物の「利用」たり得ないからです。4小節なり8小節なりという単位で演奏したときに、そこだけで「元の音楽著作物の表現上の本質的特徴部分を直接感得できる」かと言われると、そうでない楽曲も多そうです。

 次に、生徒による演奏について、著作権法上の演奏の主体を、音楽教師又は音楽教室運営者と認定できるのかが問題となります。この場合、ロクラクⅡ事件最高裁判決後もなおカラオケ法理ないし拡張されたカラオケ法理が適用されうるのかも問題となります(もっとも、生徒が演奏の主体である場合には、無償かつ非営利目的でなされており、適法なものといえますので、ファイルローグ法理は使えそうにありません。)。

 生徒が音楽教室に通うタイプですと、生徒による演奏も、音楽教室の運営会社が用意した建物内部で、運営会社が用意した機材等を用いて行われることになります。この場合、カラオケ法理を適用できるかどうかは、演奏する楽曲の選択の範囲を音楽教室側である程度コントロールしているのかどうかが問題となります(生徒の側で自由に演奏したい楽曲を指定してくる場合、音楽教室側の管理下において生徒が演奏しているとは言いにくくなります。)。音楽教師が生徒の自宅に派遣されるタイプですと、さらに音楽教室側の管理のもとで生徒が演奏しているとは言いにくくなります。

 ロクラクⅡ法理を用いた場合、生徒による演奏についての「枢要な行為」を音楽教室側が行ったといえるのかどうかが問題となります。教師が手本を見せること、あるいは、生徒が音楽教室に通うタイプの場合に,演奏する場所や演奏に用いる機材を提供することが、ここでいう「枢要な行為」に当たるのかという問題です。「枢要な行為」について判示した裁判例が未だ集積されていないので、なんとも言い難いところです。

 また、生徒による演奏については、公衆に直接聞かせる目的での演奏と言えるのかどうかも問題となります。音楽教室において生徒は、音楽著作物を公衆に伝達することではなく、自分の演奏につたない点がないかどうかをチェックしてもらうために演奏するのが通例であり、自分の歌声に酔いしれることを前提とするカラオケボックスにおける客の歌唱と同列に扱うことができるのかという問題があるからです。練習のための演奏について、従前から「公衆に直接聞かせるための演奏」としてきましたかね、ということですね。

 また、また、音楽教室において、教師による演奏の対価として料金が支払われるのではなく、生徒による演奏を指導する対価として料金をもらっているので、無償かつ非営利の演奏であるとして、著作権法38条1項の適用を受けるのではないかという問題もあります。ただし、無償要件はともかく、非営利目的といえるかという点が苦しそうです。

 また、音楽教室における教師による見本としての演奏は、演奏のテクニック等に関する説明の一環として行われるのが通常ですので、著作権法32条1項にいう「引用」に当たるのではないかも問題となり得ます。「引用」の目的として、「演奏のテクニックとして縷々説明した要素を、実際の演奏を見せることによって、分かりやすく示す」という目的も含まれるとするならば、生徒の目の前で特定のフレーズを演奏してみせることは、「引用の目的上正当な範囲」にとどまるように思います。

 さらにいえば、既に著作権の保護期間が経過した楽曲を演奏する分には何人の著作権をも侵害していないことになりますし、楽器の演奏の練習のために作成された、JASRACに信託譲渡されていない楽曲を使用する分には、少なくともJASRACの著作権を侵害することにはなりません。

 このような状況下で、「著作権料を年間受講料収入の2・5%とする」というのは無茶ではないですかね、と私などは思ってしまいます。

Posted by 小倉秀夫 at 11:44 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (3) | TrackBack (0)

01/30/2017

「PPAP」との商標を登録しても「PPAP」を歌うことは邪魔できない

 ベストライセンス株式会社が「PPAP」との文字標章について商標登録出願をした件に関して、様々な人が様々な見解を述べています。「未だ商標登録が認められていない現時点ではもちろん、仮に将来商標登録が認められたとしても、ピコ太郎はなお『PPAP』を合法的に歌い続けることができる」という結論は間違っていないものの、理由付けにおいて間違っている見解が多いようです。

 まず確認しなければいけないのは、そもそも「PPAP」の歌詞の中に「PPAP」という言葉は含まれないということです。「PPAP」と類似する文字列も歌詞には含まれません。したがって、「PPAP」を歌っても「PPAP」という文字列ないしこれと類似する文字列を使用しないわけですから、商標権侵害となるわけがありません。

 とはいえ、「PPAP」を音楽配信サービスで販売しようと思えばタイトル名として「PPAP」という表示をせずにはいられませんし、テレビ番組の中で「PPAP」を歌うとなれば(あるいは「PPAP」のミュージックビデオを流すとなれば)タイトル名として「PPAP」というタイトルを表示せざるを得ません。「PPAP」との文字列について誰かが商標登録してしまった場合には、そのようなタイトル表示は商標権侵害となるのでしょうか。

 現在の通説・判例を前提とすると、これは商標権侵害とはなりません。その理由は以下のとおりです。

 現行法において、「商標」の本質は、出所表示機能にあると考えられています。このため、出所表示機能を有さない標章についてはそもそも「商標」たり得ないし、出所表示機能を果たさない態様で標章を使用しても、それは商標としての使用にあたらないと解されています。

 そして、著作物の題号(タイトル)は、通常、出所を表示するのではなく、内容を表示する機能を有しているため、これを「商標」として保護することは適切ではないと考えられています。このため、著作物の題号はそもそも「商標」にあたらないとする見解や、著作物の題号としての使用は商標としての使用にあたらないとする見解が通説となっています(ただし、新聞や雑誌等の定期刊行物の題号や、百科事典・辞書類の題号については、「商標」性を認める見解が有力です。)。

 裁判所も、例えば、井上陽水がそのアルバムタイトルを「UNDER THE SUN」とし、これをそのCD盤の表面やジャケットに「UNDER THE SUN」「アンダー・ザ・サン」という標章を用いたことが、「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く。)、レコード、これらの部品及び付属品」を指定商品とする「UNDER THE SUN」との登録商標に関する商標権侵害にはあたらないとしています(東京地判平成7年2月22日判タ第881号265頁)。また、表紙、背表紙に『高島象山』の文字が表示されていても、「図書、写真及び印刷物類」を指定商品とする「高島象山」との登録商標の使用に当たらないとした裁判例もあります(東京高判平成2年3月27日判時1360号148頁)。

 したがって、ピコ太郎が歌う楽曲のタイトルとして「PPAP」との標章を用いる分には、仮に第三者が「PPAP」についてどんな指定商品・役務について商標登録をしたところで、商標権侵害とはならないのです。

 なお、ベストライセンス株式会社は「PEN PINEAPPLE APPLE PEN」についても商標登録出願をしているようです(商願2016-116675)。これが登録されてしまった場合、ピコ太郎は歌詞の中で「PEN PINEAPPLE APPLE PEN」と歌えなくなるのでしょうか。

 もう、お分かりですね。ピコ太郎が歌詞の中で「PEN PINEAPPLE APPLE PEN」と歌っても、それは、その歌の出所を表示するものではない以上、商標としての使用には当たらないので、いかなる指定商品・指定役務についても、商標権侵害とはなり得ないのです。

Posted by 小倉秀夫 at 09:44 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/19/2017

森のくまさん

 パーマ大佐による「森のくまさん」について、童謡である「森のくまさん」についての馬場祥弘の訳詞に係るの同一性保持権を侵害するものであるとして、馬場氏よりクレームがつけられた件が話題になっています。

 ただ、パーマ大佐による「森のくまさん」の歌詞を見る限り、馬場氏の訳詞を流用している部分は、特に改変等をしておらず、単に、馬場氏の訳詞の一部と一部の間に、パーマ大佐が創作した文章表現を挿入しているだけのように見えます。

 そうだとすると、ここでは、「既存の言語作品の一部を複数切り取って、その間に、新たな文章表現を挿入することが、既存の言語作品に係る同一性保持権を侵害するものと言えるのか」ということが問題となると言えます。

 同一性保持権について定めた著作権法第20条1項は「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。 」と定めていますので、既存の言語作品をその意に反して切除すること自体が同一性保持権侵害にあたるのだとする見解もあり得なくはないでしょう。しかし、言語著作物は古来より「引用」されてきたことを考えると、既存の言語作品の一部が切り取られて別の作品に挿入されて利用されたとしても、必ずしもそれがその言語作品の全体だと受け取られるおそれが低く、その切り取られて別の作品に挿入された部分だけを見て、元の言語作品の作者に対する評価を決める人は希であると考えられるので、切り取り方が不適切で、その部分から感得される作者の人格的評価が歪められるような方法による場合を除けば、同一性保持権を侵害するものとまでは言えないのではないかと思います。

 パーマ大佐による「森のくまさん」についていえば、馬場氏の訳詞について、その部分から感得される作者の人格的評価が歪められるような不適切な切り取り方をしていないので、同一性保持権侵害にあたるとまでは言えないのではないかと思います。

 では、パーマ大佐による「森のくまさん」における、馬場祥弘の訳詞の一部の利用が、訳詞者である馬場氏の名誉または声望を害するものであって、馬場氏の著作者人格権を侵害する(著作権法113条6項)ものと認められるかというと、これが一種のパロディであることが明確であること、その方向も特に一般の人をして嫌悪感を抱かせるようなものではないことを考えると、難しいのではないかと思います。

 童謡である「森のくまさん」についての馬場氏の訳詞は、JASRACによる管理がなされており、馬場氏は翻案権以外の著作権を有していないので、馬場氏自体がパーマ大佐等に対して著作権を主張することはできません(だから、「同一性保持権侵害だ」と言っているのではないかと推測します。)。

 では、JASRACは、パーマ大佐等に対して著作権を行使することができるのでしょうか。

 おそらくその場合、馬場氏の訳詩の一部を切り取ってパーマ大佐版のの「森のくまさん」に利用したことが著作権法32条の適用を受ける「引用」にあたるかどうかが問題となろうかと思います。

 パーマ大佐が新たに挿入した部分の方が明らかに多いので、主従関係が認められることが明らかです。明瞭区別性について言えば、実際のパフォーマンスにおいて、原曲たる「森のくまさん」の一部を歌っているのか、パーマ大佐が新たに創作した部分を歌っているのかが区別できるようになっていれば、十分に満たされるのではないかと思います。

 あとは、いわゆる「本歌取り」という目的が著作権法32条にいう「報道、批評、研究その他の引用の目的」に含まれるのか、そして含まれる場合に、パーマ大佐版「森のくまさん」における馬場氏の訳詞の利用が、「目的上正当な範囲内で」行われたといえるかどうかが問題となろうかと思います。パーマ大佐版「森のくまさん」のストーリー展開を前提とすると、「目的上正当な範囲内で」行われているように私には思えるのですが。

Posted by 小倉秀夫 at 12:37 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/10/2017

自動作曲と依拠

 近年はAIブームです。私的には、近年のAIの嚆矢は、ヤマハが提供した「VOCALODUCER」なのではないかと思っています。

 それはともかく、作曲、とりわけ主旋律の作成作業というのは、普通の人が発生できる音階が限定的であることから、ただ作ればいいのであれば、コンピュータ向きの仕事であると言えます。コードと主旋律の中で使われる音階との間のルール設定をした上で、コード進行に関して一定のルール付けをしておけば、聴くに堪える主旋律が生まれる蓋然性が高まります。

 もちろん、それらの多くは「聴くに堪える」というだけで、商用音楽として訴求力を持つものが生ずる蓋然性はさほど高くはないでしょう。コンピュータが自動作曲したものを商用音楽として利用しようと思えば、コンピュータが自動作曲した大量の主旋律の中から商用音楽としての利用に耐えるものを、人間が聴いてピックアップする必要が生ずることでしょう。

 主旋律をゼロから作り上げる才能はないが、コンピュータが自動作曲したものの中からピンときたものを拾い上げる才能に秀でている人材が音楽業界で大きな地位を占める社会が近い将来やってくるかもしれません。その場合に備えて考えておくべきことが2つあります。

 1つは、この「コンピュータが自動的に作成する膨大な数の主旋律の中から、商用音楽としての訴求力を有するものをピックアップする作業」を、ピックアップ作業するものによる著作物の創作行為(とりわけ「作曲」)と見て良いのかということです。もちろん、コンピュータが自動的に主旋律を作成する作業自体を著作物の創作行為とする方向で立法をしていこうという見解があることは承知しているものの、コンピュータが自動的に主旋律を吐き出した時点では、そこに何人の思想も感情も表現されていないので、立法政策としての方向に疑問を抱いてしまうので、こういう問題設定をしているわけです。「ピックアップする行為」を著作物の創作行為とし得るのであれば、何をピックアップするのかという点にその人の思想又は感情の表出を見ることができるというわけです。

 もう一つは、コンピュータが自動的に作成した膨大な数の主旋律の中に、先行作品と同一または類似するものが含まれていた場合に、これをピックアップして利用する行為は著作権侵害に当たるのだろうかと言うことです。複製権侵害や本案権侵害等が成立するためには、先行著作物と同一又は類似の表現を利用したというだけでは足りず、その際に先行著作物に依拠していたことが必要だとされています。しかし、コンピュータが自動的に主旋律を生み出す時点では、コンピュータもこれを操作する人もその自動作曲プログラムを組んだ人も、その先行著作物と同一または類似する旋律を吐き出してやれと考えているわけではありませんから、先行著作物への「依拠」があったと見ることは困難です。

 では、コンピュータが自動的に作成した主旋律の1つが先行著作物と同一又は類似していることを知りつつ敢えてこれをピックアップして利用した場合、その先行著作物に「依拠」しているといえるのでしょうか。少なくとも建前上は、それが先行著作物と同一又は類似であることを知りつつも、コンピュータが自動的に作成した主旋律を利用しているに過ぎない以上、その先行著作物自体には依拠していないと言えるでしょうか。依拠していないといってしまうと理論的には楽ですが、そうすると、音楽については、先行のヒット作品と同一または類似する主旋律をコンピュータが自動生成するのを待てばこれを無許諾で利用できることになり、先行著作物の保護の範囲が狭くなりすぎるのではないかとの戸惑いも生じます。

 この問題に答えを出すためには、依拠とは何なのか、なぜ依拠がないと著作権侵害が成立しないとされるのかについて、もう少し考察を進めていく必要がありそうです。

Posted by 小倉秀夫 at 02:49 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

08/01/2016

ポケストップの削除請求

 PokémonGoが日本でもサービスを開始するや、「ポケストップ」に多くの人が集まる現象が早速生じています。そして、そのような事態を受けて、最高裁判所や、様々な行政機関や、大学その他が自己の施設ないし敷地から「ポケストップ」を削除するようにとの要請がPokémonGoの運営会社になされているようです。

しかし、施設や敷地の占有者ないし所有者に、その施設ないし敷地から「ポケストップ」を削除するように求める権利はあるのでしょうか。

 「ポケストップ」とは、「PokémonGo」において、ゲームを進める上で最も重要なアイテムを入手するスポットであり、アイテムを入手する為には、ユーザーは、ポケストップが設置されている場所として設定されているところに物理的に近づく必要があります。もっとも、ポケストップは、現実空間と連動した仮想空間上に設置されているに過ぎず、「PokémonGo」上の仮想空間上ポケストップが置かれている場所と紐付けられている現実空間上の場所には何も置かれていません。

 では、現実空間と連動した仮想空間上に「ポケストップ」のような仮想の設備を設置することは、当該仮想空間と連動した現実空間において、仮想空間上の上記仮想設備の設置箇所と紐付けられた場所の設備または敷地の所有者の所有権ないし占有者の占有権を侵害することになるのでしょうか。

 一般に所有権は、目的物たる有体物に対する排他的支配権とされています。しかし、通説的見解によると有体物の所有者が排他性を有するのは、当該目的物を物理的に排他的に利用することだけで、自己の所有物を第三者が仮想的に利用することまでは排除する権限を持ちません。したがって、自己の執筆する小説の中でゴジラに大阪城を破壊させるのに、大阪城の所有者の許諾を得ておく必要はないのです。したがって、自己の所有又は占有する施設または敷地に対応する仮想空間上に「ポケストップ」が設置されたとしても、所有権又は占有権に基づく妨害排除請求権として、その削除を求めることはできないと解するのが素直です。

 もっとも、自己の所有又は占有する施設又は敷地上に「ポケストップ」が設置されてしまうと、専らアイテムを取得する目的で「PokémonGo」の利用者が当該施設または敷地に立ち入るユーザーが少なからず現れることになり、当該施設等の円滑な運用が妨げられる可能性があります。これを阻止する為に、当該施設等から「ポケストップ」を削除するように運営会社に求めることは法的に可能でしょうか。

 そもそも一般人が立ち入ることが禁止されている場所に「アイテム」取得目的で立ち入ることは刑事法的には住居侵入罪に当たるとともに、民事法的には当該施設又は敷地についての所有権ないし占有権を侵害する行為にあたります。また、当該施設等の管理者において特定の目的での当該施設等への立ち入りを許容している場合に、当該目的以外の目的で当該施設等に立ち入ることもまた、刑事法的には住居侵入罪に当たるとともに、民事法的には当該施設又は敷地についての所有権ないし占有権を侵害する行為にあたります。したがって、一般人が立ち入ることの予定されている施設等においても、専らアイテム取得目的で立ち入ることを禁止したり、中に立ち入ってアイテム取得行為をすることを禁止したりすることは許されます。問題は、当該施設等内に対応する仮想空間上に「ポケストップ」を設置することが、上記違法な立ち入り行為を教唆するものとして、差し止め請求に対象となり得るかということです。

 そして、ここでは、そもそも「ポケストップ」の設置行為は違法な立ち入り行為の「教唆」にあたるのかということと、さらに、仮に「教唆」にあたるとして、「教唆」行為自体の差し止めを求めることができるのかということの双方が問題となります。

 前者に関して言えば、現実空間における特定の施設等が、フィクションにおける重要な施設と紐付けられることで、「聖地巡礼」のような形で人を集める効果を持つことがあったわけで、その結果当該施設等の円滑な運用が妨げられたことにうんざりした施設管理者が「聖地巡礼」目的での立ち入りを禁止したときに、さらに、自己の所有又は占有する特定の施設等をフィクションにおける重要な施設と紐付けることが違法な立ち入り行為の「教唆」にあたると言いうるのかということにも繋がっていきます。フィクションを構成するものとしては、その受け手が現実空間における法的なルールを遵守することをある程度期待することは許されると思いますので、当該施設の管理者の意思に反した違法な立ち入りまで教唆したとは言えないとして、「教唆」にはあたらないとするのがバランスがとれているのではないかと思います。

 仮にこれが「教唆」にあたるとした場合には、「ポケストップ」の設置それ自体は直接的には特定の施設等についての所有権ないし占有権を侵害するものではないのに、当該施設等についての所有権ないし占有権に基づいて差し止めを求めることができるのかということが問題となります。これは、特定の態様での著作権等の侵害行為を教唆又は幇助する行為自体について著作権者等が差止請求をすることが許されるのかという問題と構造は一緒であり、これについては、下級審裁判例は東西で分かれています。

 さあ、裁判所は、いかなる判断をするのでしょうか。


Posted by 小倉秀夫 at 04:40 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

07/24/2016

独立後も「能年玲奈」と名乗ることは許されないのか

能年玲奈あらため「のん」

NHKの朝の連続テレビ小説「あまちゃん」で主役を務めた能年玲奈さんが芸名を「のん」としたことに関して、以下のような報道がなされています。

 6月末で契約が満了する能年に対し、レプロは6月下旬、昨年4月から能年との話し合いが進まず、仕事を入れられなかったとして、その15カ月分の契約延長を求める文書を送付。

 その際、契約が終了しても、「能年玲奈」を芸名として使用する場合には、レプロの許可が必要と“警告”していた。


 そして、その根拠として、能年さんの従前のプロダクションであるレプロ社は、以下のように回答したとされています。

一般論として、その旨の契約がタレントとの間で締結されている場合には、当事者はその契約に拘束されるものと考えます

 果たして、そうなのでしょうか。

加勢大周事件との関係

 芸能人とプロダクションとの間で独立・移籍騒動が勃発し、プロダクションが芸名の使用を禁止することで対抗しようとする構造──知財クラスタなら聞き覚えがありますね。そう、あの「加勢大周」事件と同じ構造です。

 加勢大周事件の第一審判決における「争いのない事実」によれば、芸能人(X)とプロダクション(Y)との間の専属契約には、

 Xは、Yの専属芸術家として、本件契約期間中、Yの指示に従って、音楽演奏会・映画・演劇・ラジオ・テレビ・テレビコマーシャル・レコード等の芸能に関する出演その他これに関連するすべての役務を提供する義務を負う。

 Xは、右契約期間中、第三者のために、右役務の提供をすることができない。


という条項や、

 Yは、Xの芸名「加勢大周」・写真・肖像・筆跡・経歴等の使用を第三者に許諾する権利を有する。

 Xは、Yの許諾なしに右芸名等を第三者に使用させることはできない。


という条項が含まれていました。

 そして、第1審判決(東京地方裁判所平成4年3月30日判タ781号282頁)は、上記「芸名の使用を第三者に許諾する権利」を、

社会的評価、名声を得ている芸能人の氏名・肖像等を商品に付した場合に、当該商品の販売促進の効果をもたらすことは公知の事実であり、被告川本の芸名である「加勢大周」も、原告によって商標登録がされているところである。芸能人の氏名・肖像等の有するこのような効果は、独立した経済的利益ないし価値を有するものであり、このような芸能人の氏名・肖像等は、当然に右経済的利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利の一つに該当するものというべきである。

として法的なものと評価した上で、上記専属契約に基づき、「芸名「加勢大周」を使用して、第三者に対し芸能に関する出演等の役務の提供をすることの禁止」を命じたのです(同事件の控訴審(東京高判平成5年6月30日判時1467号48頁)では、専属契約がその後終了したとして、上記禁止命令を解きましたが。)。

 おそらく、能年さんの件についても、プロダクション側の主張内容は同じようなものなのではないかと思います。もっとも、能年さんの件では、「契約が終了しても、「能年玲奈」を芸名として使用する場合には、レプロの許可が必要と“警告”していた。」とされている点からすると、「契約終了後もなお有効とする」条項の中に、芸名の独占的使用許諾権限に関する条項が含まれていたのだろうと思います。

パブリシティ権の排他的許諾権設定契約の効力

 では、レプロ社は、芸能人の氏名・肖像等の有する上記「右経済的利益ないし価値を排他的に支配する権利」(通常、「パブリシティ権」といいます。)について独占的に使用許諾を行う債権的な権利を能年さんに対して行使することができるのでしょうか。

 ここで一つ考慮すべきことは、加勢大周事件第一審判決は平成4年に言い渡された古い判決だということです。このころは、「パブリシティ権」を一種の無体財産権と考える見解が幅をきかせてきたのですが、その後、ギャロップレーサー事件最高裁判決において立法によらずして無体財産権としてのパブリシティ権の行使を認めることが否定され、さらにピンクレディ事件最高裁判決においてパブリシティ権が氏名権・肖像権等の「人格権に由来する権利」と位置づけられるに至ったのです。

 もっとも、パブリシティ権が「人格権に由来する権利」と位置づけられたからといって直ちに「独占的に使用許諾を行う債権的な権利」を設定することが許されないと解されるとは限りません。人格権は一身専属権ですので、これを第三者に譲渡する旨の合意は効力を有しないものと解するのが一般的ですが、人格権の行使条件を契約により制約することまで一身専属権ということから直ちに言えるかは微妙です。著作者人格権について包括的な不行使特約を締結しても有効であるとする見解が有力であり、実務は有効であることを前提に権利処理を行っています。現に、プロ野球選手会事件控訴審判決(知財高判平成20年2月25日)では、「人は,生命・身体・名誉のほか,承諾なしに自らの氏名や肖像を撮影されたり使用されたりしない人格的利益ない し人格権を固有に有すると解されるが,氏名や肖像については,自己と第三者との契約により,自己の氏名や肖像を広告宣伝に利用することを許諾することによ り対価を得る権利(いわゆるパブリシティ権。以下「肖像権」ということがある。)として処分することも許されると解される」とした上で、プロ野球の統一契約書16条1項「球団が指示する場合,選手は写真,映画,テレビジョンに撮影されることを承諾する。 なお,選手はこのような写真出演等にかんする肖像権,著作権等のすべてが球団に属し,また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても,異議 を申し立てないことを承認する。」に依拠した契約条項について、「商業的使用及び商品化型使用の場合を含め,選手が球団に対し,その氏名及び肖像の使用を,プロ野球選手としての行動に関し(したがって,純然たる私人としての行動は含まれない),独占的に許諾したもの」と解した上で、公序良俗に反しないと判示されています。


 専属契約存続中は、芸能プロダクションに芸名の使用許諾権を一本化すること自体は合理性がありますから、芸能人個人がパブリシティ権を保有するという前提のもと、その一部について、専属契約に基づいて独占的な使用許諾権を芸能プロダクションが取得すること自体を公序良俗に反するとするのはハードルが高いように思います。たとえそれが戸籍上の氏名と同一であったとしても、専属契約の対象となる「芸能活動」に関するものである限りは、同様ではないでしょうか。

契約期間満了後も特定の条項をなお有効とする合意の効力

 当該契約を構成する条項のうち特定のものについては契約期間が満了した後においても有効に存続する旨の合意をすることは、よくあります。例えば、秘密保持義務を創設する条項が契約期間の満了に伴って当然に効力を失うとなれば、契約に基づいて相手方に提供していた秘密情報は契約満了と同時に秘密性を失ってしまうわけで、そういうことを回避するためにそのような条項を敢えて挿入するのです。

 芸能プロダクションとしては、専属契約期間中にその芸能人が出演して作成されたコンテンツについては、自ら一定の投資ないし寄与をしているので、専属契約終了後においてもなおこれを市場に供給して投下資本の回収を図ること自体は公序良俗に反するとは言えず、芸名について使用許諾を行う債権的な権利をプロダクション側に設定する旨の条項について専属契約終了後も有効に存続させる旨の合意自体を無効とすることは難しいのだろうと思います。

 ただし、「独占的に」芸名について使用許諾を行う債権的な権利がプロダクション側について残っていると、従前の芸名を用いて芸能活動を継続することができず、芸能活動に大きな支障が生じてしまいます。もっとも、芸能活動をやめる前提で元のプロダクションとの専属契約を合意解約しておきながら、別のプロダクションとの間で新たに専属契約を締結し、元のプロダクションのプロモート活動によって周知性ないし著名性を獲得した芸名を利用して芸能活動を再開するというのはただ乗り感が強くあります。すると、芸能活動をやめる前提ではなくして専属契約が終了した場合になお元のプロダクションが芸名の独占的使用許諾権を主張することを法的に抑制すれば良いように思います。

 そうだとすると、独占的使用許諾権設定条項それ自体、ないし、かかる条項の契約期間終了後存続条項を公序良俗に反するとするよりは、芸能活動をやめる前提ではなくして専属契約が終了した場合に、当該芸能人が芸能活動を行うにあたって自らその芸名を使用しまたは第三者に使用許諾したことについてこれを主張することは権利の濫用に当たり許されないとする方が良いのではないかと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 11:29 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0)

05/06/2016

鳥獣戯画のアニメ化

 スタジオジブリが、「鳥獣戯画」をアニメーション化した作品を発表したことに関し、唐津真美弁護士の見解が弁護士ドットコムニュースに掲載されています。

 その中で気になるのは、以下の部分です。

本件の場合、鳥獣戯画の作者は、800年を経て、生き生きと動き出した動物達を見たら、むしろ喜ぶのではないでしょうか。ジブリが作成した鳥獣戯画のアニメ―ションは、鳥獣戯画の作者の著作者人格権を侵害するものではないと思います

 著作者人格権は著作者の相続人に相続されず著作者が死亡した時点で消滅しますが、著作権法は、「著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。」として、著作者が生きていたとすれば著作者人格権の侵害となるであろう行為を原則禁止します。ただし、著作者が死亡している以上同意を取りに行くことが不可能なので、「ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。」という但し書きを置いています。この規定に違反した行為については、その遺族(死亡した著作者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)が差止請求権及び名誉回復等措置請求権を民事的に行使できる(116条1項)他、500万円以下の罰金に処されることになります(120条)。120条の罰則規定については非親告罪となっているため、著作者が何百年たっても、著作者が生きていたならば著作者人格権となるだろう行為を行うと刑事罰の対象となり得るのです。

 おそらく唐津弁護士は、鳥獣戯画のアニメーション化が、その著作者が生きていたとしたら同一性保持権侵害行為にあたるであろう行為と言えるかどうかという観点から、上記のような当てはめをしたのだろうと思います。ただ、「改変された結果生まれた作品が質の高い作品であるから、元の著作物の著作者もむしろ喜ぶはずであり、したがって著作者人格権を侵害するものとはならない」という思考過程を採用したのだとすれば、いかがなものかという疑問が生じます。改変の結果、元の作品の著作者の意図やクリエイティビティに誤解を生じさせかねないものであれば、改変された結果生まれた作品自体は大変質の高いものであったとしても、同一性保持権侵害となり得るからです。

 さらにいえば、この鳥獣戯画のアニメーション化のケースでは、もう一つ重要な論点を検討するべきでした。それは、「著作権法上『著作物』として取り扱われるのは、一定の時期以降に創作されたものに限られるのか、その場合、いつ以降に創作されたものに限られるのか」という問題です。

 ここでは、現行著作権法の附則においては、「改正後の著作権法(以下「新法」という。)中著作権に関する規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法(以下「旧法」という。)による著作権の全部が消滅している著作物については、適用しない。」(附則2条1項)、「この法律の施行の際現に旧法による著作権の一部が消滅している著作物については、新法中これに相当する著作権に関する規定は、適用しない。」(附則2条2項)と定められているのに対し、旧著作権法の附則においては「本法施行前ニ著作権ノ消滅セサル著作物ハ本法施行ノ日ヨリ本法ノ保護ヲ享有ス」(47条)と定められているのをどう見るべきかということが問題となります。

 旧著作権法の施行日である明治32 (1899) 年7月15日に既に著作権が消滅していた著作物については、旧著作権法による保護を受けることができず、したがって旧著作権法上の著作者人格権をも認められてこなかったのです。したがって、旧著作権法施行時は、「他人ノ著作物ヲ発行又ハ興行スル場合ニ於テハ著作者ノ死後ハ著作権ノ消滅シタル後ト雖モ其ノ著作物ニ改竄其ノ他ノ変更ヲ加ヘテ著作者ノ意ヲ害シ又ハ其ノ題号ヲ改メ若ハ著作者ノ氏名称号ヲ変更若ハ隠匿スルコトヲ得ス」(18条2項)があったにも関わらず、明治32年7月15日に既に著作権が消滅していた著作物については、「其ノ著作物ニ改竄其ノ他ノ変更ヲ加ヘテ著作者ノ意ヲ害シ」ても良かったのです。それが、現行著作権法の施行とともに、明治32年7月15日に既に著作権が消滅していた著作物についても、明治32年7月15日に既に著作権が消滅していた著作物についても、現行著作権法の下で創作された著作物と同様の規定が適用され、「著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。」ということになるのかということが問題となるのです。

Posted by 小倉秀夫 at 08:03 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

03/06/2016

『日本における追及権導入の可能性-欧州の見地から―』を聞いて

 昨日、早稲田大学の8号館に行き、「2016春RCLIP国際シンポジウム
『日本における追及権導入の可能性-欧州の見地から―』」を聞いてきました。その上で、疑問に思ったことを少し羅列してみることにしました。


  1.  追及権を著作権(著作財産権)と位置づけておきながら「譲渡不可」とするという構成があり得るのか。

  2.  原作品の特定の売り主に対する追及権に基づく金銭支払請求権は差押え禁止財産となるのか。

  3.  追及権を「譲渡不可」とした場合、自然人たる著作者が破産した場合どうするのか。

  4.  追及権を「譲渡不可」とした場合、自然人たる著作者が死亡し、その法定相続人が限定承認した後の換価をどうするのか。

  5.  追及権を「譲渡不可」とした場合、法人著作との関係をどうするのか。

  6.  法人著作についても「譲渡不可」な追及権が成立するとすると、当該法人が破産したり、解散した場合にどうするのか。

  7.  原作品が裁判所の競売手続で換価された場合にも、追及権は及ぶとするのか。

  8.  裁判所の競売手続における換価についても追及権が及ぶとした場合、差押え債権者や一般債権者との優劣はどうなるのか。

  9.  原作品が譲渡担保に提供された場合、担保提供時に金員の支払い義務が生ずるのか、あるいは清算時に生ずるのか。

  10.  ある建物内の動産全体に集団動産譲渡担保が設定された場合に、当該建物内に絵画の原作品が含まれていた場合、どうするのか。

  11.  ある建物内の複数の絵画が一括して売却された場合に、どの絵画の著作者(又はその相続人)にいくらの支払い義務を有するかをどのように算定するのか。

  12.  追及権創設後に新たに原作品が第一譲渡される場合、将来の追及権負担を考慮して価格水準が低下することとならないか。

  13.  追及権を創設することが、絵画の著作物の創作のインセンティブを高めることに繋がるとするメカニズムは何なのか。

Posted by 小倉秀夫 at 05:43 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/29/2016

首都大での期末試験

 今年は、一年間サバティカルをお取りになっている山神先生のピンチヒッターとして、首都大学東京の法科大学院で、半期だけ著作権法の講義を担当しました。昨日期末試験が終了し、あとは採点だけということになりました。今の著作権法を半年、15回で回すというのはきついですね。

 なお、期末試験の問題は、下記の通りです。


A新聞社の記者Bは、C社が主催するスキーツアーにおいて旅行客らを乗せたバスが転倒し、旅行客Dが死亡した事故について記事Eを作成した。記事Eは、事故の翌日のA新聞の朝刊に掲載された。

問1 Dは生前、D所有のスマートフォンを友人Fに渡して撮影してもらうことで作成したDの肖像を含む写真画像Gを 、Dの個人ブログにアップロードしていた。Bは、記事EにおいてDの肖像写真を掲載したかったので、Dの個人ブログにアクセスして写真画像Gの画像データをダウンロードし、A新聞社の編集長Hにそのデータをメールで送信した。編集長Hは、部下Iの命じて、D以外の人物の肖像についてぼかし処理をした上で、記事Eの真下に掲載されるように、写真画像GをA新聞の事故翌日の朝刊の組版に挿入させた(新聞掲載時、画像もモノクロで印刷されることになっていた。)。

 Dの唯一の法定相続人であるDの母Jは、A社のこのような行為に憤りを感じているが、A社に対してどのような主張をすることができるか。これに対し、A社としては、どのような抗弁を主張することができるか。

問2 A新聞社では、A新聞のWEB版に記事Eを掲載することとした。その際、写真画像Gについて、① A新聞のWEB版用にA新聞社が確保しているサーバ領域に写真画像Gの画像データを新たにアップロードした上で記事Eの本文を記録したウェブページから同画像データに埋め込み型リンクを貼るという手法を採用すべきか、② Dの個人ブログにアップロードされている写真画像Gの画像データに、記事Eの本文を記録したウェブページから直接埋め込み型リンクを貼るという手法を採用すべきかが問題となった。両手法の著作権法上の取扱いの差を説明した上で、A新聞社の法務担当として適切なアドバイスをせよ。

問3 Bは、A新聞社が発行する週刊誌Kにおいて、上記事故後1年が経過した段階で上記事故を振り返る記事を執筆した。その中で、Bは、旅行客Dの無念を強調するため、Dが小学生の時に作成した卒業作文の中から、Dの将来の夢を記載した一節を抜き出した上で、ひとこと、「このようなDの夢を打ち崩した、もうけ優先主義のC社のずさんさは、決して許されるべきではない」と締めくくった。抜き出された一節部分に創作性が認められる場合に、Jは、A社に対してどのような主張をすることができるか。これに対し、A社としては、どのような抗弁を主張することができるか。

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09/15/2015

最強という程ではないけど

9月13日にロージナ茶会主催で行われた「ぼくがかんがえるさいきょうのちょさくけんほう」イベントで、観客の一人として発言した内容を少し整理するとこんな感じです。


 著作権法が第1条にてその究極的な目的とする「文化の発展」とは、より多くの文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する作品が創作され、公表され、公衆に伝播されることにより、社会を構成する人々がそのような作品を広く享受できるようになることをいいます。

 そして、そのような「文化の発展」をもたらす手法の一つとして、そのような作品を創作した人々に対して、そのような作品を公衆に提示又は提供するにあたって、これが純粋な市場原理に基づいてなされた場合に得られるであろう利益を超える利益(超過利潤)を得る機会を、第三者が一定期間当該作品を公衆に提示又は提供することを排除する権限を付与することにより保障することによって、新たな創作活動を行うインセンティブを付与することとしたのです。これが、「著作権」(著作財産権)の存在理由です。

 しかし、著作権は、行使の仕方次第では、特定の作品の公衆への伝播を阻害する要因ともなり得ます。そして、ある作品の公衆への伝播が阻止され、人々がこれを享受する機会を失うということは、人々の知る権利が制約されることとなるとともに、著作権法の究極目的である「文化の発展」を阻害することにも繋がってしまいます。したがって、市場競争をある程度制約して超過利潤を発生させて創作者に投下資本回収の機会を保障するという基本線を維持しつつも、著作権があるが故に却って作品の伝播が阻害される自体を回避するような政策が求められるわけです。

 ところで、日本国は、著作権法に関しては、ベルヌ条約及びWIPO著作権条約に加入していますから、上記政策を遂行するにあたって、両条約を遵守する必要があります。ベルヌ条約においては、特別の場合について著作物の複製を認める権能は同盟国の立法に留保される(すなわち、著作者の許諾なくして著作物を複製することができる場合を設定する規定を置くことが許される)としつつ、そのような複製(そのような立法により適法とされる複製)が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とするとされます(9条2項)。また、公衆への伝達権(これが日本法では送信可能化権や自動公衆送信権などになります。)などの新しい権利についても、「著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合」には、加盟国は権利の制限規定を設けることができます(WIPO著作権条約10条1項)。日本は伝統的に、憲法と条約とが抵触する場合には憲法が優位するという憲法優位説が通説となっている国ですから、憲法上保障されている知る権利を守るために著作権の制限規定を設けることは許されることとなるわけですが、「著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない」となれば、なおさら大手をふるって権利制限規定を設けることができるわけです。

 以上のような前提の下で、私は、次のような仕組みを導入することを提唱します。例えば、絶版となっている書籍についてこれを書籍または電子書籍の形で再発行したり、日本国在住者向けに配信されていない実演について日本国在住者向けに配信したりするなど、著作者や隣接権者において投下資本を回収すべく作品を日本国内の広い範囲において公衆に提示・提供していない場合には、第三者がこれを公衆に提示・提供したとしても、差止請求権の行使を認めず、また、刑事罰の対象としないこととしてほしいのです。この場合、「著作物の通常の利用は妨げられ」ていないわけです。もちろん、国民の知る権利を優先させる以上、上記のような取り扱いを受けるのは公表された著作物に限られるべきでしょうし、人格権的な理由での差止請求権の行使は認容されるべきなのでしょう。また、歌詞やメロディ自体はJASRAC等を通じて広く許諾されているものの特定の実演についてはこれを最初に収録したレコード製作者が日本国内での流通を拒むが故に日本国居住者がこれを享受できないという場合には、JASRAC等との間では事前に許諾を受けるべきだとは言えるでしょう。また、当該著作物が公表されてから日本国内で投下資本を回収すべくの公衆への提示・提供が行われないままどのくらいの期間が経過したら上記のような利用をなし得ることとするのかをどのような基準に基づいて決めるのかについても異論が生ずることでしょう。それでも、原則として、超過利潤を上乗せして作品を日本国内において公衆に提示又は提供することによって投下資本を回収する機会を与えられておきながらこれを行使しない人たちに過度に配慮することによって、その作品を人々が享受する機会を喪失すること、そして、その作品を通じた文化の発展が阻害されることを、なるべく回避すべきだと考えるわけです。

 もちろん、このような形でその著作物が利用される場合、あくまで無許諾利用なのですから、損害賠償請求権の行使は許されるべきでしょうし、文化庁長官による裁定による利用ができるように法制度を整えた方がいいのだろうとは思います。そのような利用が無許諾でなされても金銭的な補償は得られるということであれば、「著作者の正当な利益を不当に害しない」ということに繋がりやすいのですから。

 もう一つ私が提唱したのは、著作権原簿または著作権等管理事業者が提供する権利者データベースを調べてなお現在の著作権者が誰であるのかがわからない場合には、著作権法67条の裁定手続きを利用できることとしようというものです。著作者が著作権を第三者に譲渡しないまま死亡した場合、その著作権はその相続人が相続するのが原則ということになりますが、特定の相続人が単独相続したのか、全ての法定相続人がその法定相続分の割合に応じて相続したのか、あるいは第三者に遺贈されたのかについて、理論的には、戸籍謄本を取り寄せることによって、当該著作者の法定相続人(またはその法定相続人、またはさらにその法定相続人、または、さらにその法定相続人、または、さらに法定相続人)を探し出して事情を聞くことにとって確認できる可能性はあるものの、そこに至るまでのコストは過大であり、かつ、それだけのコストをかけても結局空振りに終わる可能性も大ということとなります。そうなると、よほどその作品を利用することによって大きな利益を得られる見通しが立たないと、すでに亡くなった人の作品を利用することは困難となってしまいます。それは、文化の発展に寄与するとの著作権法の究極目的からすれば、本末転倒です。したがって、著作物を利用しようという人たちの調査コストを引き下げる必要があるのです。

 このような制度にしたとしても、著作権登録等をしなかった著作権者は、自分がその著作物について著作権を有していることを告げることにより、過去の利用に関する供託金を取得できる外、将来の利用について差止めを求めることができるわけですから、ベルヌ条約が定める無方式主義に抵触することはありません。参照すべき「権利者データベース」に、外国政府ないし外国の登録事業者が提供している権利者データベースを含めれば、外国人が権利を有する著作物についての保護が不当に欠けることにはならないかと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 05:42 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

08/25/2015

TPP知財以降の国内法整備について──保護期間編

 TPP交渉がまとまるかどうかは未だ予断を許しません。そして、TPP交渉がまとまった場合に、知的財産権関連の条項がどうなるのかも未だよくわかりません。

 仮にTPP交渉がまとまった場合、国会でこれを批准したときに初めて日本としてこれに拘束されることとなり、TPP上の立法義務に合わせた国内法を国会が制定したときに初めて、私たちはこれに拘束されることとなります。

 そういう意味では、TPP交渉がまとまったら即時著作権の保護期間が延長されるわけでも、著作権侵害罪が非親告罪化するわけでも、法廷賠償制度が導入されるわけでもありません。

 ただ、包括通商条約というTPPの性質上、一部の条項だけ留保して批准と言うことも難しいでしょうし、与党が衆議院で3分の2以上の議席を有している以上、議会で批准をひっくり返すというのも難しいでしょう。したがって、農村部選出の議員を中心に反対意見が表明されるだろうとは思いますが、程なく批准はされてしまうのだろうと思います。したがって、鍵は、どういう風に国内法を制定していくのかという話になりますが、WIPO著作権条約の時も世界に先駆けて国内法を整備してしまった日本政府のことですから、一気に法改正がなされてしまう危険があります。

 だからこそ、TPP交渉がまとまる前に、リークされているTPP知財の条項案を前提に、いかに国内法を整備していくのかを論じ、ある程度まとまったら文化庁や各政党に提示しておくことが有益だと思います。

 例えば、著作権の保護期間については、どのようなことが考えられるでしょうか。

 現行著作権法51条は次のような規定になっています。

(保護期間の原則)

第五十一条  著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。

2  著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)五十年を経過するまでの間、存続する。

 TPPにおいて著作権の保護期間を最低70年とすることが義務づけられた場合、この「五十年」の部分が「七十年」に置換される法改正が予想されます。

 では、何も出来ないのでしょうか。そうでもありません。

 例えば、著作権法を改正する際には、通常、「附則」というのを定めて、法改正前にすでに存する著作物等について改正法をどの範囲で適用するのかを定めることになっています。著作権の保護期間については、例えば、

(著作物の保護期間についての経過措置)

第××条  改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第五十四条第一項の規定は、この法律の施行の際現に公表されている著作物については、なお従前の例による。

という規定を附則に置けば、著作権の保護期間が70年に延長されるのは、改正法施行後に公表された著作物に限定されることとなります。日本では、著作権法は、「著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」(1条)ものとされており、著作権法による保護、言い換えれば著作物の利用について著作権者への独占権の付与は、それが新たな創作活動へのインセンティブの付与に繋がるからこそ例外的に認められているとの考えが一般的ですので、新たな創作活動へのインセンティブの付与に繋がらない「すでに公表されている著作物についてまでその保護期間を延長すること」は、その立法目的を超えて他者の権利(表現の自由ないし営業の自由等)を制約することとなり許されないといえますので、理屈は立つことになります。

 また、公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物については、文化庁長官の裁定を受け文化庁長官が指定する特定の登録機関にその現在の著作権者が登録されていない場合(登録上の著作権者がすでに死亡している場合を含む。)には、裁定手続きの対象とするような法改正を行うことにより、著作者の死後50〜70年後の、転々相続による著作権の共有者全員を探し出すコストから、その著作物の利用希望者を解放することが出来ます。

Posted by 小倉秀夫 at 12:04 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

同人誌の表紙絵

同人誌の写真をネットで公開することについて法律的にどのような問題が生じてくるのかについて、AVANCE LEGAL GROUP LPCの山岸純弁護士と児玉政己弁護士に聞いたニコニコニュース内の記事が反響を呼んでいます。その真偽について検討してみましょう。

 両弁護士によれば、

この種の同人誌は、既存のマンガなどのキャラクターの特徴が忠実に再現されていてこそ購買意欲が生じると言われていますので、『同人誌の製作者』のオリジナリティはかえって購買者にとって邪魔になるだけであり、このようなオリジナリティの発現はおのずと否定される場合が多くなるかと思います。とすると、“オリジナリティが欠ける”=“著作権が発生しない”ということになりますので、『二次創作系同人誌』の表紙については、無断掲載されても、『同人誌の製作者』への著作権侵害の可能性は低くなると考えることができるわけです

とのことです。

 どうも、同人誌というものを誤解されているような気がしてなりません。二次創作系の同人誌においては、既存の漫画のキャラクターの特徴を押さえつつ、各同人作者の個性を反映させたり、ストーリーにあわせたり、さらにデフォルメしたり、むしろデフォルメを弱めたりして、元のキャラクターとは明らかに異なるキャラクター絵を生み出す方がむしろ一般的です。ピカチュウすらHに変身させるのが同人誌です。既存の漫画のキャラクターに同人作家の創作性が加えられた新たなキャラクターが表紙に登場することは何ら不思議ではありません。

 さらに言えば、キャラクターの描き方自体は元の漫画のキャラクターに忠実だったとしても、表紙絵における構図、各キャラクターのポーズやその衣装の組み合わせ、背景等の描き方にその同人作家の個性が反映されていれば、表紙絵自体、二次的著作物たりうると言うことになります。

 記事では、上記両弁護士の見解から、

『二次創作系同人誌』は、そのほとんどが“著作権が発生しない”。よって、写真をネットにアップすることは法的には問題ないようだ。

との結論を導きます。これはとんでもない間違いです。同人誌の表紙絵が二次的著作物にあたるかどうかに関わりなく、元の漫画のキャラクターの表現上の本質的特徴を直接感得できるものである限り、これをウェブ上にアップロードすることは、原則として、元の漫画の著作権を侵害することとなります。二次的著作物の利用についても、原作品の著作権者は権利行使をなし得るのです(著作権法27条)

 さらに、同記事では、両弁護士の発言として、以下のように続けます。

例えば、写真全体に表紙が納まるように撮影する場合などは、表紙の「複製」と評価される可能性が高く、「著作権」侵害となりますが、表紙だけではなく、ほかの被写体(同人誌を持って立つ購買者、東京ビックサイトの外観、そのほかの背景等)とともに撮影されている場合には、当該写真は表紙の「複製」と評価することは難しくなるものと考えられます。

 しかし、表紙が他の被写体とともに撮影されていようとも、その表紙の表現上の本質的特徴部分がその写真から直接感得できる限り、その写真はその表紙の複製物ないし二次的著作物たりうるのです。もちろん、その表現上の本質的特徴部分を直接感得できない程度に「引き」で写真撮影をすれば「複製」に当たらないこととなる場合もあるとは思いますが、それはむしろ、小さくしか取れていないことによるものであって、他の被写体とともに撮影されていることによって生じた現象ではありません。

 あとは、著作権法30条以下の権利制限規定に当たるかどうかの問題です。コミケ会場等の写真を撮る際に、自分と無関係の参加者が持っていた同人誌の表紙等が写り込んだと言うことであれば、著作権法30条の2が適用される可能性がありますが、撮影時に敢えて同人誌をもって表紙を前面に掲げて写真を撮ったということですと、同条の適用は難しいのではないかという気がします。この場合、当該同人誌の表紙絵は、「写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難である」とは言いがたいからです(仲間を撮影する際には、「その同人誌の表紙絵が写り込むとまずいので、一旦下に置いて下さい云々と指示するのは大変ではありませんので。)。

Posted by 小倉秀夫 at 02:12 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/21/2015

浮き世における世知辛い話

 「UQiYO」という音楽ユニットがあります。

 2012年結成の若いユニットですが、2013年9月にセカンドアルバムを出し、また2015年3月にサードアルバムを出す予定とのことです。タワーレコード渋谷店を初めとする全国のレコードショップでインストアライブを行ったり、その楽曲がJ-WAVEでOn Airされたりしているので、知っている人も多いでしょう(skream.jpでは、その新譜が阿部真央やNICO Touches the Wallらと並んで紹介されていますし、ototoyでもこの高評価です。)。

 そんな「UQiYO」に突然のBad Newsが舞い降りました。

 株式会社ビーグリーが「UQIYO」というサービス名を用いて、「世の中のニュースをイラストで表現して投稿する」イラストキュレーションサービスを開始するというのです。

 さらにまずいことに、株式会社ビーグリーは、「Uqiyo」という標章について、2014年11月20日付けで商標出願を行い、2014年12月18日付けでこれが公開されてしまっています。

 指定商品・役務を見てみると、


9 ダウンロード可能な画像,ダウンロード可能な静止画及び動画,ダウンロード可能な電子出版物,ダウンロード可能な電子漫画,ダウンロード可能な音楽・音声・映像,ダウンロード可能な音声付き画像,ダウンロード可能な音声付き静止画及び音声付き動画,ダウンロード可能な音声付き電子出版物,ダウンロード可能な音声付き電子漫画,電子出版物,通信ネットワークを介して文字・画像又は映像に関する情報をウェブサイトに投稿するためのコンピュータプログラム,インターネット又はその他の通信ネットワークを介して電子媒体又は情報をアップロード・投稿・提示・展示・タグ付け・ブログ作成・共有利用・その他提供することを可能にするためのコンピュータソフトウェア,電子応用機械器具及びその部品,電子計算機用プログラム

35 広告業,広告スペースの貸与又は提供,新聞記事情報の提供(電子通信回線を利用した新聞記事情報の提供を含む。)

38 電子掲示板通信,電気通信(放送を除く。),写真の共有・画像の送信・ファッション情報・ニュース情報に関するメッセージの送信に用いるソーシャルネットワーキングユーザーのためのチャットルーム形式の電子掲示板通信,コンピュータ・携帯型コンピュータ及び有線又は無線の通信機器を利用したユーザー間のリアルタイムで且つ双方向のオンラインによる通信,電子メール・インターネット上のインスタントメッセージ又はインターネット上のウェブサイトによりメッセージを交換するための通信,報道をする者に対するニュースの供給

41 通信ネットワークを用いて行う画像の提供,通信ネットワークを用いて行う静止画及び動画の提供,通信ネットワークを用いて行う電子出版物の提供,通信ネットワークを用いて行う電子漫画の提供,通信ネットワークを用いて行う映像・音楽及び音声の提供,通信ネットワークを用いて行う音声付き画像の提供,通信ネットワークを用いて行う音声付き静止画及び音声付き動画の提供,通信ネットワークを用いて行う音声付き電子出版物の提供,通信ネットワークを用いて行う音声付き電子漫画の提供

42 ンターネット上での記憶領域のホスティング,コンピュータウェブサイトのホスティング,インターネットサーバーの記憶領域の貸与,オンラインミーティング・集会・インタラクティブな議論の開催・運営を目的とする他人のためのオンラインウェブサイトのホスティング,ユーザーにより定義された情報・個人のプロフィール・情報を特徴とするカスタマイズされたウェブサイトのホスティング,ユーザーにより定義された情報・個人のプロフィール・情報を特徴とするカスタマイズされた電子掲示板又はホームページのためのサーバーの記憶領域の貸与,インターネットにおいて利用者が交流するためのソーシャルネットワーキング用サーバーの記憶領域の貸与,インターネットを介したコンピュータプログラムの提供,ユーザーにより定義された情報・個人のプロフィール・情報を特徴とするカスタマイズされたウェブページ用プログラムの提供,コンピュータソフトウェアの提供,ウェブサイトを通じたアプリケーションソフトウェアの提供,電子計算機用プログラムの提供,インターネットにおける会員同士のコミュニケーションを目的としたウェブサイト用コンピュータプログラムの提供又はこれに関する情報の提供
45 著名人・芸能人・漫画家・声優に関する情報の提供,ファッション情報の提供(電子通信回線を利用したファッション情報の提供を含む。),インターネットの電子掲示板を用いたプロフィール等の個人に関する情報の提供,個人に関する情報の提供,インターネット上でのウェブサイトを通じたソーシャルネットワーキングユーザー向けの友達探し及び紹介のための情報の提供


となっています。

 Live活動を行ったり、音楽番組に出演したりというサービスや音楽CD等の商品は、指定商品・役務に含まれていないので、直ちに音楽活動の妨げになるわけではありません。ただ、プロのミュージシャンとしては、インターネットを通じたファンとの交流を確保していくことがほぼ必須になってきているので、「通信ネットワークを用いて行う画像の提供,通信ネットワークを用いて行う静止画及び動画の提供」「通信ネットワークを用いて行う映像・音楽及び音声の提供」「通信ネットワークを用いて行う音声付き画像の提供」「通信ネットワークを用いて行う音声付き静止画及び音声付き動画の提供」でユニット名の使用が制約されるとなると、厳しいだろうなあとは思います。

 では、「UQiYO」としては、この商標出願に対して何かできることはあるのでしょうか。

 まず、商標法43条の2では、次のような定めがあります。


(登録異議の申立て)

第四十三条の二  何人も、商標掲載公報の発行の日から二月以内に限り、特許庁長官に、商標登録が次の各号のいずれかに該当することを理由として登録異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の指定商品又は指定役務に係る商標登録については、指定商品又は指定役務ごとに登録異議の申立てをすることができる。

一  その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたこと。

二  その商標登録が条約に違反してされたこと。


 この登録異議申立は、「何人も」すなわち利害関係の有無にかかわらず、申し立てることができます。ただし、商標掲載公報の発行の日から二ヶ月以内に限定されてしまいます。

 これとは別に、商標法46条1項は以下のように定めています。


(商標登録の無効の審判)

第四十六条  商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。

一  その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたとき。

二  その商標登録が条約に違反してされたとき。

三  その商標登録がその商標登録出願により生じた権利を承継しない者の商標登録出願に対してされたとき。

四  商標登録がされた後において、その商標権者が第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定により商標権を享有することができない者になつたとき、又はその商標登録が条約に違反することとなつたとき。

五  商標登録がされた後において、その登録商標が第四条第一項第一号から第三号まで、第五号、第七号又は第十六号に掲げる商標に該当するものとなつているとき。

六  地域団体商標の商標登録がされた後において、その商標権者が組合等に該当しなくなつたとき、又はその登録商標が商標権者若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているもの若しくは第七条の二第一項各号に該当するものでなくなつているとき。


 この無効審判の申立ては、同法47条に該当する理由に基づくときは商標権の設定の登録の日から5年以内に申し立てる必要がありますが、それ以外の場合は特に申立期限はありません。ただし、無効審判請求を行い得るのは、商標登録を無効とすることに何らかの利害関係があることが必要だとされています。

 まあ、まだそもそも出願が公開された段階なので、除斥期間の心配をする必要はないし、「UQiYO」というユニット名で活動している以上「Uqiyo」の商標登録を無効とすることに利害関係があることは認められるでしょうから、「Uqiyo」についての商標登録がなされてもとりあえず「UQiYO」のメンバーにこの登録異議申立てや無効審判の申立てができることは問題ありません。

 では、株式会社ビーグリーが「Uqiyo」という標章につき商標登録を行うことは法的に許されないのでしょうか。

 こういうときは、通常、商標法3条ないし4条1項の各号の規定のどれかに該当しないかを見てみることになります。

 すると、4条1項8号の

他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)

や、10号の

他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

や、15号の

他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)

や、16号の

商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

あたりが、目に飛び込んできます。

 16号は遠いように思われるかも知れませんが、「LADY GAGA」という登録商標について、

本件商品である「レコード,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる音楽ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」のうち「LADY GAGA」(レディ(ー)・ガガ)が歌唱しない品質(内容)の商品に使用した場合,「LADY GAGA」(レディ(ー)・ガガ)が歌唱しているとの誤解を与える可能性があり,商品の品質について誤認を生ずるおそれがある。したがって,本願商標は,商標法4条1項16号に該当する

とする裁判例(知財高判平成25年12月17日)があるので、検討の対象となります。

 まあ、本筋は10号該当をメインに争うというものだとは思います。そこでは、「UQiYO」が「需要者の間に広く認識されている」と言えるかどうかという点が争点になるのだろうとは思いますね。インディーズながら注目され始めているユニットについて、ユニット名について商標登録がなされていないことを奇貨として、「通信ネットワークを用いて行う画像の提供,通信ネットワークを用いて行う静止画及び動画の提供」「通信ネットワークを用いて行う映像・音楽及び音声の提供」「通信ネットワークを用いて行う音声付き画像の提供」「通信ネットワークを用いて行う音声付き静止画及び音声付き動画の提供」等の役務について商標出願してしまうと言うことが広く認められてしまうと、「インディーズデビュー時にユニット名を商標登録しておく」ということが頭の片隅にすらないほとんどのアーティストは厳しいだろうなとは思います。

