インターネットカフェ等における匿名性その他の問題
サイバー犯罪が発生した場合、警察では、当該犯罪が行われた時点のログ等から、どのコンピュータにおいて犯罪が行われたかを特定するとともに、そのコンピュータを誰が使用していたのかを明らかにし、被疑者を特定することが必要である。しかし、近年、インターネットカフェ、プリペイド式データ通信カード、フリースポット等のように、不特定の者がインターネットを利用することができる施設・サービスが増加しており、それらの中には、利用や機器購入の際に本人確認を行わないものも見られるところである。こうした利用者の匿名性の高い施設・サービスがサイバー犯罪に利用された場合には、仮にログ等から犯行に使用されたコンピュータ、プリペイド式データ通信カード、無線LANカード等を特定することができたとしても、これらを使用した被疑者を特定することは困難である。
また、この匿名性の問題は、犯罪捜査の分野に限られたものではない。例えば、こうした利用者の匿名性の高い施設・サービスを利用した情報発信により、特定の者の権利利益が侵害された場合には、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13 年法律第137 号)に基づきプロバイダ等から発信者情報の開示を受けたとしても、被害者が加害者を特定して責任追及を行うことは困難である。
等の指摘は、「IPアドレスから発信者をトレースすることができるから、現在でも完全な匿名性はない(だから、共通ID等を導入する必要はない)」との認識が如何に現実離れしているのかを物語ります。上記のとおり、インターネット利用者の匿名性は、サイバー犯罪の捜査の大きな障壁となっている。
例えば、インターネットカフェでは、事業者が利用者の本人確認を行い、コンピュータの使用状況を記録していなければ、犯行に使用されたコンピュータが判明したとしても、それを使用した被疑者を特定することは困難である。また、不特定の者が利用することができるフリースポットや、購入時に本人確認が不要なプリペイド式データ通信カードを使用してサイバー犯罪が行われた場合、被疑者の特定は非常に困難である。現にこの匿名性を悪用した事案の発生も見られる。平成17 年中に警察が認知した不正アクセス行為592 件のうち、平成18 年5月末の時点で未検挙のものは277 件であり、そのうち212 件(認知件数の35.8%、未検挙の件数の76.5%)は、匿名性が障害となって捜査に進展が見られないものである。中でも、インターネットカフェのコンピュータが使用され、当該店舗又は当該コンピュータまでは判明したものの、利用者に関する情報が存在しないために捜査に進展が見られないものが139 件(認知件数の23.5%、未検挙の件数の50.2%)と、多数に上っている。
また、首都圏及び近畿地方の二つの都道府県警察では、平成18 年1月から同年3月までの3か月間に、インターネット・オークションを利用した詐欺(以下「ネット・オークション詐欺」という。)のうちインターネットカフェのコンピュータを使用したものを8件認知しているが、そのうち平成19 年2月1日までに検挙に至ったものは1件にとどまっている。未検挙の理由としては、ログ等から犯行に使用された店舗又はコンピュータまでは判明したものの、利用者に関する情報が存在しないために被疑者を特定することができないものが6件、利用者に関する情報は存在するがコンピュータの使用状況が記録されていないために被疑者を特定することができないものが1件となっており、インターネットカフェの利用者の匿名性が捜査の障壁となっている状況がうかがわれる。
また、ネット上では、「インターネットカフェ経由の犯罪だって検挙された例がある(だから、共通ID等を導入する必要はない)」という意見が語られがちですが、
他方、匿名性を悪用したサイバー犯罪であっても、例えば数多くの関係者からの事情聴取、様々な電子データの解析等を通じて被疑者の特定に成功し、検挙に至る場合がある。しかし、その際には、膨大な捜査体制や費用を要し、かつ、捜査期間が長期にわたることが通例であり、捜査の効率は決して高いとは言い難い。また、捜査に協力する国民にとっては、数多くの照会、事情聴取等に応じる事実上の負担が大きく、さらに、納税者としての立場から見ても、捜査の効率が低いことは望ましいことではない。との指摘はこれに対する反論として十分です。さらにいえば、発信者情報開示請求権を行使して民事的な解決を図ろうという場合には、「数多くの関係者からの事情聴取、様々な電子データの解析等を通じて被疑者の特定」を行うことは不可能なのですから、なおさら「インターネットカフェ経由の犯罪だって検挙された例がある」ということには何の意味もないことがわかります。
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Commentaires
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その場に PC を持っていかなかったので試せませんでしたが、
http://cms.longbeach.gov/bdc/hot_zone.htm
↑こういうサービスが増えると「インターネットカフェでの本人確認」どころの話ではなくなるのでしょうね。
なんの証明もなくプリペイド携帯を買えるのは便利ではあったのですが。
Rédigé par: mohno | 18/04/2007 12:53