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18/03/2007

「証拠がない」という言い分に広報戦略はあるのか

 従軍慰安婦に関して狭義の強制連行があったとの証拠はないと安倍首相が宣言することによってどのような国際世論の変化を起こそうとしていたのかはよくわからないのですが、安倍首相がそのような発言をしたことを受けて第二次世界大戦時の日本についての印象が少しでも改善された旨を表明している外国政治家や海外メディアが存在するようにはどうも見えません。池田さんは吉田証言に信用性がないことを強調されていますが、英語メディアでは、元慰安婦たちの米国上院での証言が重視されているようなので、「証拠がない」といってしまうことにより、「あの方々を嘘つきの売春婦というのか」という反発すら招いているようです(法律家の感覚だと、証言も立派な証拠の1つです。そして、米国の政治家の多くは法律家出身です。)。結局のところ、対外的には「逆効果」だったということが言えそうです。

 例えば、George MasonUniversityの"History News Network"に掲載されたTessa Morris-Suzuki氏の「The Truth About Japan's So-Caled "Comfort Women"というエントリーによれば、

What purpose do Abe's and Aso's denials serve? Certainly not the purpose of helping defeat the US Congressional resolution. Their statements have in fact seriously embarrassed those US Congress members who are opposed to the resolution.The main strategy of these US opponents of Resolution 121 was the argument that Japanese government had already apologized adequately for the sufferings of the "comfort women", and that there was no need to take the matter further. By their retreat from remorse, Abe and Aso have succeeded in neatly cutting the ground from beneath the feet of their closest US allies.
とのことであり、安倍発言は却って米国議会内の親日派議員を追いつめることに繋がっているようです。そのこと自体は最初から予想された事態であって(政府関係者が歴史修正主義的な発言を行うことによって、その国の対外的な評価が向上した例はほとんどなく、評価が低下した例ならばたくさんあります。)、そのことを予想していなかったとすれば、今の日本政府にはまともに広報戦略を行える人はいないのではないかとの危惧が頭をもたげてきます。。

 あるいは、米国との関係に亀裂が入っても構わないから「狭義の強制があったとの証拠はない」といいたいのだという考え方もあり得るのかも知れませんが、自衛隊員等の命を危険にさらしたり中東諸国との間に積み上げてきた信頼関係を壊す危険を冒したりしてまで自衛隊員をイラクに派遣することにより積み上げてきた米国との関係を危うくしてまで言わなければならないことなのかというとかなり疑問です。安倍首相にとっての優先順位は、敗戦前の日本政府の名誉>米国との関係>自衛隊員の生命・身体なのかも知れませんが、それは倒錯しているように私には思えてなりません。

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Commentaires

その広義では、すでに河野談話で謝罪の意が表明されていると言えますね。

 当時の国内法でも借金のカタに女性を売買することは禁止されていましたので(公娼制度が存在し一定の要件の元での売買春が合法化されていたということと人身売買が合法化されていたこととの間には大きな開きがあります)、軍隊が自ら又は業者に委託して運営していた慰安所については、本人の意思確認をしなければならなかったわけです。にもかかわらず、騙して連れてこられた女性たちをそのまま慰安婦として使用し続けたわけですから、国内外から非難されるのはやむを得ないことです。

それは「借金のカタに娘を売る」(本人に内緒で親が話をつけてしまう)こと自体が問題だということでしょうか。しかし、軍の指示だったのでなければ、かえって本人が了解していないことを理由に親に金を返させて業者に娘を返すような指示もできなかったのではないかと思います。また、この場合、まず娘の親の責任を問うべきではないかというのが私見です。
いずれにせよ、このレベルでの事実認識について相違がないということであれば、あとは見解の相違ですね。

 しかし、米国議会で証言した元慰安婦が「prostitute」であったということを日本側は説得的に説明できていないですね。ネット上では「俺様ルール」で相手方にハードルの高い立証責任を課すことで議論に勝ったことにするのが大流行ですが、広報戦略としては、そのような手法は通用しません。広報の受け手が各人ごとに立証責任の分配と程度を設定することができるからです。そして、この種の証言で、文書による裏付けがないことは通常あることですし、また、聞き取り調査が行われたのは終戦後相当の期間が経過してからですので証言の細部に変遷があるのも想定の安易な否ので、上記元慰安婦の証言の信用性を「なし」とすることは難しかろうと思います。
 なお、当時の日本に公娼制度があったことと慰安所が当時の国内法の下で合法的な公娼施設だったこととは差がありますし(女給にするとして連れてこられた女性の身柄をそのまま拘束してを公娼として働かせるのは当時の国内法でもまずいでしょう。)、公娼制度というのは国等が自らまたは業者に委託して運営するようなものではなかったですから、公娼制度があったから慰安所があっても無問題ということにはなりそうにありません。
 また、正確に目的を告げずに連れてきた女性を軍が自ら又は業者に委託して運営する慰安所に押し込めて売春を強要したとすれば、「軍によるrape」との評価を受けるのは仕方がないかと思います。

借金のカタに売られた娘が「本人の意に反して悲惨な境遇に置かれた」という証言があったとしても、これを否定していません。つまり、2つ前のエントリにおける 3/16 1:30pm の小倉さんのコメント(前半)の想定は否定していないのです。驚くべきことに(最初に知ったときには本当に驚いた)かつては(他国と同じく)合法な公娼制度があり、彼女たちは悲惨な prostitute でした。しかし、本人たちの「本人の意に反した」という感覚から「軍による rape だった」と証言された場合には、不適切な拡大解釈だといわざるを得ません。丸く収めたいという広報戦略のために、事実でないことを受け入れるのは正義とは言えず、反対です。

 悲しいかな、「証言」があるにもかかわらず、単に「これを裏付ける文書がない」というだけでその証拠能力を排斥し、「証拠がない」といっているだけなので、そもそも「正しいこと」だと思われていないようです。で、慰安婦の方々が慰安所に連れて行かれた際の態様に関しては、慰安婦の方々の証言を裏付ける文書(例えば、「このようなやり方で連行するようにとのマニュアル等)がなければおかしいという類のものではないので、そのような文書等の裏付けがないということはその証言の証拠能力なり証拠価値なりを失わせるものではないとするのが、一般的な考え方です(我が国の刑事裁判でも、誘拐罪に関して言えば、略取が行われたことを認定する際に、どのような態様で強制を行ったかを認定する際に、犯人グループ間での略取方法に関する取り決めを文書化したものがあることを被害者供述の信用性を担保する資料として要求していません。))。
 いずれにせよ、中国や韓国だけではなく、米国も豪州も説得できていないので、広報戦略としては明らかに失敗です(といいますか、外国メディアでこの件を好意的に捉えてくれているところを未だ知りません。)。あとは、ハイダー党首が閣内に入った後のオーストリアが受けたようなソフトな制裁をこの件で日本が受けないことを祈るばかりです。

信頼関係とは「正しいことを飲み込んで口にせず」維持されるものなんでしょうか。それこそ、そのような理屈は欧米では通らない気がします。

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