 「UQiYO」の場合、そのCDはAmazon.co.jpやHMV等で購入出来ますし、その楽曲をiTunes Store等でダウンロードすることもできますし、主要都市でのインストアライブを成功させていますので、「地域性」のところでは問題は生じないと思います。ただ、音楽市場においては、ジャンルごとの市場の細分化が進んでいることから(NHKの紅白歌合戦に出場している歌手ですら、音楽CD等の需用者の1割に知られているというのはごく一部です。)、「需要者の間で広く認識されている」と認められるためにどの程度の「浸透度」が必要かは、問題となり得るところです。「細分化された音楽ジャンルの愛好家の中での浸透度」で周知性の有無を判断しないと、音楽ジャンルでは、現実的妥当性のある結論を導けないのではないかという気がしてならないところです。

 まあ、「需要者の間で広く認識されている」とはいえないとして4条1項10号の適用が認められなかったとしても、「先使用権」(32条1項)の要件としての「需用者の間に広く認識されている」はそれよりも緩く解釈されるとするのが一般的ではあるのですが。

Posted by 小倉秀夫 at 08:40 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

04/12/2014

スポーツと知的財産

 日本弁理士会が発行している機関誌に「パテント」があります。

 その2014年4月号では、「スポーツと知財」特集が組まれています。

 その中で「スポーツと知的財産」というタイトルで、スポーツにまつわる知的財産権を総花的に解説する論文を掲載していただいております。

 そういう意味では新規性には乏しいのですが、フィギュアスケートの演技が著作権法により保護されるのかについて少し詳し目に解説してあるのと、スポーツ中継への「ユニバーサルアクセス」について言及してあるあたりに注目していただければとは思います。

 なお、私の論考以外だと、黒田健二弁護士や、中村仁・土生真之弁護士がアンブッシュ・マーケッティングについての解説をしていたり、西村雅子弁理士がスポーツブランドの保護について論考をお書きだったり、國安耕太弁理士がスポーツ中継映像にまつわる著作権問題等に言及されていたりするので、そういった向きに関心がある方にはお得な号かなとは思います。

Posted by 小倉秀夫 at 01:08 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/14/2014

音楽コンテンツにおける創意工夫

 今年書きたい論文のテーマの一つが、音楽コンテンツにおける創意工夫の配分問題です。

 メンバーの1人が作詞・作曲した楽曲を自分たちで演奏するバンドを想定してみてください。バンドのメンバーは各々、自分のパートを具体的にどう演奏するのか創意工夫するわけです。もちろん、他のメンバーやプロデューサー等がいろいろ意見してくることもあり、その場合にはそれを参考にして演奏方法を変えたり、変えなかったりするわけです。ライブの場合、具体的にどう演奏するのかはそのたびごとに微妙にまたは大胆に変わっていきます。また、レコード(CD)にその楽曲についての実演を収録する場合、様々な方法で行われた実演のうち特定のものをピックアップして(ときにはデジタル的に加工を加えた上で)一体のものとして組み上げる作業は、多くの場合プロデューサーが行います。

 このように、実際に公衆の耳に届く特定の音の連なりを作りあげる過程では様々な人々の様々な創意工夫が介在しています。それらのうち、作曲または編曲として「著作権」をもって保護するもの、実演あるいはレコード製作における創意工夫として「著作隣接権」をもって保護するにとどまるもの、あるいは、著作権法による保護の対象外とするものは、どのような根拠をもって、どのように区分されるのか。それが今年のテーマの一つです。

 そこには、音楽上のアレンジをもって即著作権法上の「編曲」としてしまうと実務的な不都合が大きすぎるという問題意識があります。例えば、著作権管理事業者は編曲件についての信託譲渡を受けていないため、ある楽曲を実演する上で通常なされる程度のアレンジまで著作権法上の「編曲」に含めてしまうと、「著作権管理事業者から著作物の利用許諾を受ければ、合法的に、他人が作詞・作曲した楽曲の演奏ができる」というスキームが成り立たなくなってしまいかねません。また、著作権法第43条を文理解釈する場合、編曲した上で行う演奏については、無償かつ非営利目的で行ったとしても、著作権法第38条第1項による権利制限の対象外となってしまいます。

 「実演」を媒介にして情報が公衆に提示・提供されることが予定されている著作物類型において、「実演」における創意工夫の結果生ずる、伝達される情報の変更が全て著作物それ自体の変更として評価されるのはおかしいのではないか。それが議論の出発点です。同じ現象は、演劇についても、あるいは舞踊についても生ずるわけですが、音楽の場合、元の著作物の演奏またはその録音という範囲にとどまるのか、あるいは、二次的著作物を創作した上での演奏または録音と評価されるのかで権利処理コストが大幅に異なってしまいますので、より先鋭な利害対立が生じうるのです。

 まだ今年は始まったばかりですので、今日はここまで。

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12/08/2013

コスプレと著作権

 今日は、広島の方で「イベント:同人誌・コスプレの自由と、著作権訴訟」という target="_blank">イベントがあるそうなので、コスプレと著作権の関係について考えてみましょう。


 「コスプレ衣装専門店の経営者が、『海賊戦隊ゴーカイジャー』のキャラクターが着るジャケット4点を、著作権者(東映)の許可を得ずに複製されたと知りながら、3万2000円で売った疑いで逮捕された」事件を覚えているでしょうか。


 この事件は、コスプレ衣装が「輸入の時において国内で作成したとならば著作権の侵害となるべき行為によって作成されたもの」であることを前提に、その情を知ってこれを頒布した行為を著作権侵害行為とみなしたものです。

第百十三条  次に掲げる行為は、当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。


一  国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為


二  著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を、情を知つて、頒布し、頒布の目的をもつて所持し、若しくは頒布する旨の申出をし、又は業として輸出し、若しくは業としての輸出の目的をもつて所持する行為M/p_,



 しかし、コスプレ衣装を作成することが著作権侵害行為にあたるとする警察の法解釈は、これが判例として定着すると、その影響力は甚大です。


 「コスプレ」は、政府が推進する「Cool Japan」の中核をなすコンテンツの1つであり、自治体の中には、コスプレサミットを開くなどして、世界中のアニメファンを呼び込んできたところもあるからです。コスプレイベントに参加するアニメファンたちがアニメの権利者から事前に許諾を得るということは事実上困難ですし(とりわけ、今日では外国在住の外国人もコスプレをしに日本に来ます。)、イベント運営者が代わりに権利者から許諾を取ると言うことも困難です(許諾を取れた権利者の作品についてのコスプレしか認めないという運用は実際問題無理でしょう。)。したがって、この件が立件され、起訴され、有罪判決が下されるようなことがあれば、この国では、事実上コスプレイベントが開けないということになります。


 実際のところは、いかがでしょうか。

 まずは、「海賊戦隊ゴーカイジャー」が、ゴレンジャー以来連綿と続く「スーパー戦隊」シリーズの1つであり、そもそも実写テレビ映画がオリジナルだということに注目してみましょう。ここでは「キャラクターが着るジャケット」は、まさに最初からジャケット、すなわち、衣装としてデザインされているということです。


 衣装のデザインについては、意匠登録がなされた場合に限り、意匠法により保護するというのが原則です。例外的に、純粋美術に匹敵する高度の観賞性が認められる場合に限り、著作権法による保護の対象となるとするのが、判例・多数説です。


 すると、ゴーカイジャーが身につけているジャケットは、多少派手ではあるものの、ジャケットという枠を超えて、純粋美術として鑑賞するに値するかと言われれば、私にはそうは思えません。そうだとすると、このジャケットデザイン自体は著作権法による保護の対象とはならず、これと同じデザインのジャケットを輸入して販売しても、113条1項1号のみなし侵害にはあたらないということになります。


 では、仮に「海賊戦隊ゴーカイジャー」がアニメ作品だったらどうでしょうか。アニメのキャラクターが普段身につけている衣装のデザインは、アニメキャラクターという「著作物」の一部として、著作権法による保護を受けることになるのでしょうか。


 これには2通りの考え方があろうかと思います。


 1つは、衣装デザインがそのアニメキャラクターの「表現上の本質的特徴部分」にあたるといえる場合に限り、それを直接感得しうるような形状の衣装を作成することは「複製」に当たるとする考え方です。ただし、アニメキャラクターの表現上の本質的特徴部分は、顔立ちや体つきにあるのが通常なので、たいていの場合衣装デザインが似ていると言うだけでは、元のアニメキャラクターの「表現上の本質的特徴部分」を直接感得できることにはならないとする考え方です。


 なお、コスプレイヤーの顔立ち及びスタイル、髪型等により、一層特定のアニメキャラクターを想起させるコスプレというのもあるとは思いますが、人体を用いて表現している要素を織り込んで著作物を「複製物」とするのは、「人を『物』として扱ってよいか」という問題を生じさせるように思います。「複製物」という場合の「物」は、有体物を指しているからです。

 もう1つは、衣装のデザインの類似性は基本的に意匠法で対処すべきなので、アニメキャラクターの衣装デザインと類似する衣装が製作されたとしても著作物としての利用がなされていないので原則として著作権侵害とすべきではないが、例外的に、その衣装が純粋美術に匹敵する高度の観賞性を認められるようなものであった場合には、美術の著作物として有形的に再製されたとする考え方です。商標法においては、形式的には第三者の登録商標を使用している場合であっても、商品等の出所を識別するという商標本来の用法で使用されているわけではない場合には、「商標としての使用」ではないので、商標権侵害にはあたらないとするのが判例・通説です。この考え方を著作権法にも応用して、衣装のデザインが著作物たるアニメキャラクター衣装デザインと類似するものであったとしても、その衣装のデザイン自体が高度の観賞性を有せず、著作物としての評価を得られる類のものに至っていない(意匠として評価されるにとどまる)場合には、「著作物」としての衣装デザインが有形的に再製されたとはいえないので、「著作物としての利用」ではなく、著作権侵害にはあたらないとするのです。


 いずれにせよ、このような難しい法律問題を、著作権法のエキスパートではない検察官に提起させ、著作権法のエキスパートではない刑事裁判官に判断させるのはいかがなものかという気はします。コスプレ衣装をネット通販で売っていたということは、特定商取引法に基づく表示がなされており、その営業主体がどこの誰であるかを権利者は容易に知り得たと思いますので、警察は「民事でやれ」と突き放すべきだったのではないかという気がします。

Posted by 小倉秀夫 at 01:04 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

12/03/2013

「加護亜依」というブランド

 ゲームラボの10月号に掲載したコラムの元原稿です。



 元モーニング娘。の加護亜依さんが「威風飄々」というプロダクションから芸能界に再復帰しようとしたところ、加護さんの前所属事務所である株式会社メインストリームから、加護さんがその名前で芸能活動を行うことは同社の商標権を侵害することになるとして、ストップがかかったというニュースが話題となっています。

 確かに、特許電子図書館で「加護亜依」という商標が登録されているかを調べてみると、メインストリーム社が平成21年12月11日に、41類の「演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏、歌唱の上演、ダンスの演出又は上演、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、放送番組の制作」云々という指定役務で商標登録をしているようです。

 では、加護さんは、「加護亜依」という本名を使って芸能活動をすることが本当にできないのでしょうか。

 商標法26条1項1号は、「自己の肖像又は自己の氏名若しくは自己の名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標」については、商標の効力は及ばないとしています。「加護亜依」は本名とのことですので、加護さんから見ると、これは「自己の氏名」にあたりますから、本号でいけそうな気がします。

 ただし、本号で正当化しようとする場合、今後、加護さんがソロCD等をリリースする際に、加護さんの名前を「一般需用者の注意を引くような特別な字体」を用いてしまうと、「普通に用いられる方法で表示したもの」とはいえないとして、商標権侵害が認められてしまう危険があります(名古屋高判昭和61年5月14日【東天紅事件】)。

 もっとも、加護さんがライブ活動を行う場合、役務提供の主体は、加護さんなのか、現所属事務所の威風飄々社なのか、あるいはライブの主催者なのかということも問題となります。後二者だとすると、「加護亜依」という標章は、「自己の氏名」にはあたらないとして商標権侵害が成立しそうにも思われるからです。もっとも、ライブのチケットや会場の看板等にそのアーティストの氏名等が記載されている場合、その主催者によるライブであることを示す標章としてそのアーティストの氏名を使用しているわけではありません。したがって、ファンこそが役務提供の相手方と考えて役務提供の主体こそが主催者だと解した場合、「加護亜依」という名称は商標として使用されていないので、商標権侵害とはならないということになりそうです。

 これに対し、主催者を役務提供の相手方と考えた場合、主催者と上演契約を結ぶ主体は通常所属事務所ですから、役務提供の主体は所属事務所とみることもできそうです。この場合、芸能事務所にとっての所属タレントの芸名(実名と同じ場合を含む)は、その事務所が提供する役務を他の事務所が提供する役務を識別するものとして使用されるものと言いうるかが問題となるように思います。言いうるのであれば、威風飄々が自社の所属タレントとして「加護亜依」という芸名の者がいることを示して、主催者にタレントを派遣し上演等をさせるのは、「加護亜依」という商標の使用にあたるといえそうです。

 ただ、商標法4条1項8号は、他人の氏名を含む商標については商標登録を受けることができないのを原則としており、その他人の承諾を得ている場合に限り例外的にそのような商標の登録を可能としています。問題となっている商標についても、加護さん自身がその登録を承諾したのだろうと推測できます。それはなぜかと言えば、当時加護さんとメインストリーム社との間で専属契約が締結され、これに基づき加護さんの芸能活動をプロモートする義務をメインストリーム社が引き受けたからでしょう。だとすると、専属契約が解除等により終了した場合は、この前提が覆されているわけですから、メインストリーム社は、「加護亜依」という標章について商標登録を維持する社会経済的な基礎を失っているといえます。このような場合に、形式的に商標登録が維持されることを奇貨として、加護さんの芸能活動を妨害する目的で商標権を行使することは、権利の濫用に当たると解することは十分可能だと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 01:44 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

もう、従量制で行こうよ

NHKの最高意思決定機関である経営委員会が、NHK執行部に対し、インターネットサービス充実のため、受信料制度の見直しを求めたとこ ろ、テレビがなくても全世帯から受信料を徴収する義務化を明記した回答文書を提出していたことが2日、分かった。

とする毎日新聞の記 事が反響を呼んでいます。

 ただ、インターネット配信の場合、各IDの視聴時間を配信事業者は把握できるわけですから、単純に従量制サービスを充実させたらいいのではないかと思 います。現在、NHKの受信料は地上波で2ヶ月2550円(振込の場合)ですから、1日2時間視聴したとして1時間平均約43円です。同時再送信、異時再 送信ともに1分1円なら、価格として妥当だと思うんですけどね。例えば、サッカー中継等で、試合前のセレモニーや解説、ハーフタイム、試合後の得点シーン のリプレイなどと合わせて約120分で120円なら、悪くない数字です。

 もちろん、異時再送信の場合、権利処理が面倒ではあるのですが、ただNHKの場合、既にオンデマンドサービスで権利処理のノウハウは積んであるはずで す。まあ、ワールドカップ等は難しいんでしょうけど、そういう特別なものについては異時再送信できないってことにしてしまえば済むと思いますけどね。

Posted by 小倉秀夫 at 11:16 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/17/2013

JASRACと私的独占行為

 昨日のTokyo BootUP Conferenceで、JASRACに対する排除措置命令取り消した審決を破棄した東京高裁判決についての解説を、ワタベさんと一緒に行いました。とはいえ、Tokyo BootUPConferenceは、ミュージシャンや音楽業界関係者が集まることを予定していますので、平易に解説しないといけないという要請が通常よりも強かったので、ここではもう少し詳しい話をしようと思います。

 そもそもの発端は、公正取引委員会がJASRACに対し、私的独占行為の排除措置命令を下したことにあります。ここで、私的独占行為とされた行為(「以下、「本件行為」といいます。)は下記の通りです。

社団法人日本音楽著作権協会は,放送法(昭和25年法律第132号)第2条第3号の2に規定する放送事業者及び電気通信役務利用放送法(平成13年法律第85号)第2条第3項に規定する電気通信役務利用放送事業者のうち衛星役務利用放送(電気通信役務利用放送法施行規則(平成14年総務省令第5号)第2条第1号に規定する衛星役務利用放送をいう。)を行う者であって,音楽の著作物(以下主文において「音楽著作物」という。)の著作権に係る著作権等管理事業を営む者(以下主文において「管理事業者」という。)から音楽著作物の利用許諾を受け放送等利用(放送又は放送のための複製その他放送に伴う音楽著作物の利用をいう。以下主文において同じ。)を行う者(以下主文において「放送事業者」という。)から徴収する放送等利用に係る使用料(以下主文において「放送等使用料」という。)の算定において,放送等利用割合(当該放送事業者が放送番組(放送事業者が自らの放送のために制作したコマーシャルを含む。)において利用した音楽著作物の総数に占める社団法人日本音楽著作権協会が著作権を管理する音楽著作物の割合をいう。)が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用することにより,当該放送事業者が他の管理事業者にも放送等使用料を支払う場合には,当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加することとなるようにしている行為

 括弧書きが多くてわかりにくいので枢要部分だけ取り出すと次の通りとなります。

放送事業者から徴収する放送等使用料の算定において,放送等利用割合が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用することにより,当該放送事業者が他の管理事業者にも放送等使用料を支払う場合には,当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加することとなるようにしている行為

ここでいう「放送等利用割合」とは、「当該放送事業者が放送番組において利用した音楽著作物の総数に占めるJASRACが著作権を管理する音楽著作物の割合をいいます。

 公正取引委員会は当初、JASRACの上記行為を「排除型の私的独占」にあたるとして排除措置命令を下しました(実はこれ、非常に適用事例が少ないのです。)。では、排除型の私的独占ってどのような場合に成立するのでしょうか。

 独占禁止法2条5項は次のように定めています。

この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

 すなわち、排除型私的独占が成立するためには、次の3つの要件を満たすことが必要です。


  1. 事業者が他の事業者の事業活動を排除したこと

  2. 上記排除により一定の取引分野における競争が実質的に制限されたこと(③)

  3. 上記競争の制限が公共の利益に反していること(④)


です。公取の審決では、1の要件は、結果と行為とを分けて、


  • 本件行為が、他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有すること(①)、

  • 本件行為が、正常な取引手段の範囲を逸脱するような人為性を有すること(②)、


に分解されています。そして、審決では、①の要件を満たしているとは言えないとして、②〜④の要件を満たしているかを判断することなく、排除命令を取り消したのです。

 これに対して、高裁判決は、本件は①の要件を満たしているので審決は取り消す、②〜④の要件を満たすのかについては、審決で判断をしていないので、判断するようにということで、事件を公取に差し戻しています。

 公取の審決が、①要件の充足を否定した理由は、簡単に言えば次の2つです。


  1. 放送事業者の多数の社内通知文書について、イーライセンス管理楽曲の利用を差し控えさせる効果があったとは認められない。

  2. 放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度を取ったことが認められるとしつつも、利用を回避したとは認められない


 高裁は、この2点を覆していきます。

 ここでいう「社内通知文書」とは、例えば、テレビ朝日において番組制作担当者に送られた社内通知文書には以下の内容が記載されていたと認定されています。


  • イーライセンスの管理楽曲を使用する場合は「使用報告書の提出」と「放送使用料の支払い」が必要になること

  • 使用報告書には、楽曲名、アーティスト名等を記入して、放送日から1カ月以内に提出すること

  • 放送等使用料の額

  • 放送等使用料は番組負担となること


 このような文書が社内で配布されることにより、番組制作担当者は、番組の制作費用からイーライセンスへの放送等使用料の支払いを避けるため、同社の管理楽曲の使用を差し控えたわけです。審決では、そうはいっても使用されていなかったわけではないということが強調されるわけですが、高裁は次のような判断を示して、これを一蹴するのです。

 楽曲の選定については、さまざまな要因があり、例えば、歌手、演奏者の人気度、聴取者の嗜好等に影響を受けたり、カウントダウン番組、リクエスト番組、歌手がパーソナリティやゲストとして出演する番組など、番組の性格により影響を受けたりする面があることは否定できない。

 そのような特別な場合を除くと、多くの場合は、選定の対象とされる楽曲は、1つではなく、複数となると考えられる。

(中略)

複数の選定対象楽曲の中に、放送等使用料の追加負担が不要な楽曲と必要な楽曲があれば、経費負担を考慮して追加負担の不要な楽曲が選択されることは、経済合理
性に適った自然な行動と言える。

 そして、エイベックスグループが、放送等使用料に関してイーライセンスとの契約を解約するに至った経緯についても次のように認定します。

 まずは、上記のようにイーライセンスの管理楽曲の利用が差し控えられているということをエイベックスグループの側で把握するところから始まります。これを受けて、エイベックスグループとイーライセンスはH18.10.16に協議を開き、次のことを決めます。


  • 同年12月末まで、エイベックス楽曲の利用を無償とする。

  • 同年12月末までに、イーライセンス管理楽曲の利用回避について決着をつける。


 その後、イーライセンスは、放送局に足を運び、事態の打開を図ろうとするわけですが、結局うまくいかないわけです。このため、エイベックスグループでは、無償化の終了する平成19年1月以降、イーライセンスの管理楽曲をベイエフエム等が利用することについて、確証を得られなかったため、イーアクセスとの契約を解約したのです。

 審決では、現実には,放送事業者が一般的にイーライセンス管理楽曲の利用を回避したということはできず,イーライセンス管理楽曲の利用について慎重な態度をとったことが認められるにとどまるのであるから、エイベックスグループが正確な情報に基づいてイーライセンスとの委託契約を解約したとはいえないと認定して、JASRACの行為とエイベックスグループによるイーライセンスとの契約の解約との間の因果関係を否認します。

 これに対して高裁は、現に利用回避がなされていた以上、エイベックスの認識が間違っていたとは言えないと判示します。

 また、審決では、

イーライセンスがNHKとの間で平成20年3月以降も利用許諾契約を継続し,それに応じた放送等使用料を徴収していることが認められることを併せ考えると,イーライセンスが,放送等利用に係る管理事業を営むことが困難な状態になっていたというには疑問が残る。

として、イーライセンスが排除されていたということすら否定しにかかるのですが、高裁は、イーライセンスと契約を結んでいるNHKですら、平成20年に4曲、平成21年に3曲
利用しただけであり、イーライセンスが徴収した放送使用料は平成22年になっても9月末までの概算値で2〜30万円程度にしかなっていないことを指摘します。この売り上げでは、事業としてやっていくのは困難です。

 何でそういうことになっているのでしょうか。著作権等管理事業法制定前は、JASRACのみが音楽著作権の管理事業を行っていました。ですから、当時は、放送事業を営む者は、市販のレコード等に収録されている楽曲を合法的にしようと思えば、JASRACと利用許諾契約を締結せざるを得ませんでした。だから、ほとんどの放送事業者は、放送にかかる音楽著作物の利用に関して、JASRACと利用許諾契約を結びました。その際、JASRACは、放送事業収入の1.5%を支払えば管理楽曲を使い放題使える包括許諾契約を推奨し、ほとんどの放送事業者は、これに応じました。IT技術が未発達のころは、日々の放送の中でどの楽曲を何回使用したのかを管理することはJASRACにとっても放送事業者にとっても相当の手間がかかることだったので、この仕組みは当時としては合理的だったのでしょう。その後、著作権等管理事業法が制定され、JASRAC以外の事業者が音楽著作権の管理事業を行えるようになり、実際にそのような事業者があらわれたわけですが、ほとんどの放送事業者は依然として、放送におけるJASRAC管理楽曲の利用について包括許諾契約を引き続き結んでおくという道を選びました。現状を変える合理的な理由がないからです。

 このような事情の下では、放送局がJASRAC管理楽曲を放送で使用することの追加コストは0円ということになります。したがって、JASRAC以外の管理事業者は、放送局から徴収する放送等使用料の価格付けという側面においてJASRACに価格競争を挑んでも、勝ち目がありません。実際、イーライセンスと契約締結にいたっているNHKですら、上記程度でしかイーライセンスの管理楽曲を使用しなかったのです。

 そして、このような事情の下では、JASRC以外の管理事業者に放送にかかる利用の管理を委託してしまうと放送局においてどうしてもその楽曲を使用しなければならないという場合以外放送等において使用されなくなるわけですから、放送等において使用されることを権利者自らが望んでいる楽曲については、JASRAC以外の事業者には管理を委託できないということになります。その結果、放送等で使用されるようなメジャーな楽曲は、管理委託先がJASRACにますます集中していくわけですから、放送事業者としてはJASRAC以外の管理事業者と契約を結ぶ必要性がますます薄れていくわけです。

 このように、管理事業法制定前の法制度の関係でスタートラインが圧倒的に不均衡な状況下で、管理著作物(音楽)の利用許諾という取引分野において、漫然と市場に委ねた場合には、新規参入者が市場で生き残る余地はなくなっていきます(本件に関して、イーライセンス側の努力不足を責める見解もありますが、上記の通り、JASRACが包括契約を放送事業者に提供し続ける限り、新規参入者がどんな企業努力をしようと、放送等における音楽著作物の利用許諾という分野において、採算を度外視することなくJASRACのシェアを奪い取る余地はありません。)。

 このように考えていくと、本件において、「本件行為が、他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有すること」という要件を満たさないとした公取の判断自体に無理があったといわざるを得ません。

 では、JASRACの行為は、私的独占行為であって許されないと解するべきでしょうか。もちろん、今回の判決では、上記①の要件を満たすと判示しただけです。②〜④の要件の充足の有無は、これから審決で判断されることになります。その際、最も問題となるのは、本件行為による競争の制限が「公共の利益」に反しているといえるかどうかという点なのだろうと思います。

 独占禁止法2条6項にいう「公益に反して」の意義について最判昭和59年2月24日刑集38巻4号1287頁は下記のように判示しています。そして、これは、2条5項の「公益に反して」の意義としても妥当するものと一般に考えられています。

独禁法の立法の趣旨・目的及びその改正の経過などに照らすと、同法二条六項にいう「公共の利益に反して」とは、原則としては同法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを指すが、現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であつても、右法益と当該行為によつて守られる利益とを比較衡量して、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的(同法一条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合を右規定にいう「不当な取引制限」行為から除外する趣旨と解すべきであり、これと同旨の原判断は、正当として是認することができる。

 つまり、形式的には「排除型私的独占」にあたる(①〜③の要件を全て満たす)としても、「自由競争経済秩序」を守るという法益と、当該行為によって守られる法益を比較考量して、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的(同法一条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合には、「公益に反して」いないとして、当該行為の私的独占該当性を否定することになります。

 ここでは、JASRACによる放送事業者に対する包括許諾契約により、放送事業者のJASRACに支払う放送等使用料及び放送使用料支払いにかかる経費が抑えられており、その結果、放送事業者はふんだんにJASRAC管理楽曲を放送の中で使用できているということをどう評価するのかが問題となっていきます。

 「放送事業者のJASRACに支払う放送等使用料が抑えられる」というのは他方で著作権者の犠牲の下に成立している話であり、また、IT技術の発展により、包括許諾方式をやめて全曲個別申請としたとしても、そのための事務経費は以前ほどではなくなってきています。そのようなこと等を考えたときに、包括契約を提供することによるこれらの利点が、私的独占を排除することによる「自由競争経済秩序」を守るという法益に優越するのかといわれると、どうかなと思ってしまいます。

Posted by 小倉秀夫 at 05:17 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

10/02/2013

ゼミ選抜用のレポート課題

 中央大学法学部での著作権法ゼミでは、入ゼミ希望者の選別を「レポート&面接」で行うということをずっと続けているのですが、どうもレポートの課題が難しくて躊躇してしまったという声を3年生から聞いたので、今年、志願者が少ないようだったら、難易度を相当引き下げないといけないかなと反省しています。

 なお、今年の課題は下記の通りです。


下記のいずれかを選んでください。

課題1:政府の「クールジャパン戦略」が成功しない理由を説明するとともに、具体的なアーティスト又はコンテンツを例にとって、これを世界市場に売り込むための戦略について論じてください。

課題2:SNSにおいて18歳未満の利用者に特定のサービスを受けさせないために現在とられている手段について説明するとともに、年齢ゾーニングをより確実にするための方策について論じてください。


Posted by 小倉秀夫 at 03:26 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

「自炊代行」事件第1審判決を見ての雑感

 自炊代行の適法性に関して、東京地方裁判所の判断が下されたようです。

 近々某所での勉強会でこの判決がテーマとされ、かつ、私はそのチューターを務めなければならないので、私自身のこの判決についての評釈は、それまで公表を差し控えることにします。ここでは、この判決のもたらすであろう影響について簡単に述べることにします。

 自炊代行業者の主たる顧客は、たくさんの蔵書を抱える人たちです。すなわち、それは、出版社や作家にとっては、たくさんの書籍や雑誌を購入してくれる良き顧客たちです。そういう良き顧客たちの「収蔵スペースを節約したい」という思いが、彼らを「自炊」という行為に走らせたわけです。自炊代行業を潰しにかかった作家たちの今回の行動は、間接的に、自分たちの良き顧客を敵に回したものと言えます。

 もちろん、書籍等の所有者が、自分だけで使用する目的で自ら自炊すること自体はなお適法です。NHKのNewswebの解説でも、その点は強調されていました。まあ、1冊、2冊を自炊するのであれば、「代行業者に頼まずに、自分で自炊すればいいだけですよ」で済むかもしれません。しかし、たくさんの書籍や雑誌を購入してくれた「良き顧客たち」に対し、「収蔵スペースのためにその蔵書を自炊したければ、代行業者など頼まずに、自分自身で自炊作業をおやりなさい」と言ってみたところで、「そのために、何時間、何十時間を費やせというのか!」という話にしかならないのではないでしょうか。

 この判決がきっかけとなって自炊代行業者が次々と廃業に追い込まれるとすると、今後はどうなっていくでしょうか。本好きの人はあきらめて自宅とは別の場所に書籍を収蔵するための部屋を借りるようになるでしょうか。

 むしろ、非破壊型の書籍スキャナーの需要が高まり、OA機器メーカーの技術開発がこの分野に集中していく可能性があるように思います。とりわけ、自動ページめくり機能付きの非破壊型書籍スキャナーは、自炊代行業に代わって、自炊作業に要する手間と時間を節約してくれますので、それなりの価格をつけても、「自室が蔵書でいっぱいになる」程度の購買力のある層に受け入れられる可能性が高まっていきます。そういている間に、メーカー同士の激しい技術開発競争と大量生産効果とが相まって、自動ページめくり機能付きの非破壊型スキャナーの価格が著しく下落することになるのではないかとの予測が成り立ちます。この場合、そんなには書籍等を購入しない人々もその種の機能を有するスキャナーに手が届くようになる可能性があります。そこでは、エンドユーザーは、「自炊」をするために書籍を購入する必要すらなく、誰かから/どこかから借りてくれば足りると言うことになります。それは、却って、作家や出版社のためになっていないようにも思います。

 エンドユーザーの立場から見れば、海賊版を購入するあるいは違法にアップロードされているコンテンツをダウンロードするということについてある種のやましさを感ずることがあるにしても、「Time Shift」「Space Shift」「Media Shift」による利便性の確保については、ITの進歩の成果として当然我々が享受できるものと捉えています。したがって、今回の判決のように、そのような我々の当然の利益が「著作権法」を盾に阻まれると、著作権法自体が、そして、著作権法をそのように反動的に運用する権利者や裁判所自体が怨嗟ないし嘲笑の対象となっていきます。とりわけ、ロクラクⅡ法理が「著作権者を勝たせるために恣意的に利用主体を認定するためのツール」として裁判所により運用される実態が広く知れ渡ると、裁判所の中立性に対する信頼自体が損なわれていきます。

 裁判所の知財部も、権利者団体も、そろそろそういうことに配慮して良いところまで来たのではないかという気がしないでもありません。

Posted by 小倉秀夫 at 02:47 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

07/18/2013

陛下プロジェクト事件

 佐藤秀峰先生が@udxさんを訴えた事件の判決が7月16日に下されました。

 佐藤先生が直々にお描きになった絵を無断でアップロードしたわけですから、公衆送信権侵害が認められるのは当然として、注目すべきは、このようなケースで著作権法113条6項のみなし人格権侵害規定が適用された点です。判決文を引用すると下記の通りです。


 被告は,自作自演の投稿であったにもかかわらず,被告が本件似顔絵を入手した経緯については触れることなく,あたかも,被告が本件サイト上に「天皇陛下にみんなでありがとうを伝えたい。」「陛下プロジェクト」なる企画を立ち上げ,プロのクリエーターに天皇の似顔絵を描いて投稿するよう募ったところ,原告がその趣旨に賛同して本件似顔絵を2回にわたり投稿してきたかのような外形を整えて,本件似顔絵の写真を画像投稿サイトにアップロードしたものである(本件行為1)。本件似顔絵には,「ゆぅ様へ」及び「佐藤秀峰」という原告の自筆のサインがされていたところ,「ゆぅ様」は,被告が本件サイトにおいて使用していたハンドルネームであった(乙2の1・2,弁論の全趣旨)。

 上記の企画は,一般人からみた場合,被告の意図にかかわりなく,一定の政治的傾向ないし思想的立場に基づくものとの評価を受ける可能性が大きいものであり,このような企画に,プロの漫画家が,自己の筆名を明らかにして2回にわたり天皇の似顔絵を投稿することは,一般人からみて,当該漫画家が上記の政治的傾向ないし思想的立場に強く共鳴,賛同しているとの評価を受け得る行為である。しかも,被告は,本件サイトに,原告の筆名のみならず,第二次世界大戦時の日本を舞台とする『特攻の島』という作品名も摘示して,上記画像投稿サイトへのリンク先を掲示したものである。

 そうすると,本件行為1は,原告やその作品がこのような政治的傾向ないし思想的立場からの一面的な評価を受けるおそれを生じさせるものであって,原告の名誉又は声望を害する方法により本件似顔絵を利用したものとして,原告の著作者人格権を侵害するものとみなされるということができる。


 著作権法コンメンタールでも書いたとおり(113条6項の注釈は、私自身が担当しています。)、同項の「著作者の名誉または声望を害する」とはどういうことをいうのかについては大きく分けて二通りの考え方がありますが、今回の判決は、「著作物の利用を通じての著作者の社会的な評価の下落をもたらすような利用」を名誉・声望を害する方法での利用ととらえる近時の裁判例の流れに沿ったものと言えるでしょう。とはいえ、特定の政治的、思想的な傾向を有していると誤解されるような利用を「著作者の名誉または声望を害する」方法によるものと認めたのは、悪妻物語事件(東京地判平成5・8・30知財集25巻2号310頁)以来のようにも思いますし、そういう意味では先例的な価値は高いのではないかと思います。

 実際には、法廷では、天皇についてどう思っているのか云々と被告から問いただされたりしたのですが、問題は、自己が有していない政治的・思想的傾向を有していると誤解される状態を作り出すこと自体が「名誉又は声望」を害するのであって、その政治的・思想的傾向自体の価値ないし世間からの評価が低いかどうかは問題ではありません(以前、学部のゼミで、あたかも読売ジャイアンツのファンであるかのように誤解されるような方法で、ある阪神タイガースファンの著作物を利用した場合に見なし人格権侵害の規定が適用されるかという問題を出したことがありましたが、阪神タイガースファンには阪神タイガースファンとしての社会的評価が形成されているわけですし、「天皇」についての政治的・思想的な立ち位置を明示せずして太平洋戦争についての作品を創作している漫画家にはそういう漫画家としての社会的評価が形成されているわけです。そのような社会的な評価が害されるのであれば、それはそれで「名誉又は声望を害する」といえるのだろうと思います。)。

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07/17/2013

TPPに関するパブリックコメント

 TPP関係のパブリックコメントですが、個人としての応募が可能かどうかよくわからず、また、ちょうど忙しい時期に重なってしまいましたので、この程度しか送りませんでした。


TPPの趣旨からいえば、ベルヌ条約を超える長期の著作権保護期間、著作物を利用した商品の流通を阻害するような規制の設定を禁止するルールを盛り込むことが望ましい。

また、著作権の間接侵害についても、制限従属性説を加盟国間の共通ルールとすべきであり、エンドユーザーによる適法な著作物の利用・使用を容易にする商品,サービス等の提供等を違法とすることは禁止されるべきである。

また、加盟国の一カ国で行われたサービスが他の加盟国でも行えるように、権利制限規定や強制許諾制度についても、拡張する方向で統一を図るべきである。


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07/10/2013

パブリシティ権侵害と差止め請求

 ピンクレディ事件最高裁判決は、肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合に、人格権に由来する「肖像等をみだりに利用されない権利」の一態様として、その顧客吸引力を排他的に利用する権利があるとして、最高裁レベルで初めて「パブリシティ権」を認めました。とはいえ、同再々判決は、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるとして、具体的には、肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とすると言える場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当であると判示しました。つまり、最高裁は、人格権の一態様であるパブリシティ権と、基本的人権の中核をなす表現の自由との調和を図る観点から、他人の肖像等を無断で使用する行為が不法行為法上違法となる場合を上記3類型に限定したわけです。

 では、この3類型のいずれかに合致することを理由として出版物の出版及び販売等の差止めを命ずることはできるでしょうか。

 「お金を払えばいい」ということと比べて、「その表現を公衆に流布すること自体が禁止される」ということは、表現の自由を制約する度合いが大きいと言えます。したがって、「人格権の一態様であるパブリシティ権と、基本的人権の中核をなす表現の自由との調和」という意味で言えば、「その表現を公衆に流布すること自体が禁止される」場合というのは、それを放置することによりパブリシティ権者の被る不利益がより大きい場合に限られると考えるのが素直です。

 実際、最判平成14年9月24日(石に泳ぐ魚事件最高裁判決)は、「人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる」としつつ、「どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである」と判示しており、「人格権侵害」即「差止請求認容」という単純なルールを否定しています。

 では、パブリシティ権侵害があきらかに予想される場合、その侵害行為によって被害者は「重大な損失を受ける恐れがあり」、かつ、「その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められる」のでしょうか。

 ピンクレディ事件最高裁判決においては、パブリティ権は、「肖像等それ自体の商業的価値に基づくもの」であると位置づけられています。商業的価値に基づく権利が侵害されても、その被害者が受ける損失は、金銭賠償等により事後的に回復を図ることができるのが通常です。名誉毀損の場合、名誉毀損行為により社会的評価が低下したことによる不利益が金銭賠償により完全に回復するかといえば回復しないので名誉毀損表現を含む出版物等について差止め請求を認容することは上記差止めの要件を満たすと言えると思いますが、たとえば、芸能人の写真が商業誌にて無断で使用されていたという場合に、金銭賠償により回復できない不利益が生じているのかといえば、多分に疑問です。

 これに対し、肖像等が商品等の広告として使用されている場合には、その商品に対する評価がその著名人の評価に結びつきかねないため、金銭賠償によっては回復し得ない不利益が生ずるかもしれません。商品等の差別化を図る目的で肖像等が商品等に付される場合であっても、商品等の種類によっては、その商品のイメージがその著名人の評価に結びつきかねないため、金銭賠償によっては回復し得ない不利益が生ずるかもしれません。ただ、そのような特段の事情が主張・立証されない場合には、不法行為法上違法となる程度にパブリシティ権が侵害されたというだけで、出版の差止め等を認容するのは、表現の自由を過剰に規制するものであって、許されないというべきではないかと思うのです。

Posted by 小倉秀夫 at 07:48 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/17/2013

「『出版社への権利付与等』についての方策」のB案について

 「『出版社への権利付与等』についての方策」のうち、B案が近々成立してしまいそうな雰囲気です。

 ただ、この、

【内容】

著作権者との契約により権利が発生する「出版権」は、自己の名において侵害者に差止請求等を行うことができるが、現行の著作権法では、電子書籍を対象としていないため、電子書籍を対象とした場合についても同様の権利が認められるようにするなど、制度改正を行う。

【権利者】

著作権者と設定契約を締結した者

【権利の対象】

設定契約の対象となった著作物


って、今ひとつよくわかりません。

 もちろん、79条1項の「その著作物を文書または図画として出版することを引き受ける者に対し」の部分を拡張し、電子書籍として「出版」(定義規定でこの「出版」という語の意味が拡張されるんだと思いますが。)することを引き受ける者に対しても、出版権を設定することができるとするのだろうということは予想できます。問題は、その効果をどうするのかということです。

 「海賊版対策」という触れ込みを信じるのであれば、出版権の内容として、「出版権の目的である著作物を原作のまま」公衆送信(送信可能化を含む。)する権利を出版権者が専有することになるのだろうと思うのですが、そうだとすると、出版権が付与された著作物については、電子書籍が作成できなくなるのではないかというおそれがあります。というのも、出版権者は、他人に対し、その専有している方法での著作物の利用を許諾することはできないからです(80条3項参照)。もちろん、電子書籍化をするにあたっては、ePub形式やmobi形式への変換作業を行っているので「原作のまま」ではないという考え方もあろうとは思いますが、裁判所が取り得る解釈かというと疑問です。また、電子書籍化したデータを、AppleやAmazonやSonyに渡して各社のプラットフォームで販売してもらっているときに、プラットフォーマーではなく出版社が送信の主体であるとすることも解釈としては苦しいように思います。

 また、出版権者には、「複製権者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品又はこれに相当する物の引渡しを受けた日から六月以内に当該著作物を出版する義務」及び「当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務」があります(81条)が、著作物を電子書籍として出版する権利までも出版権の内容に取り込んだときに、出版権者としては、① 紙の書籍または電子書籍として出版していればこの義務を遵守したことになるのか、② 紙の書籍及び電子書籍として出版していなければこの義務を遵守したことにならないのかという問題が生じます。

 さらに、「著作者は、その著作物を出版権者があらためて複製する場合には、正当な範囲内において、その著作物に修正又は増減を加えることができる。」という規定があります(82条)が、電子書籍の出版まで出版権に取り込んだ場合、常に「その著作物を出版社があらためて複製する場合」にあたるということにするのかが問題となるところです(そうしない場合、電子書籍の場合、人為的に設定しなければ、増刷等の「区切り」が発生しないので、著作者が修正増減の申し立てを行える「区切り」を設ける必要があります。)。

 独占的利用許諾を受けた出版社が著作権侵害行為者に対し著作権者を代位して侵害行為の差止め請求を行うことが下級審レベルで認められている現状で、上記のような法改正を行う必要があるのかということを含め、検討すべき課題は多いように思われます。

Posted by 小倉秀夫 at 12:28 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/27/2013

立命館での先行販売

 いよいよ、「著作権法コンメンタール」が発売されます。

 実のところ、5月25日に立命館大学朱雀キャンパスにおいて開催された日本工業所有権法学会の研究大会では、版元のLexisNexis Japan社がブースを出し、定価14700円のこの書籍を特別限定価格12000円で先行販売いたしておりました。「重いので、ここで購入して持ち帰るのは躊躇する」と仰っていた諸先生方もおられましたが、この価格差だと、購入後即下のコンビニで事務所に託送した方が安上がりであったことはいうまでもありません。

 スキャンしたデータをアップロードしたり共有したりしないなど所定の条件をお守りいただく限度において、購入した本書を自らまたは自炊代行業者に委託して自炊していただいて構いませんので、その重さにめげず、ご購入いただければ幸いです。

Posted by 小倉秀夫 at 11:55 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

03/26/2013

2013年著作権法ゼミ用のテキスト

 著作権法ゼミのゼミ生の皆さまは、以下を参考にして教材を各自調達して下さい。

 著作権法ゼミも、基本的にはやることは制定法の解釈論ですから、「六法」「基本書」「判例集」が必要です。

 ただ、著作権法というのは法学系では依然としてマイナーな領域でありますので、通常の六法では適切な処遇を受けていません。なので、知的財産権法用の六法を別途用意して下さい。


のどちらかにしておけばいいと思います。著作権法は平成24年に大分改正がありましたので、六法は平成25年度版にしておいた方が無難です。

 なお、大渕編の場合、著作権法関連条文の掲載が少ないですので、著作権情報センターのサイトで著作権関連条文をダウンロードして印刷して補充しておくといいと思います。

 基本書としては、薄くて全体を読み通しやすいものから、学説や判例をふんだんに盛り込んであるものまで、色々あります。ロースクールを受験するような人たちは後者の方が読みやすいかも知れませんが、政治学科や国際企業関係法学科の皆さんのように法律書を読み慣れていない人たちは、そういうボリュームのある本だと消化不良を起こしてしまうかもしれません。

 基本書として使える本を軽量→重厚順に並べていくと、

  1. 島並良=上野達弘=横山久芳「著作権法入門

  2. 三山裕三「著作権法詳説:判例で読む15章

  3. 中山信弘「著作権法

  4. 岡村久道「著作権法

  5. 作花文雄「詳解著作権法


といったところになろうかと思います。

 もっとも、平成24年に大分法律が変わったので、年内に改訂版が出るものがあるかもしれません。それ以外にも新しい基本書等は大分出たのですが、私が読んだ感想としては、学生向きではなかったように思いました。

 判例集については、別冊ジュリストの「著作権法判例百選」が無難だと思います。とはいえ、これが2009年の刊行なので、それ以降の判例については別途補っていく必要があります。

 日本ユニ著作権センターのサイト駒沢公園行政書士事務所日記等を使っておくといいのではないかと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 11:33 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/18/2013

著作物として保護する

 著作権法2条1項1号は、「著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義し、さらに10条1項で、「この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。」とした上で、言語の著作物、音楽の著作物、舞踊又は無言劇の著作物、美術の著作物、建築の著作物、図形の著作物、映画の著作物、写真の著作物、プログラムの著作物の9種類を著作物の例として示します。その上で、12条では、「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。」と定め、12条の2では、「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。」と定めます。この「著作物として保護する」とはどういう意味でしょうか。

 加戸守行「著作権法逐条講義(五訂新版)では、「編集著作物は、第10条第1項各号の著作物の例示の中には入っておりません。というのは、著作物の例示は表現形態別のものであって、編集著作物は材料の集合体という特異なもので分類になじまないということです」(130頁)と説明されています。果たしてそうでしょうか。データベースの著作物は、「材料の集合体」という表現形態なのだと考えれば、10条1項の例示に含まない合理性を欠いているように思います。

 むしろ、編集物やデータベースについては、文化的な所産と言うより産業的な所産としての色合いが強く、2条1項1号で定義した本来の「著作物」とは必ずしも合致しない(それ自体、独自に「思想又は感情」を表現しているとは言い難い場合が多いし、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」といえない場合も少なくない。)から、「著作物として例示するのは不適切だから例示に含めなかったと考えてみた方が素直ではないかという気がします。そう考えれば、編集著作物及びデータベース著作物について、「著作物として保護する」という文言が用いられた理由が明確になります。編集物にせよデータベースにせよ、素材の選択と配列(または体系的な構成)に創作性が認められたからといって、「思想又は感情」を表現していない、あるいは、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」ではないとの理由で、2条1項1号の著作物の定義を満たさない場合が多々あり得るが、そういうものであっても、12条ないし12条の2の要件を満たすのであれば、政策的観点から、著作権法上「著作物」として取り扱うことにする。それこそが、「著作物として保護する」という文言の趣旨だと解するわけです。

 そうだとすると、編集物及びデータベースについては、「思想又は感情」を表現したものとはいえない、あるいは、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とはいえないとの主張は、その著作物性を否認する際の理由とはなり得ないということになります(逆に、編集著作物もデータベース著作物も2条1項1号の「著作物」の態様であるとした場合には、「思想又は感情」を表現したものとはいえない、あるいは、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とはいえないとの主張が、著作物性の主張に対する否認理由となり得ることになります。)。

Posted by 小倉秀夫 at 03:39 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/08/2013

2012年度最後の課題

中央大学で担当している著作権法ゼミの2012年度最後の課題をちょっとオープンにしてみます。



 Aは、レコード業界の衰退の原因を研究し、これを論文「甲」としてまとめ、B大学の紀要論文誌「乙」に応募した。「乙」の編集長Cは、この論文を「乙」の2013年1月号に掲載することに決め、その旨をAに通知するとともに、論文「甲」を「乙」所定のフォーマット(レイアウトのみならず、用語の略し方等を含む。)に合わせて修正したゲラ稿「甲'」をAに送付し、さらに改善すべきポイントを示した上で、1ヶ月以内に最終稿を提出するようにAに要請した。Aは、ゲラ稿「甲’」に適宜修正を加えた最終稿「甲"」をCに送付した。Cは、最終稿「甲"」において大幅に加筆された部分αについても「乙」所定のフォーマットに従った修正を付した版面「甲"'」を作成し、これを「乙」の2013年1月号に掲載した。

 Aは、その開設するウェブサイトに論文「甲"」を掲載しようと考え、論文「甲"」をHTML化した。その際、論文「甲"」で言及した楽曲丙(作詞作曲D、実演E)については、YouTubeにアップロードされているプロモーションビデオに埋め込み型リンクを貼った。また、論文「甲"」で言及した楽曲丁(作詞作曲F、実演G)についてはYouTubeを探しても見当たらなかったので、初音ミクを用いて作成した音源を自らYouTubeに投稿してリンクを貼った。また、Aは、学生を対象に行ったアンケート調査の結果をもとにグラフβを作りこれを論文「甲"」に組み入れていたが、このグラフについては、jpeg化した上で自分のウェブサーバにアップロードした上で、IMGタグを用いてリンクを貼った。

 Hは、その開設するウェブサイトに論文「戊」を掲載した。その際、論文「甲"」とは全く逆の主張を裏付ける資料として、IMGタグを用いてグラフβ(ただし、ここではグラフβには創作性が認められるものとする。)に直リンクを貼った(なお、「戊」の中では、グラフβの作成者がAであるということには特段言及されていない。)。

 ウェブ検索サービス会社Iは、その提供するウェブ検索サービス用データベースに、論文「戊」及びグラフβを取り込んだ。Iは、Hと日頃敵対するネットユーザーJから論文「戊」はAの著作権ないし著作者人格権を侵害するのではないかとの指摘を受けたが、Aからクレームを受けたわけではないとして、これを放置した。


 誰のどの行為が誰のどんな権利を侵害したといえるのか、列挙してください。

Posted by 小倉秀夫 at 12:04 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

08/24/2012

ACTA条約と著作権侵害罪の非親告罪化

 ACTA条約第26条が著作権侵害罪の非親告罪化を義務づけたものか否かについて、東京新聞に私のコメントが掲載されて以来問合せが散見されるので、少しまとめてみることにします。

 この点に関し、平成24年7月31日に行われた参議院外交防衛委員会で八木毅外務省経済局長は、

ACTAの第二十六条は、第一に、故意により商業的規模で行われる商標の不正使用並びに著作権及び関連する権利を侵害する複製、それから第二に、登録商標を侵害するラベル、包装の輸入、使用、第三に、それらの幇助及び教唆等であって、自国が刑事上の手続及び刑罰を定めるものに関し、適当な場合には権限のある当局が捜査を開始し、又は法的措置をとるために職権により行動することができることを規定しているということでございますが、この適当な場合の範囲でございますけれども、これは各締約国の判断に委ねられていると解されます。したがいまして、必ずしも、今申し上げたような犯罪の各類型全てについて権限のある当局が職権により行動できることを国内法令上定める必要はないということでございます。

 以上を踏まえまして、我が国としては、同条の実施のために現行国内法令の改正を行う必要はないと判断しております。


と述べ、玄葉光一郎外務大臣も、

先ほど政府委員から答弁ありましたけれども、結局、職権でやってもよくてやらなくてもいいということなので、日本はまあやらなくていいと、そういうふうに解釈をしているわけです。ですから、第二十六条に関して、適当な場合の範囲について各締約国の判断に委ねられていると。したがって、第二十六条に言う犯罪の各類型全てについて権限のある当局が職権により行動できることを必ずしも国内法令上定める必要はないと。したがって、著作権侵害について、今、非親告罪化という話がありましたけれども、本協定によって各締約国に義務付けられているわけではないというふうに考えております。

と述べています。果たしてそうでしょうか。

 第26条についての原文(英文)を見てみましょう。

ARTICLE 26: EX OFFICIO CRIMINAL ENFORCEMENT

Each Party shall provide that, in appropriate cases, its competent authorities may act upon their own initiative to initiate investigation or legal action with respect to the criminal offences specified in paragraphs 1, 2, 3, and 4 of Article 23 (Criminal Offences) for which that Party provides criminal procedures and penalties.


