ゴルフ会員権の差押えとドメイン名の差押え
2ちゃんねるに対する強制執行の方法として「2ch.net」の競売という話は仲間内では従前から出ていた話なので、意外視する人が多いこと自体が意外だったりします。実際、米国では、既にトライされているわけですし(ただ、米国の「property」概念と日本法の「その他の財産権」とは若干のずれがあるのかも知れません。)。
いわゆる契約上の地位のうち、民事執行法167条1項の「その他の財産権」にあたるとして強制執行の対象となっているものとして代表的なのは、賃借権と、電話加入権です。
その他、「その他の財産権」にあたるとして強制執行の対象となっているものとしては、預託金制ゴルフ倶楽部の会員権があります。東京高決昭和60年8月15日判タ578号95頁は、
記録によれば、本件会員権は、いわゆる預託金会員組識ゴルフ会員権と称せられるもので、抗告人所有のゴルフ場施設の優先的利用権、会費納入等の義務、預託金返還請求権という債権債務から成り立つ包括的な債権契約上の地位であるが、かかる地位は、財産的価値を有し、執行債権の引当てとなる適格をもつものというべきであるから、民事執行法167条1項にいう「その他の財産権」に当たり、同法145条の差押命令の対象となり得ることはいうまでもないし、また、これが譲渡性を有することはその財産権としての性質上当然のことであるから、これにつき同法161条1項の譲渡命令を発し得ることも論をまたないというべきである。
とした上で、
本件会員権に係るお茶ノ水カントリー倶楽部の会員権の譲渡については、同倶楽部の会則により名義書換料の支払や理事会の承認等を経なければならないこととされているが、そのような条件が付されているからといつて、更には、現在右会員権の名義書換えが停止されているとしても、それゆえに右会員権をもつて譲渡性のない一身専属権ということはできないし、また、譲渡命令による譲渡は、私法上の特定承継の一種にすぎないから、当事者間において有効に譲渡し得る財産権である以上はこれをその対象とすることができると解されるのであつて、右のような手続等が必要とされ、かつ名義書換が停止中であることは、譲渡命令を発する妨げとなるものではない。本件譲渡命令によつて本件会員権は譲渡の当事者である相手方両名の間においては有効に移転するのであり、ただ、名義書換えが再開されて右の手続等が履践されない限り、抗告人に対する関係では右移転の効果が生じないだけのことである。
と判示しています。
これをドメイン名登録者としての地位に当てはめると、ドメイン名の移転にあたってレジストラの承認等の手続が必要となるとしても、譲渡命令を発する妨げになるものではなく、本件譲渡命令によつてドメイン名登録者の地位は譲渡の当事者である相手方両名の間においては有効に移転するのであり、ただ、レジストラにおいて名義書換え手続等が履践されない限り、レジストラに対する関係では右移転の効果が生じないだけのことであるといえる可能性があります。すると、レジストラにおける名義の書換えは、ドメイン名登録者としての地位移転の有効要件ではないということになりますので、同法167条2項の適用を受けず、債務者の普通裁判席の所在地を管轄する地方裁判所を執行裁判所とする(同法144条1項)ことができそうです。すると、債務者が持っているドメイン名が「.jp」ドメインでなくとも、日本の裁判所で、日本法の下で、執行手続きを行えそうです。
もちろん、レジストラは「第三債務者又はこれに準ずる者」にあたりますから、差押え命令はレジストラにも送達される必要がありますから、「.jp」ドメイン以外の場合、司法共助手続を利用して、海外のレジストラに向けて差押え命令を送達しなければなりません。これに相当な時間をとられるというのは、確かにネックではあります(例えば、米国に向けて領事送達の方法で送達を行う場合、送達が完了するまでに平均3ヵ月かかるとされています。)。ただ、費用については、翻訳費用を除けば、大したことはなかったはずです(昔1回やったことはあるのですが、具体的な金額は忘れてしまいました。)。
また、譲渡命令や売却命令(同161条1項)の方法による換価を行うにあたっては、債務者審尋を行う必要があるとされています(同法161条2項。なお、ゴルフ会員権について、大阪高決昭和61年9月17日判時1213号94頁)。もっとも、債務者審尋については、「債務者が外国にあるとき、又はその住所が知れないときは、この限りではない」(同法161条2項但書)とされており、債務者が住民票上の住所地にいない場合には、債務者審尋は不要となりそうです。
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