Anonymity Providerの法的責任(予稿)
本日、情報ネットワーク法学会にて、「Anonymity Providerの法的責任」について発表しました。下記はその予稿です。
第1 はじめに
- インターネットを利用した違法行為(犯罪行為や不法行為)は後を絶たない。
誰もが、誰の事前審査を受けることなく瞬時に情報を特定又は不特定の者に伝達することができるというインターネットの特性は、特定の情報を流布することによってなされる違法行為にはまさに打って付けである。
さらに、インターネットに関しては、情報発信者の匿名性を高めるサービスが数多く提供されており、これが違法行為を行うことへの心理的な障壁を著しく低下させ、悪辣ではない市民を違法行為へと誘っている。
また、情報発信者の匿名性が高まると、当該発信情報の送信防止措置を早期に講ずるなどして違法な情報流通による被害の最小化を被害者が図ることも困難となる。 - 情報発信者の匿名性はインターネットの本質ではないので、情報発信者の匿名性を高めるサービス(Anonymity Provide Service;以下「APS」という。)の提供者(Anonymity Provider;以下「AP」という。)は、その提供するサービスが違法行為のために濫用されている場合には、そのAPSの提供を中止しまたは制限することが可能である。
- ただし、匿名の陰に隠れて法的又は倫理的な規範から逸脱する行為を行えるということを重視するネット利用者は少なくはなく、事業者にとっては、そのような利用者に利用されることによって集客に役立てたいとの誘惑は強い。そのため、その提供するAPSが違法行為等に活用されていることを知っていても、APが、任意にそのAPSが悪用されるのを回避することや、あるいはそのAPSの悪用が回避できないのであれば当面そのAPSの提供を中止することはほとんどなく、具体的にそのAPSを悪用している利用者に対しサービスの提供を中止することすらなかなか行おうとしない。
- そこで、匿名の陰に隠れた違法行為が行われている場合に、当該違法行為者に対してそのAPSを提供しているAPに対して当該違法行為についての民事上又は刑事的な責任を問い得ないか否かを検討することとする。
第2 Anonymity Provide Serviceの概要
- インターネットでは、ネット上の紛争は、ICANN等の機関がいわば統治機関として主体的に解決するのではなく、当事者間で自主的にまたは現実社会の紛争処理機関(ex.裁判所等)を利用して解決することが予定されている(なお、パソコン通信に関してであるが、「誹謗中傷等の問題発言は、標的とされた者から当該発言をした者に対する民事上の不法行為責任の追及又は刑事責任の追及により、本来解決されるべきものである」としたものとして、東京高判平成13年9月5日判時1786号80頁。)。
もちろん、当事者の一方が他方に対して「匿名」であり続ける場合(とりわけ、義務者と目される側が権利者と目される側との関係で匿名であり続ける場合)、「匿名」の当事者は真摯な態度で紛争の解決にあたらないおそれが高くなるし、(当事者間の自主的な協議により解決が付かなかった場合に)裁判制度を利用して紛争の解決を図ることも困難となる。
そこで、インターネットにおいては、およそ下記のようなシステムが採用されている。
まず、特定の者(ドメイン登録者)がドメイン名管理組織(レジストラ)からグローバルIPアドレス及びドメイン名の割り当てを受ける。ドメイン登録者は、割り当てを受けたIPアドレスを契約者に一時的に割り当てたり、割り当てを受けたドメイン名を使用したメールアドレスを契約者に割り当てたり、サブドメイン等を割り当てたりする。レジストラは、whoisデータベースを通じて、ドメイン登録者の名前および住所等の情報を公開する。
このことを前提に、我が国でも、違法な情報発信に用いられたIPアドレス又はメールアドレスやサブドメイン(に用いられているドメイン名)を管理しているドメイン登録者をwhoisデータベースにより調査し、当該ドメイン登録者に対して、特定の日時に特定のIPアドレスの割り当てを受けていた者または特定のメールアドレスやサブドメイン名の割り当てを受けていた者の氏名・住所等を照会するという運用がなされてきた1。 - このようなドメイン登録者を介して違法情報発信者の氏名・住所等の情報を調査するという手法が有効であるためには、以下の条件が満たされることが求められる。
- 違法情報発信者が使用したIPアドレス・メールアドレス等を被害者または捜査機関等が容易に知ることができること。
- 違法情報発信者が使用したIPアドレス・ドメイン名の管理者の氏名・住所・連絡方法等を被害者または捜査機関等が容易に知ることができること。
- 違法情報発信者が使用したIPアドレス・ドメイン名の管理者が、どこの誰に(いつ)どのIPアドレスまたはメールアドレスを割り当てていたのかを一定期間把握していること。