 これを見ると、「in appropriate cases」(適当な場合)という言葉は、that節の中に組み込まれていますので、「shall provide」(規定しなければならない)を修飾するものではなく、「may act」(行動することができる)を修飾するものであると読むのが自然です。「適当」っていう言葉は日本語では多義的ですが、ここでは「appropriate」という言葉が使われていますから、「適切な」という意味です。結局、ここでは、「特定の犯罪に関して、適切な事案では、権限のある当局は、職権で、捜査を開始したり、法的な措置を講じたりできる」ような条項を「規定しなければならない」といっています。

 つまり、この条文を素直に読めば、加盟国において著作権侵害罪を非親告罪化することが適切だと判断した場合に非親告罪すればいいという趣旨に読むことは困難であって、権限ある当局が捜査を開始したり法的な措置を講ずることが適切だと判断した時にはそれをなし得るような国内法を規定する義務が加盟国に課せられるということになります。つまり、加盟国は、起訴便宜主義まで放棄することはないけど、当局が職権で捜査、起訴できるようにする義務を負うということです。これは、普通に表現すれば、「立法による非親告罪化が義務づけられる」といってよいのだと思います。

 少なくとも、ACTA条約第23条1項に定める刑事犯罪のうち、「少なくとも故意により商業的規模で行われる…著作権及び関連する権利を侵害する複製」については、日本では既に国内法で罰則規定が定められており、かつ、現在のところそれは親告罪として規定されているわけですから、上記行為を非親告罪とする立法までは、ACTA条約の発効によって義務づけられると思います。

 それだけであればそれほど悪くはないようにも見えるのですが、問題は、上記条約上の義務に基づく著作権法改正を行うにあたって、非親告罪化する範囲を本当に「故意により商業的規模で行われる…著作権及び関連する権利を侵害する複製」に限定することが政治的に、あるいは内閣法制局的な意味で行えるのかということです。「商業的規模で行われる」という要件が曖昧すぎるというチェックが入り、結局、著作権侵害罪全体に及ぶような非親告罪化が行われる危険があるということが問題だということになります。

Posted by 小倉秀夫 at 05:28 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/20/2012

新設119条3項の解説(ちょっと更新、でもまだ未完)

 新設著作権法119条3項は、以下のような条文となるようです。

第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 簡単に解説してみましょう。

有償著作物等

 本項の罪の客体は「有償著作物等」である。

 有償著作物等とは、「録音され、又は録画された著作物又は実演等…であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの」であって、「その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないもの」をいう。

 「有償」とは、当該著作物等の提示・提供を受ける者から対価の支払いを受けることをいう。したがって、当該著作物等の提示・提供を受ける者から対価の支払いを受けない場合には、広告収入等により利益を得る目的であったとしても、「有償」要件を満たさないことになる。

 同一の著作物等について、有償での提示・提供と無償での提示・提供が同時並行的に行われている場合は、有償著作物等となるのであろうか。例えば、① 同一の楽曲について、プロの実演家による実演がCD等に収録されて有償で販売されている一方、アマチュアの実演家による実演が動画配信サービスで無償で配信されている場合、② プロの実演家による同一の実演がCD等に収録されて有償で販売されている一方、プロモーション動画として当該実演家のSNSサイトにおいて無償でストリーム配信されている場合、③ 同一の放送用番組について、地上波テレビ局により無償で放送される一方、当該テレビ局又はその関連会社により有償でオンデマンド配信がなされる場合などがこれにあたる。

 この点につき、A説:どこかで有償での提示・提供がなされていれば有償著作物等にあたるとする説、B説:どこかで無償での提示・提供が適法になされていれば有償著作物等にはあたらないとする説、C説:主たる提示・提供方法が有償でなされていれば有償著作物等にあたるとする説があり得る。なお、音楽の書作物については、A'説:どこかで有償での提示・提供がなされているか否かを、著作物ごとに判断するのではなく、録音・録画された実演ごとに判断する説もあり得よう。

 「有償著作物」は、「有償で公衆に提供され、又は提示された」ものではなく、「有償で公衆に提供され、又は提示されている」ものと規定されているから、本項の行為(録音または録画行為)の時点で、有償での公衆への提示・提供が継続されていることが必要である。したがって、本項の行為の時点では既に無償での提示・提供に切り替わっていた場合はもちろん、既に公衆への提示・提供行為が終了していた場合には、文言解釈上は、本項の適用はないということになる。

著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信…を受信して行うデジタル方式の録音又は録画

 本項の「行為」は、「著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信…を受信して行うデジタル方式の録音又は録画」行為である。

 ただし、隣接権者は自働公衆送信権を有しないので「著作隣接権を侵害する自動公衆送信」が何を指すかは問題となりうる。隣接権者の送信可能化権を侵害してなされた送信可能化により可能となった自働公衆送信を「著作隣接権を侵害する自働公衆送信」に含めてよいのかということである。

 著作権も著作隣接権も侵害しない自動公衆送信を受信して行う録音・録画には本条は適用されない。そのような自動公衆送信の例としては、権利者から必要な許諾を得て行う自動公衆送信の他、著作権等が制限された結果許諾不要となった状態でなされる自動公衆送信が挙げられる。

 本項の「行為」は、「著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信…を受信して行う」ものに限られる。したがって、そのような自働公衆送信を受信して作成した録音・録画物からさらに録音・録画を行う場合には本項は適用されない。

 もっとも、「国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきもの」を「受信して行う」録音・録画も本項による処罰の対象となる。

 送信地国法でも国内法で自動公衆送信を行うには著作権者等の許諾を得る必要があるにもかかわらず、許諾を得ずになされた自動公衆送信を受信して行う行為がこれにあたることは争いがない。問題は、送信地国法では自動公衆送信を行うにあたって著作権者等の許諾を得る必要がないからこそ自動公衆送信について許諾を得なかったが国内法では著作権者から自動公衆送信について許諾を得なければ著作権等の侵害となる場合に、そのような自動公衆送信を国内で受信して録音・録画する行為が本校による処罰の対象となるかは問題である。文理解釈上は処罰の対象となると解釈するのが素直であるが、そうすると、著作権の内容として自動公衆送信権が含まれていない国から自動公衆送信される有償著作物等については、常にこれを受信する行為が犯罪行為とされる危険があるからである。

 この点については、A説:利用許諾契約の内容を実質的に捉え、形式的には自動公衆送信以外の利用についてのみ許諾がなされている場合であっても、その利用の結果自動公衆送信がなされることまで想定されているときは本項を適用しないとする見解、B説:送信地国で許諾を必要としていない自動公衆送信については、そのような法律を改正を強く求めないことにより、送信地国からの自動公衆送信は著作者等により黙示的に承諾されたものとみなして本項を適用しないこととする見解があり得よう(後者の解釈はアクロバティックにすぎる嫌いがあるが、パロディ等が明文であるいはフェアユースの一環として許諾なくして行える国で作成されたパロディ作品等を受信して録音・録画する行為を犯罪行為としないためには、A説ですら不十分である。)。いずれにせよ、特定の国から自動公衆送信された音声や動画を受信する行為をあまねく犯罪行為としかねない本項の文言は、立法上の瑕疵といえよう。

 本項の「行為」は、「デジタル方式の録音又は録画」である。「録音」とは、「音を物に固定し、又はその固定物を増製すること」(2条1項13号)をいい、「録画」とは、「影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製すること」(2条1項14号)をいう。

 コンピュータゲームの映像表現を「映画の著作物」とする最高裁判例があることから、ゲームソフトをダウンロードすることが「録画」すなわち「映像を連続して物に固定した固定物の増製」にあたるかが問題となりうる。

 また、YouTube等のストリーミング・データを受信して視聴する場合であっても、ハードディスク等の外部記憶装置にキャッシュデータを記録するのが通例であるが、このようなキャッシュデータの記録が「固定物の増製」にあたるかが問題となりうる。この点については、A説:この種のキャッシュデータは通常反復継続して使用されるものではなく、自動的に順次消去されるものであるから「複製」にあたらないとする見解、B説:「複製」にはあたるが「増製」にはあたらないとする見解、C説:「複製」すなわち「増製」にあたるとする見解があり得る。もっとも、「増製」にあたるとする見解に立ったとしても、ストリーミング・データの受信→映像の特定少数人間で視聴する目的での上映という適法な使用に伴うものであるから、著作権法47条の8により著作権侵害とはなり得ないものである。

Posted by 小倉秀夫 at 03:26 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/08/2012

違法ダウンロードに刑事罰は必要か

表題のシンポジウムで短くスピーチをしてきました。そのために用意して置いたメモは下記のとおりです。


違法サイトからのダウンロード行為を犯罪化する法改正は何が最大の問題か。

持っていない情報を手に入れること、すなわち、知らないことを知ることを犯罪とすることこそが最大の問題です。

今回の議員立法では、日本では正規ルートで入手できないコンテンツをダウンロードする行為も処罰の対象となります。それは、レコード会社、映画会社の巨人たちが、「日本人たちに知らせるのはもったいない」と思った情報を日本人は知る術を失いということを意味します。また、世界中のテレビ局で放送されたニュースをネット経由で日本人が知ること自体が犯罪とされることをも意味することになります。

また、情報を入手すること自体が犯罪となりますから、警察は、私たちが、どんな情報をどんなルートで入手したのかを調査する権限を持つこととなります。当然、警察は、私たちが使用しているPCを差押えし、私たちがPCにセーブしている情報を全部調査することが出来ることとなります。

この点に関して、公衆送信者を処罰する場合と一つ大きく異なることがあります。公衆送信を行う人は、公衆に対して積極的に居場所を示しています。ウェブサイトであればURL、ファイル共有サービスであればIPアドレスを晒しているわけです。だから、警察は、これらの情報を基に、公衆送信を行っている蓋然性の高い人々を絞り込んだ上で、強制捜査に踏み切ることになります。しかし、ダウンロードをする人たちは、公衆に対して一切居場所を示しません。だから、ダウンロード行為に対する罰則規定を実効的に運用するためには、十分な絞り込みを行わなくとも、PCの捜索差押えがなされる必要が生じてきます。通常逮捕とは異なり、捜索差押令状は、犯罪の捜査をするについて必要があれば、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がなくても発せられますから、インターネットに接続させてPCを使用している国民は、いつでも自分のPCを差し押さえられる危険が生ずることとなります。逆にいえば、その程度で捜索差押えが認められないと、ダウンロードの犯罪化は絵に描いた餅に終わります(すると、もっと劇薬のような法改正が導入される危険が生まれます。)。

だからこそ、ダウンロードの犯罪化はすべきでないのです。

Posted by 小倉秀夫 at 06:41 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

04/14/2012

ダウンロード罰則化に抗議

刑罰で脅されてまで、音楽CDを買いたくはない。
だから、ダウンロード行為が刑罰の対象となった暁には、私は、邦楽CDは買わない。
子どもたちを刑務所に送り込みたくなかったら、賛同して欲しい。
刑罰で脅して買わせるのではなく、自発的に買いたくなる工夫をする──日本の音楽業界がそう目を覚ますように。

Posted by 小倉秀夫 at 02:29 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2)

03/19/2012

出版社に隣接権を付与するよりも役立つこと


出版社に著作隣接権を云々という議論が喧しいようです。この点について私も、日経新聞の取材を受け、その一部が今日の朝刊に掲載されたようです。



ただ、著作隣接権を求める理由として出版社サイドが表向き唱えていることを実現するためには、別の方法をとった方が早道なのになあと正直思ったりする私がいます。



著作物の利用を円滑化するためには、権利処理の窓口を一本化することが有益です。そして、この一本化された窓口は、その著作物の利活用の活性化とは別の思惑で恣意的な利用許諾拒否を行わないことが有益です。その意味では、JASRAC類似の権利処理機構を、文芸著作物や漫画の著作物についても作ってしまうのが有益です。



とはいえ、漫画雑誌を発行している出版社からすると、自社の雑誌で連載させている作品の中で特に人気が出た作品について、他の出版社から自由に単行本が出されてしまうというのは問題でしょう。その意味では、出版社にも一定の独占権を付与する必要がある。そこまではいいのですが、それが隣接権という「大なた」である必要はありません。



作家、漫画家と出版社との間では、その作品の利用に関して契約が結ばれるのが通常ですが、その契約において、契約の有効期間中、その作品の著作権をその出版社に信託譲渡し、または、独占的利用許諾を受けることにすれば、事が足ります。



もっとも、作家、漫画家としては、そのような強い権利を出版社に付与してしまうと、その出版社に干されたときに困ってしまいます。したがって、作家や漫画家が安心して上記のような権利を出版社に付与できるようにするためには、一定の解約事由を法定してしまうのが便利です。例えば、在庫がなくなったときに増刷を作家側が求めてもこれを拒絶するとか、広く普及している電子書籍端末に対応する電子書籍バージョンを販売するように作家が求めたのに不当にこれを拒絶するとかの事由が生じた場合です。そのようなことをする出版社は、著作物の普及を通じたわが国の文化の発展を阻害しようとしているわけですから、一定の不利益を被ることはやむを得ません。



著作権法に関する立法政策において、排他権を増やすことこそ著作物の利活用の活性化に繋がるのだという根拠のないドグマから、一日も早く抜け出すことを望む次第です。

Posted by 小倉秀夫 at 12:33 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (3) | TrackBack (0)

03/12/2012

ダウンロード罰則化について松あきら議員に質問してみた

とりあえず、松あきら参議院議員のウェブサイトにアクセスし、所定のフォームにデータを入力することで、下記の質問をしてみました。回答が返ってくることを望む次第です。



 私は、弁護士を務めるとともに、中央大学にて兼任講師として、著作権法のゼミを担当するものです。

 先生は、違法にアップロードされた音楽・動画ファイルを私的使用目的でダウンロードする行為(以下、「ダウンロード行為」といいます。)に刑事罰を科すこととするように求めていると伺っております。この点につき、いくつかお聞きしたいことがあります。


  1.  ダウンロード行為を民事法的に違法とする著作権法改正がなされてからまだ日が浅く、その効果も明らかになっていないのに、これに刑事罰を付そうとするのはなぜでしょうか。

  2.  ダウンロード行為に刑事罰を付す法律改正を請願された方々は、民事法上の権利をきちんと行使した上で、なおダウンロード行為に刑事罰を付することが必要だといっていたのでしょうか。どのような権利行使をどの程度されたのか、データはご覧になったのでしょうか。

  3.  ダウンロード行為に刑事罰を付することとした場合、警察は、捜索差押え令状を得て個人のPCを押収し、そのPCにどのようなデータが蔵置されているか、どのPCからインターネット上のどのサイトにアクセスしたのかを調査することが許されることになります。それは、個人のプライバシー権を大いに侵害することとなりますが、その点についてはどうお考えでしょうか。

  4.  違法アップロード行為と異なり、個々人のPCを押収してその中を検査する以外に、誰が違法ダウンロードをしているのかを特定する手段はありませんので、ダウンロード行為を行った個人を処罰するために必要な捜査を行えるようにするためには、嫌疑が希薄でも個々人のPCに対して捜索差押えをなし得るようにする必要があります。そこまで視野に入れた上で、ダウンロード行為に刑事罰を付すことを求めておられるのでしょうか。

 ご多忙のこととと存じますが、よろしくご検討下さい。

Posted by 小倉秀夫 at 07:13 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

03/11/2012

中立的行為による幇助の成否について(再論)


某所で、Winny事件の最高裁判決についての評釈を書きました。そちらは、判例評釈のフォーマットにしたがって論述していきましたが、こちらは単なるブログですので、Winny事件の各段階での判決やこれについての評釈等を読んだ上で、中立的な技術の公衆への提供者の刑事責任について、現段階で考えていることを備忘録的に書いていこうと思います。



価値中立的な技術を公衆に提供すると、それを用いた特定の法益に対する具体的な侵害がある程度の頻度で発生する。しかし、それだけで、その技術の提供者は、その特定の法益侵害行為を容易にしたといっても良いのだろうか。今回の最高裁判決、とりわけ多数意見は、この点から出発しています。



幇助責任を問う以上、特定の法益侵害の発生する蓋然性を有意に高めたことが必要だ──この前提に立ったとき、その蓋然性の高まりは、何と比べてのものなのかを特定する必要があります。



「正犯者がその技術を手にしなかった場合」と比べてしまうと、特定の法益侵害の発生する蓋然性は有意に高くなったといえる範囲が広くなってしまいます。価値中立的な技術の公衆への提供行為はその提供を受ける相手の個性に着目することなくなされているのですから、それが幇助行為として処罰の対象とされるほどに正犯の行為を通じた法益侵害の蓋然性を高めたかどうかは、個々の正犯についてみるのではなく、その技術の提供を受けた人々全体についてみるべきだというべきです。



では、その技術の提供を受けた人々による正犯行為により特定の法益侵害の発生する蓋然性が高まったかどうかは、何と比較して判断するべきでしょうか。



新しい技術というのは、常に既存の技術に何か新たなものを組み合わせることにより成立します。そして、既存の技術も正犯の行為を通じて同種の法益侵害を発生させる蓋然性を有している場合、この蓋然性が既存の技術と新しい技術とで有意に差を生じさせない場合、新しい技術を提供することにより、正犯の行為を通じた法益侵害の蓋然性を高めたことにはなりません。そのような技術の提供行為を幇助犯として処罰の対象とすることは正当ではありません。すると、新しい技術を公衆に提供したことについて特定の犯罪の幇助責任を問いうるのは、まず、既存の技術に「新しい要素」を付加することにより、正犯行為を通じた法益侵害発生の蓋然性を有意に高めたことが必要だというべきです。



では、それだけで足りるのかというと、そこには疑問があります。正犯行為を通じた法益侵害の蓋然性を有意に高める「新たな要素」が、その技術の社会的な有用性を高めるものであった場合には、そのような新しい技術の公衆への提供を刑罰をもって禁止することは、科学技術の発展を阻害することとなりかねないからです。そこでは、侵害の蓋然性が高まる法益の重大性および蓋然性が高まる程度と、その「新たな要素」がもたらす有用性とを比較考慮した上で、後者の要素が勝る場合には、当該新しい技術を公衆に提供する行為にはなお社会相当性があり、当該法益侵害の蓋然性が高まったとしても幇助犯として処罰するに足りる違法性を欠いていると解するべきです。



ここで注意すべきは、技術は長い年月をかけて累積的に「新しい要素」を付加していくことにより発生していくものだということです。それ故、比較対象とすべき「既存の技術」をどこにおくのかが問題となります。ただ、技術の発展段階を網羅的に押さえることは困難であること、それを公衆に提供することが幇助犯として処罰に値する技術と同程度の法益侵害発生の蓋然性を有する新たな技術の公衆への提供を容認すべき理由はないことを考えると、どこに置いても構わないというべきだと思います。ただ、正犯行為を通じた法益侵害発生の蓋然性が相当低かった初期の既存技術と比べた場合には、それと問題の「新しい技術」との差異となる「新しい要素」の有用性が高まるため、幇助犯として処罰するに足りる違法性を欠くこととなる可能性が増大することとなります。したがって、実際には、社会的に容認されている直近の既存技術と比較していくことになると思います。もっとも、Winny事件の場合、公衆との「ファイル共有」という技術、あるいはその中でも「検索用サーバ不要型ファイル共有」という技術を、「社会的に容認されている技術」と位置づけられるかは、争点となり得るところだと思います。



そして、これらの要素を勘案した結果、当該新しい技術を公衆に提供する行為は幇助犯として処罰するに足りる違法性を客観的に有しているとなった場合に、当該技術の提供者が上記考慮要素を認識し、正犯による特定の法益侵害の発生の頻度が高まることを認容して、当該技術を公衆に提供した行為者に幇助の故意を認め、その技術の提供を受けて果たして当該法益侵害行為を行った正犯との関係で幇助犯として処罰しうると解するべきでしょう。当該技術の利用者によって特定の類型の法益侵害行為が1回以上行われる可能性があることを認識・認容していただけでは幇助の故意を認めることはできず、当該価値中立的な技術の公衆への提供行為を特定の類型の法益侵害の幇助行為と認めるに至る考慮要素を認識・認容している必要があるというのは、Winny事件最高裁判決と考えを一にしています。

Posted by 小倉秀夫 at 01:16 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/17/2012

山本博司参議院議員のブログエントリーにコメントしてみた

 山本博司参議院議員のブログエントリーに次のようなコメントを投稿してみました。


 私は、中央大学法学部で著作権法のゼミを担当し、また、「著作権法コンメンタール」(東京布井出版)の編集代表を務めた弁護士です。

 違法コンテンツの氾濫を防ぐには、作家たちが著作権を行使すれば足りるのであって、出版社に著作隣接権を認める必要はありません。その行使を出版社に委ねたいという作家は、出版契約の存続期間中、著作権(またはその中の送信可能化権)を出版社に時限的に信託譲渡すれば足ります。

 出版社に隣接権を認めた場合、出版社には物理的な書籍の許諾しかしたくないと思っている作家たちが、出版社とは別に、自分の作品を電子書籍化することができなくなってしまいます。また、出版契約よりも隣接権の方が存続期間が長いので、出版契約終了後も、作家たちは、自分の作品を、他の出版社から出版することができなくなってしまいます。そしてこの弊害は、版面の持つ意味が大きい漫画においては、より重要な意味を持ちます。

 従いまして、出版社への隣接権の創設はご再考いただければ幸いです。


 出版社に隣接権を認めた場合、出版社との出版契約が切れた漫画は出版できなくなる危険があることを国会議員の方々にもご理解いただきたいところです。専有権を保持する人が多いと作品が世に出なくなる危険が高まることは、キャンディキャンディの惨状を見ればおわかりいただけるかと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 08:12 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/14/2012

2012年 著作権法ゼミの受講生へのメッセージ

 2012年度の著作権法ゼミに先だって、読んでおくべき書籍等について説明します。ゼミを受講予定の人は参考にして下さい。

 まず基本書についてです。特に指定はしませんが、予備校系のものでないものを4月までに1回通読しておいて下さい。わからない部分があっても、途中で立ち止まらずに、まず通読してみて下さい。

 一応、下記の4冊をお薦めはしますが、これでなくても構いません。

     
  1. 島並良=上野達弘=横山久芳「著作権法入門

    この分野では珍しく、比較的薄くて読みやすいと思います。なお、法律の教科書としては珍しく、電子書籍版もあります。

  2. 中山信弘「著作権法

    わが国における著作権法の第1人者の手によるもので、様々な論点をバランスよく解説されています。民法や会社法等で普通に基本書を読むことに違和感がない、法律学科の人にはしっくり来ると思います。

  3. 作花文雄「詳解著作権法[第4版]

    初学者が通読するのに向いているとは思いませんが、とにかく様々な論点に触れています。

  4. 岡村久道「著作権法

    この分野での第一線で活躍する弁護士によるもので、要件事実論に対する配慮がなされています


 また、著作権法は裁判例が面白いので、判例集も買い求めておいて下さい。

 一冊だけしか買わないのでしたら、別冊ジュリスト「著作権法判例百選(第4版)」を持っておけばいいと思います。

 また、通常の六法では著作権法はまだしも関連法規が掲載されていないので、知的財産権法専用の六法を持っておく必要があります。

 三省堂の「知的財産権六法」の2012年度版がおそらく3月末にでるので、それで事足りると思います。

 通常の六法の外に知的財産権法専用の六法を購入したくないという人は、国の法令データベース等から必要な法令をダウンロードして、自分が見やすいようにレイアウトした上でプリントアウトしてこれを持っておくというのも一つの考え方です。その場合、次の法令は漏れなくプリントアウトしておくようにして下さい。


  1. 著作権法

  2. 著作権法施行規則

  3. 著作権法施行令

  4. 旧著作権法

  5. 著作権等管理事業法

  6. 著作権等管理事業法施行規則

  7. 映画の盗撮の防止に関する法律

  8. プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律

  9. 万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律

  10. 連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律

  11. 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約

  12. 著作権に関する世界知的所有権機関条約

  13. 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約

  14. 知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPs協定)

  15. 万国著作権条約

  16. 許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約



Posted by 小倉秀夫 at 04:31 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/08/2012

コンテンツの実質価格とコンテンツ産業総体の収入

 総体としてのコンテンツビジネスが栄えるためには、総体としての消費者のコンテンツに対する消費の総量を増加させていく必要があります。そのためには、1コンテンツあたりの実質価格を上昇させることが効果的なのでしょうか、下降させることが効果的なのでしょうか。

 コンテンツを収録したパッケージの小売価格を下げることは、1コンテンツの実質価格を下げる方法の1つですが、それが全てではありません。1つのコンテンツを満足のいくまで享受するのにかかる時間が、そのコンテンツの収録したパッケージの「物」としての商品寿命より顕著に短い場合、1つのパッケージを複数人で時間差で消費することにより、1コンテンツあたりの実質価格を引き下げることができます。その方法としては、団体での行動購入の他、パッケージのレンタルやパッケージの中古流通などがあります。

 消費者がコンテンツを消費するのに費消できる資金が一定だとすると、1コンテンツあたりの実質価格が上昇しようが下降しようが、消費者側からコンテンツビジネス側に移転する資金は一定ということになります。実際には、消費者に届くパッケージの個数が増えれば、パッケージの製産・流通コストの分、コンテンツ事業者側の取り分が減りますが、IT革命によりこのコストが下がっていくに連れて、このコストは次第に無視できるものとなっていきます。他方、1コンテンツあたりの実質価格が下降すると、消費者側はより多くの種類のコンテンツを享受できるようになります。

 すると、コンテンツビジネス側の総体としての収入を概ね維持しつつ、消費者の満足度を引き上げられるという意味において、1コンテンツあたりの実質価格を引き下げることには合理性があり、逆に、1コンテンツあたりの実質価格を引き上げるような改革は、コンテンツビジネス側の総体としての収入を引き上げないのに、消費者側の満足度を引き下げるという意味において最悪です。

 さらに問題なのは、1コンテンツあたりの実質価格を引き下げ、消費者が享受できるコンテンツの種類を減少させた場合に、当該類型のコンテンツを消費するという娯楽の満足度自体が下がり、結果として、消費者がその類型のコンテンツから離れていくおそれがあります。そうなった場合には、コンテンツビジネス側の総体としての収入自体が縮小していくこととなります。

 他方、1コンテンツあたりの実質価格が下がった場合、消費者は可処分所得の上昇に合わせてコンテンツ消費への支出を増やすことが容易になります。それは当該コンテンツ類型への消費者の満足度を高めるので、コンテンツビジネス側の総体としての収入自体を拡大することに繋がります。

 もちろん、個々の消費者が享受するコンテンツの総量には自ずと限界があるので、1コンテンツあたりの実質価格が下がりすぎると、コンテンツビジネス側の総体としての収入自体が縮小することになります。ただ、それは「これ以上値下げされたからって、これ以上購入してらんないよ」というレベルになってはじめて遭遇する事態であって、我が国では当面そういう域に達することはなさそうです。

 ですから、結論から言うと、レンタルを禁止すれば、中古品の売買を禁止すれば、コンテンツ産業の売り上げが向上するはずだ、というのは幻想であり、むしろ逆効果を生ずるのではないかと思う次第です。

Posted by 小倉秀夫 at 08:36 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/06/2012

「知的財産推進計画2012」の策定に向けた意見

 「知的財産推進計画2012」の策定に向けた意見募集がなされていたので、以下のとおり応募してみました。

戦略4 クール・ジャパン戦略


 商用コンテンツとして公表された著作物の活用が3年以上なされていないときも、裁定による著作物の利用を可能とすべきである。

 著作権法は文化の発展に寄与するために「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図」ることとしたのであるから、著作物を通した文化の発展を阻害する方向で著作権を行使することは本来許されるべきではない。

 しかし、現行著作権法の下では、「創造のサイクルの確保」とは全く別の理由で、コンテンツの再利用を阻むために著作権法が活用される例が散見される(例えば、世界的にも人気がある「キャンディ・キャンディ」はもはや利用困難である。)。「著作権」は純粋な私権ではなく、創作に対する投下資本の回収機会を保障するための競争制限規制である以上、創作物の活用を阻むために著作権が活用されるという本末転倒ぶりをこのまま放置しておくべきではない。

 したがって、3年使用されない商標が取消の対象となるのと同様に、3年以上活用されないコンテンツは、裁定による利用が可能となるような法改正が望まれる。

戦略3 最先端デジタル・ネットワーク戦略について


 著作権、著作隣接権等に関して、広く国民や団体(企業を含む。)から新たに創設を希望する権利制限規定についての案を募集し、これを法案化して定期的に閣議に提案する。

 検索エンジンに関する著作権の制限規定が立法されるまで長い年月が過ぎ、その間に米国企業が市場を支配してしまったことは記憶に新しいところである。このように、ITを駆使した新たなサービスに関しては、従前の立法のスピード感では、権利制限規定が制定されるころには、広汎なフェアユース規定を背景に先行投資をなし得る米国企業に太刀打ちができないのが実情である。

 もちろん、米国並みの広汎なフェアユース規定が置かれることが理想ではあるが、これまでの文化審議会での議論を見る限りにおいては、それも期待しがたい。

 であるならば、個別的制限規定の制定速度を速めることにより、新しいITビジネスが米国企業に牛耳られるのを回避するような制度設計をすべきである。

 そして、個々の権利制限規定についていえばこれを活用する人や企業は少数に留まる場合が少なくないこと、また、新しいITビジネスを始める企業の多くは人的及び金銭的な資源に恵まれていないこと等を考えると、彼らはロビー活動能力が低いので、文化庁の官僚に取捨選択権限を付与すると、権利制限規定の創設に関する陳情のほとんどが法案化されず、お蔵入りとされる蓋然性が高い(検索エンジンに関する権利制限規定も永らくお蔵入りとされていたのである。)。

 したがって、文化庁には全件法案化の義務を課し、取捨選択は内閣による政治判断に委ねるのが適当である。

戦略2 知財イノベーション競争戦略について


 難視聴地域に受信させる目的で東京キー局が地上波番組について衛星放送設備を用いて行っているサイマル放送を、難視聴地域であるか否かにかかわらず、日本全国で受信できるようにする。

 日本全国にある地方テレビ局は、そのほとんどの時間を、東京キー局で放送された番組を、同時又は異時に再放送することに終始しているのが実情である。これは、衛星放送やインターネットなどの技術がなかった時代には合理性があったが、現在では合理性を欠いている。のみならず、当該地域を放送対象地域とする系列局がないキー局の放送は視聴できない、地方テレビ局が希に自主制作番組(関西の準キー局を除けば、概ね1割前後である)を放送している間はキー局の放送を視聴できない、キー局で放送されている番組を放送していてもなぜか1週遅れで放送されている場合がある等の不便が存在している。

 考えてみれば、貴重な電波使用権を与えられている地方テレビ局が、その放送時間のほとんどを東京キー局のテレビ番組の再放送に充てているということこそが不合理である。衛星放送やケーブルテレビ等によって日本全国どこにいても東京キー局のテレビ番組の全てを時間差なしに視聴することが出来るとなれば、地方テレビ局は、自主制作番組を制作して放送しなければならないこととなる(東京キー局の放送を受信可能な地域を放送対象地域としている千葉テレビやテレビ埼玉、東京MX等は実際そうしている。)。それは、テレビ番組という著作物を新たに創作して東京キー局と競争することを促進するとともに、実演家等のさらなる活用を促すことになるのである。

 もちろん、東京キー局の制作した番組を右から左に垂れ流すだけで高収益を挙げることができている地方テレビ局は猛反対することとは思うが、放送コンテンツにおける競争を促進するためには、上記施策が有意義である。

戦略4 クールジャパン戦略


 J-POPの歌詞に関するデータベースを作成し、世界に向けて公表する。

 J-POPをさらに世界中で普及させるために、「言葉の壁」を取り除く工夫が必要である。そのための施策として、J-POPの歌詞の日本語表記、ローマ字表記、英訳を検索、表示可能なデータベースを国として制作し、または、そのようなデータベースを制作する企業・団体等を資金面及び法律面から支援すべきである。

戦略4 クール・ジャパン戦略


 商用コンテンツとして公表された著作物の活用が3年以上なされていないときも、裁定による著作物の利用を可能とすべきである。

 著作権法は文化の発展に寄与するために「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図」ることとしたのであるから、著作物を通した文化の発展を阻害する方向で著作権を行使することは本来許されるべきではない。

 しかし、現行著作権法の下では、「創造のサイクルの確保」とは全く別の理由で、コンテンツの再利用を阻むために著作権法が活用される例が散見される(例えば、世界的にも人気がある「キャンディ・キャンディ」はもはや利用困難である。)。「著作権」は純粋な私権ではなく、創作に対する投下資本の回収機会を保障するための競争制限規制である以上、創作物の活用を阻むために著作権が活用されるという本末転倒ぶりをこのまま放置しておくべきではない。

 したがって、3年使用されない商標が取消の対象となるのと同様に、3年以上活用されないコンテンツは、裁定による利用が可能となるような法改正が望まれる。

戦略3 最先端デジタル・ネットワーク戦略


 著作権法上の「公衆」の定義を見直す。

 まねきTV事件及びロクラクⅡ事件の最高裁判決により、契約により関係性が築かれる相手方への情報の送信は公衆に対する送信とされ、広く著作権法により規制されることとなってしまった。

 しかし、このような解釈は、オンラインストレージサーバやクラウド事業の国内展開を不可能としかねず、わが国のデジタルネットワーク産業を破壊しかねない。したがって、「公衆」を「特定/不特定を問わず、多数の者」とするなり、「不特定…の者」から「当該著作物の提供又は提示に関して契約関係を結んだ者」を除外する等の措置を早急に講ずる必要がある。

Posted by 小倉秀夫 at 12:31 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

12/24/2011

「原則自由」な社会における自炊代行論争

 自炊代行というサービス自体を著作権法により規制するのは、過剰規制なんだと思うのです。

 これは、なぜ著作権が保護されるのかという議論に繋がる話です。

 著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会を保障するために、そのような資本投下を行っていない第三者との価格競争に晒すことを一定期間猶予し、その間、創作者等に超過利潤を得さしめる。──これこそが著作権の存在意義だと考えた場合、当該著作物に関して創作者等が対価等を得るために通常用いる利用方法を一定期間創作者等に独占させれば足りるのであり、著作権の保護を名目として、当該著作物についてそれ以上の自由を第三者から奪うのは、過剰規制ということになります。

 では、自炊代行は、当該著作物に関して創作者等が対価等を得るために通常用いる利用方法と競合し、著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会を失わせるといえるのでしょうか。

 自炊代行業者が自炊作業を行うために分解した書籍を自炊作業終了後廃棄した場合、当該書籍に記録されていたアナログ形式のデータはデジタル形式に変換されてその利用者に引き渡される反面、当該書籍自体は消滅します。すなわち、当該著作物が記録されている媒体が紙から電子媒体に移転するだけで、その著作物を同時に閲読可能な人が増えるわけではありません。そして、自炊代行業者に持ち込まれた書籍は、その顧客が市場において正規に購入したものであり、著作権者又はその許諾を得た者により、著作権者の印税が乗っかった状態で市場に置かれたものです。したがって、顧客が手にするデジタルデータは、著作権者の印税を載せて市場に置かれた著作物が単にデジタル形式に姿を変えただけだということができます。

 すると、譲渡権について消尽論を肯定し、著作権者の印税を載せて市場に置かれた著作物の複製物の転々流通は著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会を失わせないと考える我が国においては、上記自炊業者が書籍の廃棄と引き替えに書籍のデジタルデータを顧客に引き渡したとしても、そのデータに関する報酬は廃棄された書籍を市場に置いたときに著作権者に渡っているので、著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会は損なわれていないということになります。

 このことは、紙の書籍から電子媒体へデータを移し替える作業を、その書籍の所有者自身が行うか、事業者が業として委託を受けて行うかによって変わることはありません。事業者が得る報酬は、書籍の存在形式を変換したことに対する報酬であって、著作物の複製物を頒布したことに対する報酬ではありません。

 人格権的な要素を捨象すれば(もっとも、著作物の複製物を廃棄する行為は著作者人格権を侵害しないとするのが多数説です。)、著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会を損なわない行為を著作権に基づき規制するのは、過剰規制であると言えます。従って、少なくとも自炊作業完了後書籍の残骸を廃棄するタイプの自炊代行業者の事業を著作権に基づいて差し止めるのは、憲法上の疑義が生ずるおそれがありますし、著作権法はそのような憲法との抵触が生じないようになるべく解釈されるべきです。私たちは、「原則自由」の社会にいるのであり、その原理は、「著作権」というマジックワードによって枉げられるべきではないのです。

 なお、このような見解に対しては、たとえば、書籍がデジタル化されるとそれが違法アップロードされる危険が生ずるではないか(その場合、著作物の創作にかかる投下資本を回収する機会が損なわれるではないか)という反論がなされるかもしれません。しかし、デジタル化された書籍データをネット上にアップロードする行為は、自炊又は自炊代行の是非とは無関係に、著作権侵害行為として取り締まることが可能です。また、自炊または自炊代行がなされると必然的にあるいは高度の蓋然性をもってデジタルデータがネット上にアップロードされるという事実はないようです。したがって、自炊代行を規制することの可否を議論するにあたって、そのような事情を斟酌することは適切ではないと言うべきです。

Posted by 小倉秀夫 at 08:38 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

11/07/2011

権利請願21

 「日本にもフェアユース規定を設けるべき」って、それには基本的に賛成なのですが、それはいつになるか分からないし、文化審議会の議論を見ている限り、米国のフェアユース規定に比べて適用範囲のかなり狭いものとなりそうだし、規定の抽象度が高い分、誰かが訴えられて判例が形成されるまではどういう行為に適用があるか否かの判断が確実になし得ないわけで、「日本にもフェアユース規定を設けるべき」一本で行くことがよいことなのかなあということに躊躇を感ずる今日この頃です。

 考えてみると、私たちは、「こういう個別的権利制限規定が必要なんだ」ということを集約して、文化庁なり、国会議員なりに持っていったことがあるのか、というと、結構お寒い限りだったなあと反省せざるを得ないように思ったりします。

 もちろん、知的財産戦略本部等がパブリックコメントを募集したときには、個人的にこういう権利制限規定が必要ではないか?ということを進言してきたわけですが、パブリックコメントってかなり受け身の意思表明手段であり、それによって新たな論点形成まではしてくれないというのが、これまでの実績で明らかになったところだといって差し支えなさそうです。

 そういう意味では、私たちは、そろそろ、「著作物や実演、レコード、放送等のこういう利用は文化の発展にとって有益であり、かといって、こういう利用について事前に権利者の許諾を得ることはこういう理由で困難なので(あるいは、こういう利用について権利者にさらに対価を与えるのはこういう理由で利益の二重取りになると思うので)、こういう利用を可能とするような個別的権利制限規定を設けて欲しい」ということを、ある程度意見集約して文化庁や二大政党に陳情することが必要なのではないでしょうか。

 これまで、私たちは、著作権法の改正問題については、フェアユース導入要求を除けば、ほぼ受け身だったわけですが、そろそろ、能動的になって、いわば権利請願をしてもいいのではないかと思うのです。

 こういう21世紀型の新たな権利請願運動、いわば「権利請願21」の意見集約母体にMIAUがなってくれればなあと期待している月曜日の朝でした。

Posted by 小倉秀夫 at 11:26 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0)

06/14/2011

エンターテインメント法

 金井重彦=龍村全編著「エンターテインメント法」が学陽書房から出版されました。

 私は、「インターネット配信」の部分を担当させていただいています。

 初稿は随分前に出版社に送ってあったのですが、さあそろそろ出版かなという時期になって、放送法の大改正があり、緊急に内容を大幅に差し替えることになってしまいました(さらに、まねきTV事件、ロクラクⅡ事件の最高裁判決に見舞われるという大惨事!)。だから、私の担当部分はばたばた感が否めないのですが、全体的には、一流の実務家が現実のエンターテインメントビジネスを解説したという意味で貴重な書籍だと思いますので、7560円という定価にもかかわらず、お買い得だと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 01:42 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0)

02/13/2011

ポケモンのセーブデータの売買

 『ポケットモンスターDS』についてのセーブデータがヤフーオークションなどで売買されていることを問題視している人たちがいるそうです

Zakzakの記事によれば、

ポケモンのポータブルゲームとは、プレーヤーが数百種類の「ポケモン」と対戦し、経験値やお小遣いを増やしながらキャラクターを捕獲するのがストーリー。キャラの種類を増やしたり、データ通信で捕獲したキャラの交換もできる

とのこと。これに対して、ポケモン社の「関係者」は、

そもそも、セーブしたデータを何らかの手法で繰り返しコピーし、販売するだけでも著作権法違反にあたります。任天堂が配信してない改造ポケモンを発売したりするのも、オリジナルの楽曲に手を加えてアーティストに無断で販売しているのと変わりません

とのべているのだそうです。

 しかし、「経験値」や「お小遣い」等とパラメータデータは、思想または感情を表現したものではないし、それを創作的に表現したものでもないので、著作物にあたりません。したがって、これをコピーし、販売しても、著作権法違反とはなりません。

 パラメータデータが収録された媒体を販売することがゲームについての同一性保持権侵害を惹起させるとした最高裁判決はありますが(ときめきメモリアル事件)、これは、その「使用によって,本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに,その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになる」ものであったことが前提です。したがって、上手な人が実際にポケモンをプレーした結果取得したセーブデータをコピーして販売した場合には、そのゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開したわけではありませんから、上記判例の基準で言えば、同一性保持権侵害を生じていないということになります。

 「任天堂が配信してない改造ポケモンを発売」した場合はどうかという問題はあります。「改造ポケモン」というのが、ユーザーの側で独自に制作したオリジナルの「ポケモン」という意味ならば、それをゲーム上に登場させることができるようになることによって、「ストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され」ることになると言えるか否かによることになります。ただ、どうなんでしょう。いくつか独自キャラクターが登場するくらいでそこまで言えるものでしょうか。

 もう一つ検討すべきは、セーブデータの中に、任天堂が配信する「ポケモン」についての画像データが含まれている可能性です。この場合、そのようなデータをコピーして販売すると、客観的には複製権侵害、譲渡権侵害が生ずる可能性があります。

 ただし、セーブデータを保有しているユーザーとしては、セーブデータの解析をしない限りそこにどのようなデータが含まれているのかを知り得ないのであり、仮に、「ポケモン」についての画像データが含まれていたとしても、通常そのことを知り得ないということになります。そうすると、故意が必要とされる著作権侵害罪が成立しないことはもちろん、故意または過失が必要な著作権侵害に基づく損害賠償請求権すら成立しないのではないかという気がしなくはありません。

 ユーザーの行動に文句をつけるのであれば、もう少し丁寧に説明をすべきなのではないかと思う次第です。

Posted by 小倉秀夫 at 07:32 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

01/25/2011

Persona non grata

 話題になっている写真があります。地デジ推進キャラクターの草彅剛さんや、地デジカ、萩本欽一さんや高橋英樹さんら「地デジ化応援隊」、そして地デジ推進大使の各局アナウンサーらが明治記念館に集合した際に撮影した集合写真です(このページの上方に掲載されている写真です。実は、この画像この画像の二つの画像から成り立っています。)。

 どうしてこのような無様な写真になっているのかというと、地デジ推進キャラクターである草彅剛さんの所属するジャニーズ・エンターテインメントがその所属するタレント(草彅さんを含みます。)の肖像をインターネット上に掲載することを許さないため、元の集合写真のうち、草彅さんが写っている部分を縦に切除してつなぎ合わせたからです。

 インターネットもまた重要な広報手段となった現代において、その肖像をインターネット上で掲載させてくれないタレントを広報キャラクターに使うこと自体が間違っています。また、草彅さんも、広報キャラクターとして十分な役目を果たせないのだから、そもそも広報キャラクターのオファーがあっても辞退すべきだったというべきでしょう(草彅さんの肖像を削除したために、北島三郎さんたちがせっかく持っている横断幕の文章が途中で途切れてしまっています。)。

 それはともかく、このページの掲載者であるインプレスは、あの集合写真のうち草彅さんが移っている部分を切除する必要があったのでしょうか。

 1つ考えられるのは、切除しないと、肖像権侵害にあたるのではないかということでしょう。しかし、芸能人については、その肖像が撮影され、使用されたとしても、原則として人格権(肖像権)侵害にはあたらないとするのが、従前の裁判例の流れであり、多数説です。芸能人の私的生活領域における肖像がどこまで保護されるのかという点については争いのあるところですが、公的生活領域における芸能人の肖像については、元々多くの人に見られ知られることを希望して芸能活動に身を投じたわけですから、これが撮影され、様々なメディアに載せられて広く公衆の目に触れることになったとしても、その受忍限度を超えて人格的価値が損なわれることはないと考えるわけです。

 すると、地上デジタル推進全国会議の「完全デジタル化最終行動計画」の記者発表会において、地デジ推進キャラクターとしての仕事の一環として撮影された草彅さんの肖像を、草彅さんの許諾なくして、同記者発表会があったこと及びその内容を報ずるウェブニュースにおいて掲載することが、草彅さんの人格権(肖像権)を侵害するものとは考えられないというべきかと思います。

 もう一つが、切除しないと、パブリシティ権にあたるのではないかということでしょう。

 判例法上の財産権としてのパブリシティ権はギャロップレーサー事件最高裁判決で否定されたのではないかと私は思っているのですが、仮に、判例法上の排他的権利としてのパブリシティ権を認める見解に立ったとしても、パブリシティ権は、著名人の氏名・肖像等が有する顧客吸引力を専ら利用する目的でその氏名・肖像を利用することを禁止する権利ですから、地上デジタル推進全国会議の「完全デジタル化最終行動計画」の記者発表会についての報道を行う際に、地デジ推進キャラクターたる草彅さんを含む関係者一同の集合写真を、草彅さんの肖像部分を切除せずに掲載することが、パブリシティ権侵害になるとは到底思われません(草彅さんの肖像が見たくてその集合写真にアクセスする人ってそんなにいないと思いますし。)。

 そういう意味では、インプレスの行動は、過剰規制だったような気がします。

Posted by 小倉秀夫 at 02:27 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

01/07/2011

2011年パブコメの続き

昨日の中間まとめに対するパブコメですが、さらに2つ追加しました(最後のは多少反則気味ですが)


第2章 10頁


中間まとめ」では次のように記載されている。


○ このようなアクセスコントロール機能とコピーコントロール機能とが一体化 している保護技術を著作権法上の技術的保護手段の対象外としていることは、 保護技術の高度化・複合化など技術の進展に著作権法が対応できないという問 題とともに、前述したように著作権等の実効性の低下が強く指摘されている中 にあって、著作権者等の保護の観点から、もはや放置することのできない問題 となっていると言える。

○ また、ネット上の違法流通を恐れて著作物のインターネット配信等を躊躇し 著作物の円滑な利用を妨げることにもつながるなど、インターネット上の著作 物流通の促進の観点からの問題、さらに、欧米諸国にあっては広くアクセスコ ントロール「技術」を含め著作権法の規制対象としており、国境を越えた著作 物流通が増大する状況にあって、国際的な協力のもと著作権保護を図っていく ことの重要性の観点からも問題があり、対応が急務となっているものと考える


しかし、著作権法は既に、著作物の違法ネット流通については送信可能化権を創設することにより対応しており、さらに昨年は、音楽・映像等に関して違法アップロードサイトからのダウンロードを違法化させる改正法を施行しています。また、中国を含む主たる諸外国も、著作物の違法ネット流通については著作権法による網をかけるとともに、ISP等を通じて違法アップロードの迅速な削除を行えるような仕組みが採用されています。したがって、今ある法的な権利を適切に行使すれば、著作物の違法ネット流通は相当程度抑止することが可能です。

ところが、我が国のコンテンツホルダーは、新たな法的な仕組みを作ることには熱心ですが、これを活用することは不熱心です。新たな制度に市民が恐れおののいて自主的に著作物の違法ネット流通に関与するのを回避することを求めるがあまり、規制を求める範囲が過剰に広がってしまっています。しかし、権利を創設しても権利者がこれを積極的に活用しなければ当初予定していた効果が得られないのは当然のことで、これは現行制度がさらなる法規制を必要とするほどに不備であることの結果ではありません。

つきましては、新たな法規制を行う前に、既に創設した諸権利をコンテンツホルダーたちがどの程度活用してきたのか(民事訴訟や民事保全を国内外でいくつ申し立てたのか、刑事告訴をいくつ行ったのか、ISP等への削除要求はどれだけ行ったのか、著作物の違法ネット流通を発見するためにどのような体制を組んだのか)等を調査した上で、十分に活用してもなお現行法では足りないと言えるのかを、検討していただければ幸いです。


おわりに 26〜27頁


「中間まとめ」26頁には、第10期文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 技術的保護手段ワーキングチーム 名簿が掲載されています。そこには、社団法人日本映像ソフト協会(JVA)管理部部長代 理兼管理課長である酒井信義氏が入っています。酒井氏は、有識者ではなく、むしろ、著作権法による規制範囲が広がることにより利益を受ける業界団体の側の人間です。このような人物をワーキングチームに加えるのが文化審議会の公平性・公正性の理念に合致するのか疑問があります。

 他方、この中間まとめが作成されるに至る過程で、その提言に基づく立法がなされれば不利益を受ける側の人々(たとえば、「マジコン」の製造・流通に関与している事業者等)からのヒヤリング等は全くなされていません。

 このようなアンバランスな体制で審議を行えば、今回の中間まとめのような、とにかく必要性や許容性などさして配慮せず、とにかく新規規制を行うのだという答申ができあがるのは無理もないところです。しかしそれは、文化審議会、ひいては、政府に対する信頼を失わせるものであります(一部の業界団体の声のみを聞き入れる政府に国民が満足する時代はとうに終わっていることに、文化庁はいい加減気がつくべきです。)。

 つきましては、今後は、その提言する法改正によって不利益を被る側のヒヤリングをも行い、それを最終的な答申に反映させることを望んでやみません。

Posted by 小倉秀夫 at 09:24 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/06/2011

文化審議会パブコメ第1弾

 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会「技術的保護手段に関する中間まとめ」に関する意見募集について、さきほど、下記のとおり私なりの意見を送信しました。

第2章 14頁


ニンテンドーDSに用いられている保護技術は、任天堂が供給する記録媒体に記録されたコンテンツのみを実行可能とするものです。任天堂が供給する記録媒体以外の記録媒体に記録されているコンテンツについては、その著作権者等が自ら又は第三者に許諾して送信可能化しているものであっても、その実行を制限するものです。しかも、自社が開発したコンテンツを任天堂が供給する記録媒体に記録することができるのは任天堂の工場のみであり、報道等によれば数千個というロットで発注することを余儀なくされ、その代金は前金で支払うことが求められるとされており、数百万円単位を予め支払わなければ自社コンテンツを上記記録媒体に記録して販売することは叶いません。さらにいえば、それだけの資金を工面して自社コンテンツを上記記録媒体に記録するように任天堂に申し入れても、この申し入れに応ずるか否かは任天堂の胸三寸で決まるのであり、また、そのコンテンツがヒットしたときに、いつまでに、何個追加生産するのかも、任天堂の了承無くしては決定できません。

 このため、アマチュアプログラマーが開発したコンテンツ、プロのプログラマーが会社等の業務とは別に趣味で開発したコンテンツ、あるいは、零細のソフトハウス等が開発したコンテンツ等(以下、「自主制作ソフト」といいます。)については、任天堂が供給する記録媒体に記録する術が事実上存在しないため、インターネット上で無償で送信可能化したり、これを記録したminiSD等を「同人系ショップ」等で販売するなどした上で、利用者の側でニンテンドーDSに「マジコン」をセットしてこれを実行してもらっているというのが実情です。

 これまで我が国では、ある機器等で稼働するコンテンツを制作し、販売等をするにあたって、当該機器の開発・製造会社の許諾を要しないものとされてきました。その考え方が今後も維持されるのであれば、自主制作ソフトは「非正規のゲーム」にはあたらないのではないかと思います。法制問題小委員会は、この考え方自体を改めたのでしょうか?

 それはともかく、この保護技術が社会的にどのように「機能」しているかといえば、次のとおりです。

 エンドユーザーとの関係でいえば、メーカーを通じて、任天堂が供給する記憶媒体を1コンテンツに付き1枚購入することを義務づけるものとして機能しています。そのコンテンツが「違法に複製され、さらに違法にアップロードされたゲームソフトを単にダウンロードしただけ」のものか、著作権者の許諾を得て複製され、アップロードされ、ダウンロードされたものであるか否かは、ここでは全く関係がありません。

 コンテンツ提供者との関係でいえば、この保護技術は、適法に複製され、適法にアップロードされた自社コンテンツを、単にダウンロードするだけでは、これをエンドユーザーが記録した記録媒体にはゲーム機本体にあるセキュリティに適合する信号が記録されていないため、結果としてゲーム機で使用することのできない、意味のない不完全な複製とすることにより、アップロードの際に行われる適法な自社コンテンツの複製を抑止する技術だということになります。すなわち、これは、コンテンツの流通を妨げる技術だということです。

 したがって、仮にこのような技術を技術的保護手段の対象として位置づけるのであれば、コンテンツ提供者が自らまたはその許諾を得て自社コンテンツをアップロードすることを抑止しないものであることを要件に含めるべきだと思います。具体的には、任天堂が供給する記憶媒体の複製不可能領域に記録されている信号が記録されていない場合にはコンテンツの稼働が中断するような仕組みをゲーム機本体ではなくコンテンツの中に組み入れるなどすれば、その実現は容易です。

 コンテンツは表現物であり、その創作、頒布等は表現行為として、憲法第21条により手厚く保障されるべきものです。そのような表現行為が、現在、ゲーム機器本体の開発・製造者によって踏みにじられています。本来であれば、文化審議会は、そのような表現行為に対する妨害行為をやめるように任天堂に対し行政指導等をする立場にいるとすらいえます。しかるに、今回の中間まとめでは、むしろ、表現行為に対する妨害行為を側面から支援するような法改正が提言されています。多様な作品を世に送り出し公衆に享受させることにより文化の発展を図ろうとする著作権法の究極目的からすれば、本末転倒とすらいうべきものです。

 文化審議会におかれましては、巨大な資本に迎合したいという誘惑に打ち勝ち、コンテンツの多様性を確保するための施策を打ち出して行かれますよう期待しております。


第2章 10頁


中間まとめは、概ね次のように提言しています。

現行のように保護技術の「技術」のみに着目して、コピーコントロール「技術」か否かを評価するのではなく、後述するように、ライセンス契約等の実態も含めて、当該技術が社会的にどのような機能を果たしているのかとの観点から保護技術を改めて評価し、複製等の支分権の対象となる行為を技術的に制限する「機能」を有する保護技術については、著作権法の規制対象とすることが適当であると考える。

 しかし、「当該技術が社会的にどのような機能を果たしているのかとの観点から保護技術を改めて評価し」た結果「複製等の支分権の対象となる行為を技術的に制限する「機能」を有する保護技術」とされることになる技術とは、結局のところ、「複製等の支分権の対象となる行為が行われた結果利用者の手元に届いたデータからは著作物等を再生できないこととする技術」を指している過ぎないようにも見えます。そうであるならば、不正競争防止法上の技術的制限手段の回避装置の流通規制とは別個に、著作権法でこれを保護する必然性を見いだすことができません。

 また、中間まとめでは、技術的保護手段の対象として位置づけることが適当であるとされている「エラー惹起型」技術の例として、「コピーコントロールCD」が挙げられています(13頁)。しかし、これは、PCでの音楽データの読み取りを妨害する技術であり、支分権の対象ではない「公衆に直接聞かせる目的なき音楽の演奏」をも妨害するものであり、有り体に言えば、著作物の再生に用いる機器の種類をコントロールしようとする技術です。このようなものまで「中間まとめ」が「複製等の支分権の対象となる行為を技術的に制限する『機能』を有する保護技術」と位置づけていたとなると、今後開発されるである新技術のうちどのようなものが「複製等の支分権の対象となる行為を技術的に制限する『機能』を有する保護技術」に含まれるとされるのか、皆目見当がつかなくなります。

 さらにいえば、「コピーコントロールCD」は、機器メーカーの団体等と協議して定めた規格に則って異常動作を引き起こすような信号をコンテンツに混在させるのではなく、コンテンツ提供者の側で一方的にエラー惹起情報をコンテンツに混在させてエラーを惹起させるものです。このようなものまで「複製等の支分権の対象となる行為を技術的に制限する『機能』を有する保護技術」に含まれるとなると、機器メーカーとしては、特定の種類のエラー情報によって機器が正常に動作しないというクレームが寄せられたときに、これを是正して機器が正常に動作する仕組みを講じてよいものかどうか、コンテンツ提供者に確認しなければいけないということになります。これは、エラーに強い高機能な機器を開発して世界的な競争に打ち勝とうという機器メーカーにとって大きな足かせとなるおそれがあります。

 したがって、「中間まとめ」にて提言されているような法改正は、見送るべきだと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 08:35 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/22/2010

電子書籍に関する市場分割への対処

 電子書籍のもう一つの問題は、「著作物に関する地理的な市場分割」にどう対処するかということです。

 平たくいえば、送信要求をするIPアドレスあるいは利用者が決済用に使用するクレジットカードのビリングアドレスによって、特定の電子書籍をダウンロードできるか否かが決まっていることについて、どう対処するのかという問題です。

 既に、Barnes & Noble系のNook等は、基本的にUS onlyであり、Nook本体を並行輸入で入手しても、日本在住者は正規にコンテンツをダウンロードして読むことができません。今は、「電子書籍 Only」という書籍がほとんどないので、紙の書籍を並行輸入することで「そこに書かれている内容を知る」ことはできていますが、今後「電子書籍 Only」という書籍が増えていくと、日本にいては世界の最先端の議論に触れることすらできないという事態だって生じて来かねません。

 もちろん、お金に糸目を付けなければ、米国在住者に所定の電子書籍をダウンロードしてもらって、それが収蔵されている端末機器を購入するという方法も物理的にはとりうるのですが、著作権者の許諾を得た第一頒布がないだけに、「US Only」のコンテンツがインストールされた電子書籍が関税法第69条の12にいう「輸入してはならない貨物」(特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品)にあたってしまうのではないかという危惧があります。

 電子書籍が本格的に普及し、少なくない作品が「電子書籍 Only」で発行されるようになる前にこの問題って立法により解決される必要があるように思えてなりません。

Posted by 小倉秀夫 at 12:14 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/21/2010

電子書籍とプラットフォームの選択権

 昨日は、早稲田大学で行われたJASRAC公開講座「電子出版をめぐる著作権法上の課題」を聴講してきました。で、最後に質問もしました(後でツイッターで聞けばいいではないかという声はこの際無視です。)。

 質問の背景はこういうことです。

 電子書籍について、著者、出版社、利用者の3者関係で語られることが多く、実際今回の公開講座でもそうだったのですが、実務的には、プラットフォーマー(Kindleを出しているAmazon等)を含めた4者関係で考えないといけないのでは、という問題意識があります。そして、プラットフォーマーに関しては、通常の人は何種類もの端末を持ち歩かないでしょうから、必然的に寡占化します。それは、音楽配信サービスにおいてもビデオゲームについても見られる現象です。

 で、音楽配信サービスでは、特定のプラットフォーマーと特定のレコード会社が強い結びつきを持っていたことにより、そのレコード会社が隣接権を持っている楽曲についてはそのプラットフォーム用にしか配信サービスを行うことができないという事態が発生しました。つまり、実演家が、他のプラットフォーム向けにも自分の楽曲を配信したいと考えても、実演家にはプラットフォームを選択する自由がなかったわけです。

 このことは、電子書籍に関して、出版社に強い権限を与えると、同じように出現する可能性があります。出版社に送信可能化権を含む広い版面権を付与した場合や、出版権に送信可能化権を含めた場合もそうですし、利用許諾契約により送信可能化に関する独占的利用許諾(再許諾権を含む。)の設定を受けた場合もそうです。で、それでいいんだろうか、ということがひとつの問題です。作家としては、できるだけ多くの人に自分の作品を読んでもらいたいと考えるのが一般的であり、「特定のプラットフォームを市場で優位に置く」ために自己の作品の普及が犠牲になるというのは耐え難いのではないかということです。

 もう一つ、昨日は直接質問しなかったこととして、プラットフォーマーからその作品の配信を拒まれた場合をどう考えるのかという問題です。今は電子書籍は紙の書籍の補完でしかないので、それで大して困ることにはなりませんが、電子書籍がむしろ主流となり、紙の書籍はむしろマニアグッズになっていった場合、プラットフォーマーからその作品の配信を拒まれると、その作品を広く流通させる機会が大きく損なわれることになります。すると、そこでは、プラットフォーマーは、緩やかながらも、事実上の検閲を行いうるということになるが、それでよいのかということです。「検知→可能型」のアクセス制御を法的に保護するということは、プラットフォーマーによるコンテンツ支配を許すということになるのです。そして、その弊害は、電子書籍において「検知→可能型」のアクセス制御がなされるときに最も大きくなります。

 前者の問題は契約でクリア可能ですが(でも、実際にはそんなところに最初から気を配れる作家ってほとんどいないのでは?)、後者は契約ではクリアできないので、立法的な対処をしておくべきなのでは?ということです。

Posted by 小倉秀夫 at 01:01 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

10/26/2010

講談社の電子書籍に関する契約雛形

 池田信夫さんが、講談社の電子書籍に関する契約雛形に関し、次のようなことを言っています。

最大の問題は、上の第3条と第4条の講談社がデジタル化権を著者から奪って独占するという規定である。したがって他の出版社から電子出版したいという話があっても、著者は出すことができない。しかも講談社は、この本を電子出版すると約束していないので、彼らが出さないかぎりどこの電子書店でも売れない。

 でも、この種の契約書の作成を弁護士が受注したら、100人が100人その旨の条項を入れるのではないかと思います。日本法では、書籍を電子化した事業者に対して、版面権等の排他権を付与していないので、電子書籍化に伴い行った投下資本を回収する機会を維持するためには、契約で縛りを掛ける必要があるからです。

 それに、紙の書籍だって、同じ作品について、同一スタイルの書籍を同時に他の出版社から出版されて黙ってはいないと思うのですけどね(文庫本を出すときに出版社を変えるということはあるかもしれませんが、ハードカバーと文庫は市場的には別物ですから。)。

 さらにいうと、講談社が「所有権」を持つと記載されている「デジタル化の過程で発生した本デジタルコンテンツ」というのは、元の書籍をデジタル化した上で、電子書籍の規格にあわせて、読みやすいように適宜タグを埋め込んだデジタルデータのことを言っているように思われます。だとしたら、「所有権」という用語を使ったことは勇み足だとしても、そのデジタルデータに一種の独占権が自分のところにあるのだと契約書上で謳い上げるのは、それほど不思議なことではありません(まあ、謳い上げたからって、契約当事者ではない者にそこまでそれが通用するかという問題はありますが、謳い上げておかないと積極的債権侵害という議論もしにくいですし。)。

 ちなみに、英米法で言う「property」に近い概念として「所有権」という言葉を使う契約書(案)というのは、現実には結構見かけますので、日本法に基づく契約書としては適切さを欠くとは思いますが、まあ、よくある話といったところでしょう。

 で、「講談社は、この本を電子出版すると約束していないので、彼らが出さないかぎりどこの電子書店でも売れない」かどうかですが、それは、この条項だけ見てもわからないです。さらにいえば、契約期間が何年とされていて、著作者の側から更新拒絶ができるように成っているかにも大きくよってきます。これが短いと、作者の意に反して電子書籍の出版を講談社が拒んだ場合、契約の更新を拒絶されてしまうので、講談社が囲い込むだけ囲い込んでおいて電子書籍を出させないとすることは難しくなります。

 もちろん、更新期間の到来を待てない著作者は、電子書籍の出版時期・流通プラットフォームの選択等について、自らが主導権を握れるような条項を挿入するように、署名する前に要求すればよいだけの話です。出版社と著者の契約なんて、保険約款等と異なり、適宜修正が可能です。

 講談社とは敵対することはあっても仕事を依頼されることはないので肩をもつ筋合いはないのですが、あまりにもあまりにもだったので、言及してみました。

Posted by 小倉秀夫 at 08:28 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

10/19/2010

マジコン規制は、タガタメだ。

 マジコン規制の可否を巡る議論を見ていると、マジコンにより回避される制限手段が誰による誰のためのものかという点に関する誤解が多いように感じられます。

 不正競争防止法第2条第1項第10号制定時に想定されていた制限手段は、各コンテンツの販売元に、アクセス制御を付するか否か、付するとすればどのようなものにするかについての選択権があるものでした。このころの議論は、コンテンツの販売元が媒体にアクセス制御のために記録した信号に反応する機能を再生機器に付する義務が機器メーカーにあるのかという話でした。

