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21/03/2007

資格を取れることと生業としうることとの違い

 米谷さんのブログの「定員削減論の背景となる事実認識(1)」というエントリーには次のような記載があります。

1 医学部の入試には学力の高い受験生が集まり,医学部の偏差値は総じて高くなっている。それは,医師という職業自体の魅力とともに,医学部に合格できれば,高い確率で現実に医師免許が取れるという要素を無視することはできない。仮に,医学部に入学しても医師になれる確率が40%に過ぎないということになればどうなるか。医学部の在学期間の長さ(6年)やその間のコストの負担と合わせて,リスクとリターンを評価することになる結果,優秀な受験生の多くが医学部を見捨てて他の進路を選択し,医学部の偏差値は暴落することが容易に予想される。

 ここには1つの間違いがあります。無視することができないのは、「医学部に合格できれば,高い確率で現実に医師免許が取れるという要素」ではありません。「医学部に合格できれば,高い確率で現実に医師を生業とすることができるようなるという要素」です。「医学部に合格できれば,高い確率で現実に医師免許が取れる」としても、医師免許取得後医師を生業とすることができる割合が40%にすぎないということになれば、やはり、「医学部の在学期間の長さ(6年)やその間のコストの負担と合わせて,リスクとリターンを評価することになる結果,優秀な受験生の多くが医学部を見捨てて他の進路を選択し,医学部の偏差値は暴落することが容易に予想され」ます。

 もっとも、医師の場合、国民健康保険制度が広く行き渡っていることもあり医師免許取得したのに医師を生業とすることができない確率は極めて低いので、医師資格を取得する確率と医師を生業とすることができる確率とはほぼイコールかもしれません。しかし、法曹の場合は違います。

 ほんの十数年前まで年間500人程度の新規法曹で需要をまかなえていましたが、その後、新規法曹を大幅に必要とするようになった社会経済情勢の変化はありません(強いていえば、M&Aの普及による大手企業法務事務所での新規法曹需要の増加を上げることができますが、しかしその規模は年間100人とか200人とかの規模に止まります。)ので、現在でも年間500人を大幅に超える新規法曹の需要というのは基本的にありません。ここ数年は、既存の法律事務所は、就職浪人を出さないために、結構無理をして新規法曹を採用してきたというのが実情ですが、それにも限界はあります。米国並みに商業登記簿制度を廃止し弁護士による宣誓供述書がなければ会社の資格証明もできないことにするとか、社内弁護士が作成したものを除く社内文書は全て包括的探査的証拠開示命令の対象とする等弁護士抜きでは社会経済生活が成り立たないような社会に作り替えない限り、年間3000人もの新規法曹の需要など日本社会にはありません。したがって、司法試験合格者数を前倒しで3000人にしたところで、新規法曹資格取得者のうち法曹を生業とすることができる確率が低下するだけで、法科大学院入学者のうち法曹を成業することができる確率が高まるわけではありません。

 したがって、新司法試験の合格者数をどういじろうとも、法科大学院の総定員数が新規法曹の需要を大幅に上回る場合は、法科大学院の在学期間の長さ(学部卒業後既習者コースで学部卒業後2年+1年(新司法試験受験期間)+1年(修習期間)=4年)やその間のコストの負担と合わせて,リスクとリターンを評価することになる結果,優秀な法学部生の多くが法科大学院を見捨てて他の進路を選択し,法科大学院の学力レベルは暴落することが容易に予想されるということになろうかと思います。

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Commentaires

すみません。「檀弁護士」→「壇弁護士」でした。

要するに、その低リターンが問題なのだと思います。
↓檀弁護士も嘆いていらっしゃいますが、
http://danblog.cocolog-nifty.com/index/2007/02/it_c8f1.html
一般論として、日本では“プロフェッショナルスキル”に対する認識が(対価の支払いを含め)著しく低く、これを問題視する雰囲気も、あまり感じられないというのは深刻な問題だと思います。余談ですが、一部の著作権軽視の風潮も根は同じように感じます。
私の業種でいえば、80年代後半には「将来プログラマが100万人不足する」という警告が出されました。この流れに乗じて方向転換して成功した新日鉄ソリューションズなどの例はありますが、効率的な開発を実現した技術の進歩やオフショアなどが進み、現在50万人といわれる開発者の“数”が不足しているかどうかは疑問です。一方、既存開発者の“スキル”(あるいは“優秀な”開発者の数)は大幅に開拓の余地があります。いまなお、優秀な開発者が不足しているのは確かです。
まあ、法曹界に“技術の進歩”や“オフショア”が影響するとは思いませんが、できれば優秀でない人材が淘汰されていく(残った人には十分な見返りがある)世界になることを願います。

 ハーバードに留学する人や漫画家を目指す人は、成功した場合のリターンが大きいというのが大きそうです。また、ハーバードに留学できる程度に英語力があればつぶしが利きますし、漫画家を目指す場合は投資コストが法科大学院に通って法曹を目指すのと比べて低そうです。
 司法改革が成功すると、法学部卒業後資格を取れるまでに最低4年かかり、その間アルバイト等をしている余裕はないため生活費は(親等の親族からの補助が受けられなければ)借金に頼るしかなく、さらに法科大学院に在学中の2年間は授業料を年間100万円〜300万円程度支払わなければならず、しかも法曹として一歩を踏み出せるのはそのうちの30〜50%程度、無事踏み出せたとしても当初年棒300万円程度、その後1人前になったとしても期待できる年収は500万〜800万円程度ということになろうかと思いますが、そんな高リスク低リターンな未来に掛ける人がどの程度いるのかなあというのは正直疑問です。
 ヨーロッパ型であれば、授業料はもちろん、生活費も給付型の奨学金で賄えるようにすることによって初期投資を小さくしてくれますし、米国型の場合、初年度年俸1500万円くらい期待できる(企業内弁護士でも初年度年俸8万ドル程度を期待できる。)等ハイリターンを期待できるわけですが、日本の司法改革が目指しているのは、日本型法曹養成制度は両制度の悪い部分をつなぎ合わせたものですから、合理的な思考ができる優秀な学生であれば、学部の4年生なったときに、法曹を目指そうとは思わなくなるだろうなと思います。

(ケンカを売るのが本職ではありません。念のため)
しかし、これでは、相当の努力をしてハーバードに留学する人たち(『愚直論』によれば入学1年で半分くらい落とされたこともあるらしい)、あるいは、ほんの一握りしかプロになれない漫画家を目指す人たちがいることを説明できないのではないでしょうか。
“実状は知りませんが”優秀な人の方が仕事を見つける(請け負える)可能性が高いということはないのでしょうか。長期の在学やコスト負担などを乗り越えて合格し、数多な競合に打ち勝って獲得した仕事で、勝てるかどうかわからない裁判のために(わからないから裁判するんですが^_^;)膨大な資料を用意するといった苦難の労力が「平均すれば十分報われる」という認識がもてるかどうかが、学力レベルの維持に結びつくように思います。

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