- 逆にいうと、これらの条件のいずれかを満たさないこととすれば、違法情報発信者の匿名性は飛躍的に高まることとなる。
例えば、匿名プロクシサーバを不特定人相手に提供したり、匿名プロクシサーバを介したコメントの投稿を許容したり、インターネット接続したパソコンの使用を身元確認することなく不特定人に認めたり、電子掲示板の管理人がIPアドレスの開示請求に応じなかったりした場合には、ⅰの条件はみたされない。また、ドメイン名登録代行者がドメイン登録者の氏名・連絡先等を正確にwhoisデータベースに登録しなければiiの条件が満たされない。また、アクセスプロバイダがアクセスログを記録せずまたは短期間のうちに消去してしまう場合には、iiiの条件が満たされない。 - 上記iないしiiiの条件の全部または一部が満たされない状態を作出することによって違法情報発信者の匿名性を高めたAPは、利用者の違法行為による法的責任を負うことになるのかが、今回の研究のテーマである。今回は、時間の関係で、APが利用者による不法行為について共同不法行為責任(幇助責任)を負うか否かに絞って論ずることとする。
第3 Anonymity Providerと利用者による違法行為の幇助
- 民法第719条第2項は、「行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する」と規定する。ここでいう「幇助」とは、「不法行為の補助的行為をなすこと」と定義され(「注釈民法(19)」327頁(徳本鎮執筆担当))、凶器の供与等の他、見張り行為等もこれにあたると解されている(徳本・前掲327頁)。違法行為ないしその行為者の発覚を困難とする行為が幇助に当たると認められた裁判例としては、預金口座売買の仲介行為が当該預金口座を用いた詐欺的不法行為の幇助にあたるとした例(神戸地洲本支判平16年4月20日判時1867号106頁)がある他、刑法上の幇助に関して、オービスによる撮影を困難にするナンバープレートを販売する行為が道路交通法違反(制限速度違反)の幇助に当たると認められた例(大阪地判平成12年6月30日判タ1098号228頁)がある。また、プリペイド携帯について、その高度の匿名性から「振り込め詐欺」等の違法行為にしばしば悪用されたため、国会においてもその廃止論が強く主張された(結局、本人確認を厳格に行うことにより匿名性を排除することを義務づける法律(携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律)を平成17年に制定する代わりにプリペイド携帯を存続させることで解決した。)。
- インターネットを利用して公然と行われる不法行為(とりわけ、名誉毀損や侮辱、送信可能化権侵害等の、やむにやまれぬ動機などはないもの)についていえば、発信者の匿名性が高度に保護されており、法的な責任を実際に負わされるリスクが著しく低下されているからこそ、安易にこれを行ってしまうという側面がある。したがって、APSを提供することが、利用者による名誉毀損等の不法行為を心因的に幇助していることは否定できない。
共同不法行為(幇助)者として損害賠償請求を負うには、故意または過失のあることが必要である。ただし、特定の利用者がAPSを利用することについての故意までは必要ではない(前記洲本支部判決参照)。そのAPSが、その性質上、具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な権利侵害行為を心因的に幇助するものであり、APがそのことを予想しつつ当該APSを提供していた場合には、高度の結果回避義務が課されることになる(東京高判平成17年3月31日[ファイルローグ事件]参照)。なぜならば、- 当該APSの提供により、具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な権利侵害行為を行う意思が強化される蓋然性が高いこと、
- APがAPSの提供を漫然と継続している限り匿名性が保障されていることで安易かつ無責任となった利用者による権利情報流通の危険を低下させる実効的な手段はないこと、
- APSを利用した誹謗中傷等により生ずべき被害法益は名誉権や名誉感情等の人格権であり極めて重大なものであること、
- 発信者のプライバシー権ないし自己情報コントロール権は被害者の裁判を受ける権利を実質的に保障する限度において制限することを法が予定していること(プロバイダ責任制限法第4条第1項)、
第4 幇助者としての共同不法行為責任を負うAnonymity Providerの類型