 しかし、マジコン論争のもとにあるDSの制限手段は違います。

 任天堂側が用意した特定の信号が媒体に記録されていなければDS上でプログラムが正常に稼働しないわけですから、アクセス制御を付するか否かについて、コンテンツの販売元に選択権はありません。むしろ、コンテンツの販売元は、そのプログラムがDS上で稼働するようにするために、任天堂に「ライセンス料」を支払うことすら余儀なくされています。

 すなわち、マジコンにより回避される制限手段は、任天堂等の再生機器メーカーによる、再生機器メーカーのためのもの、ということになります。

 だから、コンテンツの開発者・販売元のためにマジコンの製造・販売を規制するというスタンスを取るのであれば、アクセス制御を付さずにその再生機器上でコンテンツを再生・稼働できるようにするという選択肢をコンテンツの開発者・販売元に与えるような仕組みを採用することをマジコン規制の条件とする必要があるし、「検知→稼働」という反応を引き起こす信号等を付与するにあたって「ライセンス料」その他の名目で対価を徴収することを禁止したり、適・違法の審査を超えて、どのコンテンツに上記信号等を付与するか否かを判断する権限を再生機器メーカーから奪う必要があります。

 さもなくば、今度の法改正で狙っているのは、プラットフォーマーのコンテンツ流通への支配強化だ、と正しく国民に説明すべきだと思います。

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10/18/2010

メディアは「マジコン」について正確に報じない。

 産経新聞によれば、

 海賊版のゲームソフトをインターネットでダウンロードして遊べるようにする機器(回避機器)について、文化庁は製造・販売やサービスの提供などを規制するため、刑事罰の導入を盛り込んだ著作権法の改正案を今年度中にまとめる方針を固めた。早ければ来年の通常国会に提出する見通し。アジアや欧米各国では、携帯ゲーム機向けの「マジコン」と呼ばれる機器が多数出回り、国内でも被害が深刻化しており、歯止めをかけるのが狙いだ。

とのことです。

 そのことの当否もさることながら、新たな規制のターゲットとなる「マジコン」について正しい理解をしようともしないマスメディアの体質にはうんざりします。

 産経新聞は、上記のように、「マジコン」を、「海賊版のゲームソフトをインターネットでダウンロードして遊べるようにする機器(回避機器)」と表現した他、同じウェブページにおいて、「ゲーム機本体には、違法にダウンロードした海賊版ソフトを正常に起動させないアクセスコントロール機能がついているが、マジコンを使えば、誰でも簡単に制御機能を無効にすることができる。」と説明しています。

 しかし、これは誤りです。DSについているアクセスコントロールは、適法にダウンロードしたフリーウェア/シェアフェア系のゲームソフトすら正常に起動させないものです。より正確に言えば、任天堂がデータを焼き付けた媒体に収蔵されているソフト以外のソフトを正常に起動させないものです。

 従って、「マジコン」の流通を禁止するということは、任天堂を経由しないゲームソフトのDS上での稼働を禁止するということとほぼ同義です。産経新聞の上記記事を読んで、そのことに気がつく読者って、ほとんどいないのではないでしょうか。これを「ミスリーディング」といわずに何をミスリーディングというのでしょう。

 もちろん、産経新聞の名誉のためにいうと、「家庭用ゲーム機のソフトウエアの不正コピーに使われる「マジコン」と呼ばれる機器の取り締まりを強化するため、技術的保護手段の回避規制の強化について検討を開始」と報じた日経BP社よりはまだましですよ。「マジコン」には、コピー機能はありませんから。

 また、日経BPの上記記事は、「規制対象の機器が技術的保護手段の回避機能のみを備えたものに限られるという、いわゆる“のみ要件”から逃れるため、音楽・映像の再生機能を名目上加えたり、機器販売時には技術的保護手段の回避機能を搭載せず、別途インターネット上でファームウエアを配布したりしている」とも説明しています。

 しかし、第1次マジコン訴訟の判決文を読めば、争点は、DS用に開発し、開発者が自らの意思でオンライン上にアップロードしたフリーウェア系のプログラム(自主製作ソフト、Home Brew、インディーズ系ソフト)を稼働させる用途にも用いられるのに、「のみ」要件を具備すると言えるのかという点にあったことは明らかです。「音楽・映像の再生機能」が名目上加わっているから「のみ」要件を具備していないのだ、などという主張はなされていません。

 日経BPの上記記事を読んだ人は、「不正コピーされたゲームソフトが起動しないようプロテクト」を解除する機器を販売している業者が、「音楽・映像の再生機能を名目上加え」ただけで、「のみ」要件を具備していないではないかと抵抗しているかのように誤読してしまうのではないかと心配してしまいます。そして、国会議員やその支持者たちがそのように誤解してしまうと、それがどういう影響を社会に与えるのかを正確に理解することなく、「“のみ要件”を見直し、対象機器を柔軟に解釈できるようにする」法改正に賛同してしまう危険を生じさせます。

 「マジコン」の製造・販売等を刑事罰をもって禁止するというのであれば、それは、特定の電子端末の開発者が、その端末上で稼働するコンテンツを支配することを、刑事罰をもって保護することを意味するが、それでよいのか、ということを、正確に国民に問いかけるべきだと思います。マジコンの禁止がそのようなものであることを正しく理解すれば、マジコンの禁止と引き替えに、あらゆるコンテンツについて、その開発者から申請があったときは、その電子端末上で稼働するような措置を無償で施す義務を当該電子端末の開発者に課す等することだってできるわけです。しかし、国会議員を含めた多くの国民が、「マジコン」を禁止することによって稼働しなくなるのが「違法にダウンロードされたコンテンツ」だけだと勘違いしている現状では、そんな話すら出てくる余地がないように思われます。

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10/16/2010

ゼミ選抜レポート FOR 2011

 今年も、来年度に向けてゼミ員選抜を行う季節となりました。

 この数年は、レポート&面接で選抜しており(なお、面接は、現3年生の意見重視)、著作権法という科目の性質上、アート方面に関心がある人と、IT系に関心がある人とが併存するので、最近は課題を2つ出し、どちらかを選択するようにしています。

 で、今年のレポートの課題は下記の通りです。


【レポートテーマ】下記のテーマのうち一つを選んで下さい。

(テーマ①) 日本のミュージシャンを一人(一組)北米に進出させる密命を受けたとします。あなたなら誰を進出させますか。そして、ファーストシングル、セカンドシングルとして何を選択しますか(他人の楽曲を新たにカバーさせてもよい。)。その理由も述べてください。

(テーマ②) 現在の電子書籍に足りない機能的要素は何でしょうか。

【書式・枚数】 A4で4枚まで。

Posted by 小倉秀夫 at 10:40 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

09/08/2010

優越的地位の濫用を保護するための著作権法の改正

 文化審議会は、「マジコン」の規制強化目指し著作権法改正の検討を集中的に行うこととした旨が報じられています

 また、一部権利者たちの意見しか聴かずに立法してしまうのかと、手続面でもううんざりしてしまいます。

 リンク先の記事を見ても、マジコンって、インターネットなどから入手したゲームソフトの不正コピー版だけでなく、ゲームソフトの開発者自身がインターネットなどを通じて無償で配布している正規版の起動をも可能とするものであることが全く無視されています。そして、マジコン規制を強化すると、あるプラットフォームで起動するコンテンツを市場にリリースするにあたっては、そのプラットフォームの開発者が高額の上納金を徴収する(あるいは、そのプラットフォーム開発者自身がリリースしているソフトウェアと市場において競合するプログラムをリリースさせない)という、プラットフォームの開発者による不公正な活動を法的に擁護することになってしまうという視点は、全くそこに含まれていません。

 マジコン規制が不公正な競争制限や優越的地位の濫用に活用されないようにするためには、各プログラムの著作権者がアクセス制限を望まない場合にはアクセス制限なしにそのプログラムをリリースする環境が現実に整備されていることを、「検知→起動」型のアクセス制限を法的に保護するための要件とするとともに、そのプラットフォーム上でプログラムを起動できるようにすることの対価をプラットフォームの開発者がソフトハウス等から徴収することを禁止することが不可欠です。「不正コピーされたゲームソフトが起動しないようプロテクトを設け」ることが規制の主眼であるならば、それで何の問題もないはずです。

 技術的保護手段ワーキングチームの座長である土肥一史教授は存じあげていないわけではないのでお手紙等を差し上げることはできるとは思うのですが、文化庁は知っていてそういうことを無視する報告書を創り上げて、プラットフォーマーのための著作権法改正に邁進するのではないかとの疑念が頭をよぎる今日この頃です。

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08/10/2010

「音楽CDが売れなくなったのは違法アップロードの影響が大きい」とレコード会社が未だに考えていることの衝撃。

 J-CASTの「音楽ファイルを違法アップ 個人に540万円支払い判決の衝撃」という記事によれば、

大手レコード会社幹部は、音楽CDが売れなくなったのは違法アップロードの影響が大きく、業界全体の売上げの10%近くに影響を及ぼしている、と考えている。

とのことです。しかし、P2Pファイル共有等により音楽ファイルが違法アップ/ダウンロードされるということが普及していなかった時代よりも広く普及するようになってからの方がCD等の売上げが落ちた要因の一角を違法アップ/ダウンロードに置くことの当否はともかくとして、P2Pファイル共有等により音楽ファイルが違法アップ/ダウンロードされるということが定着した以降もCDの売上げが落ち続けている要因を違法アップ/ダウンロードに置くのは的を射ていないというべきでしょう。

 音楽業界はむしろ「違法アップ/ダウンロード」に直接影響されない指標との比較でCDの売上げが落ち続けている要因を考えてみるべきではないかと思ったりします。

 例えば、オリコンのカラオケ週間ランキングを見ると、1位 坂本冬美「また君に恋してる」、2位 西野カナ「会いたくて 会いたくて」、3位 GReeeeN「キセキ」、4位 高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」、5位 AKB48「ポニーテールとシュシュ」、6位 一青窈「ハナミズキ」、7位 西野カナ「Best Friend」、8位 MONGOL800「小さな恋のうた」、9位 ヒルクライム「春夏秋冬」って感じで、ここまで今年の歌って西野カナとAKB48しか入っていないわけで、今年の新曲って、違法ダウンロード以前に、そもそも大衆に受け入れられていないとみるべきなのではないかなあっていう気がしてなりません。ミリオンセラーが続出した90年代って、みんなこぞってカラオケボックスで新曲を歌っていたわけで、だからこそ新譜を買ったわけだけど、こんな風に新曲が歌われもしないのであれば、P2Pがあろうとなかろうと新譜なんて買ってもらえないよなあと正直思ってしまいます。

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08/09/2010

試行運用終了後のプログラムの継続利用

 大学生、法科大学院生もまた夏休みでしょうから、事例問題を出してみることにします。興味がある方は考えてみてください。



【設例】

 大手電気通信会社であるYは、カード情報管理会社Zと提携して、TCP/IPを用いたクレジットカード認証システムを構築することを予定していた。しかし、TCP/IP用の認証プログラムを作成することができなかった。そこで、Yは、TCP/IP用の認証プログラム「甲」について著作権を有しているXに、正式採用した場合にはX社からクレジットカードの認証端末を購入するので、甲を試行運用させて欲しいと申し向けた。この説明を信じたXは、一時的な試行運用に供する目的で、YがAに委託して調達したサーバコンピュータ「乙」にプログラム「甲」をインストールし、Yが管理するデータセンターにこれを設置した。

 Yは、程なくしてサーバコンピュータ「乙」をZに譲渡してその運用を任せるとともに、Zと提携して、Xに無断で、プログラム「甲」を用いたクレジットカード認証システムを正式に運用し始めた。

 その後、Yは、Xに対して、「Yは、プログラム「甲」は正式に採用しないことにした」と通告し、認証端末をXから購入しない意思を明らかにした。そこで、Xは、Yに対し、プログラム「甲」のインストールされたサーバコンピュータ「乙」の引渡しまたは破壊を要求したが、Yはこれを拒み、Zとともに、サーバコンピュータ「乙」にインストールされたプログラム「甲」を用いてクレジットカード認証業務を継続した。

 Xは、Y及びZに対し、いかなる請求を行うことができるか。



 まあ、現実の著作権紛争を単純化すると、こんなものです。

Posted by 小倉秀夫 at 04:42 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

07/31/2010

その事実を知っているか否かは「その事実を知りながら」複製したか否かに関係がない。

 大阪大学の茶園成樹教授がジュリスト1405号85頁以下に「違法配信からの録音・録画」という論文を発表されています。

 その前におさらいをしておくと、平成22年1月1日施行の著作権法第30条第1項第3号では、

著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

については、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的として、その使用者が行う複製であっても、複製権侵害とすることとされました。

 ここでいう「その事実を知りながら」とはどういうことをいうのかという点に関しては、具体的な法案の文言が明らかになって以降論争となっていました。

 この点に関し、茶園教授は、上記論文の中で、

一般人が有する通常の知識から、自動公衆送信が著作権を侵害するものであることを高度の蓋然性をもって認識することができる場合には、「その事実を知りながら」の要件を満たすと解されるべきであると思われる。

とされています。具体的には、

現在、ヒットチャートの上位にランクインしており有料で提供されている楽曲や映画館において有料で上映されている映画が無料で自動公衆送信されている場合、一般人が有する通常の知識によれば、その自動公衆送信が著作権を侵害しないものである可能性はほとんどないと考えることができるため、この要件を満たすと判断されよう。

とされています。

 しかし、起草担当者ががわざわざ「その事実を知りながら」という文言を用いることで反対論者の唱える危惧(違法にアップロードされたものかどうか解らないではないか!)を抑えこもうとしたのに、「その事実を知りながら」という文言を、いわば重過失まで含むものとアクロバチックに読み込んで、反対論者からの危惧を現実化しようというのはいかがものかなあと首をかしげざるを得ません。裁判所が想定する「一般人」が有する通常の知識を備えていなければ──それはネット上ではどういうものが違法コンテンツとして流通しているのかについて絶えず「一般人」並みの情報を仕入れていなければ、違法行為を行ったものとして糾弾されてしまうことを意味しかねません。そのような法制度を採用するのであれば、「その事実を知りながら」という故意犯限定の文言等使うべきではなく、立法段階で、「ネット社会に関する情報に疎い奴はガンガン摘発してやるぜ」という宣言を法案推進者はすべきであったというべきでしょう。

Posted by 小倉秀夫 at 12:38 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

06/05/2010

iTunesクラウド

 iTunesのクラウド化なんて話が世の中にはあるようです。iTunes用の音楽データをノートパソコンに保管するとHDDが一杯になってしまうので、高速無線LANが確保されている場所で生活する限りにおいては、便利そうです。

 ただ、Appleがそういうサービスを開始するとしても、日本だけは爪弾きにされる可能性があります。日本には、悪名高き「カラオケ法理」があるからです。

 クラウド用のサーバコンピュータはApple社が管理支配しているのでしょうし、データの作成、アップロード、ダウンロード、再生に用いるソフトウェア(iTunes)もまたApple社が独自に開発し、提供するわけですし、もちろん、Apple社はそのクラウドを営利目的で提供するのでしょうから、MYUTA事件地裁判決の論理に従えば、著作権法の規律の観点からは、楽曲データをクラウドサーバに複製し、また、クラウドサーバからクライアントコンピュータに送信する主体はApple社だということになりそうです。すると、ユーザーが自分のiPhone等に転送する目的でiTunesクラウドにデータを蔵置したに過ぎないとしても、私的使用目的の抗弁は適用されないということになります。また、クラウドサーバからユーザーのiPhone、iPadに音楽データを転送する行為は、Apple社による自動公衆送信ということになります。そして、私的使用目的であっても、違法に送信可能化されている音楽ファイルをダウンロードして自己の所有する媒体に保存することは平成22年改正により違法とされましたから、iTunesクラウドから自分のiPhone等にデータを転送する行為は複製権侵害ということになります。

 もちろん、iTunesクラウドを開始する段階では、iTunes Storeから購入した音楽データに付いては、iTuneクラウドにこれを保存し、iTunesクラウドからiPhone等にデータを転送する行為についてまでは必要な権利処理を行うのだと思うのですが、問題は、iTunesクラウドサービス以前にiTunes Storeから購入した楽曲データ並びにユーザーがCD等からリッピングしてPC上に保存していた楽曲データです。特に、後者について、各著作権者、隣接権者から、もれなく許諾をとるというのは至難の業です。

 日本が世界に取り残されないためには、カラオケ法理の早期廃止が望まれる所以です。

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05/24/2010

研究等の目的による書籍スキャンと私的使用目的複製の抗弁

 研究や業務で使用する目的で、購入した書籍を自ら裁断し自ら所有するスキャナでScanするということが、しばしば行われています。これは著作権法上問題があるでしょうか。

 まず、書籍等をScanし、デジタルデータとしてハードディスクに保存する行為は、その書籍等に掲載されている文章や絵画等をパソコン等で再生することを可能としますので、「複製」にあたることは疑いの余地がありません(もとの書籍等が裁断され、使い物にならなくてもダメです>弾さん。)。

 そこで、検討すべき課題は、このような「複製」は、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的として、「その使用する者」が行う複製と言えるかどうかということです。いえる場合には、著作権法第30条第1項により、この複製は、著作権者の同意なくして行われたとしても、適法となります。

 まあ、「BOOKSCAN」サービスは異なり、書籍等の購入者が自ら使用する目的で自ら書籍を裁断し、自ら所有するスキャナでScanする場合、「その使用する者」が行う複製と言いうる点は疑問の余地がないように思います(業者が所有し、有償で公衆に提供しているスキャナが用いられる場合、カラオケ法理との関係で、「著作権法の規律の観点」から見て誰が複製をしていることにされるのかよく分からないのですが。)。

 すると、問題は、このような複製は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的としてなされていると見ることができるのかということになります。

 この点につき、現行著作権法の起草を担当された加戸守行氏の「著作権法逐条講義[五訂新版]」では、

『これに準ずる限られた範囲内』といいますのは、複製をする者の属するグループのメンバー相互間に強い個人的結合関係のあることが必要で」あり、「会社等における内部的利用のための複製行為は、よく問題となりますけれども、著作権法上の『家庭内に準ずる限られた範囲内』での使用には該当いたしません

と説明されています(225頁〜226頁)。ここで注意すべきは、起草者の説明では、あくまで、作成した複製物を複数人で使用する場合に、その複数人の間にどのような関係がある場合に、「これに準ずる限られた範囲内」といえるのかが問題とされているに過ぎないということです。作成した複製物を作成者のみが使用することが予定されている場合に、作成者の主観如何で「個人的に」使用する目的とはいえない云々という話は出てきていないということです。むしろ、会社の社長が秘書にコピーをとってもらうというのは、社長がコピーをとっているという法律上の評価をするわけでありますとの説明が加戸・前掲227頁でなされていることを考えると、会社の業務に資するための複製であっても、それが複数人間で使用されることを目的としていないものである場合には、なお、「個人的に」使用する目的での複製であるとして30条1項が適用されるものと起草者は考えていたのではないかと思われます(社長が秘書に命ずるのは、通常、会社の業務に役立てるために情報を収集し、把握するために行うコピーでしょ?)。著作権法制定時、安達健二文化庁次長(当時)は、昭和45年4月8日の衆議院文教委員会で、

「個人的に」というのは「一人で」ということになります。

と答弁しており、間接的にも営利目的に繋がらない云々ということまでこの文言に意味を込めていなかったことは明らかです注1

 この分野で唯一の下級審判決である東京地判昭和52年7月22日判タ91号132頁も、

企業その他の団体において、内部的に業務上利用するために著作物を複製する行為は、その目的が個人的な使用にあるとはいえず、かつ家庭内に準ずる限られた範囲内における使用にあるとはいえない

と判示しているに過ぎず、個人が業務上利用するために著作物を複製する行為が私的使用目的の複製にあたるかどうかには言及されていません。

 実際、研究や会社の業務に間接的に利用するためとはいえ、このような零細な利用について事前にその著作権者にコンタクトをとって許諾を得ることを求めるのは、それによって通常得られる利益に比してコストがかかりすぎることには変わりありませんから、これを30条1項の適用対象外としてしまうと、研究等のために広く情報を収集するという行為を著作権法が阻害することになってしまいます。それは、文化の発展に寄与することを究極目的とする著作権の立法趣旨に却って反します。

 しかし、文化庁は、昭和51年に発表した「著作権審議会第4小委員会(複写複製関係)報告書」において、

第1に使用の目的であるが、個人的な立場において又は私的な場である家庭内若しくはこれと同一視し得る閉鎖的な範囲(例えば親密な少数の友人間)内において使用するための著作物の複製(Personal use又はDomestic useのための複製)を許容したものであり、例えば、企業その他の団体内において従業員が業務上利用するため著作物を複製する場合には、仮に従業員のみが利用する場合であっても、許容されるものではない。

等と言い始めます。そして、研究者もこれに追随します。例えば、作花文雄「詳解著作権法[第3版]」318頁は、『個人的』な利用の意味するものは多義的であるが、立法趣旨としては本条で複製された当該複製物を個人の趣味や教養のために使用することが想定されているものと思われる。その複製物の使用目的が、職業や何らかの事業に結びつく場合には、基本的に個人的とは言わない

と説明します。しかし、少なくとも立法当時の国会での議論を見る限り、立法趣旨がそのようなものであるといえる根拠はないようです。

 このように考えていくと、自己の研究や業務に活かす意図に基づくとはいえ、Scanしたデータを自分だけで閲覧する目的で、購入した書籍を自ら裁断し自ら所有するスキャナでScanする行為は、「個人的に」使用することを目的としているが故に、30条1項の適用を受ける(すなわち、著作権侵害とはならない)と解するのが適切だし、それは、起草担当者の意思や、過去の下級審裁判例とも抵触しないといいうるように思います。


注1このとき、安達次長は、たとえば三、四人程度のごく少人数の友人で組織する音楽の同好会というようなものが、その楽譜を印刷してお互いに歌うというような、そういう家庭に準ずるような、家庭といっても大体大きさというものがあるわけであります、それに準ずるような小グループの中で――これは家庭ではないけれども、家庭くらいの人数の小グループの範囲内というような意味で「これに準ずる限られた範囲内」、こういうように表現した次第でございます。と答弁しており、ここではグループの人数のみが問題とされています。「グループのメンバー相互間に強い個人的結合関係がある場合」でなければ云々という話にはなっていません。

Posted by 小倉秀夫 at 07:35 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/23/2010

FairUse規定のある国とない国の違い

 昨日は、著作権法学会の研究大会に出席し、懇親会にも出てきました。

 しかし、未だにFairUse規定など必要ないという専門家もいるのだなあということが驚きです。FairUseがあるとないとでどういう違いが生ずるのか、理解できていないのかもしれません。

 事業家が新しいビジネスモデルを思いついたが、それは第三者の著作権等と形式的に抵触する可能性が高い場合を考えてみると、よくわかると思うのです。

 FairUse規定があれば、そのビジネスモデルをまず実施した上で、その過程で行われる著作物等の利用が「Fair」であることを著作権者等に向けて説得し、説得に失敗し訴訟を提起されたときは裁判所に向けてそれが「Fair」であることを主張することができます。

 そして、その過程では、第三者の著作権等との折り合いをつけるために、ビジネスモデルなりそれを実現するためのソフトウェア等を微妙に修正していったりすることができますし、著作権者等に著作物利用料(相当金)を支払うための原資を、営業利益または増資によって確保することも可能です。

 しかし、FairUse規定がないとこうはいきません。

 このビジネスモデルを正当化する個別の権利制限規定が新設される前に、そのビジネスモデルを先行実施すると、ほぼ確実に敗訴することになります。従って、FairUse規定がある国の企業がそのビジネスモデルを先行実施し、デファクトスタンダードを築き上げている間、FairUse規定がない国の企業は手を拱いてみているしかありません。このため、個別の権利制限規定が新設され、そのビジネスモデルを国内で実施することが可能となったころには、海外でデファクトスタンダードを築き上げた企業が国内に参入してきた場合に、これと太刀打するのが非常に困難となってしまいます。

 さらにいえば、新たなビジネスモデルをベンチャー企業や創造力のある学生等が考案したとしても、それを正当化する個別の権利制限規定を創設するように文化庁や国会議員に対してロビー活動を行う資金的余裕はないし、人的なコネクションもないのが普通です。そもそも、まだ実施されていない新たなビジネスモデルを実施可能とするために個別の権利制限規定を創設しようということに、文化庁や国会議員が賛同してくれるのか、冷静に考えると疑問です。結局、FairUse規定がある国の企業がそのビジネスモデルを実施して普及させた後に、これを国内でも実施することが可能とする権利制限規定が創設されるのが関の山といったところでしょう。

 FairUse規定をこのまま設けずにいると、FairUse規定がある国の企業にこれからも先行者利益を攫われ続けるというお話でした。

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04/11/2010

情報に国境を作らない工夫

 既に米国ではiPadが発売され、Amazon社のKindleとともに、電子書籍の普及を後押ししていくことでしょう。
 ただ、そうなっていくと一つ心配しなければならないことが出てきます。音楽・映像の世界で既に生じている「国境での情報の遮断」がテキストの世界でも生
じてしまいかねないということです。

 従来の書籍であれば、日本国外でのみ出版された書籍であっても、最悪並行輸入をすれば、日本国在住者でもこれを閲読することができます。しかし、オンラ
イン配信で提供される電子書籍においては、日本がその配信対象区域から外れるものについては、誰かが現行の著作権を侵害することなくして日本国在住者がこ
れを閲読することができなくなります。電子書籍が紙の書籍の補完物である間は「電子書籍が入手できなければ紙の書籍を読めばいいではないか」ということは
可能なのですが、今後出版コストの安い電子書籍オンリーの著書・論文等が増えてきた場合には、「知らぬは日本ばかりなり」ということが増えていく危険があ
ります。

 著作権者の投下資本回収可能性を損なう可能性の乏しい著作物の利用をフェアユースとして禁止権の対象から外す広範なフェアユース規定を設けていただける
のであれば、日本国を配信対象区域から除外する電子書籍オンリーの作品については著作権者の許可無くオンラインで日本国内に転送する行為を禁止できないと
することはできなくもないのかもしれませんが、どうもそういう広範なフェアユース規定は新設していただけそうにありません。

 そうであるならば、文化庁なり学術系諸団体なりは、アップル社やアマゾン社等に対し、電子書籍の配信対象区域を限定しないように、少なくとも諸外国で発行された電子書籍の配信対象区域から日本を除外しないように今から働きかけていくべきだということになります。

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04/07/2010

春の学会シーズン2010

 今年度の春の学会シーズンがもうじき始まりますが、出向くとすればこのくらいでしょうか(この全てに出るかはまだ決めていませんが。)。





















学会名 日付 場所
民事訴訟法学会 5月15日・16日 関西学院大学西宮上ヶ原キャンパス
著作権法学会 5月22日 一橋記念講堂
工業所有権法学会 6月13日 東北大学

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04/05/2010

著作権法ゼミの推奨教材(2010)

 今年度著作権法ゼミを受講される皆様へ

 そろそろゼミが始まりますので、一応教材についての案内をしておきます。

 まず、六法ですが、著作権法はどうしてもマイナー分野なので、通常の授業で使っている六法ではどうしても足りません。だから、知的財産権法用の六法を別途用意しておいた方がよいと思います。

 角田政芳編「知的財産権六法2010」(三省堂)なんかが使いやすいのではないかと思います。「知的財産権法文集平成22年1月1日施行版」(発明協会)も悪くはありません。そのようなものを買うお金が惜しいという人は、以下の法令をウェブで探して印刷し、バインダーにとじておくとよいでしょう(その際、ウェブブラウザーから直接印刷するよりは、テキストをコピー&ペーストでワープロソフトに移した上で、適宜書式を設定した上で、プリントアウトした方がよいと思います。)。


  1. 著作権法(附則を含む。)

  2. 著作権法施行令

  3. 著作権法施行規則

  4. 旧著作権法

  5. 著作権等管理事業法

  6. 著作権等管理事業法施行規則

  7. 万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律

  8. 連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律

  9. 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約

  10. 万国著作権条約

  11. 著作権に関する世界知的所有権機関条約(WIPO著作権条約)

  12. 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WIPO隣接権条約)

  13. 実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約

  14. 許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約

  15. 世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(とりわけ附属書一C)


 また、著作権法でも判例の学習は重要ですので、判例集はもっておいた方がよいと思います。

 「著作権判例百選(第4版)」(有斐閣)は改訂したばかりなので、収録判例も新しくてよいです。今のうちに古本屋さん等で「著作権判例百選(第3版)」(有斐閣)を入手して新旧2冊押さえておくのもよいでしょう。

 教科書についてですが、さっと読んで全体像を押さえておきたいということでしたら、島並良=上野達弘=横山久芳「著作権法入門」(有斐閣)がよいでしょう。もう少し重厚な本を読みたいということでしたら、中山信弘「著作権法」(有斐閣)がよいでしょう。田村善之「著作権法概説」(有斐閣)、作花文雄「詳解著作権法」(ぎょうせい)は、改訂版が出たら、買いだと思います。

 そのほか、参考書ですが、音楽著作権に特に興味がある人は、安藤和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス──基礎編3rd Edition」、同「よくわかる音楽著作権ビジネス──基礎編3rd Edition」(いずれもリットーミュージック)を読むとよいでしょう。論点ものとしては、牧野利秋=飯村敏明編「新・裁判実務体系(22)」(青林書院)がレベルが高いです。

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03/05/2010

著作権・フェアユースの最新動向

 このたび、私も参加していたフェアユースに関する研究会での討論内容が書籍になり出版される運びとなりました。

 私なりの立法提言などもさせていただいておりますので、日本版フェアユースにご関心をお持ちの方は、ご購入いただければ幸いです。

 「お前のような叱られるべき若造の発言など金を出してまで読んでいられるか」という向きもあろうかと思いますが、私以外の参加メンバーは下記のとおりとても立派な方々ばかりなので、そういわずにお求めいただければ幸いです。


委員長


泉 克幸 徳島大学 総合科学部教授

委員


上野達弘 立教大学 法学部准教授

小川憲久 弁護士(紀尾井坂テーミス法律特許事務所)

小倉秀夫 弁護士(東京平河法律事務所)

亀井正博 富士通㈱ 法務・知的財産権本部本部長代理

河野智子 ソニー㈱ スタンダード&パートナーシップ部著作権政策担当部長

駒田泰土 上智大学 法学部准教授

椙山敬士 弁護士(虎ノ門南法律事務所)

三木茂  弁護士(三木・吉田法律特許事務所)

水谷直樹 弁護士(水谷法律特許事務所)

三村量一 東京高等裁判所 判事(現・弁護士(長島・大野・常松法律事務所))

宮下佳之 弁護士(西村あさひ法律事務所)

吉田正夫 弁護士(三木・吉田法律特許事務所)

ゲスト


田村善之  北海道大学大学院 法学研究科教授

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02/14/2010

知的財産戦略の推進について

 先程、知的財産戦略本部に、「知的財産戦略の推進について」のパブリックコメントを提出しました。内容は下記の通りです。

  1.  インターネットラジオ・インターネットTV事業者も既存の放送事業者等と同じスタートラインでコンテンツ制作を行えるように、事前に許諾を得ずとも後に二次使用料を支払えば商用CD等に収録されている楽曲をBGM等で使用できるようにする。

  2.  「放送対象地域」という考え方をやめ、各放送事業者に対し、その制作した番組を、日本全国ないし全世界に配信するように、放送免許の剥奪をちらつかせてでも促す。インターネットを通じて情報が国境を超える時代に、放送コンテンツのみ、「放送対象地域」に情報が閉じ込められるのは不自然である。

  3. テレビ放送については、通信販売のために公共の電波を用いることを禁止し、テレビ局が独自の放送番組を容易出来ない放送枠については、放送枠をオークションにかけることを義務付ける。

  4.  芸人、芸能人等について1週間の労働時間の上限を定める。才能が短期間に集中的に費消され消耗させられてしまう現状では、継続的な知財立国の実現は困難である。

  5.  日本版フェアユースを早期に導入し、世界に先駆けて新しいビジネスモデルを開発した日本企業が、それを法的に可能とする個別の権利制限規定が立法されるのを待たずに、米国企業に先んじて、これを市場に提供できるようにする。

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02/13/2010

インターネット上での映画や音楽などの海賊版を取り締まる方策として政府が考えていること

 日経新聞社によれば、


 政府はインターネット上での映画や音楽などの海賊版の取り締まり強化に乗り出す。ネット接続サービス事業者(プロバイダー)に海賊版を自動検出する技術の導入を義務付けることや、違法ダウンロードを繰り返す利用者との接続を強制的に切断する仕組みを検討する。海賊版の利用に歯止めをかけ、制作者の著作権を保護して収益を得られるように支援する。

とのことです

 ISPが「海賊版を自動検出する技術」を導入する場合にはいくつものハードルがあります。

 一番のハードルは、「海賊版を検出する」ためには、マッチングの対象となるコンテンツに関するデータを各ISPがもれなく入手する必要があるということです。しかし、過去にレコードまたはCDに収録されて公表された音源に対象を限定しても、各ISPが過去に遡ってこれらをあまねく入手するというのは現実問題として不可能です。また、今後公表されるものに限定しても、各ISPがこれらをすべて購入することは、理論的には可能でも、財政的に困難です。テレビ番組などの映像作品に至っては、ビデオ化またはDVD化された一部の作品以外は、マッチングの対象となるデータを入手することが公式には不可能です(これから放送されるテレビ番組については、各ISPが全テレビ局の全番組を録画すればマッチングデータを入手することは理論的には可能ですが、全国ないし全世界のいずれかで放送される各テレビ番組について著作権、隣接権の保護期間が切れるまで全ての番組に関するデータをISPがマッチングデータとしてサーバに保持しておくとなると、どれだけの容量の記録媒体が必要となるのでしょうか。関西ローカルの番組をたった1週間保存するだけの選撮見録ですら1テラバイト用意していたというのに。)。

 これらマッチング対象のコンテンツを網羅的に入手しサーバに保存し続ける義務を負わせるだけで、大半のISPを倒産に追い込むことが可能でしょう。

 次のハードルは、求められるフィルターの精度が高くなれば高くなるほど、送受信されるデータが特定のコンテンツの複製物でないとしてフィルターをスルーさせるためにかかる処理時間が長くなるということです。特定のコンテンツがどのようなファイル形式でどのような品質でデジタルデータ化されて送受信されるのかについては、天文学的なバリエーションがありうるわけですが、可能性がある限り全てマッチングさせるのだということになると、そのISPの電気通信設備を通り抜けようとするデータがひとつの特定コンテンツの複製物ではないと判別されるまでに相当の時間がかかってしまいます。それを、公表済みの全ての商用コンテンツについて行うとなると、相当の時間がかかりそうです。それを、そのISPの運営する電気通信設備を通り抜ける全てのデータに付いて行うとなると、猛烈な時間がかかりそうです。テレビ局と映画会社とレコード会社のわがままを叶えるために、メールを送信したらISPのフィルターを通り抜けるまでに1ヶ月かかるなんて未来が現実のものとなりそうです。

 結局のところ、政府は、「インターネット上での映画や音楽などの海賊版の取り締まり」を行う手段として、インターネットを実用に耐えないものにしてしまおうと考えているということなのだと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 11:51 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

01/27/2010

フェアユースが日本の法体系にも馴染む

 前回のエントリーに対し、vidさんが次のようなはてブコメントを残しています。

そもそもフェアユースが日本の法体系に馴染まないってのも問題なんだよな。日本は成文したものが「許諾」と言うやり方。米英は「フェア」をつど裁判で決めようというやり方。米英式に変えるにも法体系の問題があるし

 果たしてそうでしょうか。

 著作物の公正な利用に対する著作権の行使の制限を明文の定めなくして裁判所が行うということが日本の法体系に馴染まないという趣旨であればまだわからなくはありませんが、抽象度の高い文言の条文で私権の行使を制限すること自体が日本の法体系に馴染まないという趣旨であればそれは明らかに違います。なにしろ、日本の民法という基本的な法律の第1条には、

権利の濫用は、これを許さない。

という非常に抽象度の高い規定があるのですから。私は、民法第1条第3項は日本の法体系には馴染まないので、これを廃止して、私権の行使を制限する必要があるものについてはすべて個別立法によるべきであると提唱する民法学者並びに法律実務家に出会ったことがありません。

Posted by 小倉秀夫 at 12:40 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2) | TrackBack (0)

01/25/2010

国破れて著作権あり──何を恨んで鳥にも心を驚かさん

 文化庁は、日本版フェアユースを「写真の端に絵画が写ってしまう場合など、意図しない付随的利用などに範囲を限定する」意向であると伝えられています。日本新聞協会等はその程度のフェアユースにすら反対のようです。

 しかし、著作物の公正な利用であっても著作権侵害に当たるという規定を維持し続けること、若しくは、その著作物の利用が「公正」とされる場合を極めて限定的な範囲に留めることが何をもたらすのか、きちんと理解されているのか疑問です。

 例えば、著作権法の平成21年度改正によって適法であることが明文化された著作物の利用には、Web検索サービスにおける著作物の複製及び送信可能化、インターネット販売等における商品画像の複製・公衆送信、情報解析のためのウェブ上の情報のコンピュータへの蓄積、通信事業者によるキャッシュサーバ又はバックアップサーバにおける著作物等の複製、コンピュータ稼働の際のハードディスク等へのキャッシュデータの蓄積等があります。これらは、平成21年改正以前にも、現実には行われていたことです。平成21年改正は、その後追いに過ぎません。

 日本の著作権法にはフェアユース規定を導入するな又は意図しない付随的利用などに範囲を限定せよという論者は、平成21年改正のような個別規定が立法され施行されるまでは、いかに日本以外の先進国では、Web検索サービスが提供され、インターネット販売では商品の画像が提示され、様々な企業が情報解析のためにウェブ上の情報を利用し、通信事業者はキャッシュサーバによりサーバの負荷を軽減し、バックアップサーバにより不意の事故からデータを守り、または、メインメモリ上のデータをハードディスク上にキャッシュとして書き出すことによりメインメモリの負担を軽減するような仕組みをアプリケーションに施すことが一般化していたとしても、日本国では、そのようなことは行われるべきではなかったと考えているということでしょうか。今後も、新たな情報通信技術が開発された場合に、それが著作物の複製・公衆送信を伴うものであった場合には、個別の権利制限規定が設けられるまでの間、日本だけは、他国でのその技術の利用は、手を加えてみていなさいと考えていると言うことなのでしょうか。

 それとも、上記のようなことがしたかったら、著作権侵害罪に問われる覚悟で行うべきだと考えているのでしょうか。しかし、著作権法を遵守していたら国際的な技術開発競争に負けてしまうという制度のもとで、著作権法に関するコンプライアンス意識を高めようというのは無理があるのではないでしょうか。


 国破れて著作権あり


 フェアユース規定導入消極派の望む未来は、そのような荒涼とした世界のように思われてなりません。

Posted by 小倉秀夫 at 01:57 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/22/2010

これからは新聞記者は資料としてウェブをプリントアウトしたりなどしない。

 社団法人日本新聞協会等が「『権利制限の一般規定』導入に関する意見書」を提出したのだそうです。

 その中で、ウェブページが無断で印刷されることを問題視されているようです。ただ、私は、何度も新聞記者さんから取材を受けていますが、その際、多くの記者さんが、ウェブページを印刷したものを資料としてお持ちだったと記憶しています。さらにいえば、私は、新聞社のカタから、「あなたのウェブページを、取材の際の資料に使いたいので、印刷させて下さい」との許諾願いを受けたことがありません。私の文章は、基本的に解説文ですから、「当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」にはあたらないはずですし、新聞社は営利活動の一環として取材活動を行っているので、取材活動において資料として使用するためのプリントアウトは「私的使用の範囲」を超えているとするのが多数説です。

 今後、記者さんの取材活動がどう変わっていくのか、楽しみです。

Posted by 小倉秀夫 at 02:26 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (1)

01/05/2010

ドメイン登録者名義の冒用

 どうも、私の名前を使ってドメイン名を登録している人がいるようです。

 もちろん、「Hideo Ogura」だけだと同姓同名ってことも十分あり得るのですが、住所地が「Katsusikaku Tokyo JP」になっているので、その可能性は低そうな気がします。

 まあ、そのドメイン名は、セカンドレベルドメインがアルファベット1文字という、ある意味すばらしいドメイン名なので、私にその権限を引き渡してくれるのであれば、過去は問わないということでよいとは思っているのですが。

Posted by 小倉秀夫 at 11:53 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

何が分子で何が分母か

産経新聞はつぎのような記事を掲載しています。

 確かに、法改正の効果については議論を呼んだが、レコ協は、適法な音楽配信サイトを認証する「Lマーク」が全体の97%に普及していることから、ユーザーは違法サイトを見分けられるとみている。

 97%って、分母が何で分子が何なのでしょうか。これをみると、
例えば、ゆずmobile(http://yuzu.senha.jp/)、ゆずムービー(http://yuzu.senha.jp/pv/)、ゆずコール(http://yuzu.senha.jp/mc/ )、ゆずうた(http://yuzu.senha.jp/uta/)、ゆずうたフル(http://yuzu.senha.jp/uta_full/)をそれぞれ別サイトとしてカウントするなど、分子が水増し気味のようにも思われるのですが。配信楽曲数では、全体の1割近くを占めるiTunes Storeが「Lマーク」を使用していないわけですので、「Lマーク」が全体の97%に普及しているともいえないです。OTOTOYも「Lマーク」を使用していないようにも見えます。

Posted by 小倉秀夫 at 12:08 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/04/2010

番組のギャラってそんなに安いと思われていたの?

Rocket News24が次のような記事を掲載しています。

人気テレビ番組のスペシャル版『新春大売り出し!さんまのまんま』の番組内で、ゲストとして呼ばれた女性タレントが800曲の音楽が記録されているiPod nanoを明石家さんまにプレゼントするという衝撃のシーンが放送された。iPod nanoのプレゼントは問題ないが、楽曲が記録されたiPod nanoのプレゼントは著作権法違反に触れる可能性がある。しかも800曲という膨大な量の楽曲の為、巨額の罰金が発生する可能性が高い。

 果たしてそうでしょうか。

 公衆の定義については争いがありますが、行為者から見て行為の相手方が「不特定人」である場合にはそれが一人であっても「公衆」にあたるという見解をとったとしても、特定の友人に複製物をプレゼントしたということであれば、「その著作物……をその原作品又は複製物……の譲渡により公衆に提供」したとはいえないので、譲渡権侵害は成立しません。

 友人にプレゼントをする目的でiPod nanoに(CD等からリッピングした)楽曲データを転送することが「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること……を目的とする」「その使用する者」による複製にあたるかということは、実は難しい問題です。複製物の作成者自身がその複製物からその著作物を知覚する場合のみ「その使用するものが複製する」といえるという解釈をとると、「少人数の勉強会で発表者が関連する文献をコピーして参加者に交付する」ということも第30条第1項で正当化されなくなってしまいますが、それは「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること……を目的とする」場合もカバーすることとした同項の趣旨をないがしろにするものであるように思われるからです。複製物を譲渡することも著作物の「使用」に含めてしまえば、それが「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において」なされる限度においては、そのことを目的としてiPod nanoにデータを転送することは第30条第1項によりカバーされることになり得ます。

 さらにこれが著作権侵害に当たるとしても、賠償額が「巨額」といえるかは大いに疑問です。

 Rocket News24は、

このプレゼントを合法的なプレゼントにする方法もあるが、それには事前にJASRACに対して800曲分の著作権料を支払う必要があり……。番組のギャラ以上の巨額が必要となることもありえる!?

などと煽っていますが、オーディオ録音の場合のJASRACに支払うべき使用料は、定価の明示のない場合、1曲8円10銭ですから、800×8.1=6480円程度にしかなりません。「番組のギャラ」ってそんなに安くはないと思います。まあ、隣接権者に支払うべき賠償金も計算に入れよと善解すべきなのかもしれませんが、邦楽CDだって概ね1曲200円前後(アルバムごとに差があるにせよ)で、掛率約7割とすると、JASRACと隣接権者が分け合う基礎って1曲あたり140円前後です。800曲分でも140×800=112000円程度です。その番組を見ていないのですが、明石家さんまの友人として同人に番組上でプレゼントを渡す程度の芸能人であれば、「番組のギャラ」ってそんなに安くはないと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 09:33 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2) | TrackBack (0)

12/31/2009

2010年以降のISPの運命は如何。

 明日から違法にアップロードされた音声、動画ファイルの私的使用目的のダウンロードを著作権侵害とする改正著作権法が施行されます。

 当面の関心は、JASRAC等が「あいつは、違法にアップロードされた音声、動画ファイルをダウンロードした可能性がある」として申し立てた証拠保全を裁判所が認容するのかということと、違法にアップロードされた音声、動画ファイルの私的使用目的のダウンロードにそのサービスが利用された事業者がどのような責任を負わされるのかということです。

 後者についてより詳しく述べると、例えば、ゲームラボの1月号のコラムでも触れたのですが、ZDNet.co.ukがこの11月27日に報じたところによれば、無料公衆WIFIサービスを提供していたパブのオーナーが、そのWIFIサービスの利用者による違法ダウンロードに関して8000ポンド(約115万円)の賠償金の支払いを命じられていたわけで、日本でも同じようなことが起こるかもしれないということです。理論的にいえば、「特定電気通信」を「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信……の送信」と定義するプロバイダ責任制限法において、「特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたとき」に、「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」を、「これによって生じた損害」の賠償義務から解放する第3条第1項が、権利侵害情報の受信の用に供される電気通信設備の提供者を、権利侵害情報の受信によって生じた損害の賠償義務から解放してくれるかは、文言上は必ずしも明らかではないということです。

 何でプロバイダ責任制限法を改正して、受信行為自体が権利侵害を構成する場合にもその受信行為に用いられる電気通信設備の提供者を賠償義務から解放してあげるようにしておけば良かったのにと思わなくはありません。

Posted by 小倉秀夫 at 07:48 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

12/21/2009

スリーストライク法導入を検討するよりアップローダー対策した方が効率的では?

 ITmediaの記事によれば、JASRACの菅原瑞夫常務理事は「スリーストライク法の導入が可能か国内でも可能かどうか検討したい」と語ったとのことです。

 検討するのは自由ですが、どういう法律構成を考えているのでしょうか。

 考えられるのは、立法により創設される一種の幇助行為についての差止請求権という構成です。ただ、著作権法第112条第2項が、廃棄請求の対象となる「侵害の行為に供された機械若しくは器具」を「専ら」侵害の行為に供されたものに限定している趣旨を考えると、2回の警告を受けてもなお違法にアップロードされた音楽・映像データのダウンロードを繰り返した利用者(三振ユーザー)に対するインターネットサービスの利用を一律に規制することは、私法上の権利の救済という枠を超えるような気がします。

 さらに、この「スリーストライク法」の実効性を確保するためには、ISPには1回目の警告と2回目の警告に関する情報の保存義務を負わせることが必要となります。保存義務の内容としては、警告先の氏名・住所をISPで記録保存しておくというだけでは足りず、当時のアクセスログを保存しておくことが必要となります。なぜなら、三振ユーザーと疑われている利用者が過去の2回の警告の正当性について争ってくる可能性があるからです。

 さらにいうと、著作権者側は、違法にアップロードされている音声・映像データをダウンロードしていることが新たに発覚したユーザーのうち、誰が過去に2回警告を受けていたのかを知り得ないのが通常ですので、「スリーストライク法」に基づく三振ユーザーへのインターネット接続サービス提供の停止を求める訴訟を提起し又は仮処分の申立を行う前に、上記ダウンロードが発覚したユーザーについて過去の警告歴を照会する方法を確立する必要があります(闇雲に訴訟を提起して、接続サービス中止命令の客体たる利用者は過去2回の警告を受けていないという理由で否認されたら請求を取り下げる、ということを繰り返すわけにもいかないでしょう。)。ISPが弁護士会照会でその情報の開示に応じてくれればよいですが、そうでない場合には、訴え提起前の証拠保全として当該ISPの担当者の証人尋問でもするのでしょうか。それも大変な話です。

 P2Pファイル共有ソフトのユーザーをターゲットにしたいのであれば、ダウンローダーとしての側面に着目するのではなく、アップローダーとしての側面に着目した方が、プロバイダ責任制限法上の発信者情報請求権も行使できるし、法的処理がよほど楽だと思うのですが、権利者団体はなぜダウンローダーをターゲットとする茨の道を選ぼうとするのでしょうか。

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12/15/2009

著作権法判例百選[第4版]

 有斐閣から、著作権法判例百選[第4版]を送っていただきました。というのも、私も執筆者の一人だからです。

 私は、東京地判平成10年11月20日[ベジャール事件]の解説を担当させていただいています。第3版では田村善之先生が担当されていた裁判例なので、田村先生とは異なる視点で解説させていただくことにしました。

 なお、「事案の概要」部分においては、原告と被告以外の関係者をそのイニシャルで標記しています。ゲラ稿段階までは、ロシア人である某について「Я」というイニシャルを使っていたのですが、それはなじみがなさすぎるということで「J」を用いることになってしまいました。「Я」の方が人目を引くかと思ったのですが、そこは有斐閣です。ゲームラボほど自由にはいきません。

Posted by 小倉秀夫 at 03:12 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

12/13/2009

パブリシティ権って?(続)

 「パブリシティ権」を人格権の一種とする見解もあります。

 東京高判平成14年9月12日判タ1114号187頁[ダービースタリオン事件事件]がその典型です。

自然人は、もともとその人格権に基づき、正当な理由なく、その氏名、肖像を第三者に使用されない権利を有すると解すべきであるから(商標法四条一項八号参照)、著名人も、もともとその人格権に基づき、正当な理由なく、その氏名、肖像を第三者に使用されない権利を有するということができる。もっとも、著名人の氏名、肖像を商品の宣伝・広告に使用したり、商品そのものに付したりすることに、当該商品の宣伝・販売促進上の効果があることは、一般によく知られているところである。このような著名人の氏名、肖像は、当該著名人を象徴する個人識別情報として、それ自体が顧客吸引力を備えるものであり、一個の独立した経済的利益ないし価値を有するものである点において、一般人と異なるものである。自然人は、一般人であっても、上記のとおり、もともと、その人格権に基づき、正当な理由なく、その氏名、肖像を第三者に利用されない権利を有しているというべきなのであるから、一般人と異なり、その氏名、肖像から顧客吸引力が生じる著名人が、この氏名・肖像から生じる経済的利益ないし価値を排他的に支配する権利を有するのは、ある意味では、当然である。著名人のこの権利をとらえて、パブリシティ権」と呼ぶことは可能であるものの、この権利は、もともと人格権に根ざすものというべきである。

 著名人も一般人も、上記のとおり、正当な理由なく、その氏名・肖像を第三者に使用されない権利を有する点において差異はないものの、著名人の場合は、社会的に著名な存在であるがゆえに、第三者がその氏名・肖像等を使用することができる正当な理由の内容及び範囲が一般人と異なってくるのは、当然である。すなわち、著名人の場合は、正当な報道目的等のために、その氏名、肖像を利用されることが通常人より広い範囲で許容されることになるのは、この一例である。しかし、著名人であっても、上述のとおり、正当な理由なく、その氏名・肖像を第三者により使用されない権利を有するのであり、第三者が、単に経済的利益等を得るために、顧客吸引力を有する著名人の氏名・肖像を無断で使用する行為については、これを正当理由に含める必要はないことが明らかであるから、このような行為は、前述のような、著名人が排他的に支配している、その氏名権・肖像権あるいはそこから生じる経済的利益ないし価値をいたずらに損なう行為として、この行為の中止を求めたり、あるいは、この行為によって被った損害について賠償を求めたりすることができるものと解すべきである。

 ただ、従前の議論からすれば、立法によらずして私法上の権利として認められる人格権は、個人尊厳の原理と密接に結びつき人格的生存に不可欠と考えられる利益であることを要するわけですから、人格権としての氏名権・肖像権って、「正当な理由なく、その氏名、肖像を第三者に使用されない権利」というほど広範囲なものとしては認められてこなかったわけです(だから、桜井さんはディカプリオの名前を歌詞の中に盛り込むことができたし、野球中継で客席を映すことができるわけです。)。上記高裁は、商標法4条1項8号を参照しているのですが、同号は、他人の氏名をその同意なくして商標登録してもこれを無効とするという規定であって、他人の氏名をその同意なくして商標として使用することを禁止する規定ではありません。

 また、人格権としての氏名権・肖像権という枠組みを維持する限り、その使用が許されるか否かを判断する基準として、顧客吸引力を侵害するか否かを持ち出すというのはおかしいと思うのです。なぜなら、その氏名・肖像の持つ顧客吸引力自体は、「個人尊厳の原理と密接に結びつき人格的生存に不可欠と考えられる利益」ではないからです。むしろ、その肖像等の使用が個人の尊厳を冒すものであるのか否か、こそが判断基準となるべきです。

 さらにいえば、人格権としての氏名権・肖像権の一種としてパブリシティ権を構成するのであれば、その侵害にかかる損害は精神的な損害にのみ限定されるべきであって、その氏名・肖像が商用利用される場合の許諾料相当金をもって損害額と構成するのは、「人格権としての氏名権・肖像権」という判断枠組みとは矛盾しているように思われるのです。

Posted by 小倉秀夫 at 01:11 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

12/12/2009

パブリシティ権って?

 「パブリシティ権」って、いったい何なのでしょうか。

 東京高判平成3年9月26日判タ772号246頁[おニャン子クラブ事件]は、次のように判示しています。

固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した芸能人の氏名・肖像を商品に付した場合には、当該商品の販売促進に効果をもたらすことがあることは、公知のところである。そして、芸能人の氏名・肖像がもつかかる顧客吸引力は、当該芸能人の獲得した名声、社会的評価、知名度等から生ずる独立した経済的な利益ないし価格として把握することが可能であるから、これが当該芸能人に固有のものとして帰属することは当然のことというべきであり、当該芸能人は、かかる顧客吸引力のもつ経済的な利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利を有するものと認めるのが相当である。したがって、右権利に基づきその侵害行為に対しては差止め及び侵害の防止を実効あらしめるために侵害物件の廃棄を求めることができるものと解するのが相当てある。

 「固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した芸能人の氏名・肖像を商品に付した場合には、当該商品の販売促進に効果をもたらすことがある」という点は認められると思うのです。しかし、そこから、「芸能人の氏名・肖像がもつかかる顧客吸引力」が「当該芸能人に固有のものとして帰属することは当然のこと」と言ってしまうのは、明らかに論理の飛躍だと思うのです。

 というのも、自由主義経済を原則とする我が国においては、商品の販売促進に効果のある情報を自社の商品に付することは原則なのであって、そのような情報は本来公有(パブリック・ドメイン)となるべきだからです(実際、競走馬の氏名等が持つ顧客吸引力は二つの最高裁判決によってパブリックドメインとして扱われています。)。それを、芸能人の氏名・肖像の持つ顧客吸引力に限って、立法によらずして、裁判所が恣意的に「当該芸能人に固有のものとして帰属する」と認定するのは、許されるべきではないように思われるのです。

 では、パブリシティ権を保護する新規立法をすればいいのかというと、そんなに簡単な話なのだろうかと思ったりもします。というのも、パブリシティ権のような財産権を新設するということは、権利者以外の人の営業活動の自由や表現の自由を制限することになりますので、それ相応の社会経済的な合理的な理由が必要となります。例えば、特許法であれば、発明を奨励するとともにこれを公開させて産業を発展させるために公開後一定期間その利用を独占させるという合理的な理由があります。

 しかし、パブリシティ権を芸能人に独占させると何かが奨励されるようになるのか、というとそこが疑問なのです。筆箱やクリアファイルに自分の氏名・肖像を掲載させて対価を得るというのは芸能人の本来的な投下資本回収手段ではないわけで、そのような非本質的な投下回収手段についてある程度自由競争に晒されたところで、芸能人になろう、自分の芸能に磨きをかけようというインセンティブが損なわれるということは通常ないように思われるからです。

Posted by 小倉秀夫 at 08:45 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

11/29/2009

「NHKオンデマンド」の利用は思ったより増えず

  

NHKのテレビ番組をインターネットで有料配信する「NHKオンデマンド」が始まって12月で1年。予想したほどには利用は増えず、今年度の料金収入は当初見込んだ23億円の半分にも届かない見通しだ。

とのことです。

 エンドユーザー向けのサービスでMacを対象から除外するのだから,普及しないのは当然のことです。

 さらにいえば,デジタルデータをiPhone等の携帯型再生機に組み入れて視聴することを認めないのだから,普及しないのは当然のことです(NHK教育の番組など,むしろiTunes Store等で配信するのに向いています。)。

 NHKがこの種のサービスの開拓に民放よりも積極的なのは評価しますが,ユーザー目線に立ってサービスを組み立ててみると良いのではないかと思ったりします。

Posted by 小倉秀夫 at 06:31 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (1)

11/28/2009

由是著作者怠倦?

