« 寓話 | Accueil | ニュースジャパンで、サイバーいじめが取り上げられた »

19/10/2006

被害者からのクレームを受け付けない特定電気通信役務提供者とプロバイダ責任制限法第3条第1項の免責

 誹謗中傷等の被害者からのクレームを受け付けない特定電気通信役務提供者、あるいは、クレームの内容自体は一般に公開するとすることにより被害者にクレームを躊躇させようとする特定電気通信役務提供者についてまで、問題の特定電気通信がその特定電気通信設備を介して流通していることを知らなかったからといって、プロバイダ責任制限法第3条第1項を適用して損害賠償責任を免責することは妥当でしょうか。

 

 プロバイダ責任制限法第3条第1項の文言を文理解釈すると、特定電気通信役務提供者は、その提供する特定電気通信設備を介してどのような特定電気通信が流通しているのかを知らなければ、それを知らない理由にかかわらず、同項の適用により、当該特定電気通信の流通により第三者が被った損害について、賠償責任を負わないかのように読めます。ただ、そうだとすると、自分が公衆に提供する電子掲示板等の特定電気通信設備においてどのような内容の情報が流通しているのかを知らされないようにことさら画策しておけば、誹謗中傷発言をしてもなかなか削除されない「匿名の卑怯者たちのパラダイス」をリーガルリスクなしで提供できるということになってしまいます。

 

 プロバイダ責任制限法第3条第1項の趣旨は、特定電子通信役務提供者は、その提供する特定電気通信役務の利用者がこれを第三者の権利を違法に侵害する情報の流通に用いた場合に、利用者による権利侵害行為を物理的に可能又は容易にしており、かつ、そのことをある程度の確率をもって予見していた(又は予見できた)といいうることから、幇助者としての共同不法行為責任を負わされる危険があるところ、この危険を回避するためにはその提供する特定電気通信設備を介して流通する特定電気通信を常時監視して、第三者の権利を違法に侵害するおそれのあるものを事前に排除する等の措置を講じなければならないことになるが、それは特定電気通信役務提供者には過大な負担となることから、その特定電気通信設備を用いて流通する全ての特定電気通信設備についてこれが不特定の者に向けて送信される前に内容を確認して違法な権利侵害情報を排除することまでは求めないとする点にあります。したがって、このような立法趣旨からすれば、プロバイダ責任制限法第3条1項によって免責されるのは特定電気通信役務の提供に必然的に伴う物理的な違法行為への関与についての幇助者としての責任に限られるのであって、第三者の権利を侵害するような違法な特定電気通信を発信しようという意思を強化させるような管理・運営をしている特定電気通信役務提供者の、心因的な幇助を行ったということについての共同不法行為責任については、プロバイダ責任制限法第3条第1項により免責すべきではないと言いうるように思います。解釈論としては、同条項において「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって」とあるところから、同条項の適用対象は、「送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能であったのにそのような措置を講じなかった」(が故に、権利侵害情報が不特定人に送信されてしまった)ことについての損害賠償責任に限定されると読み込むことになるのでしょうか。あるいは、同条項は、権利侵害情報の「流通」による損害を対象としているのであって、権利侵害情報の「発信」については同条項の射程範囲外であると読み込むのでしょうか。

 

 そして、いかなる場合に特定電気通信役務提供者が権利侵害情報の発信を心因的に幇助したのかといいうるのかということが次に問題となりますが、現在の標準的なシステムを前提としてプロバイダ責任制限法第4条第1項の発信者情報開示手続きを考えた場合に自らがなすべき役割を敢えて果たさないこととし、法の趣旨に反して権利侵害情報の発信者の匿名性を高めた場合には、そのことを知った利用者が行った権利侵害情報の発信について心因的な幇助を行ったと見ることができるのではないか(そして、当該特定電気通信役務提供者がそのようにして権利侵害情報の発信者の匿名性を高めていることが不特定人が容易に知りうる状態に置かれている場合には、当該権利侵害情報の発信者はそのことを知っていたという事実上の事実推定を一応してもいいのではないか)と思ったりします。また、権利侵害情報の削除に著しく消極的な特定電気通信役務提供者についても、そのような方針の下で運営されればこそ、長期間にわたって第三者の権利を侵害し続けられるということで、権利侵害情報を発信しようという意欲が増すという意味では心因的な幇助をしているといいうるのではないかと思います。

 したがって、誹謗中傷等の被害者からのクレームを受け付けない特定電気通信役務提供者は、問題の特定電気通信がその特定電気通信設備を介して流通していることを知らなかったとしても、誹謗中傷の幇助者として共同不法行為責任を負うと解することになろうかと思います。

« 寓話 | Accueil | ニュースジャパンで、サイバーいじめが取り上げられた »

Commentaires

小倉先生

これは確かに難しい問題だと思います。

法の趣旨は、明らかに
「知らなかったことの理由を問わず免責」
なので、例えば、掲示板管理者がメールアドレスや管理者への意見のフォームみたいなものを用意していなかったとしても、それで免責されないということにはなりません。
ここまではそれほど異論はないと思います。

問題は、昨日のご指摘のように、

内容証明を受け取らない場合

受け取ったものの開封せずに残しておいて証拠として提出してくる場合
です。
この段階では、実質論として、免責を与える理由がありませんし、法理論としても、内容証明が管理者の支配領域に入ったことをもって「知った」と評価することができるように思います。

話はかわるのですが、コメントで議論されている匿名掲示板であることを管理者の責任の根拠とすることについては、裁判所の考え方は分かれています。


一番厳しいのは、「罪に濡れた二人」の高裁判決で、IPアドレスをとっている掲示板についても「匿名性」を根拠として責任を認めているように読めないわけではありません。

IPアドレスをとってないことを責任の根拠として示したのは、MILKCAFE事件です。

そして、IPアドレスをとらないことに加えて「足がつかない」ことを売りにした場合には、「違法情報を促進・助長した」ということで複数の判決(DHC、動物病院)で責任原因とされています。

現在の裁判所の感触からすると、
上記2のIPアドレスをとっていないことを責任原因にするような判決が増えるような気がします。

 ファイルローグについていえば、発信者のIPアドレスを隠すようなことはしていませんでした(だから、発信日時+IPアドレスから違法コンテンツの発信者の特定が可能)し、被害者からのクレームを受け付ける窓口をちゃんと用意しておいた(個別コンテンツ毎の送信防止措置は技術的に困難でしたので、違法コンテンツの送信を防止しなかった利用者を利用停止や退会処分とすることとしていた)ので、その辺はそれなりに配慮していたのですけどね。

 もっとも、ファイルローグのときとは判例の蓄積が違ってきている(ファイルローグ事件の高裁判決自体が斟酌されるべき裁判例になっているし、また、特に、奥村さんが児童ポルノ関係の裁判例を大量にたたき出している。)ので、当時の議論と異なる議論をすることになるというのはむしろ当然かと思います。

画像関係の掲示板では、児童ポルノ写真が投稿されることについての未必の故意すら認められている判例があるのに、予見可能性まで否定してしまうとは。

Poster un commentaire

Les commentaires sont modérés. Ils n'apparaitront pas sur ce weblog tant que l'auteur ne les aura pas approuvés.

(Ne sera pas visible avec le commentaire.)

« 寓話 | Accueil | ニュースジャパンで、サイバーいじめが取り上げられた »

octobre 2017
dim. lun. mar. mer. jeu. ven. sam.
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31