- APSには、開示関係役務提供者としての自らの義務を果たさない(ex. 電子掲示板管理者が投稿者のIPアドレスの開示をことさらに拒絶する等)あるいは果たすための情報収集管理行為を怠る(ex. 電子掲示板管理者がアクセスログの保存を行わない等)という類型と、被害者が発信者を追跡するための情報をことさら隠蔽しまたは変造する(ex.匿名プロクシサービスを提供する、ドメイン登録代行業者が真の登録者の氏名・住所とは異なる氏名・住所をwhoisデータベースに登録する等)という類型とがあり得る。
- 各開示関係役務提供者がどこまでの情報を収集・管理すべきかという点は、その時々において、どこまでの情報を提供すれば被害者が加害者を特定することを妨げないかという観点から判断すべきである(ex.海外の匿名プロクシ経由の違法なコメント投稿等が蔓延した場合は、氏名・住所を確認した上で発行したIDを入力しなければコメントを投稿できないようなシステムにしたり、海外の匿名プロクシ経由のコメント投稿をブロックしたりする等の措置を講ずるべきであって、当該違法コメントにかかるIPアドレスとして匿名プロクシのIPアドレスを漫然と通知するにとどめた場合は必要な情報収集管理行為を怠ったものとすべきであろう。)。
- 特定電気通信役務提供者がその利用者に対してAPSを提供した場合(ex.アクセスログをことさら保存しない、発信者情報開示請求を受けても合理的理由なしに開示を拒む等。)、APとしての幇助責任を負うのかについては、プロバイダ責任制限法第3条1項との関係で問題となり得る。
同項の文理からは、当該役務提供者は、当該特定電気通信による情報の流通自体を具体的に知らない場合には、当該情報の流通によって生じた損害については、責任の発生根拠にかかわらず、賠償責任を免ぜられるかのようにも見える。しかし、同条項の立法趣旨は、「自ら提供する特定電気通信による他人の権利を侵害する情報の送信を防止するための措置を講じなかったことに関し、特定電気通信役務提供者に作為義務が生ずるかどうかが明確でない中で、当該情報の流通により権利を侵害されたとする者との関係での損害賠償責任(不作為責任)が生じない場合を可能な範囲内で明確にする」ことにある(総務省電気通信利用環境整備室等「プロバイダ責任制限法 逐条解説とガイドライン 」26頁)。このような立法趣旨からすれば、同項によって免責されるのは特定電気通信役務の提供に必然的に伴う物理的な違法行為への関与についての幇助者としての責任に限られるのであって、APSを提供することにより第三者の権利を侵害するような違法な特定電気通信を発信しようという意思を強化させるような管理・運営をしている特定電気通信役務提供者の、心因的な幇助を行ったということについての共同不法行為(幇助)責任については、同項の適用対象外であるといえよう(解釈論としては、同項において「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって」とあるところから、同項の適用対象は、「送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能であったのにそのような措置を講じなかった」(が故に、権利侵害情報が不特定人に送信されてしまった)ことについての損害賠償責任に限定されるとするもの等が考えられる。)。
注1
例えば、「JPNICのIPアドレス割り当て管理業務における情報の取り扱い等に関する規則」第7条第1項第2号は、登録情報の公開目的の一つとして、「ネットワークの運用、特にインターネット上での自律的なトラブル解決のために、当該ネットワークに関する連絡先を知るため」を掲げている。また、日本のプロバイダ制限責任法自体、紛争の当事者間での解決を図るために発信者を特定するための手がかりとしてwhoisデータを活用することを当然の前提としている。
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Commentaires
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匿名だといろんなところに同僚やら顧問弁護士やらがいて良いですね。
ただ、ここのところ、さきがけ事件にしてもまねきTV事件にしても勝ってはいるんですよね(って、その同僚さんは奥邨先生の発表は聞かなかったとか?)。
HELLstarさんの同僚のネット屋さんは、違法行為を行いたい利用者のために高度の匿名性を保障してあげるサービスを提供することを(邪魔されては困る)「ネット屋の仕事」として位置づけているということなのですね。
Rédigé par: 小倉秀夫 | 04/12/2006 21:44
刑事の場合、「故意」性が問題となります(中立的行為による幇助の問題を「幇助の故意」の問題としてとらえる刑法上の学説に従うならば、過失責任が問題となる不法行為法においては刑事責任の場合とは異なる結論が導き出される可能性があります。)。
さらにいうと、法解釈論の場合、判例の蓄積に合わせて見解を修正するのは普通のことなのです。
Rédigé par: 小倉秀夫 | 03/12/2006 17:01