 少し日本史の復習をしてみましょう。

 朝廷は,西暦723年に三世一身法を制定し,灌漑施設を新設して墾田を行った場合には三世までの私有を許し,季節の灌漑施設を利用して墾田を行った場合は開墾者本人のみの土地私有を認めることとしました。ところが,朝廷は,西暦743年には墾田永世私有法を制定し,墾田の永世私有を認めることとしました。その理由は,

墾田拠養老七年格。限満之後、依例収穫。由是農夫怠倦、開地復荒。自今以後、任為私財無論三世一身。悉咸永年莫取。

というものでした。三世一身法の制定から20年では墾田の返納期限には未だ到達していないと思われますので,「限満之後、依例収穫。由是農夫怠倦、開地復荒」という実態があったのかは多分に疑問ですが,大和朝廷ですら,現状では「由是農夫怠倦、開地復荒」ことを,独占期間の延長をするための立法事実として提示していたわけです。

 他方,オリコンは,「『著作権保護期間の延長』はなぜ必要か」という文章を発表しています。しかし,「限満之後、依例収穫。由是農夫怠倦、開地復荒」に相当するような立法事実は提示されていません。著作権の保護期間が著作者の死後50年しかないが故に,アーティストがやる気を失って怠けているだとか,出版社が作品の継続的な出版を怠っているだとかという立法事実はいまだ提示されていないのです。

 オリコンは,

クリエーターの権利が保護され、それを基盤として創作活動が活性化されることが、ひいては国民の生活を豊かにする知的財産を生み出していくという考え方が是とされたわけだ。

と述べてはいるのですが,ベルヌ条約で定められた通りに「著作者の死後50年」の保護期間では創作活動が活性化されず,そのために現在国民の生活を豊かにする知的財産が生み出されていないという実情が存在することは何ら示されていないのです。そして,より開発にコストがかかる傾向が高い「発明」という知的財産についていえば,より短い保護期間しか保障されていなくとも次々と新たな創作がなされているのに,開発コストがより小さい「著作物」という知的財産については「著作者の死後50年」程度の保護期間では創作活動が活性化されない(しかし,著作者の死後70年著作権を保護すれば創作活動が活性化される)ということについて説得的な説明は未だなされていないのです。

 墾田永世私有法が認められると,貴族や寺院等の大土地所有者は不輸不入の権を認めさせるにいたり,朝廷を弱体化させることになりました。著作権についても,保護期間が延長,延長され,事実上永久に保護されることになると,例えば音楽についていえば,膨大な数のメロディラインについて独占的な権利を握っている大企業の傘下に入らなければ人の耳に心地の良い作品を発表することができないという事態に至り,むしろ,国民生活は貧しくなるかもしれません。あるいは,貴族たちが不輸不入の権を認めさせその荘園に「公」が介入することを拒んだように,次は著作権の制限規定の廃止を狙いに来るかもしれません。歴史の教訓としていえば,3世程度の独占期間では足りないという人々には,「公」を尊重するという意識はなく,欲望だけはとどまるところを知らないのですから。

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11/20/2009

闇米

 石坂会長はまた、道義的・倫理的な側面でも啓発の必要性を訴えた。「CDという固形物を万引きすることは、おそらく多くの若者にとって悪いことだという認識が徹底しているのに対して、音楽ダウンロードは無形のものであるため、いともたやすく法律に違反したり、道義に反する行為に出る。CDは盗まないが、デジタル音楽はタダでもらっちゃう」と指摘。「これほど国民性が乱れるのを容認するのは、大げさに言えば歴史上初めて」と憂慮した。

とのことです

 でも,道義的・倫理的な側面からいうと,不労所得を得んがために情報の流通をブロックする行為と,ひとたびブロックされたが誰かがブロックを壊して再び流通させた情報を入手する行為とを比べたときに,後者の方が道義的・倫理的に悖るとは必ずしも言えないのではないかと思ったりはします。著作権侵害罪って,今はやりのインセンティブ論から言えば,法定犯であって,自然犯ではないですし。

 歴史的に言えば,特定の流通経路以外から商品等を入手することが法律上禁止されていたが多くの人がそれを守っておらず,守らないことが道義的・倫理的に問題があるとさほど考えられていなかった例としては,例えば,戦後の「闇米」などがあります。

Posted by 小倉秀夫 at 02:36 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

11/19/2009

民主党への手紙

 民主党はそのウェブサイトで国民からの意見を募集しているようなので,次のような意見をお送りいたしました。



報道によれば,鳩山 由紀夫首相は18日に開かれた「JASRAC創立70周年記念祝賀会」において、著作権の保護期間を現在の「著作者の死後50年」から、欧米などと同等の「著作者の死後70年」に延長するために最大限努力するとの考えを示したとのことです。これが本当だとすれば,心底失望いたしました。

高速道路の無償化が骨抜きになったとしても民主党を責める気はありませんでした。自民党が最後に焦土作戦をとった後です。予算措置を必要とする政策が思うに任せないのはやむを得ないことです。

米軍基地の沖縄県外移転が果たせなかったとしても民主党を責める気がありませんでした。外交問題は相手があることです。相手国の同意を得なければ進まない政策が思うに任せないのはやむを得ないことです。

しかし,著作権の保護期間問題は違います。これを延長しないことについて予算措置も不要ですし,第三国の同意も不要です。50年以上前に発掘された文章について,メロディについて,絵画について,その発掘者又はその承継人の既得権をさらに保護することで,政治献金等の形でおこぼれに預かろうという意思以外に,著作権の保護期間の延長を志向する要因はありません。そして,その結果,歴史の陰に埋もれてしまった多くの作品がボランティアの手により再び日の目を見ることが阻害され,著作権により囲われてしまった「表現」を若い芸術家たちが新たな表現のために再利用する道が閉ざされます。

民主党が,我が国の文芸的な歴史を知り,享受し,発展させようという市民の希望を踏みにじって,一部の既得権者に尻尾を振って著作権の保護期間を延長しようというのであれば,そのような政党はその他の分野でも必要以上に市民の希望を踏みにじって一部の既得権者に尻尾を振るのだろうと予測できます。そのような政党は我々には不要です。

「過ちを改むるに憚ることなかれ」といいます。民主党が市民から失望されないためにも,民主党としては著作権の保護期間を延長することは考えていないということを,党として表明していただければ幸いです。

Posted by 小倉秀夫 at 01:34 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2) | TrackBack (1)

11/07/2009

著作権関連六法

 iPhone用の模範六法にも著作権法は収録されているのでしょうが,たぶん,著作権法施行令や施行規則,旧著作権法,ベルヌ条約やWIPO著作権条約等は収録されていないのでしょう。でも,これらって,まともに著作権法を学習しようと思うと避けて通れないのです。

 さらにいえば,著作権法って,頻繁に改正されている法律なので,改正履歴がすぱっと調べられると嬉しいです。

 ということで,iPhone用の著作権関連六法ってつくってみたいと思うのですが(iPhone用に設定されたWebを作るっていうのでもいいようにも見えますが,会議とかってSoftBankが届かないところで行われることも少なくないのです。),一人でそれをこなすのは大変です。プログラミングが得意な人を含めてプロジェクトチームが作れると嬉しいなあと思う今日この頃です。

Posted by 小倉秀夫 at 07:43 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/05/2009

私的録音録画補償金訴訟のリスク

 私的録音録画補償金に関してSARVHが東芝に訴訟を起こしたとして,訴訟自体の勝ち負けはおそらくどちらにとってもたいしたリスクではないのだと思います。

 しかし,SARVHにとっては,理由中の判断又は傍論として,補償金相当額を出荷価格に上乗せした上で補償金をSARVHに支払うという方法以外の協力義務の履行方法が認められた場合には,SARVHにとっては,大きな打撃となります。ことは,地デジ専用DVDレコーダーにとどまらなくなるからです。

 AV機器メーカーとしては,製品の入った段ボールにホチキス等で留められた,保証書等が梱包されているビニール袋の中に,SARVH作成の請求書を入れておけば,これまでSARVHに納めてきた補償金を納めなくとも済むということになれば,それはそれで幸せなことです。ユーザーとしては,私的録音録画補償金を支払わなくとも,その機器によって行われる私的使用目的の録音録画が違法となるわけではないので,仮にSAVRAから訴訟を提起されて敗訴しても,最大で1台あたり1000円を支払えば済むことです。

 そうなったら法改正によって製造業者等を支払義務者にすれば足りると考えているのかもしれませんが,利用者による私的録音録画により著作権者等が被った損失の一部補填をAV機器の製造業者に義務づける合理的な理由がありません。にもかかわらず,AV製造業者に対する一種の徴税権を指定管理団体に与えることは憲法上大変な疑義が生ずることになります。しかも,自民党は下野してしまいました。そう簡単にはいかないと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 01:30 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1)

11/03/2009

先輩を思いやる気持ち

 私的録音録画補償金制度を巡る混乱は,文化庁の役人の天下り先を思いやる気持ちにその発端があるというべきでしょう。

 平成20年6月付けで文部科学省と経済産業省との間で取り交わされた「ダビング10の早期実施に向けた環境整備について」と題する文書においては,

現在のブルーレイディスクレコーダーがアナログチューナーを搭載しておりアナログ放送のデジタル録画が可能であることも踏まえ、暫定的な措置として、ブルーレイディスクに係る専用機器及び専用記録媒体を政令に追加する。

とあります。現在のブルーレイディスクレコーダーがアナログ入力ポートを備えていることを踏まえてブルーレイディスクに係る専用機器及び専用記録媒体に追加したのではありません。

 このように,ブルーレイディスクに係る専用機器及び専用記録媒体を特定機器に加える際には,著作権法施行令第1項第2項の「アナログデジタル変換が行われた影像を……連続して固定する機能」とはアナログチューナーを搭載することによりアナログ放送のデジタル録画を行う機能のことをいうとの理解に文部科学省も立っていたわけです。だからこそ,4号を付加する際に,なおも「アナログデジタル変換が行われた影像」という要件を付したわけです。

 従って,文化庁の課長が,その傘下の財団法人であり渡り先(田原昭之理事は元文化庁)でもある私的録画補償金管理協会からの照会を受けて,何らの根拠も示さずに,独断で,上記前提と異なる回答をするというのは,およそ役人としての分限を超えてしまっているわけです。結局,文化庁課長の軽はずみな発言が,実務に混乱をもたらしてしまったわけです。

 前にも述べましたとおり,製造業者は,指定管理団体が指定機器等の購入者に対して補償金の支払いを請求しこれを受領することに協力する義務を負っているに過ぎず,補償金を自らの名において購入者に請求し(支払いを拒む購入者から強制的に)徴収する権限を有していませんし,義務も負っていません(この点,条文を読まずに製造業者の義務の内容を誤解されている方が多いようです。)。である以上,「アナログチューナーを搭載することによりアナログ放送のデジタル録画を行う機能」を有しないデジタル放送専用機においても補償金を支払ってもらおうと思ったら,私的録画補償金管理協会が,デジタル放送専用機の購入者にそのことを納得してもらう必要があります。そのためには,デジタル放送専用機が指定機器に含まれることの説得的な理由付けを私的録画補償金管理協会自身が示す必要があります。しかし,私的録画補償金管理協会のウェブサイトを見てもいまだにその説明は掲載されていません。また,主婦連やMIAU等の消費者団体にもその説明はなされていないようです。支払い義務者である機器購入者の理解も得ずに無理矢補償金を徴収する義務を製造業者を負わせておいて,自分たちは涼しい顔でその補償金にしゃぶりつこうというのは,虫が良すぎる話のように思われてなりません。

Posted by 小倉秀夫 at 11:20 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/02/2009

主役が怠けているのに,脇役が協力しないのが怪しからんといわれても。

 私的録音録画補償金請求権の行使方法について,著作権法の規定を整理してみましょう。

 まず,著作権法第30条第2項は,

私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

と定めています。ここでは,補償金の支払義務者は製造業者ではなく「録音又は録画を行う者」であるということに注目をしましょう。

 これを受けて,著作権法第104条の4第1項は次のように定めます。

第三十条第二項の政令で定める機器(以下この章において「特定機器」という。)又は記録媒体(以下この章において「特定記録媒体」という。)を購入する者(当該特定機器又は特定記録媒体が小売に供された後最初に購入するものに限る。)は、その購入に当たり、指定管理団体から、当該特定機器又は特定記録媒体を用いて行う私的録音又は私的録画に係る私的録音録画補償金の一括の支払として、第百四条の六第一項の規定により当該特定機器又は特定記録媒体について定められた額の私的録音録画補償金の支払の請求があつた場合には、当該私的録音録画補償金を支払わなければならない。

 ここでは,特定機器又は特定記録媒体の購入者に対し指定管理団体から補償金の支払い請求があった場合に初めて,購入者は録音録画補償金を一括払いする義務を負うということに注目をしましょう。

 さらに,著作権法104条の5に注目してみましょう。

前条第一項の規定により指定管理団体が私的録音録画補償金の支払を請求する場合には、特定機器又は特定記録媒体の製造又は輸入を業とする者(次条第三項において「製造業者等」という。)は、当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力しなければならない。

 このように,法律の文言上は,特定機器の製造業者が負っているのは,「当該私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力」する義務であって,その出荷した特定機器に応じた補償金相当額を支払う義務を指定管理団体に対し直接負っているわけではありません。といいますか,製造業者は,特定機器の購入者に対し自己の名で補償金の支払いを請求する権利自体がありません(あくまで「協力」義務を負っているに過ぎませんから)ので,本来であれば,指定管理団体から渡された私的録音録画補償金の請求書を特定機器を混入した段ボール箱の表面に貼って「支払いの請求」に協力したり,また,直営店や提携小売店で特定機器を購入する消費者から任意に補償金相当金を預かって一括して指定管理団体に送金するということで補償金の受領に協力したりしても良いはずです。むしろ,当該製品が特定機器にあたること,それ故製品価格とは別に私的録音録画補償金の支払いを指定管理団体が要求していることを消費者が特定機器を購入するに際して具体的に示すことなく,補償金相当額を製品価格に上乗せすることによって,補償金を支払わされているのだと言うことを消費者に意識させることなく補償金を支払わせるという現在の運用の方がまずいといわざるを得ません。

 以上を前提とするとき,その製品が特定機器に当たりその購入者には私的録音録画補償金が生ずるということについての購入者を納得させるような合理的な説明がなされていない段階で,補償金相当額を出荷価格に上乗せすることなくこれを出荷した製造業者に対し,上記協力義務の不履行に基づく損害賠償請求権として,補償金相当額の賠償を指定管理事業者が製造業者に請求しうるのか疑問の余地無しとはしません。なんといっても,製造業者は,特定機器の購入者から強制的に私的録音録画補償金を徴収する権限が与えられおらず,かつ,補償金の支払いを拒む者に特定機器の販売を回避する義務を負っていないのです。

Posted by 小倉秀夫 at 02:21 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (7) | TrackBack (0)

10/30/2009

アナログデジタル変換を行うのはどこで?

 著作権法施行令第1条第2項の「アナログデジタル変換が行われた影像」について,録画機器において「アナログデジタル変換」が行われた影像に限定されていないではないかとの見解もあるようです。

 ただ,岸本織江「著作権法施行令の一部改正について」コピライト1997年7月号37頁によれば,

「特定機器・特定記録媒体の政令指定にあたっては,機器等の有する機能に着目し,①記録方法,②標本化周波数(アナログ信号をデジタル信号に変換する1秒あたりの回数),③記録媒体,の3つを規定することにより,対象機器等を特定してきている。

とされています(実際,例えば同条第1号では,「その輝度については十三・五メガヘルツの標本化周波数で、その色相及び彩度については三・三七五メガヘルツの標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像」と細かい指定をしています。)。従って,当該機器の外で(端的に言えば放送事業者の側で)アナログデジタル変換した影像をここでいう「アナログデジタル変換が行われた影像」に含めて上記規定を読むのは,標本化周波数で対象機器等を特定するという立法趣旨をないがしろにすることになります。よって,録画機器自体において「アナログデジタル変換」を行う機能を有しない録画機器は「特定機器」に含めないと解釈するのが素直な解釈だということになります。

Posted by 小倉秀夫 at 09:09 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (7) | TrackBack (0)

10/28/2009

島並良=上野達弘=横山久芳「著作権法入門」

島並良=上野達弘=横山久芳「著作権法入門」(有斐閣)の献本を上野先生よりいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

 著作権法の分野ではこの種の入門書が久しく出版されていなかった(Q&A集や本格的な基本書は結構あるのですが)ので、来年入ゼミ予定の現2年生に読ませるには良さそうです。

 一通り読み終えたら、また感想を述べるかも知れません。

Posted by 小倉秀夫 at 11:17 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

10/26/2009

政令の内容を課長の回答で変更すること

 エイベックス取締役の岸博幸さんが次のように述べています。

 また、東芝が補償金を徴収していない今回の機器は、以前から補償金制度の対象となっているDVD録画機であり、政令上は「アナログチューナー非搭載機を除く」といった留保条件が付いていない。家電メーカーやその背後にいる経産省の主張どおりに補償金が払われないとすれば、政令の中身が、政令よりも下位に位置する通達で変更されることになる。これほど法律の世界の秩序を無視した主張はないのではないだろうか。

 著作権課長は、アナログチューナー非搭載のDVD録画機器は、著作権法施行令第1条第2項第3号の特定機器に該当すると解してよいか。とのSARVHの照会に対し、・・・貴見のとおりで差し支えありません。と回答したとのことです。

 そこで、同施行令第1条第2項第3号を見ると、その文言は以下のとおりとなっています。

三  光学的方法により、特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像又はいずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、直径が百二十ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が〇・六ミリメートルのものに限る。)であつて次のいずれか一に該当するものに連続して固定する機能を有する機器

イ 記録層の渦巻状の溝がうねつておらず、かつ、連続していないもの

ロ 記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続しているもの

ハ 記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続していないもの

 この規定を素直に読めば、「光学的方法により、……アナログデジタル変換が行われた影像を、……光ディスク……に連続して固定する機能を有する機器」となっていますから、「アナログデジタル変換」を行う機能を有しない「アナログチューナー非搭載機」は補償金制度の対象外となっているように見えます。つまり、同施行令第1条第2項第3号の「特定機器」が連続して固定するべき「影像」を「アナログデジタル変換が行われた影像」に限定することによって、「アナログチューナー非搭載機を除く」といった留保条件を付したものと解するのが常識的な法文の読み方ではないかと思われます。

 「政令の中身が、政令よりも下位に位置する『著作権課長による回答』で変更されることになる」ということの方が、法律の世界の秩序を無視したものであるように思われます。

 岸さんは、続けて、

 デジタルとネットは社会の便益向上のために不可欠であり、その普及を止めるべきではない。ただ、その普及は違法コピーや違法ダウンロードの激増、コンテンツ供給量の増大などをもたらし、ユーザーは多くのコンテンツをタダで容易に入手できるようになった。ユーザーにとってのコンテンツの価値は限りなくゼロに近づいてしまったのである。

 一方で、コンテンツは文化という社会の重要な価値観、インフラの一部であり、社会にとっての価値は不変である。その結果、コンテンツのユーザーにとっての価値と社会的な価値の間に大きな乖離が生じてしまった。それが社会的なコストに他ならない。

と述べた上で、

補償金はこの社会的コストを埋める役割をある程度果たしていたと評価できる

と結論づけるのですが、「アナログチューナー非搭載機のDVDレコーダー」って、「違法コピーや違法ダウンロードの激増」とは何の関係もないように思われてなりません。その本来の放送時間にゆっくりテレビ番組を視聴していられない人が、その番組をあとでYouTubeで見るのではなく、「アナログチューナー非搭載機のDVDレコーダー」を用いて自分で録画した上でこれを見ようという人に、「違法コピーや違法ダウンロードの激増」によって生じた「社会的コスト」を負担させようとすれば、反発を招くのは必至です。

 「違法コピーや違法ダウンロードの激増」により生じた「社会的コスト」を誰かに負担させたいのであれば、「違法コピーや違法ダウンロードの激増」により利益を得ている事業者に負担させる方がまだ筋が通ります。具体的には、無許諾に投稿されたコンテンツについてそのダウンロード回数に応じて一定の「補償金」の支払義務をYouTube等の動画投稿サイトの運営者に課す等の方法が考えられます(「補償金」を支払えば削除義務を免れるというのであれば、YouTube等の動画投稿サイトの運営者はむしろ歓迎することでしょう。彼らはただで他人のコンテンツを利用したいのではないですから。)。

Posted by 小倉秀夫 at 05:50 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

10/19/2009

マジコン問題は違法複製問題ではない

 mohnoさんが次のようなはてなブックマークコメントをしています。

匿名さんが責任を取らないから、西村氏の責任を追及したわけだよね? マジコンの違法複製問題も、違法複製当事者が責任を取ってくれれば、製造元の責任は問われないと思うよ。

 まあ、根拠のない話です。

 任天堂を中心とするギルドがマジコン訴訟でつぶそうとしたのは、彼らが製作したソフトウェアの違法複製物の流通ではなく、無償又は安価で提供される自主製作ソフトの流通です。違法複製物の流通を阻止するのであればもう少しマシな技術的手段が使えたと思いますが、実際には、任天堂に高額の上納金を支払うことを約束した企業が製作したソフトウェアしかDS上で稼働しないような技術的手段を敢えて講じたのです。

 例のマジコン訴訟の時は、任天堂らに対し、これまで違法複製物のアップローダーに対しどのような措置を講じてきたのかについての釈明を求めるとともに、アップロードサイトのドメイン保有者≒開設者の住所・氏名がwhoisデータベースにより入手できることを示し、違法複製物の流通を問題とするのであればマジコン自体を規制する必要はないことを示してきましたが、任天堂側はそのようなことには一切関心を持たず、一切の釈明に応じないという路線を貫いたのです。

 考えてみれば当然の話で、中国語で書かれた違法複製物のアップロードサイトをつぶしたところで、国内向けに流通させているソフトウェアの売上げに大した影響を与えそうにないのに対し、自主製作ソフトが広く製作され、流通されるようになった場合に、面白いソフト、役に立つソフトが、無償又は極めて安価に流通することとなることにより、商用ソフトが値崩れすることの方が、任天堂側に与えるダメージは大きいわけです(自主製作ソフトからは上納金が取れませんし。)

Posted by 小倉秀夫 at 02:15 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (1)

10/14/2009

Copyright and You

 コピライト2009年10月号が翻訳しながら引用するWIPR誌8月号によれば、カナダ政府は、2009年7月20日から9月13日までの間、著作権法改正への意見として、下記の事項につき、広く意見を求めたのだそうです(コピライトの訳文はこなれすぎているので、原文から翻訳し直してみました。)。


  1.  How do Canada’s copyright laws affect you? How should existing laws be modernized?(著作権法は、あなたにどのような影響を与えていますか。現行法はどのように近代化されるべきでしょうか。)

  2.  Based on Canadian values and interests, how should copyright changes be made in order to withstand the test of time?(カナダの価値および利害に基づいたとき、時の試練に耐える著作権の改革はいかにあるべきでしょうか。)

  3.  What sorts of copyright changes do you believe would best foster competition and investment in Canada?(どのような種類の著作権改革がカナダにおける競争と投資をもっとも促進するとあなたは考えますか。)

  4.  What sorts of copyright changes do you believe would best foster innovation and creativity in Canada?(どのような種類の著作権改革がカナダにおける技術革新と創造性をもっとも促進するとあなたは考えますか。)

  5.  What kinds of changes would best position Canada as a leader in the global, digital economy?(どのような種類の改革が、もっともカナダを世界的なデジタル経済におけるリーダーに立たせるでしょうか)。


 その結果寄せられたコメントを、こちらから閲覧することができます。しかも、寄せられたコメントに対して更にコメントを投稿できるようになっています。

 そして、カナダ政府は、FAQの冒頭に

Why is the government consulting on copyright? Why now?

という質問を用意し、

The current copyright legislation was enacted in 2001. It is important that any new legislation that is tabled not only reflect the current technological reality, but is also forward-looking and can withstand the test of time. The government is taking this opportunity to listen to Canadians about what is important to them on copyright.

と自答しています。

 日本政府も、折角政権交代したのですから、著作権に関して何が重要なのかということの意見募集を、一般の日本国民対象にしてくれないかなあと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 05:50 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

10/13/2009

中央大学法学部著作権法ゼミの2010年用入ゼミ選抜レポート

 中央大学法学部で担当している著作権法ゼミの、今回の選抜用レポートの課題は、下記のとおりとしました。


下記のテーマのうち一つを選んで下さい。

【テーマ1】 音楽産業がどのような措置を講じたら、音楽コンテンツに関して1年間にあなた自身が支出する金額を増大させることになると思いますか。

【テーマ2】 「Web3.0」と呼ぶに値するのはどのようなコンセプトでしょうか。


 この10年くらいコンテンツ産業側のいろいろな試みは拝見しているのですが、その試みによってコンテンツへの支出を増やす主体として自分を除外する議論には正直辟易していたので、【テーマ1】を出題してみました。

Posted by 小倉秀夫 at 01:57 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

10/08/2009

Winny事件第2審判決について

 Winny幇助犯事件に関して大阪高裁は、被告人を無罪とする逆転判決を下したそうです。

 「雨にも負けず風にも負けず」に大阪まで傍聴に行った落合先生のメモによると、

winny自体は価値中立的な、有用なソフトであるところ、このようなソフトの提供者に幇助犯が成立するかどうかについては、新しい問題であり、慎重な検討が必要である。当審(大阪高裁)における証拠調べの結果も踏まえると、winnyによる著作権侵害コンテンツの流通状況は調査、統計結果により差異があり明確ではないなどの事情が認められる。

被告人の行為は、価値中立的なソフトを提供した価値中立的な行為であり、提供されたソフトをいかなる目的でいかに利用するかは個々の利用者の問題であって被告人には予想できなかった。罪刑法定主義の観点からも、このような行為につき幇助犯が成立するためには、原審(京都地裁)が示したような、違法行為に利用されることを認識、認容していたという程度では足りず、提供された不特定多数が違法な用途のみに、あるいは主要な用途として違法に利用することを勧めている場合にのみ、幇助犯が成立すると解するべきである。

被告人は、違法な利用があり得ることの蓋然性を認識、認容してはいたが、違法な利用をしないよう注意するなどしており、不特定多数が違法な用途のみに、あるいは主要な用途として違法に利用することを勧めて提供していたものではなく、幇助犯は成立しない。

したがって、被告人は無罪である。

とのことです。これを見る限り、幇助犯の成否の判断基準は、Grokster事件米国連邦最高裁判所判決に近いように思います(Grokster事件米国連邦最高裁判所判決では、ベータマックス事件米連邦最高裁判決以来の「実質的な非侵害用途があるか否か」という基準に、「違法な利用を誘引していたか否か」という基準を加えて判断しています。)。

 この判決が仮に上告されることなく確定したとして、問題は、この判決は、中立的な行為による幇助における「幇助の故意」を厳格に解釈したものなのか、中立的な行為による幇助における「因果の相当性」を厳格に解釈したものなのかということになろうかという気もします。単に幇助の故意が否定されただけですと、その公衆に提供した「中立的道具」により、過失犯も処罰される法益侵害行為がなされた場合には、過失による幇助として処罰されうるのではないか、あるいは、「被害者」から損害賠償請求がなされた場合にこれが認容されるのではないかという問題が生じうるからです(後者については、下級審の、しかも刑事部における「幇助」の要件についての判示に、地裁知財部ないし知財高裁が拘束されるわけないではないかという批判は大いにあり得るところですが。)。

Posted by 小倉秀夫 at 02:54 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

10/01/2009

The Beatlesのリマスターとレコード輸入権

 リマスター版の「Abbey Road」のメーカー希望小売価格が2600円、Amazon.comでの販売価格が$11.99(約1080円)。価格差約2.5倍。あまり物価水準に差がないと文科省の役人が数年前に言っていた、日米間で、同じCDの価格差が約2.5倍。

 Amazon.comで、「Abbey Road」を並行輸入しようとしたときに、レコード輸入権侵害として、後で損害賠償請求されるのではないか、あるいは税関に輸入差し止めを食らうのではないか、とても心配です。

 あとは、リマスター版についても、独自に「国内において最初に発行された日」というのが設定されるのか、元のレコードの「国内において最初に発行された日」が援用されるのかによってくるのですが。

Posted by 小倉秀夫 at 10:24 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

09/26/2009

「こち亀」の終わり

 「こちら葛飾区亀有公園前派出所」実写版は,案の定だめだったようです。葛飾区民としては残念な限りです。

 主役の両津勘吉を香取慎吾氏に配した時点でだめだめなことはわかっていたわけですが,残念です。亀有→香取神社→香取慎吾という安易な発想では,もうだめなのです。

 なぜ,香取慎吾ではだめなのか,といえば,一つには,容姿端麗でないことが前提となっているキャラクターに容姿端麗であることが前提のアイドルタレントをあてているということがあります。もちろん,ロケ現場を見学に行こうという地元民のお目当てが香取慎吾ではなく速水もこみちに移っているので,もはや香取慎吾は「二枚目キャラ」ではないではないかとの反論があるのかもしれません。また,香取慎吾は,スマスマや「慎吾ママ」などで「三枚目」を演じてきたではないかという反論があるかもしれません。でも,三枚目キャラが演じられるということと,醜男キャラが演じられるということとは,明らかに違うのです。

 また,香取慎吾がジャニーズ事務所に所属しているという点も,香取慎吾ではだめな理由の一つです。なぜだめなのかというと,ジャニーズ事務所の頑ななネット拒否戦略のため,ネットを宣伝媒体として十分に活用できないからです。

 例えば,TBSのウェブサイトを見ると,第1話放送直前スペシャル企画として,「出演者の皆様の"生の声"を動画で紹介」するコーナーを設けていますが,肝心の,主役である香取慎吾の「生の声」は紹介されていません。さすがに「人物相関図」で香取慎吾のみを似顔絵にする愚こそ避けていますが,関係者のインタビューコーナーに主役である香取慎吾の単独インタビューは掲載されていない,準主役の速水もこみち,香里奈を交えての三者対談でも主役である香取慎吾だけ画像が掲載されていない,云々と,まあひどいものです。ひどいといえば,ゲスト紹介コーナーで,ジャニーズ事務所所属のタレントのみ画像が掲載されていないというあたりも,ひどいものです。いまどき,主役とメーンゲストがここまで露骨にネットを蔑んでいたら,視聴者にそっぽを向かれても仕方がないというべきでしょう。

 これらの点は,ジャニーズ事務所所属の芸能人を使わないおかげでネットとのコラボレーションが自由に行えている「天地人」と比べれば明らかです。NHKは,公式サイトに掲載する最初のインタビュー記事として,主役を演じる妻夫木聡の単独インタビューを掲載し,そこに何枚もの主役の画像を掲載するという,いわば番組宣伝の王道をネット上でも展開できています。「天地人」公式サイトのQ&Aコーナーによれば,

連続テレビ小説、大河ドラマの番組ホームページの作成にあたっては、「番組宣伝の目的で開設し、番組終了後は速やかに閉鎖する」というお約束で、出演者・関係者の皆様から開設・公開についての了承をいただいております。
とのことです。逆に言うと,この程度の肖像の利用すら了承できないタレントを使うのは,もうやめた方がいいのではないかという気がします。

 まあ,すでに「大企業病」が蔓延している民放キー局においては,「ジャニーズタレントを主役級に抜擢しておけば,キャスティングミスで責任をとらされることがない」くらいの感覚なのかもしれませんが。

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09/21/2009

日本企業は今後常に米国の後塵を拝していれば良い?

 日経BPの記事によれば,日経連は,

この著作権法改正を受け、「現状、ビジネスの観点からは、権利制限に関する一般規定を置く具体的必要性は、基本的に無くなった」とし、「今後、何らかの具体的必要性が生じた場合には、その時点で検討すれば足る」との見解を示している。

とのことです。なるほど,大企業の経営者たちが集まる団体がこの体たらくでは,日本がこの20年間経済成長から取り残されるのも宜なるかなといったところです。

 日経連としては,起業家たるものは,著作物を公正に利用するビジネス手法を思いついたとしても,それが形式的に現行著作権法に抵触する場合には,文化庁の役人または政権与党にロビー活動を行いそのようなビジネスの具体的必要性を納得させてそのビジネスが明確に射程範囲に含まれる権利制限規定を創設させてから,そのビジネスを実行すれば足りるのだとお考えのようです。

 そこでは,素晴らしいアイディアと実装能力のある若者たちが著作物を公正に利用する新たなビジネス手法を思いついたとしても,文化庁の役人または政権与党にロビー活動を行う資金力と人脈がない限り,そのアイディアを実装したビジネスを行うことは許されないということになります。そして,おそらくは,文化庁の役人や政権与党にそのビジネスを適法化する個別の権利制限規定を創設する「具体的必要性」が生じたと納得していただくためには,米国等で既にそのビジネスが行われて世界的なシェアを獲得する企業が現れた後になるのではないかと思われます(実際,立法府が検索エンジンの具体的必要性を認めて,これを適法化する個別の権利制限規定を創設するのに,10年以上の月日がかかったのです。)。すなわち,日経連としては,著作物を公正に利用するビジネス手法に関していえば,日本企業は今後常に米国の後塵を拝していれば良いということを言っているのだということになります。

 あるいは,ベンチャー企業が素晴らしいアイディアを思いつき,ベンチャーキャピタルなどから資金を集めてそのアイディアを実装すべく準備している段階で,そのアイディアの実行を適法とする個別の権利制限規定を創設する必要性を立法府が汲み取って早急にそのような規定を創設してくれるというのであれば,「何らかの具体的必要性が生じた場合には,その時点で検討すれば足りる」かもしれません。が,いくら政権が変わったからといって,立法府がそんなに機動的に動けるとまで信頼するのって無理があると思えてなりません。

Posted by 小倉秀夫 at 02:40 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

09/19/2009

日本版フェアユースに関する議論の出発点

 日本版フェアユースに関するシンポジウムが盛んに行われているようです。ただ,tsudaられたものを見ている限り,議論の出発点が違うような気がします。


 そもそも,著作物の「公正な利用」までも禁止する権限を著作権者に付与することは,そもそも憲法上許されるのだろうか。
仮に許されるとして,著作権法の根本目的との関係で合理的なのか。


 議論の出発点はそこにあります。著作物の「公正な利用」までも禁止する権限を著作権者に付与することは憲法上許されない又は著作権法の根本目的との関係で合理的ではないということが承認されれば,次は,著作権者に禁止権を付与すべきでない「公正な利用」を全て適法とすべく権利制限規定を適切に立法する能力が立法府にあるのかということが議論の対象となります。すなわち,立法府にそのような能力があるということであれば抽象的・包括的な権利制限規定たる日本版フェアユースは不要だということになりますし,立法府にはそのような能力はないということになれば,日本版フェアユースは必要だということになります。

 そういう意味では,日本版フェアユースの要否というのは,制定法を違憲無効とする制度,とりわけ適用違憲とする制度の要否と似ています。常に適切に例外規定を設けて過剰規制を回避する能力が立法府にあるのであれば適用違憲などという「予測可能性が乏しい」制度は不要ですが,実際にはそうではないので,適用違憲という仕組みが認められています。現在のところ,予測可能性が乏しいから,あるいは,弁護士に多額を報酬を支払わないと権利主張を行うことができないから,という理由で適用違憲という仕組みを認めることは許されないと主張している法律専門家はほとんどいないようです。

 さらにいえば,その著作物の利用が「公正利用」にあたると裁判で主張するには時間と費用がかかるといってみたところで,その利用を適用対象とする権利制限規定を創設してもらうべくロビー活動を行うのに要する時間と費用と比べたら,よくよく安上がりです(おそらく,桁が一つから二つ違います。)。従って,「裁判闘争には時間と費用がかかる」ということは,日本版フェアユースを創設しない理由とはなりません。それは,「裁判闘争には時間と費用がかかる」ということが,裁判所による違憲立法審査を認めない理由とならないのと同様です。

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08/18/2009

ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会

 久保田裕さんがまた「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会」なる団体を立ち上げたようです。

 でも、こういう団体を立ち上げるのであれば、MIAU等の利用者団体にも声を掛けるべきだったのではないかなあと思います。特に、WinMXのディープユーザーへのインタビュー経験豊富な津田さんを中に入れないだなんて、もったいないなあと思います。更にいえば、私ならば、Winnyの金子さんにも声を掛けるけどなあと思います。この発表されているメンバーだけだと、ファイル共有ソフトの利用者の実像を過度に醜悪なものとする認識を共有してしまうがために、彼らの心理にあった有効な対策を打ち出せないような気がします。

 さらにいえば、このメンバーの中に法律屋さんが含まれていないことも問題でしょう。

Posted by 小倉秀夫 at 05:31 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

新設著作権法第30条第1項第3号の解説

 新設著作権法第30条第1項第3号の解説を、SOFTIC LAW NEWSに寄稿しました。

Posted by 小倉秀夫 at 05:06 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

ダウンロード違法化の具体的な問題点

 高木浩光さんとMIAUとの関係が少々険悪になっているようで、心配です。

 MIAUについてはいろいろな批判があるのは分からないでもないし、私はMIAUが有害コンテンツ関係や児童ポルノ関係に手を出すのは戦略的に拙いなあと思いはしますが、自分が会員にすらなっていない団体がどの領域に主たる関心を示し、どの領域に関心を示さないかについてとやかく言ってみても始まらないので、その点は基本的に静観しています。

 Googleとプライバシー権の関係一つとっても、高木さんはストビューの問題に関心を持っているのに対して、私は、グーグル検索(ウェブ検索のみならず画像検索を含む)によるプライバシー情報の拡布の問題に関心を持っているというように、関心のあることがそれぞれ異なるのだから、その問題に強い関心を持っている人がその問題に関して動いていくしかないように思ったりしているからです。

 もちろん、MIAUは、入会資格をオープンにしているという程度しかインターネットユーザーを代表する資格の担保をしていないわけですが、インターネット利用者の匿名性が強く保証されている現状でそれ以上の代表資格の担保を求めると、結局、どこもインターネット利用者の代表者たる資格はないという話にしかならないような気がします。そして、それは結局、インターネット利用者の声など、審議会等で聞く必要はない(いや、聞いた方がよいと思うのだが、聞く手段がない)という話になっていきそうです。

 その上で、ダウンロード違法化との関係について若干言及すると、高木さんは、

Winny等はその仕組み上、ダウンロードすると同時にアップロードする(送信可能な状態におかれる)ようになっており、そのことをよく知らない大量のネット中級者が無差別にファイルを溜め込んで送信可能な状態においていることが、違法コンテンツ流通蔓延の原因になっている。ネット上級者であるMIAUの人達ならよく知っていることだろう。

アップロードを自覚しないWinny利用者らは摘発できない(故意が認められない)のだから、津田代表理事が言うように「アップロードの摘発をもっと効率的に行うべき」であるなら、Winny等の利用者に向けて、「あなたがやっていることはアップロードですよ」という注意喚起をしたらいいのに、MIAUはそういうことをやらないのだろうか。MIAUは、インターネットリテラシ読本作成のプロジェクトも活動の柱の一つとしているのだから、そうした啓発活動をするのも本来、自然なはずではないか。

仰るのですが、民事的に、不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償請求をする分には、Winny利用者に故意がなくったって大丈夫なのですから(過失なしとはいえないでしょう。)、権利者側に「摘発」する気があれば摘発できます。民事上の発信者情報開示請求手続が正常に機能しているのであれば、権利者が、その手続を利用して発信者を突き止めて損害賠償請求権を行使するというのが本筋だと思うのです。いきなり警察がやってきて一罰百戒とばかりに逮捕→起訴→失業→執行猶予という制裁を、アップローダーのごくごく一部に加えるよりはよほどましかなあと。

 そういう意味では、権利者側が「発信者情報開示請求→アップローダーに対する損害賠償請求」に踏み切らない理由が発信者情報開示請求制度の中にあるのであればそこを改善すれば良いではないかというのは、分かりやすい話ではないかと思うのです。そして、「Winny等はその仕組み上、ダウンロードすると同時にアップロードする(送信可能な状態におかれる)ようになって」いることすら理解していないライト感覚のInfringerは、IPアドレス偽装とかそういうことにも頭を使っていなさそうなので、権利者側からすれば簡単に「摘発」できるはずなのになあと思ったりします(真実性の抗弁が成立しないことの立証まで求められる名誉毀損事例と比べると、遥かに簡単だと思ったりします。)。

 で、アップローダー規制だと、アップローダーの共有フォルダに蔵置されているファイルに蔵置されている著作物等のみが被侵害著作物となるので、アップローダーの共有フォルダは通常公開されている以上、アップロードに用いられているコンピュータのハードディスク自体を検証する必要がないのに対し、ダウンローダー規制の場合、アップローダーではない純粋ダウンローダーに対して権利行使をする場合は、被侵害著作物の全容を明らかにするためにはダウンロードに用いられているコンピュータのハードディスク自体を検証しなければならず、その過程でダウンローダーのコンピュータ・プライバシーは全て権利者側に筒抜けとなるのです。そして、権利者の一極は、テレビ局という報道機関であり、そのような報道機関に自分のプライバシー情報が丸裸にされるわけです(しかも、それらの情報の目的外使用を禁止する条項はありません。)。

 だから、ダウンローダー規制の旗を振ってきた松田政行弁護士だって、ダウンローダー規制を新規立法しても大した弊害がないということを説明するためには、そのような法規制ができても権利者は権利行使しないから大丈夫だという話をするしかなかったわけです。で、新規立法によって可能となった権利が権利者によって行使された場合に、メディア企業によるプライバシー侵害等の弊害を何ら抑止できない、そういう立法について「具体的な問題がない」といってしまうのは、私は抵抗を感じます。

Posted by 小倉秀夫 at 12:33 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

08/06/2009

対案や妥協策の提示がなかった理由

 高木浩光さんがMIAUの中川さんをはてブコメントで非難する過程で,

これはMIAUの活動の話かな?ダウンロード違法化反対運動と児童ポルノ単純所持処罰化反対運動はまさに「考えられる危険性をリスト」しまくったあげく対案や妥協策の提示がなかった。そもそも何のための反対なのか。

と述べています。

 JASRACやテレビ局に個々人の使用しているパソコンのハードディスクの内容を検証する権限を付与する「究極のプライバシー侵害」法である「ダウンロード違法化」について,どんな対案や妥協策を提示すべきだったというのか,はなはだ疑問です。改正法案を作る前から,改正法が成立しても,改正法により行使可能となった権利を行使しないと,ロビー活動を行った側の弁護士が表明(あくまで弁護士しか表明していないことに注意。レコード輸入権のときは業界団体の長が不行使宣言をしたことと対比すべき。)せざるを得ないほど,この改正法により可能となるプライバシー侵害の度合いは大きいのです。それに,「考えられる危険性をリスト」しまくったといわれても,権利者側に証拠がない場合に証拠保全等による公的な証拠収集手続がとられる可能性があると考えるのは,法律実務家からすると当たり前の感覚であって,「証明が大変だから,権利行使は実際にはなされないので,安心せよ」みたいな言い方に疑問を提示するのは「考えられる危険性をリスト」しまくったといわれるほどのことなのか,大いに疑問です。

 もちろん,実際の条文案が公開されてからは,想像以上にずさんな条文を改善する方向で提案をすることは可能だったかもしれないですが,ただ,レコード輸入権のときとは異なり,改正法の目的自体が私たちのコンピュータ・プライバシーとは相容れないので,いくら条文案を手直ししても,さしたる意味はありません(解釈上不明確な点を明確化できる程度のお話です。)。

Posted by 小倉秀夫 at 02:30 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

08/01/2009

違法コピー現象の立役者

 NBLの2009年7月15日号では,ACCSの久保田裕さんの巻頭コラムも掲載されています。

 もっとも,日本におけるソフトウェアの違法コピー率の低下をさもACCSの手柄のようにいうのは正確さを欠くかなあという気がします。

 日本において,ソフトウェア,とりわけビジネスソフトの違法コピー率が低下した最大の要因は,違法コピーをする必要がなくなったということにあります。

 私のゼミ生などはほぼその時代のことを知らないわけですが,昔は,たかだかワープロソフト1本で定価9万8000円など当たり前という時代があったわけで,そういう時代においては,比較的金銭的なゆとりのある企業においても,社内のパソコン1台につき1パッケージを購入するように社内的に申請を出すことはかなり抵抗感を感じざるを得なかったわけです。ところが,最近は,オフィススイートが非常に安くなりましたし,さらにパソコンにプリインストールされて提供されることが増えてきました。こうなってくると,例えば,Win系のパソコンを導入する場合に,MS OFFICEのプレインストールされているものを導入するように社内申請を行うことに,従業員はさほど抵抗を感じずに済みます。すると,わざわざ,「違法コピー」する必要がなくなるわけです(だから,今でも十分高いアドビ系のソフトは,今でも違法コピーの対象となりやすかったりします。)。

 また,ビジネスで通常利用するソフトウェアが固定化してきたために,アーリーアダプターな同僚が使用しているソフトを──どうも便利そうなので──試しにインストールしてもらうみたいなこともかなり少なくなってきているのではないかと思います。もちろん,「痒いところに手が届く」ようなニッチなソフトは今でも栄枯盛衰は激しいのですが,そういうのって,フリーウェアかシェアウェアだったりするではないですか。

 そういう意味では,ソフトウェアの違法コピーを減少させる最大の方策は,正規商品市場を成熟化させることにあったということになるのだろうなと思ったりします。

Posted by 小倉秀夫 at 07:30 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

07/31/2009

ヴェルヌ?

 NBLという企業法務系の法律雑誌は、巻末に「惜字炉」というコラムを掲載しています。2009年7月15日号の「惜字炉」は、「憂国の啓明子」という方による「グーグルのライブラリプロジェクト和解案が投じた、一つの法的争点」と題するコラムです。

 そのコラムを読んでいて、一つどうしても気になってしまうことがあります。ベルヌ条約を、わざわざ、

ヴェルヌ条約

と記載しているのです。それも、一度ならず二度もです。

 「ベルヌ条約」は、英文表記では「Berne convention」ですから、「ヴ」という表記を認める見解に立ったとしても、「ヴェルヌ」とは書きません。「海底二万里」の作者「Jule Verne」であれば「ヴェルヌ」というカタカタ表記でも良いのですが、「Berne」を「ヴェルヌ」とカタカナ表記するのは明らかに間違っています。

 「Berne」の語源がドイツ語で「熊」を意味する「Bär」に由来しているということを思い出せば、「V」ではなく「B」から始まるのだと見当がついたと思うのですが、社会人になると、学生時代に勉強したことは忘れてしまうものですね。

Posted by 小倉秀夫 at 04:11 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

07/21/2009

「情を知って」から「事実を知りながら」への変更

 いろいろなところで、改正著作権法の解説を!という要請があって色々頑張っているところです。

 ところで、ダウンロード違法化を導入するにあたって「情を知って」という条件が付されるから大丈夫だみたいな言い回しが随分広く行われていたような気がするのですが、実際の改正案では「情を知って」ではなく「事実を知りながら」という文言が用いられています。

 「事実を知りながら」という文言は、第30条第1項第2号でも用いられていますが、あちらでは、その行う複製が、技術的保護手段の回避を行うことにより可能となり又はその結果に障害が生じないようになったものであるということを知っているか否かが問題となるので、「事実を知りながら」でもよいと思うのですが、第3号の場合、その受信する自動公衆送信が著作権を侵害するものか否かということが問題となるので、その送信行為を違法な自動公衆送信であると裁判所が相当の確度で判断するであろうというところまで知っていたかを問題としないとまずいのであって、そうだとすれば第113条第1項第2号のような「情を知って」の方がよかったのではないかという気がします。例えば、「MYUTA」事件の場合、その受信する音声データの送信元が何をやっていたのかということをその受信者は知っていたかも知れないけれども、それが著作権を侵害する自動公衆送信にあたるという法的評価はおそらく知らなかったのであって、そのような場合、「事実を知」らなかったとしてもらえなかったら、利用者保護に全然ならないよなあという気がどうしてもしてしまいます。

Posted by 小倉秀夫 at 10:20 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/29/2009

ウェブ魚拓

 私のブログのエントリーについて大量にウェブ魚拓している人がいるようなので、「ウェブ魚拓の考え方」と題するページを見ていたのですが、複製権侵害または公衆送信権(送信可能化権を含む)侵害を主体的に行いまたは幇助しているのではないかという疑問に対して答えていないという時点で、予防法務的には絶望的だなあと思ったりします。

 サービスの特性上、その著作権者から削除要求がなされたときに削除するというふうにはしがたいのかも知れませんが、それをしないと、プロバイダ責任制限法第3条第1項の免責は受けられませんし、「丸ごとコピー&主たる著作物なし」では著作権法第32条により適法とされることもまずあり得なさそうです。

 サービスの特性上、その著作権者を攻撃する目的で活用されることが予定されているのに、その著作権者からの「著作権侵害だ!」という攻撃に対し無防備でいるというのは、如何なものかなあと思ったりします。

 このサービスを続けるのであれば、怒りの矛先が魚拓者に向かうように、魚拓者のIPアドレスを標準で表示するようにしておくところからはじめないと厳しいかなあと思ったりします。

Posted by 小倉秀夫 at 01:28 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/26/2009

翻案権侵害の例

 中央大学での著作権法のゼミで、

問6 下記文章のA~Fに適切な語を入れて下さい。

「AのBという楽曲のうちCと歌っている部分は、DのEという楽曲のうちのFという歌っている部分の歌詞/曲の『表現上の本質的な特徴の同一性を維持』 しており、その『表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる』ので、翻案権侵害に当る。」


という課題を出したのですが、どのような答えが返ってくるのか楽しみです。

 もちろん、

問5 「料理の鉄人」と同様の料理バトル番組を、「料理の達人」というタイトル名で制作し、放送することは許されるか。どのような点につき「料理の鉄人」を真似たら、フジテレビの著作権を侵害することとなるでしょうか。
等普通の課題も出してはいます。

Posted by 小倉秀夫 at 11:47 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/22/2009

国立メディア芸術総合センター(仮称)

 里中満智子さんが次のように述べています。

マンガは“原画の収集・保管”が難しい。既に本として見られない物もあるし、失くしたくない、文化遺産としてのマンガ原稿がたくさんありますが、作者が亡くなった後、散逸してしまう事もあります。散逸の危機にあるマンガの原稿を保存する、劣化したマンガの原画を修復するなど、公的な施設でしか出来ない事をやるべきです。

関連してその原画の作品がどういう作品なのかという事をアーカイブで見せるという事が有効です。国立メディア芸術総合センター(仮称)がその窓口機能を担って、既存の施設とうまく連携して行ければといいと思います。

 この種の資料館作りをする上での最大の関門は如何に遺族(の一部)の反対に遭わないようにするかということなのですが(遺族全員の承諾がなければ,散逸の危機にあるマンガの原稿を保存する、劣化したマンガの原画を修復する,デジタルアーカイブを作成するということはできないのですから。),国立メディア芸術総合センター(仮称)構想の中に,そのような遺族の権利を制約していこうという発想まで含まれているのかというと大いに疑問です。そこをクリアしないと,箱物はできたけど,箱物の中身はがらんどうということだって十分あり得るのです。

 もちろん,生前に預けたっていいのですが,国立メディア芸術総合センター(仮称)が完成したら,自分が保管している原稿を無償で寄贈し,その修復やデジタルアーカイブ化を無条件で許可・同意するという漫画家がどれだけいるのかというと,結構疑問だったりします。しかも,権利自体は漫画家個人ではなくて,法人が有している場合が少なくなく,その場合,その種の法人は漫画家が死んだ後もスタッフで続編作って喰っていこうとする傾向があるので,そうなると,原稿だってなかなか手放さないのだろうなと危惧したりします。

 国立メディア芸術総合センター(仮称)の箱物を設計する前に,その辺の覚悟の程を,漫画家たちが示すのが先ではないかと思ったりします。

Posted by 小倉秀夫 at 02:07 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (4) | TrackBack (0)

06/21/2009

JASRAC寄付講座

 昨日は,早稲田大学法科大学院で行われている著作権法の特別講義にゲストスピーカーとして呼ばれ,上野達弘先生と一緒に,間接侵害についてお話ししてきました。いや,JASRACの寄付講座で私をゲストスピーカーに呼び,しかも間接侵害について語らせてしまう上野先生の剛毅さというのが光っています。

 そのあとは,学生の有志とともに,西北の風(大隈記念タワー15階)で軽く雑談をしてきました。

Posted by 小倉秀夫 at 10:14 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1)

06/20/2009

芸術・技術分野の知識

 6月22日締め切りの判例解説の初稿を完成させて,今日,編集者に送信しました。

 前回のゼミの課題として,プロデューサー,監督,撮影監督,美術監督がその実体験について書いた書籍を読んで,プロデューサー,監督,撮影監督,美術監督というのは,どのようにして映画の著作物の全体的形成に寄与するのかをレポートしなさいという課題を出したわけですが,著作権法の難しさの一つは,法律の条文や判例や学説をいくら勉強しても,その対象となる芸術・技術分野についてもそれなりに勉強していかないと,何が何だかよくわからないというところです。もちろん,新司法試験にパスするだけなら,基本書に書いてあることをきちんと身につければ何とかなると思いますが,実務的にはそこで止まってしまう人は厳しいわけです。

 「舞踊の著作物」について創作的な部分が共通しているといえるか否かという問題についていえば,例えば,長い歴史を持つクラッシックバレエや花柳流舞踊等において,「振付け」のレベルで創作性が加わるとはどういうことなのかということを議論しなければならず,それは,バレエ等の舞踊を実演することや鑑賞することを趣味とはしない私には非常に難しい問題です。一応,舞踊等に関する文献等を読みはするものの,果たして,それほど外すことなく理解できたといいうるか,その道に通暁した読者の評価を仰ぐより他ありません。

Posted by 小倉秀夫 at 01:22 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/10/2009

海賊党,躍進

 以前ご紹介した海賊党ですが,とうとう欧州議会で議席を獲得したとのことです。

 スウェーデン票の7.1%を獲得とのこと,立派なものです。7%といえば,前回の日本の参議院選挙でいえば,共産党とどっこいどっこい,社民党の倍近い得票率です。少なくともスウェーデンでは,著作権法はそこまで嫌われているということです。

Posted by 小倉秀夫 at 01:56 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/08/2009

Twitter Squatting

 ABA Journalによれば、セントルイス・カージナルスのTony La Russa監督が、自分の名前を騙ったTwitterページが作成されているので削除せよと要求したのに拒否されたとして、Twitterを訴えたようです。

 同ジャーナルによれば、請求の原因として、" trademark infringement, cybersquatting and misappropriation of likeness and name"といったものをあげているようですが、日本法の感覚だとどれも厳しそうな気がします。Twitterの場合、「商標的使用」からは遠そうですし(具体的な商品やサービスと結びついていれば別ですけど。)。

 偽Tony La Russaがつぶやいた言葉次第によっては、名誉毀損が成立するかなあとは思います(実在の女性の名前を騙って、卑猥な内容を掲示板等に投稿したりするのと、同レベルの話として。)。

Posted by 小倉秀夫 at 04:57 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/03/2009

Farewell to "Pretty Woman"?

 衆議院を通過し、参議院にかかっている著作権法改正案が可決成立したら、FairUseにあたるとしてそのアップロードが適法となっている楽曲(例えば、2 Live Crewの「Pretty Woman」)をiTunes Store等でダウンロードする行為も違法になってしまうのでしょう。

 少なくとも、この種の利用まで「公正利用」に含めるフェアユース規定が日本の著作権法に導入されるまでは、です。

Posted by 小倉秀夫 at 10:15 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/31/2009

他人に迷惑をかけなくてもアンフェア?

 昨日のエンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワークのシンポジウムは盛況でした。

 当日の私の質問は,結局,(著作権者の許諾を得ない)著作物の利用が「フェア」であるか否かの判断基準に関するものでした。その利用が,著作権者による著作物を通じた投下資本の回収可能性を阻害しないような利用(三田先生の挙げた例に則していえば,問題集を発行する出版社が,どの問題を問題集に掲載するかを検討する資料として,入試問題を社内サーバに蓄積する行為)って,アンフェアなのでしょうか,ということでした。

 私たちは,他人に迷惑をかけずに,別の他人の利益になることを行っている場合にも,それは「フェアではない」として制裁を受けなければならないのか。それは,公共の福祉に反しない限り自由な行動が許されるとする日本国憲法下のルールとして適切なのかという問題でもあります。「あちら側」の人の意識というのは,よくて「著作権法」によっていくらでも国民の自由を制約することができるという明治憲法的意識にとどまっているのではないかと思うことがあります。

Posted by 小倉秀夫 at 12:55 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

05/28/2009

「Tsudaる」問題

 ゲームラボの7月号のコラムで、「Tsudaる」問題を取り上げてみることにしました。

 さっき初稿を送信したばかりなのでどうなるか分かりませんが、端的に言うと、「営利目的バリバリのシンポなどについては、やり方次第で結構グレイ」といったところでしょうか。

Posted by 小倉秀夫 at 02:47 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

05/18/2009

「フェアユースは本当にフェアか!? 」シンポジウム

 私も所属しているエンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワークで、「フェアユースは本当にフェアか!? −フェアユースが著作権にもたらす論点分析—」というお題でシンポジウムを5月30日に開催するとのことです。

 基調報告が、モリソン・フォースター(伊藤見富)の古島ひろみ弁護士と、文化庁の川瀬真さん、パネリストが、上野達弘・立教大学准教授、
菅原瑞夫・社団法人日本音楽著作権協会常務理事、田村善之・北海道大学教授、丸橋透・ニフティ株式会社法務部長、三田誠広・社団法人日本文藝協会副理事長、ということで、「こちら側」がいないことを除けば、豪勢な布陣ではあります。

 これだけの陣営を揃え、かつ、シンポジウム終了後懇親会まで開くのに、何と参加費が無料です(同じ日に行われる「アゴラ」のシンポとは、大違いです。)。

 伝統的に、知財系は、懇親会等では「あちら側」も「こちら側」も紳士的に交流するのが常ですので、フェアユース問題に関心のある方は参加してみては如何でしょうか。

Posted by 小倉秀夫 at 07:17 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/16/2009

著作権法学会(周辺領域)

 先ほど,著作権法学会から帰ってきました。

 こういう学会は,研究大会に出席し,さらに懇親会に出席してこそ意味があります。

 ということで,いろいろなアイディアを頂きました。

Posted by 小倉秀夫 at 11:13 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/13/2009

サーブがまずすべきこと

 地上デジタル放送専用のDVDレコーダーについて,東芝及びパナソニックが私的録音録画補償金を上乗せして消費者から徴収しないこととしたとのニュースが話題になっています。

 私的録音録画補償金については,法の建前上は支払義務者は機器等の購入者であるのに,権利者団体は機器等の購入者である消費者からなる団体と協議して,私的録音録画補償金の支払い義務を生ずる機器等の範囲について合意を形成する努力を怠ってきたわけですから,いずれこういう動きにはならざるを得なかったのだろうと思います。私的録音録画補償金の支払い義務を生ずる機器等に該当しないものについて,該当すると誤信して私的録音録画補償金相当金を上乗せして消費者から徴収してサーラやサーブに支払ってしまい,後にその機器が私的録音録画補償金の支払い義務を生ずる機器等に該当しないことが明らかになった場合,ややこしい問題となりうるからです(各製造業者がサーラやサーブから支払い済みの補償金の返還を受けて,これを消費者に返却することになるのでしょうか。その場合,返還に伴う事務経費を専ら負担するのはメーカーっぽいです。)。

 そして,私的録音録画補償金の支払い義務を生ずる機器等の範囲を定める著作権法施行令第1条では,媒体に固定される音・影像が,特定の標本化周波数で「アナログデジタル変換」されたものであることが私的録音録画補償金の支払い義務を生ずる機器等の要件となっているところ,最初からデジタル方式で受信してそのままデジタル方式で影像を録画する地上デジタル放送専用のDVDレコーダーに関して,それが特定の標本化周波数で「アナログデジタル変換」された影像を録画するものである(それゆえ,私的録音録画補償金の支払い義務が購入者に生ずる)ということを,サーラもサーブも,購入者が納得できる形で説明できていないわけです。といいますか,自説の結論だけをそのウェブサイトに記載しているだけで,著作権法施行令第1条との関係でそれらの機器がどうして私的録音録画補償金の対象となるのか,筋道を立てて説明を行っていません。購入者から説明を求められたときの理屈の組み立てまで丸投げされたのでは,メーカーが匙を投げるのも宜なるかなと言ったところです。

 そういう意味では,サーブがまずやるべきことは,MIAUや主婦連等の消費者団体にコンタクトをとって,私的録音録画補償金の支払い義務を生ずる機器等の範囲について,コンセンサスを得ることではないかと思います。

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05/02/2009

何も畏れることはない

 朝日新聞によれば,

インターネット検索最大手の米グーグルが進める書籍検索サービスについて、詩人の谷川俊太郎さん、作家の三木卓さんらが30日、東京都内で記者会見し、著作権侵害の恐れがあると危機感を訴えた。

とのことです。

Google Inc.も,著作権者が検索サービスに組み入れるなと明示的に意思表示をしているものについてそれでも組み入れてやると言っているわけではないのですから,和解した上で,検索データベースからの作品の削除を申し出ればいいだけであって,何も危機感を覚える必要はないのではないかという気がします。むしろ,和解から離脱することにより,終局判決において,書籍データベースでの書籍データの利用はフェアユースにあたるという判断が下される可能性だってあるわけですから,検索されたくないのだったら,和解に乗った方がいいのではないかという気がしなくはありません。弁護士からどういうレクチャーを受けているのかわからないのですが,書籍データベースへの組み込みのために複製・翻案って,検索結果の出力さえ工夫しておけば,正規商品たる書籍と代替性のないものとすることが可能ですので,フェアユースにはなりやすいように思ったりはします。

 CNet Japanによれば,社団法人日本ビジュアル著作権協会は,

弁護人を立て、米国の出版ルールに即した今回の和解案ではなく、ネットでの利用方法や利用料の分配について、日本の慣行に即したルールづくりを目指し、独自にGoogle側と交渉を進めていく意向を明かしている。

とのことです。

 「日本の慣行に即したルールづくり」って,同種のサービスが日本で行われていない以上どこにいったら「日本の慣行」とはなんぞやがわかるというのか,訳がわかりません。書籍の貸与権のときに現れた,「著作権者でも,著作隣接権者でもない,著作権法上は何らの排他的権利をも有しない出版社に相当の分け前を与える」っていう,根拠不明のルールに従えということではないことを望むばかりです。それって,出版社としての優越な地位を悪用した,(法律の原因に基づかない)単なる搾取なのではないかと思えてなりませんし。

Posted by 小倉秀夫 at 02:35 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2) | TrackBack (1)

04/29/2009

disrespect

 現代の日本には,弁護士が代理人として内容証明を出すまでアーティスト等に約定の印税を支払わないレコード会社や音楽出版社が多すぎるような気がすると,そのような代理人の一人である私は思ったりします。

 権利者団体の人たちは,自分たちの構成員こそがアーティスト等をdisrespectしていないか,きちんとチェックした方がよいのではないかという気がしたりします。

Posted by 小倉秀夫 at 12:09 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

04/25/2009

出版権の内容

 mohnoさんがそのブログで次のように述べています。

福井氏の話で注目したのは、「日本の著作権はあいまいなので、出版社も著者も明確な対応ができずにいる」「現状は、とりあえず和解に残留した上で、数年をかけて明確化していくべき。」「今回のは第1ラウンドで、この先の第二ラウンドに期待している」といったところ。だが、後述のとおり「あいまい」ですませていることが問題を引き起こす可能性もあると思う。

さて、これが、どういう流れだったかというと、まず福井氏が「出版社には契約によって出版権があるけれど、インターネットで配信する場合の権利はあいまい。電子出版が明記されている例は、少ない。そういうあいまいさが、対応を難しくしている」という話をされていた。私はインターネット配信も「出版権」の一部だろうと考えていたから、「出版権とインターネット配信が別個のものとして考えうるというのは意外だった」というところで、「別個とは言っていない。そういう理解になるのかわからない」という話になってしまったわけだ。

 著作権法上の「出版権」についていえば,設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利(著作権法80条1項)と定義されているので,インターネットで配信する場合を含まないことははっきりしています(著作権法上の「頒布」は複製物を公衆に譲渡又は貸与することを言いますから。)。

 もちろん,出版契約に付随して,「出版権」の枠外の利用行為について許諾を受けることは可能であり,契約において明記されていれば,インターネット配信に関しても,排他的又は非排他的な利用許諾を受けることは可能でしょう。明記されていないときはどうかといえば,利用方法を特段限定しない利用許諾契約ならばともかく,出版権設定契約においてインターネット配信に関する利用許諾が契約書上に明記されていなかったら,別途明示的な意思表示がない限り,インターネット配信については許諾を受けていないと見るより他ないでしょう。

 実務的にも,少なくとも私が著者として関与している出版社に関しては,インターネット配信をするにあたっては私の許諾を別途取りに来ています。

 もっとも,Google Book Searchの例のクラスアクション和解への日本文芸家協会の対応で理解しがたいことは,何で協会で弁護士を雇ってGoogleへの回答書のひな形を作らせて会員に頒布する程度のことをしないのかということです。回答のパターンはそんなにたくさんないのだから,費用もそんなにかからないと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 02:39 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (3) | TrackBack (0)

Pirates Bay訴訟はやり直し?

 Pirates Bayの創業者たちがスウェーデンの裁判所で実刑判決を受けたというニュースは日本でも注目されましたが,この記事によれば,その裁判はやり直しになるかもしれないとのことです。

 というのも,この裁判に関与した裁判官の一人であるTomas Norstroem判事が,映画会社やレコード会社もメンバーとなっている著作権保護協会のいくつかに所属していることがラジオ局にすっぱ抜かれたからです。Norstroem判事自身は,自分はそのことによって偏ったことはないと言ってはいるようですが,個人的な利害と対立する可能性がある事件については,「公正な裁判」に対する信頼を守るという意味からも,自ら「回避」すべきではあったといえるでしょう。

Posted by 小倉秀夫 at 01:38 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

04/22/2009

「代表なくして課金無し」

 今年度の文化審議会著作権分科会の基本問題小委員会は,エンドユーザーの意見など斟酌しない方向で委員の人選を行ったようです。

 「代表なくして課税無し」という標語に象徴されるように,ある種の集団に不利益を課す制度変更を行うに際して,その決定過程からその集団の代表を排除しようということは,民主主義社会においてはそれ自体が悪徳です。だから,私たちは,まず私たちの代表を「著作権法」というアンシャンレジームにより人民から搾り取ったお金で不労所得をむさぼる「著作権貴族」たちとほぼ同数の代表を受け入れるように要求していくところから始めていくのが筋ではないでしょうか。そういう意味では,JEITAもMIAUも,自分たちの代表を受け入れよと文化庁に要求すべきだと思います。そして,彼らがその受け入れを拒むときは,「貴族部会」が「著作権貴族」の利益にのみ腐心した議論を行うのと並行して,私たち「第三身分」で著作権法に関する「国民議会」を立ち上げていくことすら必要になっていくのではないかという気がします。

 昔の国王にあたる立法府が,「貴族部会」の結論と「国民議会」の結論のどちらを尊重するのか,予断を許しませんが。ただ,「国民議会」を,そして「第三身分」をリスペクトしなかった某国王がどういう運命をたどったのかは,歴女でなくとも常識に属する範囲の事柄です。もちろん,今日物理的に「ギロチン刑」にかけるということはないのでしょうが,既に「第三身分」は,選挙権という細分化された,社会的な「ギロチン」をもっているのです。

Posted by 小倉秀夫 at 02:30 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

04/15/2009

一太郎の終わりの始まり

 「一太郎」で知られるジャストシステムがキーエンスの傘下に入ったというニュースは、今や昔といったところでしょうか。

 先日の知的財産研究会で、「一太郎」特許事件においてジャストシステム側の代理人を務めた弁護士さんがレポーターとして研究発表をされていたのですが、官公庁を大口の顧客とする製品に関して、なぜしなくともよい冒険に敢えて踏み切ったのか(この事件で問題とされたところって、パッチを当ててプログラム本体から削除しても、特段の問題もなくプログラムを使える程度の些末的なところだったわけではないですか。)、「予防法務」という観点からは不思議でたまりません。このような技術が特許として認められていることが許せないというのであれば、特許無効審判を申し立てた上で、それが認められた段階で、次期バージョンからその技術を利用すればよかったはずであり、当時の一太郎のシェアからいえば、それで何の問題もなかったはずです。

 結果的に、第2審で逆転勝訴しそれが確定はしたものの、第1審で敗訴したときの印象が強い為に、あのころから保守的なところから「一太郎」回避に向かっていったのではないかという気がします(実証データはかき集めていませんし、今後も集める気はありませんが。)。そういう意味では、あの事件は、結果的にジャストシステムが勝訴したものの、「一太郎の終わりの始まり」だったような気もします。

 もっとも、一太郎文書については、一太郎ユーザー以外でも内容を閲覧できるビューワーないしコンバーターを積極的に頒布しなかったということ自体が、プリントアウトした書類をやりとりするのではなく、データファイル自体を添付形式でやりとりする時代には合わなくなってきているように思うので、あの事件がなくても、圧倒的なシェアを保っていた時代の感覚を抜け出せていないジャストシステムが衰退していくのは歴史の必然だったような気もしなくはありません。一太郎のシェアが圧倒的なままであれば、ビューワー等を敢えて用意しないことにより、「一太郎文書が読みたければ、一太郎を買え。今の機種では一太郎が動かないのであれば動く機種を買え」と殿様気分で言えたのでしょうが、MS WORDというライバルがいる現状でそれをやってしまえば、「一太郎文書だと、Winユーザー以外には迷惑がかかるから、MS WORDにしておこう。我が社は、Macユーザーを切り捨てるわけにも行かないし」ということになってしまうのは、仕方のない話です。

 といいますか、「一太郎」に関して言及されているブログのエントリーをチェックしていれば、「一太郎文書が読めなくて困っている」というMacユーザーの怨嗟の声がいくらでも目に入ってくるはずであって、そのような声をフィードバックして、Mac用のビューワーやコンバーターを開発して無償配布しようという声が、少なくとも会社としての正式決定に至る程度に上がってこないという点で、組織として硬直化してしまっているのではないかという気がします。

Posted by 小倉秀夫 at 04:42 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

04/04/2009

放送時間の多くをテレビ・ショッピングに割けるはずもない?

 岸博幸・エイベックス取締役が次のように述べています。

 もちろん、楽天はネット上の商店街ですから、テレビ・ショッピングとの連動というのは十分にあり得たのかもしれません。しかし、放送時間の多くをテレビ・ショッピングに割けるはずもないので、TBSからすれば、収益へのインパクトという点で、楽天との経営統合にあまりメリットを見いだせなかったのではないでしょうか。

 TBS系のBSデジタル放送であるBS-TBS(旧BS-i)の番組表を見てみましょう。

 例えば,3月30日(月曜日)をみてみると,テレビショッピング以外の番組は,


  • 05:00〜05:30 お目覚めハイビジョン・夢の彼方に「ヨーロッパ編」

  • 07:00〜07:54 恋人「クリスマスイブ」(字幕)

  • 08:00〜08:54 恋人「真実」(字幕)

  • 11:00〜12:54 ミステリー・セレクション・カードGメン・小早川茜5「黒いデータ」

  • 14:00〜15:54 ミステリー・セレクション・税務調査官・窓際太郎の事件簿15

  • 19:00〜19:54 韓国ドラマ・フルハウス「再会は突然に」(二カ国)

  • 20:00〜20:54 韓国ドラマ・フルハウス「君さえいれば」(二カ国)

  • 21:00〜22:54 天使たちの真実〜元従軍看護婦の証言〜

  • 23:00〜23:30 美の京都遺産

  • 23:30〜24:00 天使たちの真実〜元従軍看護婦の証言〜


といったところです。合計648分。一日の45%をテレビ・ショッピング以外の番組に割いているということになります。「放送時間の多くをテレビ・ショッピングに割け」ているではないですか!

 東京キー局は関連会社を含めてチャンネルを持ちすぎており,それらのほとんどにテレビ・ショッピングではないオリジナル番組をあてられるほどの番組制作力を持ち合わせていないので,放送と通信の融合は不可能だと放送側が主張し続けるのであれば,キー局は,まともに活用できていないチャンネルを返上すべきではないかという気がします。

Posted by 小倉秀夫 at 11:31 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

03/22/2009

学生のうちに経験を積め

 高橋直樹さんが次のように述べています。

俺は音楽は知らんのだけど、例えば物書きなら、何かの小説やラノベや脚本の新人賞にでも送って、佳作でもなんでも取ればいい。新人賞は未経験者お断りなんて言わないぜ?

そういうのが直接そっちの世界の仕事につながるかもしれんし、たとえ繋がらなくてもゲーム屋に送る履歴書には書ける。選考の際有利にはなるだろうよ。少なくともエロゲ業界ではかなり箔がつくと思うけどな。

俺よか教養があるっぽいし、心身ともにとりあえず健康なのだったら、時間を作ってコツコツとやってみればいいのに。誰だって最初はキャリア無しなんだから、積むところからはじめなきゃいけないんだ。


 クリエイティブな職業に就きたかったら,がんがん作品を作ってみて,しかるべきところに送ってみれば良いではないかという点については,基本的に賛成です。これは,ゼミ生(「著作権法ゼミ」という特殊性もあって,クリエイティブな職業に就きたい学生の割合は他のゼミより高いと思います。)にもたまに話すことがあるのですが,まず作品を作り発表するところから始めないと,無名の新人のクリエイティブな才能なんて拾い上げようがないのです。

 過去の記録がコンピュータ上に蓄積されて後に検索されるWeb時代において未熟な作品を発表することの危険性を気にする人もいるようですが,そりゃ他人を冷笑することで何とかアイデンティティ・クライシスを回避している「一部の人」たちは過去の失敗や未熟さをあげつらうことはあるかも知れないけど,クリエイティブな才能を探している連中は,クリエイティブな才能の未熟時代のダメダメぶりなんて気にしたりしないので,そんなことを気にしてみても始まりません。

 もちろん,ジャンルによってはコミケに作品を発表してもよいし,Webで作品を公開したってかまいません。DS用のソフトウェアについては任天堂がライセンス契約を結んでくれるようなソフト会社に就職してからでないと作品を作って発表することができないけれども,それ以外のジャンルについては,まず作品を作って発表し,その才能の一端を見せつけることが可能なのです。

Posted by 小倉秀夫 at 11:07 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

汎国家的配信の義務づけ

 ITmediaに次のような記事が掲載されていました。

 米音楽売り上げのうち、デジタルダウンロード販売が占める割合が3分の1に達した。米調査会社NPD Groupが3月17日に報告した。

 「コンテンツ」が電子機器により再生されることが一般化すると,コンテンツを一旦物理媒体に固定した上でその物理媒体を物流網に載せる必然性が低下します。すると,物流コストが低いコンテンツのネット配信が主流を占めていくことは容易に想像が付きます。日本では,「コンテンツホルダー」側の不可解な抵抗によって,この動きがコンピュータプログラムと商用音楽程度にしか普及していませんが,AppleTVやKindle等が利用できる米国では,映画や書籍などもネット配信が徐々に物理媒体による頒布を凌駕していく可能性があります。

 現状では,そうはいっても電子端末の普及率がそれほどでもないので,多くの場合,「物理媒体でも頒布するコンテンツをオンラインでも配信していく」という程度にとどまっていますが,将来電子端末の普及率が高まると,コンテンツをオンラインでのみ配布するということが一般化していくと予想されます(既に,プログラムではそのような営業政策が採用されている場合が普通に存在します。)。物理媒体での頒布の場合売上げの見通しを間違えると在庫を抱えることになってしまうというリスクがありますし,(大抵の場合寡占状態にある)流通業者にその流通網に載せてもらうのが個人または弱小コンテンツホルダーとしては結構しんどいということもあるからです。

 その際に問題となるのは,そのコンテンツの配信を受けられる人的範囲がその居住する地域により限定されていると,その地域外に居住する人々は,誰かによる違法行為を経ない限り,そのコンテンツを享受することができなくなる可能性が高いということです。コンテンツが物理媒体により頒布されていた時代は,それが日本国内向けには頒布されていなかったとしても,一度日本国外で頒布された物理媒体を「輸入」することにより,日本国内に居住する人々がこれを享受することができます(いわゆる「101匹わんちゃん」事件の担当裁判官はそれを許すまじと思ったようですが,まあ,中古ゲーム訴訟最高裁判決でその考え方は覆されたと考えるのが一般的です。)。しかし,日本国外向けのオンライン配信でのみ配布されているコンテンツを日本国外で受信して物理媒体に固定して日本国内に輸入して販売することは概ね違法となってしまいます。それは,例えばある重要な論文がKindle用コンテンツとして米国国内向けに公表された場合,日本の研究者はその論文に記載されている内容を読むことすら許されないということに繋がっていきます。それは,技術と著作権法(あるいは不正競争防止法も)が,コンテンツを通じた文化の発展が日本国内にもたらされることを阻害することを意味することになります。

 そのような事態を避けるためには,コンテンツがオンラインでのみ配信されるという時代を本格的に迎える前に,政府(文化庁なのか,知的財産戦略本部なのか,所管が難しいところではあります。)が,AppleやGoogle等のコンテンツ配信事業や国外のコンテンツ企業を回ってそれらがオンラインでのみ公開するコンテンツについては日本国内に向けても公開するように働きかけ,または,他の先進諸国とも協議して少なくともオンラインのみ配信するコンテンツについては汎国家的配信を義務づける等のルール作りをするなどの対策を講ずる必要があるように思われます。

Posted by 小倉秀夫 at 12:55 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

03/18/2009

2009年度の著作権法ゼミの受講生の皆様へ

 2009年度の著作権法ゼミの受講生の皆様へ

 基本書は特に指定しませんが,なにがしかは入手して,できるだけ早めに一回通読して下さい。

 現状ですと,とりあえずお勧めできるのは,


  1. 中山信弘「著作権法」

  2. 田村善之「著作権法概説(第2版)」

  3. 三山裕三「著作権法詳説(第7版)」


といったところです。加戸守之「著作権法逐条講義」や作花文雄「詳解著作権法」は,何かを発表するに際しては参照すべき文献だと思いますが,通読するにはきついと思います。半田正夫「著作権法概説 」や千野直邦=尾中普子「著作権法の解説」,斉藤博「著作権法」は,その薄さに惹かれるところだとは思いますが,現代型の論点を考える手がかりとして使うにはいまや少し厳しいような気がします。

 言わなくても買わないとは思いますが,半田正夫=松田政行編「著作権法コンメンタール」は買う必要ありません。その価格に情報量が見合っていないように思います。注釈書が欲しければ,後数ヶ月待って下さい。

 判例集はもっておいた方がよいです。現行の著作権法判例百選を買うのなら今のうちです。著作権法分野は21世紀に入ってからも重要判例が目白押しという珍しい法領域なので,きっと次期バージョンとは収録判例ががらっと変わると思います。本橋 光一郎=本橋 美智子「要約 著作権判例212」でもよいです。岡邦俊「著作権の事件簿—最新判例62を読む」もいい本ですが,学生にはつらい値段だと思います。また,ユニ著作権センター駒沢公園行政書士事務所日記等で最新の判例をチェックしておくのも良いことだと思います。

 特に音楽著作権に興味がある人は,安藤和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス—基礎編 3rd Edition」,「よくわかる音楽著作権ビジネス—実践編 3rd Edition」を読んでおくと良いと思います。その他のエンターテインメント系の著作権問題やIT関係の著作権問題については,たくさんの書籍は出ていますが,「これはお勧め」というものはなかなかありません。学生のうちは時間が余っているので,片っ端から大学の図書館に買わせて読みまくるというのも一つの手だとは思いますが,ただ,中途半端なQ&A集を読んでいるより,それぞれの業界のありかたを説明している文献(例えば,映画だったら,兼山錦二「映画界に進路を取れ (エンタテインメントビジネス叢書) 」等)を読んだ方がよいような気がします。

 六法については,著作権法が全文掲載されているものを使用することは大前提です(小型の六法だと,抄録扱いになっている場合があります。)が,できるだけ,著作権法施行令,同施行規則,旧著作権法,ベルヌ条約,WIPO著作権条約等が掲載されているものを選んで下さい。角田政芳「知的財産権六法」あたりで良いと思います。まあ,今は法令等はオンラインで入手できるので,A4のバインダー用紙等に必要な法律をプリントアウトしてオリジナルの「知財六法」を作ってしまうというのも一つの手ではあります。

Posted by 小倉秀夫 at 01:45 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

03/14/2009

ユーザーはレコーディングされた音楽に対してそれを気に入ればお金を払う習慣を失っていない

 岸博幸エイベックス取締役は,

 そうした中で音楽産業は、ユーザがなかなかお金を払わないという現実に苦しんでいます。面白い数字を紹介しましょう。米国のインターネット上は日々無数の音楽ファイルが流通していますが、その中で正規(=有料)ダウンロードの割合は、平均すると20曲中1曲だけです。米国の音楽配信サイトの一つであるLalaはユーザに対して、(1)1曲99セント払えば自分のパソコンにダウンロードできる、(2)1曲10セント払えばLalaのサーバからいつでもその曲を聴ける、(3)お金を払わなくても1回は曲を試聴できる、という3つの選択肢を用意していますが、この会社のサーバに蓄積された曲へのアクセス状況をみると、1000曲中99セント払ったのは72曲、10セント払ったのは108曲、無料での試聴が820曲です。

との事実から,

 そうです。違法ダウンロードが当たり前になる中で、ユーザはレコーディングされた音楽にはお金を払わない習慣を身につけてしまったのです。

との結論を導いています

 しかし,無料で試聴された楽曲の約8.7%が正規に購入され,その他約13.2%が有料で継続的視聴オプションが選択されたということであれば,プロモーションとしては成功しているのであり,むしろ,未だユーザーはレコーディングされた音楽に対してそれを気に入ればお金を払う習慣を失っていないと分析する方が適切であるように思います。

 プロモーションをテレビやラジオなどの放送メディアに頼っていた時代,無料で視聴された楽曲の8.7%も正規商品を購入するなどと言う現象はなかった(音楽自体を聞くことを目的とした番組で視聴した楽曲に限定しても,そこで聴いた楽曲の8.7%も正規商品を購入するなどということは一般的な慣習にはなっていなかったはずです。)わけです。結局のところ,岸取締役の不満は,レコード会社に都合の良い期待をネットユーザーにかけた上で,これを達成しないユーザーに裏切られたということにすぎないように思います。

Posted by 小倉秀夫 at 01:04 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

03/11/2009

キャッシュの運命は如何に。

 私的使用目的のダウンロード行為の違法化については,YouTube等のストリーミング配信を受信するときに生成されるキャッシュはどうなるのだという批判がありました。今回閣議決定された改正案では,

(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)

第四十七条の八 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。

という規定を新設することにより,この批判に答えようとはしているようです。ただ,「これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る」という括弧書きと,新設第30条第1項第3号において「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」を複製権侵害としたこととの関係をどう捉えるのかは問題となってきそうです(といいますか,「これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害」する場合にはその著作権侵害を問題視すればよいだけの話なので,この括弧書き自体不要だと思いますが。)。

 また,改正案では,著作権法第49条第1項に,

七 第四十七条の八の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物を、当該著作物の同条に規定する複製物の使用に代えて使用し、又は当該著作物に係る同条に規定する送信の受信(当該送信が受信者からの求めに応じ自動的に行われるものである場合にあつては、当該送信の受信又はこれに準ずるものとして政令で定める行為)をしないで使用して、当該著作物を利用した者

という規定を付加することにより,これらの者が「第二十一条の複製を行つたものとみなす」こととしているわけですが,キャッシュというのは,キャッシュ元のデータに逐一アクセスするよりもキャッシュされたデータにアクセスした方がデータの読み込み時間が短くなるということで情報処理を効率化させるものなので,本体のデータに替えてキャッシュデータにアクセスしたら複製を行ったものとみなされるのでは,キャッシュとしてのデータ複製を合法化した意味がないような気がしなくもありません(「複製」とみなすだけで「録音」「録画」を行ったものとはみなさないから,新設第30条第1項第3号の適用はない,というのでしょうか。それもアクロバティックに過ぎるような気はしますが。)。

 改正案の第30条第1項第3号では,わざわざ括弧書きで,「国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきもの」を私的目的でのダウンロードが禁止される複製物に含めている点も問題となるでしょう。自動公衆送信が著作財産権に含まれていない国でアップロードされたもの(当然,著作権者の意図にかかわらず,許諾はなされていない。)や,日本にはない権利制限規定(例えば,米国法のフェアユース等)により合法的にアップロードされているものをダウンロードする行為が違法となってしまいます。それはそれで価値判断的に如何なものかなあという気がしてしまいます。

Posted by 小倉秀夫 at 12:04 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

03/10/2009

著作権法改正案2009

 著作権法の改正案が閣議決定されたようです。

 一時は違法アップロードサイトからのダウンロードの違法化だけでお茶を濁すのではないかと思われていたのですが,ふたを開けてみたら結構広範囲の改正を目指すようです。

 違法アップロードサイトからのダウンロードの違法化については,第30条1項に3号として,

三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

という条文を付け加えることで実現しようという算段のようです。

 その他,国会図書館におけるバックアップのための複製や視覚障害者・聴覚障害者のための自動公衆送信の合法化,インターネット通販のための美術・写真の著作物の複製・公衆送信の合法化,電気通信事業者のキャッシュ・バックアップのための複製の合法化,検索エンジンのための複製等の合法化,情報解析のための複製等の合法化,インターネット等でのデータを受信した際に受信側で行われるキャッシュとしての複製の合法化,裁定手続の整備,著作権原簿の電子化等をまとめて改正案としてあげてきたようです。

Posted by 小倉秀夫 at 03:39 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

プログラム開発の自由を阻害する動きに対する寛大さ

 昨日のエントリーに対しては,オーストラリアでのマジコン訴訟で敗訴したマイクロソフト社の大野さんその他から反発を受けてしまったようです。

 ただ,「検知→可能方式」型の技術的手段が「早熟の天才」の出現を阻害しないかについては,「検知→可能方式」型の技術的手段が採用されていない環境で「早熟の天才」の出現してきた例を引いて反論した気になってみても始まらないのではないかと思ったりはします。

 もちろん,NintendoDSのような「検知→可能方式」型の技術的手段を講じても,市井で行われるソフトウェアの開発に何ら差し支えないというのであれば,是非ともWindows7の正規バージョンで採用したら良いのだと思うのです。例えば,Windows7がインストールされたPC上では,MS社とライセンス契約を結んで提供を受けた特別な信号が組み込まれたCDまたはDVDからでなければソフトウェアのインストール作業等が行えず,「正規」のインストール作業の際にソフトウェアごとにMS社から割り当てられた特別な信号がPC上の特別な領域に書き込まれなければそのソフトウェアをPC上で稼働できないようにすれば良いのではないでしょうか。その結果,アマチュアまたはセミプロのプログラマーが,その作成したプログラムを,無料または安価で,オンライン上で公開するということが事実上できなくなり(公開しても構いませんが,誰もそれを実行できないので,公開する意味はなくなります。),自主製作ソフトを作成するということがほとんど無意味な行為となるとしても,「早熟の天才」たちはせっせとWindows7用のソフトウェアの開発に明け暮れるようになるとMS社として考えているのであれば,さっさとそうしたらよいのではないかと思うのです。

 それにしても,いつからコンピュータ業界は,プログラム開発の自由を阻害する動きに対してこんなにも寛大になっていったのでしょう。

Posted by 小倉秀夫 at 12:12 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (2)

03/09/2009

早熟の天才は不要

 マジコン訴訟に関していえば、真の争点は、

  • 不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」は「検知→制限方式」に限られるのか、自主制作ソフト等の実行を制限する「検知→可能方式」を含むのか

  •  いわゆる無反応機及び偶然「妨げる機能」を有している装置だけが、不正競争防止法2条1項10号の「機能のみ」の要件を満たさないと解されるのか、技術的制限手段が付されていない自主制作ソフト等の実行を可能とする機能をも有している場合にも「機能のみ」の要件を満たさないものと解されるのか
の2点です。

 何せ、自主制作ソフトのタイトル数及びダウンロード数は決して無視できる数ではない(1ダウンロードサイトごとの1タイトルの平均ダウンロード数は、自主制作ソフトと違法複製ソフトとでほぼ拮抗していた。)ので、自主制作ソフトを使うためにマジコンを使うということはWinnyのポエム流通よりははるかに現実味のある話だったわけですし、任天堂側は、違法複製ソフトのアップロードサイトに対し何らのアクションをも起こしていない(whoisを用いれば当該ソフトの開設者の氏名・住所等が容易に知りうるというのにです。まあ、違法複製ソフトのアップロードを禁止するためにどのような対策を講じてきたのかという求釈明に対して、任天堂側は一切の回答を拒否しています。)わけです。

 結局、紛争の実態は、ゲーム機器メーカーが「検知→可能方式」の技術的手段を採用することにより、当該機器メーカー及びそれと「ライセンス契約」を結んだソフトハウスにより形成される「ギルド集団」を守ることまで不正競争防止法の守備範囲に属するのかということであり、市川正巳裁判長は、平成11年改正の審議の際に規制すべきものとして「MODチップ」が含まれていたとの一点から、条文の具体的な文言との整合性を軽視して、これを肯定したのです。

 「ゲームソフトなんて、専門学校かなんかを卒業してそこそこのソフトハウスに入社してから開発を勉強すれば十分だよね。学生時代から自主的にソフトを開発してしまうような天才はわが国のゲーム業界には不要だよね」ってお話なのだと思います。私の小学校の友達には、中学生時代からゲームソフトを開発しては賞金稼ぎをしていたような人もいるのですが、任天堂はそういう人材は不要ということのようです(彼は、大学卒業後任天堂に入社したはずですが。)。まあ、早熟の天才は、iPhone用のゲームを開発していろということのようです。

【追記】

 「拮抗」とまでいってしまうのは言い過ぎかも知れません。ただ、ダウンロード数がカウンター表示されているサイトに関していえば、違法複製物アップロードサイトにおける1サイト1タイトルあたりの平均ダウンロード数が約8885回であったのに対し、自主製作ソフトアップロードサイトにおけるそれは約6124回でありましたので、「遜色ない」とは言いうるように思います。

Posted by 小倉秀夫 at 12:45 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

03/08/2009

southwestern大学でのシンポ

Southwestern

 昨日は,シンポジウムが終わって,夕食を食べて,ホテルに戻ったら,どっと疲れが出て,あっさり寝てしまいました。

 詳しい内容については報告書の提出が決まっているのでそちらに譲るとして,報告書には書けない感想をいくつか。

 アメリカのコメディ番組とか見ていると,時折女性の甲高い笑い声が入って来るではないですか。常々あれはさすがに不自然だろうと思っていたのですが,昨日で考えを改めました。著作権法を見直そうというシンポジウムで,出席者のインテリ度も相当高いというのに,いくら発言者が冗句を交えて話をしているからといって,あの笑い声が何度も何度も,ライブで聞こえてきました。それがアメリカなのですね。

 あとは,各パネリストが最初のショートスピーチをしている最中に,それが終わるのを待ちきれずに,聴衆(といっても,相当社会的ポジションの高い人たちなのですが)が反論してしまうその姿が印象的でした(いくら西海岸とはいえ,フランクに過ぎます。)。

 まあ,アメリカでも,「あちら側」と「こちら側」の対立は根深くて,「Revision」なんて言っても,制定法での「Revision」は難しそうだなあとは思いました(パネリストの一人は5年以内に何とかなると言っていましたが。)。

Posted by 小倉秀夫 at 06:14 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

03/04/2009

出版差止め請求における被告適格

 弁護士会の図書館で、半田正夫=松田政行編「著作権法コンメンタール」をパラパラと見てきました。3分冊だし、1冊1万円弱だし、執筆者は大御所が多いし、ということで青林書院の注解特許法のような網羅的なものを想像していたのですが、実際には判例や学説の紹介、論点の提示などが万事控えめで、我妻=有泉編民法コンメンタールのようだなあという感想を持ちました。

 で、仕方がないので、著作権等の侵害を理由とする出版等差止請求事件について、当該書籍の著者を、出版社とともに、または単独で被告とする請求が認容された例をまとめてみました。著者自体は、印刷機を動かすわけでもないし、在庫を抱えているわけでもないので、出版差止め請求に関しては、その被告適格が一応問題となりうるわけです。

 著者のみを相手方とする複製及び配布の差止め請求が認容されたものとして、最判平成13年10月25日判タ1077号174頁があります。

 著者と出版社に対する印刷及び頒布の差止めを命じたものとしては、東京地判平成14年4月15日判タ1098号213頁,東京地判平成16年5月31日判タ1175号265頁があります。その亜種として、雑誌の発行人と出版社に対する複製・頒布等の差止めを命じたものとしては、東京地判平成10年10月29日判タ988頁271号があります。

 出版社に対しては発行の差止めを命じ,著者に対しては出版の許諾及び自らによる出版の差止めを命じたものとしては、東京地判平成10年11月27日判タ992号232頁があります。

 このように、裁判所は、概ね被疑侵害著作物の著者を被告とする出版差止請求を認めています。依拠の有無を含め、著者を当事者とした方が審理は充実することが予想されますし、著者との間でその書籍が著作権侵害物だということが確定すれば、出版社が更にこれを増刷し又は在庫品を頒布する事態は通常想定しがたいので、出版社を被告とする必要は必ずしもないということなのでしょう。

Posted by 小倉秀夫 at 11:57 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

03/03/2009

NBL900号

 昨年の11月28日に行われた「特定領域研究『日本法の透明化』プロジェクト主催シンポジウム『ここがヘンだよ日本法』」の結果報告が,NBL900号に掲載されています。

 私は,その第1セッションの「著作権法における『間接侵害』と権利制限」にゲストコメンテーターとして参加しており,そこでの私の発言を要約したものも,NBLに掲載されています。

Posted by 小倉秀夫 at 01:45 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/27/2009

条文の文言など気にしない裁判官

 裁判官が普通に条文解釈をしてくれればこちらが勝訴できる案件で,よりによって普通に条文解釈をする気のない裁判官にあたるというのは,実に不運というより他ありません(「へえ,どこに係属になっているの?ああ,○○さんのところですか。○○裁判官ではなあ」と研究者たちに同情されるというのも,何だかなあという感じです。)。

 巨大企業や組織の利益なんて,裁判所が条文の文言を無視した解釈をしてまで救済しなくとも,必要とあれば立法府が何とかしてくれます。裁判所まで,お金のある側にすり寄っていったら,お金のない側は何に頼ればいいのでしょう。

Posted by 小倉秀夫 at 02:32 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/26/2009

Best Lawyers

 米国のBest Lawyers社から,日本のIntellectual Property部門のBest Lawyers58人のうちの一人に加えていただいたようです。

 知財弁護士を「あちら側」と「こちら側」に分けたときの「こちら側」でこういうものに選んでいただくのは大変そうな気もするので,とりあえず自信を持っていこうと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 02:29 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

02/08/2009

英語と著作権法を勉強したいあなたのために

 きっと大学生は、学部試験が終わって暇な時期に入っていると思います。就職活動で忙しいという人もいるかもしれませんが、就職活動は、移動時間と待ち時間に時間をとられるだけで、正味とられる時間はそれほどでもありません。そのような時期だからこそ、今のうちに、著作権法や英語の勉強をしておきたいという人も多いと思います。

 そんなあなたに朗報です。こちらのサイトに行くと、Kenneth Crews先生による米国著作権法の概略の講義をただで聴くことができます。mp3形式でデータを提供してくれるので、どの音楽プレイヤーでもOKです(DSiはともかく)。

 また、こちらにアクセスすると、Lessig先生の講演やら、You TubeのZahavah LevineさんやCBSのAlison Waukさん等のパネルディスカッションやらをただで聞くことができます。

 私が学生だったときには考えられなかったような、勉強したい人には天国のような時代ですね。

Posted by 小倉秀夫 at 05:12 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

02/01/2009

Avec Tout Mon Amour

 Melissa Mのアルバム「Avec Tout Mon Amour」がiTunes Storeに上がっていた(→Melissa M - Avec tout mon amour)ので、アルバムごとダウンロードしました。

 「Cette Fois」等のダンサブルなナンバーも良いですし、

 「Benthi」のようなアラブっぽいナンバーも素敵です(彼女自身、アルジェリア系フランス人なので。)Benthi

Posted by 小倉秀夫 at 01:46 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/30/2009

網羅的な関係者名簿への条理上の掲載義務

 「○○名鑑」とか「○○関係者名簿」等という名称で、ある職業なり地位なりに就いている人について網羅的に、その氏名、連絡先、経歴等を掲載している書籍って結構ありますね。弁護士だと、法律新聞社が発行している「全国弁護士大観」がこれにあたります。

 ところで、ある程度定評のあるこの種の名鑑において、特定の人物に関する情報を恣意的に掲載しなかった場合、それは不法行為にあたるのでしょうか。

 現実問題としていえば、その種の名鑑に載っていないと、その道のプロだと名乗ってもモグリだと思われる危険もありますし、また、その人の過去の実績からその人に仕事を依頼しようと思って名鑑を見たらその人に関する情報が載っていなかったということになると、てっきり引退ないし廃業したものと思いこんでしまう可能性も十分にあります。ミシュランのレストランガイドのように掲載するかしないかは編集者側が恣意的に決定することを最初から謳ってあるものならば単に編集者のお眼鏡に適わなかったのだろうで済みますが、一定の条件に見合う人々を網羅的に取り上げているかの如き外観のある「名鑑」ものの場合、そこにその情報が掲載されていないということ自体が、社会的に相当な意味を持つことになります。

 そういう意味では、網羅性のある名鑑を発行する出版社は、そのような名鑑を発行するという先行行為に基づき、一定の条件に合致するプロフェッションについての所定の情報を当該名鑑に掲載させる条理上の義務を有しているのではないかと思ったりします。


 小林伸一郎さんの写真を雑誌の巻頭カラーにもってくるなど小林さんとのつながりの深い日本カメラ社が発行する「写真年鑑」の「写真関係者名簿」に関して、2008年度版から、丸田祥三さんに関する情報が掲載されていなかったりするのですが、2009年度版からはそういうことがなくなると良いなあ、と思う今日この頃です。

Posted by 小倉秀夫 at 12:40 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

01/29/2009

ロクラクⅡ事件

 ロクラクⅡ事件で、テレビ局が知財高裁で逆転敗訴したそうです。

 この判決の解説は時間があるときにおいおいやりたいと思いますが、属人的な話をすると、いわゆる選撮見録事件でクロムサイズ側代理人として苦汁を飲んだ弁護士のうち、私が「まねきTV」事件で、岡邦俊弁護士らが「ロクラクⅡ」事件で、テレビ局に一矢報いたということになるのですね。

Posted by 小倉秀夫 at 09:45 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

01/26/2009

Winny事件第1審判決についての評釈

Winny事件について控訴審がようやく動き出したようですので,第1審判決に関して,ジュリストに掲載していただいた文章の,校正前原稿をアップロードいたします。


 匿名性が高度に保障されることがその特徴の一つとされていたP2Pファイル共有ソフトの公開と著作権侵害罪の幇助犯の成否

一 初めに

 近時飛躍的な発達を見せている情報通信技術の多くは、これを利用して送受信される情報の内容及び適法性の有無にかかわらず、所定の効果を発揮する。そして、多くの場合、一旦その技術を公開した後は、これが違法な情報流通にしばしば利用されるようになったとしても、当該技術の開発者ないし公開者には、違法な利用を事前に阻止する現実的な手だてはない。

 このような情報通信技術の特徴は、刑罰法規を適用することによって違法ではない情報流通のために利用され得る技術の公開を阻碍するべきではないという考えとも結びつく反面、一度公開されると取り返しのつかない危険な技術の公開を刑罰法規によって事前に規制すべきだという考え方とも結びつくものである。

 「Winny」という情報発信者の匿名性が高度に保障されることをその特徴の一つとするP2Pファイル共有ソフトの開発・公開者が、著作権侵害罪の幇助犯として逮捕され、起訴された事件(以下、「Winny事件」という。)は、法曹関係者のみならず、ソフトウェア技術者等の間でも大きな反響を呼んだ1が、まさに、上記相反する考え方をどのように調整するのかが問われた事件であるということである。

 本稿では、上記事件に関する京都地裁判決2を題材として、上記点について検討を加えることとする。

二 Winny事件の概要

 WinMX3というP2Pファイル共有ソフトを利用してパッケージソフトをアップロードしていた大学生等が京都府警に逮捕された直後、Xは、「2ちゃんねる」という匿名電子掲示板4の「ダウンロード板」に、「暇なんでfreenet5みたいだけど2chネラー向きのファイル共有ソフトつーのを作ってみるわ。もちろんWindowsネイティブな。少しまちなー」とのコメントを匿名で投稿し、程なくして、「Winny」という名称6の新たなP2Pファイル共有ソフトを開発し、自己の開設した匿名ウェブサイト「Winny Web Site」にて公開した7

 「Winny」のP2Pファイル共有機能には、特定の電子ファイルを意図的に「Winny」ネットワークに置いた者のIPアドレスを隠蔽する「キャッシュ」8機能が組み込まれていたことから、誰が特定の電子ファイルをアップロードしたのかを隠蔽してくれるP2Pファイル共有ソフトとして、日本国内のP2Pファイル共有ソフトの利用者の間で瞬く間に普及していった。「Winny」自体は、電子ファイルの形式、性質、違法性の有無等を問わず中立的にP2P間でファイルを送受信する機能を有していたが、実際に「Winny」を利用してアップロードされている電子ファイルの大部分は、著作権者の許諾なくしてアップロードされていると思しきものであった9

 Xは、その後も「Winny」の改良を重ね、そのたびごとに、改良版を「Winny Web  Site」にて公開した。その後、Xは、P2Pファイル共有機能を主たる機能としたバージョン(以下「Winny1」という。)はほぼ完成したとしてその開発を一旦終了し、大規模匿名電子掲示板機能を主たる機能とするソフトウェア(これを「Winny2」という。)の開発に移行し(但し、「Winny2」にも、「Winny1」と互換性はないが、ほぼ同様の特徴を有するP2Pファイル共有機能が組み込まれていた。)、これをXが開設する匿名ウェブサイト「Winny2 Web Site」にて公開した。Xは、「Winny2」についても頻繁に改良を重ね、そのたびごとに改良版を「Winny2 Web Site」にて公開したが、著作権侵害目的で用いられることを抑制するような改良は行わなかった。

 その後、「Winny2 Web Site」からWinnyの最新版である「Winny 2.0 β6.47」をダウンロードして、自己の使用するパーソナルコンピュータにインストールし、「スーパーマリオアドバンス」ほか25本のゲームソフトの各情報が記録されているハードディスクと接続したパーソナルコンピュータを用いて、インターネットに接続された状態の下、下記各情報が特定のフォルダに存在しアップロード可能な状態にあるWinnyを起動させ、同コンピュータにアクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし、上記各著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害したY等が著作権法違反の疑いで逮捕・起訴され、有罪となった10。さらに、「Winny」を開発しその匿名ウェブサイトにて公開したXもまた、上記著作権法違反の幇助犯として逮捕され、起訴されるに至った。

 これについて、京都地裁は、Yが著作物の公衆送信権を侵害して著作権法違反の犯行を行った際、「これに先立ち、Winnyが不特定多数者によって著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する情報の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら、その状況を認容し、あえてWinnyの最新版である「Winny 2.0 β6.47」を被告人方から前記「Winny2 Web  Site」と称するホームページ上に公開して不特定多数者が入手できる状態にした上、Y方において、同人にこれをダウンロードさせて提供し、もって、Yの前記犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。」として、Xを罰金150万円の刑に処した。

三 幇助の行為

 刑法第62条1項の従犯(幇助犯)とは、「それ自体犯罪の実行でない行為によって、正犯の行為を助けその実現を容易ならしめたもの」11をいう。幇助犯が成立するためには、幇助の意思と幇助の行為が必要とされる。

 幇助行為は、実行行為に用いる道具等の提供等の有形的・物質的なものと、激励・助言を与える等の無形的・精神的なものとに大別される。後者はさらに「技術的な助言」と「意思決定の強化(心理的幇助)」に分けられる12。一般に、実行行為ないしその行為者の発覚を困難とする行為は、そのことを正犯が認識している場合には、正犯の犯罪意思を維持・強化・喚起することに繋がるので、心理的幇助にあたると解されている13  。

 情報通信技術は、違法な情報の送受信を物理的に容易にするのが通常であるが、情報発信者の匿名性を高めることにより心理的に幇助するものも少なくない。本判決においても、「Xが開発、公開したWinny2がYの実行行為における手段を提供して有形的に有形的に容易ならしめたほか、Winnyの機能として匿名性があることで精神的にも容易ならしめた」として、物理的幇助と心理的幇助の2つの側面から幇助行為を認めている。

 もっとも、本判決における補足説明によれば、「Winny」において実際に「中継」が発生するのは4%程度と例外的であり、警察官がダウンロードした際の電子ファイルの送信元のIPアドレスの割当てを受けていたYが著作権法違反の罪(公衆送信権侵害)の正犯として認定されている14のであって、「Winny」の利用者が期待しているほどの「匿名性」は得られていない15。このような場合にも、「実行行為ないしその行為者の発覚を困難」としたとして、心理的幇助を認めることができるのかということは問題となり得る。客観的にはどうであれ、正犯はその匿名性保障機能を信じて「Winny」を利用することでその犯罪意思が実際に強化された場合には心理的幇助の成立を認めることができようが、「Winny」の匿名性保障機能を正しく理解しつつ「Winny」ネットワークのもつ高い国内シェアに着目して16正犯が「Winny」を用いていた場合には心理的幇助まで認めるのは理論的には困難ではなかろうか17

 Xは不特定の者に対して「Winny」をダウンロードさせていたことから、「Winny」をダウンロードさせたことが幇助行為であるならば、それは「不特定人に対する幇助」ということになる。通説が被教唆者は特定の者でなければならないと解している18こととの関係で、このような「不特定人に対する幇助」が可罰性を有するのかという点も問題となる。① 教唆犯の場合「人を教唆して犯罪を実行させた者」(刑法61条1項)という文言になっているのに対し幇助犯の場合「正犯を幇助した者」(同62条1項)という文言になっていること、② 不特定人に対する教唆の場合「扇動」ないし「あおり」としてこれを処罰する場合が特別法により制限列挙されているのに対し不特定人に対する幇助についてはそのような規定は特にないこと、③教唆者を教唆する行為は教唆犯として処罰される(刑61条2項)が従犯の幇助を従犯(幇助犯)として処罰する旨の規定はないため間接従犯を処罰するためには不特定人に対する幇助も幇助犯として処罰するという構成を取らざるを得ないことなどから、不特定人に対する幇助も刑法62条1項を適用する見解が有力である19

 正犯が犯罪行為を実行し犯罪結果を実現するにあたっては、日常的な行為によって提供されている様々な物やサービスがこれに寄与するのが通常である。このような物やサービスを提供した者は、故意・過失等の主観的要件を具備する限り、その提供する物やサービスにより促進された犯罪について幇助犯としての刑事責任を常に負うとするのは、処罰範囲が広すぎるとして、その可罰性を疑問視する見解がある20

四 幇助の意思

 幇助犯が成立するためには、幇助行為が、「幇助の意思」に基づいてなされなければならない。しかし、正犯と意思を通じ合っている必要はない2122

 通常、「幇助の意思」は「幇助の故意」と同視されるが、軽油引取税を納入する意思がない販売業者から経由を購入した客について、「軽油販売の相手方になることによって、(正犯らの)犯行を実現せしめる役割を果たしたわけであるが、それはあくまで、被告人が自己の利益を追求する目的にもとに取引活動をしたことの結果に過ぎないと見るべきである」として、正犯らの犯行を幇助する意思を認めなかった裁判例もある23

 「幇助の故意」をどう捉えるかは、「故意あり」といえるためにどのような心理状態を要求するのかという論点と、「幇助の故意」の対象をどこに置くのかという論点の組合せで決まる。前者については、歴史的には、大きく分けて、① 結果の発生を意欲している場合のほか、結果が発生しても「かまわない」という消極的認容があれば「故意」を認めてよいとする認容説と、② 結果発生のある程度高い可能性(蓋然性)を認識しているか否かで「故意」の有無を判別する蓋然性説とが対立している。後者については「故意」の対象を、ⓐ 正犯の実行行為の遂行を促進することについてまであれば足りるとする見解、ⓑ さらに構成要件的結果が発生することについてまで必要とする見解が従前より対立していたが、最近はⓒ さらに自己の行為が構成要件的結果の発生に対し幇助犯としての因果的寄与をすることについてまで要するとする見解も有力である24

 また、どこかに構成要件的結果が発生するであろうことは認識等していたが、どこにどれだけ発生するかまでは具体的に認識等していなかった場合(概括的故意)については故意責任を認めるのが通説であるが、誰かが正犯として実行行為を行うであろうことは認識等していたが、誰と誰がどの程度実行行為を行うかまでは認識等していなかった場合に、上記古典的な概括的故意論とパラレルに考えて、幇助の故意を認めてもよいのかという問題もあり得る。

 本判決は、「Winnyが不特定多数者によって著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する情報の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら、その状況を認容し」たことをもって「幇助の故意」ありとしている。後述するように、本判決は、「Winnyそれ自体は価値中立的な技術である」との前提に立って、「価値中立的な技術を実際に外部へ提供する場合、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、さらに提供する際の主観的態様如何によると解すべきである。」と判示していることから、「幇助の故意」一般について、構成要件的結果発生の蓋然性の認識まで要求しているかは明らかではないが、どの正犯者による実行行為を幇助するのかについての具体的な認識までは要求していないことは明らかである。

五 価値中立性と幇助

 既に述べたとおり、情報通信技術の多くは、これを利用して送受信される情報の内容及び適法性の有無にかかわらず、所定の効果を発揮する。「Winny」というP2Pファイル共有ソフトもまた、それ自体は、電子ファイルの形式、性質、内容等を特に問題にすることなく、利用者からの指示に応じてこれをP2P間で送受信する機能を有しており、その意味では価値中立的である。また、実際になされる電子ファイルの送受信の内容次第では、有意義なものともなりうる。このような価値中立的なソフトウェアが、犯罪実行行為の手段として利用された場合に、その提供者が幇助犯としての刑事責任を負うのかということがここでは問題となる。本判決においても、「もっとも、WinnyはP2P型ファイル共有ソフトであり……それ自体はセンターサーバを必要としないP2P技術の一つとして様々な分野に応用可能で有意義なものであって、被告人がいかなる目的の下に開発したかにかかわらず、技術それ自体は価値中立的であること、さらに、価値中立的な技術を提供すること一般が犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助犯の成立範囲の拡大も妥当でないことは弁護人らの主張するとおりである」と判示されている。

 「中立的行為による幇助」の問題は、従前ドイツを中心に議論がなされ、我が国でも近時これを受けた議論がなされている25

 「法益侵害を惹起する行為であっても、行為それ自体が社会的相当性の範囲内にある場合には、構成要件該当性または違法性を欠き、不可罰である」とする社会的相当性説を幇助の処罰範囲の議論に組み入れる考え方がある。関与行為が日常的行為である場合には不可罰とすべきとする見解や、プログラムの開発・頒布行為の有用性を強調してこれを幇助行為として処罰すべきではないとする見解26も、この社会的相当性論の一バリエーションであるように思われる。これに対しては、「社会的相当性という標語の下に、厳密な理論的説明がなされずに、恣意的に結論が導かれるおそれがある」27等の批判がなされている。

 また、利益考量型の「許された危険」論を幇助の処罰範囲の議論に組み入れる考え方がある。例えば、「問題となっている犯罪行為の重大性と、潜在的共犯者の行動の自由の強度の両方を媒介変数として考慮すべき」28とする考え方等がこれにあたる。これに対してもまた、「こうした一般論は不明確であり、そこから自分の好きな結論を恣意的に導くことができてしまう」29等の批判がなされている。

 これに対し、因果的共犯論の立場から、関与行為が正犯行為の等が具体的結果発生の危険を高めていた場合に処罰範囲を限定する考え方がある。但し、この見解も、関与行為がなかった場合にその行為と同様の効果のある行為(代替的行為)を第三者又は正犯自身が行っていた可能性をどの程度斟酌するかによって恣意的に結論を導きうるようにも思われる。例えば、島田・前掲88頁は、高度の蓋然性が見込まれ、かつ正犯者又は第三者による代替的行為それ自体が犯罪でない場合に限り、その代替的行為によって、危険性の観点から見て同様の効果が生じていたかどうかを検討することを提唱する。しかし、例えばこれを本件に即して考えたときに、XがYに対して「Winny2 Web Site」からWinnyの最新版である「Winny 2.0 β6.47」のダウンロードをさせなかったとしても、Yは、① WinMX 等の他のP2Pファイル共有ソフトを用いて公衆送信権侵害行為を行ったであろう可能性30、② 「Winny」の従来バージョンを用いて31公衆送信権侵害行為を行ったであろう可能性、③ 「Winny」の従来バージョンや「WinMX」等のネットワークを利用して「Winny 2.0 β6.47」を入手した上でこれを用いて公衆送信権侵害行為を行った可能性がある32が、では、これらの代替的行為の蓋然性をどのように見積もるか、そしてそれを「高度」と評価するかどうかは、一意的に決まるものではない。

 本判決は、「WinnyはP2P型ファイル共有ソフトであり、それ自体はセンターサーバを必要としないP2P技術の一つとして様々な分野に応用可能で有意義なものであって、Xがいかなる目的のもとに開発したかにかかわらず、技術それ自体は価値中立的であること、さらに、価値中立的な技術を提供すること一般が犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助犯の成立範囲の拡大は妥当でない」として中立的行為による幇助については幇助犯の成立範囲を限定しなければならないとする弁護側の問題提起を容れた上で、「価値中立的な技術を実際に外部へ提供する場合、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、さらに提供する際の主観的態様如何によると解すべき」と判示している。その上で裁判所は、XがWinnyを提供する際の主観的態様として、Winnyによって著作権侵害がインターネット上にまん延すること自体を積極的に企図したとまでは認められないが、著作権を侵害する態様での利用が広がることで既存のビジネスモデルとは異なるビジネスモデルが生まれることも期待していた旨を認定した33

 本判決は、幇助の因果性を重視して幇助の成立範囲を制限する近時有力説に立たないことは明らかであるが、では、いかなる理論的な枠組みで上記3要件を導いたのかは全く明らかではない。但し、「現実の利用状況」や「提供する際の主観的態様」を重視している点や違法性の問題としている点からすると、価値中立的な技術の公衆への提供行為に関しては、当該技術を公衆に提供する際の意図等を含めた利益考量論をベースとした「許された危険」論を採用していると見る余地はある。

 当該技術の社会における現実の利用状況がどのようなものであった場合にその技術を提供し続ける行為が幇助としての違法性を有することになるのか34が具体的に明らかにされていれば、新規技術の開発・提供者が不意に刑事罰を科される危険を回避することは可能とはなろうが、本判決は、「提供する際の主観的態様」がいかなるものである場合に提供行為が幇助としての違法性を帯びまたはこれを欠くことになるのかという点を含めて何ら具体的に明らかにされていないため35、新規技術の開発・提供行為に対する萎縮効果を一定程度生じさせてしまっていることは否定できないように思われる36

>六 最後に

 情報通信技術において違法な情報の送受信行為を物理的に幇助してしまうことを回避するのは容易ではなく、結果的に違法な情報の送受信行為に利用されたらその技術の提供を中止しなければならないとするのは、確かに新たな情報通信技術の開発・公開に対する萎縮効果が大きい。しかし、違法な情報の送受信を防止ないし遮断する機能がない情報通信技術において、さらに発信者の匿名性を高度に保障するとなると、違法行為の蔓延を抑止する手段を国家・社会から奪うことになりかねないことから、特段の必要性が認められない限り、そのような技術の開発・公開を刑罰をもって抑止することがあながち不当とも言い難いように思われる。Winny事件についていえば、ファイルをWinnyネットワークに流した人のIPアドレスを隠蔽しようとした目的37並びに大規模BBSを目指したWinny2にファイル共有機能を残した目的等を弁護人らが説得的に主張・立証できていなかったことから、「Winny」の提供行為を刑事的に処罰すべきではないとの価値判断を裁判官になさしめるに至らなかったように思われる。

 Winny事件は、弁護側、検察側双方から控訴がなされたとのことであり、控訴審では、新技術の開発・提供者の指針となるような判決が下されることを希望する次第である。

 

  1   ソフトウェア技術者を中心に「金子勇氏を支援する会」が結成され、平成14年5月28日の段階で約1500万円の支援金が集まった。  

 

  2   京都地判平成18年12月13日判タ1229号105頁。なお、以下、「本判決」ということがある。  

 

  3 Frontcode   Technologies社が開発した、Napster互換のプロトコルを利用した中央サーバ型のファイル交換機能と、独自プロトコルを利用したサーバに頼らないピュアP2P型ネットワーク機能の両方を併せ持つP2Pファイル共有ソフトであり(Wikipedia   日本版による)、2バイト文字が使用可能であったことから、日本のネットワーカーの間で広く利用されていた。  

 

  4   http://www.2ch.net  

 

  5   Freenetとは、Ian Clarke の論文 "A Distributed Decentralised Information Storage   and Retrieval System" (分散自立型情報の保管と検索システム)に基づき、"The Free Network   Project"で開発しているソフトウェアであり、完全な分散処理と暗号化により、誰が誰に対しどんな内容の情報を送受信しているのかを外部の者(警察との捜査機関を含む。)が傍受できないようにすることを最大の目的とするものである(http://freenetproject.org/whatis.htmlを参照。)。  

 

  6   「Winny」との名称は、「WinMX」の「MX」の部分を、アルファベット一文字分ずつずらした(M→n、X→y)ものといわれている。  

 

  7    Xは、趣味で開発したソフトウェアを公開するための実名を用いたウェブサイトを開設していた(「Kaneko's Software   Page」<http://homepage1.nifty.com/ kaneko/>)が、そこには「Winny」をアップロードしなかった。  

 

  8   「Winny」の場合、ファイルの位置情報等が要約された「キー」が一定の割合で書き換えられ、書き換えられたキーをもとにダウンロードがなされると、もともと当該ファイルのあったパソコンとは別のパソコンにファイルが複製され、この複製されたファイルがさらにダウンロードされるという「中継機能」を有している。従って、「Winny」ネットワーク上で共有されている著作物等の著作権者や捜査機関等がおとり捜査的に当該著作物等の複製物である電子ファイルの送信を受けてその送信者のコンピュータに割り当てられたIPアドレスを知得したとしても、当該コンピュータは単に当該電子ファイルを「中継」しただけかも知れず、誰が当該電子ファイルを「Winny」ネットワーク上に置いたのかは定かにはわからない。このようにして情報発信主体の匿名性を確保しようとするのが「Winny」の特徴の一つである。Xはこの中継機能を「キャッシュ」機能と呼ぶが(金子勇「Winnyの技術」43頁)、本来の「キャッシュ」とは性質・用法が異なることから、これを「キャッシュ」と呼ぶことに批判的な見解もある。  

 

  9    京都地裁が引用しているACCS   社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会による「2005年ファイル交換ソフト利用実態調査結果の概要」<http://www2.accsjp.or.jp/   news/pdf/p2psurvey2005.pdf>のほか、田中辰雄「著作権の最適保護水準を求めてⅡ:ファイル交換の全数調査 ──違法にも合法にも使える機器・サービスの是非──」<http://www.moba-ken.jp/kennkyuu/2005/final/final_tanaka.pdf>。なお、後者は、一部で誤った理解をされているが、「市販製品をそのままコピーした代替品の割合はほぼ4割であり、6割は市販製品のごく一部か出所不明の画像など代替品にはなりにくいものであった。ファイ交換で交換されるファイルの9割が著作権法的に違法であるというのは正しいが、被害の程度まで見ると実質的被害を与えうるのは4割にとどまる。」としているのであって、ファイル交換で交換されるファイルの約半数が適法なものであるといっているわけではない。  

 

  10   京都地判平成16年11月30日  

 

  11   福田平「注釈刑法(2)-Ⅱ」802頁  

 

  12   堀内=安廣「大コンメンタール刑法[第2版]第5巻」549頁  

 

  13 大阪地判平成12年6月30日判タ1098号228頁  

 

  14   日本の刑事裁判では「99%間違いない」というほどの心証は要求されておらず、「96%」の確率があるのであれば通常有罪認定される。  

 

  15   確率4%の「転送」がなされた場合には「転送」先に罪をなすりつけることができるものの、「転送」がなされなかった場合には、「WinMX」等の既存のP2Pファイル共有ソフトを利用した場合と同様に、そのIPアドレスを動的に割り当てたアクセスプロバイダが捜査事項照会や捜索差押令状等に応じてしまえば、その匿名性は破られることになる。  

 

  16   P2Pファイル共有の場合、ネットワーク参加者が多ければ多いほどファイル転送が効率的となる。  

 

  17   尤も、情報発信者の戸籍上の氏名及び住民票上の住所を登録することなくWinnyネットワークを利用できるという点をもって「匿名性が十分に保障されている」と解するのであれば、この限りではない。  

 

  18   福田・前掲781頁。但し、佐久間「Winny事件にみる著作権侵害と幇助罪」ビジネス法務2004年9月号68頁は「教唆犯においても、電子掲示板で何者かに犯罪の実行を呼びかける場合など、匿名の相手方に向けた犯罪の『そそのかし』が、単なる扇動の程度を越えたときには、教唆犯も成立しうると考える」とする。  

 

  19   民法上の不法行為に関してであるが、最判平成13年2月13日民集55巻1号87頁。なお、本判決は、「刑法62条は、特定の相手方に対して行うことが必要であり、不特定多数の者に対する技術の提供は刑法62条の幇助犯にあたら」ないという弁護人の主張について、「刑法62条に、弁護人らが主張するような制限が一般的に存するとは解されない」と判示している。  

 

  20   堀内=安廣・前掲554頁。但し、その理論構成までは明らかにされていない。  

 

  21   例えば、共同意思主体説を採った場合は、正犯と従犯とで意思を通じ合っていることが必要となろう。但し、共同意思主体説自体は広い支持を得られてはいない。  

 

  22   大審判大正14年1月22日刑集3輯21頁  

 

  23   熊本地判平成6年3月15日判タ963号281頁  

 

  24   例えば、西田典之「刑法総論」322頁  

 

  25   松本光正「中立的行為による幇助」姫路法学27巻27=28号204頁以下、同31=32号238頁以下、島田聡一郎「広義の共犯の一般的成立要件──いわゆる『中立的幇助』に関する近時の議論を手がかりとして──」立教法学57号76頁以下、山中敬一「中立的行為による幇助の可罰性」關西大學法學論集56巻1号34頁以下  

 

  26   結論を留保しているが、小川憲久「技術的中立性とP2Pソフト製作者の責任」L&T25号146頁  

 

  27   島田・前掲62頁  

 

  28   島田・前掲70頁が紹介するヘーフェンダールの見解。  

 

  29   島田・前掲71頁  

 

  30   もっとも、Winnyの匿名化機能の心理的因果性に着目する場合は、WinMX等Winny以前のP2Pファイル共有ソフトの提供に、Winnyの提供と同様の効果を認めることができるかは疑問である。  

 

  31   プログラムの通常のバージョン番号の付け方からすると、0.01の位は些末的なバグ等の修正がなされた場合にカウントを進めることとされているから、「Winny  2.0 β6.47」と「Winny 2.0 β6.4x」との間に機能的な差異は殆どなかったと予想される。  

 

  32   ピュア型P2Pファイル共有ソフトの先駆けである「Gnutella」がその開発元である「Nullsoft」のウェブサイトにアップロードされていたのはわずか一日であるが、「Gnutella」はそのときにこれをダウンロードできた人々を起点として転々流通し広く流布されるに至った。また、「Winny」にしても、Xによるウェブサイト閉鎖後もユーザー間で転々と流通している。  

 

  33   ここでいう、既存のビジネスモデルとはパッケージベースのコンテンツビジネスモデル、すなわち、大量の複製物を製造・販売することで投下資本を回収するビジネスモデルをいい、これとは異なるビジネスモデルとは、コピーフリーでも成り立つビジネスモデルをいう。  

 

  34   例えば、違法行為に利用される割合がどの程度以上となったら違法性を有するのか(いわゆるベータマックス事件の米国連邦最高裁判決のように「実質的な非侵害用途」があれば適法となるのか、過半数が非侵害用途であっても違法性を有するとされる例があり得るのか等。  

 

  35   3要件の理論的な位置づけが明らかにされていないため、実務サイドとしては予測のしようもない。  

 

  36   提供開始時の予想とは異なり実際にはそのほとんどが違法行為に活用された場合にその技術の継続的提供を中止しなければ幇助犯としての違法性を帯びるということになれば投下資本回収のめどがつかなくなるという意味で萎縮効果が残るとする見解もあり得るところではあるが、但し、新規技術を公衆に提供した後にその多くが違法行為に活用されていることを知った場合にはその技術の継続提供を中止したり違法行為に活用されにくくするような改善措置を講ずるなどの条理上の作為義務が生ずるのであって、これに違反して漫然と当該技術を継続的に提供し続けた場合には、不作為による幇助が成立すると解される余地もあるので、その意味での萎縮効果は避けがたいであろう。  

 

  37   これに対し、情報発信者の匿名性の保障を重視した「Freenet」の開発者であるIan Clarke氏は、政治的な表現の自由が十分に保障されていない国での政治的表現の自由を守るという目的を高らかに謳い上げる。  


Posted by 小倉秀夫 at 12:23 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

01/22/2009

指導者不足

今年のオリコンのシングル年間トップ10のうち8曲について,テレビ局の子会社が単独又は共同で音楽出版社となっています。テレビ番組の主題歌等として用いることによってCD・音楽配信等の売上げが伸びた分の分け前を要求して当然だとテレビ局が考えていて,それ故にタイアップの条件としてタイアップ楽曲に係る音楽出版権の全部又は一部の譲渡を求めてくるので,そういう現象が発生します。

 ただ,テレビ放送,とりわけ地上波テレビ放送を流せる地位というのは国の免許制度により特別に認められたものですから,国によって特別に認められた地位による優越性を利用して,そのような本来的でない収入を得ようとするのは,いい加減にやめるべきではないかという気がします。

 作詞家や作曲家の協会だって,私的録音録画補償金の対象拡大なんてけちなことに血道を上げている暇があったら,テレビ局又はその子会社,関連会社が,その放送する番組で使用する楽曲の音楽出版権を単独又は共同して保有することを禁止する旨の放送法改正に向けてロビー活動を行ったり,タイアップに際して音楽出版権の全部又は一部の譲渡を求めてくることが優越的地位の濫用にあたるとして公正取引委員会に申し立てるなりした方がよいのではないかと思ったりします。デジタル媒体への私的複製がなされることによる正規商品の販売機会の喪失割合より,音楽出版権の一部をテレビ局に召し上げられることによる印税の喪失割合の方が遥かに大きいのではないかと思いますし。

 作詞家・作曲家にしても,レコード会社にしても,業界団体を作っているわけですが,業界団体を作って行動する最大のメリットは,そのバーゲイニングパワーを用いて不当な契約条件を押しつけてくる「社会的強者」に共同してあたれることにあるのであって,「RESPECT OUR MUSIC」とか言ってエンドユーザー等に居丈高に譲歩を迫ることにあるわけではないのです。そういう意味では,作詞家・作曲家の団体にせよ,レコード会社の団体にせよ,有能な指導者を欠いているような気がします。

Posted by 小倉秀夫 at 06:19 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (4) | TrackBack (0)

01/11/2009

不正競争防止法が保護するアクセス制御と、保護しないアクセス制御

 不正競争防止法第2条第1項第10号ないし11号の保護を受ける「技術的制限手段」は、同条5項により、「電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録のために用いられる機器をいう。以下同じ。)が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるもの」と定義されています。

 この条項を素直に解釈すると、「技術的制限手段」は、信号方式のものについていえば、

  1. 影像等の視聴等を制限する手段であること
  2. 並びに、
  3.  視聴等が制限される影像等と、視聴等機器に特定の反応をさせて当該影像等の視聴等を制限手段とが、同一の記録媒体に記録され又は同梱されて送信されること
が要求されているように読めます。実際、不正競争防止法の平成11年改正の目的はコンテンツの保護であって、その記録媒体に制御信号を敢えて組み込まなかったコンテンツについてのアクセス制御まで法的に保護する必要はありませんし、不正競争防止法の平成11年改正の目的はプラットフォーマーの保護ではありませんから、制御信号の使用をプラットフォーマーから許可されなかったコンテンツの当該プラットフォーム上でのアクセス制御を法的に保護することは、多様なコンテンツの流通を促進しようという、平成11年改正の根本趣旨に却って反するといえます。

 すると、「正規商品のROMに記録されている特定のデータが視聴等機器に接続された記録媒体に記録されていない場合には、当該記録媒体に記録された影像等の視聴等ができないこととする」という類のアクセス制御は、不正競争防止法による保護を受ける「技術的制限手段」にはあたらないということになろうかと思います。

 したがって、例えば、株式会社セガ・エンタープライゼスの出願に係る特開平9-50373の請求項4を特定の機種のゲーム機に関して満たす記録媒体以外の記録媒体が当該機種のゲーム機にセットされても当該記録媒体に記録されたゲームソフト(自主制作ソフトを含む)が当該ゲーム機上で実行できないようにするタイプのアクセス制御方式は、不正競争防止法上の「技術的制限手段」にあたらないので、このアクセス制御方式を回避して当該機機上で「正規商品」以外の記録媒体に記録されているソフトウェアを実行できるような装置等を製造し又は販売等したとしても、不正競争防止法違反とはならないと考えるのが、法律の文言から見ても、平成11年改正の趣旨から見ても、素直だと思います。


【追記】

 某社からクレームが来たので,最終段落を一部書き換えました。

 なお,「株式会社セガ・エンタープライゼスの出願に係る特開平9-50373の請求項4を満たす記録媒体」とは,「CPUを含む装置に装着して使用する情報記憶媒体であって、前記情報記憶媒体は、アプリケーションプログラム及びセキュリティコードを前記装置により読み出し可能に記録しており、前記装置は、比較基準となるセキュリティコードをメモリに予め記録しており、前記情報記憶媒体から読み出したセキュリティコードと前記メモリに記録されたセキュリティコードとを比較してセキュリティチェックを行うように構成されており、前記セキュリティコードとして所定の表示を行うためのプログラムを含むことを特徴とする情報記憶媒体」であって,前記セキュリティコードとして、所定の表示を行うための表示用データおよび前記表示用データを用いて所定の表示を行うプログラムを含むことを特徴とするもののうち,前記表示用データには、所定のロゴを表示するデータ、真正制作者により制作されたものであることを表示するデータあるいは真正権原者からライセンスされたものであることを表示するデータを含むもの」を言います。

Posted by 小倉秀夫 at 11:29 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

01/09/2009

「廃墟写真」というジャンルにおける「表現」の構成要素

 私は、知財関係ですと被告側代理人を務めることが多いのですが(ドメイン関係で債務不存在確認請求訴訟を提起する場合はともかくとして)、本日は、原告側代理人として訴状を提出してきました。

 その事案は、いわゆる「廃墟写真」というジャンルのさきがけである丸田祥三さんが個展で展示し又は写真集に収録した写真と同じ被写体、類似する構図の写真を、小林伸一郎さんという職業写真家がその写真集に収録して出版したというものです。

 写真の著作物の場合、「何を、どのような構図で撮るか」ということに写真家の個性並びに商品価値が決定的にあらわれるので、「何を、どのような構図で撮るのか」ということが、単なる「アイディア」を超えて、「表現」の一内容を構成するのではないか、ということが、根本の問題としてあります。これを積極的に認めたものとして、いわゆる「みずみずしい西瓜」事件高裁判決があるわけですが、風景写真の中でも、その光景に「美」を見出すこと自体が個人の(類い希な)美的センスの発露である「廃墟写真」というジャンルにおいては、「何を、どのような構図で撮るのか」ということを「表現」を構成する要素として捉えても良いのではないかと考えたのです。また、例えば、先行する廃墟写真集と同じ被写体、同様の構図の廃墟写真を別の写真家に撮らせて新たな廃墟写真集を製作して販売する場合、被写体たる廃墟を探すまでに費やした時間とコストを節約できる分後行作品の方が安く上がる可能性が高いわけですが、それって著作権法により制限しようとする「フリーライド」に他ならないわけで、フリーライドにより資本投下を節約した後行作品の市場への進出を抑制することにより投下資本を回収する機会を表現創作者に付与するものとしての著作権法が存在する以上、今回問題視している小林さんの行為を制約するために著作権法が活用されるというのは、方向としてはあっているのではないでしょうか。

 まあ、もちろん、この種の案件では近時は訴訟物を著作権一本の絞らずに、一般不法行為も予備的ないし選択的に付けておくのが流行なわけで、この案件でも、職業的写真家が多大な時間とコストを費やして探し当てた廃墟写真の被写体と被写体とする写真を、これと市場にて競合する関係に立つ職業的写真家が撮影して、あたかも自分が独自にその被写体を探し当てたかのような文章等とともにこれを写真集に収録して販売していた場合には、一般不法行為にあたるのではないかとか、そういうことを含めて諸々の主張をしていたりします。

 ということで、タイマーが発動してこのエントリーが自動的にアップロードされる頃に、記者クラブでこの件に関する記者会見を行う予定です。

Posted by 小倉秀夫 at 01:30 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

12/25/2008

アジア海賊版文化

 土佐昌樹「アジア海賊版文化──『辺境』から見るアメリカ化の現実」の第2章,第3章は面白かったです。

 軍事独裁が続くビルマ(ミャンマー)では,外国放送局による衛星放送の域外受信と,外国映画の海賊版VCDおよびDVDこそが,市民にグローバルな文化を届ける数少ない手段となっている事実。イギリス植民地時代に作られたイギリス著作権法とほぼ同様のビルマ著作権を可能な限り完全実行せよと西側先進国がビルマ政府に迫ることは,軍事独裁政権による情報統制をさらに強めることになるという現実。このような極端な実例こそが,著作権法が情報統制の為のツールという側面を本来的に有することを私たちに改めて思い起こさせます。

 もちろん,理論的にはビルマ国民が正規商品を購入すれば政府から著作権法違反を理由とする統制を受けずに済むといえなくもありません。しかし,DVD等の正規商品は,その国の,一般大衆の購買力に応じた値付けがなされていないので,そもそもこの国の一般大衆が西側先進国で作られた映画等の正規DVD等を購入するというのは無理がありますし,また,軍事独裁政権なので正規商品を輸入しようとすると厳しい検閲に晒されます。従って,国民がグローバルな情報を知るためには,域外放送の受信と海賊版VCDおよびDVDが事実上不可欠となっているのです。


 日本を含む西側先進国では,さすがに政府が外国からの情報を逐一検閲して排除するということは──わいせつ系をのぞくと──ほぼなくなってはいます。しかし,「コンテンツホールダー」といわれる人々が正規商品による情報の流通を地理的に統制しようとする動きは日に日に強まっています。地上波放送のデジタル化により域外放送の受信が困難となれば,佐賀,徳島は,たちまち「情報鎖国」に陥ります。また,「オンライン配信のみ」のコンテンツが増えると,受信者の滞在国ないしビリングアドレス所在国によりその正規サービスによる受信が拒まれるシステムの下では,「日本在住者は正規には知り得ない情報」がどんどんと増えていくことになります。それは音楽・映像作品にとどまりません。Kindleの普及により,堅い内容の書籍もオンラインで配信される例が実際に米国で増加しています。今後は,そのような形式で配布される論文等については,日本在住者のみ蚊帳の外に置かれるという事態も増えてきそうです。

 「軍事独裁政権による情報統制は悪い情報統制だが,コンテンツホルダーによる情報統制は良い情報統制」と考える人たちは,ダウンロード行為の違法化に賛成するのでしょう。実際,ある研究会で,コンテンツホルダー側の代理人をされる弁護士さんは,どの情報を日本国民に視聴させ,どの情報を視聴させないかを含めて,コンテンツホルダーが決定をするということで何が悪いのだと言っていましたし。しかし,民間企業に情報コントロール権を認めてしまって,本当によいのでしょうか。

Posted by 小倉秀夫 at 08:46 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

12/17/2008

テレビ局等のロビー活動の費用の回収方法は?

 ITProの報道によれば,

ネット上に無許諾でアップロードされたコンテンツをユーザーがダウンロードする行為については、違法とする方針を明記。上位組織である著作権分科会の承認を経て、早ければ2009年の通常国会に提出される。

とのことです。

 違法サイトからのダウンロード行為を違法化しても,権利者は実際には権利行使しないから大丈夫だ──これは,ダウンロード行為の違法化が認められた場合権利行使の過程で私たちのパソコンのハードディスク等の中身が一部の著作権者たちに丸ごと把握されてしまうという批判をした場合に,違法化推進論者からなされるほとんど唯一の反論です。パブコメにあたって,違法サイトからのダウンロード行為を違法化した場合権利行使の過程で国民のプライバシーが大きく侵害されることのあることを指摘したわけですが,結局,この点については,一切答えないまま,ダウンロード行為を違法とすることを文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会は決めたわけです。

 しかし,「新たな権利を創設しても権利者はその権利を行使しないはずだからその権利が行使された場合のデメリット等考慮する必要がない」なんて議論がまかり通るのは,著作権法以外の分野ではなかなか見出すことができるものではありません。それに,行使するはずのない権利を創設するために,手間暇かけて金かけてロビー活動を行うって,普通に考えてあり得ないでしょう。

 さらにいえば,テレビ局が証拠保全の申立を行って私たちのパソコンのハードディスクの中身を洗いざらい持って行って,何か面白そうなデータがあったら,適当に報道部門で使わないとの保証は一切ありません。私のような職業であれば,依頼者との守秘義務を果たすためには,弁護士としての仕事の一環として文書を作成するのに用いるパソコンではインターネットに接続できないようにすることが必要になるかもしれません。だって,インターネットに接続しているパソコンは,常に違法サイトからのダウンロード行為に用いられる可能性を否定しがたいので,テレビ局による証拠保全の対象となりうるからです。

 証拠保全の結果,そのテレビ局が権利を有する著作物の複製物が見つからなかったり,見つかっても「情を知って」の要件を満たすとの立証ができなくて,結果,複製権侵害の存在を立証できなかったとしても,マスメディアとしては,特定の人物が使用しているパソコンのハードディスクの中身を丸ごと検証できるというのはとてもおいしい話ということになります。実際,私がテレビ局の人間であれば,スキャンダル等の焦点となっている人物について,「自分たちの放送を違法サイトからダウンロードしている虞がある」として証拠保全の申立をして,その使用しているパソコンに蔵置されているデータを丸ごとコピーして解析し,スキャンダルに結びつくデータが見つかったらこれを報道(ワイドショーを含む)に流すことの魅力に抗しうるだろうかと考えると自信がありません。ダウンローダーから数十万円程度の損害賠償金を受領するより,証拠保全の過程でつかんだスキャンダルネタで報道番組の視聴率を1%上げた方がよくよくテレビ局の利益になるわけですし。

Posted by 小倉秀夫 at 08:53 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

12/15/2008

まねきTV事件高裁判決(速報)

 まねきTV事件について,本日,知財高裁にて,控訴を棄却する旨の判決が下されました。

Posted by 小倉秀夫 at 02:46 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

12/11/2008

12月9日のJASRACシンポ

 日本音楽著作権協会(JASRAC)が12月9日に開いたシンポジウムの様子がITmediaで取り上げられるや,ネット上では様々な批判を声が上げられているようです。パネリストは個々的には正しいことをいっているようなのですが,それを間違った文脈に結びつけてしまうので,全体としておかしな議論になってしまっているようです。

 まず,モデレータの安念潤司教授の

厳しい状況にあると、人は起死回生の魔法を求めたがる

とのご発言は,正規商品をCCCD形式にしたり,違法にアップロードされた音楽等ファイルの私的使用目的の複製を違法とするようロビー活動したりしている人に向けられた言葉であるならば,まさにその通りといわざるを得ません。

 砂川浩慶准教授の

テレビ番組制作会社では離職率の高さが問題になっているという。仕事を任せられる5年目くらいの中堅社員が少なく、「新しいものを作りだそうという土壌が生み出せていない」

という発言と,菅原常務理事の

タダと言っているコンテンツは実はタダではない。ユーザーは通信料は払っている。従来からものには流通コストが含まれていた。流通コストとコンテンツにかかるコストを整理して認識する必要がある

という発言とを組み合わせれば,コンテンツを作成しているテレビ番組制作会社と,これを放送波等を用いて流通させている放送事業者との利益バランスを見直すことが肝要だという結論を導くことができるのではないかという気がします。「あるある大辞典」のときでも分かったことですが,「テレビ番組制作会社では離職率の高さ」の主たる原因の一つと思われる「テレビ番組制作会社の給与水準の低さ」は,YouTube等の動画投稿サイトやP2P File Sharing等による視聴率の低下云々ということではなく,テレビ番組制作会社が制作したテレビ番組についてスポンサーが支払ったスポンサー料がテレビ局その他に次々とかすめ取られて実際に番組を製作している現場に殆ど降りてこないことに起因しているわけです。

 堀義貴社長の

過去の番組のネット配信には賛成だが「お金を払いたくないと言っている人がいるようであれば産業にならない」と指摘し、過去に作ったコンテンツにも対価が支払われ、十分に仕事が成り立つと分かれば、制作者は将来に向けて作品を作る意欲がわくだろう

についても,だから,テレビ制作会社等が制作したテレビ番組を死蔵させることは許されない,その番組を制作した会社がiTunes Store等でそれをオンライン販売することにより幾ばくかの利益を得たいと希望するのであれば,テレビ局はこれを拒むべきではないという結論に至るのであれば誠にその通りです。

 この点,岸博幸教授は,個々的に見ても正しくないことをいうので,期待を裏切りません。

「ネット法で著作権者の権利制限をするならば、権利制限せざるを得ない公益性がなければならないはず。立法論から言っておかしい

とのことですが,著作物等の文化の所産を全国の津々浦々に流通させてわが国の文化の発展に寄与させるということが著作権法の究極目的である以上,著作権法が却って著作物等の流通を阻害する場合に一定の権利制限を設けてその流通を促進することは,まさに公益性があるというより他ありません。

Posted by 小倉秀夫 at 03:46 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

12/02/2008

「海賊」という言葉

 著作物の複製物を違法に作成して市場に流通させる行為を「海賊」行為と表現するのは,やはり違和感はあります。「海賊」という言葉に含まれる,武器等を用いた有形力の行使又はその威嚇という要素が,違法複製物流通行為にはないからです。

 もちろん,「倭寇」に代表される歴史上の「海賊」は,必ずしも武力で他人の商品を奪ってばかりいたわけではなく,「御朱印船」に代表される,商品流通の独占又は寡占を保護する法制度に反して,商品の流通を担っていたのであって,それは,消費者のみならず,生産者の利益にもなっていたという深遠なニュアンスを含めて「海賊」という表現を用いているのだという反論はあり得るのかもしれません。しかし,それはそれで一般の人にはわかりにくすぎます。

 「海賊」というと,「直ちに取り締まらなければならないもの」というイメージが持たれがちですが,「海賊」の職務のうち「私貿易」に関していえば,現代ではむしろ,取り締まられるどころか大いに奨励されるべきものとされています。「マスメディア」という交易ルートが一部の事業者に押さえられ,著作隣接権や,著作権のテレビ局等の流通業者による囲い込み等のもとで著作物たる商品の正規ルートでの流通が阻害されている現状においては,現在の「海賊」たちもまた,「私貿易」の担い手という側面がないわけではありません。

 著作権法の黎明期にロビー活動力が強かったという理由で著作隣接権を確保しているレコード製作者や放送事業者の著作隣接権が将来の条約・法令の改正等により消滅した暁には,現在「海賊」行為と呼ばれている著作物等の私的流通行為のいくつかは,取り締まられるべきどころか,むしろ大いに奨励されるべき行為として位置づけられるかもしれません。

Posted by 小倉秀夫 at 11:24 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/28/2008

日本法透明化プロジェクトのシンポジウムでの発言の趣旨

 今日のシンポジウムで言いたかったことの前半は概ねこんな感じの内容です(まあ,シンポジウムですから,予定通りに全て語れるわけでもないのですが。)。



 著作権法には表現活動に対する規制立法という側面があります。新たなコンテンツを創作して発表するというのももちろん表現活動ですが,他人が創作したコンテンツを配布するのも表現活動ですし(政治的なビラ配りを考えていただければわかりやすいと思います。),また,表現の自由の1カテゴリーとして「知る権利」を認める通説的な考え方に従えば,他人が創作したコンテンツを「知る」こともまた「表現活動」として憲法第21条による保護の対象となります。それ故,著作権法という表現活動規制立法が表現の自由を不当に制限する違憲なものとならないようにするために,著作権等に一定の制限を加えることは,憲法上の要請であり,国際人権規約B規約上の要請でもあるといえます。

 このことから,立法府においては,表現の自由に対する不当な制限とならないように適切な著作権等の制限規定を設けておくことが求められるとともに,司法府においては,著作権法の諸規定を合憲的に解釈したり,一般条項を活用したりするなどして,表現の自由を不当に制限しないような著作権法の解釈・運用をしていくことが求められます。この,著作権法が表現の自由を不当に制約することを回避するための一般法理を「フェアユース」と呼ぶのであれば,それは現行法の下で特別な立法を要せずして裁判所が援用することは可能な(といいますか,むしろ望ましい)のでしょうし,それを「一般条項」という形で明文化することはさらに望ましいと言うことになろうかと思います。

 さて,著作権法による表現規制は,概ね,表現内容に対する規制と,表現の方法に対する規制とに分かれると思います。多くの場合,既存の著作物等と同じ表現を用いなければ想定した内容を表現できないということではないので,「表現の方法に対する規制」ということになると思いますが,翻案とか,引用とかという領域では,特定の既存著作物に用いられた特定の表現を組み入れること自体が「表現内容」の中核をなす場合がありますので,この場合は,さらに「表現内容に対する規制」という側面が強くなっていくこともあろうかと思います。

 表現方法に関する規制については,憲法学説的には,「立法目的は正当であっても,規制手段について,立法目的を達成するために『より制限的でない他の選びうる手段』を利用することが可能であると判断される場合には,当該規制立法を違憲とする,いわゆるLRAの原則が広く支持されていますが,最高裁判所は,いわゆる猿払事件の大法廷判決以来,「合理的関連性」基準を用いているとされています。

 これによれば,表現行為の時・場所・方法の規制は,① 禁止の目的、② この目的と禁止される表現行為との関連性、③ 表現行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の三点から検討して,当該表現行為を規制することが「合理的で必要やむをえない限度にとどまる」と認められるときには,憲法上許容されるということになります。では,これを著作権法による表現行為の規制に当てはめてみるとどうなるでしょうか。

 まず,著作権法による表現規制の目的をどう捉えるかですが,古典的なインセンティブ論を言い換えるとすると,著作権法による表現規制の目的は,「著作物の創作・流通に資本を投下しない競業者を排除することによって投下資本回収可能性の維持し,もって資本投下を奨励する」ことにあるということになろうかと思います。以下は,ある特定の行為を禁止することとこの目的との関連性があるのか,あるとすればどの程度の関連性があるのか,そして,その行為を当該行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡が取れているのかということを勘案して,著作権法により当該表現行為を禁止することが「合理的で必要やむをえない限度にとどまる」と認めらるかを検討していくことになります。

 例えば, ある企業の総務部において,テレビのニュース番組等で自社がどのように取り上げられているのかをチェックするために,全てのニュース番組を会社が購入し本社の総務部内に設置されている家庭用ビデオ機器で録画する行為を考えてみましょう。これは,企業内での複製は企業内の少人数かつ閉鎖的領域内で使用する目的でなされたとしても著作権法30条1項の適用を受けないとする多数説に従った場合には,複製権侵害行為ということになります。しかし,このような企業内録画というのは,テレビ局等が提供している正規商品では代替できず,従ってテレビ局等の商品・サービスとは競合関係に立ちません。従って,著作権法によってこのような録画行為を規制することは,規制目的との間に合理的な関係がないので許されないということになろうかと思います。その結論を導く論理としては,著作権法30条1項を,企業内複製であっても権利者の提供する正規商品等と競合しない複製については適用されるように合憲的な解釈を行うか,または,そのような複製は著作物の公正な利用にあたるから複製権侵害とはならないとするか,表現の自由を不当に制限する態様での複製権の行使は権利の濫用に当たると解釈するかは,理論的な枠組みの問題ということになります。

 また,東京キー局の放送を受信してインターネットを介して同時再送信する場合を考えてみましょう。これが,関東広域圏内に限り同時再送信する場合,本来その放送が届くべき人にその放送を届けているだけですから,テレビ局の投下資本回収可能性を何ら損なっていないのであり,仮に再送信事業者に営利目的が認められるなどの理由でこれを規制することがあれば,憲法適合性が問題となっていきます。他方,関東広域圏外へも同時再送信する場合には,① これを禁止することとテレビ局の投下資本回収可能性の維持との間に関連性がどのくらいあるのか,そして,② これを禁止することにより得られる利益(正直よく分からないのですが)と,禁止することにより失われる利益(東京キー局の放送を関東広域圏内居住者と同時に視聴できるということは,情報の地域格差を解消するという利益があります。)との均衡等を勘案して,その憲法適合性を判断するということになります。

 今日の小島先生のレポートでは,「著作権の制限規定は厳格に解釈しなければならない」とのテーゼ自体の妥当性が問われました。しかし,著作権の制限規定を拡張的に解釈することにより著作権法が表現行為を不当に規制することを解釈できるのであれば,それを「権利」の方から見て「合憲的限定解釈」と表現するか否かはともかくとして,むしろ好ましいことであって,何ら憚る必要はないということになりそうな気がします。

 なお,表現の方法に対する制限についてLRAの基準を適用できるとすれば,当該行為を差し止めなくとも行為者に権利者への金銭給付を義務づければ投下資本の回収可能性を維持できると裁判所が判断した場合には,差止請求を棄却して,損害賠償義務のみを課したり(宇奈月温泉事件等を考慮すると現行法下でもできる可能性はありますが。),判決をもって強制許諾を命じてしまうということも出来るのかもしれません。まあ,LRAの基準は我が国の最高裁は採用しないのですから仕方がありません。

Posted by 小倉秀夫 at 09:52 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/19/2008

レコード業界は鎖国を目指すのか

 相変わらず,エイベックスの岸取締役がおかしなことを言っています。

そのとき、日本はどのような戦略でどの部分を強化していくのか。少なくとも現状の政府のバラバラな取り組みのままでは、惨敗は必至である。個人的には、日本としての新たな戦略が必要であり、その遂行の過程では、プラットフォーム・レイヤーも含めた全く新しい形での“ネット鎖国”的な取り組みも必要ではないかと思っている。今のままでは、ネットは米国の価値観を具現化する場にしかならず、独自のクリエイティビティーを強化して付加価値に昇華させることもできないであろう。

 コンテンツ立国を目指し,むしろコンテンツを我が国の「輸出品」にしようというのであれば,そのコンテンツは世界標準のプラットフォームで流通させざるを得ないのであって,そのときに日本国内だけ独自のプラットフォームを構築してしまえば,日本のコンテンツ企業は,複数のプラットフォームに対応させるために余分なコストを支払わされることになります。それって,日本のコンテンツ企業の国際企業を低下させる方向にむしろ繋がるはずです。欧米人が好みそうな「Japan Cool」的なアーティストを抱えていないエイベックスはそれでよいかもしれませんが,それって国是に反するよねって感じはどうしても否めません。

 っていうか,エイベックス傘下のアーティストって,Myspaceさえろくに開設していないではないですか。私がよく聞くヨーロッパ系のアーティストは普通にMyspaceを設けてそこでシングルカットされた曲やアルバム収録等をフル視聴させたり,YouTube等にPVを流してそれをMySpaceからリンク貼ったりして,世界規模で自分たちのコンテンツを売り出そうとしているわけですけど,日本のアーティストでそういうことやろうとしているのって,くるりとかCorneliusとか未だごく少数です。そんなことでどうやって,「独自のクリエイティビティーを強化して付加価値に昇華させる」ことができるのでしょう。外国の優れた作品を日本人が聴けないようにすることで,音楽を聴きたい人は日本人アーティストの作品しか聴けないようにすれば,当面,日本国内の需要だけで食べていけるという算段でしょうか。そのためには,正規には日本国内での流通を許されていない海外アーティストの作品をネットを介して視聴する行為を禁止する必要があり,そのために「ダウンロード違法化」を推し進めようと言うことでしょうか。

 そりゃ,じり貧必至ではないでしょうか。「県境」に守られているローカルテレビ局がいつまで経ってもキー局と互角に戦えるコンテンツを生み出せないでいるのと同様に。

Posted by 小倉秀夫 at 02:16 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2) | TrackBack (0)

11/17/2008

デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会報告書案に関する意見

「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会報告書案に関する意見募集」について,下記のとおり意見を提出しました。


レコード,放送番組に関する権利の集中は,コンテンツのインターネット上での再利用を促進する上では不十分である。


 「レコードについては、実演家等の権利を集中化させるための特別の法律上の措置はないが、原則として製作段階からその後の利用も含めた契約が行われているため、実演家の権利はレコード製作者に集中されている。また、作詞家、作曲家等の音楽の著作権は、一任型の集中管理が進んでおり、管理事業者を通じた権利処理が可能である。このため、ネット配信に伴う権利処理については大きな問題がない。」(4頁)とあるが,これは事実誤認である。

 レコードについては,大手レコード会社の共同出資に掛かる音楽配信事業者があることもあり,当該事業者と競合関係にある事業者がスムーズに許諾を受けられない傾向が強い(なお,実演家が自らの実演をインターネット上で広く利用してほしいのに,レコード会社がこれを拒んでいることから,実演家とレコード会社との間で訴訟に至った例がある。)。また,日本以外の先進諸国では,商業レコードに収録された楽曲をインターネットラジオ等に用いることが広く行われているが,日本ではそうなっていないが,その最大の要因は,送信楽曲数や広告等収入に応じた使用料でレコード音源のインターネットラジオ上での利用を包括的に許諾する仕組みが日本にはなく,かつ,ほとんどのレコード会社は個別に許諾を取りに行ってもこれに応じないからである。

 このように,レコードについては,インターネット上での二次利用に関しては,レコード会社が障害になっている


 また,「放送番組については、ビデオ化が予定されるドラマなど一部のものを除き、製作段階においてその後の利用も含めた契約はほとんど行われてきていない。また、最近は番組ごとの権利情報の整備が進められているが、過去のものについては、権利情報が整備されていない場合も多い。」(5頁)とあるが,放送番組については,東京キー局の製作した番組を再送信するくらいしか能のない地方地上波放送局を救済するために,インターネットを用いて情報を送信するのに,受信者の範囲を「放送対象地域」に限定しなければならないという本末転倒な状況下に置かれている(例 NTTぷららの行う地上波デジタル放送再送信サービス)。

 すなわち,著作物等が広く享受されることによる文化の発展を目指して著作物等を日本中の隅々に行き渡させる役目を担う放送事業者に一定の特権を付与したのに,放送事業者を守るために,著作物等の流通が県境で阻害されてしまっているのが実情であって,これは放送事業者に著作隣接権を付与した趣旨からすれば,本末転倒である。

 

 音楽著作物に関しJASRACが集中管理する体制がそれなりにうまくいっているのはJASRACが自らまたはその出資する会社を介して著作物等を利用して利益を得る事業を行っていないが故に,予め定められた料金を支払うことに合意した上で著作物を利用したいと申し込んできた者に対し中立的にこれを承諾してきたからである。このように権利集中管理システムが功を奏するためには,権利を集中的に管理する者が著作物等の利用を希望する者に対し中立的に許諾を行っていく体制があることが不可欠である。現時点では,レコードにしても,放送番組にしても,自ら又はその出資する会社を介して著作物等を利用して利益を得る事業を行っている者(レコード会社,テレビ局等)が許諾権を集中的に管理しており,それゆえ,適正な利用料を支払って正規に著作物等を二次利用したい者が正規に二次利用できない状況下にある。


 よって,著作物等の(インターネット上での)二次利用等を推し進めるためには,レコード会社やテレビ局が握っている許諾権を中立的な権利集中管理事業者に管理させるか(従わないテレビ局については,「電波の私物化が著しい」として放送免許を取り上げるなどの方法により),条約の許す範囲内で強制許諾制度を導入するなどするべきである。

技術的回避手段が邪な目的で用いられている場合があり,その保護を安易に強化すると,却ってコンテンツの開発の阻害や機器メーカー等による不正な利益の取得に繋がりうる。


 「一方、権利者からは、ネットを通じて大量の違法コピーが行われていること、「マジコン」等の回避装置が若年層を含め一般的に広まっていることなどを背景に、現行制度の対象機器の範囲を見直すべきではないか、また、回避装置の提供行為を刑事罰の対象とすべきではないかなどの意見があった。」(17頁)との記載がある。しかし,「マジコン」等は,ゲーム機器メーカーと「ライセンス契約」を締結していない中小企業や個人が開発したゲームソフト等をゲーム機で実行するためにも広く使われている。「マジコン」等の製造・販売等が禁止された場合には,ゲーム機メーカーがそのゲーム機で使用できるソフトウェアの内容やその開発者の企業規模等をコントロールできることになり,却ってコンテンツやその開発者の多様性を損なうことになり,さらには学生を含むアマチュアが作品を発表する機会を押しつぶすことにより,次世代のクリエイターが育つ土壌を失わせることになる。

 従って,アクセスコントロールの回避装置についての規制を強化する場合には,それが機器メーカー等によるコンテンツの支配を強化することにならないような慎重な配慮が必要であり,コンテンツ提供者が機器メーカー等の審査にパスしなければ,あるいは高額のライセンス料を支払わなければ,その提供するコンテンツが当該機器で使用できないとされるようなアクセスコントロールについてはこれを回避する装置の製造・販売等を禁止すべきではない。

 また,地上デジタル放送については,NHK等が出資するB−CAS社のみが提供するB−CASカードを購入させるために放送波にアクセスコントロールが掛けられるという事態が生じているが,アクセスコントロールの回避装置についての規制を強化する場合には,アクセスコントロールの解除に関する機器や特許等で一儲けを企む事業者(団体)が生まれる危険がある。これは,著作権法によっても不正競争防止法によっても本来正当化されるべきでないものである。従って,アクセスコントロールを適切に回避するための機器等に関しては,機器等の代金・使用料もしくはそこに用いられている特許料等の名目で金銭請求を行い,または,本来義務のないことを行うことを条件とすることを,きっちり禁止することなどが必要である。

Posted by 小倉秀夫 at 02:00 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/12/2008

L.H.O.O.Q

 前回の中央大学でのゼミの課題として,次のような設問を出しました。

Marcel Duchampが『L.H.O.O.Q.』を製作し,また,『髭を剃られたL.H.O.O.Q.』を公表する行為は,現在の日本で行われたとしたら,犯罪となるでしょうか。

 著作権法第60条は,

著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。

と規定し,これを受けて著作権法第120条は,

第六十条又は第百一条の三の規定に違反した者は、五百万円以下の罰金に処する。

と規定しており,このため,著作権の保護期間をどうするかに関わりなく,著作者の人格的利益は半永久的に保護されるとされています。では,有史以来人類が創作した作品全てについて,現代においても,著作者の人格的利益は保護されているのだろうかということがここでは問題となります。

 加戸・逐条講義等ですと,上記の点を肯定しつつ,起訴便宜主義があるから大丈夫だという話をするのですが,遠い昔に創作された作品についてはこれを改変等しても刑事罰を科せられないような解釈論が何かないだろうかということが問題となります。

 この点についての私の試案は,旧著作権法第47条が本法施行前に著作権の消滅せざる著作物は本法施行の日より本法の保護を享有すと規定しているのを反対解釈して,旧著作権法施行前に著作権が消滅した著作物についてはその時点で著作者人格権を含めて権利が消滅したと解した上で,現行著作権法附則第2条1項を類推適用して,「現行法施行日以前に消滅している権利については,現行法の施行により復活しない」という部分を著作者人格権についても拡張して,旧著作権法施行時に既に著作権が消滅している著作物については,現行著作権法60条及び120条が適用されない,とするものですが,技巧的にすぎるような気はしなくもありません。

Posted by 小倉秀夫 at 08:32 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

「著作物の利用についてのアンケート調査」に協力してみる。

 文化庁から「著作物の利用についてのアンケート調査 ~ ご協力のお願い ~」というのが来ていましたので,早速回答しておきました。

 これは,「文化審議会著作権分科会「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会中間整理」に関する意見募集の実施に際し、意見を送った個人に対しなされるもので,太田勝造東京大学法学部教授が調査責任者となっているものとのことです。

 個人の著作物についての著作権の保護期間を自由に決められるとしたら,というアンケートについては最短で死後0年という選択肢までしか認めてもらえなかったのは残念でした。もちろん,ベルヌ条約等を改正するか同条約等から脱退する必要があるので現実的ではないのですが,自然人,法人とを問わず,公表後2〜30年くらい保護すれば十分ではないかという気がするものですから(投下資本の回収可能性という点では,それくらいの期間独占権を認めれば十分ですし,人口に膾炙したものについていえば公表後30年も経つと半ばインフラ化してしまうと思いますので。)。

Posted by 小倉秀夫 at 03:19 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/10/2008

「研究開発における情報利用の円滑化について」についての意見

 「第4節 研究開発における情報利用の円滑化について」についても下記のとおりパブリックコメントを提出しました。



 営利目的の有無にかかわらず,研究開発等(商品開発を含む。)の過程における著作物等の利用については,権利制限規定を設けるべきであるし,その過程でなされる改変については,それが公表されるまでは同一性保持権侵害とならないこととすべきである。その理由は下記のとおりである。

 既存の著作物等を利用した作品ないし商品を開発するにあたっては,誰のどの作品のどの部分をどのように利用したら最も効果的かについて試行錯誤がなされるのが通常である。開発部門としては,試作品等を作成する前の段階でその著作権者等に許諾を求めるのは手続が煩雑である。

 他方,当該著作物等の著作権者においては,第三者の研究開発部門等が当該著作物等の全部または一部をそのまま又は改変して試作品等を作成していたとしても,それが公表され市場に供給されるまでは,当該著作物等に係る正規商品の流通を阻害することはない。従って,このような開発段階での著作物等の利用がなされても,当該著作物の著作権者等の経済的権益を害しないので,当該著作権者等にそのような利用を禁止する権利を認める必要はなく,又は,当該権利者等に補償すべき損失も生じない。同様に,試作品等が公表されない限り,当該著作物等により形成される著作者等の社会的評価に変動が生ずることもないので,著作者等に,試作品等の作成過程でなされる著作物等を改変を禁止する権利を認める必要もない。

 実際問題としても,試行錯誤の結果,既存の著作物等のどの部分をどのような形で利用してどのような作品又は商品に仕立て上げたのかが概ね決まってからでなければ,そこでなされる著作物等の改変についての同意を求めにくいし,同意する方もしにくい。

 よって,上記のような法整備が求められる。

Posted by 小倉秀夫 at 02:14 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

「第2節 私的使用目的の複製の見直しについて」についての意見

 「文化審議会著作権分科会「法制問題小委員会平成20年度・中間まとめ」について,特に「第2節 私的使用目的の複製の見直しについて」について,下記のとおり意見を提出しました。


 私的使用目的で違法複製物等から著作物を複製する行為を違法化する法改正は不要であるのみならず,有害である。その理由は下記のとおりである。

 諸外国でも,著作権者等による権利行使の対象となっているのは,P2Pファイル共有システムを用いて違法複製物等をダウンロードした者であって,ダウンロードしたデータファイルを共有フォルダに蔵置していたものである。そして,世界に先駆けて著作物等について送信可能化権を設けている日本法においては,このような者に対しては送信可能化権を行使することが可能である。

 そうではなくて,ダウンロードしたデータファイルを共有フォルダに蔵置していない場合についても著作権者等による権利行使を行いたいとのことであれば,それは世界でもほとんど前例のないことであり,それが認められた場合の弊害はとても大きい。すなわち,その場合,著作権者等の側で被疑侵害者の使用しているコンピュータ内のハードディスク等の中に自分が著作権等を有する楽曲等の複製物が蔵置されていることを証明しなければならないが,そのためには,著作権者等は,第三者が使用しているコンピュータにどのようなデータが蔵置されているのかを検証することが必要となる。そして,それを可能とするためには,自分が著作権等を有する楽曲等が多数違法にアップロードされていることを疎明すれば,任意の第三者を債務者として証拠保全の申立てを行い,その使用しているコンピュータ内のハードディスクの100%物理コピーを入手することがほぼ必須である。従って,上記のような法改正がなされた場合,裁判所は,その立法趣旨に鑑み,現行の民事訴訟法の規定に従い,上記証拠保全手続としてのハードディスクの100%物理コピーを許可する可能性が十分にある(なお,当該第三者が違法にアップロードされた著作物等をダウンロードしていることの疎明は,技術的に困難であるし,それはまさに保全された証拠によって立証しようとする事項であるが故に,要求されないと予想される。)。この場合,当該ハードディスクにて保管しておいたプライバシー情報等は全て著作権者等に知られるところとなり,別の用途に悪用される危険がある(なお,証拠保全で収集した証拠により得た個人情報を他の用途に利活用することを刑事罰をもって禁止する法律は現在存在しないので,民事で慰謝料等を支払っても採算がとれるとなれば,別の用途に悪用される可能性は十分にある。)。

 なお,上記のような法改正が希望される表向きの理由としては,「ファイル交換ソフトによる違法配信からの録音録画については、違法な送信可能化や自動公衆送信を行う者を特定するのが困難な場合があり、送信可能化権や公衆送信権では充分対応できない」ということがあげられている。しかし,上記のような「当てずっぽうで対象を選んでの証拠保全」を行わないとすると,違法な送信可能化や自動公衆送信を行う者を特定するよりも,それらの者からデータの送信を受けた者を特定する方が技術的に困難である(今回の資料の中でも,「仮にそのような法改正がなされた場合に,誰が何をダウンロードしたのかをどのように特定することが予定されているのか」について具体的に示されていないのは残念である。)。

 また,電子掲示板等に投稿する際にだけインターネットにアクセスすれば足り,公衆にIPアドレスを晒す必要がない名誉毀損等のケースと異なり,ファイル交換ソフトによる著作物等の違法配信の場合,継続的に自己のIPアドレスを公衆に晒す必要があるから,違法な送信可能化や自動公衆送信を行う者を特定するのは,技術的・法的には比較的容易である(日本の著作権等管理団体は,米国やドイツ等の著作権等管理団体と異なり,弁護士費用を惜しんで,違法な送信可能化や自動公衆送信を行う者を特定して権利行使することを怠ってきただけのことである。)。

 また,上記法改正がなされてしまう場合には,いわゆる動画投稿サイトにて,日本では公開されていない海外の作品を視聴したり,民法テレビ局の少ない地域の住民が地元に系列局のないキー局の番組を視聴すること自体が違法とされてしまう等,著作権者等から地理的にブロックされている情報を知ること自体が不法行為とされてしまうのであり,それは国民の知る権利を大いに害することになる。

 なお,「ストリーミングに伴うキャッシュについては、著作権分科会報告書(平成18 年1 月)における一時的固定に関する議論の内容等を踏まえた上で、必要に応じ法改正すれば問題がないと考えられる」との議論があるが,「RAMへの一時的蓄積は著作権法上の複製にあたるか」という点についてはあたらないとするのが多数説並びに下級審判例ではあったものの,ハードディスクに固定されるキャッシュについては,コンピュータの電源を一度落としても繰り返し利用することが技術的に可能であるが故に「複製」と認定される可能性が高く,上記のような法改正がなされた場合には,著作権者等による情報の地理的分割に活用される危険が十分にあり,そのように活用された場合に,上記情報の地理的分割によって利益を得るのがテレビ局やレコード会社等文化庁と繋がりの深い事業者であるが故に,「複製」の定義に関する法整備が速やかに行われる可能性は低いと思われる。  

Posted by 小倉秀夫 at 12:32 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

11/04/2008

小室哲哉さん逮捕との報道にあたって

 小室哲哉さんが逮捕されたとのニュースがマスコミ各社で報道されています。

 このクラスの商業音楽に関する歌詞・メロディ等の著作権は,作詞家・作曲家→音楽出版社→JASRACというふうに転々譲渡されているのが通常なので,売買の対象とするのであれば,著作権それ自体ではなく,「音楽出版社から著作物使用料の支払いを受ける権利」ではなかったかと思ったりします(小室さんが作詞・作曲したヒット曲約800曲についての著作物使用料の支払いを(未来永劫)受ける権利が10億円ならば,そんなに不思議な買い物ではなかったと思いますし。)。

 もっとも,作詞家・作曲家→音楽出版社への著作権譲渡に関して著作権原簿への登録がなされていない場合には,作詞家・作曲家→投資家への著作権譲渡は有効であり,後に著作権譲渡を受けた投資家は,先に著作権原簿への登録を受ければ背信的悪意が認定されない限り音楽出版社に対抗できるので,後から著作権譲渡を受けた投資家の方に譲渡登録を行ってしまえば,とりあえず詐欺罪は成立しなかったのではないかという気がしたりもします。不動産の二重譲渡であれば先行譲受者との関係で横領罪が成立するところですが,譲渡の客体が著作物だと「財物」性に問題がありそうです(詐欺や恐喝と違って,「利益横領」みたいな規定はありません。)し,かといって,二重抵当と同様に背任に持って行けるのかというとそこも何だか辛そうな気がします(まだちゃんと検討していませんが。)。まあ,刑事罰が科されるか否かが微妙だというだけで,先行譲受人に対する損害賠償義務が認められることは確実なので,おすすめできる話ではありませんが。

Posted by 小倉秀夫 at 11:59 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (3)

11/03/2008

理論的には違うかもしれないけど

 mohnoさんは,次のように述べています。

「新たなサービスが違法行為に使われる可能性がある」のと「新たなサービスが違法行為を前提にしている」は全く違う。

 しかし,違法な著作権・著作隣接権侵害行為に用いられる可能性があることを知りつつ,これを未然に防止する方法を見いだせないまま,新たなサービスを開始した場合には,「新たなサービスが違法行為を前提にしている」どころか,「新たなサービスは,違法行為に使用されることを目的としている」と認定される十分な虞があります(cf.ファイルローグ事件)。

Posted by 小倉秀夫 at 05:53 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

10/26/2008

昔見た覚えのある光景

 「違法にアップロードされた著作物等のダウンロードを今度違法化しようと思うけど,ストリーミング配信は対象とならないから大丈夫」という言い回しって,「レコード輸入権を創設しても,洋楽CDの並行輸入には適用されないから大丈夫」という言い回しを思い起こさせます。

 で,レコード輸入権の時と大きく異なるのは,レコード輸入権の時は反対運動が盛り上がったこともあって日本レコード協会の依田会長(当時)等が洋楽CDの並行輸入の阻止に活用しないことを表明していたし,国会での付帯決議も入ったりしたおかげで,現在でも,洋楽CDの並行輸入を差し止めるためにレコード輸入権が活用されることは概ねないままここまできているわけですが,YouTube等の視聴者に対し権利行使しないということの表明は,権利者サイドの責任ある立場の人たちからは特段表明されていないし,反対運動が盛り上がらないと,「ストリーミング配信については,権利行使しない」ことを要望する旨の国会での付帯決議は入らないだろうということです。

 川瀬室長がいくらストリーミング配信を受信する際に行われるキャッシュの生成は違法化する対象から外すといってみても,JASRACやレコード会社,テレビ局等がこれを無視して,YouTube利用者を相手取って訴訟を提起したとしても,そのこと自体を法的にはもちろん,倫理的にも大して非難することはできません。そして,ハードディスクへのキャッシュ(RAMへの読み込みと異なり,コンピュータの電源を切っても情報は消失にない。)まで「一時的蓄積」にすぎず複製に当たらないとする見解は必ずしも支配的ではありませんから,請求が認容される可能性があります。そのときに,川瀬室長が責任を取って,川瀬室長のご見解を信じて安心してYouTubeを視聴していた人々がJASRAC等に支払わされた賠償金分を保証してくれるとは思われません。

Posted by 小倉秀夫 at 06:55 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

純粋ダウンローダーに権利行使した例が見あたらない

 mohnoさんが「ダウンロード違法化を無力化するには 」というエントリーの中で,

ちなみに「日本は終わりだ。外国に引っ越そう」みたいな話をしている人は、文化審議会の資料を読んでないのかな。違法著作物からの複製について、ドイツでは2003年に違法化されたみたいだし、フランスは(悪名高き?)スリー・ステップ・テストがあるし、そもそもイギリスでは娯楽目的で録画録音を認容する規定がないというし、アメリカのフェアユースにも該当しないだろうし、スペインでも私的複製から除外されているらしいし、カナダもアウトのようだ。違法とされていないのはオランダとオーストリアくらい。

と述べています。

 ただ,かなりの点で外しているように思えてなりません。「スリー・ステップ・テストが導入されている→違法にアップロードされているサイトからのダウンロードは違法」とは必ずしもいえないし(例えば,事実上廃盤になってしまった楽曲や日本国内盤がない楽曲など,正規商品を入手することが困難なデータについては,(海外のサイトなどに)無許諾でアップロードされているデータを日本のユーザーが指摘しよう目的でダウンロードしたところで,「著作物の通常の利用を妨げず,その著作者の正当な利益を不当に害しない」と言えなくもないように思ったりします。),イギリスの場合判例法国なので,「娯楽目的で録画録音を認容する規定がない→娯楽目的の録音録画は著作権侵害」ということにはなりませんし(米国でも,フェアユースは,もともとエクイティ(衡平法)の一カテゴリーとして,判例法として発展してきた(後に,判例法をまとめる形で条文化)したわけですし,実際,英国でも,正規商品たる商用音楽CDを正規ルートで購入して,PC経由で,自分のiPodにリッピングすることは,禁止されていないようです。)。

 また,違法サイトからのダウンロードがフェアユースに当たらないとした連邦高裁の判例として文化庁が紹介する事案というのは,ファイル共有に関する事案であって,我が国の法体系でいえば,法改正などしなくとも,送信可能化権侵害ということで,法的措置を講じうるケースだということです(ファイル共有者約3万人に対し訴訟を提起してきたRIAAですら,ファイル共有を伴わない純粋ダウンローダーをターゲットとした訴訟は提起していません。)。

 しかし,日本の著作権等の権利者団体は,送信可能化も行うダウンローダーを摘発するだけでは不十分だということで,純粋なダウンローダーに対しても権利行使を行いたいとして,違法にアップロードされたファイルを私的使用目的でダウンロードする行為を違法化するように要求しているわけですから,米国よりも,かなり個人のプライバシーに踏み込んだ運用を想定していることは間違いありません。同時にアップローダーでもあるファイル共有者の摘発では飽きたらず,純粋なダウンローダーを探し出して権利行使するとなれば,純粋なダウンローダーのIPアドレスを,データの送受信の一方当事者ではない著作権者等が知る機会はありませんから,違法ファイルのダウンロード行為を行っている蓋然性が高いことを示す特段の資料なしに,任意の個人のパソコンの中身をまるごと押さえて精査するよりありません

 いまのところ,このように個人のプライバシーを大いに侵害することなしには権利行使することができない,純粋ダウンローダーの摘発に踏み切った国があることを私は知りません。文化審議会の思惑通りに法改正がなされれば,純粋ダウンローダーを取り締まるために,一般市民のプライバシー等JASRACとテレビ局にくれてやる,世界で最初の国に日本がなるということです。




mohnoさんは「ダウンロード違法化が実現しても、一般市民の情報プライバシー保護には厳重な配慮が必要だ」と言ってはいかんのか?と仰いますが,この法改正自体一般市民をターゲットとしたものですし,一般市民のハードディスクの中にJASRACやテレビ局が著作権等を有する作品の複製物のどれとどれが蔵置されているかを精査するに当たっては,そのハードディスクを丸ごと精査するしかありません。つまり,この改正法により創設された権利を行使する限り,一般市民の情報プライバシー保護に配慮した運用というのはありえません。

Posted by 小倉秀夫 at 03:26 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2) | TrackBack (1)

10/21/2008

何が選挙の争点なのかを決めるのは,私たち主権者たる国民である。

 選挙の争点なんて,政治家が決めるものでも,マスコミが決めるものでも,ましてや田原総一郎が決めるものでもありません。我々有権者が決めるものです。だから,私たち一人一人が地元の候補者に連絡を取り,あるいは各政党にメールを送り,自分たちは,私的ダウンロードの違法化に反対であるとの意思を伝えるとともに,各候補者は,各政党はこの問題にどう対処するのか,確認を取ることは有効です。そのような個々人の行動が積み重なっていくと,この問題は,選挙の争点化していく可能性が出てきます。

 基本的には,私的ダウンロード違法化というのは,立法論としては筋が悪いのです。というのも,違法にアップロードされたデータをダウンロードした者に対しJASRAC又はテレビ局等の権利者が権利行使を認めるためには,JASRACやテレビ局等に,我々市民のパソコンの中身を精査する権限を付与しなければならないからです。すなわち,私的ダウンロード違法化というのは,我々市民の私的領域内で行われている行為を,一部の企業や団体の監視下に置くことで初めて実効性を有するに至るのであり,個々人のプライバシー権を包括的に犠牲にすることなしには成り立たない制度だからです。

 ですから,地元の候補者に対しては,文化庁は,私的使用目的のデータのダウンロード行為を著作権侵害とすることによって,私たちのパソコンの中身をいつでも精査できる権利を,テレビ局と文科省傘下の特殊法人に付与しようとしています。先生は,テレビ局や文科省の役人から私たちのプライバシーを守ってくれるのですか,それともテレビ局等に私たちのプライバシーをくれてやるのですか,とお聞きすればよいのです。

 候補者が地元でタウンミーティング等をやっているようであれば,そこに出席をしてこの点を聞いてみるものよいでしょう。「この法律が成立してしまうと,私が,違法サイトからのダウンロードをしていないとテレビ局にわかってもらうためには,恋人と撮ったムービーなんかを含めて自分のパソコン内の全ての動画ファイルを,テレビ局の人に取り上げられて,精査されないといけないんですよね。しかも,テレビ局等は,そうやって入手した個人情報を,スキャンダル報道等に活用することが自由にできるのですよね。先生は,そんな社会を作ることに賛成なのですか」と聞いてみたらよいのではないかと思うのです。この立法案の問題点の一つは,自分は違法にアップロードされたデータをダウンロードしていなくとも,潔白を証明するためには,自分の保有するパソコン内に蔵置された情報を丸ごとテレビ局に差し出さなければならないのであり,しかも,特定の(隠しておきたい)情報だけは見せないということができないと言うことになります。すなわち,このような立法がなされた暁には,裁判所とテレビ局とが「証拠保全」という形で結びつくことにより,一種のAntinyの機能を果たすことになるのです。

Posted by 小倉秀夫 at 01:34 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

10/20/2008

私的ダウンロード行為の違法化について

 津田さんが,

【速報】私的録音録画小委員会にてダウンロード違法化が決定。iPod課金は見送り。
つぶやいておられたので,自民党,公明党,民主党,社民党の方に,概ね下記のようなメールを送っておきました。共産党は,知り合いが思い浮かばなかったので,共産党のウェブサイトに掲載されているメールアドレスに宛てて,ほぼ同じ内容のメールを送っておきました。

////////////////////////////////////////////////////

 文化審議会の私的録音録画小委員会において,違法にアップロードされた音声または映像をダウンロードする行為を著作権侵害とする旨の法改正を行うことを決定したとの速報が流れてきました。

 そのような法改正がなされた場合,一般市民は,JASRACまたはテレビ局からの証拠保全又は検証物提出命令等により,個人的に使用しているパソコンのハードディスクの中身及び操作ログをがっさりもっていかれた上で,どのような情報をどこから入手したのかを,丸裸にされることになります(「違法にアップロードされているデータ等をダウンロードした疑いがあるとして集められたデータを,JASRACが文科省に引き渡したとしても,JASRACに何ら制裁は加わりません。)。すなわち,政治家やジャーナリストを含めた個人の情報プライバシーは,文科省傘下であるJASRAC及び総務省傘下であるテレビ局の前には,なきに等しいという状況に陥る危険が十分にあります。

 また,そもそも,情報を入手する行為自体を著作権侵害とすることは,国民が知る権利を行使すること自体を違法とするものであって,著作権法がその究極目的とする「文化の発展」の妨げとなるものです(この法案が可決した場合,「著作権」を媒介とした,地域による情報分割が可能となります。)。

 つきましては,総選挙を前にご多忙のこととは存じますが,○○党として,この問題についてどのような方針をとられるご予定なのか,お聞かせいただければ幸いです。

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10/18/2008

ゼミ面接 in 2008

 昨日は,2009年度のゼミへの入ゼミ希望者の面接を行ってきました。

 今年は,レポートを提出した入ゼミ希望者が34人ということで,概ね競争倍率は1.6倍ということになりました。

 著作権法ゼミという関係上,毎年いろいろ一芸に秀でた人が応募してくれるのですが,今年も様々な能力を持った人が応募してくれたので,選ぶ側(面接に関しては,現3年生のゼミ員の意見をとても重視します。)としても選び甲斐があったというものです。

Posted by 小倉秀夫 at 05:25 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

10/15/2008

2009年度著作権法ゼミの選抜レポート

 昨日は,中央大学法学部での著作権法ゼミのゼミ員選抜用のレポートの提出期限でした。

 著作権法ゼミですと,例年,IT系に興味がある学生と,エンターテインメント系に興味がある学生とが併存することになりますので,今年は,選抜用レポートの課題を選択制にしました。

 ちなみに,今年の課題は下記のとおりです。

次の2つのテーマのいずれかを選択して下さい。
  1. 仮に、あなたが音楽プロデューサーとして日本のアーティストを海外に売り込むことを命じられた場合、どのアーティストを、どの国や地域で、どのようにしてプロモートしますか。その場合、どのような国その他の諸団体等からどのような支援を受けることが必要または有益ですか。理由も付して具体的に論じて下さい。

  2. なぜ日本ではクリエイティブ・コモンズが普及しないのか、具体的に論じて下さい。


 憲法,民法,刑法のような基本科目については,ゼミの議論の前提となる法律知識・法律理解の高低をためすようなレポート課題を出すことが可能ですが,著作権法の場合,2年生の段階で著作権法の知識があることを前提とするわけに行かないので,著作権法が問題となる領域についての知識やセンスを問うようなレポート課題にせざるを得ないなあ,と思っています。

Posted by 小倉秀夫 at 11:01 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

10/14/2008

海賊版の図書館への収蔵

 産経新聞によれば,萩原遼さんの著書の海賊版を納入し、貸し出しているのは著作権侵害にあたるとして、東大など8大学と外務省所管の財団法人日韓文化交流基金を相手取り、近く損害賠償を求める訴えを起こすことが判ったとのニュースが話題になっています。

 「公衆送信」云々という部分は萩原さんか産経新聞が勘違いしているだけでしょうからひとまず措くとして,プログラムの著作物以外の著作物については,海賊版の所持者がこれを不特定人に対し展示する行為は特段著作権侵害とならないので,これらの図書館等としては,当該海賊版について館外貸出しの対象としていなければ,損害賠償をしなければならない理由はありません。

 また,仮に館外貸出しの対象としていたとしても,頒布目的の所持が著作権侵害等とみなされるのは,その物が著作権等を侵害する行為により作成された者であるとの「情を知つて」行ったものに限られます。「情を知つて」の意義については,東京地判平成7年10月30日判タ908号69頁は,

著作権侵害を争っている者が、著作権法一一三条一項二号所定の「著作権・・・・・を侵害する行為によって作成された物」であるとの「情を知」るとは、その物を作成した行為が著作権侵害である旨判断した判決が確定したことを知る必要があるものではなく、仮処分決定、未確定の第一審判決等、中間的判断であっても、公権的判断で、その物が著作権を侵害する行為によって作成されたものである旨の判断、あるいは、その物が著作権を侵害する行為によって作成された物であることに直結する判断が示されたことを知れば足りるものと解するのか相当である

と判示しており,問題の「北韓解放直後極秘資料」が萩原さんの「北朝鮮の極秘文書」の複製物or二次的著作物か否かについて争いがある本件においては,この基準が変らない限り,訴訟や保全処分等を行って暫定的な結論を得ることすらしていない段階で「情を知つて」の要件を満たすことは容易ではありません。

 もちろん,上記裁判例は一般的な譲渡権が制定される前のものであり,一般的な譲渡権が制定された現在では,海賊版について譲渡権が消尽していないことを過失により知らずにこれを公衆に譲渡してしまった場合には,不法行為が成立する可能性があります(逆に,複製物の譲渡を受けたときに譲渡権が未だ消尽していないことを過失なくして知らなかった場合には,その後「情を知つて」これを公衆に譲渡したとしても譲渡権侵害とはならないわけですが(著作権法113条の2))。

 しかし,館外貸出しの場合は,譲渡権ではなく,貸与権が問題となりますから,権利の消尽云々は問題とならない反面,無償かつ非営利で行う分には,著作権者の許諾がそもそも不要ですので,過失云々が問題になることはありません。従って,実際上の争点は,館外貸出しを行った図書館等に営利性等を認めることができるのかという点に絞られることになりそうです。

Posted by 小倉秀夫 at 02:55 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (2)

シンポジウム「ここがヘンだよ日本法」

 特定領域研究プロジェクト「日本法の透明化」の一環として,「ここがヘンだよ日本法」というシンポジウムが,11月28日,29日に開催されます。

 私は,28日の午前10時から行われる「著作権法における『間接侵害』と権利制限規定」というセッションでパネリストを務める予定です。

Posted by 小倉秀夫 at 11:39 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

10/06/2008

著作権法第2条第1項第7号の2の括弧書きの立法趣旨

 著作権法第2条第1項第7号の2の括弧書きの趣旨について,例えば加戸・逐条講義31ページは,

もともとはコンサートなどで歌手が歌をマイクを通して歌った場合に,前にいる人はその歌手の歌唱(これは第16号の箇所で述べますとおり,「演奏」に該当します。)を聞いていますけれども,後ろにいる人はスピーカーという受信装置を通じて公衆送信を聞いていると言うことになりかねませんが,この場合に公衆送信という概念で押さえるのはおかしかろうということで,少なくとも同一構内で行われている限りは公衆送信という概念をとらないで,演奏という概念で押さえようという観点から,こういう書き方をしたわけでございます。
との記載があります。しかし,現行著作権法が制定される際の国会の議事録はもちろん,現行著作権法の起草に先立つ著作権審議会の分科会の中間報告や最終答申などにも,同一構内か否かで,「演奏」か「公衆送信」かを分けるのだという趣旨の発言はありません。

 現行著作権法制定前において,例えば「有線放送業務の運用の規正に関する法律」が第2条において,

 (定義)
第二条 この法律において「有線放送」とは、左の各号の一に該当するものをいう。
 一 一区域内において公衆によつて直接聴取されることを目的として、放送を受信しこれを有線電気通信設備によつて再送信すること。
 二 一区域内において公衆によつて直接聴取されることを目的として、音声その他の音響を有線電気通信設備によつて送信すること。
 三 道路、広場、公園等公衆の通行し、又は集合する場所において公衆によつて直接聴取されることを目的として、音声その他の音響を有線電気通信設備によつて送信し、又は放送を受信しこれを有線電気通信設備によつて再送信すること。
としつつ,第10条において,
 (適用除外)
第十条 この法律の規定は、左の各号に掲げる有線放送の業務については適用しない。
 一 臨時且つ一時の目的のために行われる有線放送の業務
 二 一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合においては、同一の者の占有に属する区域)において行われる有線放送(第二条第三号に該当するものを除く。)の業務
(以下,略)
と規定されていることに代表されるように,「一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合においては、同一の者の占有に属する区域)において行われる有線放送」については「有線放送」としての規制の対象外とされていたことを踏襲したものと見る方が素直ではないかと思います。その際,同「一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合においては、同一の者の占有に属する区域)において行われる」有線放送については,「公衆送信」には該当するが公衆送信ないし有線放送としての保護・規制を受けないという規定ぶりにするより,そもそも「公衆送信」(及びその一カテゴリーである有線放送)の定義から除外するとした方が,法律の規定の仕方としてわかりやすいので,著作権法第2条において,「公衆送信」の定義規定において,上記括弧書きを付けることにしたと考える方が素直ではないかという気がします。

 ときおり,7号の2の括弧書きの趣旨は,「演奏」等に該当する場合を「公衆送信」から除き重畳適用を避けることにあったのだから,「演奏」等に該当しない場合は括弧書きを適用せず「公衆送信」に該当するものと解すべきだ,みたいな主張がなされることがあるのですが,もし立法者の意思がそのようなものだとするならば,「演奏」等の定義を先に決めた上で,「公衆送信」の定義規定において,「演奏」等に該当するものを除く旨の括弧書きを挿入したのではないかと思います。

 町村先生も,世間では、立法担当者の主観的認識といわゆる立法者意思とを混同している向きが多く、立法担当官が書いた逐条解説を金科玉条のごとく思いこむ人が多い。仰っていましたが,著作権法の分野では,何が立法者意思なのかを加戸知事の逐条解説に頼るのは結構危険だなあと言えそうです。

Posted by 小倉秀夫 at 08:26 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

私たちは,「加勢大周」の名を忘れることなどできない。

 テレビ局等々は「加勢大周」の痕跡を消し何事もなかったかのように振る舞えるかも知れませんが,知財関係者にとっては,「加勢大周」の名は忘れることができません。


 数年後の学生には,「加勢大周」事件の話をする際に,「加勢大周」の説明からしなければならないかも知れませんね。

Posted by 小倉秀夫 at 03:03 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

10/02/2008

プログラム関連について30条の適用除外とすべきという意見に対して

「海賊版DSソフトのダウンロード違法化求める声も〜著作権分科会 」という記事がInternet Watchにアップロードされています。その中に,
 プログラム関連の取り扱いについて弁護士の松田政行氏は、早急に30条の適用除外とすべきと主張した。松田氏は、「ニンテンドーDSのソフトは、これまで推計185万本の違法複製が行われ、被害額は60億円に達したと聞いている」として、経済的損失が大きいことを指摘。こうしたプログラムをアップロードした人だけでなく、ダウンロードなどの複製行為自体も違法とすべきと訴えた。
との記載があります。しかし,「ニンテンドーDSのソフトは、これまで推計185万本の違法複製が行われ、被害額は60億円に達した」と述べている人がいるということから,「プログラム関連の取り扱いについて……、早急に30条の適用除外とすべき」との結論を導くのは困難です。むしろ,「ニンテンドーDS用のソフトがネット上に大量にアップロードされているという状況を何とかしたいと任天堂が考えているのであれば,新人弁護士が大量に余っているので,任天堂は,企業内弁護士を大量雇用するなどして,ニンテンドーDS用のソフトを違法にアップロードしている人々に対し適切に権利行使すべき」というのが筋ではないかと思います。いや,何度も言っていることですけど,ダウンロード行為を違法としたって,ダウンロードした人を摘発して権利行使するのって,アップローダーを摘発して権利行使するより遥かにハードルが高いので,早急な対策としては意味がないと思います。

 もっとも,30条の例外とすべきとする複製行為について「ダウンロードなど」としている点は不気味です。外出先に何枚ものカードを持ち歩くのが面倒くさいとして,マジコンを使って,複数のDS用ソフトを1枚のカードにコピーする行為まで禁止しようということなのでしょうか。その場合は,30条ではなく,47条の2で権利制限されるから大丈夫ということなのでしょうか。

Posted by 小倉秀夫 at 11:55 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

09/14/2008

ゼミ合宿 in 2008

 この12日〜14日と,神戸までゼミ合宿に行ってきました。朝方雨が降ったりということはあったものの,基本的には汗ばむほどのよい天気でした。

 昨年ゼミ員の評判がよかったので,今年も競技ディベートをしてもらいました。ただし,去年と違って男女比が1対1ではないので(11対9),男女混交でチーム分けをしてもらいました。

 ちなみに今年のテーマは以下の3つとしました。

テーマ1

著作権法第65条第4項として

4 第二項の場合において、過半数の持分を有する共有者が、共有者の一人又は数人が正当な理由なくして第二項の合意の成立を妨げたと認めるときは、当該合意の成立を妨げたことにつき正当の理由があることが裁判で確定するまでは、相当と認める額の使用の対価を当該共有者に支払って、共有著作権を行使することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、当該共有著作権の行使により当該共有者の受けた損害の額が当該共有者に支払った使用の対価を上回るときは、その差額に年1割の割合による支払後の利息を付してこれを支払わなければならない。相当 と認めて支払った使用の対価に不足があるときも、同様とする。
という条項を挿入し、現在の第4項を、第5項とすることの可否。
テーマ2

著作権法第103条の2として、

(裁定による実演等の利用)
第103条の2 第91条第1項に規定する権利を有する者の許諾を得て商業用レコードに複製された実演を送信可能化しようとする送信可能化事業者(業として送信可能化を行う者をいう。)は、第95条第5項の団体又は第97条第3項の団体に対しその構成員(当該団体が団体の連合体である場合、当該連合体を構成する団体の構成員を含む。以下、本条において同じ。)が著作隣接権を有する実演又はレコードの送信可能化の許諾につき協議を求めたがその協議が成立せず、又はその協議をすることができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を当該団体に支払って、当該団体の構成員が著作隣接権を有する実演又はレコードを送信可能化(公衆送信用記録媒体への複製を含む。以下同じ。)することができる。
という条文を挿入することの可否
テーマ3

著作権法第50条及び第102条の2を削除することの可否

Posted by 小倉秀夫 at 09:46 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

09/11/2008

midomi

 iPhone用のアプリケーションですが,「midomi」は面白いです。


 midomiを起動させて,「sing」ボタンを押し,その後で「Tap and Sing or Hum」という部分をタップし,iPhoneに向かって昔聴いたフレーズを口ずさむと,それが誰のどの曲を口ずさんだものか検索してくれます。これを使うと,子供のころテレビかなんかで聴いてメロディは覚えているのだけど,誰の何という曲か思い出せないと言うときに便利です。しかも,検索結果から,iTunes StoreやYouTubeに直接リンクされているので,すぐに視聴したり,購入したりすることが出来ます(日本在住者はできませんが)。

 さっそく,何となくサビの部分だけ覚えているのだけど曲名がわからなかった歌を「midomi」で調べてみたところ,Dennis De Young の「Desert Moon」だとわかって嬉しくなりました(iTunes Store for Japanでも購入できていたら即ダウンロードしていたと思うのですが,それは反実仮想なので,150円使わずに済みました。)。

Posted by 小倉秀夫 at 01:38 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

09/09/2008

デジタル・コンテンツ利用促進協議会

 今日は,「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」の設立総会&記念パーティに出席してきました。設立総会から会費5000円で帝国ホテルだよ,ということで,MIAUとの資金力の差は歴然としていました。

 「利用促進協議会」といいつつ,壇上に上がって挨拶を述べるお偉いさんは,中山先生を除けば,川上のコンテンツホルダ側のお方ばかりで,川下のエンドユーザーや川中の流通業者の代表が誰も壇上に登っていないという時点で,「コンテンツ利用促進」という協議会の本旨はどこかに行ってしまうのではないかという危機感をたっぷり抱いてしまいました(民主党の来賓の方も,この数年の民主党の知財関係での活動をネガティブに評価されている方のようで,川内議員らの活躍が如何に多くの市民の支持を得たのかを十分理解されていないようでした。まあ,あの政党は寄り合い所帯で,政策の幅が広いから仕方ないですけど。)。

 自民党の世耕議員と名刺の交換をしながらお話をする機会がありましたので,「東京キー局の放送を日本全国で見ることができないのはおかしいので,私はこれを何とかしようと活動しています」と自己紹介をしたところ,世耕議員もこれに同感の意を示してくれました。東京キー局に対して,まねきTV事件の控訴を取り下げるように働きかけてくれると良いなあ,と思いました。

 あと,会場には,池田先生と,津田さんと,小寺さんが出席されていました(まあ,皆さん,呼ばれて当然の方々なのですが。)。多少お話はされていたようなので,必要なときに共闘できる関係に戻ると良いなあと思いました。

Posted by 小倉秀夫 at 09:42 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (2)

09/01/2008

グーグルのブック検索

 先週,グーグルのブック検索を巡る中村彰彦氏とグーグルとの間の紛争について,週刊文春の記者より電話インタビューを受けました。その結果を,週刊文春の9月4日号に掲載していただきました。

 出版社に著作権が譲渡されることが多い米国と異なり,日本においては,書籍・雑誌に関しては,個々の著者に著作権が留保されるのが通常であり,かつ,出版権が設定されることすら希なので,この種のサービスを開始するにあたっては,出版社を相手に権利処理をしてことたれるとするのではなく,作家らが所属している各種団体を通じて作家らを相手に直接権利処理をしないと,なかなかうまくいかないように思います。

 サービス内容自体は,作家たちにとっても悪いものではないので,ちゃんと法務コストを支払って権利処理をすればよいだけの話なのに,何か勿体ない感じはします。

Posted by 小倉秀夫 at 11:26 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

08/13/2008

「私的録音録画」なんぞにこだわらなくても

 楠さんが、「払いたい奴だけが追加で私的録音録画補償金を払うってどう?」というエントリーで、

まず従来通り機器に対する上乗せで補償金がある。で、そのままだと機器の振る舞いとしては現行のダビング10と同じ。それからHDレコーダはネットに繋がっている前提で、クレジットカード番号とか入れて毎月いくらかの私的録音録画補償金を支払うことに合意すると、EPNモードに切り替わり、何世代でも自由に複製できるようになって、コンテンツの複製や再生の履歴を記録、ネット経由で送信される。各個人から毎月支払われた補償金は、この複製・再生履歴に基づいて、従前よりも正確に補償金を分配される、みたいな感じ。

と述べています。


 権利者サイドが私的録音録画補償金の延長線のような収入を望んでいるのであれば、私的録音録画の補償なんてみみっちい枠組みではなく、積極的に包括的な録音録画のライセンス料を徴収するという形にすればいいのにと思ったりします。


 もちろん、家庭内でのタイムシフト目的の録音・録画についていえば、そもそも著作権者等の許諾無くしてできるのですから、利用者としてはライセンス料を上乗せされるいわれはありません。しかし、企業内でのタイムシフト目的の録音・録画については、多数説は30条1項の適用を受けないと解していますので、これを録音・録画するには著作権者等の許諾が必要です。しかし、企業活動を行う上でニュース番組その他テレビ番組を録画してタイムシフト視聴するニーズはあるのに、その番組に関し権利を有する全ての著作権者等から個別に事前に複製許諾を受けることは不可能ですし、事後的に許諾を受けることも困難です。


 また、私的使用目的でMDやCD−Rに複製した楽曲を公衆に直接見せまたは聞かせることは、無償かつ非営利であっても、著作権等の侵害となってしまいます。それに、公衆に直接見せまたは聞かせる目的で楽曲をMDやCD−Rに複製する行為はそもそも私的使用目的の複製に当たらないとおそらく判断されます。従って、いろいろなアルバムに収録されている楽曲を1枚のMDやCD−Rにまとめて、ストリートでパフォーマンスをするためのBGMに活用する行為は著作権法上は違法です。企業の運動会や町内会の盆踊り等でも、市販のCDを、1曲1曲CDを入れ替えるなどして、そのまま再生するならともかく、BGMを1枚のCD−R等にまとめた上で再生する行為は、著作権者等の事前の許諾がなければ、無償かつ非営利であっても著作権法上違法です。しかし、事前に複製の許諾を受けると言っても、JASRACの許諾は受けやすいですが、レコード会社や実演家の許諾を受けるのは結構至難の業です。


 そう考えてみると、「このマークのある録画機器を用いれば、オフィスユースであっても、タイムシフト視聴目的のテレビ番組の録画はOK」とか「このマークのあるメディアを用いれば、商業用レコードを複製して公衆の面前で再生することはOK」みたいな形でライセンス料込みの価格で売り出すことには一定の需要があるように思います。といいますか、(多数説によれば)私的使用目的の複製の範疇から外れるものの、個別的に事前に許諾を得ることが不可能または困難であり、かつ、権利者側もこれを探知して取り締まることが困難または費用倒れという類型の複製について、著作権関係権利者諸団体が集まって「物」ごとに事前的包括的許諾をして幾分かの収益に変えてしまおうという発想がなぜ出てこないのか不思議です。


Posted by 小倉秀夫 at 10:48 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

08/12/2008

「デジタル・コンテンツの流通の促進」及び「コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方」に対する意見

 総務省が,「デジタル・コンテンツの流通の促進」及び「コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方」に対する意見募集をしていましたので,下記のとおり意見を出してみました。


7頁

意見等

 

私的使用目的の孫コピーを制限するような制御手段は,直ちに廃止すべきである。

理由

 「コピーワンス」であろうが「ダビング10」であろうが,孫コピーを一切許さない現行方式では,携帯型プレイヤー等を介して「ユビキタス」にコンテンツを視聴できる社会は実現しない。

 テレビにおいて放送される番組は,その多くが後にパッケージ化されて販売されることなく終わるのが実情であり,私的使用目的の録画を禁止したからといって,テレビ局や番組出演者等の収入が顕著に増大することは考えがたい(劇場用映画にしても,CMでぶつ切りにされる上に,多くの場合放送時間に合わせて適宜カット等がなされているため,テレビで放送された劇場用映画が録画されたとしても,上記のような不都合がなく,かつ,特典映像等もついているDVD等の市場を脅かすものではない。)。従って,テレビ放送に関してコピー制御を行うことの必要性自体がそもそもない。

 「クリエイターに対する適正な対価の還元」という点についていえば,インターネット等を介して日本中でその番組が視聴されうること,タイムシフト視聴によりいわゆる視聴率により換算される視聴者数(いわゆるリアルタイム視聴している人の統計上の数)よりも多くの人がその番組を視聴していることを前提に,テレビ局がスポンサーから受ける広告料の引き上げ及びクリエイター等への出演料等の引き上げを図ることにより実現すべきである。その際,転送再生視聴率や,録画再生視聴率が計測できるよう,IT企業の協力を仰ぐべきである。

38頁

意見

いわゆる「無反応機」の製造・販売を法的に制限するべきではなく,仮にするとしても,コピー制御等に対応する技術については,何人も,無償かつ無条件ででこれを利用できるようにすべきである。

理由

 いわゆる「無反応機」の製造・販売を法的に制限した場合,コピー制御等に対応する技術のライセンスを恣意的に行うことにより,録画機器等の市場が不当に歪められる危険がある。また,上記技術のライセンスを受けるにあたり,制御されている行為とは直接関係のない行為を強要される危険もある(視聴規制に過ぎないB-CASについて,これと直接関係を有しない「コピー制御に反応させる」ということを飲むことを解除技術のライセンス付与の条件とするがごときである。)。もちろん,それは独占禁止法上問題があるが,ライセンスの付与が恣意的に行われることが立証されて公正取引委員会が排除勧告を行うまでには相当の時間を要するため,これを嫌って,海外のメーカーや国内の新規メーカーが国内市場への参入を躊躇する事態が懸念される。

 また,いわゆる「無反応機」の製造・販売を法的に制限した場合,コピー制御等に対応する技術のライセンスのライセンス料を極めて高額に設定することが考えられる(理論的には,特許権等の保有者の言い値を飲まない限り,録画機器等の製造販売を行い得ないことになる。)。本来クリエイターの権利を保護するために加えられたコピー制御について,上記ライセンス料の製品価格への反映という形で消費者が費用負担をさせられるのは不正義である。

85頁

意見

 放送コンテンツをインターネット上で広く二次利用できるようにするためには,実演家の権利との関係でいえば,著作権法93条及び94条頼みの現状のライセンス実務をまず改めるべきであり,レコード製作者との関係では,レコードの送信可能化等についても強制許諾制度を導入するなどにより「放送」とされた場合の二次使用料と「送信可能化」とされた場合の許諾料がアンバランスを解消し,又は,放送局からなる団体とレコード会社からなる団体とで協議をして「放送」の場合の二次使用料を引き上げる代わりにテレビ放送を「送信可能化」する場合には合理的な価格でレコード音源の使用を許諾するシステムを構築する(放送局の範囲を限定せず,新規の放送局をその取り決めから排除しないことを条件に独占禁止法の適用除外とする等の支援を国はするに留める)べきである。ただし,放送コンテンツのインターネット上での二次利用は,放送事業者又はその関連会社に限定されるべきではなく,放送事業者が恣意的にライセンスをする場合には,強制許諾制度の導入等も視野に入れるべきである。

理由

 著作権法第92条の2第2項は,実演家としての録音・録画権を有する者の許諾を得て録画された実演については,送信可能化権の対象外とするものと規定されている。従って,放送局は,その番組を製作するにあたって,そのコンテンツを二次使用することを前提に,出演者からその実演についてこれを放送することの許諾のみでなく,複製及び送信可能化することについての許諾も受け,その分のライセンス料を実演家に支払っていれば,そのコンテンツをインターネット上で二次利用することが可能である。すなわち,実演家の権利との関係でいえば,著作権法93条及び94条頼みの現状のライセンス実務をまず改めるべきである。

 テレビ番組でのレコードの使用についても,「放送」とされた場合の二次使用料と「送信可能化」とされた場合の許諾料がアンバランスであることが,放送番組での過剰なレコード音源の使用と,これを送信可能化する場合の権利処理コストの過剰性を呼び込んでいる。レコードの送信可能化等についても強制許諾制度を導入するなどにより上記アンバランスを解消するか,放送局からなる団体とレコード会社からなる団体とで協議をして「放送」の場合の二次使用料を引き上げる代わりにテレビ放送を「送信可能化」する場合には合理的な価格でレコード音源の使用を許諾するシステムを構築する等の施策が必要である。

 録画ネット事件からまねきTV事件に至るまでの近時の訴訟を見る限り,テレビ局は,東京キー局の番組を関東広域圏外の住民が視聴することを忌み嫌っており,放送コンテンツのインターネット上での二次使用を放送事業者又はその関連会社に限定した場合,東京キー局の番組をインターネット上で視聴できるのは関東広域圏内の住民に限定されるようないびつな仕組みができかねない。そのような地方住民の知る権利並びに文化的な発展を阻害するようなシステムを21世紀に導入すべきではない。

Posted by 小倉秀夫 at 12:45 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

08/07/2008

TVブレイクとJASRACの進歩

 JASRACがTVブレイクの運営会社であるジャストオンラインを訴えた件がネット上で話題となっています。

 ITMediaの記事によれば、JASRACは、JASRACの管理楽曲リスト(一般的なリストで、TVブレイク上の侵害動画を指定したものではない)をCD-ROMで送り、ついで、管理楽曲の権利を侵害した動画全般について、削除や未然の投稿防止を含む対策を要請したとのことです。この辺を見ていると、JASRACは、ファイルローグ事件のときから進歩していないような気がします(包括的許諾契約を結びお金を払うという選択肢がある分、ファイルローグのころよりは少しましではありますが。)。

 JASRACの管理楽曲リストを渡されて、管理楽曲の権利を侵害した動画全般について、削除や未然の投稿防止を含む対策をとれと要求されたって、その動画共有サイトにアップロードされている楽曲がJASRACの管理楽曲リストにある楽曲かどうかなんてわからないのだと言うことを何度言ったらわかるのでしょうか。機械的に処理するにせよ、人海戦術を行使するにせよ、JASRACの管理楽曲リストに掲載されている楽曲の歌詞やメロディ等の内容に関する情報がなければ、システム管理者側は、その動画共有サイトにアップロードされている楽曲がJASRACの管理楽曲リストにある楽曲かを知り得ないわけです。

 ファイルローグ事件で裁判所がJASRACを甘やかしてしまったのがよくないのですが、人海戦術では処理できる量が限られている(JASRACの管理楽曲リストに掲載されている楽曲の歌詞やメロディと、その動画共有サイトにアップロードされている楽曲とを比較参照しなければならない分、並びに、その動画共有サイトにアップロードされている楽曲の方はある程度の長さそれを聞かないと、そのメロディも歌詞も把握できない分、誹謗中傷発言の削除よりは手間暇が掛かります。)のは明らかなのですから、管理楽曲の権利を侵害した動画全般について、削除や未然の投稿防止を含む対策をとらせたいのであれば、インターネット上で流通している音声データのうち管理楽曲の権利を侵害したものである可能性が高いものを機械的にピックアップするシステムをJASRACの側で開発し、広くネット企業にタダで使用させればよいだけの話です。そのように「管理楽曲の権利を侵害した動画全般について、削除や未然の投稿防止を含む対策」を容易かつ安価に講じうる体制を整えた後に、なおもそのような対策を講じようとしない企業に対して訴訟を起こすというのであればまだ筋は通りますし、YouTube(Google)のようにそのようなシステムを構築する技術力と資金力を有する企業に対して訴訟を提起するというのであればまだ筋は通りますが、ジャストオンラインのような小さな企業に無理を強いる要求を掲げて訴訟を提起するというのは、弱いものいじめとの感が否めません。

 なお、訴訟の帰趨に関しては、権利侵害コンテンツの割合がどの程度あるのか、当該サイトが投稿者や閲覧者を絞り込む工夫をしていたか、運営会社の経営者が余計なことを口走っていないか、運営会社が具体的な削除要請や発信者情報の開示要請等に誠実に応じてきたかにもよりますし、すでに具体的な削除要請を行っていた部分が却ってJASRACに不利に働く場合もあり得るのですが(ファイルローグ事件の時は、管理会社側が用意したノーティス・アンド・テイクダウン手続を無視しきったことにより、この手続は実効性がないと判断してもらえました。)、まあ、どうなることでしょうか。

Posted by 小倉秀夫 at 11:08 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

ソフトウェア紛争解決センターがADR法に基づく認証を取得

 そういえば,財団法人ソフトウェア情報センターの主宰する「ソフトウェア紛争解決センター」が,7月28日に,裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)に基づく認証を取得していたのですね。

 私も,若輩者ながら,仲裁人・あっせん人候補の一角に加えていただいています。

 よろしければ,お気軽にご利用下さい。

Posted by 小倉秀夫 at 08:34 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

07/28/2008

「ネット権」者が許諾義務を負う対象

「ネット法」の政策提言に関する補足説明」には、

ネット権者は、権利を保有すると同時に、収益の公正な配分を著作者などの権利者に対して行う「法的な」義務を負う。また、インターネット上でのデジタル・コンテンツの流通のための利用は、ネット権者が独占するものではない。ネット権者以外の者も、ネット権者から「許諾」を得て利用でき、その際、ネット権者による恣意的な許諾拒否等は許されず、一定の場合には許諾する義務を負うものとする。
とあります。

 ただ、「許諾義務」を負う対象が、インターネット上での一定のデジタル・コンテンツの流通に関してネット法により新たに付与された利用権及び許諾権に限定されるのか、当該コンテンツに関してネット法によらずにネット権者に帰属する利用権および許諾権を含むのかによって、その想定される運用って全然違ってくる(放送コンテンツについて、そこに含まれている音楽著作物や実演等についてインターネット上での流通を許諾する義務を負わされても、テレビ局が有する当該放送コンテンツについての「映画の著作物」の著作者として有する公衆送信権や放送事業者として有する複製権、送信可能化権等に付き許諾を恣意的に拒絶できるとすれば、その放送コンテンツをネット上で流通させられるのは事実上その放送事業者とその関連会社に限定されるように思います。)ので、その話をゲームラボの連載コラムに書こうかなと思っています。

Posted by 小倉秀夫 at 02:03 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

07/09/2008

B-CAS社の計算書類

 B-CAS社のウェブサイトで、同社の計算書類が公開されています。

 これによれば、2008年3月期のカード発行数1668万3000枚に対し、同期の売上高が98億6900万円。つまり、同社に他に収入減がなかったとして、カード1枚あたりの売上高は約592円。で、売上原価率が約91%。これが本当だとすると、B-CASカードを交換する際に徴収される2000〜3000円の交換料っていったい何なのでしょうっていう気になりますね。メーカーには大量供給に代わりに相応の割引をしているであろうとは理解するとしてもですね。

 2006年3月期はカード1枚あたりの売上高が約768円、2007年3月期は約680円ですから年々下がってはいますね。発行カードにおける3波共同カードの割合は、80%→76%→75%ということで、それほど変動していないのですが。

Posted by 小倉秀夫 at 11:56 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

06/30/2008

CDもSOLDES

 約1週間ほどフランスに行っていました。

 もともと、この本の関係の企画にあわせて日程を組んだのですが、ちょうどEURO2008の準決勝やSOLDESのシーズンとぶつかったので、普段とは異なる雰囲気が楽しめておもしろかったです。

 ということで、最後にParisのVirgin Mega StoreやFNACに寄ったら、そこでもSOLDESをやっていました。Virginにいたっては、日本のVirginで売れ残った乏しき日本語の帯がついたCDまでJunk品として売っていました。

 そんな中今回私が購入してきたのは、












































Mademoiselle K jamais la paix 12.99€
Alizeé Psychédélices 21.00€
magalie vaé magalie vaé 23.30€
Christophe Willem Tout En Acoustic 25.20€
Fatal Bazooka T'as Vu 6.99€
BBBrunes Blonde Comme Moi 10€
Plactiscines LP1 7€

です。

 何で購入価格まで掲載したのかというと、アーティストの格・人気や発売時期との関係で、このくらい価格差があるのが正常な姿なのだろうなあと思ったからです。

 それにしても、Fatal BazookaのMichaël Younって、"Stach Stach"でお馴染みのthe Bratisla Boysをやっていた人なんですね。

Posted by 小倉秀夫 at 01:37 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/20/2008

本案でも勝ち

 私は、区民法律相談のために区役所に行っていたので判決言渡期日に出頭していなかったのですが、まねきTV事件は、本案訴訟でも勝訴したようです。

Posted by 小倉秀夫 at 05:22 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/13/2008

mobile.me

 Apple社は,近々,mobilemeというサービスを始めるのだそうです。しかし,その発表は,少々早すぎたのではないかという気がします。

 といいますのも,モンテネグロの独立に伴って新設された「.me」ドメインのランドラッシュの受付期間が2008年6月9日から同26日までに設定されているからです。

 「mobile.me」ドメインのオークションは凄く盛り上がりそうな気がします。

Posted by 小倉秀夫 at 07:32 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

06/11/2008

地上デジタルチューナーの国費による配布を行う前に

 朝日新聞の報道によれば、総務省は、11年7月24日までにすべてデジタル化される地上波テレビ放送を視聴するための専用チューナーなどの受信機器を、経済的に購入が厳しい生活保護世帯に現物支給する方針を固めたのだそうです。

 ただ、専用チューナーに必要不可欠なB-CASカードの販売をNHKら放送事業者らが出資するB-CAS社が独占販売している現状で、家電メーカーの尻だけを叩いて「安価」な専用チューナーを納品させても、それは、国費を投入して、B-CAS社を通じてNHK等を焼けぶとらせる結果になるのではないかという気がします。

 そうならないためには、B-CAS方式のスクランブルを少なくとも地上デジタル放送では行わないように放送局に行政指導を行うか、B-CAS方式の受信カードの製造に必要な技術を解放させてそこに市場競争原理を導入させていくことが先なのではないでしょうか。

Posted by 小倉秀夫 at 10:24 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

06/08/2008

Googleですら行う妥協をはてなが行わない理由って?

 はてなブックマークの場合、特定のサイト、特定のエントリーについて利用者がブックマークをすると、ブックマークされたエントリー等の一部が切り取られてブックマークページに表示される仕組みになっています。つまり、はてなブックマークは通常ブックマーク元のエントリー等の一部を複製および送信可能化という形で利用しているということができます。

 既存のウェブサイトやエントリーの一部を切り取って送信可能化するという行為自体はGoogle等の検索エンジンでもやっているわけですが、Google等は、ロボットよけのタグを埋め込むことで特定のウェブサイトをその検索サービスの対象外とする余地を各サイトオーナーに与えています。そのことにより、「黙示の許諾」等の主張をしやすい形にしているわけです。

 そういう意味では、はてなブックマークに取り込まれたくないサイトオーナーのためのオプションを用意しないというのは、いかがなものかなあという気がします。もちろん、多くのサイトオーナーは自分のサイトがソーシャルブックマークされることを拒絶したりはしないということで黙示の許諾の存在を推定するのはぎりぎり許されなくはないとは思うのですが、個々のサイトオーナーから、はてなブックマークの対象から外してくれとの明示的な意思を告げられた場合には、黙示の許諾の推定というテクニックは使えないように思います。かといって、「引用」一本でいくのはそれなりに苦しいように思います。

 といいますか、Googleですら行う妥協をはてなが行わない理由って、何かあるのでしょうか。

【追記】

 SiroKuroさんからコメント欄でご指摘をいただきました。

 ただ、標準的なタグの用法を使用しているGoogleですら、「ヘルプセンター」→「ウェブマスター/サイト所有者」→「Google の検索結果にコンテンツが表示されないようにする方法」で必要な情報があることがわかるのに、はてなの場合、「ヘルプ」→「注意事項:はてなブックマークご利用上の注意事項について。ご利用の際は必ずご一読ください。」の中に置いていますから、わかりにくいですね。

 また、noarchieveタグでテキストを表示しないというのはわからなくはないですが、noindexタグははてなブックマーク自体をしてもらいたくない人のために用いるべきタグではないかという気がします。

Posted by 小倉秀夫 at 05:51 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (1) | TrackBack (0)

06/04/2008

知的財産権研究会を振り返って

 今日私が知財分野を得意とする弁護士と自称してもとりあえず石を投げられないポジションにいられるのも、一つには、先日100回記念シンポジウムを行うことができた知的財産権研究会のお陰といえます。

 弁護士に成り立ての頃から中山先生を中心として、田村先生や、熊谷先生等の一流の研究者や、石原先生や出井先生などの第一線の議論を聞き、ときに参加することができたわけですし、事務局側のイソ弁として長らく受付をやったお陰で、名前を覚えていただき、関先生経由でCIPICの研究会に参加させていただいたり、関先生や杉政先生に知財訴訟に誘っていただいたりしたわけですし、最初に論文らしきものを公表させていただいたのも「知的財産権研究」でしたし(最初はBBS特許並行輸入事件の評釈。)。また、中大の講師にと私を誘って下さった佐藤恵太先生ともこの研究会で知り合ったわけですし、著作権法コンメンタールの企画は、この研究会関係のパーティの際にその場の雰囲気で金井先生と企画して東京布井出版の上野社長の了承を得てしまったわけですし。

Posted by 小倉秀夫 at 01:44 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/31/2008

必要悪な規制としての著作権における過剰規制

 本日の知的財産権研究会のシンポジウムは、相澤先生の見事な司会ぶりもあり、無事盛況のうちに終わることができました。

 シンポジウムの議事録はいずれレクシスネクシスのサイトにアップロードされると思うのですが、最初の自己紹介のときのために用意しておいた原稿をとりあえずアップロードしておこうと思います(必ずしも、この通りしゃべっているわけではありませんが。)。



 私は、いわゆる中古ゲーム訴訟で販売店側の代理人となったり、ファイルローグ事件でハイブリッド型P2Pサービスにおける中央サーバ管理人の代理人となったり、選撮見録訴訟では集合住宅向けのTVチューナーカード付きのサーバシステムの開発・販売者の代理人となったり、あるいは、まねきTV事件においてベースステーションを預かるハウジング事業者の代理人となったりしてきました。また、既存のコンテンツを使った、あるいは、既存のコンテンツをユーザーが使用する可能性のある新たな商品やサービスを開発した事業者から、このサービスを市場に投入して大丈夫だろうかというご相談をいただくこともしばしばあります。また、著作権法等の改正に関するパブリックコメント等が募集されたときには、一市民として、これに応募することを最近は自分の責務として課しています。更にいえば、レコード輸入権が創設された際には、1洋楽ファンとしてこれに対する反対運動をかなり精力的に行いました。

 そのような立場から見たときに、著作権法というのは、市民による文化の享受をより豊かに、より便利にするために新たな情報技術を活用しようとする際に、その前に立ちはだかる「壁」ないし「規制」として写るということになります。もちろん、「排他性に乏しい情報財の流通を単純に市場に委ねたときには失敗が生ずるから一種の「必要悪」として国が一定の規制をかけるのだ」という話は理解するのですが、そのことは、投下資本の回収手段の柱となっている正規商品の流通を阻害しない方法での情報財の利用まで国が規制してもよいということまで意味していないように思うのです。

 つまり、「著作物」が、「著作権者」の許諾なくして、あるいは「著作権者」の意図しない方法によって利活用されたというだけでは、著作物を創作しよう、あるいは著作物の創作に対して投資を行おうというインセンティブは本来削がれないはずです。権利者側のご意見を伺っていると、自分たちが権利を有している情報財を用いて利益を得ている人や企業があること自体が創作へのインセンティブを失わせるのだとするものが少なからずあるのですが、経済法である著作権法により保護すべき「インセンティブ」というのは妬み等の感情的なものによって左右される純主観的なものではなく、資本主義的な経済合理性に支えられたものに限定されるのだと思うのです。

 そのような意味でのインセンティブは、新たな利活用方法が出現し普及することで、著作権者が本来予定していた従前の方法では投下資本を回収し難くなっていった場合に初めて削がれていくわけです。そして、そのような事態に至ったときに初めて、そのような新たな利活用方法を、投下資本の回収可能性をある程度高めるのに役立つ限度において、規制することが許されるにすぎないのではないかと思うのです。更にいえば、新たな利活用方法により情報財の効用が高まっているのであれば、これを禁止するのではなく、これによってもたらされた経済的利益の一部を著作権者に還元する方向での規制にとどめた方が、情報財という資源の最適分配には資するわけです。

 そのような観点から見ると、現行の著作権法ないしその運用は、本来の投下資本の回収方法を阻害しないような著作物等の利活用まで禁止してしまっており、いわば過剰規制により資源の最適分配が阻害されている状態にあるように感じています。

Posted by 小倉秀夫 at 11:35 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/30/2008

とうとう大台に

 私も今日でとうとう40歳の大台に乗ってしまいました。まあ、音楽の話では時代に取り残されていないから良いのですが(perfumeよりチャットモンチーやいきものがかりの方に魅力を感じる分、多少取り残されているのでしょうか。)、でももう今のゼミ生とは20歳近く年の差が離れているわけですから、私が知っている音楽を彼らが知らないのも宜なるかなという気がして少しブルーです(とはいえ、Biz Markieの「Alone Again」の適・違法性を課題として出したときに、元ネタたるRaymond "Gilbert" O'Sullivanの「Alone Again (Naturally)」を皆知らなかったのはどうかとは思いますが。)。

 それはともかく、知的財産権研究会の100回記念シンポジウムはいよいよ明日に迫ってきました。

 先週の著作権法学会で中山先生がフェアユースについてあれだけ力強く語って下さいましたので、明日のシンポジウムでさらに中山先生がフェアユースについてどのようなことを語って下さるのか楽しみです。

 その他、パネリストには、ネット法の提唱者の1人である相澤先生や、BSAの日本担当顧問の石原先生を擁しておりますので、かなり期待していただいて良いのではないかと思っています。

 また、知的財産権研究会での研究報告をまとめた「知的財産権研究」の第5巻も明日付でLexisNexis社発行、雄松堂発売ということで出版されます。こちらでは、私は、まねきTV事件についての評釈を書いております(この研究会では、自分が担当した事件について発表するということが普通に行われているのです。)。明日のシンポジウムに出席される方には無料頒布されますが、そうでない方は書店等でお買い求めいただければ幸いです。

Posted by 小倉秀夫 at 12:01 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2) | TrackBack (0)

05/25/2008

昨日の著作権法学会

 昨日は、日本著作権法学会のシンポジウムに出てきました。

 今回のシンポジウムのテーマは「権利制限」なので、どうしてもフェアユースや、3ステップテスト等のトピックが注目されますが、島並先生が発表された「ルールとスタンダード」のお話も面白かったです。

 ところで、討論の際に私が提出した質問の趣旨は概ね下記のとおりです。

 ベルヌ条約やTRIPs協定、WCT等で定められている「3ステップテスト」というのは、著作権の制限規定を定めることができるのは、(1)著作物の通常の利用を妨げず、かつ、(2)権利者の正当な利益を不当に害しない、(3)特別な場合、に限定されるとするものですが、このうちの1つの要件を欠くとの理由で著作権を制限しない≒一定の表現行為を規制する、ということは表現の自由等の憲法的な価値との関係で問題を生ずることはないのでしょうかとのことです。そして、裁判所が現行著作権法上の著作権の制限に関する規定を3ステップテストを満たす限度で合条約的に制限解釈した場合に、あるいは、3ステップテストのうちの1つを満たさないが故に制限規定を新設しない又は改廃するという選択を立法府が行った場合に、表現の自由等との関係はどうなるのかということです。

 例えば、一般的なフェアユース規定が置かれた後に、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、権利者の正当な利益を不当に害することもないような態様で、他人の著作物を利用した表現行為が行われた場合に、当該表現行為については「公共政策上の明確な理由」ないし「他の例外的な状況」から積極的にこれを正当化する事情が見られないとの理由で、合条約的制限解釈により、フェアユース規定の適用を否定し、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、権利者の正当な利益を不当に害することもない表現行為を規制することが憲法上許されるのかということです。

Posted by 小倉秀夫 at 04:46 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (2) | TrackBack (0)

05/20/2008

It's too late

 角川歴彦さんが次のように述べています。

「視聴者は、テレビ局が送り出す番組表にのっとって番組を視聴することが面倒になってきている。都合のいい時間に都合のいい場所で視聴したい、という要望がYouTubeの利用へと視聴者を走らせた大きな要因であり、YouTubeが短期間で多数のユーザーを獲得できたのは、我々も含め、送りだし側がニーズをとらえきれていなかったから」と分析。「2年前に“見逃しテレビ”を立ち上げていれば、YouTubeは成功しなかったとすら思う」とした。

 「選撮見録」を無理矢理つぶしたのもテレビ局側の敗因の一つですね。「選撮見録」はCMカットには対応していなかったし,求められれば録画再生視聴率をはじき出して広告料の上昇への交渉に使っていただくこともできたし,テレビ局側に一定の「分け前」も配分する用意もあったのに(っていいますか,その種の和解を提案していたのに),テレビ局側はゼロ回答だったわけです。でも,選撮見録をつぶしたところで,「見たいテレビ番組に合わせて生活のサイクルを構築する」暮らしに普通の国民は戻れない(特に,購買力のある層ほど戻れない)のだから,「気軽にタイムシフト視聴」を行うシステムをテレビ局側がつぶしにかかれば,別の,よりアングラなシステムに飛びつくか,または,テレビ離れをするかしてしまうことは目に見えていたはずです。

Posted by 小倉秀夫 at 08:56 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (1)

05/10/2008

「アナログ放送の方が録画は便利」ではないという印象が強まりかねない社説

 読売新聞の5月10日付の社説「ダビング10 メーカーの頑固さ、なぜ?」は,不思議な社説です。

 読売新聞の論説委員は,

アナログ放送の方が録画は便利、という印象が強まりかねない。

と述べています。「〜という印象が強まりかねない」という言葉は通常,「〜」の部分が真実に反する場合に用いられます。従って,上記表現からは,読売新聞の論説委員においては,「アナログ放送の方が録画は便利」ではないと認識していることが伺われます(「アナログ放送の方が録画は便利」であることを認識しつつ,「アナログ放送の方が録画は便利、という印象が強まりかねない」という表現を用いたとすると,読売新聞の論説委員は,国民が真実を知ることに危機意識を抱いているということになりますが,それはメディアとして自殺行為というべきでしょう。)。

 しかし,質的に劣化はするものの順次複製が行えるアナログ放送と,順次複製を行うこと自体ができないデジタル放送とを比較した場合に,前者の方が「録画は便利」ということは客観的な事実といわざるを得ません。「ダビング10」にしても,最初にデジタル放送を録画した媒体から「ムーブ」を含めて10回コピーを行うことができると言うだけで,そこからの孫コピーはできないわけですから,アナログ放送と比べて「録画が不便」であることは否めません。

 といいますか,本来デジタルデータには,これを順々に複製しても情報の劣化が小さいという特性があるのですが,地上波デジタル放送については,「コピーワンス」技術により,この特性を活かさないことにしたわけですから,「録画」という側面からいえば,地上波デジタルというのは何らのメリットも利用者にもたらさないものであるということができます。

 そもそも,読売新聞社の論説委員は,

デジタル放送のテレビ番組を録画する際の消費者の不満を、軽視してはいないか。

との問いかけをメーカーに対して行っているのですが,それは矛先を間違えているのではないかという気がします。読売新聞社は,

約束を守れなくても責任はない、とメーカー側は言い切れるだろうか。
と述べているのですが,メーカー側が,ダビング10を実施してもらうことと引き替えにどのような約束をしたというのかが明らかではありません。権利者側が「権利者側は地上デジタル放送の録画ルールの緩和には補償金制度が必須だ」との前提を表明した上でダビング10の実施に同意したということは,メーカー側が補償金の存続に今後も異を唱えない約束をしたということを意味していません。したがって,守らないことで責任を問われるような「約束」自体がそもそもなかったと見るべきかと思います。

 つまり,この問題は,自分たちが勝手に期待したとおりの行動をメーカー側がとらなかったというだけで,既に決まった合意を保護にしたテレビ局側に問題があるのであり,むしろ,いわば駄々をこねる形になっているテレビ局側を責めるべきです。

 なお,

2011年の地上テレビ完全デジタル化の足かせにもなる。
といわれても,2011年までに地上波デジタル受信機への切り替えが進まなくなった場合に最も打撃を被るのは,テレビ局の側だと思うのですが,読売新聞社の論説委員には難しすぎるかもしれませんね。

Posted by 小倉秀夫 at 08:00 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (3) | TrackBack (1)

05/07/2008

Yokohamaが聴ける!

 以前のエントリーでご紹介した,Boの「Yokohama」がiTSJにアップロードされています(→Bo - Koma Stadium - Yokohama)。

 是非ともお聞き下さい。

Posted by 小倉秀夫 at 01:53 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (0)

05/06/2008

コピー制御信号を脅しに使うことについて

 朝日新聞の記事によれば,

iPodなどの携帯音楽プレーヤーと、テレビ番組を録画するハードディスク内蔵型レコーダーに「著作権料」の一種を課金する制度改正の骨子案を文化庁がまとめた。8日の文化審議会に提案する。抵抗するメーカーに対し、課金を求める著作権団体が「秘策」で揺さぶりもかける。

とのことです。その秘策とは何かといえば,

 一方、著作権団体の「秘策」は、6月2日から導入する方針の「ダビング10」の拒否だ。デジタル放送のテレビ番組を自宅のハードディスク内蔵型レコーダーなどに録画した後、DVDなどに9回複製できる新しい方式だ

とのことのようです。

 しかし,2011年までに地上波アナログを停止させるというのはテレビ局側の事情なのであって,「アナログ波受信からデジタル波受信に切り替えると却って不便になる」状態を継続することにより追い込まれるのはテレビ局側なのではないかという気がしなくもありません。更にいえば,テレビ番組(とりわけ地上波デジタル放送の番組)を録画する機能を有する機器を製造・販売しているわけではない携帯音楽プレイヤー製造会社にとっては,何でそんなもののために払わなくとも良い上納金を払うことに同意しないといけないのかというところではないかという気がします。

 それ以前に,著作権法の平成11年改正の際には,コピー制御信号に対応する機器を製造・販売する義務を負わせないことを前提としておきながら,コピー制御信号に対応させることを事実上メーカーに義務づけるために無料放送である地上波デジタルにスクランブルをかけていることだけでも本来許し難いのに,そのようにして半ば強制的に録画機器に対応させたコピー制御信号を,私的団体による徴収され分配される一種の税金の範囲を拡張することに反対させないための脅しとして用いるというのは許されることではありません。無料放送である地上波デジタルにかけられたスクランブルがこのような邪な目的に活用されるのであれば,議会は直ちに放送法を改正して,地上波デジタルについてスクランブルをかけることを禁止すべきです。スクランブルをかけた上でなければ放送をしたくない事業者は地上波の放送免許を返上していただき,衛星放送等で思う存分スクランブル付の放送をしていただいたらよいのであって,地上波デジタルの放送免許は,そのような上納金を必要としない事業者に交付したらよいことです。


 強いて妥協案を提示するとするならば,ハードディスク内蔵型ビデオレコーダーに限定して私的録音録画補償金の対象とする代わりに,地上波デジタルについてはスクランブルをかけることを禁止するといったところでしょうか。従前B-CAS社に流れていたお金の一部が著作者団体等に流れるということであれば,機器メーカーもエンドユーザーも特段の不利益を被らないので(正確に言うと,有料放送を視聴したいユーザーは多少不利益を被るのですが),それならば検討に値する話ということができます。

Posted by 小倉秀夫 at 04:04 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (0) | TrackBack (3)

04/29/2008

管理していない楽曲の分の使用料は受け取るべきではない。

 JASRACに公正取引委員会が立入検査に入った件についての解説は,ゲームラボの連載コラムで記載しました。ここでは,ではJASRACはどうすべきかについて思うところを書くことにします。

 話は簡単で,JASRACが管理していない分については,JASRACは放送使用料をもらうべきではないということです。もともと,放送事業収入の1.5%という放送使用料は,放送で使用される楽曲のほとんどがJASRACの管理著作物を使用していた時代に作られたものですから,JASRAC以外の管理事業者が著作権を管理する楽曲が使用される割合が増大すればするほど,「放送事業収入の1.5%」をJASRACのみが独占的できる正当性がなくなります。

 実際,特定の1週間のサンプリング調査により,または,放送局の使用実態報告書等により,一定数以上放送されたことが明らかな楽曲について,JASRACに著作権を信託譲渡をしていれば,放送事業者が支払った放送使用料の中から印税の支払いを受けることができるのに,JASRACに著作権を信託譲渡していなければ放送事業者が支払った放送使用料の中から印税の支払いを受けることができない(その分は,JASRACまたはJASRACに著作権を信託譲渡している作詞家・作曲家が余分に利益を得る)というのは,不公正ですらあります。

 この問題は,放送に関する包括利用許諾契約のみならず,JASRACが行っている包括利用許諾契約一般について言える(例えば,カラオケ歌唱等)ことなので,公正取引委員会にとやかく言われる前に,文化庁はJASRACに対し,JASRACが管理していない楽曲についての使用料に相当する金額については,包括的利用許諾契約の相手方からこれを受け取らないように行政指導をすべきだと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 02:05 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle | | Commentaires (7) | TrackBack (1)